恥じらう女装男万歳教

作者:あき缶

●恥じらってない女装なんてもう女でいいじゃん
 ここは、廃墟のファッションホテル。
 丸いベッドはスプリングが露出して酷い有様だったが、それの上にビルシャナは立ち、周囲に数人の信者を従えて、教義をがなっていた。
 曰く、
「女装には恥じらいが必要! 似合うでしょーって感じで平然と着こなす女装に何の価値もない。女でいいじゃんってなる。男の娘? 脱がさないと女にしか見えないならもう女でいいじゃんってならない? はぁ? じゃあ脱がす? 女装の意味なくね? ってならない?」
「そーだそーだ」
 信者は口々に賛同の合いの手を入れた。
「どーだ! って感じで似合わない女装されても、アッハイってなるじゃん。女装している自分に、自分でダメージ受けてくれないと、女装させる意味が無いわけ。いや、涙目で、どーだ! って言ってるのならさ、強がってるのねグフフ☆ ってなるからオッケーだけど」
「そーだそーだ」
 信者は口々に賛同の合いの手を入れた。
「女装とは、似合わなかったり、似合ったとしても、『こんなのやだよぉ』みたいな拒否感と羞恥があらわれてないとダメッ! マッチョとかチャラ男とか、そういう男性性を強くアピッてるヤツほど、女装に抵抗のあるヤツほど、女装すると輝くのっ!」
「そーだそーだ」
 信者は口々に賛同の合いの手を入れた。

●恥じらいながら女装してくれ男子ケルベロス諸君
「またビルシャナが悟ったでー」
 香久山・いかる(天降り付くヘリオライダー・en0042)は半ばうんざりとしながら、ヘリポートに現れた。
 鎌倉奪還戦の際にビルシャナ大菩薩から飛び去った人間をビルシャナ化する光は、いったいいつまで影響を与え続けるのか……。
「今回のビルシャナの教義は、『女装は恥じらいがないとダメ』ってやつらしいわ。よーするに、男か女かわからん系とかの平然とした女装はダメーってやつやね」
 既に十人ほどの信者すら抱えているようで、このままだと『恥じらってない女装絶対許さない教』は拡大の一途をたどるであろう。その前に、教主を倒して阻止せねばならぬ。
「今回のビルシャナはな、『恥じらってる女装』の男には手加減してくるけど、女や『恥じらってない女装』の男には、信者も含めてめっちゃ強烈な攻撃をしてくるという特徴があるんや」
 なお、恥じらっている女装男に、信者は攻撃しない。ビルシャナを倒せば、信者はもとに戻るので、最も安全にコトをすすめるならば、全員が『恥じらってる女装』をするのが良いだろう。
「現場は一般人の居ない廃墟やねん。せやから説得するよりは、全員で『恥じらってる女装』しながらビルシャナを一気に潰してしまうのがええやろね」
 ビルシャナは、恥じらう女装男には『舐め回すような視線』を送ってくる。これはかなり弱いダメージしか与えてこない。
 逆にビルシャナと信者は、恥じらってない女装男や女性には、折伏しようと謎の経文を読んでくる。経文には催眠効果があり、くらうとかーなーり痛い。
「だいたいわかった。どんな奴であれ、デウスエクスは必ず倒す」
 アーヴィン・シュナイド(鉄火の誓い・en0016)が頷くと、いかるは生ぬる~く微笑んだ。
「もちろん、君も女装するんやで? みんな、アーヴィン君によさげな女装提案したってな」
「なっ!!?」
 アーヴィンの顔から火が出る。いや、普段から目から火が出てるんだけど。


参加者
エイダ・トンプソン(夢見る胡蝶・e00330)
村雨・ベル(エルフの錬金術師・e00811)
阿澄・紫都(牙無き者のための剣・e10709)
フェイト・テトラ(飯マズ属性持ち美少年高校生・e17946)
デリック・ヤング(渇望の拳・e30302)
シフ・アリウス(灰色の盾狗・e32959)
ジジ・グロット(ドワーフの鎧装騎兵・e33109)
霧島・トウマ(暴流破天の凍魔機人・e35882)

■リプレイ

●事前準備は大事です
 ここはビルシャナが演説をぶっているというファッションホテルの廃墟――そのロビーである。ビルシャナは上階の客室にいるので、ケルベロスはいつでも突入できるという状況だが、その前にやっておくべきことがあるのだ。
 そう、男性諸君の女装である!
「お仕事ならしょうがないのです。さくっと着ちゃいます!」
 フェイト・テトラ(飯マズ属性持ち美少年高校生・e17946)はすんなり純白のワンピースに清楚な白サンダル、つばの広い帽子という純粋な美少女ルックに身を固めた。出来るなら、真夏のひまわり畑の真ん中か、田舎のバス停で会いたかったが、此処は廃墟のファッションホテルである。そのピュアさが逆に辛い。
「ビルシャナ退治のためとはいえ、まさか女装する事になるとはな……」
 と、拳闘士らしくデリック・ヤング(渇望の拳・e30302)はチャイナ服を着ていた。身長百八十センチ超えの精悍なレプリカントのマッチョな足が深いスリットからニョキッと出ていて、きっつい。
「ぼ、僕も恥ずかしいですが、一肌脱いで頑張ります!」
 妙な教義ばかり広めようとするビルシャナが悪いんです、と言いながらシフ・アリウス(灰色の盾狗・e32959)はメイド服を着ると、その上からケルベロスコートを着込んだ。
 普段からシフは女性モノの民族衣装にレオタードのようなフィルムスーツ姿なので、いつもどおりといえばいつもどおり。しかし、シフの顔は羞恥に染まっている。
 なぜなら! 下着が! 白のレースなおパンティだから!!
(「なんだかホールド感がすごいっていうか……つるつるで……新しい扉が開けてしまいそうです」)
 妙な感覚で意識がどうしても股間に向かってしまい、なおさら羞恥をセルフで煽ってしまうシフである。
「これでも狐ですからね、化かすのは得意とするところです」
 狐のウェアライダーである阿澄・紫都(牙無き者のための剣・e10709)は、そんなことを言いながら、スカートのウエストを巻き上げて、ミニスカートにしていく。
「あはははは、特に似合ってる訳とかねーじゃんか、あははははは……」
 笑っているのは皆の頼れるミニスカナース! 霧島・トウマ(暴流破天の凍魔機人・e35882)さんである。
 ガーターストッキングで出来た白と白の間の絶対領域がチャームポイントだゾ。
 アーヴィン・シュナイド(鉄火の誓い・en0016)は眉間に深々とシワを寄せ、あまつさえコメカミの血管を脈打たせながら眼前に提示されたモノを眺める。
「ね、アーヴィンさん、諦めが肝心ですよ! えっと、私おすすめも含めつつ、皆さんがおすすめしてきたのがコレです! ……多数決的に着る服は決まったようなものな気もしますが!」
 と輝く瞳でエイダ・トンプソン(夢見る胡蝶・e00330)が出してきた服。
 チャイナ服、メイド、ドレス、スーツ、チャイナ服、ミニスカメイド、チャイナ服。
「お前もやるんだよ! 選ばせてやるから好きなの着ろ!」
 デリックが横から女装を強いてくる。そう、女装を強いられているんだ!
 それにしてもケルベロスは、現地につくまでアーヴィンに勧める女装について相談はしてこなかったはずなのに、何故揃って、薦めてきた人すべて(エイダ、デリック、シフ)がチャイナ服を提案してきたのだろう。
 これは今年のハロウィンは決まったようなものなのだろうか。
 そんな現実逃避もしたくなるアーヴィン。
「うふふふうふふふ、いいですねいいでづね……ヂャイナ……」
 少しでもビルシャナ信者っぽくなっておこうと、カメラにスケッチブックという出で立ちの村雨・ベル(エルフの錬金術師・e00811)だが、ダラダラ出ている鼻血も演技のつもりなのだろうか。
「ええええええ、演技ですよ、演技……」
 鼻にティッシュを詰めながらベルは虚空に言い訳している。
「ほら、ほら、早う! うちもこないして女装男子のフリしてるんデス!」
 と、ジジ・グロット(ドワーフの鎧装騎兵・e33109)はアーヴィンにチャイナ服を押し付けた。彼女はドワーフ、きっと体型で女だとバレることは無い……泣いてない。
「あ、失敗は許されませんからね! 貴方は可愛い恥ずかしがる女装男子なのです! 開き直りは厳禁です! さあさあ!」
 エイダが飛びかかる。
「おっと手伝いますねっ。アーちゃん総受けおいしいれふ……おっと聞き流してくださいっ」
 ベルが加勢する。
「ギャーッ」
 …………というわけで、チャイナ服に身を包んだアーヴィン・シュナイドが出来上がった。
「下着も女装?」
 紫都が裾を捲ろうとするのをなんとか阻止しながら、アーヴィンは叫ぶ。
「聞くなッ!」
「はいできたできた! 行くぜ、さっさと終わらすぜー!」
 トウマがヤケッパチに怒鳴りながら、階段を上がっていく。

●騙されるかどうかはダイスで決めました
 バァン! とデリックが分厚いファッションホテルのドアを蹴破った。
「クソッ、さっさとぶっ倒して終わらせてやるぜ!」
「全国一千万の女装男子愛好家の皆さんこんにちは! ……ってぇええ!」
 いつもの感覚でハイキックしてみたが、いろいろデリックのチャイナ服のスリットから見えた!
 黄色い悲鳴がビルシャナと信者、そしてベルの口から溢れ出す。
「っ!」
 バッと足を閉じて、デリックは顔を真っ赤にした。紫都も釣られるように自分のスカートの丈を気にしてみせる。
「くっ……しかし依頼は果たさねばならん……っ!」
「キャー恥じらう女装男子よォオオ! 男装した上で女装男子を名乗ってる面倒くさい女もいるわー! 違うよクソッそういうの求めてないのよっ」
 バシーッ! ビルシャナが何やら喚きながら手羽でエイダをぶっ飛ばす。
「や、やっぱ苦しかったですね! リアルに胸も苦しいですけど!」
 エイダの豊満なおっぱいを抑えていたサラシが千切れて、ぶるんっと解放された大きなお胸。
 違う、そういうお色気は今回求めてなかった。
「うう、ディフェンダーになってなかったら死んでましたねっ。わかっていましたが女性には容赦ないです」
 エイダはギターで紅瞳覚醒を奏でた。
「ケルベロスよ、やっておしまいー!」
 信者がエイダとベルめがけて群がっていく。
「誤解です! 恥じらう姿を言葉責めしたり記録に残したい気持ちは同じ! おな……ギャーッ」
 ベルはケルベロスチェインで防壁を作成しつつも必死に訴えるが、女には容赦がないのかこのビルシャナ信者。諦めていただきたい。
(「あっ、うちセーフ……?!」)
 アーヴィンの後ろに隠れていたジジは、敵に女装男子扱いされていることに気づき、安堵しつつ心のなかで涙をながすのだった。うち、これでもドワーフの中では発育ええ方やし! と強く訴えていきたいジジ。
 そんな前衛達に紙兵がばらまかれる。頼れるミニスカナース、トウマはもちろんメディックである。ナースだからね! ナースだから! 白衣の天使様だから!
 なお、天使様笑ってます。もう笑っとけ笑っとけ。
 ダモクレスからレプリカントになって日の浅いトウマ、羞恥心を実地で学んでいるまっ最中。
「ふぇええ……って言ってると僕、可愛いですか? 可愛いですよね、僕?」
 フェイトは笑顔を撒き散らす。撒き散らしつつ、逆に『恥じらってない男の娘可愛い教』を広めてやろうと魔眼を展開している。
「ぐわああ、やめろー。教義をひっくり返すなー」
 苦悶するビルシャナにミミックがかじりついた。
「ビルシャナさんとお話がしたいので、安全な場所に下がっていて下さい!」
 ばさぁとシフはケルベロスコートを脱ぎ捨てて、メイド服を衆目に晒した。
(「ううっ、やっぱりこのツルツルした生地が触れる感覚……恥ずかしい……っ」)
 メイド服由来ではないが、シフの顔が羞恥に染まっているのでセーフ、セーフです。
「たーっ!」
 虹を撒き散らしながらシフのフェアリーブーツが唸る。
 ふわんっとスカートが翻り、ふくらみのある白レースおパンティが眩しくビルシャナの目を灼くではないか――むふふ。
「や、やっ、どどどこガン見してるんですかぁっ」
 ぎゅっと目をつぶりながら、シフの急降下蹴りが決まる。
「いいよいいよー、そーゆーの大好き」
「わかりま……ぐえ」
 ベルがサムズアップしているが、信者に踏まれた。こいつら物理で『説得』してくるぞ!
 シャーマンズゴーストのイージーエイトが主人の無事を伏して祈る。祈りまくる。頑張ってご主人。めっちゃ踏まれてるけど頑張ってご主人。
「Je touche du bois!」
 ジジはエアシューズの木製部分をコツコツと指で叩いて、幸運のおまじないを自分にかける。
 デリックの電光石火の蹴りがビルシャナの腹に決まる。
 ひらひらとチャイナドレスの裾が翻るのを、デリックは慌てて押さえるのだが、その様子をビルシャナは目をいやらしく曲げて見つめているので、鳥肌がたつ。
「さっさと終わらせるよ!」
 エクスカリバールに雷をまとわせて、紫都はビルシャナめがけて突進する。
 走る、空気を巻き込む、短いスカートがひらりひら! まろびでるかぼちゃパンツ!
 かぼちゃパンツは、普通のパンツとは別の恥ずかしさが出ていると思う。
「パンツ履いてるから安心……う、うう、やっぱパンツなので恥ずかしいもん!」
 紫都はぷうっと頬を膨らませた。隣でボクスドラゴンがブレスをぷうーっと吐く。
 アーヴィンの鉄塊剣をぶん回す力には、ヤケクソというバフがかかっている気がする。

●女装男子だけでカップリングは成立しますよ、何言ってるんですか
「アー子さん、可愛いですよ! というか、皆さん可愛いですー!」
「誰がアー子さんだ!」
 信者にボディプレスという名の説得を受けながら、エイダは男性諸君にシャウトついでに声援を送るのだが、イマイチ喜んでもらえないのであった。
 いや、フェイトだけは素直に受け取って魔眼と共に笑顔を振りまいている。
「ありがとうございまーすっ! ねっ、僕は可愛いんですよ! ま、何着ても僕はあったりまえに可愛いんですけどねっ。つまり、性別は男の娘でも美少女でもなく、フェイト! どうです? 可愛さに逆ギレてもいいんですよ? ふふん」
 愛らしくも、偉そうにフェイトは鼻息を吹いてみせる。信者が数人ひれ伏していた。
「ふふふ、今日を含め、明日からもご飯のお供に困ることはありませんね。男の娘からマッチョまで、幅広い女装をこのデジカメにですね……」
 エイダの横でやっぱり踏まれているベルだが、黄金の果実を育てつつも、カメラのシャッターを切るのは抜かりなく、連射モードを活用している。
 カシャシャシャシャシャシャシャ。
「アーちゃん総受けとかどうでしょう。男の娘攻めもアリ、アリだと思いませんか、女の子だと思ったら、それはもうご立派な攻め様だったというギャップアーンドショック! こうかはばつぐんだ、です!」
「あ、わかります。実は男の子でした! って騙して絶望の淵に落とせないとね!」
 さりげなくフェイトが同意してくれた。おひねり代わりなのか、ミミックが黄金を吐く。
 カシャシャシャシャシャシャシャ。
「いやもちろん、マッチョなチャイナ同士の絡みもアリだと思います。アリアリです。でもでも、いや、白衣のオネエサン(雄)が馬乗りになって、いろいろ教えてあ・げ・るっていうのも……。っと鼻血が……はーシチュの妄想止まらなああああい」
 カシャシャシャシャシャシャシャ。
 カメラのレンズをあちこちに向け、際限なく萌トークしているベルの横で、イージーエイトは祈りまくっていた。なんかもう世界のすべてにゴメンナサイしているような格好で祈っていた。
 身内が一番ダメージ与えてくる気がしているトウマだが、仕事なのでそんな諸悪の根源に、ウィッチドクターの秘術を施しているのだった。優しい。
「おっきなお注射しちゃうぞッとか言わない?」
 ビルシャナが小首をかしげてネットリ眺め回しつつ尋ねるので、トウマは寒気すら感じながら言い返す。
「ふっざけんな、言うかボケ!」
「せっっかくナースなのにもったいなさすぎないかな」
「もったいないとか! ねーーーーから!」
 普段は嵐のような凶暴凶悪なレプリカントのはずのトウマだ。なのに調子が狂ってしまっている、これもナースの力なのか……。
 同じく普段は戦闘狂のはずのデリックだが、その蹴りにはキレがない。チャイナ服でチラチラしてしまうからだろうか、どうにも思い切って足が振り上げられないのだ。
 だから、降魔真拳で殴る。
「おらあ! ジロジロ見てんじゃねーよ! こりゃいいぜ、殴る分には恥ずかしくねえからな!」
 だが、デリックは気づいていない。殴るために腰に力を入れることで、いやらしいがに股になっていることを。気づいてないなら恥ずかしくないもんっ。
「キミの頑張ってるところ、もっと見たいなぁ」
 デリックの集中力を高めるために援護している紫都だが、半ば煽りに聞こえるのは気のせいだろうか。ボクスドラゴンは素知らぬ顔で、メシャアとビルシャナを箱ごと体当たりしている。
「く、くそ……デウスエクスは必ず滅ぼす……。こんな格好まですることになるとは……誓いを守るって厳しいんだな……」
 世界を守るケルベロス業の厳しさをこんな形で痛感することになり、歯噛みしているアーヴィンの地獄の炎は、いつもより火力が強い。
「み、見ないでくださーい!」
 シフは悲鳴を上げながらも、頑なに蹴りを放っている。足を動かすたびに、股間にシュリシュリとサテンレースの感触が走って、シフはだんだん変な気持ちが強くなってきた。変な気持ちって恥ずかしいって気持ちだからね。ケルベロスブレイドは全年齢向けの健全なプレイバイウェブですからね。
「かわいいーとか言われても、ボクは男なんだから、プライドが傷つくなっ」
 今のところ、ジジのがに股と羞恥による涙を模した目薬という演技は、うまく敵を欺けているようだ。お仕事のためなら羞恥をかなぐり捨ててがに股も辞さない、ケルベロスの鏡のようなジジの手加減攻撃で信者が沈む。

●このトドメはやらねばならぬと思ったんです
 エイダとベルの体力がそろそろ危ない。ヒールを手厚くしたが、それでも信者の容赦ない攻撃が否応なしに二人に集中するので、もたないのだ。
「アー子さん達、そ、そろそろ……」
 エイダが信者を手加減しながら引き剥がす。
「そうですね、楽しい時間もそろそろおしまいの時間です。悲しいけれど、泣く泣くですけど……拘束制御術式を解放しないと……」
 ベルが拘束制御術式 『賢者の霊鎖』の詠唱を始めようとした時、トウマがビルシャナの前に仁王立ちになった。
「ああ、これが俺の知った『感情の奔流』だ。……少しばかり誇張して教えてやるよ」
 トウマはヤケクソで怒鳴り、ビルシャナに感情データを強制的にインストールさせる。
 もちろん、インストールする感情は決まっている。『恥ずかしい』である!
「むぎゃあああああ!!!」
 神経が焼ききれるような羞恥に苛まれ、ビルシャナはぐったりと回転ベッドの上で動かなくなってしまった。
「女装男子の真髄はその男であるという精神性にある。あざといのも恥ずかしがるのも男である故だ。来世でその気づくことができたなら、次のステップTSへの道が開かれるだろう。さらばだ!」
 亡骸に意味のわからないことを言い放つ紫都。また新しいビルシャナを生み出しかねない発言は謹んで頂きたい。命を救われた信者さんがまだいるんですよ!
「お、おわった……」
 一瞬呆然としたデリックだがそそくさとケルベロスコートを羽織ると、全員に向き直って怒鳴る。
「お前ら、今日の事は見なかった事にしろ、いいな!」
 ベルはただニヤニヤと笑っていた。彼女のカメラは記憶媒体にデータをコピー中である。
「うーん、もっと僕の可愛さマシマシで迫って行きたかったんですけどねー」
 フェイトはまだ可愛さを撒き散らし足りないようだが、正気に戻った信者の数人が拝んでいるのでそれで満足して欲しい。
「はー、痛かったですけど楽しかったで……おおっとトウ子さん、正気に戻った信者さんの記憶を物理的に消去しようとするのはやめてください!」
「誰がトウ子だー!」
 エイダは、羞恥のあまりに信者を追い回しているトウマを羽交い締めにして止める。
「はー。お仕事完了やね。せやけど、うちコレでも一族の中では超オトナっぽい方デース!!」
 目薬を拭い、ジジは口をとがらせた。
「みなさんで記念撮影しませんか?」
 シフは無邪気に声をかける。
「ええねえ!」
 とジジを始めとする女性陣や、
「いいですよ、可愛い僕をバッチリ記録してくださいね!」
 フェイト、紫都という美少年勢は快諾したのだが。
「決まりですね。アーヴィンさん、デリックさん、トウマさ……あっ」
 シフが振り向いた時、残りの三人は既にこの場に居なかった。逃げるが勝ちである。

作者:あき缶 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 8
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