螺旋忍軍大戦強襲~殲鋼のレギオン

作者:朱乃天

 螺旋忍軍との度重なる戦いも佳境に入り、次に螺旋忍軍の『彷徨えるゲート』が出現する場所が判明したと、玖堂・シュリ(紅鉄のヘリオライダー・en0079)が話を切り出す。
 これは『螺旋帝の血族・緋紗雨を智龍ゲドムガサラから守り切った』成果によるもので、この情報があれば、螺旋忍軍との決戦を行うことが可能と言える。
 しかし決戦を行う上で立ちはだかるのが、螺旋忍法帖を奪い、螺旋帝の血族『亜紗斬』を捕縛した『最上忍軍』だ。
 最上忍軍は螺旋帝の血族・イグニスから新たな命を受け、各勢力に潜入させた螺旋忍軍達を利用して『螺旋忍軍のゲートが現れる地点に戦力を集結』させようと目論んでいるようである。
 ダモクレスからは『載霊機ドレッドノートの戦い』の残党勢力。
 エインヘリアルからは、ザイフリートやイグニスの後釜を狙う王子とその私兵団。
 更に、各勢力が研究していた屍隷兵の中で、戦闘力の高い者達を集めた軍勢も用意されているらしい。
「螺旋忍軍は彼等にとって有益となるような偽情報を掴ませて、協力を取り付けたみたいだね」
 そしてデウスエクス同士で争えば、敵に漁夫の利を与えかねない等として、互いに牽制し合うように仕向けられているという。
 イグニスとドラゴン勢力は、集めた戦力を『ゲートから戦力を送り込むまでの防衛戦力』として利用するのだろう。
 集結する軍勢を全て撃破することは、ケルベロスウォーを発動しない限り不可能だ。
「でも行軍中の軍勢を襲撃し、主だった指揮官の撃破に成功すれば、敵勢力を弱体化させることができると思うんだ」

 シュリは言葉を続けて、今回戦う敵についての説明に移る。このチームが戦う相手となるのは、ダモクレスの残党勢力だ。
 彼等は組織の再建の為に大量のグラビティ・チェインを必要としていた状況で、最上忍軍から齎された情報は正に渡りに船だった。
 ダモクレス残党は、指揮官型ダモクレスのマザー・アイリス、ジュモー・エレクトリシアン、ディザスター・キングを中心に、有力な戦力が残されている。ここで指揮官型ダモクレスを1体でも撃破することができたなら、戦況はかなり好転するだろう。
 進軍するダモクレス軍の先鋒を担うのは、ディザスター・キングと配下の軍団だ。ディザスター・キングの撃破を狙うなら、この強力な先鋒部隊との決戦を行うことになる。
 その相手となるのは、メタルガールソルジャー・タイプS、メタルガールソルジャー・タイプG、ディザスター・ビショップ、ダイヤモンド・ハンマー、ゴルドといった有力敵だ。
 彼等を撃破する、或いは援護に迎わせないよう釘付けにした上で、複数チームによるディザスター・キングへの強襲を仕掛けることがこの作戦では必要だ。

 また、全軍の中央にはマザー・アイリスが配置されており、多数のダモクレスが取り囲むように護衛を行っている。
 護衛するダモクレスの戦闘力は高くなく、単純な戦闘行動しか行えない。但しジュモー・エレクトリシアンが彼等を直接操作しており、そちらの対応にも当たらねばならない。
 マザー・アイリスの撃破を目指すなら、ジュモー・エレクトリシアンを撃破或いは指揮が取れない程に追い込んで、護衛を混乱させた隙に中央へ突入する電撃戦を行うことになる。
 電撃戦を行う場合は、混乱した護衛ダモクレスを陽動するチーム、隙ができた場所の護衛ダモクレスを撃破して突破口を開くチーム、マザー・アイリスを撃破するチームの連携も重要になってくる。
 ジュモー・エレクトリシアンは全軍の後方で護衛ダモクレスの指揮等を行っており、常にレイジGGG02、オイチGGG01、マザー・ドゥーサといった護衛と共にいる。
 その為、ジュモー・エレクトリシアンを撃破するには、ジュモー及びジュモーを守る3体のダモクレスと同時に戦えるだけの戦力が必要となるだろう。
 指揮官型を狙わないなら、星喰いのアグダ、導陽天魔、マスターオーブメント、智の門番アゾート、ブレイン・ハンター、シン・オブ・グリード、英霊機タロマティア、あずさ、ムシバルカン、エクスガンナー・アルファ、シスターエイルといった有力敵を撃破していけば、戦力を削ることも可能だろう。
 更にダモクレス軍団には、最上忍軍の最上・幻斎が同行しているという。
 最上・幻斎の居場所は不明であり、見つけ出すのは困難だ。それでも何らかの作戦を用いて撃破することができれば、最上忍軍にも大きな打撃を与えられるかもしれない。

「危険な任務になるのは承知の上だけど……ここで敵戦力を削ることができないと、状況は悪化してしまうことになるからね。だから、必ず敵の目論見を阻止してほしいんだ」
 ――来るべき螺旋忍軍との決戦の日に向けて。
 シュリは戦士達の背中を見守りながら、無事の帰還を願ってヘリオンに乗り込んだ。


参加者
ディバイド・エッジ(金剛破斬・e01263)
舞原・沙葉(ふたつの記憶の狭間で・e04841)
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)
アイオーニオン・クリュスタッロス(凍傷ソーダライト・e10107)
火倶利・ひなみく(スウィート・e10573)
鯖寅・五六七(猫耳搭載型二足歩行兵器・e20270)
ネリシア・アンダーソン(黒鉛鬆餅の蒼きファードラゴン・e36221)

■リプレイ

●行軍阻止の決死行
 螺旋忍軍が流布した偽情報により、鳴りを潜めていたダモクレスの残党が再び動き出す。
 この地球で活動する為の寄る辺を求めて進軍する機械の軍団。彼等が引き起こす破壊と殺戮を阻止せんと、ケルベロス達も撃退に向けて行動を開始する。
 まずはネリシア・アンダーソン(黒鉛鬆餅の蒼きファードラゴン・e36221)が先行し、隠密気流を纏って物陰に隠れながら哨戒活動を行っていた。
 双眼鏡越しに観察をする彼女の赤い瞳に、ダモクレスの集団が映り込む。ネリシアは敵の布陣や配置を確認し、そこに標的と定めた漆黒のダモクレスの姿も把握する。そしてその周囲には、黄緑色の量産型ダモクレス複数体が護衛に就いていた。
「う~ん……主力以外にも面倒なのがいっぱいいるね……。とにかく皆に知らせないと」
 ネリシアは敵の動きに注意を払いつつ、仲間と合流を果たして状況説明をする。
 それとは別に彼女は他班と合同で、ビショップに対して遠距離射撃を試みる手筈であったが、それはビショップ側の領域内にも踏み込むということだ。そこまでするにはリスクが高いと判断し、対象の敵1体のみに専念することにした。
「そうと決まれば、まだ気付かれていないうちに仕掛けるとしようか」
 舞原・沙葉(ふたつの記憶の狭間で・e04841)が話を纏めて、武器を身構える。討つべき相手は、赤いマントを羽織った漆黒のダモクレス。番犬達は射程限度の距離まで接敵し、奇襲を仕掛ける心算であった。
 しかし――敵に最大限の警戒網を敷かれている状況下では、彼等の目論見はあえなく看破されてしまう。
 主力敵の護衛に当たる8体のアパタイトソルジャーが、ケルベロスの接近を察知するや戦闘態勢に移行して、ガトリングガンを一斉掃射する。
「やはり簡単には行かないようね。ここは散開して、敵の狙いを分散させるわよ」
 アパタイトの射撃を避けながら、エディス・ポランスキー(銀鎖・e19178)が声を張り上げ指示を出す。何よりも優先すべきは、敵を増援に向かわせないよう足止めすることだ。如何に量産型の攻撃を掻い潜り、主力相手に集中するか。全てはその一点のみに絞られる。
「親衛隊長ダイヤモンド・ハンマー殿とお見受けします」
 アパタイトの攻撃を突破して、彼等を束ねる漆黒のダモクレスに近付いたのはフローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)。
「元ジェムズ・グリッターが末娘アメジスト・シールド。今はケルベロス、フローネ・グラネットが、ここで討たせて頂きます!」
 名乗りを上げながら、黄玉色のキャノン砲を突き付けて光線を発射する。至近距離から撃ち込まれた黄昏色の光線は、ダモクレスに直撃するが敵は全く微動だにしない。
「番犬風情が娘を騙るとは、笑止千万! 我が金剛石の鉄槌で、貴様等全員粉々に砕いてみせようぞ!」
 威風漂う黒きダモクレス『ダイヤモンド・ハンマー』が、全身から殺意を滾らせながら、フローネ目掛けて巨大な槌を振り下ろす。
 フローネは紫水晶の盾を展開し、重厚な槌の一撃を受け止める。しかしその威力は想像以上に凄まじく、全身の骨が軋むような痛みが少女の身体を駆け巡る。
「親衛隊を統率するだけの実力は、伊達ではなさそうね。待ってて、今すぐ治すから」
 アイオーニオン・クリュスタッロス(凍傷ソーダライト・e10107)が冷静に状況を分析しながら、魔術を用いてフローネが負った傷を治療する。
 如何にも武人肌といったダモクレスの性能は、火力に特化されたタイプなのだろう。更に周囲を取り巻く量産型に気を取られては、瞬く間に各個撃破されてしまう。戦力差からしても、ケルベロス側の不利は明白である。
 故に被害を抑えている内に短期決戦に持ち込むことが、唯一の勝利への道となろう。
「先のことまでなんて考えていられない。今倒すこと、それだけに全力を尽くすのみ!」
 火倶利・ひなみく(スウィート・e10573)の行動原理は至ってシンプルだ。目の前で困っている人を助けたいという一途な想い。その純粋な心を力に変換させて魔法陣を描き出し、仲間に加護の力を齎していく。
「おっす! あちきっす! そしてこいつは羽猫のマネギっす!」
 毎度馴染みの前向上を述べながら、鯖寅・五六七(猫耳搭載型二足歩行兵器・e20270)がふくよかなウイングキャットと共に支援役を担う。
 五六七が全身から眩い光の粒子を発生させて、仲間の戦闘感覚を研ぎ澄ませれば。マネギも翼を羽搏かせ、破邪の力を宿した風を巻き起こす。
「金剛破斬のディバイド・エッジ、ここに見参! この名を名乗る以上、ダイヤモンドの名を前にして黙っておれぬ!」
 高笑いを響かせながら戦場を駆けるディバイド・エッジ(金剛破斬・e01263)。侍然とした言動が特徴的な元ダモクレスのヒューマノイドが、愛用の『空蝉丸』を握り締め、霊体と化した刃を抜いて斬りかかる。
 戦場でケルベロス達を待ち受ける試練。それでも彼等は怯むことなく敢然と立ち向かう。全ては来るべき決戦の日の為に――。

●猛る金剛石の将
「こうなったらとことんやるだけだよ! ネリだって戦えるんだから!」
 ネリシアの身体を鎧うのは、黒鉛の三綺竜を象るオウガメタルだ。鋼の竜の頭部を拳に変えて叩き付け、ダイヤモンドの強固な装甲を打ち砕く。
「……大切な友の為ならば、私は彼女の剣となろう」
 沙葉の金色の瞳に映るのは、紫色の髪の少女の凛とした姿。自分が彼女の力になれるなら――身の丈程の巨大な鎌を握る手に、力を込めて疾駆する。
 刃を金剛石の鎧の継ぎ目に滑らせて、沙葉の洗練された一撃が、ダモクレスの鋼の身体を華麗に鋭く斬り裂いた。
「おのれ小癪な真似を! ならばこいつで吹き飛ばしてやる!」
 ダモクレスのハンマーに装着された特大の金剛石が、光を帯びて輝き出した。集束された力が解き放たれると、目も眩むような光の奔流が、沙葉を狙って一直線に放たれる。
「そうはさせないわ。肉親を倒す意思を持ってこの場にいる人や、それを支える人達の為、アタシはその意思を全力で守る!」
 しかしここはエディスが割り込んで、手にしたハンマーを盾代わりにして破壊の光を耐え凌ぐ。直後にエディスはすかさず駆け寄り、不敵な笑みを浮かべてハンマーを振り回し、超重力の一撃を見舞わせる。
「――届け、届け、音にも聞け。癒せ、癒せ、目にも見よ」
 ひなみくが詞を紡ぎ四翼を広げると、純白の翅が舞って一本の矢と化して。弓に番えて引き絞り、放たれた一条の淡い光がエディスを癒す。
「それにしても贅沢な武器ね。何カラットあるのかしら?」
 余裕のある口振りで、努めて冷静に振る舞うアイオーニオン。されど眼鏡の奥の瞳は眼光鋭く相手を見据え、詠唱と共に射出された魔法の光線が、ダモクレスの肩を撃ち抜き太古の呪詛を植え付ける。
「私は一人のケルベロスとして、貴方を越えてみせます!」
 自らに架せられた運命を乗り越える為、フローネが真っ向から戦いを挑む。翠石色の剣に姉の面影を重ね合わせて力を発動し、思いの丈を込めて黒鋼のダモクレスを斬り付ける。
「その意気や良しで御座るよ! ならば悔い無きよう、拙者も助力を惜しまぬで御座る!」
 フローネの気迫に感化されるかのように、ディバイドも気合を漲らせながら剣を振るう。掲げた刃に雷宿して突撃し、紫電の如き迅速の突きがダイヤモンドの脚部を貫き穿つ。
「ここまで来たなら後はやるだけっす! あちきも全力で支えるっすよ!」
 五六七が仰ぐ扇に封じられしは猫の妖だ。扇に魔力を注いで念じると、妖が朧気に形を成して顕れて。五六七はその幻影を仲間に憑依させ、獣の如き闘争心を呼び醒ます。
 積極果敢に仕掛けるケルベロスに対し、金剛石の将は負けじと力で捻じ伏せようとする。更にはアパタイト達の集中砲火も相俟って、番犬達の疲労の色は次第に濃くなっていく。
「いい加減鬱陶しいが……雑魚に構っている暇はないのでな」
 沙葉がうんざりだとでも言いたげに、大鎌を回転させて降り注ぐ銃弾を消し飛ばす。敵の銃撃が一旦止むとその隙を見逃さず、返す刃でダイヤモンドを斬り払い、動力エネルギーを啜り喰らう。
 そこへ今度はひなみくが、大砲に変形させた槌を担いで砲声を轟かす。次いで彼女の従者であるミミックのタカラバコが、ダイヤモンドに飛び掛かって牙を突き立てる。
「あなた達は螺旋忍軍の掌の上で踊らされてるの。此処でわたし達に倒させて、魔竜王の遺産も独り占めするつもりなのかもね」
「ふん、戯言をぬかすか。そうやって油断を誘っても、我には通じぬ!」
 ひなみくの挑発めいた言葉にも、ダモクレスの親衛隊長は断固として耳を傾けず。眼前の敵を排除することのみを思考して、裁きの鉄槌を打ち下ろす。
 だが金剛石の超硬化の一撃を、身を挺して受け止めたのは――エディスであった。
 身体から流れ滴る鮮血が、四肢を伝って地面を汚す。意識を失いそうになる激痛も、彼女は笑って気力を振り絞り、立ちはだかる大きな壁に抗おうとする。
「第陸術色限定解除。原初の赤、猛る血潮の本流――アタシの声に応えなさい!」
 エディスの首に吊るされた赤いペンダント。自らの血を触媒として術色を発動し、深紅に染まった拳でダイヤモンドを連打する。
 彼女が流した血の痛み、それらを仕返すような苛烈な猛攻に、さしもの金剛石の将も気圧され気味に後退ってしまう。
 ――エディスは家族を失くした過去を持つ。それも自分の弱さが招いたことだと戒めて。
 だから家族同士が傷付け合うのは見るに堪えなくて、自分の心を束縛し続ける存在と決別する為に――渾身の力を込めた拳撃を、一心不乱に叩き込む。
 エディスの捨て身の攻撃が、金剛石の鎧に大きな傷を刻み込む。しかしその代償もまた大きくて、傷だらけの彼女の身体はもう限界寸前だ。
 そんな彼女を、量産型の群れが容赦なく襲う。暴虐的な銃撃の雨に全身を貫かれ、凌駕する力も潰えたエディスの肉体は、自身が流した血溜まりの中に崩れ落ちていく――。

●ココロの絆
 仲間が一人欠け、より過酷な戦いを強いられるケルベロス達。しかしそのことが彼等の結束力を強める切欠となり、この窮地を乗り越えようと気勢を上げて突き進む。
「残ったみんなを守り抜くには――あちき自身が、ヒールドローンになることだ!」
 癒し手として五六七が導き出した一つの結論。彼女を構成するプログラム、その深層下にある部分が書き換わり、五六七自身が猫型ドローンとなって治癒を高める機能が備わった。
「今こそ……ネリ達の本気を見せる時……行こうグラファイト」
 オウガメタルの鎧装に身を包んだネリシアが、大地から溢れる力を取り込み練り上げる。
「大着装……モード・ワッフルトプス……コレが呆れる程『くーる』な戦術だぁっ!」
 突き出した竜の口が砲塔となり、ダイヤモンド目掛けて格子状の光子弾が放たれる。着弾すると同時にネリシアは、オウガ粒子のレーザーを光子弾に照射させ、融合した二つの力が大爆発を引き起こす。
「――余り動かないでね。余計なところまで斬っちゃうわよ」
 爆煙に紛れるように気配を殺し、音も無く敵の背後に忍び寄るアイオーニオン。彼女の抑揚のない声が、冷たく静かに響くのも一瞬で。氷で生成したメスを手に、敵の機械が露出した箇所を、狙い定めて刃を走らせ斬り刻む。
 アイオーニオンが執刀する手捌きは、精密機械の如く相手の神経回路を遮断して、鋼の機体の機動力を奪う。
 どれ程苦境に立たされようと、どこまでも抗い続けるケルベロスの執念に、ダイヤモンドも恐れを成したか焦りの色を滲ませる。
「まさかここまで苦戦させられるとは……。だが、我とて負けるわけにはいかぬのだ!」
 大気が震える程の覇気を放出し、金剛石の戦槌を大地に打ち込むと。地面が揺らいで亀裂が走り、地脈を破壊の力に変えて炎の柱が噴き上がる。
「フローネちゃん達は……これ以上、傷付けさせないよ!」
 吹き荒れる炎の嵐を二つの影が立ち塞ぐ。ひなみくが全身に闘気を纏って壁となり、タカラバコと一緒に迫り来る炎を食い止めようとする。
 家族と戦い続ける少女の痛みを、少しでも肩代わりしてあげたくて。そしてこの戦いが終わったら、彼女が心の底から笑えるように。
 そう微笑みながら煉獄の中へと身を投じるも、業火は彼女達を無慈悲に呑み込んで――想いも虚しく、ひなみく達は力尽き果ててしまう。
 防御の要であった二人が倒れ、残った者も満身創痍で、ケルベロス達にはもう後がない。
 しかし敵将も手負いの状態であり、彼等は気力を奮い立たせて最後の勝負に打って出る。
「我が必殺剣、その身でしかと受けるが良い! 纏うは業炎、見せるは演舞、焼いて祓うは金剛破斬!」
 ディバイドが独自に編み出した剣の技。刃が炎を上げて激しく燃え盛り、円を描いて舞い踊る。天に供物を捧げるような舞を経て、刃と炎が一体化した剣を振るい、ダモクレスの鉄の体躯を透過し体内のみを灼き祓う。
 斬れぬモノをも断ち斬るディバイドの剣の極意。機人としての揺るがぬ矜持が、金剛石の将に深手を負わせて追い詰める。
 ここで一気に決着を付けようと、二人の少女が息を合わせて同時に仕掛ける。
「この刃は、未来を切り開くための刃だ……!」
 沙葉が闘気に魔力を纏わせて、両腕に光の刃を具現化させる。彼女が想うは唯一人――自身が命を賭してでも、道を切り開く剣となる。
 決意を込めた一太刀は、ダモクレスの鋼の機体を十字に裂いて。後は全てを託したと、友たる少女に視線を送る。
 だが刹那――ダイヤモンドの死に物狂いの一撃が、沙葉に迫って打ち下ろされる。
 もはや躱す気力すらもなく、沙葉に下った鉄槌は、彼女を無残に圧し潰し――また一人、戦士がこの地に倒れ伏す。
「……これで最後です。全ての輝きと、ココロの力を、この剣に――!!」
 ここまで道を築いてくれた、仲間達の想いに応える為に。フローネの翡翠の剣が彼女の心に呼応して、キャノンの力と同化する。
 武器とココロが共鳴し、増幅された最大火力の一閃が――父たるダモクレスを両断し、金剛石の将は光の塵となって消えていく。

「さて……これ以上の長居は無用みたいね。急いでここから離脱するわよ」
 ケルベロス達は確かに敵将を討ち倒したが、継戦するだけの余力は残っていない。
 アイオーニオンは今が引き際だと見極めて、まだ動ける仲間に撤退を呼び掛ける。
 勝利の余韻に浸る暇もなく。倒れた仲間を背に担ぎ、敵の包囲網を強行突破して。
 追っ手が途絶えたことを確認すると、彼等はその場で力が抜けたように踞み込む。

 ――さようなら、父さん。
 極度の緊張感から解放されて安堵する、少女の紫色の髪を撫でるように風が吹き抜けて。
 遠退く戦地を振り返り、少女はココロの中で死を悼む。零れる想いを届けるように――。

作者:朱乃天 重傷:舞原・沙葉(ふたつの記憶の狭間で・e04841) 火倶利・ひなみく(スウィート・e10573) エディス・ポランスキー(銀鎖・e19178) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月21日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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