螺旋忍軍大戦強襲～真実の行方

■リプレイ

●戦場
　予知の通り、伊賀を越えて奈良平原への大軍団での行軍を続けていたダモクレス軍団の姿を目の当たりにし、鉋原・ヒノト（駆炎陣・e00023）は思わず息を飲んだ。厳しい戦いになると覚悟はしていたものの、こうして全方位に対して警戒の網を張ったダモクレスの機械軍団を目の当たりにすると、さすがに緊張が拭えない。だが同時に、確かな戦意が燃え上がる。
「……一斉に姿を見せた今こそ、厄介なダモクレスを叩くチャンスだ」
「そう……ですね。そう考えましょう！」
　やはり敵の軍勢に乱戦の予感を感じ取り、若干の焦りを感じていたビスマス・テルマール（なめろう鎧装騎兵・e01893）もそのヒノトの言葉に乗り、声を張る。
　一方、マイペースに額に手をかざして戦場を見渡すのは、ノーフィア・アステローペ（黒曜牙竜・e00720）。傍らを離れないボクスドラゴンのペレに向かって説明するような口調で言葉を続ける。
「あれはディザスター・ナイト、だね。こう、スマートな形してるよね。嫌いじゃないなー、ああいうの。向こうは何だろうね？」
　ディザスター・ナイトを中心にずらり展開した先鋒軍団。他にもアームドギアやランドウォーカー、アパタイトソルジャー、タイタンキャノンなど。キングの姿を探すのすら困難なこの状況。
「螺旋忍軍に躍らされてここまで雁首揃えやがって……いいぜ、来るならこいよ」
　草火部・あぽろ（超太陽砲・e01028）が口端をつり上げて強気な笑みを浮かべれば、ソロ・ドレンテ（胡蝶の夢・e01399）が頷いて応じる。
「予想通り、とは言えないがやることは変わらん。いこう」
　対して、この戦場の空気に動揺を隠しきれないのは、月鎮・縒（迷える仔猫は爪を隠す・e05300）。
「こ、こわくない……今日のうちは」
　震えそうになる心を叱責し、縒は拳を固めて前を向く。自分は盾。仲間のための盾なのだ。遠距離タイプの敵の攻撃は、どこへでも飛んでいく。それを全て自分が受け止めるつもりで。
「……頑張ってみんなを守るんだ！」
「うんうん、その意気だよっ縒ちゃん。さあ行こう！」
　シルヴィア・アストレイア（祝福の歌姫・e24410）が明るく笑い、戦場のど真ん中をまるでステージだと言わんばかりに、くるりと回ってみせた。
「貴方たちの銃では私の歌は止められないよっ！」
　敵味方、合わせて1000人はいようというこの軍勢の中では、味方チームとの連携も連絡もままならない。だが、その中にあっても澄乃・蛍（元量産型ダモクレス・e03951）は素早く己の敵を見つけ出し、走り出す。
（「メタルガールソルジャー・タイプＳ、狙撃型。私の姉妹機……」）
　当初の予定からは幾分外れたが、ケルベロスたちの狙いは揺るがなかった。ザコは無視、目の前の敵のみを集中して倒す。８人と２匹は敵軍をかき分けるようにして『メタルガールソルジャー・タイプＳ』の前に殺到する。
『……敵、接近。機種、確認……』
　ケルベロスたちの姿を捉えた敵は、右腕の大型狙撃砲を構えて照準を合わせようと動く。
　そのメタルガールソルジャーの真正面に飛び出したのはソロ。隣にあぽろが駆け込んで来たのを確認すると、あぽろの肩に手を置き、大声で名乗りを上げた。
「『太陽と蝶』とは私達の事！　覚悟しろ!」
　一瞬悪戯っぽく舌を出して見せるソロに面食らいつつも、次の瞬間には不敵に片目を瞑って笑顔を返すあぽろ。
「今考えたにしては上出来だぜ。俺らの力、とくと見な！」
　攻撃手ふたりの息の合ったその様子は、仲間たちを力づける。奇襲こそ成功しなかったものの戦意の挫けた様子は一切ない。
「頼もしいですね、私たちも息の合ったところを見せねば……行きますよナメビスくん！」
　優しい微笑を浮かべて彼女のボクスドラゴン・ナメビスにそう告げると、一転殺気を漲らせ。
「参りますよッ！」
　ビスマスの跳躍で戦いは幕を開けた。メタルガールの狙撃よりも素早く蹴り込みその足元から挫こうとするのを、ナメビスも倣ってブレスで援護する。
「ちょっとずつ、装甲剥いでってやるぜ……！」
　次いで、二本槍であるソロとあぽろを守る位置に立ったヒノトが、攻撃に転ずる。装着したパイルバンカーを唸らせ、大きく振り上げた右腕を体ごと叩きつける！　ガギィン、と火花が散るが、流石に固い。
「俺は太陽の巫女だ。この一寸先も闇な戦場に、光を刺し広げてやる……！」
『太陽と蝶』の先鋒は自分だと、あぽろが右手を天にかざす。たなびく黄金の髪はそこに熱を宿しているのだと主張するが如く、太陽の色に輝き始める。
「陽の深奥を見せてやるよ！」
　掌に太陽をそのまま乗せたかと錯覚するようなあぽろの焼却光線が、メタルガールを包み込む。その熱量に鋼鉄製ボディの装甲すら歪む。いきなりの大技、その威力に目を見張りつつ、ソロは脳内で戦術を組み立て、タイミングを計る。
「……まずは少し、揉んでからだな」
　グロリアスファントムに覆われたソロの身体が撓り、美しい軌跡からは繰り出された光弾が敵の硬質なボディに喰らい付く。立て続けの攻撃に砲を定めあぐねる敵の身体を、ノーフィアが更に超硬化させた竜の爪で殴って揺らした。
「回復役だけど、隙があったら攻撃もさせてもらうさ。ペレ、蛍を頼んだ」
　呼ばれて一声高く鳴き、ペレは蛍の元へと羽ばたいた。
「……よろしく」
　蒼白い炎を細く吐きだすペレに、短く応える蛍。
「うん、他の誰が倒れても君は立ってないとだからね」
　騒々しい戦場に於いても、ノーフィアは自分のペースを崩さない。
　そして文字通り敵に躍りかかったのは、縒。
　黒猫のしなやかなジャンプから月小花のブーツを履いたつま先を伸ばし、敵を強襲！
「いっくぞぉ！　これでも喰らえー」
　ヒット、そのまま空中で身を捻ってアウェイ、その間にシルヴィアが歌い始める。
「さ、私の歌を聴けーっ！ってね♪　みんなの為に、気持ちを込めて歌うよ！」
　混戦する戦場に澄んだ、それでいて勇壮な歌声が響くのをうっとりと聴いたのも束の間、縒はメタルガールソルジャーがあろうことかそのシルヴィアにロックオンしたのを見逃さなかった。
「くっ、こっちだ！　うちを狙ってこい！」
　空中で腕を伸ばす縒だが、無情にも砲の照準はシルヴィアへと逸れていく。
「……いいよ、私は負けない」
　標的になる恐怖と戦いながらも歌をやめようとはしないシルヴィアの姿は、歌の文言とおりに、戦う者を勇気づける。
「タイプＳ……いきなりそれを使う気か」
　察した蛍が、単体狙いの長距離砲を遮らんと、バスターライフルで狙い返すが冷徹な機械は怯む様子を見せない。
『目標、ケルベロス。単機、射程よし。発射』
　正しく寸分の乱れもない正確な狙撃。それは同時に、ヒノトに射線を読むチャンスを与えてくれた。
「……ッ！」
　飛び出しは完璧、ヒノトはその対物砲の威力を体術と防御を駆使して半減させ、叩き落した。
「うわぁあ！　鉋原さんありがとうっ」
　と叫んだのは、庇われたシルヴィア本人ではなく、縒だった。本気で自分が皆の盾になる、という心意気を感じてヒノトが少し笑顔を見せ、縒に向けて拳を突き出した。
「俺も速さならお前に負けない。一緒に走り回って皆を守ろうぜ」
「……うん！　うち頑張る！」
　縒も拳をコツリと返す。二枚盾は心をひとつとしたようである。
　ただし、持久戦に持ち込まれると怪しい……と、ヒノトは内心こっそり自嘲する。
『狙撃失敗。次弾、装填』
　無機質な声、というより音声がそう告げる。かつて己も、何処かの戦場で、何れかの時にはこうであったのだろうという事実を、蛍は淡々と受け止めていた。
「残念だけど倒させて貰う。……此処で」
　狙いを定めていた蛍の光弾がメタルガールに命中する。このままいけば早々に押し切れる、とケルベロスたちの士気が上がった、その時。
「……危ない！　散って下さい！」
　ビスマスが叫んだとほぼ同時に、ガトリングから放たれた弾丸の雨が、ビスマスたち後衛を狙って降り注いだではないか！　翼を大きく広げたノーフィアが蛍の傍に駆け寄る。そのふたりに向かう弾丸の前に今度こそ身を投げ出すヒノトと縒。
「くそ！　アイツら……！」
　あぽろがギリッと鋭い視線をやった先には、５体ものアパタイトソルジャーが、次の斉射の準備に入っているところだった。

●砲撃の雨の中で
「奴らを先に片づけ……たところで、援軍が来るのは目に見えてますね。……スクイッド……オールレンジリフレクトッ！」
　やはり狙いはひとつ、と、ビスマスがご当地の気を集め、イカ型全身装甲を身に纏う。展開するのはイカ型のビームソードビット、輝く剣先がビームを弾き、もうひとつ弾きとスピード威力ともに蓄えた一撃を育てていく。
「貴方の動きは検討付けやすいです……その動きを潰させて貰いますよっ！」
　先のお返しだとばかり放たれたビスマスのビームが、敵を貫いた。
「ふう。なかなかタフな闘いになるみたいだね。でも私が皆を癒すから大丈夫」
　ノーフィアが翼を開き、ステップを踏み始めた。ヒノトも、確かに厳しい戦いになりそうだ、と思いつつも手の中のペットのネズミ、ファミリアロッドのアカに呼びかける。
「……けど、お前と一緒なら大丈夫だ。行くぞ！　アカ！」
「っ、う、うちらも、いくよチロちゃんっ」
　こちらもファミリアロッドのチロに話しかけ、縒が狙撃の準備に入る。
　シルヴィアも、マイクではなく槍を構えて攻撃態勢に入った。
「さぁ！　ここからがわたし達のステージだよっ！」
　駆ける足を止めぬまま、ソロがあぽろに問いかける。
「どう見る、あぽろ？」
「メタルガールは正直問題ねえ。問題はこの状況の方だな」
「……だろうな」
　援護攻撃を仕掛けてくる連中がいる限り、長引くほどにダメージは大きくなっていくのは目に見えていた。ザコは相手にせず、攻撃はメタルガールソルジャーのみに集中、とケルベロスの方が決めていても、残念ながらザコの方はこちらを無視しない。
　ならば、急いで片付けて、生きて戻るだけ。
　元より少数で軍勢に当たる混戦必至の戦いを、ケルベロスたちはよく戦った。砲火の降り注ぐ戦場で、ただ目の前の敵を倒す事に集中した。はっきり言えば余裕はなかった、それでも互いを信じあい、己のやるべきことを果たす。そんな中、ついに仲間が膝をつく。
『命中。敵、撃破』
　絶えず弾丸が降り注ぐ中、単体狙いで放たれたメタルガールの長距離砲が蛍の武装を打ち砕いたのだ。
「……私が、先に逝くのか……タイプＦが、待ってる」
　足元から崩れた蛍を膝に抱き支え、ノーフィアが小さく笑った。
「何言ってるんだ。君はまだまだ死なないよ。私たちがいるからね」
「ノーフィアの言う通りだ、縁起でもないぞ」
　ソロなりの言葉で戦線を離脱した蛍を短く労い、また戦いに舞い戻っていく。
　ケルベロスたちの攻撃が確実にメタルガールソルジャータイプＳのボディーを削っていたように、こちらもまた。
　続いては、ヒノト。万が一には奥の手すら覚悟していたのだが、皆を庇い弾丸を受け続けた彼の身体はもはや立ち上がる力を残していなかった。
「やっぱ、スタミナだな……」
　ぼそりと呟く言葉が縒に聞こえたかは定かではないが、彼女の肩を借りて前線を引く。今にも泣きそうなのを必死に堪える縒に、体はボロボロでも笑みを浮かべずにいられないヒノトだった。
「鉋原さん遠慮しないでいいから。うちが運ぶからっ！」
「……ありがとな、縒」
　盾が一枚減った中でも回復手のノーフィアは頼もしい働きをし、攻撃の手数が確保されたのは大きい。
　だがそれでも、ジワジワとケルベロスたちの疲労と傷は増えていった。
　再度照準はシルヴィアを捕え、ついに放たれた対物ライフルの一撃が歌姫から声を取り上げてしまった。
「シルヴィアさんっ！」
　倒れたシルヴィアの前にビスマスが立ちはだかり、キッと敵軍を睨み付ける。敵の数だけを見てしまえば本当にきりがないが、この戦いに終わりが見えていることも、ビスマスはちゃんと心得ている。
「いいですか、私は怒ってるんです。本当ならこの辺りには気になるものが他にもいっぱいあるんです！　伊賀牛にかたやきに工芸品……なのにこの地があなた方で埋め尽くされてるのは、腹立たしいことこの上ない！　ご当地の気が泣いてますよ！」
　ビスマスが敵を牽制する間に、あぽろがシルヴィアを抱き起こす。
「ごめんね……、ステージの途中で倒れちゃうなんて……、アイドル失格だね」
　気丈な笑みを浮かべるシルヴィアの身体を支えながら、敵への怒りを募らせたあぽろが吼える。
「んなわけねーだろ！　見てろ、俺が……」
「あぽろ！」
　決してその怒り宥めるわけではなく、ソロの声が名を呼んだ。青い髪をなびかせ敵に向き合い、あぽろには背を向けたままソロが叫ぶ。
「アレをやろう！」
　察して頷き、立ち上がるあぽろ。降り続く弾丸をものともせず、右手を構えた。
「見てろよ！　俺たちがこの無粋な観客どもを焼き尽くしてやるからな！」
　シルヴィアに、そして同じく倒れたヒノトと蛍にも聞こえる声で告げてから、あぽろは太陽の灼熱をその手に集める。
「タイミング合わせろよ、ソロさん！」
「信じろ！」
　満を持してのソロの大技。敵の足が止まり、確実に叩きこめるこの瞬間を彼女は待っていた。
「冥府に舞いし魔蝶の一軍よ　闇に燻る魂を照らし　儚き夢の終わりを告げよ……」
　輝く太陽の光を吸収した魔蝶の群れは敵に向かって羽ばたき、自らその灼熱の中に身を投じているかのような。
「胡蝶乱舞！」
「陽々の力を食らえ！」
　シルヴィアを介抱していたノーフィアがぼそりと呟く。
「終わりだよ。さ、帰ろう」
　頷いたシルヴィアが、か細くいつものセリフを口にする。
「派手に……いっけぇ……」
　皆に守られた、との意識を胸に、攻撃手のふたりの合わせ技はまるで元々ひとつであったかの如く炸裂した。
『外鎧装、ダメージ大……制御、不能。崩壊まであと……』
　カウントは、いくつから始まる予定だったのか。それすらわからぬまま消滅していくメタルガールソルジャー・タイプＳを、蛍のあまりにも静かな視線が見送っていた。

●脱出！
「では皆さん、まずはここを離れましょう！　モタモタしていては私たちも……ああっ」
　ビスマスがシルヴィアを気遣いつつ運び、相変わらず止まない遠距離攻撃から身を翻す。
「鉋原さん、どっか痛い？　平気？」
「あ、ああ。もう一人で歩けるからさ……」
「だめ！　怪我してる」
　縒が譲らないので、ここは大人しく譲るヒノトだったが、縒は縒で満身創痍のはずである。
「どう？　悲願の敵を倒した感想は？」
　ノーフィアの問いに蛍は淡々と、しかしなんとなく、あの最期のカウントを思い出しながら答えた。
「……まだ、残ってるから」
　ソロとあぽろは頷きあい、露払いを引き受ける。勝利と共に８人はその場を後にした。

作者：林雪	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年7月21日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
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