螺旋忍軍大戦強襲~撃ち抜くものは

作者:ヒサ

 螺旋帝の血族・緋紗雨を守り抜いた成果として、近く現れるスパイラスのゲート位置を知ることが出来た。これにより、彼らへ決戦を仕掛ける事も可能になる。
 だがそれには、亜紗斬を捕縛した『最上忍軍』が障害となろう。そう篠前・仁那(白霞紅玉ヘリオライダー・en0053)は告げる。
 彼らはイグニスの命に従い、ゲートが現れる地点に戦力を集めんとしている。彼らが螺旋忍軍であるからこそ、その顔ぶれは多様だという。各勢力へグラビティ・チェインに関する偽の情報を流し、ケルベロス達も同じ情報を掴んでいる為に襲撃に備える必要があると煽り。周囲が敵対勢力ばかりであるがゆえにこそ、まずは不用意に事を構えぬよう──デウスエクス同士はひとまず牽制に留めるよう、仕向けているのだとか。
「この辺りの、情報に関する話をあなた達の口から明かして貰ったとしても、あなた達からの言葉だからこそ耳を貸せない、とか、なってしまうと思うし」
 眉をひそめる仁那は、イグニス達はドラゴンを送り込む気でおり、集めた戦力は状況が調うまでの防衛に使うのだろうと考えられている旨を口にした。これらを殲滅するにはケルベロス・ウォーに持ち込む必要があるであろう事も。
「でも、部隊の指揮を執っているような敵を今のうちに倒せれば、この後のことを有利に進められるだろうから、お願いしたい──というのが、今回の話」
 そう続け仁那は一度視線を落とし、メモ帳のページを繰った。

「なのであなた達を、紀伊山地に送らせて貰うわ。エインヘリアルの軍勢が和歌山県側の、伯母子岳、を通るそうなの」
 彼らの目的地はゲート出現予定地である奈良だという。山地の三重県側は屍隷兵の軍勢の進路となるが、そちらは別のチームが対応する予定になっている。
 エインヘリアル達を率いるのは『マン・ハオウ』。その私兵団は数百にのぼる数で構成されているとのこと。当然、指揮官級の敵に的を絞るのは容易く無いが、彼らは共通して特殊な性質を有しているのだという。
「ええと……、小柄な少女を見せれば雑兵を置いて飛び出して来る、そうよ」
 より正確には『背の低い美少女』。かの存在は彼らにとって特別らしい。彼らの体格を考えてもどこからが低身長にあたるのかは読み切れないが、低過ぎたり美し過ぎたり若過ぎたりする分にはおそらく問題無いだろう。
 但しこの時、指揮官級の十二体が纏めて来る。彼らを狙うのであれば留意すべきは二点。私兵団の長である『ペンプ・オグ』は美少女よりも『マン・ハオウ』の安全を優先する為、戦況に依ってはこの二体は後退する可能性がある事。他十体については各個撃破に持ち込む事も難しくないが、より確実にと考えるならば、一体につき二チームは割くのが望ましい事。
「あとは……、後ろに残される側になるでしょうけれど、『最上・幻夢』も彼らと行動しているみたい。数を減らしに動くのなら、そちらを狙うのも良いかもしれないわ」
 他のチームと協力して十二体を倒すか、後方で統制の取れなくなった軍勢を狙い数を減らすか。各チームの構成にも依るが、上手く協力なり分担なり、作戦を決めて貰う必要があるだろう。
「イグニスの事があるし、『マン・ハオウ』辺りは逃がさず済めば……とは、思うけれど。
 今回は、奇襲を仕掛けて、ある程度の打撃を与えたところで撤退して貰う事になるわ。退く時は出来るだけ手早く──全員、無事に戻って来て欲しいと、わたしは思っている」
 待っているわ、と少女はケルベロス達を見つめた。


参加者
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)
シエラ・シルヴェッティ(春潤す雨・e01924)
ジエロ・アクアリオ(星導・e03190)
二藤・樹(不動の仕事人・e03613)
メロウ・グランデル(眼鏡店主ケルベロス美大生・e03824)
新条・あかり(点灯夫・e04291)
玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)
ヒメ・シェナンドアー(白刃・e12330)

■リプレイ


 山野の地形を見、ヒメ・シェナンドアー(白刃・e12330)は小さく唸った。木々が茂り、足元も良いとは言い難く、平地並に自在にとは行くまい。
「下手を打てば囮が孤立させられる危険もあるかしら」
「けど代わりに隠れ易くはあるかな」
 二藤・樹(不動の仕事人・e03613)が言う。全員が纏まって一斉に、と動くのは危険が大きくとも、潜伏場所ならば選び放題だ。敵の出方にも依るが、事を一気に運ぼうとはしない方がきっと良い。ゆえ、まずは囮を務める者達を予定地近くに固め、他は少しばかり奥へ。
 各々散開し、木陰等に身を潜める。ただ、接近戦型のシエラ・シルヴェッティ(春潤す雨・e01924)は背の高い木々を避け、迷彩シートを被って伏せた。
 囮役の一人である新条・あかり(点灯夫・e04291)は腕に黒豹のぬいぐるみとウイングキャットを抱き、少し離れた茂みを見遣る。借り受けた猫の主である玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)が護衛として身を潜めている地点だった。準備完了の意を伝えるかのよう、彼女は小さく頷いた。
 暫し待ったそののちに、敵軍の接近を確認する。アリス・ティアラハートが動くのに合わせてあかりはその傍らに膝をつき穏やかに目を細め、少女の歌声に耳を傾ける──仲良く戯れる四人の少女達、という見目に演出出来ればと打ち合わせてのこと。
 やがて、それに気付いたらしきマン・ハオウが、連れていた者達を一度顧みて何事かを言った後、単身彼女達の方へと突撃して来る。潜み見守る者達に緊張が走るが、ここまでは目論見通り。焦るには未だ早いと、耐える。
 敵がある程度の距離に来たところで、アリスは歌を止め。優雅に振る舞い相手を引き込み、そして彼女は小首を傾げた。
「素敵な王子様……私達と遊びませんか?」
「王子さん、足速いね。僕たちと鬼ごっこをしようよ」
「あなたが鬼です。私達は逃げますから――」
 あかりが相手を真っ直ぐ見上げる。アイリス・フィリスの微笑みはどこか強気に。
「──捕まえてみてください?」
 久遠寺・眞白の声は、出来るものなら、とばかり。そうして彼女達は示し合わせ、王子を孤立させる為に奥まった方へと逃げて行く。

「始まりました!」
 自然のざわめきをも制する報せの声を、メロウ・グランデル(眼鏡店主ケルベロス美大生・e03824)が響かせた。視界が悪い中、各々が動く。
(「ドローンじゃカバーしきれないから──」)
 ざっと状況を確認した樹は腕のコンソールを叩き速やかに爆破を仕込みに掛かる。猫を返された陣内は姿を戻し得物を構えに。
「アリスさん達が上手いこと敵を惹きつけてくれてます、あかりさんは目立たない方が良いかもしれません」
「わかった」
 勧めに従い少女はフードを目深に被る。
「ではー、私共もー、──派手ナ動キハ慎ミマセUカ」
 未だ跳んではならぬと。フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)はその眼に敵と、奮闘する味方達を映す。敵はあれで居て手強いと、見て判る。そして向こうのチームが上手く立ち回ってくれているのならば、
「彼らを援護せねばなるまいね。行くよ、クリュ」
 小竜を促したジエロ・アクアリオ(星導・e03190)は、意識をそっと己が身の内へと。
「──おいで、キィ」
 声に応え、青年の身から黒い仔猫の姿が出でる。それは宙を駆け木々を抜け、敵へと禍害を届け得る力を、それを為すべき担い手の元へ。続きクリュスタルスが、水の力を加護と成す。
 支援だけを、攻撃だけを届けるように。自分達の姿は晒さぬよう、敵の気を不用意に惹かぬよう、慎重に動く。今は彼らに任せる事が、彼らの計算を乱さぬ意味でも最善だ。光盾を成し守護を織り、黒猫を放ち力を添え、水の色を広げ彼らを支える。
 暴風の如き敵の勢いを、されど彼らが押し留めてくれる。それにより生じる僅かな隙を狙ってシエラとヒメが得物を振るい、それを援護すべく爆発が空気を震わせる──これが、身を危険に晒す者達の助けにもなれば良い。
 だがそれでもやはり、彼らの負担は過ぎるもので。
「リディアさんが──」
 メロウが声をあげる。見る限り、倒れた彼女のみならず、敵に相対する者達の多くが疲弊している。これ以上は危ういと、救援に動く事を決めた。辿り着くまでを繋ぐ為、ジエロは急ぎ術を紡ぎ、盾役の傷を塞ぎに掛かる。
「あかり」
「うん」
 促され、少女は幼い顔を晒す。自力で動く黒豹を連れて行くだけの猶予は無い。ゆえ、猫とぬいぐるみだけを供に彼女は前へ。
「王子さん、王子さん、僕はこっちだよ」
 敵からは側面にあたる位置。危険域に入る寸前の距離から彼女は声を張り上げる。
「僕とも遊んで欲しいな」
 視線が合うのを待ち、首を傾げる。甘い色の瞳に熱を籠めて上目遣いを向けた。
「おお、お前か!」
 すれば返ったのは爽やかさとはほど遠い笑顔。逃した獲物がのこのこ戻って来たと、殺意に彩られた喜色。
「こちらを殺してから、と行きたいところではあったが、望まれれば応えねばなるまい!」
 彼は一度アリス達へ目を遣ったが、彼女達は手負い。急ぐ事も無かろうと判断したか、未だ元気な獲物へと意識を移す。
「ありがとう。じゃあ、こっちだよ」
 あかりが身を翻す。彼女の装いとしては珍しい、愛らしいワンピースの裾がふわりと広がった。敵へと向けた背には児童の象徴たるランドセル──かの王子がどこまで地球の文化に詳しいかは判らないが、記号と雰囲気は大切だ。
 纏う加護により足元の植物を避け、彼女は悪路を走る。ほどなく追いつかれ掛かるものの、突如敵の視界を埋めた虹の色と菊花の幻影が、少女の姿を覆い隠し護る。為し手は、晒した額を獄炎に焦がす娘と、精悍な黒豹の獣人。
「共ニ阿ソビマセ宇」
 フラッタリーは凶しくも艶やかに笑み。あかりを背に庇った陣内はひたと敵へ目を据えた。
「触るな」
「ほほう、面白い。ならばお前を殺してからと行こうか!」
 翠の威圧をしかし意に介さぬかのよう、敵は豪快に笑う。陰で黒い尾が静かに毛を逆立てたが、きっと敵は気付かない。
 ケルベロス達は改めて得物を構え敵へと向かう。負傷者達が立て直せるであろう程度には引き離せた。彼らが力を尽くし敵に手傷を負わせてくれた。
 であれば、決して不覚は取らぬと。


 敵の言葉に嘘は無く。ゆえにこそケルベロス達は存分に力を振るう。メロウの竜砲が音を立て、シエラが軽快に蹴り技を放ち、ヒメの刀が雷を纏う。敵の火力を警戒しその勢いを減ずべく樹は爆風を浴びせるが、相手が怯むには未だ。
「喰らうが良い! 十二星拳技──」
 固められた敵の拳が嵐じみて振るわれる。だがそれが目標へ届くより先に、剣を構えたフラッタリーが割り込んだ。鈍く硬く、加えて重い音が響くと共に、娘の踵が地を抉る。
「貴方ニ……較ブレ、バ。我等々皆、童之如キモノ、デ、在リマセウニ」
 身の軋みが息を乱す。されど炎揺れる金瞳は、相対する巨躯を変わらず映し続け。
「──サア。ヨリ深ク、ヨリ激シク、戯レマセウ?」
 終わるには早過ぎると、彼女は白歯を覗かせた。
「全くあの王子は、とんだお子ちゃま嗜好ですったら」
「それ、拭きにくくない?」
 理屈と事実と理性と闘争心辺りに複雑な乙女心も加えて混ぜた末の批判を呟きながらメロウは着用状態の眼鏡レンズの土埃を拭っていた。退がるあかりが目を留め問うたが。
「いえいえこの程度朝餉前です、人前で眼鏡を外すなどというはしたない事は」
 滔々と喋る彼女の明瞭な視界内で、盾役の務めを果たしてリムが倒れた。まあ良いでしょう、と主の笑みが不敵な色を帯びる。
(「タマちゃん、大丈夫かな」)
 鎌を片手に少女は、敵を惹きつける前衛達へと目を向ける。彼らが承知で動く以上、己は信じて力を尽くすしか無いと、解ってはいたけれど。

 だが敵も、徐々に疲弊して来ているのだろう。彼の拳技はその時、己が身へ治癒の為に振るわれた。であれば攻め時と陣内が、斬撃を浴びせるべく踏み込む。
 動きが鈍りつつあった敵がしかし立て直した、その事自体を無為にとばかり、ヒメもまた敵の死角を狙い斬り掛かる。傷そのものは想定ほど癒えていなかったのだろう、ごく微かなれど狼狽を滲ませた敵の隙を突く事は、援護に動いてくれる者達の力ゆえもあり、難しい事では無かった。小竜と黒猫へ呼び掛け術を御すジエロは、皆がより自在に駆けられるようにと。
 されど敵へはそれを許せない。樹が標的の態勢を崩したところへ、傷を重ねに動く者達がその刃をより鋭くねじ込んで、幾重にも枷を掛けて行く。シエラの舞いにより出でた春色の花弁達は、裏腹に豪雨めいて敵を襲った。
 けれど、それでも。
「なかなか粘るではないか!」
 容易く排除するつもりであったと明かす如き敵の声は未だ強い色。滲む害意がケルベロス達の本能を揺さぶる。警告が声と発されるよりも先、ならば、と敵が動くのが判った。
「十二星拳技、二等流星を受けてみよ!」
 盾役達が動くよりも速く、陣内の身を酷い衝撃が貫いた。大きくよろめいた彼は、だが未だと踏み留まる。案じてジエロが治癒を為し、しかし彼らを緩め得ぬ緊張が支配する。
 だがほどなく、アイリスと眞白が駆けつけた。彼女達が敵の注意を惹く間に、ファルゼン・ヴァルキュリアが彼らを庇う位置へと。
「大丈夫か? 後はこちらに任せてほしい」
 案じる声を向けられた当人は、大したことは、とばかり首を振りかけ、しかし仲間達の眼差しに制止やら懇願やらの色を見て。
「……悪いな。少しの間、頼む」
 今は託すと、頷いた。

 盾役が崩されれば保たなかったであろう事は確か。だが今であれば援護に動ける。代わって前線に立つ者達の為、彼らは再度身を潜めつつ駆け回る。攻防を妨げぬよう機をはかり、支援すべく攻め立てた。
「どうぞ無理はせぬように」
 そう癒し手に送り出され、盾役達もまた動く。風を切る術環を見送るフラッタリーの肌を、髪を、獄炎が舐めた。彼女の手が空を握り不可視の刃は風を御し。萎縮してしまえとばかり、かの命に呪いを掛ける。仲間の手が病を運び、その呪を補強する様を見て、彼女は口の端を上げた。
 数多の刃が更なる苦痛を奏でる中。敵をあしらう者達の為に治癒を続けるジエロは、合間に小さく息を吐き疲労を逃がし。
「……もう暫し」
 胸に抱く者を宥めるかのよう手を翳し囁いた。災いは討つべき敵にこそ──護るべき者達の誰もが、不当に損なわれる事の無きように。
 援護に動きつつ敵への接近をはかるうち、同様に動く先陣チームと行き逢った。ならばそのまま包囲に持ち込んでしまおうと合意する。戦況を窺いメロウは囮を務めた者達へ目を向ける。敵を警戒して声は音無く、けれど交わした視線で少女達は解して応じた。
 敵が顧みればこちらを視認し得る位置。彼女達は渦中に身を置く仲間達へ目を遣り小さく頷き、口を開く。
「あら、王子様。鬼ごっこはまだ終わっていませんよ。私のところには、来てくださらないのですか?」
「王子さん、僕のところに来てくれるよね?」
「王子様、私達はまだ捕まっていませんよ?」
「私達の方には来てくれないんですかぁ?」
「おおっと、お前たちか! そのように呼ばれては迷うではないか!」
 二人の出現に手を止めた敵がぐるり、呼び声を発した四人を見渡す──戦いの中において致命的なその隙を見逃すケルベロス達では無い。
「チャンスです、集中砲火決めちゃって下さい!」
 鋸刃を携え駆けるメロウの声は、皆に届いたろう。即座に応えたフラッタリーは、ただ敵を害す事を求めて虹を纏い跳び上がり。拳に力を籠めつつ陣内は猫を伴い前へ。あかりはそれを追うよう鎌を放つ──二十を超える使い手が、過熱する。
「おいで、春の花。──倒れちゃえ!」
 艶やかに舞いながらもシエラは無垢な殺意を花弁に織る。皆で力を尽くし続けて深く深く傷つけた敵の様を見、ジエロもまた杖を蛇へと変じ。
「『次』は許さぬよ。クリュ、手伝っておくれ」
 放つ力は嵐の如く。それと共に駆けたヒメは刹那のうちに刀を振るい敵の身に血を噴かせ。
「うちはナンパお断りなんで、そろそろお静かにお願いしますよ、っと」
 血腥い娯楽など地球の何処でも看過出来ない。存在感に溢れ過ぎている敵の声と姿をかき消す如く樹は激しい音と光を幾重にも展開し、かの身を冒す。
 とはいえこれで沈む敵では無かろうと、更なる追撃に動ける者を求めて彼は視線を巡らせる──受け止め頷いてくれたのは、見知った蒼雷の担い手だった。
 そうして、ほどなく。かの敵はもの言わぬ骸と化した。


 ──ばかりか、彼が存在した証たる肉体すらも、澄んだ空気に溶け消えて行く。
「ロリコン死すべし、慈悲はない。──あ、たまちゃんは別よ、なんてね」
「俺はロリコンでは無い」
 視線を転じた黒住・舞彩に微笑み掛けられて、その白い額を彼は指で弾く。と、彼女は小さく口を尖らせた。
「そんなにムキにならなくても──」
 続いた言葉は、翠の目を向けられ潰えたが。呆れからとも疲労ゆえともつかぬ息を吐いて陣内は、具合を確かめるかのよう、目線を己が手へ落とした。
 その視界の隅に、林檎の色が映り込む。見遣れば、フードを背へ落としたままのあかりが傍まで戻って来ていた。
「ただいま」
 彼女の小さな笑みは、されど水面の上に瞬く標の如く確かに。蜜色の視線を受けて下ろされた彼の手が、柔らかな体温に包まれた。
「──おかえり」
 一言だけを応え、小さな手を外させる。彼の手に薬草の小束が残された。
「ホントに倒せた……んだね」
 そろりと紡ぐうちに実感が追いついて来たか、言葉を終える頃にはシエラは無邪気な笑顔を見せた。喜びを踊る如く軽やかに弾む体が、この場に華を添える。
「そだね。怪我人は居るけど……」
 それでも全員息をしているし、紛う事無く此処に居る。辺りを見遣った樹がひとまずの安堵を洩らした。そうね、と微笑み頷いてヒメは空を仰ぎ得る位置を探し、その真っ白な姿を陽光に晒す。
「さて、では他の皆にも報せねばね」
「では、僭越ながら私が」
 木々の合間、遮蔽物の少ない地点を見つけて続けた彼女の声に、神崎・晟が応じた。そうして高く一度笛が鳴る。
「後は急いで安全に撤収ですね。帰るまでがお仕事ですゆえ!」
 周辺の様子を窺いながら皆を促すメロウは、手も空いたからと眼鏡拭き二枚同時使いに踏み切っており、レンズの輝きは未だ衰えぬ様子。
「そうだね。皆、忘れものの無きように。──行くよ、クリュ」
「皆様ー、お疲れ様でございましたー」
 別働隊を案じつつ、再度の報せの為に備えつつ。彼らは静かにその場から離脱する。

作者:ヒサ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月21日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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