蟷螂の斧

作者:綾蝶


「またお前等か……ここはオレ達の場所だって何度言えば」
「こないだあんなに痛い目に遭わせてやったのに、まだ分かんないの」

 かすみがうら市。町外れにある古びた公園。
 高校生のグループが、先に公園でバスケットボールをしていた中学生達に因縁をつけてきていた。彼等が午後6時を回るとやってくるから、それまでしか、この公園は使えないのだと暴力付きで教えて貰ったのはつい1週間前のこと。彼等はこのグループ以外にも、公園でたむろしている連中をしょっちゅう暴力で追い払っていると聞いた。
「……すみません、行こう……か」
 ボールを握り、仕方なく中学生達は退散しようとする。
 悔しいけれど。ムカつくけれど。
 理不尽さを堪えて、立ち去ろうとする彼等の後ろで大きな声がした。

「なんでお前等に公園譲らないといけないの」

「はぁ? 今何つった?」
 高校生達が大声で言う。
 誰が言ったのかと中学生達も慌てて振り返る。そこにはやはり中学生くらいの見たことのない少年がいた。
 近くの学校の制服だ。だが、彼の特殊な姿に、中学生も高校生も唖然とする。
 少年の体には、全身に植物の蔓が取り巻いていた。
 茨のような棘のある蔓を全身に這わせ、また両肩からは大きく2本、彼の身長よりも高く伸びた蔓がある。

「お前達なんか、もう怖くないんだからなっ!」

 少年が叫ぶ。するとその肩から伸びた蔓がしゅるしゅると音を立てて伸び、高校生達に絡みついていく。悲鳴を上げ逃げようとする彼等をあっという間に取り込むと、蔓は力強く締め上げ、彼等を瞬く間に殺してしまった。
「ひいいい」
 一瞬のことで呆然としていた中学生達は目前の光景に驚き、そして怯え、走り出す。
「化け物だあああ」
「逃げろおお」
「……誰が化け物だって?」
 高校生グループを片づけた少年は、傷ついた目を見知らぬ彼等に向け、次いで中学生達にも襲いかかった。
 静かな公園が、少年達の血で瞬く間に染まっていった……。
 

「まずはお集まりいただいてありがとうございます」
 ヘリオライダーのセリカ・リュミエールは、集まったケルベロス達に一礼してから、事件について話し始めた。
「茨城県のかすみがうら市で、またもや攻性植物の活動が判明しました。皆様に、一刻も早く退治して頂きたいと召集させて頂いたのです」
 この街では最近、若者グループ同士の抗争事件が多発しているという。
 今回の事件も発端は一つの溜まり場を巡る、些細ないざこざであった。
 しかし酷い暴力で追い払われ続けた中学生の一人が、それを恨んで、高校生グループに復讐するために攻性植物の果実を体内に受け入れて異形化してしまったというのだから、もはやケルベロスが出て行くしか解決する方法は無い、という訳だ。
「彼の名前は、折橋シュン君、と言います。公園の近くに住んでいます。彼は体が小さくてひ弱で、内気な性格で友達も少なく、両親が共働きで帰りが遅いので、よくその公園で一人で本を読んだりして過ごしていたようです。しかし高校生グループがそこに集まるようになってからは、毎日のように殴られたり蹴られたりして、公園から追い払われ、酷く恨むようになったそうです。しかし、今の彼は高校生グループをやっつけるだけではおさまらず、自分の強さを色んな人に見せつけたいと考えているようです」
 もう卑小な自分ではない。
 もう苛められるだけの自分ではない。
 強さを手に入れた彼は、もし放置すれば今後、多くの人を見境なく襲い、殺していくことになるだろう。
「彼の攻撃は、蔓を使って相手を絞め殺したり、蔓の先に付いているツボミのような部分が開いて喰らいつき毒を注入したり、全身の蔓に小花を咲かせてそこから光線を発する攻撃が予想されています」
 セリカはそこまで一気に話し、小さく息を吐いた。
「残念ですがシュン君をもう救出することは出来ません。私たちに出来ることは一刻も早く彼を討伐し、彼が起こす悲劇を未然に防ぐことです。どうか皆様方、力を貸してください」


参加者
東雲・海月(デイドリーマー・e00544)
シエナ・ジャルディニエ(小さな庭師人形・e00858)
松葉瀬・丈志(紅塵の疾風・e01374)
太田・千枝(七重八重花は咲けども山吹の・e01868)
切広・光(火車・e04498)
パーカー・ロクスリー(浸透者・e11155)
噛城・アギト(悪食・e11927)
白嶺・雪兎(禁呪使いの我流霊剣士・e14308)

■リプレイ

●変貌した少年
 夕暮れの時間を迎えた街。その外れにある小さな公園。
 普段は人気のあまり無い静かな場所だ。平和な日常が続いていれば、そこはとても落ち着く場所であったに違いない。
 だが、その瞬間、公園は恐怖の舞台と変貌しようとしていた。

「うわああ」 
 ソレに気づいた高校生の少年が、悲鳴を上げた。
 それはもはや人の姿をしてはいるものの、人とは言い切れぬ異形の姿。植物を全身に纏わりつかせた少年。
「……お前達なんかもう……怖くないんだから」
 ソレは口元に笑みさえ浮かべ、ゆっくりと高校生達へと近づく。
 高校生達はじりじりと後退しつつ、しかし息を殺してソレを見つめていた。 
 その時だ。
「さっさと行け! 逃げろ!」
 噛城・アギト(悪食・e11927)が高校生とソレの間に入って叫んだ。一人ではない、続けて幾人もの影が彼らの間を割いて立つ。
「なんだ……あんたら」
 高校生の一人が疑問を口にする。
 彼らの中には二人、とても強い殺気を放つ者がいて、とても強気な発言は出来そうにない。高校生達は気弱そうな眼差しを仲間と向けあった。
 太田・千枝(七重八重花は咲けども山吹の・e01868)が、穏やかそうな見た目からは想像できない厳しい声で彼らに叫んだ。
「話は後! 死にたくなければ全力で此処から離れなさい!」
 更に、高校生達の様子を息を飲んで見ていたもう一つの集団、中学生達にも彼らの中から声が飛ぶ。
「お前等もさっさと逃げるんだ!」
 叫びつつ、パーカー・ロクスリー(浸透者・e11155)は様子を見ているもう一つの存在、ソレを見やった。攻性植物に完全に乗っ取られている少年の姿だ。
「……邪魔をしないで」
 少年は狂気を宿した目でケルベロス達を見回し、それから彼ら越しに、のろのろ怯えながら逃げだそうとしている高校生達の姿を見つけ、そちらに身を向けようとした。
 咄嗟に切広・光(火車・e04498)が斬霊刀を引き抜き、彼の目前に翳す。
「あんな雑魚より私達と殺し合う方が楽しいぞ?」
 挑戦的に見上げる意地の悪そうな顔に、彼は目つきを険しくしたが、それでも高校生達の方が気になるらしい。強引に逃げていく集団の方へと視線を移し、動き出す。
「やめろ!」
 松葉瀬・丈志(紅塵の疾風・e01374)と、東雲・海月(デイドリーマー・e00544)が、すぐに少年の前に身を挺する様に立ち塞がる。
「彼らじゃなくって、僕達がお相手するよ?」
「……アイツラを放っておくと、また誰かが……」
 少年は小さくブツブツ言う。少年の両肩から高く生えた植物の蔓がさらに長く伸びて、高校生の方に向かう。
「うわああああ!!」
「!」
 高校生達の身を守ろうとシエナ・ジャルディニエ(小さな庭師人形・e00858)がボクスドラゴンのラジンと共に間に入る。
 と同時に、光がハウリングを叫び、パーカーが手のひらの中のスイッチを強く握りしめた。爆発音が轟き、少年の身がよろけて倒れる。
「命が惜しければ、全力で走れ!」
 丈志が叫び、続けて白嶺・雪兎(禁呪使いの我流霊剣士・e14308)も声を荒げる。
「ここから離れたところで待っていなさい! 後で話があります!」
「……!」
 顔面蒼白、よろけ足で高校生達がフラフラ公園から出ていくのを、シエナはラジンに追わせた。足がもつれ走れなくなった若者も追ってくるラジンの姿に驚き慌てて駆け出していく。
 公園内を見渡し、他の一般人がいないことを確認し、また中高生が公園内から退散したことを確認し、安堵したのも束の間。
「よくも……邪魔をしてくれたね」
 植物に身を包んだ少年が、憎々しげにケルベロス達を睨みつけていた。
●戦闘
「ねぇ、キミが今やってる事って、大嫌いな彼らのやっていた事と同じだって、気が付いてる?」
 対峙する敵に、海月は挑発めいた口調で声をかける。
「何が同じ?」
 少年は冷たい目を向け、低い声で返す。
「僕はあいつらとは違う。連まなくても一人で、なんでもできるし……、一人で全部、殺せる。……そう、あんたらもね」
「ほう」
 敵に向けて翳していた斬霊刀をゆるりと構え直し、光が薄笑みで問う。「アンタの嫌いな奴は逃げたわけだが、まだ続ける気か?」
「……僕が嫌いなのは、僕を邪魔する奴だ!」
 少年の両肩の蔓が素早く動き、海月と光を狙う。
 剛力で絡みつく太い蔓に押されて、二人の姿が一瞬視界から消える。
「くそ!」
 苦しげに叫び、ガトリングガンを構える丈志。
「その蔦や葉、燃やさせてもらう」
 爆炎を吐きながら大量の弾丸が敵に向かって放たれる。もうもうと上がる煙の向こうで、炎を付与された少年が顔をしかめた。
「……痛い……熱い……なんで」
「Arretez-le! 感情のままに暴れたら、あなたもそこの高校生と同じになっちゃうの」
 少年を諭すようにシエナが問いかける。
 まだ幼い彼女の身には、少年と同じく攻性植物が纏いついている。
 しかし一目見るだけで、彼女と少年の違いは明らかだった。
 使いこなす才能のある者、デウスエクスの力に飲み込まれた弱き者。
 シエナは攻性植物を自由に操り、黄金色の果実を実らせると、仲間達にその光を届ける。
 少年はその一連の行動を見つめ、驚きの表情を浮かべた。
「シュン! なんで助けを求めなかった!」
 アギトが叫ぶ。
「お前の周りにいた奴に何か頼めなかったのかよ」
「……助けなんか……」
 少年は声を震わす。
「僕はずっと一人で……誰も助けてくれる人なんか……」
 逡巡を浮かべる敵を前に。
 誰もが目前のこの少年を終わらせてしまうことに躊躇う気持ちを持つことに気づきながら。
「……シュン様」
 雪兎は覚悟を決めて、一歩、前に歩み出した。
「恨むのなら、私を存分に恨みなさい。……私は貴方を斬ります!」
「!」
 仲間からも浴びせられる一瞬の視線を振り切り、彼は懐の刀を柄を握りしめながら詠唱する。
「ここは無慈悲なる処刑場。紫電を集え。銀閃よ煌めけ。我は絶対なる斬首の執行者。故に我が刃は神すらも逃れること能わず。切り裂け!」
 刹那、神速の抜刀術が炸裂する。電磁加速された刃の鋭く深い攻撃が二度、植物を纏う少年の身を切り裂く。激しく身を抉られ、鮮血が辺りに飛び散った。
「嘘……痛い……」
 傷を押さえ、呻く少年。だがその瞳に、みるみる怒りの色が浮かんでいく。
「なんで……なんで」
 体を包む蔓に次々と小さな蕾がついていく。
「なんで……いつも」
 叫びと共にその蕾が一斉に、激しく閃光して花開く。
 閃光はケルベロス達の身を焼き焦がす。身を庇う彼らの姿を見て、少年は残酷げな笑みを浮かべて立ち上がった。
「全員、殺してやる!!」
「それでいいさ」
 傷を受けた肩を押さえ、パーカーが苦笑めいた笑みを浮かべる。
「その力、存分に振るってみたいだろう? 俺達のほうが楽しいと思うぜ」
 千枝に護殻装殻術をかけてもらった光もダメージをこらえて立ち上がり、彼に言い放つ。
「勝ちたいなら、かかってこい!」
「!!」
 少年は唇を噛み、二人に向かって蔓を伸ばす。太い蔓の先は大きく二つに裂け、毒を放つ花弁が真っ赤な口を開いている。
 けれど、その攻撃の手が彼らに届くより前に。
 パーカーは爆破スイッチを起動する。少年の脇腹がぼんと大きな音をたて破裂した。次いで、光も刀を構えた位置から詠唱する。
「私に……黙って切られてくれるよな?」
 車輪の形をした炎が次々と現れ、敵の周りを囲い込む。
「なにこれ……」
 脇腹を押さえた少年が気弱げに言うのを彼は堪え、真っ正面から刀を振り下ろす。炎と共に深く抉られ、彼はついに膝をついた。
「……痛い……痛いよ」
 人であればもはや生きてはいられぬ程の傷を負いながらも、彼はまだ生きていた。そして、悔しげな表情を浮かべ、再びケルベロス達に襲いかかる。
「うわああああああ!!!」
「……!!」
 ケルベロス達にとってもはや出来ることは僅かなことだけだった。
 彼の苦痛を取り除き、安らげるたった一つの方法。
 アギトは歯を喰いしばり、ルーンアックスをその細身の体に叩き込もうとする。だが強い蔓に弾かれ、後退するところを、海月がその蔦にまたがるようにして光を放つゾディアックソードを叩き込む。
 耳を覆いたくなる悲鳴を響かせ、それでも立ち上がろうとする敵。
「……ヴィオロンテ」
 シエナは自らに纏う攻性植物に呼びかける。植物はそれに反応するように大きく伸びて、敵の体に絡みついて捕縛する。
「うあ、うあ、うああああ」
 もはや絶叫しかせぬ哀れな姿に、回復手として動いていた千枝も思わず顔をそむけた。
 早く終わらせなければ。
 捕縛された敵の懐へ飛び込むようにして、雪兎がシャドウリッパーを放つ。鮮血が辺りに飛び散るその下で、丈志は静かにリボルバー銃の銃口を彼に向けた。
「せめて安らかに、な」
 響く銃声。額を打ち抜かれ、少年は本来の姿を取り戻しながら、ゆっくりと地面へと落ちていった。

●葬送曲
 空はいつか紅く紅く染まっていた。
 ヒューヒューと浅い息を繰り返す少年の周りに、敵であったはずの彼らが集まってくる。
「Testament……何か言い残したいことはありませんか?」
 シエナは優しく彼に呼びかけた。
 少年は首を横に振る。しかしすぐに、そうか、と唇を動かした。
「あなた……達、ケルベロス……だった……んだね」
 だから、と何か言おうとして、少年はゴホゴホと血を吐く咳をした。
「そうだ」
 パーカーは頷き、少年の前髪をなでた。
「力は楽しめたか? そんな良いものじゃないだろう」
「……う、ん。でも……」
 何か彼は答えようとしたように見えた。だが、それ以上語ることは無かった。吐き出す言葉を口に含んだまま、瞳の色はついえた。
「くそっ!!」
 アギトが叫ぶ。後味の悪い思いに苛まれている。
 亡骸に向けて大きな声で光が叫ぶように告げた。
「お主のの勝ちたいという人一倍の思い、その執念は誇っていいぞ。……誠にお主は強敵であった!」
 刀を鞘に戻し、彼は亡骸に背を向け、それからは黙って空を見上げた。
「Toutes mes excuses……ごめんなさい……」
 シエナはシュンの両手を腹の上で重ねながら囁く。そして、彼が身につけていたペンダントと、それから地面に黒こげになって落ちていた攻性植物の欠片を拾い上げた。
「まだ、やることは残っています」
 無口になるメンバーを見回し、雪兎が静かに告げる。
 振り返る彼の視線の先、公園の入り口からこちらを恐る恐る眺めている一段の姿が見えた。

●やるせなさの矛先
「マジでアイツ、死んだのかよ」
「信じらんねぇ」
 高校生達は事の成り行きを聞かされ、互いに顔をしかめあった。
 だが本当に解っているのか微妙にも見えるその様子に雪兎は、更なる怒りを覚えずにいられなかった。
「君達に全ての責任があるわけではない。しかし、原因を生んだのは自分たちの行いにあると知れ。そして、二度とそれを忘れるな」
 殺界形成と同じ威力の殺気の元、厳しい言葉を向けられ、高校生達は流石におとなしくなる。
「……悪かったよ。……二度としない」
「ごめんなさい」
 反省の言葉を口にする彼らに、パーカーは苦笑を浮かべて、更に告げる。
「力で追い出したお前たちは、その相手に力で潰されようとしていたんだ。……これはお前たちが招いた事件だ」
 そして少年の遺体がある方を指さし、重い口調で続ける。
「そして力を求めるとああいう事になる」
「……」
 黙り込む高校生達。死を見せつけられ、彼らにも思うものがあったらしい。
「よく考えるんだな」
 こちらも重い息をつき、パーカーは側にいた丈志を見つめた。
 彼はただ頷き返し、同じく深い息を吐いた。

 シュンの両親が、警察からの連絡で急ぎ駆けつけてきたのは、それから暫くのことだった。
 彼の死について説明をしたいと名乗り出たのは千枝だった。
 関係のない者から聞くよりも、当事者である自分達の口からそれを伝えたい。
 必死の思いがそこにあった。
「……シュン君は攻性植物に憑依されていました。このままでは見境なく人に危害を加える可能性があり、こうするしか無かったのです」
「……本当に?」
 子供を失った母は、千枝に食いかかった。
「あの子は誰かを殺したんですか? 怪我させたんですか? 何もしていないのになんで、なんで」
「……それは」
 千枝が説明に詰まったその時、後ろで聞いていたアギトが我慢ならないというように前に歩み出た。
「あんたらはなんでシュンがこんな事になったのか、本当に知らねぇのか?」
「どういう意味です!」
 憤る母親に、アギトは我慢していたものを吐き出すように一気にまくしたてた。
 あの公園でシュンが苦しめられていた事。こうなる前に助けられたかもしれない事。どうして解ってやらなかったのか、という事。
 激しい勢いで叫ぶ彼に、千枝は背中から抱きついて叫んだ。
「やめて!! やめてください!!」
 真実を知り茫然としている両親に、千枝はかぶりを振り、涙を零しながら謝った。
「私も両親をデウスエクスに殺されました……。これは……だから……誰が悪いとか、そういうことではなく……」
 永久に家族を失う辛さ。それをよく知っているから。
 やりきれない後悔を抱えて生きていくことの悲しみを実感しているから。だから。彼らに同じ思いを抱いて欲しくなくて。
 誰かを恨んでもいい。憎んでもいい。
 でも自分達を責めながら生きていくのは、それはとても辛いことだから。
「ありがとう……」
 黙って聞いていた父親は、涙を浮かべたまま、アギトと千枝に深く頭を下げた。
「以前、あの子が言っていた。……ケルベロスになりたいと。……ずっと強くなりたがってたから」
 泣き崩れる母親の背を支え、彼は苦しげに笑った。
「誰かを傷つける前に、憧れの、ケルベロスに止めて、もらって、きっと、嬉し、かったと、思い、ます」
 だから、ありがとう、と。
 彼らは深々と二人に頭を下げた。

 海月は一人、公園に立っていた。
 公園で壊れたものを探して、ヒールをかけていた。
 それは攻性植物や味方のグラビティで破壊されたものもあったけれど、そうでなくて壊れたものもあったかもしれない。
 それもみんなみんな含めてヒールをかけていた。
 少年の大切にしていた場所が、それで少しは癒されるような気がして。 公園の隅ではシエナが墓を作っている。
 攻性植物を弔うのだという。
 彼女にとってはそれが大切なことなのだろう。
 別な場所では光がずっと空を眺めていた。
 見上げれば、たくさんの星が暗い空を飾っていて。
 まるで何かを語りかけてくるようだと、海月は思った。

作者:綾蝶 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年10月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 8
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