不倖せの紅い鳥

作者:犬塚ひなこ

●赤き鳥と死の歌
 幸せを呼ぶとされるのは、美しい声で鳴く青い鳥。
 では、その反対は?
 不幸せを呼ぶのは血のように赤い鳥。青い鳥の逸話では倖せは身近にあるものだけれど、赤い鳥の招く不幸は全く逆。
 周囲がどれだけ幸せであっても、遠くから数々の不幸を呼び寄せる。
 赤い鳥に魅入られた者はどんなに逃げても不幸せと、そして『死』から逃げられない。
 あの森で掠れた鴉の声のような囀り聲が聞こえたら気を付けて。
 それこそが、血色の羽を持つ『不倖せの紅い鳥』の鳴き声だから――。

 そのような或る噂を信じた少女は今、森の奥へと向かっていた。
「不幸の鳥ね……ふふ、私の使い魔にぴったりだわ!」
 黒いローブを着込んだ彼女は現在、黒魔術に傾倒している。とはいってもただの一般人である少女は魔法など使えず、いわばただの黒魔術的なごっこ遊びのようなもの。だが、少女はかなり本気だった。
「紅い鳥を捕まえたら肩に乗せて……うんうん、格好いいわ。絶対に見つけなきゃ」
 不幸を呼ぶという噂も恐れずに少女は探索を続ける。
 しかし、噂は噂。いつまで経っても例の声は聞こえず、聞こえたと思ったら鴉だった。それでも諦めきれない少女が更に奥へと踏み出そうとしたそのとき。
 突如としてその胸元に大きな鍵が突き刺さり、聞き慣れれぬ声が辺りに響いた。
「――私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」

●不幸を呼ぶ聲
 そして、少女は『興味』を奪われて意識を失う。
 その場にはお約束通りに興味から具現化したドリームイーターが現れたのだと語り、橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)は肩を竦めた。
「不幸せの赤い鳥の噂の興味を魔女に奪われる事件が発生したわ。皆、協力してくれる?」
 集まった仲間達に確認の視線を向け、芍薬は詳しい話を説明しはじめる。
 現場は或る街の近くにある森の中。
 事件を起こした魔女は既に去っているが、その周辺には生み出されたドリームイーターが彷徨っている。
「夢喰いは赤い鳥の姿をしているらしいわね。でも、小鳥のような愛らしいものではなくて禍々しい見た目になっているそうよ。例えるなら火の鳥かしら」
 敵は大きさも一メートル弱はある。
 不幸を呼び、見た者に死を与えるという敵の攻撃方法はなかなかに厄介だ。
 掠れた声で麻痺を起こす攻撃をはじめとして、翼を広げて炎の風を呼ぶ攻撃や鋭い嘴で強力な一閃を見舞ってくる。
 だが、芍薬は心配ないと首を振った。
「皆が協力すれば勝てない相手ではないわ。私も抜かりなく行くつもりよ」
 戦闘面はそれでいいが問題は敵の誘き寄せだ。
 ヘリオライダーの予知では夢喰いがどの位置にいるかはわかっておらず、現場に向かった者で引き寄せる必要がある。
「ドリームイーターは自分の事を信じていたり噂している人が居ると近付いてくるそうよ」
 今回であれば不幸せの赤い鳥について話していればいい。
 うまく誘き出せば有利に戦えるかもしれないと告げ、芍薬は説明を終えた。
「幸せじゃなくて不幸の赤い鳥。確かに興味を引かれるものではあるわ。でも、それがドリームイーターなら放っておけないわね」
 だからこそ、自分達の手で解決してみせよう。
 そう語るような芍薬の橙色の瞳は仲間達へと真っ直ぐに向けられていた。


参加者
メロゥ・イシュヴァラリア(宵歩きのシュガーレディ・e00551)
疎影・ヒコ(吉兆の百花魁・e00998)
橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)
アルケミア・シェロウ(トリックギャング・e02488)
阿守・真尋(アンビギュアス・e03410)
蓮水・志苑(六出花・e14436)
クララ・リンドヴァル(鉄錆魔女・e18856)
リノン・パナケイア(保健室の先生・e25486)

■リプレイ

●倖せの反対
 青と赤。幸せと不幸。
 相反する色と意味を持つそれらに宿ったのは純粋なる興味。木陰が揺らめく森の中には今、興味から生み出された怪物が彷徨っている。
「不倖せの紅い鳥……ねぇ」
 疎影・ヒコ(吉兆の百花魁・e00998)は軽く肩を竦め、件の存在を思った。
 赤は血の色、不浄の色などと云われたりもするが、古くから祝い事に用いられることの方が多い。どうして捻くれちまったんかね、とヒコが口にすると阿守・真尋(アンビギュアス・e03410)も首を傾げた。
「幸せの青い鳥の反対……何処から噂が広まったのか分からないけれど、全く、洒落た事を思い付く人もいるのね」
「紅い鳥と聞くと綺麗で鮮やかな姿を想像しますが…」
 蓮水・志苑(六出花・e14436)は頷き、考える。
 倖せと不倖せはどちらも身近に存在するもの。かの赤い鳥はどのような不倖せを齎すのだろうかと志苑が呟くと、アルケミア・シェロウ(トリックギャング・e02488)が可笑しそうに笑った。
「赤い鳥、ねぇ。いいじゃんいいじゃん! かっこいいと思うよ」
 それとは対照的にクララ・リンドヴァル(鉄錆魔女・e18856)は静かに口をひらく。
「……童話の青い鳥は捕獲対象です。それよりは生存が期待できる存在である事は想像に難くなく、現に噂もあるのですから――」
 きっと今この瞬間にも醜く捻じ曲がった木の上から油断なく我々を見下ろしているとクララは頭上を見上げた。同様に橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)も皆に倣って敵を誘き寄せる為の噂話を続ける。
「結局のところ自分達の最も手近な部屋の鳥かごにいましたってのが幸せの青い鳥だけど、じゃあ不幸せの赤い鳥はどこにいるのかしらね」
 幸せも不幸せも、結局は本人次第。クララの言う通り、赤い鳥も手近な所にいるのかも、と芍薬は辺りを見渡す。
 木々がざわめき、不穏な空気が森に満ちてゆく気がした。
 リノン・パナケイア(保健室の先生・e25486)は敵が近くにいると感じながら、夢主の少女について思いを馳せる。
「不幸を呼ぶ、か。確かに不幸だったかもしれん」
 ドリームイーターに遭ってしまったのだから、とリノンが口にすると真尋の隣に待機していたライドキャリバーのダジリタが激しい駆動音を響かせた。
 それと同時に芍薬のテレビウム、九十九が凶器を構える。
 ヒコは一度だけ息を吐き、近くの茂みに合図を送った。それを受けたメロゥ・イシュヴァラリア(宵歩きのシュガーレディ・e00551)が物陰から姿を現す最中、ヒコは木々の合間を見据えて問いかける。
「して、だ。どんな不幸を招くと云ったか。死か? 破滅か?」
 吉凶を視る占師としては興味深い。そう語った彼の視線の先には、血のように赤い炎めいた力を纏う巨鳥がいた。
 メロゥは身構え、今にも此方に襲い掛かって来そうな夢喰いを瞳に映す。
「不倖せを呼ぶ鳥なんて必要ないわ」
 ――その羽根を折って、這い蹲らせてあげましょう。
 少女の凛とした声が森に響いた刹那、戦いの火蓋が切られた。

●不幸の翼
 此方を威嚇するように赤い鳥が翼を広げる。
 それと同時に狐面を被ったアルケミアが片手を掲げ、紙兵を散布した。
「危害を加えるつもりなら容赦はしない――血に塗れ、紅く染めてあげるよッ」
 面の下から見据える紅い瞳には敵の姿がしかと映されている。クララはアルケミアからの力の加護を受けながら、手にした刃の柄を握った。
「不変のリンドヴァル、参ります……」
 静かな声と共に、居合の体勢から放たれたのは月光を描く斬撃。
 手応えを感じたクララはすぐさま身を引く。其処へリノンが轟竜の砲撃を放ち、メロゥが古代語魔法を紡いだ。
 ふたつの衝撃が夢喰いを貫き、紅い羽が揺らめく。
「……なるほど、炎の鳥だわ」
 燃え盛るような赤だと称したメロゥは視線を横に向け、お願い、とヒコに願った。その声を受けたヒコは地面を蹴り、近くの樹を駆け登る。
 其処からひといきに跳躍したヒコが繰り出すのは流星の軌跡を描く蹴撃だ。
「不倖せを探すなんて、な」
 吉凶を視ることを生業とする以上、倖せや不倖せには如何しても興味が向く。件の少女に云い得ぬ若さを感じつつも、ヒコは彼女を救う決意を静かに固めた。
 次の瞬間、敵の炎翼が激しく動く。
 燃え猛る一閃がリノンに向けられたと察した真尋はダジリタに仲間を守るよう命じた。主の声に呼応して走るライドキャリバーに信頼を寄せ、真尋自身は攻勢に入る。
「容赦なく行かせてもらうわ」
 ダジリタがリノンへの一撃を肩代わりする中、真尋は超鋼拳を振るった。
 鋭い衝撃が赤い鳥を貫き、僅かにその身を揺らがせる。赤々とした体躯を見つめた芍薬はふといつかの仕事を思い出していた。
「いつだったか、青い鳥のビルシャナと戦ったわね」
 その正反対のような赤さに目を細め、薄く笑った芍薬は九十九に呼び掛ける。
 行くわよ、と紡がれた彼女の声と同時にテレビウムが凶器を振り下ろした。続けて芍薬の放ったヘッドショットが敵を貫き、連撃となる。
 志苑も精神を極限まで集中させ、武力を奪うべく攻撃を仕掛けた。
 人はいつも何かの力を頼り、倖を欲し、誰かの不倖せを願うもの。そして、良き力を持つ物に願いを託す。
「それが心の支えになるのなら悪い事とは一概には言えませんが……」
 首を横に振った志苑は不幸の化身とも呼べる敵から目を逸らさなかった。リノンも追撃を加えようと決め、バスターライフルを構えた。
 幸福の青い鳥がいるのであれば、その反対の存在も無くはないだろう。
「もし存在するのなら見てみたくはあるな」
 己の興味を口にしたリノンが引鉄をひく。刹那、魔法光線が戦場に躍った。
 赤い鳥は苦しげな声をあげたが、即座に反撃として耳障りな囀りを響かせる。意識を遠のかせるような響きにクララは一瞬だけよろめいたが、再び剣の柄に手をかけた。
「……お返しです」
 達人の域に達するほどの一撃が空気ごと敵を斬り裂く。
 クララの見事な一閃が敵の力をかなり殺いだと感じ、芍薬は良い調子だと頷いた。そうして、芍薬は痛みを受けた仲間を癒してゆく。
「九十九、援護して」
 芍薬は足りぬ分の回復を相棒に願い、美しく舞うかのように地を蹴る。仲間を癒やす花のオーラがふわりと踊り、戦場に淡い色を宿した。
 だが、それに対抗するように赤い鳥も翼を広げる。
「確かにこりゃ不倖せを呼んでもおかしかない見目だな」
 その禍々しい雰囲気を感じ取ったヒコは挑発的に片目を眇め、魔斧を握る手に力を込めた。一件は軽い調子に見えても彼の裡は冷静そのもの。
 しかと急所を見極めたヒコは翼の根元を狙い、一気に刃を振り下ろした。
 アルケミアもチャンスを見出し、ブラックスライムを纏わせた腕を真っ直ぐに差し向ける。行くよッ、と威勢よく紡がれた言葉と同時に黒き衝撃が敵を包み込む。
 だが、それを振り払った赤い鳥は甲高く鳴いた。
「とても好戦的な色ね。手加減が利かなくなっちゃうわ」
 メロゥはその声と敵の姿を一瞥し、小さく笑う。そして、狙いを定めたメロゥは時空を凍結させる弾丸を放った。
 敵の動きが鈍った瞬間を逃さず、志苑は敵の側面に駆ける。
 次は防御を削ぐ為、雷刃を振り下ろした志苑は不意に疑問を落とした。
「鳥を求めた少女は……自身が不幸せになっても構わなかったのでしょうか」
「どうだろうな。其処までは考えていなかったか、或いは……」
 するとリノンが答える。想像するしかないが、少女には少女の考えや思いがあったのかもしれない。無論、ただ憧れただけでその先を考えていなかった可能性もあるが。
 兎も角、今は目の前の存在を屠るだけ。
 改めて視線を敵に向けたリノンは戦いへと全神経を集中させた。
 其処から戦いは続き、何度も攻防が巡る。アルケミアがナイフで敵の翼を斬り裂けば、リノンが電光石火の蹴りで追撃に走った。芍薬達は仲間の援護に回り、クララや志苑は確実に相手の力を削ってゆく。
 ヒコとメロゥも協力し、連携を重ねながら着実に敵を弱らせていった。
 されど夢喰いからの攻撃も激しく、真尋とダジリタは仲間を庇い続けた。そうして、真尋は傷を癒す為に癒しの歌を響かせる。
「知っているかしら。闇に一番近い色は、青なのだそうよ」
 静かな微笑みを湛えた真尋は歌声を青いオーラに乗せてゆく。その声は戦いを飾る旋律となり、森の中に広がっていった。
 間もなく戦いは大詰めになる。そんな予感を満ちさせながら――。

●緋色の炎
 燃え盛るような翼も今や傷だらけ。
 鋭く響いていた鳴き声も何処か弱々しく、夢喰いの消耗を窺わせる。芍薬は勝機を感じ、ヒコもまた自分達が負ける要素はないと感じていた。
 それでも放たれる一閃は激しく、番犬達の体力を削ろうと狙っている。
 しかし、メロゥの眼差しは強く前に向けられていた。
「不幸は要らない。そんなもの、誰も望まないもの。――そうでしょう?」
 語り掛けるようなメロゥの声が赤い鳥に向けられる。
 指先を天に向けたメロゥは星のちいさな煌めきを戦場に降らせた。その光は穏やかに、ひどく傷ついた真尋の身を癒してゆく。
 ありがとう、と返された言葉にメロゥは双眸を細める。今よ、と告げる瞳に応えた志苑は確りと身構えた。
「もう血というよりまるで炎の鳥のよう――」
 綺麗だと感じた志苑だったが、それは口には出さない。
 夢喰いは人の願いなど関係なく、命を奪ってしまう存在。ここで止めるという気持ちを抱き、志苑は舞う雪花と共に剣圧で結晶を貫く。咲くように爆ぜたそれは敵を斬り裂き、眼前を白く染めあげた。
 その彩が朱に染まった刹那、歪んだ囀りが戦場に響く。
 敵の動きに気付いたアルケミアは逃すまいと地面を蹴り、背後に回り込んだ。
「まさか、まさかとは思うけど逃げられるなんて思ってないよねぇ?」
 噂に釣られたお前が悪いんだよ、と何処か冷酷に告げたアルケミア。あはは、と笑う声が落とされたと思った瞬間、嗤う影が敵を貫いた。
「畳みかけていきましょうか」
 其処に機を見出した真尋はダジリタを従え、達人の一撃を放つ。それに合わせて九十九が閃光を放ち敵を惑わせた。
 リノンも無言のまま同意を示し、狙いを定めていく。
「……狙え」
 たった一言、それでいて確実に命じられた言葉に呼応する形で魔物のシルエットが浮かびあがる。刹那の内に黒い影が赤い鳥を包み込み、痛みを与えた。
 クララはその姿を見据え、ぱちんと指を鳴らす。
「……。凶鳥、堕つべし」
 それと同時に荷台、もとい蹂躙の駄馬が現れて様々な魔力と衝撃を巻き起こしながら敵に突撃していった。
 重い攻撃を続けて受けた赤い鳥は最早、満足に動くことも出来ないだろう。志苑は敵の終わりが近付いていると察し、その姿を見守る。アルケミアやリノン、真尋もあと僅かで赤い鳥が倒れると悟った。
「その羽根、もう折れちゃったかしら」
 メロゥは言った通りになったでしょ、と敵を見遣り、仲間達に夢喰いに最期を齎して欲しいと告げた。ヒコは承諾の意思を示し、己の翼をはためかせる。
「さぁて、そろそろお前も『倖せに』眠る時間だぜ」
 次に現れる時には倖せの赤い鳥になっているといい。
 叶わぬと知っていながらも心でそう願い、ヒコは辻風を起こした。跳躍と飛翔からの蹴撃はまるで綻んだ梅花が舞う春風のよう。
 甘い薫りが漂うような一閃に続き、芍薬は拳を強く握った。
 既に熱エネルギーの充填率は最高潮。芍薬は手に集中させた力を解放すべく、一瞬で敵との距離を詰めた。
「綺麗さっぱり火葬してあげるから、夢は夢に還りなさい――!」
 掌の放出口から赤い鳥に激しい熱が送り込まれる。その瞬間、芍薬の手は眼前の敵が宿す色よりも赤く、激しく輝いた。
 そして――赤熱した力は敵を焼き尽くし、戦う力をすべて奪い取った。

●赤と紅
 地面に血色の炎を撒き散らしながら夢喰いは伏す。
 一瞬後には赤い光と共にその身が明滅し、跡形もなく消えてしまった。真尋は敵が消滅したことを確認した後、ダジリタのシートをそっと撫でる。
 戦いが終わったと感じた志苑は緩やかに目を細め、皆に微笑みを向けた。
「不倖はいけませんね。それが他人の不倖せを願うなら尚のこと」
 死という不幸が広がらずに済んで良かったと志苑が安堵すると、真尋も頷いた。そうして仲間達は夢主となった少女のもとへ向かう。
 クララは長手袋を脱ぎ、戦場にふわりと落とした後に倒れている少女を見遣った。
「……まぁ、可愛らしい。さしずめ現代の半成魔女といった所でしょうか」
 くすくすと笑う声に反応した少女は目を覚まし、きょとんとした表情を浮かべる。
「ん、んん……あれ、私……」
 少女の傍についたメロゥと芍薬は軽く事情を説明してやった。
「身体はつらくない? ……怖かったでしょう、もう大丈夫よ」
「災難だったわね、デウスエクスに襲われたのよあんた。ま、今回は特にケガも無くて良かったじゃない」
 二人の話を聞いた少女は複雑そうに俯き、小さく「ごめんなさい」と告げる。リノンとヒコは彼女が二度と危ない目に遭わぬよう其々に注意を促した。
「夢があることはいいことだが、人気のない場所はあまり良くはない」
「これに懲りてもうちっとマシなもんを探す事だな」
「……はい」
 俯いたままではあるが少女はしっかりと反省しているようだ。アルケミアは手を差し伸べ、少女に笑いかける。
「今夜は魔法、一夜の夢物語さ。さ、日常に帰ろうか」
「不幸せなんて探さなくても、割と向こうからやってくるんだしね」
 芍薬も自分なりの慰めを告げるが、大丈夫だから、とアルケミアの手を取らなかった少女はどうやら落ち込んでいる様子。メロゥはそのことを察し、そっと微笑んだ。
「メロも魔法は好きよ。だからあなたの気持ち、よくわかるの」
 魔法には夢がある。きっとつまらない日常を彩ってくれると少女は感じていたのだろう。でも、とメロゥはやさしく告げる。
「女の子がひとりでこんなところに来るなんて、危ないのよ。もう魔法の研究ができなくなるのは事だもの」
 冗談交じりではあるがその言葉には説得力があった。
「そう……そうよね! ありがとう、皆さん!」
 其処で漸く少女にも笑顔が宿り、一行は改めての安堵を覚える。
 やがて仲間達は彼女と一緒に森の出口へと向かった。クララは事が上手く終わったと感じながら振り返り、木々の向こうを静かに眺める。
 そして、或る詩を言葉にした。
「――『山のあなたの空遠く、幸い住むと人の言う』……」
 どうなんでしょうね、と口にしたクララは踵を返して先を行く仲間の後を追う。
 空の向こうに滲むのは夕暮れの紅色。
 不幸を呼ぶという赤い鳥とは似て非なる彩は帰路につく者達の背を穏やかに、そして、やさしく照らしていた。

作者:犬塚ひなこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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