鎌倉ハロウィンパーティー~夢現の南瓜タイム

作者:公塚杏

●悪戯笑顔の裏側
 大きなペポ南瓜。黒衣の魔女。マントを揺らす吸血鬼に、ぐるぐる包帯のミイラ。
 不思議な格好と照明で飾り。街を歩く彼等の手にはカラフルなお菓子。
 この日ばかりは、街中が何かに支配されたかのように。不気味で、賑やかで、独特の空気を作り出す特別な日。

 ――けれど。そんな楽しげな街中に、溶け込むことが出来ない者がいるのも確か。
「けほ」
 咳込んだ少年は、漆黒の瞳を細め窓から街を見下ろしていた。
 黒やオレンジ、紫と云った独特の色合いが視界に溢れていくのを見ると、年に一度のハロウィンが近付いているのだと実感する。同い年くらいの子供達が、楽しげに街中を駆ける姿を、毎年のように見ていた少年。見ているだけだった、少年。
 今年もきっと、同じように。
 悲しげに瞳を伏せ、手元の絵本をめくった時――目の前に、少女が立っているのに気付いた。見知らぬ彼女は、まるでハロウィンを先取りしたような赤い頭巾の装い。
 きらり輝く鍵が不気味に煌めくと――迷うことなく、少年の胸をその鍵が貫く。
「ハロウィンパーティーに参加したい……ですか。その夢、かなえてあげましょう。世界で一番楽しいパーティーに参加して、その心の欠損を埋めるのです」
 夢へと誘うかのような声色で、少女が語る言葉を彼は聞いていたのだろうか。――がくり。その身体が崩れ落ちると同時に、少年の横に現れる人影。
 頭の大きな南瓜は、不気味な笑顔をくり抜く事で作られたジャック・オ・ランタン。漆黒のマントをばさりとなびかせ、紳士然ととしたタキシードにステッキを片手に持っている。――その南瓜の穴の奥には、モザイクが浮かんでいる。
 カツン。
 ステッキの高い音が響いたかと思えば、赤頭巾の少女の姿は忽然と消えていた。
●ハッピー・ハロウィン
「もうすぐ、ハロウィンですね!」
 大きな瞳を輝かせながら、笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)はそう語る。街が段々ハロウィンの色に染まっていく様子が、楽しくて仕方が無いらしい。
「でも、ですね」
 楽しそうにしていた笑みから、しょんぼりと悲しげな表情に変わったねむは、現在起こっている事件について語り出した。藤咲・うるる(サニーガール・e00086)が調査してくれていた、日本各地で暗躍しているドリームイーターについて。
「いっぱいのドリームイータが出現しています。みんな、ハロウィンのお祭りに何か悲しい想いを持っていたみたいです!」
 劣等感を持っていた人々は、その想いを爆発させるようにハロウィン当日に動き出す。だからみんなには、ハロウィンパーティーが開始する直前までに敵を倒して欲しいと。ねむは小さな手を握り締め、語った。
「ハロウィンのドリームイーターは、パーティーが始まるのと同時に現れます!」
 賑やかな様子に惹かれるかのように、敵は現れる。このままでは多くの一般人を巻き添えにする事になってしまうだろう。だから――。
「みんなで先に、パーティーを始めちゃえばいいんです!」
 えへん。小さな胸を張るように、ねむは言う。先に誘き出してしまえば、ケルベロス達も戦闘に集中することが出来るだろう。
「大きな会場で、ハロウィンのお茶会があるみたいです! そこでみんなで仲良くお菓子を食べていたら、きっと現れると思います!」
 会場の目玉は、ジャック・オ・ランタンを模した大きなケーキ。鮮やかなオレンジと紫という色合いはびっくりするけれど、程よい甘さの南瓜と紫芋の味付けは絶品。
 その他、コウモリチョコ飾りのカップケーキや、お化けのドーナツ、黒猫クッキー等。色々なお菓子が並ぶようだ。どれもこれも、ちょっと不気味な色合いやデザイン。
 けれど一口食べれば、その味につい笑みが零れてしまう者も多いはず。少なくとも、この会場に訪れる予定の人々は、お菓子を何よりも楽しみにしている。
 並ぶお菓子と共にお茶会を楽しんでいると、ドリームイーターが現れるだろう。
 敵はジャック・オ・ランタンの頭に、紳士のような装い。ステッキを振り回しつつ、こちらの動きを阻害する事を主として動くようだ。それは、悪戯を仕掛けるかのように。
 けれど敵を生み出す元となった心は、ハロウィンを楽しみたかった少年の夢。
 体験した事の無い、ハロウィンに憧れを抱いたりもしたのだろう。想いが、強くなり過ぎただけなのかもしれない。
 その想いを汲みつつも、しっかりと敵を倒す事が重要となる。
 会場へはすんなりと入ることが出来る。皆、ケルベロス達には協力的だ。人払いなどの心配もいらないので、お茶会を楽しんだ後、お茶会を楽しむのが今回の流れ。
「折角です。みんな、思いっきりハロウィンを楽しんじゃうのがいいと思います!」
 あまーいお菓子に囲まれた、ちょっぴり不気味なお茶会。
 いつもと違う装いで。賑やかに楽しむことが、今回の任務。
「ドリームイーターを倒したら、みんなみんなハロウィンを楽しめますね!」
 にっこりと満面の笑みを浮かべ。ねむはケルベロス達にそう語り掛けた。


参加者
ソルリトス・アンディガ(幻陽の雫・e01985)
ミストリース・スターリット(ホワイトマーベル・e03180)
奏真・一十(恐れなき黎明・e03433)
フィオネア・ディスクード(箱庭の鍵花・e03557)
ミルカ・アトリー(タイニーフォートレス・e04000)
リィンハルト・アデナウアー(燦雨の一雫・e04723)
城川・佳昭(狂恋歌・e06886)
雪島・折鶴(贐の白・e07258)

■リプレイ

●ハロウィンの森
 深い森のような会場。黒に近い枝葉のシルエットを浮かび上がらせるのは、吊るされた南瓜型のカンテラ。ぼんやり灯る光は温かな橙色をしており、部屋を微かに照らしている。
「わあ……!」
 人工木々の中、フィオネア・ディスクード(箱庭の鍵花・e03557)は目の前のテーブルに並ぶお菓子に、思わず声を零した。
「なかなか皆さん本格的で、凝ってますね」
 着飾った仲間達へと、感嘆の声を零すのは城川・佳昭(狂恋歌・e06886)。彼も、ビハインドの悠と共に着飾り準備は万端。吸血鬼風の長いマントをひるがえす彼の隣を、長いベールを泳がせ悠は着いて行く。
 テーブルの上に置かれた大きなジャック・オ・ランタンケーキと目が合い、小さくソルリトス・アンディガ(幻陽の雫・e01985)は驚いた。反応するように、使いのダアトが首元でしゅるりと動く。そんな彼の反応に、リィンハルト・アデナウアー(燦雨の一雫・e04723)はくすくすと笑う。
「素晴らしい、ですね」
 大きなケーキ。周りに並ぶ鮮やかな色合いのお菓子たち――初めて見る光景に、思わず雪島・折鶴(贐の白・e07258)は緑色の瞳を細め微笑んだ。微かに頬が朱に染まっているのは、きっとこの光景に心躍っているから。心躍ると云えば、純白の振袖の白鶴の仮装もまた気分を高めてくれている。
 足取り軽く、テーブルへと近付き。ケルベロス達はお菓子を皿に乗せていく。
「どのお菓子も良い匂いで美味しそうね」
 頬を緩め、語るフィオネアの言う通り。甘い香りで満たされた空間は、幸せに満ちている。彼等の持つ紫の皿を飾るのは、普段ではあまりお目に掛かれない色のお菓子たち。
 コウモリチョコをひとつまみ。ぱくりと口に運んだミルカ・アトリー(タイニーフォートレス・e04000)は、その味に思わず頬に手を当てる。
「んー! 美味しい!」
 本物の天使の羽を携える彼女が、白の装いに包まれれば本格的で。その中で、鮮やかな橙色の南瓜ポシェットが目を惹く。揺れるポシェットに、思わず鱗柄をペイントした頬を緩ませたソルリトスは悪戯っぽく笑うと。
「そのお菓子を一口くれなきゃ悪戯しちゃいますよ!」
「ふふ、はいどうぞ」
 微笑み、ミルカがカップケーキを一口差し出せば。お返しに少年もドーナツを差し出す。
「こっちのお菓子、すっごく美味しいわ……!」
 瞳を輝かせながらフィオネアも仲間に入り、彼等はお菓子の感想を零していく。どれが美味しかったか、情報を交換して少しずつ楽しんでいけば、色んな味を楽しめるから。
「あ、僕も。ソル室長」
「はい、ハッピーハロウィン!」
 可愛らしい魔法使いの装いをした、いつもとは違った装いのリィンハルトのお願いに頷けば、2人の少年はお菓子を交換して微笑み合う。
 真っ黒な死神衣装の、目深のフードから覗く紫色の瞳は奏真・一十(恐れなき黎明・e03433)のもの。大好きな南瓜パイや紫芋のタルトを目の前に、つい嬉しくなってしまう。けれど、楽しそうな仲間達とハロウィンらしいことを。
「ハッピーハロウィン!」
 仲間達へと、彼が配るのは可愛らしいお化けの絵が描かれた飴玉。ありがとう、と無邪気に笑う少年少女達を優しく一十が見守る中――彼のパートナーであるサキミは、クモの巣柄の描かれたマシュマロにすっかり夢中。ふにふにと感触を、楽しむように触れている。
 小さな子達を見守るような気持ちは、折鶴も同じ。はしゃく彼等を微笑ましく眺めながら、フォークをまろやかなオレンジクリームのケーキへと入れていく。――彼女の持つお皿は、南瓜のケーキの横に黒猫クッキーが添えられた。可愛らしい一皿だった。

●甘後に
 テーブルを覆うほど溢れていた、紫や橙色が消えていく。お腹も気分も満たされ、優雅に紅茶を飲むケルベロス達。
 まるで今回の事件など無かったかのような錯覚。けれど、事件は確かに起こる。
 カツン――高い音が耳に届き、折鶴は振り返った。
 木々の影に隠れるように。けれどカンテラの光に照らされる、大きな南瓜を被った人影。長いマントを揺らし、少し頭を重そうに揺すりながら。
「おやおや、お楽しみのご様子で」
 どこか芝居がかった口調で南瓜は語り出した。――背丈が小さく、声高な音は話に聞いていた少年のものなのだろうか。それとも、全く別の存在なのだろうか。
 話に聞いていた、事件の元となった少年の経緯を思い出し。つい、ミストリース・スターリット(ホワイトマーベル・e03180)は、眼鏡の奥の優しげな眼差しに影を宿す。
 伝えたい事が沢山ある。少年を救いたいと云う気持ちも強い。
 だから、ミストリースは笑みを浮かべた。――あくまで楽しい、ハロウィンの一幕であるように。その空間を作る事が出来るのは、ケルベロス達しかいないから。
「悪戯おばけのお出まし、ですか」
 悠の手を取り、テーブルから距離をとりつつ佳昭は小さく零していた。お菓子の山から離れるのはこの後訪れる一般人の事を考えて。
 ばさり、彼のマントに描かれた南瓜の絵が揺れる度に顔を歪めるのをカンテラが照らす。
「ハロウィンをお楽しみの紳士淑女の皆様、闇の祭典はいかがかな?」
 仰々しくお辞儀をし、南瓜はそう語る。
「楽しいですよ!」
 今日の日の感想を。そしてこれからの戦いが楽しい時間になるよう祈るかのように、ソルリトスは笑いながら答えた。彼が語る間、しゅるりと手を這ったダアトが、一瞬で杖へと姿を変えソルリトスの手に収まり戦いの準備をする。
「ハッピーハロウィン!」
 一歩踏み出し、ミルカが南瓜に向け言葉を掛ければ。
「トリックをお望みかな?」
 不敵に笑むように肩を揺らす南瓜。その南瓜の奥はモザイクで見えないけれど、きっと楽し気だと期待をして。
「トリック・オア・トリート!」
 8人の合わさった声が、広い会場内に響き渡った。

●トリートの誘惑
「私達と一緒に、遊びましょ?」
 微笑み、フィオネアはバスターライフルを構えつつ凍て付く螺旋を放った。
 彼女の持つ銃口に飾られたのは、可愛らしい南瓜お化けの飾り――彼等は揃いの印を身に纏い、少年と共の時間を過ごそうと考えている。
「かぼちゃさんほら、おそろいの帽子です」
 ふわりと笑み。ミストリースは自身の頭に飾られた、南瓜の帽子に触れながら語った。そして彼自身も、オレンジ色のローブを身に纏う、南瓜お化けの仮装。恐らく、この場に集まった者の中で1番、敵である少年と近い装いなのだろう。
「そうだねえ、闇を照らす南瓜だ」
 くるりとステッキを回し、どこか楽しげに敵は語る。けれど放たれたモザイクは、精神を蝕むように一十を包み込んでいく。――その力は、手加減など存在しない確かなもの。
「ふふ、イタズラと思えば可愛いもんである」
 けれど、一十は変わらぬ笑みを浮かべ、そう零す。
 そっとローブに飾られた南瓜ブローチに触れれば。お揃いの黒いマントのサキミも、相変わらずツンとしているけれど、光る南瓜のブローチを自慢げに掲げているのは気のせいか。
 そんな小さなドラゴンの様子に気付いているのか、いないのか。一十はちゃらりと武器に飾る鍵束の金属音を鳴らせ、その巨大な剣を敵に向け振り下す。
「鎌を持たぬ死神で恐縮である」
 重い衝撃が、掌にも伝わってくる――そんな彼を支えるのは、ソルリトス。
 瓶から取り出した薬液が、傷を受けた仲間へと降り注ぐ。きらきらと、光を浴びて輝く液はまるで光る雨のようで。つい、リィンハルトはその光景が美しいと感じる。
 口元に笑みを浮かべ。大きな紺色の三角帽子を押さえながら彼は口を開く。
「ドラゴン召喚~♪」
 魔法使いを意識した台詞を、南瓜では無く少年に語り掛けるように。――そして生み出されるのは、魔法のようなドラゴンの幻影。放たれた炎が、敵も辺りも照らしていく。
 リィンハルトの作り出したドラゴンに合わせるように、佳昭の手から作り出されるのもまたドラゴンの幻影。
「私からの悪戯も受け取ってください。こんな幻、いかがです」
 変わらぬ表情で淡々と語るけれど、2つの幻影の炎が戦場を満たし敵を包み込んでいく中。悠は合わせるように、敵の身を拘束する。
「私も、一緒に! ドリームイーターも巻き込んで、盛大に盛り上がろうか!」
 背の両翼をばさりと鳴らし。ミルカは小型治療無人機を前衛陣へと送り出した。可愛らしい南瓜の群れが警戒する姿は、まるで行進のような賑やかさ。
 可愛らしいその南瓜達に、折鶴は戦場ゆえの鋭い眼差しを微かに和らげる。
(「私も初はろうぃんです」)
 彼女は一瞬、髪飾りの赤いアスターへと触れると。鞘に納めた真白の日本刀を構え、敵との距離を一気に詰めた。闇の中、彼女を包む真白ははっきりと視界に残るほどの存在感。
「断ちます、その為の刃ゆえ」
 小さく、呟くようにそう告げると同時――鶴を模した優雅な一閃が放たれる。
 これは誰かの夢を取り戻し、護る為の戦いなのだろう。
 ならば、自然と力も入ってしまう。そんな力強い意志が、彼女の繰り出す攻撃にも表れていた。頬に飛んだ汚れを拭いながら、彼女は『強くなり過ぎた想い』を具現化した姿を見つめる。その力は、見方次第では素晴らしい活力であると想う。それを利用する存在に感じる感情は何だろうか――きゅっと真白の千刃鶴を握り締め、南瓜の奥のモザイクを見つめた。

●トリックの心
 浸食するような、モザイクの力に襲われれば。ケルベロス達の心を乱し、心が喰らわれるような感覚に襲われる。
「さあさあ、悪戯はまだまだだ!」
 けれど敵はどこか楽しそうで――軽くステップを踏む様が、その印象を強いものへと変えている。だからこそ、こちらも心躍り笑顔で戦ってしまう。
「やったな~! 今度は僕のばんだぞぉ」
 モザイクの口が前衛をすり抜けリィンハルトを襲うが、彼は屈託のない無邪気な笑みでそう告げる。悪戯には悪戯で返す。そう告げるように、リィンハルトはカプセルを手に。
「お菓子の代わりにウイルス入りの特製カプセルどーぞ♪」
 治癒を阻害するカプセルを投射しながら、楽しそうに語った。その掛け合いは、幼い少年たちが共に遊んでいるような感覚。これは、錯覚だろうか?
 ミルカの作り出したオーロラがリィンハルトを包み込めば、戦場が幻想的な光に包まれる。ナイフを片手に、佳昭は傷口を広げるように南瓜へと近付くと。
「お菓子のように、甘い血をくださいね」
 頬のドラゴンの鱗に、汚れが付着するのをむしろ望むように、そう告げる。
 倒さなくてはいけないとは、分かっている。
 けれど寂しい心を持つ少年を、救いたいと云う気持ちは皆一緒だったから――少しでも、その想いが伝わる事を願って。ケルベロス達は笑顔で、少年と戦いと云う名のハロウィンを楽しむ。この想いが、本物の少年の心に少しでも届くと、信じて。
 敵と書いて好敵手。その読みは勿論『ともだち』。
 そんな間柄になれるような戦闘を――そう願うように、蛇の鱗のような服を躍らせソルリトスは南瓜を見つめる。ウイルスカプセルで敵を阻害しつつも、笑みを浮かべ。
「そう、もうともだちです!」
 いつもよりも少し声を張り、ソルリトスは少年に向けそう告げた。
 これは、いつもの戦闘とは少し違う。
 悪戯をし合い、互いの想いを伝える為の戦いだから――。
 本物の少年に会う事は叶わない。けれど、だからこそ。目の前の南瓜お化けと、楽しい時間を――その強い想いを抱きながら、一十も楽しげに鍵のような巨剣を振りかざす。
「地獄の門を開けてやる――なんてな!」
「星々の小さな光よ、集まって我が力となれ!」
 一十の斬撃の後、ミストリースが呪文を呟けば集う星が生まれる。
「ぴっかぴか、おほしさまです」
 放たれ、敵へと命中すれば飛び散る星光。暗い部屋の装飾と相まって、まるで不気味な森に星の雨が降っているような感覚に。
 身体が弱いのがつらいこと。皆と遊べないのがつらいこと。
 それを痛いほど分かっているミストリースだから――伝えたい想いを、力に込める。
 細い足が揺れ、ステッキで強く床を叩く南瓜。
 もう、最後が近いのだと悟ったフィオネアは、揃いの南瓜を飾ったライフルを構えた。
 放たれるレーザー。凍て付く氷の力が戦場を走る中。フィオネアは絶えぬ笑みを浮かべていた。それは、心から楽しいと想えるから浮かぶもの。白銀の髪に、純白の着物。その姿に映える桃の花が、どこか甘い香りで夢へと誘うのは錯覚だろうか――。
「諦めないで、自分で未来を信じてあげて欲しいわ」
 正しいハロウィンは、いつか少年が自分の目で、手で、足で。確かめる日が来ると想うから。その未来を信じて、心の闇を晴らして欲しいと告げる。
 光が命中し、崩れる身体と共にその南瓜の身体が消えていく。
「夢とは生への活力だと思うのです」
 良い変化が少年に訪れることを願って――折鶴は消えゆく少年へと、髪に添えられたアスターの造花を降らせた。
 自身に縁が無いと思っていたお祭りを、今日楽しむことが出来た。アスターよりも幼い少年ならば、楽しむ機会はきっといくらでもあるだろうから。
「ああ……」
 最後に聞こえたその一言が、どこか満足げだったのはケルベロス達の勘違いだろうか。
「きっと友達もできるし、遊ぶこともできるようになりますよ。さよなら、かぼちゃさん」
 勘違いでは無いと信じるように。ミストリースは笑顔で、そう告げた。

●目覚め
 ――まるで、全てが夢だったかのような。
 けれど乱れた会場内が全てを物語っている。いつかまた、少年が化けた可愛らしい南瓜お化けに会いたいと――想いを募らせ、折鶴は静かに瞼を閉じ呼吸を整える。
 修復をすれば不思議な森へと変化する会場。――この変化の分だけ、少年との心が通えば嬉しいのだが。事実どうなるのかは、ケルベロス達には分からない事。
「先に食べた分のお菓子も修復を……無理か……!」
 お皿にいくつかのスペースが出来ているテーブルを前に、一十は残念そうな笑みを浮かべる。お菓子はまだまだ沢山あるから、後に訪れる人々に支障はないだろう。
 そう、だから。
「お菓子、もうちょっとだけ摘まんでも良いかなぁ?」
 瞳を輝かせリィンハルトが仲間に尋ねれば、フィオネアはこくこくと頷き。
「もう少しだけ、いただきます、よ」
「皆さんは続きをどうぞ。私は、終わったことを報告してきます」
 悠を呼び、出口に向け真っ直ぐ歩き出す佳昭。そんな彼に各々はお礼を告げ、テーブルの上に残るお菓子を手に取りだした。
「ハッピーハロウィン。今年は、賑やかだね」
 そっと悠を抱き寄せ、そう告げる佳昭。
 背からは、賑やかなハロウィンパーティーの音が耳に届く。
 戻ってきたら、そんな彼等の様子を眺めながらケーキを大切な人と頂こうと。そう想う。

 こうして楽しむ心が――夢見る少年に届くように、祈りを込めて。

作者:公塚杏 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 3/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 0
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