白狐嫁入幻想

作者:森下映

「どこだ……どこにいる……出てこい……」
 山の麓、一面に青々と影を落とす竹林に、1人の男が入り込んだ。
 男は竹の間を縫って、奥へ奥へと進んでいく。年の頃は30代後半だろうか。少し前から降り出したらしい天気雨に濡れながら。『私有地につき立入禁止』の看板も気にせずに。
 雨にさざめく竹、煌めく空気。そんなものは目に入っていない様、一心不乱に男は進む。
「今日こそ俺の説が正しかった事を証明してやる」
 男が雨にぬれた眼鏡を服で拭う。
「狐の嫁入りの正体には諸説あるが、この山地に昔から伝わる話は俺の考えていたものにもっとも近い」
 男は眼鏡を駆けなおして再び歩き出した。
「その実体は『妖狐』。縄張りである竹林へ入り込んだ人を惑わし、殺してしまう恐ろしい妖怪。天気雨の日には狐の機嫌が悪く多くの人々が襲われる。だからこそ土地の持ち主であっても雨がふると竹林には近寄らず、」
 突如ばたりと男が倒れた。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 鍵を手に、第五の魔女・アウゲイアスが言う。その隣には白無垢の後ろにふっさりと白い尻尾を垂らし、綿帽子に白狐の顔を半分隠した、花嫁姿の妖狐が立っていた。

「ほなこの男の人は、伝承の研究をしている内にこの地域の妖狐の噂に取り憑かれてしもうた……ってわけやね」
 構ってほしそうなウイングキャットの瑶の頭をちょっと待っててなあと撫で、宝来・凛(鳳蝶・e23534)が言った。
「そのようですね。『興味』を奪ったドリームイーターは既に姿を消していますが、奪われた『興味』を元にして現実化した怪物型のドリームイーターが事件を起こそうとしています」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が言う。
「この狐、出会うた人は『惑わせて殺す』んやろ? 被害出る前に何とかせんとな……」
「はい。このドリームイーターを倒すことができれば、被害者も目を覚ましてくれるでしょう」

 敵のドリームイーターは1体のみ。戦闘時には天気雨の幻影、九つに別れて襲いかかる尾、大量の狐火で攻撃してくる。ポジションはクラッシャー。自分のことを信じていたり噂している人がいると、その人の方に引き寄せられる性質がある。
「なるほど、うまくおびきだせれば有利に戦えそうやね」
「そう思います。それからドリームイーターは、人間を見つけると自分が何者であるかを問い、正しく対応できなければ殺してしまい、正しく対応すれば見逃すという行動をとりますが、こちらは戦闘には影響はないでしょう」

(「竹林の妖狐……興味を惹かれる気持ちは分からんでもないけど」)
「まずはきっちり倒さんとね。みな、よろしく頼むわ」
 ぺこりと頭を下げた凛の真似をして、瑶もこくりと小首を傾げた。


参加者
レクシア・クーン(咲き誇る姫紫君子蘭・e00448)
卯京・若雪(花雪・e01967)
松永・桃李(紅孔雀・e04056)
泉宮・千里(孤月・e12987)
スヴァリン・ハーミット(隠者は盾となりて・e16394)
ジェミ・ニア(星喰・e23256)
宝来・凛(鳳蝶・e23534)
朝霞・結(紡ぎ結び続く縁・e25547)

■リプレイ


「狐どころか夢喰に摘まれるなんて……妙なもん引き寄せたもんやね」
 赤い椿を黒髪に、袴姿に白い翼咲かせた宝来・凛(鳳蝶・e23534)。
「夢中になれる物事があるのは良いけれど……また厄介なモノに魅入られたものね」
 竹に紛れる緑に煌めく陽の光の様な銀の刺繍のチャイナドレス。珊瑚の瞳と角もつ姿はそつなく美しく。松永・桃李(紅孔雀・e04056)。
「なぁに、夢喰が狐に化けようとは面白いじゃねぇの」
 肩口で結わえた黒髪が着流しの上、緑の羽織の胸へ落ちている。色黒の肌に金の瞳、狐の耳は黒く立つ。にいと笑って泉宮・千里(孤月・e12987)。
「また千ちゃんたら!」
「が」
 たしなめた桃李を千里が遮り、
「化皮の下は鬼嫁となりゃ、笑ってる場合じゃねぇってな」
「あら、真面目な事言うじゃない」
「あぁ、尻に敷かれるのは御免被る」
「と思えばこれだものね」
 整えられた指先を頬に当て溜息をつく桃李。その様子に卯京・若雪(花雪・e01967)がふわり微笑めば、竹林に春陽が差した様。柔らかに波打つ淡色の髪に白藤の花咲かせ、緑の羽織には同じ花の意匠が染め抜かれている。
「好奇心は何とやらにならんよう頑張ろね、瑶」
 羽織の柄も首元の飾りにも椿をあしらって。ウイングキャットの瑶が自分のこと? という様ににゃあと鳴けば、猫好きのジェミ・ニア(星喰・e23256)の顔が思わずほころぶ。
(「いい香り。どこまでも、緑」)
 ジェミは清々しい空気を思いきり吸い込んだ。
「伝承が残るのも納得の空気ですね……」
 若雪の視界、竹の影と空の青が交互によぎる。
「狐の嫁入りって雨の事でしたっけ。日本らしい風情のある言い回しです」
 ジェミが言った。
「天気雨の事とも言いますが、その由来は様々のようですね」
 冠と咲き誇るはトリテレイア。翼の青い燐光が長い銀の髪を照らす。レクシア・クーン(咲き誇る姫紫君子蘭・e00448)。
「お天気雨は狐の嫁ぎ先を隠す為、とか色々言われてるよね」
 朝霞・結(紡ぎ結び続く縁・e25547)が竹の間を黒猫そのものの様にするり抜ければ、水竜のハコも後に続く。
「この竹林なら、狐の嫁ぎ先って言われたら納得しちゃいそう、だね?」
「ほんとだね」
 スヴァリン・ハーミット(隠者は盾となりて・e16394)の橙の瞳にも光景が映った。
「これだけでも夢みたいだな……あ、結ちゃんイージスを頼むね」
「まかせてなんだよ。イージスくんはハコと私といよう、ね?」
 もこもこ羊毛、両肩には小さな盾を装備のボクスドラゴン、イージスは頷いて結の方へ。
「千ちゃんも瑶をよろしゅうなあ」
 凛も千里に瑶を預ける。
「中には素敵な伝承もありますから……この様な危ない怪物はお断りです」
 穏やかでも瞳に意志は強く。失くした物を乗り越えた。その力はいつもレクシアと共に。
「毒牙に掛かるヒトが出る前に、暗雲は払いましょうか」
 桃李が言い、
「この情景が荒れぬ様、力を尽くしましょう」
 若雪が羽織を翻す。ジェミはもう1度ふーっと深呼吸、
「はい。気合いれていきます!」


「天気雨の時には妖狐が出る、そんな噂があるそうですね」
 レクシアが言い、
「ほんまに風情ある所やし……此処なら狐に化かされてもおかしゅうないね」
 凛が興味津々に辺りを見渡す。
「花嫁姿の妖狐かー、きっと凄く美人なんだろうね!」
 スヴァリン、素なのか演技なのか。レクシアは、
「でも、人を惑わせて殺してしまうのだそうですよ」
「うーん見る者の心を奪う美しさ、紳士としてはますます見てみたいな!」
(「あ、みんな」)
 結が尻尾を揺らして合図した。カサリと土を踏む音。青竹に靄がかかった様な唐突な白。
「――私が何者か知っているか?」
 綿帽子の下、顔上げずに狐が言う。
「狐のお嫁さん、だね?」
 結が答えると、ハコとイージスもこくこくと頷いた。狐の口元が三日月に避け、真っ赤な口内が覗く。
「命拾いしたねえ」
 狐は冷たい声を残し歩き去った。が、
「おや、今日はお客が多いことだ。お前達も私が何者か知っているのか?」
 ぱさりと白い尾が地面を打つ。
「えーとね」
 首を傾げて考えるスヴァリンのターゲットサイトの刻まれた側、左目の瞳孔が密かに研ぎ澄まされる。
「雨が見せる白昼夢、かな?」
「さあ、どうでしょう?」
 ピクリと顔を上げかけた狐を牽制する様に、レクシアが言う。
「惑わせてこない所を見ると、唯の大きい花嫁さんかもしれませんよ?」
「ウチはアンタが何か知っとるよ」
 燻る焔を感じたか、狐が一歩足を後ろへ摺った。右目を通る刀傷。地獄が烈々と燃える。
「狐の皮被った、正しく化物――夢喰やろ」
 途端わざと背を向けた凛の舞った黒髪を狐が掴もうとした。凛はそれを躱すと竹に手を添え、
「ほら、鬼さん此方」
「逃さぬ!」
「それはこちらも同じです」
 突然の声に上を向いた狐の綿帽子が外れる。影の様な黒い姿に結わえたトウヘッドの長髪を流し、ジェミはパイルバンカーを囮と狐の顔面に向けた。そして狐が杭を避けた瞬間杭先を跳ね上げ、胸元を蹴り潰す。
「『加護の翼、蒼き焔を纏って、ここに』」
 続き後方、結の詠唱が響き、着地したジェミは自分の背側、すいとひんやりした風が抜けた様に感じた。それは白と水色の流線型の身体で竹の間を泳ぐ様に飛ぶハコ。ハコがブレスを吐きかける間に結のグラビティは蒼く燃える加護の翼と紡がれ、仲間達の背に現れる。
「先ずは手堅くいきましょう」
 レクシアは剣先を地へ向け星座を描き出すと、トリテレイアの花言葉と同じ守護を仲間達へ。が、狐も不意にその場で回転、胸元で印を結んだ。しかし、
「さて、化かし合いと洒落込もうか」
 真後ろに『狐』視眈々と黒狐。手に煙管と寛ぐ姿は既に幻か、
「『煙に巻け』」
 身を護ろうと狐が袂を振る。だが視界から武器は消え、残され襲いかかるは狐花の様な焔。
「面妖な」
 焔の筈が手足凍てつき痺れる術に狐が笑った。千里も悠と笑い返す。が早いか、晴れ渡る空からさあと降る天気雨。咄嗟に翼を噴き上げ、蒼い光を尾と引いて、車輪抱くブーツでレクシアが飛び、スヴァリンは全装備を持って防御モードへ、凛も両手を目一杯に開き、盾となった。
「レクシアさん、大丈夫?!」
 失う以前と形は同じ、梟の翼に覆い護られた結が言う。背に翼に白い首筋に血を滲ませながらもレクシアは、
「ご安心を、戦線は支えて見せますので」
「うん! 私も支えるんだよ!」
 決意に唇引き締め、駆け出た結は、
「宝来さんとスヴァリンさんも平気?」
「まかせて! みんなを守るのは紳士の役目だからね!」
 仲間を護る盾である事。それはダモクレスであった頃も今も変わらない。スヴァリンは装備を収納、代わりに出現した治療ドローンを操作。イージスも回復を手伝い、凛もうちは大丈夫と結に片手を上げつつ、
「堪忍な」
 庇いきれず傷を負った若雪へ声をかけた。
「この位問題ありません」
 若雪は凛と結ににこり笑うと血滲む羽織をはためかせ、すらり刀を抜き放つ。若雪を警戒する狐。が、
「山の天気と女心は移ろい易いと云うけれど……」
 振り返れば目元紅差す麗人と、添い絡む緋色の龍。
「とんでもないご機嫌ね。折角の晴姿が台無しよ」
「くく」
 狐が含み笑う。
「魑魅魍魎だの」
「何とでも言いなさい。『火遊びじゃ、済まないわよ』」
 緋龍が狐めがけて烈火の如く襲いかかった。己こそ魑魅魍魎にだけ許された高さへ跳躍、避けようとした狐だったが、
「『どうか、加護を』 」
 空中、若草色の瞳が狐を見上げる。中断やや右に構えられた刀。落下してくる狐と若雪が頂点に達した位置がぴたり合った瞬間、大地の霊力と御業を乗せ、刃が白無垢の胴を斬り払った。
 赤い血が白を染め、返り血が若雪の頬に散る。重みに怯み体勢を崩した狐の尾が咄嗟に九つに別れ、若雪に絡みつこうとした。が届かず。狐の身に種撒いた様、小花い蔦が絡みつく。
 戒に苦しみながら地に落ちた狐が転がりながらも戒に四つん這いになり尾を膨らませた。しかし正面、地獄の炎纏う龍が口を開けた。
「ギャアアッ!」
「『さぁもう、離さないわ』」
 笑み背を向ける桃李、食いつかれ身を焦がす狐の瞳に、ふと火の粉が紅い蝶と映る。それは幻ではなく、
「『さぁ――遊んどいで』」
 凛の周囲に遊ぶ胡蝶は地獄の遣い。瑶が縞の入った尻尾を振れば、紫苑の珠飾りが狐の両手を縛り上げた。
「蠱惑は兎も角、炎の扱いならウチも負けへんよ」
「寄るなッ!」
 縛られた両手で払いのける隙間を舞い踊り、蝶が止まるそばから業火が華と咲く。
「許さぬ!」
 空気震わす咆哮とともに狐火が放たれた。が、
「アンタの炎にも、負けへん」
 庇い、燃え上がる翼にも怯まず凛が言う。
「後悔を選ぶか!」
 狐が掴みかかった。しかし、
「ありがとうございます」
 凛に礼を言い抜け出たジェミが肘下を高速で回転、
「せっかくの花嫁衣裳、破って申し訳ないですが!」
 長い手足のリーチを生かし、一気に貫く。
「私だって、誰も倒れさせないんだから!」
 結が掌に浮かべた光球を投げた。その『月』が凛に届くと同時、辺りに蒼い帳が落ちる。
「『追い縋る者には燃え立ち諌め、振り離す者には燃え上り戒めよ』」
 レクシアが横へ伸べた片腕を包むように翼の炎がふわり散り、小さな炎弾へと別れていく。
「『彼の者を喰らい縛れ』」
 ――迦楼羅の炎。唱え終わる前に狐の身体中に着弾した炎は静かに蒼く燃え始めた。
 赤と蒼の炎に焼かれ、綿帽子が溶け白無垢がずるり落ち。言葉失い唸るだけの、白い狐。

● 
 獣の怪物と成り果て狐は雨降らせ炎を飛ばし、番犬達へ挑み続ける。
「ガアアアアーー!」
 狐の尾が辺りの竹を割り襲いかかった。
「させるかよ」
 九つ全てをくぐり抜け、千里の黒狐の腕が狐の頭を地面へ押さえつける。狐はカッと目を見開き、千里の手を跳ね上げ飛び退ると、再び尾を差し向けた。しかし尾が捉えたのは、
「これ以上荒らすのは許さないよ!」
 金と茶の毛先が魔力になびく。尾が解けるより早くスヴァリンは実体のないゴーグルの下で一つ瞬くと、ドローン達を出現させる。
「『各ドローン同期完了、モード:クラック アクティブ。侵入経路確保、信号の改竄……』」
 その間にイージスが縛を取り除き、結の作り出した翼も背に咲いた。ハコがお菓子缶ごと狐へ体当たりした瞬間、
「『承認。速やかに実行。君の視線、奪っちゃうよー?』」
 ウインクと同時、ドローン達が狐の首へ紐を放つ。
「ギイッ!」
「キミの敵はスヴァリン・ハーミットただ1人」
 神経を侵食され、怒りを込めて吠えかかる狐へスヴァリンが笑いかけた。
「紳士たる者、敵の視線を釘付けにしても仕方がないよね!」
「ウグアアアーー!」
 攻撃を一身に負おうとも構わないというレプリカントを、怪物が理解することはないだろう。
「これぐらいの雨じゃ、私の地獄は消せやしないわよ」
 斬撃の雨に身を肌を斬らせ刀を手に真っ直ぐ斬り込んでくる紅孔雀も、オーロラの様な光を喚び、
「誰もあんたには渡せへん」
 という鳳蝶も。半ば集中するスヴァリンへの攻撃を当然の様に肩代わりするの紫の君子蘭も。
「グ」
 炎を躱し懐に入った若雪の斬撃は既に血塗れの狐にさらに血を流させることはなく。霊体を毒された狐の片目がどろり溶け出す。
「『餮べてしまいます、よ?』」
 出現する回路図、ジェミの影から生まれ出る漆黒の矢。しなり唸りそれは自在に軌道を描き、狐の九つの尾を次々に串刺した。
「ギャアアア!」
 スヴァリンの片脇に構えられたライフルが冷静に後脚を撃ち抜き、結の蒼は仲間へ加護を、レクシアの蒼は狐を蝕む。
「狐の嫁入りは一時の夢現」
 千里が狐火を浮かべ、
「そろそろ鎮まりなさいな」
 桃李が龍を差し向ける。
「悪夢が正夢とならぬよう」
 熱持たぬ焔に弱る狐を龍がひと舐めひと縛り、引き裂いた所へ若雪の花咲く一太刀が浴びせられ、
「夢幻の時間はそろそろ終わり」
 もう無闇に踏み荒らしたりせんから――瑶が果敢に狐を引っ搔き飛び退いた瞬間、凛は炎の化身を解き放った。
「伝承の中の存在にお還り」
 業華の中、狐は燃え尽きた。


「ほんにええ光景と空気やね」
 竹を眺め、凛が言う。
「竹が涼し気な音を立てていますね」
 さやさやという音に耳をそばだてるジェミ。先程までの喧騒が嘘の様。レクシアも改めて音を楽しむ。
「結ちゃん、俺たちも見て回ろー」
 スヴァリンは腕まくりをし、
「疲れてるだろうからお姫様だっこで、」
「えーっと、それは……」
 結は尻尾をゆらり、
「遠慮しておきます! だよ!」
 先に立って歩いていく。
「フラれちゃった……」
 しょんぼりするスヴァリンを慰めるハコとイージス。
「あ」
 ジェミがふと竹林の奥に視線を止めた。
「どうかしましたか? ……あ」
 レクシアも気づきにっこり微笑む。すると、
「まあ、狐が連れてきたのでしょうか」
「そうかもしれませんね」
 これ位の雨なら濡れていくのもいいかもと、天気雨の清々しさを楽しむ2人に見送られ、狐は駆けて、駆けて――、
「あれ? お天気雨だよ。……イージスくんも暑さに弱いのかな? 二人共元気になったよね?」
 結達の元にも。ハコはもちろん、イージスもはしゃいでいる様に見える。
「暑いの苦手みたいだね。イージスもハコくんも元気になってくれたなら、紳士的には嬉しいな」
「ね、今どこかで狐の嫁入り、なのかな?」
「そうかも!」
 スヴァリンはぱちんと手を合わせ、
「幸せをお祈りするよ、紳士だからね! ……じゃなくて、俺がそうしたいから」
 2人の側を離れ、狐はまた駆けていく。
「あら」
 清涼な音色と空気に浸っていた桃李が、気紛れな空を見上げた。
「攻撃じゃない優しい雨は心地良いものね。暑気も戦いの熱気も鎮まるようだわ」」
 桃李が目をとじる。千里も、
「今なら本物に化かされるのも悪かねぇな」
「うちも静かな雨なら大歓迎な気分……やけど」
 雨粒は揺れる笹葉にちょっかいを出そうとしていた瑶を驚かせたらしく、
「瑶は駄目か!」
「仕方ねぇよな」
 くつりと笑いつつ、千里が涙の瑶に番傘を翳した。
「瑶ちゃんはドンマイね」
 桃李白いハンカチで瑶をふいてやりながら、
「ふふ、傘に白布って、何だか瑶ちゃんが嫁入りするみたいねぇ」
「ほんまやわ」
 凛も思わず笑い、
「やーでも嫁入り行列はうちもちょい憧れるな……」
「いや凜は先ず修行だろ」
「千ちゃんは一言余計!」
 一瞬頬を膨らませた凛だったが、再び笹や雨の音に心奪われ笑みが戻る。
「雨奇晴好とはこのことですね」
 皆のやりとりに和みつつ、若雪が言った。
「幽趣佳境か」
 千里が静かに呟き、桃李も、
「何だか夢心地。この地と皆に感謝しなくちゃね」
「うん。皆と幻想的な景色のお陰やね」
 凛は皆へ笑顔を向け、
「ありがと」
 言葉いらぬ仲間だからこそ伝えたい事もある。
 狐の姿は消え、雨も止んだ。

作者:森下映 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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