蠱惑の音色

作者:雨乃香

「さて、と、たぶんこのあたりだと思うんだけど……」
 生ぬるい空気が停滞する、風のない夜。
 古い日本家屋の立ち並ぶ小さな廃村の中を歩く一人の少女がいた。彼女が手にする携帯端末は明かりの無い廃村の中、ぼんやりとそのディスプレイの放つ光に少女の顔が照らされる。
「位置情報的には間違いなさそうね、じゃああとは、耳を済ませて風鈴の音を聞くだけね」
 嬉しそうにそう呟く少女は首に下げるカメラをなでて小さく笑う。
「毎年この時期にだけ風鈴が吊るされる廃村の一軒家。人を誘き寄せる涼やかな音色を響かせる悪霊の仕業。楽しみだわ」
 絶対にその姿をカメラに収めてやるとばかりにレンズ越しに周りの廃村をぐるりと眺め、あれ、と少女は首をかしげる。
 百八十度回転し、振り返ったところで、レンズの向こう側が真っ暗になったのだ。
 不思議に思い少女が、覗き込むそこから目を離し、実際の光景をその目にするよりも先に、
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 頭上から声が降った。
 少女の体を貫く衝撃、呼吸とも驚きともつかぬ少女の小さな声が響き、胸を鍵に貫かれた少女は、力を失いその場に倒れ付した。

「風が吹くたび涼やかに鳴る、風鈴の音。日本の夏、って感じがしますけど、最近ではめっきり見る機会もへりましたねぇ」
 ニア・シャッテン(サキュバスのヘリオライダー・en0089)は、珍しく髪を纏めた浴衣姿で、ケルベロス達を出迎え、ゆるゆると自身を扇いでいた団扇を置いて立ち上がる。
「さてさて、ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)さんの調査により、巷で話題の廃墟の風鈴という噂に興味を持った少女が、ドリームイーターに襲われる事が判明しました」
 そのまま話を続ける彼女の説明によれば、既に興味を奪ったドリームイーターは逃走し、被害者である少女自身と、その興味から生まれたドリームイーターがこの廃村に取り残されている状況になっているということだ。
「ようはこのドリームイーターを倒してきて欲しい、ということですよ。場所が雰囲気たっぷりなのでちょっと、怖いかもしれませんがね?」
 フフっと笑ったニアは、その元となった噂とドリームイーターについて、軽くケルベロス達に話。
 この時期にだけ軒先に風鈴を吊るし、その美しい音色に引かれ迷い込んだ込んだ人を捕らえ、殺してしまうという悪霊の噂。
 それを基にしたドリームイーターは件の日本家屋の廃墟に留まり、訪れた者に対し、風鈴の音色について尋ねるのだという。
「鈴虫泣き声には程遠い。それが正しい答えだそうで、それ以外の答えを口にすると、襲われ、風鈴の材料にされてしまうのだとか」
 わざと間違えることで、あえて敵の狙いを固定する、というのもありかもしれませんね? とニアは笑いつつ、敵の戦闘能力については、後ほどデータを送っておきますね、と一言添えて、団扇を手に立ち上がる。
「美しい音の鳴る風鈴とやらが本当にあるのであって、もし持ち帰れたりしたら多少はこの暑さもマシに思えるでしょうかねぇ? まぁ、皆さんはくれぐれもそんな音色に惑わされぬようしっかりと意識を保って、目標を倒してきてくださいね?」


参加者
春日・いぶき(遊具箱・e00678)
クリス・クレール(盾・e01180)
夜刀神・罪剱(星視の葬送者・e02878)
喜多・きらら(煌々綺羅・e03533)
音無・凪(片端のキツツキ・e16182)
エフイー・ロスト(もふもふを抱いて唄歌う機人・e16281)
ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)

■リプレイ


 妙に蒸し暑く、風のない夜だった。
 半端な月明かりに照らされる立ち並ぶ朽ちた家屋。
 人が利用しなくなっていったいどれ程経ったのか、家の中にまで雑草が生えているものすら見て取れる。
 そんな廃村にポツポツと灯る人工の明かり。それらはケルベロス達が手にするライトの明かりだ。
「いい雰囲気でございますねえ。こういう季節にはもってこいでございます」
 かつて人のいた痕跡を多々残すその不気味な廃墟の群れを前に、ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)はむしろ楽しそうにそう口にした。頭から足の先まで甲冑を模したその体では表情を読むことは出来ないが、代わりにそのバケツの様な兜に宿るその炎は彼の上機嫌な声に会わせて音を立てて燃える。
「肝試しみたいでわくわくしますね」
 ラーヴァの言葉に同意する春日・いぶき(遊具箱・e00678)は口許に軽く手をあてつつ、無邪気にそう笑って見せる。
 彼らケルベロスにしてみれば心霊現象の類いなど恐るるに足りないのか、それとも単にこのばに集まった者達がそういったものに耐性があるのか、なんにしてもその場にいる八人のケルベロス達は寂れた村の様子に怯えたような態度を取るものは一人もいなかった。
「確かにこの蒸し暑い夜を過ごすには絶好のシチュエーションだな」
 そういって豪快に笑う喜多・きらら(煌々綺羅・e03533)の不思議な、美しいグラデーションを見せる髪がラーヴァの炎に照らされ揺れる。闇の中に浮かび上がるその明るい色合いは、彼女の性格をそのまま現しているようだ。
「その為だけに来るのであれば、わざわざこんな遠くまで来る必要はないと思うのだがな」
 もっともなガイスト・リントヴルム(宵藍・e00822)の言葉に数名のケルベロス達は苦笑の表情を浮かべる。彼らの頭の中にあるのは恐らく、噂のためにわざわざこんな場所にまでやって来てドリームイーターに襲われてしまった今事件の被害者の少女の顔だろう。
「それにしても、廃村になったというわりには思ったより広い村なのね」
「家自体はそんな多くないみたいだしな。その分大分距離が空いてるが」
 どこか特徴的な声で呟くエフイー・ロスト(もふもふを抱いて唄歌う機人・e16281)の疑問に夜刀神・罪剱(星視の葬送者・e02878)は気だるげにそう言葉を漏らす。
 人里からここまでの道のりに、さらに村に入ってから歩いた距離は中々なもので、この蒸し暑さの中、徒歩の歩き通しで来たのだというのなら、納涼目的としては完全に裏目としかいいようが無い。
「なぁ、そろそろ村の端だろう?」
「えぇそのはずでございます」
 思っていたより広いとはいえ、何れはその端までたどり着く。どこか落ち着きのない、沸々とした焦りを見せる音無・凪(片端のキツツキ・e16182)の言葉に、今回の件について事前に調べていたラーヴァは淀みなく答えを返す。その言葉通り、彼らの手荷物明かりに照らされ、ぼんやりと目的地である打ち捨てられた日本家屋がようやくその姿を現し、微かな音を、クリス・クレール(盾・e01180)は聞いた。
「風鈴の音色、あの家で間違いないみたいだな」
 耳を澄まし、音に集中していた彼の言葉に続き、他のケルベロス達も近づくにつれその音に気づき始める。
 それは風鈴の音。
 深く、深く響くような、耳に残る綺麗な音。
 しかし、その場にいる誰もがその音に涼しさというものを感じる事はできなかった。むしろ生ぬるい空気がより一層重々しく湿度を増したようにさえ思える。
「せめて風でも吹けばもう少しマシなんだけどな」
 服をパタパタとはためかせながら、きららは件の建物の前で足を止める。
「そうですね、風でも吹いてくれるといいんですけど、ね」
 その意見に同意するようにいいながらも、含みを持たせるような言い方で笑みを浮かべるいぶきもまた、仲間達と同様その家屋の前で足を止める。
 いつから建っているともわからないボロボロの日本家屋。荒れ果て、伸び放題の雑草に埋もれるように聳えるその家からは、相変わらず風もないのに風鈴の音色が響きつけている。


「ごめんください……と、いう必要はなさそうね」
 背の高い雑草を掻き分けたどり着いたその玄関には扉というものは既に無く、エフイーの言葉の通り、中から動く人の気配がするということもない。
 風鈴の音は聞こえども、その姿は家屋の正面には見当たらない。音の出所から察するに、恐らくは縁側の軒先に吊るしてあるのだろう。
 その音に惹かれるかのようにケルベロス達は家屋の内部を土足つきっていき、音の出所である風鈴を見つけた。
 それは至って普通の風鈴のように見えた。ただ一つ、その下がる舌がガラスでも金属でもない、白い何かであることを除けばであったが。
「成程、これが件の……悪趣味な代物だ」
 ガイストのそんな感想に不満でも漏らすかのように、ひとりでに揺れる風鈴がまた、音を奏でる。その音色が止んだかと思えば、ふとケルベロス達の後ろから、同じ風鈴の音が突如響いた。
「我が風鈴の音色、はたして如何程か?」
 振り向けば、そこに立つのは淡い色の浴衣に身を包む、足のない少女の姿。うつむき、長い髪に隠されたその表情を伺い知ることはできず。響くその声も淡々と。
 噂に聞く悪霊を模したドリームイーターを前に、凪はその姿を執拗なまでに観察し、表情を緩め、次の瞬間にはその口から舌打ちが漏れている。
「さぁ、如何程か?」
 それを気にした様子もない再びの問いに、一歩前に進み出るクリス。
「鈴虫鳴き声より赴深い」
 彼の言葉に、ぴたりと風鈴の音は止まり、少女は動かない。
 生ぬるい静寂が場を支配する。
「否! 否否否否否!」
 目の前の少女は突如そう叫び、激しく頭を掻きむしる。
「虫なき声、囀りと静寂、自然のそれには到底届かぬ!」
 バリバリ、バリバリと、頭皮が剥がれるほどの音をたて、少女は頭を掻き毟る。指先に付着する血、絡まる抜けた髪の毛。少女はそれを気にした様子もなく、自らの作品に納得いかないその怒りを嘆く。
「嗚呼、嗚呼! 硝子では、鉄では、声にはならぬ! もっと美しい声の骨を! しゃれこうべの唄う、蠱惑の音色を!」
 喉をそらし、指は額に赤い線を引き、瞳を抉り、赤い涙が白すぎる肌を染め、指は止まらない。
 そのまま、喚き散らしながら喉を掻き毟る少女は急にその動きを止め、首だけをぐるりと傾けその瞳のない眼窩をクリスへと向け、
「そなたの骨は、如何に唄う? 聞かせおくれ」
 問いかけと共に、手にした風鈴をぞんざいに振るった。
 軽やかに音がなり、舌と短冊が蠢くように伸び、クリスを捕らえようと迫る。
「灯の温もりを、あなたにも」
 それはクリスに届く直前、いぶきの紡ぐ言葉と共に現れた淡い炎の揺らめきに捉えられると、緩やかに燃え落ちていく。
 そんな光景を後方に、すでに罪剱は一人少女の眼前へと肉薄しその首を狙い、武器を一閃。たしかな手応えと共に、切り裂かれた喉元から血飛沫、ではなく、モザイクが溢れだした。
「悪霊ってのは、殺せるもんなのか?」
「どうでしょう? まあ、目の前のこれに関しては、風鈴の音同様に、聞くに耐えない断末魔を聞かせてくれそうですが」
 興味も無さそうに、マイペースに思い浮かんだことを口にした罪剱に律儀に軽口を叩くいぶき。
 対して、少女は半ばまで裂けた首を気にした様子もなく、今にもとれそうなそれをぐらぐらと揺らしながら、裂けた喉からケタケタと不気味な笑い声を漏らしている。
「材料、材料がたーくさん、フフ、フフフッ、嗚呼、はやく、聞きたい、聞かせて?」
 不気味な笑い声は耐えず、時おり言葉を漏らす少女。
「本物であれば風情もありましょうが……まぁ、お化け屋敷も嫌いではありませんがね」
「だなぁ、まだまだ元気そうだし、せいぜい楽しませてもらおうじゃねぇか」
 相変わらず恐怖など微塵も感じていないらしいラーヴァときららはもはやアトラクション感覚で敵を見ている有り様だ。
 少女の興味を模したそのドリームイーターはそんな彼らの反応があろうとも、少女の思う噂の悪霊をただなぞる。
「なんにしろ倒すだけよ」
「同感だ」
 エフイーの言葉に頷きながら、クリスは指先に挟む紙兵を夜闇に滑らせる。
「紙兵に命ず、踊れ」
 彼の言葉通りに、紙兵はその白い身を暗闇に踊らせ、仲間達の守りにつき、さらにその周囲をエフイーの振り撒く輝く粒子が覆う。
 ケルベロス達が戦いの準備を整えるなか、笑い、ぶつぶつと声を出していた少女はまたぴたりと止まる。
「来るぞ」
「迎え撃つまでだ」
 ガイストの声に凪が短く返し、その周囲に仲間を闇へと溶かす、暗い色の地獄の炎を展開。間髪いれず、震えだす少女の体、そうして風鈴の音がまた、響き始めた。


 縁側の軒先、やや開けた中庭に響くのは風鈴と戦いの音。
「喰らいな!」
 闇の中翻るきららの色鮮やかな髪。跳ねるように移動し立ち位置を変えながら放つ矢が敵の心臓に突き立ちその体が仰け反り、
「なぁ、やつあたりさてくれよ?」
 その体を凪の振るう炎を纏う刀の一撃が切り裂き、
「吶喊!」
 畳み掛けるように、クリスの振るう地獄の炎を纏う機械槌の一撃が少女の体を押し潰し、その機構が作動し、更なる追撃に地が揺れる。
「……しぶといのね」
 しかしピクリとも動かなくなった敵は、エフイーのその言葉の通り、本物の幽霊の如く突如クリスの握る武器を透過し、距離をとりながら彼の頭上から紐を下ろしその首を括る。
「――推して参る」
 クリスの軽い体が宙吊りにされるよりも早く、ガイストが音もなく太刀を抜き放っていた。
 闇に煌めくその剣閃は刹那の間に敵の体に爪痕を残し、切り裂いている。
 その一撃のお陰か、クリスを吊るすその紐はかき消え、事なきを得た。
 しかし、そこでケルベロス達は手を緩めない。
「我が名は光源。さぁ、此方をご覧なさい」
 ガイストの攻撃に、手痛い傷を負った敵に対し、ラーヴァはその大弓から立て続けに矢を放つ。熱く灼けたそれは、少女の肩を、胸を、腹を貫き、標本のようにその体を地に縫い止める。
「我が力にて黒く染まれ、そして汝は何を見る?」
 きららの詠唱と共に、動きを封じられた少女の体を闇が包み、それは飛散する蝶の如くしぶきをあげて弾ける。
 一方的な連撃にもはや勝負はついたかのように思われた。
 しかし、絡み付くその闇の内から、さらに風鈴の音が響く。
 彼らが油断していたわけではない、どれ程身構えたところで耳を塞ぐ以外に音を防ぐ方法などありはしない。
 その音色を間近で聞いたケルベロス達の意識が遠く、薄れていく。なんとか、踏みとどまり、取り落としそうな武器を握り直したガイストの眼前には両の手に刀を握る凪の姿があった。
 言葉を発するよりも早く、咄嗟に掲げた両の腕で上段から迫る刀を防いだものの、勢いのまま繰り出される次の一撃には防御が間に合わない。
 次の瞬間、血飛沫の代わりに、火花が散った。クリスの握る機械槌がその機構を利用し下方から凪の握る刀をかちあげていた。
 体勢を崩しながらも、さらに追撃を加えようとした凪の心を正常に引き戻したのはエフイーの歌声であった。いぶきもすぐさまその補助に回り、ガイストやクリスの受けた傷を癒していく中、凪は奥歯を噛み締め、闇の中から現れた少女を睨み付ける。
 少女は、そんなことも知らず再び風鈴を掲げその音色を奏でようとして、
「さすがの音色、と言いたいところですが、いささか飽きてきましたね?」
 ラーヴァのそんな言葉と共に暗闇に真っ白な光が一筋走り、その風鈴ごと少女の腕を焼ききり、
「――時よ止まれ」
 罪剱の緋々色金の瞳が淡く闇の中で光、少女を見据えれば、その動きはぴたりと止まる。
 その動かない少女の体に一太刀。凪の振るう刃が深く沈み、そして抜ける。肩から入った刃は、逆のわき腹を抜け、その体を真っ二つに引き裂いていた。
 それで、もはや勝負は決していた。
 だが、凪は刀を振るう手を止めはしなかった。
「違う、違う違う! 髪も、肌も召し物も! くそ、くそくそ!」
 癇癪を起こす子供のように、それこそ、まるで少女の狂った様と同じように、彼女は少女の体がモザイクとなり、消えていくまでひたすらに刀を振るい続けた。


「大丈夫そうだな」
 目の覚めた少女が聞いたのはそんなクリスの声だった。
 そうして、彼女が開いた目で見たのは、彼が周辺の修復のために歩いていく、その背中。
「一応治療はしましたが、痛いところなどはないですか?」
 手を取り、そう声をかけてくるいぶきに、少女は頬を微かに染め、驚きながらも、ふと、今自分の置かれている不明瞭な立場に気づき、辺りに視線を投げた。
 そこは、見知らぬ荒れ果てた家屋の中、みればやはり見知らぬ人々の顔が点々と。
「記憶は確かであるか?」
 混乱する少女を手助けするようにガイストの投げ掛けた言葉。それに従い、記憶を辿る内、補則するような彼らの説明に耳を傾けながら、少女は落ち着き現状を把握した。
「ご迷惑をおかけしてしまったようで」
「いくら興味があったからって、不用意にこんなところに女一人でくるもんじゃないぜ」
「今回のような目に見えぬ驚異もあれば、中には悪人と出くわすこともある」
 きららとガイストの言葉に、少女はただただ反省することしかできず、俯いてその話を聞いていた。
「まぁまぁ、いいじゃないですかもう過ぎた事でございましょう? それに、この様な珍しいものも拾えましたしねえ」
 少女のためなのか、それとも単に自分が自慢したかっただけなのか、ラーヴァはおどけながら手にした風鈴を見せる。それはあの少女が持っていたものと全く同じものだったのだが、彼の掲げたそれは、突然風化するようにモザイクなって消えていってしまった。
「おっと残念、持ち帰りたかったのですが」
 言葉とは裏腹に彼はオーバーに肩をすくめるだけで、その実、さほど残念そうでもない。
「悪霊なんてほんとに存在するのかしら?」
「さぁ、どうだろうな」
 エフイーの言葉に、あくびを噛み殺しそう言う罪剱に対し、少女はギラリ、ときつい視線を送ったかと思うと、
「霊というのはこの世界に確かに存在するのです!」
 突如熱心にそんな自論を展開しはじめた。
 少女の言葉にケルベロス達が耳を傾ける中、ただ一人凪だけは一足先にその場を後にしていた。
 戦いを終えても彼女の表情には暗い陰がさしたままで、その苛立ちはその大きな歩幅にも見てとれた。そうして逃げるように歩を進める凪の背中を追いかけるように、どこからともなく響く、風鈴の音色。
 苛立ちに蹴りあげた石が生い茂る草木に飛び込み、揺れるその曖昧な輪郭に、彼女は誰の姿を重ねているのか、他者にはそれを知る由もない。
 緩やかに風が吹きはじめ、暑さも音も、風に吹かれ飛んでいく。

作者:雨乃香 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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