暑き夜しわしわの折り紙の夢

作者:奏音秋里

 今日は保育園で、初めての折り紙を折った。
 定番の鶴、箱、兜、星、花、ほかにもいろいろ。
「うぅ……」
 けれどもその少年は、あまり上手に紙を折ることができなかった。
 おうちのヒトに見せてね~と持ち帰らされた作品は、どちらもしわしわ。
「明日は、上手に……」
 できますようにと祈りながら、眠りについた少年だったのだが。
「うわぁーっ!」
 程なくして、自分の発した驚きの叫び声とともに現実へと引き戻されてしまった。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
 きょろきょろしていると、知らない女のヒトの声が降ってくる。
 布団に倒れる少年の枕許で、しわしわの折り紙がなにかのカタチになった。

「みんな、折り紙は好きですかーっ!?」
 と呼びかけるのは、笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)だ。
 自分で折ったのだという星を、手にしている。
「ぼろぼろの折り紙ドリームイーターが生まれてしまったので、みんなに退治をお願いしたいのです! 保育園児の男の子ですが、自分が上手につくれなかった折り紙に襲われる夢を視たみたいなのです!」
 折り紙がヒトを襲う前に倒してほしいと、ねむは強調した。
 尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)も、一緒に調査結果を報告する。
「ドリームイーターは、男の子が保育園でつくった折り紙のカタチになれます!」
 少年が実際に折ったのは、先述のうち、鶴と朝顔。
 それぞれ攻撃を仕掛けてくるタイミングでばっと折れて、終わるとぺらぺらに戻る。
「みんなが到着する頃、ドリームイーターは男の子の家の近くをうろうろしています! 誰かを驚かせたくてしょうがないみたいなので、歩いていれば寄ってくるのです!」
 戦闘には、男の子の家から歩いて8分程度の保育園がいいだろうとのこと。
 滑り台やジャングルジムなどの遊具、砂場に花壇などもあるが、広さは充分。
 但し、照明の準備は必要だ。
 ちなみにドリームイーターは、自分に驚かなかった相手を優先的に狙ってくるらしい。
 作戦を有利に進めるために役立ててくださいと、ねむは付け加えた。
「男の子が折り紙をキライにならないように、助けてください! お願いします!」
 星をひとつひとつ手渡してから、ケルベロス達を送り出すねむ。
 自分もひとつ胸に当てて、皆の無事を願うのだった。


参加者
ナディア・ノヴァ(わすれなぐさ・e00787)
沙更・瀬乃亜(炯苑・e05247)
君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)
櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)
英桃・亮(竜却・e26826)
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)
クロウ・リトルラウンド(ストレイキャリバー・e37937)

■リプレイ

●壱
 ケルベロス達は、全員揃って少年の家へと直行する。
 うろうろしていると、何処からともなくドリームイーターが現れた。
「おわっ……ドリームイーター? うわっ!」
 ぶつかりそうになり、英桃・亮(竜却・e26826)はランプでその姿を照らす。
 無表情は動かないけれども、ぺらぺらの紙を見詰めて驚きの言葉を連発した。
「うわー驚いた、驚愕した。驚きが一周まわって普通に見えるくらいだ」
 櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)も、殺気を放ちながら。
 表情を変えるのは不得手なこともあり、亮と同じく言葉で押し切りたい派である。
「うお、びっくりした」
 とは言いつつも、尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)は満面の笑みを浮かべた。
 同行する知り合い達の存在に、とっても張り切って驚いたフリをする。
「あれはなんダ、紙なのか!?」
 君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)も、やはり演技をしてみせた。
 隣のビハインドは、いつもと変わらぬ微笑を浮かべている。
「……紙にもいのちが宿るのね」
 双眸を瞬かせて、アウレリア・ドレヴァンツ(瑞花・e26848)も静かに驚くフリ。
 アウレリアについて皆、進行方向を保育園へと変更する。
「折紙だ、折紙が動いている……」
 ナディア・ノヴァ(わすれなぐさ・e00787)は、身体を震わせて口元を手で押さえた。
 ショックを受けている演技で、ドリームイーターの攻撃対象から自分も外れるように。
「これがドリームイーター! 確かにこれは驚かざるを得ないね……」
 逃げるように、クロウ・リトルラウンド(ストレイキャリバー・e37937)は門を潜る。
 ボクスドラゴンとともに本気で驚きつつ『耐衝撃ランプ』で、足許を確保する。
「……」
 沙更・瀬乃亜(炯苑・e05247)は、テレビウムとともに最前列へと歩み出た。
 表情を消して視線は逸らさず、まったく驚くこともなく、じっと眺め続ける。
 ケルベロス達は作戦どおり、目標地点にてドリームイーターを囲い込んだ。

●弐
 ぱぱっと折られた朝顔の蔓が勢いよく伸びて、瀬乃亜へと襲いかかる。
 しかし其処は、すんでのところでテレビウムの凶器が相棒を護りきった。
「楽しいお遊戯会の始まりだ。折り紙ならば、さぞかしよく燃えるだろう。なにぶん不器用なのでな。力も火も加減できん」
 指に燃える地獄の炎を斬霊刀に纏わせて、思い切り斬りつけるナディア。
 大好きな夜闇に、光源と炎がよく映える。
「――零れる月の雫よ、ひかりとなり揺らめき巡れ」
 宵藍に耀くあたたかな白銀が謳うようなまじないの聲を聴き届け、泪の如き雫を落とす。
 アウレリアは『特製ハンズフリーライト』を、ベルトに固定していた。
「ありがとう、アリア。しかし、忙しいやつだな」
 命中率の上昇に礼を述べて、亮はエアシューズで紙っぺらを蹴りあげる。
 流星の煌めきと重力が、其処でドリームイーターを足止めした。
「赤薔薇」
 名を呼べば意思はつうじ、今度はその凶器で攻撃へと打って出るテレビウム。
 そのあいだに瀬乃亜は『彩』で位置を確認しつつ、小型治療無人機を上空へ飛ばした。
「初めての依頼、無事に成功できるようがんばろう! しかし奇しくも折り紙対決だね、ワカクサ。どっちがより折り紙か、見せつけてあげよう!」
 眼光鋭く真っ直ぐに、クロウはドラゴニックハンマーから竜砲弾をぶっ放す。
 メディックの相棒はなにより回復を最優先に、己の属性をディフェンダーへ注ぎ込んだ。
「俺も折り紙、上手く折れねえんだよなあ。この敵ぶちのめせば、上手くなれっかな?」
 全身の回路に四肢から青い地獄の炎を送り込み、演算速度を強制的に上昇させる。
 構造的弱点を瞬時に解析した広喜は、バトルオーラを集めた拳で紙を穿った。
「そうだなあ。この敵を倒せば、折り紙力が増して折り紙が上手くなるやも知れん……だが恐らく折り紙の練習をした方が効果的だと思う」
 腰に『幽焔蘭華』を提げて、千梨は広喜に割と適当な意見を述べる。
 千梨の喚びだした御業が、ドリームイーターを鷲掴みにしているうちに。
「悪夢は夢で終わルべきだ。明日に想いを抱く少年に、素晴らしい朝を届けよウ」
 眸は爆破スイッチを押して後衛陣へ七色の爆発を起こし、ビハインドは金縛りをかける。
 次の瞬間『ヘスティアーランプ』の灯に、鶴の影が浮かびあがった。

●参
 少しずつ、しかし確実にダメージを与え続けるケルベロス達。
 回復する術を持たぬドリームイーターは、徐々に劣勢となっていく。
「人を襲う悪い紙は、裂いて燃やしてしまおうか」
 千梨の呟きに応えるように、御業は巨大な炎弾を放った。
 軌道が分かったところで、もう避けることもままならない。
「紫苑、もういっかいお願いね」
 ファミリアロッドを優美な白狼の姿に戻し、残る魔力を籠めて射出するアウレリア。
 ジグザグエフェクトを何度も与えて、バッドステータスを重ねていた。
「やべっ! 終わったらヒールしねぇと……」
 電光石火の蹴りを喰らわせたあと、ドリームイーターではないなにかにも命中。
 広喜が『雨宿のランプ』を掲げて確かめると、花壇の煉瓦が欠けているではないか。
 このまま負けてはやらぬと、鶴の翼も前衛陣をはり倒した。
「コア出力最大……Oath/Emerald-heal……認」
 生命力へと転換させたコアエネルギーを手に集めると、回路が浮かびあがる。
 最もダメージの多い仲間に、眸は己の回路から漏れる光を浴びせた。
「あなたはそれほど悪い夢でもないのだけれど……少し、いたずらが過ぎるようです。古い夢は夢におかえりください。A red rose is not a rose red flo」
 前衛メンバー全員に、瀬乃亜は赤い薔薇の夢を視せる。
 足止めのバッドステータスも、幾人かは解除に成功させた。
「折り紙のしわしわは努力の証だ。それを悪意に変えるなど許せんな――たんと降れ」
 地獄の炎は幾つもの小さな隕石と成り、夜空から容赦なく降り注ぐ。
 いま落雷より隕石に当たって死ぬ確率が高いのは此処なのだと、ナディアは説明した。
「――なにを信じる」
 そんな空を覆い閉ざすのは、亮の心臓から吹き出た業火。
 翳す掌に闇夜の劔と成って収まり、ドリームイーターへと振り下ろされる。
「行くよワカクサ! 秘技、ワカクサ・スラッシャーッ!」
 変形を指示された紙属性のボクスドラゴンは、大型の手裏剣と化す。
 自身のグラビティ・チェインを籠めて、クロウはドリームイーター目がけて投擲。
 まともに喰らった折り紙は最早、為す術もなくその場へと千切れ溶けるのだった。

●肆
 園児が喜ぶようにも考えてヒールした保育園で、一晩を明かすケルベロス達。
 保育士や園長に許可を得て、朝から折り紙教室が開催された。
「――なにを、つくろう?」
 微笑んでアウレリアは、優しい折り紙の本を園児とめくる。
 被害者も含めて折れない子も折れる子も、一緒に楽しく折れたらいいとの配慮だ。
「折り紙か……子どもの頃、何度も挫折したっけ……星」
 試しに折ってみたけれども、くしゃりと曲がる黄色の紙。
「簡単なやつを探せばいい。飛行機なら俺も折れる」
 だがそれを気にすることもなく、できることをしようと亮は白い紙をとった。
 折り紙の得意な園児達と、飛行機をたくさん折り折り。
「慌てなくて善イ。丁寧に最後まで折れば、出来るのだから」
 手先が器用なうえ、決まったものをつくるのも得意な眸は、先生役である。
「私にも教えてください」
「よし、折ってみよう。アドバイスに従い、丁寧に丁寧に……」
 対して瀬乃亜とナディアは不器用で、園児達と一緒に教わる側にまわった。
「おー、俺より上手いじゃねえか」
 広喜も混ざって、はしゃぎながら折り紙を習う。
「おねえちゃんへた―がんばれー」
 なんて笑われても、一所懸命に楽しもうとめげずに奮闘した結果。
「ああ、善く出来タな。本物の朝顔のよウに美しイ」
 ナディアも瀬乃亜も広喜も園児達も、眸の指導でまずは朝顔を完成させた。
(「君乃先生がいれば完璧だな。よし、俺は適当にサボろう」)
 と、部屋の隅へと座り込んだ千梨だったのだが。
「うん、痛い痛い」
 やんちゃな園児は見逃さず、尖った耳を引っ張って「遊ぼう」と言う。
「手裏剣はどう折るんだろう? ワカクサ、実演してみて」
 クロウが訊ねると、ボクスドラゴンは自ら手裏剣をカタチづくってみせた。
 折り紙は初体験だと言うクロウに、園児達は首を傾げる。
「だって折り紙いるじゃん。いっつも折っているんじゃないの?」
 と。
「うん。河川敷で大きな紙を拾ったら、ドラゴンだったんだ……」
 ボクスドラゴンとの想い出を、クロウは園児達に語った。
「夏の花――朝顔、向日葵。上手にできたね。あ、それはね、こうやるといいよ」
 ちょっと離れたところでは、恥ずかしがり屋さん達とアウレリアが折り折り。
 完成させられた園児は褒めて、ちょっと難しそうな園児にはゆっくりと教える。
「ここをこうして、こう折って……よーし、出来たーっ!」
「やった、出来たぜっ」
 クロウか広喜か、其処此処から飛び交う、無邪気に笑ったりはしゃいだりする声。
「こんなのは習ったかな?」
 実は子ども好きな千梨がやんちゃくんにプレゼントしたのは、だまし船だ。
「くく、大人は狡いんだ」
 立たない船に困惑する園児達へ、千梨は古典的な遊びをちょっと伝授する。
「ふむ……」
「……眸、ユニコーン、すごいの! どうやって折ったの?」
「ホントだっ! 眸すげえっ」
 アウレリアと広喜が、眼を輝かせて眸の座る机へと駆け寄った。
「夢に出てくるならこういうのがいいよな」
 気付いたら折っていたのだというユニコーンを、ナディアはスマートフォンで撮影。
 園児達にも、更には保育士達にも大人気で、ピアノの上に飾られることとなった。
「先っぽをちょっと折ってやるのがコツだ。カッコイイのがいいなら尖らせる……そっちもなかなかイカすじゃん」
 口角を上げる亮の前には、次々と色とりどりの飛行機が完成していく。
 既に千梨達が投げ合っていた紙風船に混じる、飛行機。
「ひとりひとりが素晴らしい。得手不得手など気にするな。子どもは自由に、愉快に遊べ」
 千梨は、そんなことを園児達へと言い聞かせる。
「亮、これあげるわ」
「わぁっ……ありがと、アリア上手だな」
 アウレリアは亮にこっそりと白兎を手渡すと、眼を細めて青空を仰いだ。
「いろんな夢があるものですね」
 折り紙の夢に想いを馳せ、内心、園児達を愛らしいと笑う瀬乃亜。
「すごいな、上手だ。私に折り方を教えてもらえるか?」
 未だ未だ花を折りたいナディアは、なかなか折れない子を励ます。
「なんだ、転んだのか。治してやるから泣くな」
 千梨の手に止まった小鳥のファミリアが羽搏けば、ふわりと優しい風が吹いた。
「明日は上手に……って夢、叶っただろう? 諦めなければ大丈夫だ」
 少年に向かってにかっと笑い、広喜は自分の折った朝顔の片割れをプレゼント。
 子どもを護っていくという夢も、叶え続けたいと心に誓った。

作者:奏音秋里 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 1
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