スイーツ回転寿司へいらっしゃい

作者:七尾マサムネ

 がらんとした店内で、1人の中年男が打ちひしがれていた。
 男の前には、回転寿司のレーン。そう、ここは回転寿司屋……『だった』。
「どうして潰れてしまったんだ、俺の店」
 かつてを懐かしんでか、稼働するレーンを流れて来るのは、定番の寿司……ではない。
 チョコや飴などがのった寿司だった。シャリをクリームや苺でデコレーションした、ケーキのようなものまで流れてくる。
「シャリとお菓子のミスマッチ感が、面白がってもらえると思ったのになあ。回転寿司なら手に取りやすいし……って、誰だ!?」
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『後悔』を奪わせてもらいましょう」
 突然現れた謎の美女の一突きを受け、店主は倒れた。

「チョコと酢飯は、絶対合わないっす!」
 ケルベロスを招集した黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)が、素直な感想を述べた。
「でも、お菓子を乗せたお寿司を作るなんて、ジャパニーズの文化はやっぱりすごいなあ」
 一方でカルラ・キルステン(黒猫のアリエ・e34755)は、しきりに感心していた。
「そうっすね……じゃなくて、店主の『後悔』から現実化したドリームイーターを撃退して欲しいっす。『後悔』を奪った魔女はもういないっすけど、このままだと、店主に成り代わったドリームイーターが、店に客を連れ込んで、殺してしまうっす」
 ドリームイーターを倒せば、意識を失っている店主を救う事もできるだろう。
「店主はバックルームに寝かされているっすから、とりあえずは安心っす。なので、店主のふりをしたドリームイーターからサービスを受けてみるのも1つの手っすよ」
 普通の客を装い、スイーツ回転寿司を楽しんであげることで、ドリームイーターも満足し、戦闘力が減退するという効果があるからだ。
 加えて、本物の店主からも『後悔』の気持ちが薄れて、前向きさを取り戻しやすくなるはずだ。
 ドリームイーターは、チョコ寿司や飴寿司を巨大化させ、武器として扱う。喰らえば【パラライズ】や【催眠】の効果を受ける、世にも恐ろしい寿司だ。ポジションはジャマーだという。
「ドリームイーターはもちろんっすけど、スイーツ回転寿司は強敵の予感がするっす。もし余裕があったらチャレンジしてみて欲しいっす」
 そうアドバイスするダンテだが、カルラはちょっぴり食べてみたそうにしていた。


参加者
遠之城・鞠緒(死線上のアリア・e06166)
五嶋・奈津美(地球人の鹵獲術士・e14707)
櫂・叔牙(鋼翼骸牙・e25222)
キャロライン・アイスドール(スティールメイデン・e27717)
夢見・カンナ(北の大地の雷・e28700)
ペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)
天泣・雨弓(女子力は物理攻撃技・e32503)
カルラ・キルステン(黒猫のアリエ・e34755)

■リプレイ

●1皿100円ではありません
 ドリームイーターに乗っ取られたという回転寿司店を訪れた、ケルベロス一行。
 五嶋・奈津美(地球人の鹵獲術士・e14707)は、傍らのカルラ・キルステン(黒猫のアリエ・e34755)や天泣・雨弓(女子力は物理攻撃技・e32503)に微笑んだ。
「今日はカルラや雨弓も一緒だし、皆で頑張ろうね!」
「うん!」
「皆さんもお願いしますね」
 さてこの建物、一見、菓子店のような外観。
 しかし、どこか無理したおしゃれ感に、奈津美は首を傾げ、
「スイーツ専門の寿司店ね……。確かに稲荷寿司とかは甘い味付けだけど、チョコやクリームになるとどうなのかしら……」
 すると、外套に身を包んだ小柄、そのフードの下から笑い声がこぼれる。ペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)だ。
「クク……寿司か菓子か、別々ならば良かったものを。王道でなく斬新さを求めての失敗、食べ物に限らず聞く話だな」
(「ご飯に、酢が。混入した途端……強い個性、発揮する……シャリの魔術。それが甘味と、合わさると。どうなるのか……」)
 酢飯にカレーをかけた時の、悲惨な味と香り。それを知っているだけに、櫂・叔牙(鋼翼骸牙・e25222)は内心、戦々恐々としている。
 一方、雨弓は機嫌がよさそうだ。
「個人的には、純粋に美味しそうだと思うのですが……どのようなものが出てくるか楽しみですね!」
 極度の甘党だった。
「うんうん、お米だって工夫すればスイーツの材料になるし、実はなかなか相性よさそうだよねっ」
 夢見・カンナ(北の大地の雷・e28700)も、割とうきうきしている様子。
 さてさて、心構えも出来たところで、皆でのれんをくぐる。
 ふんわり。皆の鼻孔をくすぐったのは、寿司とは縁遠い甘い香り。
「へいらっしゃい」
「今日は、おいしいものが食べられると聞いてきました」
 偽店主の姿を認めるなり、キャロライン・アイスドール(スティールメイデン・e27717)が言った。
 そこそこ最近までダモクレスだったためか、まだ上手に表情に出すことはできないが、何となく楽しそうな雰囲気は伝わって来る。
「お寿司もスイーツも好きだけれど、このマリアージュはどうかしら……?」
 スイーツ柄の着物姿の遠之城・鞠緒(死線上のアリア・e06166)は、ちゃっかりいい感じの席に陣取ると、早速レーンの奥を見つめる。
 カルラも目をきらきらさせて見守る中、スイーツ寿司は回って来た。

●ガリは無料です(スイーツ寿司と合うとは言ってない)
「ん……本当に、スイーツが。シャリに、乗ってますね……」
 頬をかきながら、叔牙が言った。
「はわ、これはなかなかにダイレクトな組み合わせ……!」
 チョコがけ、飴乗せ、クリームデコレーション。
 シャリとスイーツがダイレクトにドッキング。「世界よ、これが日本の寿司だ」と言わんばかりに、堂々と流れてくる寿司に、カンナは思わず感嘆の声をもらした。
 恐る恐る、皿に手を伸ばす叔牙。まず確保したのは、フルーツ系。口直し用……それも、アボカドのように、スパイスと組み合わせてもよい物を。
 そう、パイナップルや苺のように、甘くても酸味がある果物なら、酢飯と合わせても食べられるはず。そう思い、鞠緒も寿司を選ぶ。
「どれも見た目は割と良いのよね。ほら、これなんて素敵よ」
「こういう細やかな手仕事も職人技だよね」
 奈津美の横で、綺麗にデコレーションされた寿司の数々を、スマホで撮影するカルラ。あくまで、個人で楽しむ用。……流行ったら困るから。
「確かに、ビジュアルだけならどれも綺麗……」
 鞠緒の前を流れる寒天寄せ寿司など、実に目に楽しい。
 では、いざ実食!
「ぱくっ……こっ、これは……!」
 シュークリームお寿司を食べたカンナの目が見開かれる。
「は、はわ……すっぱすいーつも、ぐっどだよねっ」
 スイーツと酢飯の一騎打ち。新たな可能性に目覚めそう。
「うん、中々に美味だぞ。スイーツとのコラボレーション、中々に斬新で良いな」
 ペルが、褒め言葉を口にする。ただし、ちゃっかり『おいしくなあれ』を使っていたりする。裏技感漂うが、おいしくなるのなら、それに越した事はない気がする。これぞケルベロスの知恵。
「……すごい、お酢の酸っぱさとチョコの甘さ、新感覚!」
 チョコたっぷりケーキを食したカルラは、素直に感激している。
「こっちは、生クリームにイチゴ、チーズクリームにラズベリー! そしてそれに負けない酢飯! すごいなあ、このどっちも主張する感じ……」
「飴寿司なんて歯が立たないと思ったけど、ちゃんと食べやすい様にしてあるのね」
 感心する奈津美。ケーキと酢飯だろうと雨弓には問題はなく、カルラも任務とか関係なしに楽しんでいる。
「先入観を捨てれば意外と美味しい……」
 ただ、商売としてはそこが問題……。後に続く言葉を、寿司と一緒に飲み込む鞠緒である。
「あ、それ取ってもらっていいですか! ありがとうございます!」
 甘さアップのため、カンナは受け取ったハチミツをかける。
 思いのほか和気あいあいとした雰囲気が、店内に流れていた。
 奈津美達の声に反応したか、傍らの鞄がもぞもぞ。中から顔をのぞかせたのは、ウイングキャットのバロン。皆が何を食べているのかピンとこない様子で、小首をかしげている。
 叔牙は、割と好みの、チーズ系のムースなどに挑戦。
 中には見事なまでに悲惨な味のものもあるが、演技力を総動員。『不味い』というフレーズだけは口にしない。決して。
「今度は胡麻プリンを乗せてみてはいかがでしょうか」
 ぺろりと平らげながら、雨弓が提案する。
「洋菓子に和テイストのものを加えることによって、酢飯との相性がより高いものになるのではないでしょうか。それと……」
 大真面目に話しながらも、雨弓は着々と皿を重ねていく。なお、ナノナノのだいふくは、人形のふり中。
 仲間達が悪戦苦闘、あるいは堪能している一方で、キャロラインも、ぱくぱく。あまり表情に出ていないので、おいしいのかおいしくないのかわからないが、次々と皿を取り食べまくっているので、それなりに楽しんでいるのだろう。多分。
 キャロラインのそんな食べっぷりは、偽店主を満足させたらしい。次々と追加の寿司が流れてくる。
 シュークリーム、マカロン、ついでにウエハース……。
 ある種ドーピング中のペルはともかく、苦手な組み合わせに悩まされた鞠緒は、
「桜でんぶのお寿司を下さい! あれもピンクでスイートでしょう?」
「ないよ」
 ないのか。
 仕方なく、鞠緒はお茶で箸休め……のつもりが。
「これはただの緑茶じゃありませんね!?」
 とっても甘かった。
 まあ、お茶に砂糖とか入れるところもあるし。

●食後の軽い腹ごなし
「ごちそうさまですっ」
 なんやかんやで美味しくいだいたカンナが、手を合わせた。
「スイーツ寿司、ボクは好きだよ! でも」
 カルラが立ち上がり、
「後悔を奪うのは駄目だと思うんだ?」
 値段ごとに皿を分類して重ねると、ケルベロス達は戦闘を開始した。
 偽店主もドリームイーターの本性を現し、カウンターを飛び越える。……ビジュアルはあんまり変わってない。
「オン・アニチ・マリシエイ・ソワカ……」
 料理も戦いも下準備が大切。奈津美の詠唱が、仲間に力を与える。
 ペルの、雷を帯びた拳から必死に逃れようとするドリームイーター。だが、危険な追いかけっこはペルの勝利だった。
「少しは真っ当なアイディア出せるよう、我が電気流してやる」
「ギャー!」
 全身を駆け巡る電撃に、悶絶するドリームイーター。
 そこに電撃のおかわりが。両腕の端子から雷電を発生させた叔牙が、相手にそれを余すところなく叩きこんだのだ。
 その時、店内に新たなBGMが。キャロラインがカスタムされたギターを奏でる。スイーツ寿司にやられた者、テンションが上がった者……どちらも等しく、ハートを奮起させられるメロディだ。
 そして鞠緒のウイングキャット、ヴェクサシオンが翼を広げれば、ますます皆元気。
 鞠緒の星型のオーラをしのいだドリームイーターは、見境なく寿司を飛ばしてくる。褒めてくれたので、更にもてなしてやろうというつもりか。
 次の曲を準備していたキャロラインに、イクラゼリーが命中した。
「本物そっくりです」
 だが、皆のリアクションが功を奏したらしく、敵の技の威力は、大したことはない。
 それに、もしこれが普通の寿司だったら、体じゅう魚臭くなっていた事を考えると、甘さに包まれる現状は、ある意味幸せなのかもしれない。
 戦闘となれば、もう人形のふりをしなくても済む。だいふくは、雨弓からの視線を受け取ると、ばりあを張ってキャロラインをフォローした。
 一方で、雨弓自身は流星となって、相手を壁ぎわまで追い込んだ。
 壁から離れようとするドリームイーターに、カルラのケルベロスチェインが巻き付いた。スイーツ寿司の恩はあるが、ここは心を鬼にして。
 束縛を振り切り、今度は飴寿司を飛ばすドリームイーター。素早くカンナが印を結ぶと、被弾した叔牙の姿が、回復と同時に増えた。同じ技は二度受けない構え!

●店主の挑戦、もう一度
 ドリームイーターが飛ばしたチョコ寿司を、雨弓が受ける。途端に走るしびれ。異物混入!
 だが、スイーツ寿司という運命に抗う者達が、再び立ち向かえるように。キャロラインがロックナンバー『あらがいし番犬』で傷を癒す。
 次なる寿司は取り出させまいと、バロンがリングを飛ばして妨害した。
 そして、奈津美の脳髄の賦活により、潜在的破壊力を解放された叔牙が行く。
「間合いの、取り方が……甘い!」
 渾身の打撃を喰らい、錐もみして飛んでいくドリームイーター。
 攻撃は、目に見えるものだけとは限らない。
 鞠緒の『淵源の書』を聞いたドリームイーターが、頭を抱える。初心を思い出させる歌に反応している間に、雨弓が、二振りの鉄塊剣を振るった。傍目には重量を感じさせぬその剣舞は、やすやすと見切れるものではない。
 イスを踏み台にして、カルラが舞い上がる。
「飴は甘くても現実は甘くないアターック!」
 浮かびあがるさそり座の紋様。ひときわ輝く星から伸びた尾が、ドリームイーターを突き刺した。
 やがて、カンナの気迫と斬撃の前に、いよいよ追い詰められるドリームイーター。
「仮にも乙女ってことでな、スイーツは普通に愉しみたいのだよ。寿司は寿司、別腹だ」
 ペルの蹴りが、『容赦』の二文字を廃棄して相手にヒット。ペルの速力に狙いの正確さが加われば、隙はない。最後は、何やら満足げな表情で消えていくドリームイーターであった。
「済んだようだな。しかしまぁ、わざわざこういう店を探して回る魔女というのもシュールだな。良く見つけるものだ」
 ペルは、黒幕に対して、感心すらしている。まあ、狙われている『後悔』がそんなものばかりなのだから、そう言いたくなるのもやむなし。
 それから、店内のヒールを終えた一行は、バックルームに向かう。寝かされていた店主を、優しく揺り起こす。
「うう……なんか夢を見ていたよ。その中で、色々提案されたような……」
 顔を見合わせる雨弓達。
 事情はわかっています、と説明した上で、カンナ達が店主に語り掛ける。
「スイーツのおいしさはホンモノだったし、お米のスイーツもいいかもですっ」
「そこの嬢ちゃんもそう思うかい?」
「ああ、たいへんミスマッチでしたね」
 けろっ、とキャロラインの素直に答えた。
「でも、洋菓子も寿司もどちらの才能もあるなんてすごいよ」
 でもボクは猫だから、やっぱりお魚のほうが好きかな? なんて笑ってみせるカルラ。
「見た目は本当に良かったし、ネタを食べやすくしてあったのも良かったと思うわ」
「そこ、わかってくれたか!」
 自分のこだわりに気が付いてくれた奈津美に、店主、涙目である。
「スイーツを、手軽に。取って……食べられるという。目の、付け所は……悪くないと、思うのです。変に、寿司などと。組み合わせず……純粋に。一口大の、スイーツを。提供すれば……良いのでは、無いかと」
 叔牙の提案に、ふむふむとうなずく店主。
「そうだな、よそと違いを出そうとして、飛躍しすぎたな」
 文字通り目がさめたよ、と店主が頭を下げる。
 願わくば、次なる挑戦が、実を結ばんことを。

作者:七尾マサムネ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 1
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