その街の七夕伝説は、一般的なそれとは正反対に違っていた。
織姫はずっと、彦星と引き離されたことを怨んでいる。
「此処が、織姫を祀っている神社か……」
どうして自分だけが……そんな想いに打ちひしがれた織姫は、行動を開始した。
恋人になった男女の首を、羽衣で絞めあげて殺していったというのだ。
「祀るというより、封印なのかな」
そんな織姫の無念と憤怒を鎮めるために造られた神社を訪れた、1人の女性。
休日ごとに、不思議な伝説が残る神社仏閣を旅していた。
「あ、石碑みっけ!」
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
それなのに、彼女が伝説の一端に触れるより早く、魔女の鍵が彼女の胸を貫く。
煌びやかな衣を身に纏った織姫が、ドリームイーターとして具現化してしまった。
「皆さんのご家庭や旅団では、もう笹を飾りましたか?」
笑顔で、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が問う。
机上に色とりどりの短冊やペンを並べて、是非あとで書いてくださいと勧めたり。
「今回のドリームイーターは、非常に強い怨念を持っています。このままでは、神社周辺で恋人が襲われてしまうでしょう。どうか、皆さんの力で新たな犠牲を阻止してください」
トゥーリ・アルシエル(蒼范のアリア・e00215)も、ともに調査結果を報告する。
被害者の女性は、神社の裏で意識をなくして倒れているらしい。
「体格は、私と同じくらいですね。よくある織姫を想像していただければ、それほどかけ離れてはいないでしょう」
肩にかけた羽衣を自由自在に扱い、物理攻撃を仕掛けてくる。
また追いつめられると、流れ星を頭上へと落下させる魔法攻撃を繰り出すようだ。
「境内で仲よくしている2人がいれば、自ずと寄ってくるはずです」
ドリームイーターは、出会い頭に自分が何者かを問うてくるらしい。
初撃は、答えられなかったり間違ったりした相手を狙ってくるようだ。
「きちんと整備されていますが、宮司などは常駐していません。寄り道せずに向かえば被害者以外のヒトもいないでしょうから、そのまま戦闘に移っていただいて問題ありません」
このほか、その存在を信じていたり噂していたりする人に惹かれる性質もあるとのこと。
先述の方法で誘き出すのが難しければ、この性質を利用してもいいかも知れない。
「純粋な興味を悪用するなんて、許せません。よろしくお願いしますね」
最初と変わらぬ笑顔で、セリカはケルベロス達を見送る。
皆さんの無事をお願いしておきますねと、笹に短冊を結んだ。
参加者 | |
---|---|
トゥーリ・アルシエル(蒼范のアリア・e00215) |
ユージン・イークル(煌めく流星・e00277) |
ジークリンデ・エーヴェルヴァイン(幻肢愛のオヒメサマ・e01185) |
潦・ともの(おうちの小覇王・e03375) |
ソラネ・ハクアサウロ(暴竜突撃・e03737) |
日生・遥彼(日より生まれ出で遥か彼方まで・e03843) |
舞阪・瑠奈(サキュバスのウィッチドクター・e17956) |
カリン・エリュテイア(白花舞踏曲・e36120) |
●壱
神社へ到着したケルベロス達は早速、周辺や境内を見まわった。
事前情報どおり一般人がいないことを確認して、作戦に移る。
「被害者は確認したんよ。裏手にはまわらさんようにせんとねぇ」
取り敢えずの無事を、カリン・エリュテイア(白花舞踏曲・e36120)が確認した。
主を心配するウイングキャットとともに、境内の隅で待機する。
「まったく、迷惑だし不快だわ。勝手に被害を広げられたら、たまらないわね」
ジークリンデ・エーヴェルヴァイン(幻肢愛のオヒメサマ・e01185)は、鳥居へ。
敵が外から現れる場合を想定して、眼鏡の奥の赤い瞳を巡らせる。
「よし。何処からどうみてもおねーちゃんはおにーちゃんだね!」
「そ、そうか? 首がすーすーするんだが、トゥーリのためだから仕方ない。流石、私の妹だけあるな……ところでシエル」
「なぁに、おにーちゃん?」
トゥーリ・アルシエル(蒼范のアリア・e00215)は、同行する義姉と友人にうっきうき。
義姉の、潦・ともの(おうちの小覇王・e03375)を男装させて、2人で囮役を務める。
漆黒の長髪も、義妹によって凛々しいポニーテールにまとめられた。
「今日のぱんつは何色だ?」
それなのにそれなのに……ともの、トゥーリのスカートをめくろうとするなんて。
「手持ち無沙汰ですね……ときにユージンさん、私の隣を歩きませんか?」
「ボクでいいなら喜んで! その代わり、なにを言っても笑って許してね?」
緊張感と暇を持て余していた、ソラネ・ハクアサウロ(暴竜突撃・e03737)のお誘い。
ユージン・イークル(煌めく流星・e00277)は、キラッキラの笑顔で快諾した。
「キミの瞳はあの星よりも輝いて見えるよ、まるで燃えてるみたいさっ☆ シリウスのように、キミは輝いてるんだ。キミを射止めるためなら、ボクはオリオンにもオオカミにもなるさ。ネズミだけど」
「まぁ……恥ずかしいですけれども、嬉しいです」
自分でもちょっと気持ち悪いカモとか思いながら、台詞を並べるユージン。
繋ぐ手をとって、大胆にも『着物』の上から自分の胸に押し付けるソラネ。
どちらのカップルも張り切って、いちゃいちゃらぶらぶしてみせる。
すると、狙いどおり。
それは神社の森のなかから、ゆらりと現れた。
「あたし、あのヒトに逢いたいの……ねぇ、あたしは、誰なの?」
「こんにちは、織姫さん」
「てめぇは織姫だ。覚えとけ」
舞阪・瑠奈(サキュバスのウィッチドクター・e17956)は、にっこりと応える。
ジークリンデにも協力してもらって、鳥居の外側へと立入禁止テープを張った。
境内に一般人がいないことは確認済みだから、これで人払いは大丈夫だろう。
「ここの織姫さまは……なんというか、凄いわねぇ。自らの境遇を怨んで、目の前の恋人達を殺していって……愛し続けたままともに永遠に眠る恋人達。怨み続けたまま祀られて恋人に逢えない織姫。まさに正反対、ね」
「そうやって考えると、この神社にはいろんなヒトの霊が集まっとるんかも知れんねぇ。ねぇ、織姫さん」
うっとりと、日生・遥彼(日より生まれ出で遥か彼方まで・e03843)は柔和な表情。
現れたドリームイーターに、ちょっと感情が高まる。
カリンも腕のなかの白猫を優しく撫でつつ、神社を仰ぎ見た。
「出たな! シエルちゃんと同レベル残念系女子! 知ってるさ……ベガちゃんでしょ? 過去に恋人いただけマシじゃん!」
「ユージンくん、いまさらっと非道いこと言ったよね? えーと……貴方はオリーブさんだっけ? まぁ、なんでもいいよね?」
トゥーリの認識は仲よしの友達で、ユージンの認識は辛辣に弄り合う仲である。
「愛に生きるのも、難しいわね。どうして幸せになれないのかしら」
「そうね。どちらも決して幸せとは言えない辺り、ベクトルとしては一緒なんでしょうけれど……さて、それじゃあ戦闘ね。そろそろ始めましょうか?」
得物に手をかけながら、瑠奈も遥彼もしみじみと告げた。
ヤンデレ同士、通じ合えるモノがあるのかも知れない。
●弐
ドリームイーターは、答えを間違えたディフェンダーへと牙を剥く。
しかしソラネのボクスドラゴンが、2人を庇って羽衣を受けた。
「愛は与え、与えられるもの。貴女のように、奪うものは愛ではありません」
胸部を展開させた発射口から、エネルギー光線を放出するソラネ。
ボクスドラゴンも、基本方針としては回復重視だが、初撃ではブレスを吐いた。
「ふふ……その激しい感情は、悍ましい怨みは、きっと貴女の愛なのね。想い続けた故に生まれた感情。自分自身ではもうどうしようもない衝動。きっと貴女は……彦星と再会した瞬間、ほかの恋人達にしたように、羽衣で彼を絞め殺すの。だってそれが……既に貴女の愛、なのだから。でも、大丈夫。私は貴女の愛を認めてあげる。認めて、飲み干して、それから……新しく私の愛を、貴女にたっぷりと注いであげるわ?」
遥彼の左手に収まる魔導書から、混沌なる緑色の粘菌が這い上がってくる。
盲信狂愛的な祈りの言の葉とともに、ドリームイーターに悪夢を視せた。
「愛する人と引き裂かれたっていうのは可哀そうだけど、だからと言ってほかのヒトを不幸にさせるのはおかしいよ。これ以上、ここの織姫さまの悪い伝承が伝わらないように、デウスエクスは眠らせないとね」
大好きな曲に乗せて、トゥーリは強い信念を持つ者の詩を歌いあげる。
皆を、特に義姉と友人を絶対に護るのだと、ボクスドラゴンとともに想いをぶつけた。
「同じ『星を落とす者』として負けられないね。ボクのキラメキについてこれるかなっ☆」
フェアリーブーツに載せて、ユージンが星型のオーラを蹴り込む。
このあいだにウイングキャットは、前衛へバッドステータス耐性を付与した。
「地域によって若干伝説が異なりますが……異なり過ぎでしょう。これじゃ怪談ですよ」
地面にケルベロスチェインで魔法陣を描き、守備を固める瑠奈。
前衛から順に、総ての列へ展開するつもりだ。
「珍しい七夕さまのお話なんやね、ちょっと怖くて物寂しい。でも噂は噂。実際に被害がでたら大ごとなんよ」
四肢の地獄の炎を纏わせたフェアリーブーツで以て、カリンが蹴りを喰らわせる。
エンチャントを分散させるために、ウイングキャットは後衛へと羽搏いた。
「織姫だの彦星だの、浮かれやがって……宿敵どもを想い出す。不愉快だ」
眉を潜めて、ジークリンデはドリームイーターへの不快感を露わにする。
なによりも撃破を優先して、電光石火の蹴りで急所を打った。
「愛しい人と一緒にいられないのは悲しいけれど。まーそれはそれとして、トゥーリの敵になるのなら同情の余地なくぶっ飛ばすよ!」
大切な義妹に誘われた、大切な依頼だから。
とものは超硬化させた爪を、ドリームイーターの背中へ突き立てた。
●参
羽衣での攻撃に限界を感じて、遂に流れ星を落とし始めるドリームイーター。
高く蒼空から、拳大の星石が無数に降り注いだ。
「っ……殿下!? よくも殿下を……許さないよ!」
落下が止んでみると、相棒の身体に無数の傷が刻まれているではないか。
トゥーリの足許に広がる黒い水溜まりの更に下から、無数の攻性植物が伸びる。
「王には冠を、剣には牙を、この王剣に――迷いなし」
ソラネはグラビティ・チェインを帯びたチェーンソー剣で、縦一閃。
稲妻に似た刃の軌道は、ドリームイーターの防御行動をものともしない。
「生成完了。狙いを定めてショット」
単発式拳銃と弾丸が、手のなかに集まるグラビティ・チェインによって生成されていく。
意外にも瑠奈は好戦的な性格で、銃の腕もなかなかのものだ。
「――私ほどあなたを愛しているものはいない。これほど愛することは、誰にもできない――♪ 愛してる。愛して。愛するの。愛に愛して。愛しい愛々愛愛愛あい愛々愛愛愛愛――この愛で、あなたを縛ってあげる」
拗らせた愛は、過去も現在も未来も己に仇成すモノへと囁かれる。
遥彼の妄執からは、なんびとたりとも逃れることはできないのだ。
「キミ、とっても輝いてるねっ! その力、ボクにもっと見せてよ☆」
キラキラな言動とウインクを合図に、無数の星形の光が空からばら撒かれる。
触れると、ユージンへ自分の力を見せつけてやりたい衝動に駆られるのだ。
対抗するように、流れ星をユージンの頭上へと集めて、落とす。
「うちは、これしか知らんのよ」
故にカリンは、容易に死角へと侵入することができた。
ドリームイーターが最大限に苦しむ方法を瞬時に判断して、傷を押し広げていく。
「王者の鼓動、いま此処に列を成す」
ドラゴニアンの炎を両の手に纏い、とものは紅蓮の一撃を叩き込む。
天地が鳴動するかのような轟音と震動に、ドリームイーターが膝を着いた。
「不快だわ。だから地獄の炎で、やきつくしてやる。私は私のコトバで語る。憎い。殺すわ。獣と姫は貴方の命をご所望よ。甘く苦い愛憎の溶熱で、貴方を美味しく頂くわ!」
好きだから、愛しているから……だから四肢の地獄の炎で命を喰らい尽くしたい。
ツンデレなジークリンデの愛憎が、ドリームイーターの残り火を消し去った。
●肆
ドリームイーターの消滅を確認して、すぐに神社の裏へとまわるケルベロス達。
抱き起こしてやると程なくして、被害者は眼を覚ました。
「大丈夫ですか? どこか痛むところとかありませんか? 水分足りてます? この時季は熱中症になりやすいですし、水分補給が大事ですよ」
体調や怪我の箇所を確認してから、瑠奈は持参していた飲料水を女性へと手渡す。
彼女は「ありがとう」と言って、自分で蓋を開けて水を口にした。
「それは生命の連鎖、蒼茫の音色。生まれ出づる勇気に星光の祝福を。さあ……星々の煌きとともに、君の物語を綴ろう」
トゥーリのクリスタルボイスが、星の竜の民に伝わる祈りの唄を歌いあげる。
石碑で打ったのであろう額の傷も、綺麗に治すことができた。
「無事でよかったわね。あとは、境内をもとに戻せば依頼完了よね?」
「そうやねぇ。じゃあうち、花弁でも降らせるんよ」
女性の対応は任せて、ジークリンデとカリンは神社の表へと戻る。
カリンがヒールをかけつつ、簡単に戻せる場所にはジークリンデが手をかける。
途中からはほかのメンバーも合流して、全員で修復。
少々ファンタジーな草花が生えているが、問題はないだろう。
その後は、女性が神社を調べ終わるまで待って、一行もまた鳥居を潜った。
「少々物騒な言い伝えですが……彦星さんも怨まれるほどに愛されていたというのなら、そういう愛情の伝え方も、またよいのかも知れません。ね、ギルティラ」
遠くの空を見遣り、ソラネは伝説の織姫の愛を肯定する。
恋愛に対して様々な視点を持っており、機械竜もそんな主人の言葉に頷いた。
「ふふ、久しぶりに皆をきちんと出すことができたわねぇ……帰ったら、私も笹になにか書いてみようかしら……なんてね」
遥彼は、自身の武器のなかで普段からペットのように接しているモノ達を。
運命の赤い糸と黒の誘い水に恋の指南書を両手に抱いて、願い事を考える。
「ユージン、よくやったのだ!」
「そりゃあ可愛いとものちゃんのためだもん! いい子いい子~♪」
なんて頭をぽんぽんと叩いたら、お子さま扱いするなと全力で怒られたり。
愉快な友人だと評価しているから、キライになることはないのだけれど。
そんなとものの反応を、ユージンは楽しんでいるようである。
今晩は、このメンバーで星空を眺めたいねと、皆を誘ってみるのだった。
作者:奏音秋里 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年7月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
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