ミッション破壊作戦～快刀螺旋を断つが如し

■リプレイ

●ミッション１１－２「岡山県倉敷市」
　西日本を代表する工業都市であり観光の街である岡山県倉敷市。偽ケルベロスを倒すミッション破壊作戦は、ケルベロス達にとって２度目の挑戦だ。
「しかしまー偽ケルベロスたぁ、ふてぇ輩も居たもんっす」
　贔屓のリンゴアイスを木匙で掬い、呆れ顔で呟く伊・捌号（行九・e18390）。些か不機嫌そうか。
「手遅れという言葉で終わらせたくないですね」
　現状、螺旋忍軍の動きは慌しい。グラディウスを手にバンテージで括り付け、据灸庵・赤煙（ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357）はヘリオンの窓から外を見る。
「助けられる命は、助けたい、です。医者、ですから」
　訥々と呟き、癒杖「アスクレピオス」を握り締めるシェスティン・オーストレーム（無窮のアスクレピオス・e02527）。
「何であれ、成功させるのみ」
　ミッション破壊作戦は初ながら、櫻田・悠雅（報復するは我にあり・e36625）は言い切った。脳裏を過るのは、五稜郭の記憶。
（「２度続けて黒星など願い下げ。此度こそ勝利の祝杯をあげたいものだ」）
「絶対にミッションを破壊しますよ」
　地球の平和の為、螺旋忍軍との決戦に勝利する為――眉根を寄せる悠雅と対照的に、土竜・岳（ジュエルファインダー・e04093）は快活にエイエイオー！
「そろそろ、目的地上空でしょうか」
　強襲型魔空回廊を上空から見るのは、幾度目だろうか……徐に藍の双眸を細めるダリル・チェスロック（傍観者・e28788）。
　破壊作戦が始まり半年が過ぎた。ミッション地域増加に対する破壊の速度を考えれば、追い付けないかもしれない。それでも。
（「いつか、全てを破壊し尽くします」）
　ミッション地域を見下ろす度、ダリルの想いも強くなっていく。
「んでは聖なる聖なる聖なるかな……お祈りの時間っすよ」
　ボクスドラゴンのエイトと並んで捌号が両手を組めば、新条・あかり（点灯夫・e04291）は左手の指輪にそっと触れる。
（「必ず、守る……僕の大事なもの、皆の大事なものも」）
　物心ついた時からケルベロスであったあかりにとって「他人を護る」事は当然。愛しい人の存在が、その想いを更に強くする。
「……」
　やはり作戦初参加の大粟・還（クッキーの人・e02487）も、少々緊張しているだろうか。常ならば気だるげに表情乏しく、大声を出す事も無いが、彼女とて胸に灯る想いがある。
「収穫期じゃないけど、今日は叫びます」
　ウイングキャットのるーさんと開いたハッチから覗けば、吹き上げる風に髪の胡蝶蘭が大きく揺れた。

●快刀螺旋を断つが如し
「グラディウス、どうか私に皆さんの自宅を守る力を！」
　腹の底から声を張る。叫ぶと同時に飛び出した還を追い、るーさんも滑空する。
　還は自宅警備員だ。文字通り、自宅を守る為に戦っている。
（「そして、倉敷に住む方々にとって、ここは大事な大事な『自宅』」）
　安らぎの場である自宅がデウスエクスに不法占拠されるなど、許し難い事この上ない！
「速やかに退去なさい！　このコスプレ忍者！」
　『自宅』を守る熱意を込め、還は大きくグラディウスを振り被る。
「この地に縁無し。されど、螺旋忍軍へは借りがある。かの依頼にての雪辱、晴らさせて貰おう」
　鮮やかな赤翼を広げる悠雅。還が穿った箇所を狙うべく金の瞳を凝らす。
（「五稜郭で奪われた螺旋忍法帖……我が無力だったとは思わんが、及ばなかったのは事実」）
　ここへ来たのは、螺旋忍軍へひと泡吹かせる為。連中の邪魔をする為。
（「八つ当たりは、百も承知。されど、奪還すれば我の溜飲が下がるもの……魔空回廊、壊させて貰おうか」）
　我が身の勝手と嘯き、悠雅の刃は還の軌跡をなぞる。
「全てを喰らい尽くせ、グラディウス」
（「人に迷惑掛けて、しかもそれを別の誰かの所為にするなんて、やっちゃいけない、ことです！」）
　３番手はシェスティン。口に出さずとも、グラディウスに想いを託して強く握る。
（「貴方達の、企みは、ここで潰します！！」）
　偽ケルベロスへの憤りを込めて、刃を魔空回廊に突き立てるも――少女の可憐な薄紅の瞳が不安げに翳る。
（「かたい……」）
　倉敷の魔空回廊は、螺旋忍軍のテリトリーに於いてそれなりの強度を誇る。果たして、２度目の挑戦で砕けるか……祈るような面持ちで、シェスティンは後続を仰ぐ。
「貴様らの名乗る『ケルベロス』など所詮、付け焼刃に過ぎない。螺旋忍軍が簡単に名乗るなど、思い上がるなよ」
　傍観が常のダリルの胸に湧く冷えた怒り。ケルベロスとしての矜持が、その名を騙る不届き者を許さない。
「人々の生活を脅かし、尚も被害の拡大を狙うなど……今すぐこの地で息の根を止める。貴様らを、倒す……！」
「はーん、偽ケルベロス、ねぇ……」
　白皙の面に目立つ黒の双眸を剣呑に眇め、捌号はふてぶてしく吐き捨てる。
「お粗末な偽物とはいえ、自分達を騙られるってーのはいい気分じゃねーっす」
　ついでに、観光の街を騒音で台無しにされるのもマイナスでしかない。
「とっととお帰り願うっすよ」
　気負う様子なく飛び降りたサキュバスとボクスドラゴンを見送り、深呼吸１つ。岳もグラディウスを胸に、空へ身を躍らせる。
　ケルベロスが戦えるのは、地球に住まう者の応援あればこそ。皆が信頼し想いを託してくれるからこそなのだ。
「地球と地球に生きる人達の想いの結実が、私達ケルベロスです。偽物の跳梁は、皆さんの想いを裏切る行為に他なりません」
　だから！　絶対に偽物は倒す！
「宇宙に輝く蒼き宝石……地球に代わって、大！　大！　大！　お仕置きですよ！」
　赤煙も、やはり一般人の信頼と応援を心強く思っている。その最たるがケルベロス・ウォー。きっと、螺旋忍軍と事を構える日も遠くない。
「皆さんの信頼を攻撃しようとする卑劣なやり方は、断じて見過ごせません」
　徹底的に阻止されて尚、未だに懲りぬ螺旋忍軍の偽ケルベロス作戦。三下の足掻き故か、効果が上がってなくとも。紛れで成功する前に……螺旋忍軍が再び本腰を入れる前に。
「偽ケルベロス作戦を今、ここで――叩き潰します！！」
（「うん……ケルベロスってさ、沢山の人から色んなものを受け取って戦ってるんだよ」）
　赤煙の叫びに小さく頷き、あかりは指輪輝く左手にグラディウスを握る。
（「お金や物資は勿論、願いや祈りや涙や……命そのものも」）
「だから僕らは戦う、地獄の入り口まで踏ん張って、総てを護れるように」
　躊躇いなく飛び降りた。迫り来る魔空回廊をしっかと見据えるあかり。
（「逃げるばかりで覚悟も無い螺旋忍軍に、ケルベロスを騙らせたまま、のさばらせてはおけない」）
「応えて、グラディウス。僕に『護る為の』力を貸して！」
　刃の切先が魔空回廊に触れた瞬間――あかりが、最初に感じたのは強固な「硬さ」。だが、まるで分子レベルの間隙を縫うように、グラディウスはバリアを切り裂いていく。
　――――！！
　雷光と爆炎に煽られ、螺旋の気流が激しく噴き上がる。舞い上がったバリアの破片が気流に紛れて消えた後には――もう何も残っていなかった。

●鈴木・七音の幻影分身
「まさか、壊せた……？」
　目を瞠り、叫んだ余波で掠れた声を上げる還。同じく目を瞬いたシェスティンは、思わず相好を崩す。あかりは表情こそ変えなかったが、長耳がぴこぴこと動いた。
　攻撃の際、各々が感じたバリアの感触はけして柔くはなかった。寧ろ、２度目で砕ける率は相当低かっただろう。
　しかし、彼らは成し遂げた。ケルベロス・ウォーも遠からずの情勢に在って、螺旋忍軍の拠点を壊滅せしめたのだ。
「眺めている暇はありませんぞ、グラディウスを持って帰らなければ」
　ケルベロスの任務はまだ完了していない。赤煙の言葉に集るケルベロス達。悠雅を始め、グラディウスを大事に仕舞い込む。
　立ち込める煙幕に紛れ、ダリルの先導で撤退を開始する。だが、さしてミッション地域中枢から距離を置かず、捌号が警戒の声を上げる暇あればこそ――響き渡る轟音！
「……あんた達、よくもやってくれたですね」
　禍々しき偽・「殲剣の理」は、正に憤怒の旋律。立ち塞がったのは、白いケルベロスコートを着たサキュバスのミュージックファイター――否、螺旋忍軍の偽ケルベロス、『夢幻の音色』鈴木・七音。
（「本物……ではないかのう」）
　岳はすぐ眼前の少女に影が無いと気付く。幻影分身の１つだろうが、元より「本人よりも強い」とされており、真っ先に混乱から立ち直ったとなれば。けして侮れまい。
「貴方を倒して……倉敷を取り戻す」
　ドラゴニック・パワーを噴射し、あかりのハンマーが唸りを上げる。鈴木・七音が使うグラビティから、力任せの技は通り易い踏んだが……金髪を幾筋か払うに留まった。
　鎌刃に「虚」を纏うダリルの一撃も同じく――歴戦たる２人の攻撃はクラッシャーであっても、命中の目はあった。にも拘らず、易々と回避した鈴木・七音のポジションは。
「キャスター、ですか……」
　やはり初撃の戦術超鋼拳をかわされ、顔を顰める還。慰めるように鳴いたるーさんは、清浄の翼を羽ばたかせる。
「皆、さっさとやってしまうですよー！」
　取巻く幻影の楽器で歪な旋律を奏で、鈴木・七音は周囲の右往左往に呼び掛ける。回避で時間稼ぎしながら、周囲が混乱から立ち直るのを待つ作戦か。
「気脈の流れはグラビティチェインの流れ……」
　それでも、急いては事を仕損じる。まずオーラの鍼で背中のツボを刺激し、自らを強化する赤煙。
「ビビ各位に、伝達。護衛モードから、医療モードへ、移行……トップオーダーは、傷病を、根絶やしにせよ、です」
　偽・「幻影のリコレクション」の音色が前衛の刃を鈍らせたと知り、シェスティンは高機動蜂型ドローン「Bindabi」を複数体展開する。
「えいっ！」
　魔空回廊破壊が成功しようと、包囲されては怒れる彼女らの袋叩きは必定。一刻も早く、「ケルベロス全員」の攻撃を命中させるべく、地にルーンアックスを叩き付ける岳。
「すばしこい。その足を砕く」
　髪色に似た美しい赤の竜尾を振るう悠雅だが、狙いを付けて尚、万全と言い難い命中精度に、忌々しげに唇を噛む。更に厄付けに於いて、範囲攻撃は単体攻撃に比して後れを取る。短期決戦を狙うなら、単体対象に列攻撃は勿体無い。
（「こんなくそったれな世界でも、何処かに神様は居るんすよ」）
　前衛の超感覚を覚醒させんと、捌号より光輝くオウガ粒子が放出される。範囲強化に使役修正が重なれば、早々の効果は出難かろうが、弛まず重ねんと祈るように両手を組んだ。
　――――！！
　音が爆ぜる。明確な意味を為さぬ鈴木・七音の歌声は呪詛に似て。耳を聾する雑音は、ケルベロス達の脳を直截掻き回すよう。
「そんな心が籠っていない浅薄な歌では、誰も感動させることは出来ませんよ！」
　だが、ケルベロス達は怯む事なく反撃する。あたかも、地球を彩る流星の如く――岳がスターゲイザーと地裂撃を交互に繰り出せば、その軌道をジグザグになぞり或いは竜砲弾を轟かせる赤煙。
「本体は既に逃げたでしょうに。ご苦労な事ですな。貴女も逃げてくれていいんですよ？」
「余計なお世話です。黙って倒されるがいいのですよー！」
「装甲砕くは我が一撃なり」
　眼力が敵影を捉えるを知るや、悠雅が星型オーラを蹴り込めば、「明日から本気を出す」という誓いの溶岩を噴出させる還。影の如く死角から接近したあかりの一閃が、更に敵の傷を抉り裂いた。
　クラッシャーの名に違わず、存分に武器を振るい敵を屠る事に専念するダリルは、その一撃一撃を余さず、デウスエクスの血に染め上げていく。
　幸いであったのは、「怒り」という厄は攻撃時にしか効を及ぼさず、回復は問題なく行えた事だろう。
「聖なる聖なる聖なるかな。届きたまえや、我が祈り」
　悠雅へ無垢なる癒しを祈る捌号。一方、シェスティンは高角砲を背負う蟻型ドローン「Hindramyra」に、ダリルを庇った還の前に障壁を作らせる。
　鈴木・七音の偽・「殲剣の理」の旋律は魔空回廊をを破壊された憤りに満ち満ちていたが、メディック２人が回復に専念する事で他の６名＋２体は攻撃を浴びせ続けた。

●潰したる螺旋、これにて三つ
「適度な雨は必要ですよね」
　還の五穀豊穣の祈りが恵みの雨を呼ぶ。すかさず、捌号のブレイブマインがカラフルな爆風で仲間の士気を高めれば、サーヴァントの爪やブレスに重なり、次々とケルベロスの猛攻が火を噴く。
「……っ」
　白のケルベロスコートを血で斑に染め、顔を顰めた鈴木・七音の旋律が変わる。初めて奏でられたその曲は、彼女の傷を幾許か癒したように見えた。
「押し切れ！」
　自らのヒールを余儀なくされた――敵の劣勢を見て取り、あかりは思わず声を張る。同時に、７粒の種を自らに埋め込む。
「これは、僕の罪……そしてあなたの、罪」
　瞬く間に、あかりの小柄に咲いた７色の薔薇は、鈴木・七音目掛けてのたくるように追い縋る。
「地球さん、どうぞ力を貸して下さいね……私達の熱い思いが貴女を砕きます！」
　岳が大地を割り現出した宝石柱が、彼女を捕える。紅玉の石言葉は「情熱・仁愛」。デウスエクスの魂を重力に誘って粉々に砕け散り、煌めきながら風に溶けていく。
　イヤァァァッ！
　赤煙のナイフが映した惨劇の鏡像は、彼女に何を視せたか。少女染みた悲鳴を上げて飛び退く細身へ、浴びせられるガトリング連射。
「全てを蹂躙。飛び道具は狙いが荒くてかなわん」
　無骨を厭う悠雅の呟きに苦笑して、シェスティンが破鎧衝を繰り出した次の瞬間。
　謳え雷、地に響け――。
　既にミッション地域の破壊が成れば、ダリルが外部より呼び込んだ雷鳴轟き、雷鎖が駆け抜ける。
「如何なる術で耳を塞ごうと、破壊の鳴は高らかに謳わん！」
　号令一下、ダリルが放った気塊は、我が身を庇おうとした楽器の幻影諸共、鈴木・七音を貫き穿ち瓦解させる。
　――――。
　断末魔の叫びも無く崩れ落ちた分身は霧散し、打って変わった静寂が戦場を充たす。
「急ぎましょう」
「然り。無事の帰還が第一なれば」
　俄かに張り詰める空気を、敏感に察する還。勝利の余韻に浸る暇もなく、悠雅達は駆け出した。
　――――！！
　一転、音の洪水が渦巻くも、エイトが遮る間に捌号が包囲の手薄を集中突破。ミッション地域の外までひた走る。
「皆、無事？」
「大丈夫そうですね」
　漸く足を止め仲間を見回すあかりに、ダリルは静かに頷き返す。
「今度は本物も倒しましょう。お疲れ様でした！」
　岳の快活な労いに、暴走も覚悟していたシェスティンも小さく安堵の息を吐く。
「我ら一滴の油、となれたでしょうかな」
　一滴の油、これを広き池水のうちに点ずれば、散じて満池に及ぶとや――今回の一撃も、いずれ地球の人類の勝利に繋がろう。
　満足げな赤煙の言葉に、ケルベロス達は笑み零れた。

作者：柊透胡	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年7月16日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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