雨色日和

作者:志羽

●雨色日和
「ああ……赤字……これから雨の降る季節だけどもうお店、なくなっちゃったものね」
 最後の片づけをしなきゃと思いながら帳簿を見て、溜息をつく。
 何がいけなかったのかと言えばやっぱり店を開ける日かしらと店主の女は思っていた。
 雨の日だけオープンする紫陽花喫茶。紫陽花モチーフで彩られた店内は淡い青、ピンク、それから白といった色味で統一されており、穏やかな雰囲気。
 そして店から見える中庭には紫陽花が今は見頃というところ。大きなガラスドアを開ければ中庭に出る事もできる。
 しかし、この店の売りでは一年、ずっと客が訪れるという事も無く。また不定休すぎて客も通りすがりに見つけた程度の人達ばかり。
 この喫茶で食べて行けるかといえば、もちろん無理な話だった。
「……今度お店を持つなら四季折々の花が楽しめる庭の、年中無休の店かしら」
 店が開く日数と、得られる日銭を思えば雨の日のみオープンというのは商売をするには向かない条件だったと店主は思う。
 ふぅ、と溜息をついたその時だ。
 とす、っと自分の胸を貫くものがあった。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『後悔』を奪わせてもらいましょう」
 その持ち主である第十の魔女・ゲリュオンはそう言って鍵を引き抜くと、店主は崩れ落ちる。
 そしてその傍らに、店主と同じような姿のものが現れた。
 雨模様に紫陽花の柄のエプロン。けれどその頭の部分は全てモザイクに覆われたドリームイータ―だった。

●予知
「本当にあったのか……」
 雨の日のみ開店する紫陽花喫茶が、と苑上・葬(葬送詩・e32545)は零す。
 そして、その店の主がドリームイータ―に襲われてしまう事件が起きるのだと、夜浪・イチ(蘇芳のヘリオライダー・en0047)は紡いだ。
「本当に毎回思うんだけど自分の店を持つのは大変でね」
 店を持つという夢を叶えたのに、店が潰れてしまう。その後悔をドリームイータ―に襲われ、その『後悔』を奪われてしまう事件が起きるのだ。
「その『後悔』を奪ったドリームイータ―はすでに姿を消しているんだけど、奪われた『後悔』を元にして具現化したドリームイータ―はそのままそこにいるんだ」
 だからそのドリームイータ―による被害が出る前に撃破してきてほしいとイチは言う。このドリームイータ―を倒せば、『後悔』を奪われてしまった人も目を覚ますからと。
「事件の起こっている所は、雨の日のみ開店してる喫茶店で雨色紫陽花っていう名前のお店なんだ」
 こじんまりとした店で、中庭は紫陽花が咲き乱れる。雨を受ける様を楽しみつつ、ゆったりと過ごせるというのが売りなのだ。
 そしてこの喫茶の名物は。
「紫陽花パフェがあるらしいな」
「紫陽花パフェ!」
 と、葬の言葉に食いついたのはザザ・コドラ(鴇色・en0050)だった。
 紫陽花パフェ。
 抹茶カステラ、バニラソフトクリーム、紫陽花色のクラッシュゼリー。紫陽花を模したこしあんの和菓子ひとつ、その傍らは薄紫色のソフトクリームを絞りだし模った紫芋ソフトクリーム。それから葉を模したクッキーも添えられているという。
「……食べにいきましょ! あれでしょ、お客さんとしてきゃっきゃして満足させてあげると、敵の攻撃力落ちるんでしょ?」
「うん、それに満足させてから倒すと、意識を取り戻した店長さんも後悔の気持ちが薄れて、前向きに頑張ろうという気持ちになれるっていうしね」
 店主さんを助ける為にもケルベロスさん達にこの事件を解決してきてほしいとイチは言う。
 葬は頷いて、ああと零した。
「丁度、雨も降ってきたな」
 ぱらりと鼻先に落ちた雨。店を訪れるには良い日和だと。


参加者
クィル・リカ(星願・e00189)
ギルボーク・ジユーシア(十ー聖天使姫守護騎士ー十・e00474)
大成・朝希(朝露の一滴・e06698)
アイヴォリー・ロム(ミケ・e07918)
深宮司・蒼(綿津見降ろし・e16730)
アトリ・セトリ(深陰のスプルース・e21602)
ルソラ・フトゥーロ(下弦イデオロギー・e29361)
苑上・葬(葬送詩・e32545)

■リプレイ

●今日は雨
「紫陽花喫茶、なるほど雨の日だけの開店ではなかなか難しいでしょうね」
 そう言ってギルボーク・ジユーシア(十ー聖天使姫守護騎士ー十・e00474)は店の扉を開ける。
「戦いを有利に進めるためにも……ヒメちゃん! 今日は存分に楽しんでね!」
 ヒメノに笑いかけ、ギルボークは周囲を見回す。
「風情はあっていいと思うのですが……時期も限られますしねぇ」
 ともあれデウスエクスの悪行は放っておけない。奪われた夢を取り戻す為にも今は楽しむのが一番。
「ヒメちゃん、雨はじめじめして飛びにくかったりするけど……こんな雰囲気のあるお店に来られるなら雨も悪くないかな!」
 しっかりエスコートも忘れず、ギルボークは席へ。
「店の雰囲気もとても良いですし、パフェも美味しそうなので楽しみです!」
 そんな話をしていると紫陽花パフェが到着。ありがとうございますと笑顔でヒメノはお礼を。
 パフェをまず一口。
「とっても美味しいですね、誘って頂いてありがとうございます」
 パフェもおいしいけどそれを食べるヒメちゃんの姿を見ているだけでもボクの胸はいっぱい! とその気持ちは言葉にせず、誘ってよかったとギルボークは思う。
「とても可愛らしいのであります!」
 ルソラ・フトゥーロ(下弦イデオロギー・e29361)は店に入って笑顔に。
「ソラ、ソラ。このお店とっても可愛いわね」
 そして姉のルラもほんわりゆるく笑み浮かべる。
「雨の日は紫陽花が綺麗に見えるでありますよね、だから雨の日だけオープンなのでありましょうか」
「テラスも気になるしどこの席に……」
 ルソラはううんと唸った後に、こっちが良さそうでありますよ! と姉のルラを手招き。手招きされた所にルラは歩み、ああと零す。
「ここは紫陽花の見える特投席ね。クッションも素敵。お部屋に沢山置いて咲かせたいけど売ってないかしら」
 ぱふ、とクッションの感覚楽しみつつ零すルラ。
 それから、メニュー開いて悩みつつも注文したのは。
「やはり目玉の紫陽花パフェ! 外見も可愛いパフェでありますね。色合いがとっても紫陽花なのであります!」
 いつもは別々の物をはんぶんこにしてるけど、たまにはそれぞれでまるまる1つも良いわよねとルラは言うのだが。
「はい、あーん、してください姉君!」
「って、同じものじゃない?」
 そう言いながらルソラにされるがまま、あーんと一口貰って。お返しは自分のパフェから。
「美味しいー!」
 そう、とルラは笑み、自分でも一口。けれど同じ物なのに貰った一口の方が美味しい様な気もちょっとする。
「雨の日に偶然迷い込んだら忘れられない場所になりそう」
 そう思うのに現実って厳しいなあと大成・朝希(朝露の一滴・e06698)は零す。
「これは近年稀に見る良いお店ですねえ」
 明快なコンセプトと隅々まで行き渡る気遣いがとってもとアイヴォリー・ロム(ミケ・e07918)はくるりとあたりを見回す。
 静かな雨音、心地好い話声。朝希は紫陽花クッション抱えて笑う。
「うとうとしちゃいそうなくらい居心地のいいお店ですねえ」
「確かに何も無いんやったらほんまに寝てまいそう」
「雨の日がこんなに楽しく過ごせるなら降るのが待ち遠しくなってしまいそうだね」
 ミルラは瞳細め、店内と、それから外にも視線を向ける。
「紫陽花の花の中におるみたい。なんや毎年通いたなる場所やなぁ」
 ウーリもまだ店内と庭の景色に瞳細め、表情柔らかく。
 憂鬱な雨をこんなに嬉しくしてくれるなんてお店の心遣いが行き届いてるからこそですねと言いつつ朝希の手が伸びるのはメニュー。
 それを広げて皆で眺める。
「美味しいとわたくしの勘も言っていますね!」
 迷うとアイヴォリーの視線もうろうろ。
「美味しいんだそうですよ! 和風だから飲み物も和のお茶が……は、勿論花もお店も堪能しますとも」
「美味しいんだそうですか!」
 朝希の話を頷き聞いて、ウーリは笑む。
「でも、日本茶以外を合わせても美味しそうだよね……」
 皆迷いながら選んで、注文して。
 ふとアイヴォリーは視線を庭へ。
 天の滴が青に紫に、四葩できらきら跳ねて宝石のよう。穏やかに流れる至福の時間。
「全部留めおけたらいいのに」
 アイヴォリーが零すのとパフェの到着は同じ。
「すごい、本当に紫陽花が咲いてるみたいです!」
「パフェのクオリティの高さ、素敵ね」
 グラスを並べて移せば花の群れ。
 それぞれスマホ取り出しぱしゃりとまず一枚。
 その後もミルラは先ずは目で楽しんで、ウーリはパフェをくるくる、真剣な顔で回している。
「……葉っぱ、いやクリームの花かなぁ」
「中庭の本物にも負けませんね。食べるのが惜しいなあ……」
「花より団子と言うけれど花も兼ねたこれはどちらが勝るだろう、なんて」
 つい食べるのが惜しくなるけれど、と零すミルラに朝希も頷く。
「花より団子はどの季節も一緒やね」
 ウーリは笑い転がす。その声につられて笑みも増え。
「ああ、でも儚いからこそ愛しいのかもしれません。このパフェも食べれば消えてしまうけれど我々の心に残りますから! ら!」
「あっ確かに! 溶ける前に食べて閉じ込めてまおう」
「えへへ、そうですね。写真だけの思い出にしては勿体ない」
「今だけの煌めきを、いただきましょう?」
 スプーン構えてアイヴォリーは笑む。
 楽しみは一片も残さずに。そう言って朝希はスプーンに手を伸ばす。
 可愛らしい和菓子にクッキー、きらきらしたゼリー。
 紫陽花の彩詰め込んだパフェは綺麗だからこそきっと味も想い出も一入。
 いただきますと同時にひとすくい。
 すごく素敵なカフェ、と周囲に視線を向け瞳輝かせるのはクィル・リカ(星願・e00189)だ。
 紫陽花パフェ、とてもとても楽しみとその笑みは尽きる事ない。その笑みに共に席を同じくするジエロも釣られる。
「ね、ね。ジエロ。お店の中、とても素敵ですよ」
 ふかふかソファに紫陽花のようなクッション。これすごく欲しいですとクィルはクッションを抱く。
「似たようなの売ってないかな? ここまでのものは出来ないかも」
「彩りもすごく素敵ですね。ずっとここに居たくなっちゃう」
「ふふ、メインディッシュも楽しみだね、クィル」
「……はっ。いけない。メインは紫陽花パフェでした」
 そうして話していると、その紫陽花パフェが目の前に。
「わっわっ、すごく可愛いです。それにすごくおいしそう。どうなってるのかなぁ……」
 クィルは下から覗き込む。隣で同じようにしている姿にジエロは自然と笑み零し、どうしたのとクィルが首を傾げると。
「こんなところでも似た者同士なのがなんだか可笑しくて」
 その言葉にクィルも笑み、ひとすくい。
「ジエロ、あーん。おいしいですか?」
 僕にもひとくち、くださいねと言うクィルに、おいしいよと笑って、お返しは勿論ひとくち。
 紫陽花もしたクリームを食べて、深宮司・蒼(綿津見降ろし・e16730)が次にとったのは和菓子。
 これも食えんのか? と睨めっこしていると結が美味しいよと一言。今日は蒼の保護者代わりの結。膝の上にそっといるハコもどこかキリッとした顔で、店主に見つからぬように時折テーブルの下にかくれんぼ。
「すっげー! せっかくこんな美味いのに、食えなくなっちまうのは何か勿体ねーよな」
 和菓子の程良い甘さに頬緩めつつ、次に葉っぱのクッキーを一口。
「今度はさ、雨の日と晴れの日でメニュー変えてみるとか?」
 そうやって続けてくれないかなと蒼は紡ぎつつ、気づけばパフェは空っぽ。
「ふふ、お代わりとかしていいのかな? かな? 蒼くんも食べるよね?」
「おかわりしていいのか? んじゃ食べる!」
 そう言って頼んだ追加のパフェ。それを前に結の笑みは一層深く。
「美味しいものは皆で食べるともっと美味しいよね♪」
「ハコもいい食いっぷりだな。うまいか? これも食う?」
 と、カステラにアイスに、掬って蒼は口元に運んでやると一口で。
「……ハコもジィジもなんか体丸くなってねー? 気のせい?」
「え?! そんなことないよね??」
 と、お隣の席にいたザザ・コドラ(鴇色・en0050)に結は同意を求める。
「……うちのはおなかが……」
 まだ大丈夫かな、とお腹の辺りをふにふに。
 その様子をアトリ・セトリ(深陰のスプルース・e21602)は微笑み、折角だしと頼んだ紫陽花パフェをひとすくい。
 雨の日の紫陽花。それが立ち止まって眺める程には好きなアトリ。ここに来るのは楽しみで仕方なかったのだ。
「耳に雨歌、口に花食みやなんて。ソファが花弁なら……親指姫になったみたいやねえ」
 そう言って一緒に訪れたキアラは笑い零す。
 中庭の紫陽花と、手元の紫陽花パフェと。どちらも楽しみは一杯。
「葉っぱのリーフクッキーが気に入ったよ、さくさく」
 そんな会話の間にアトリは笑み零す。
 誰かをカフェに誘うのは初めて。
 雨の日はキヌサヤと部屋でのんびりしているのだが、こうやって出かけるのもまた楽しい。
 そのキヌサヤは家と同じように傍らで丸くなっている。
 傍らのサーヴァントの話になれば、うちのこのろけもたくさん。
 寝姿が可愛くてね、とアトリの表情は緩む。
「うちね、うちね。日本来て雨と飴、同じ音って知ってからなんや雨の日は本の世界に入りながら甘い物を供につけることが多くなったん」
 そう言ってキアラはくるりと店内を見回して、こんなええお店、ずうっといたくなってまうなあと零す。
 そしてふっと外の紫陽花に目を向け。アトリもつられて。
「きれいな紫陽花だね。紫が、一番好きかな」
「……紫陽花の移ろう心。寂しく聞こえるかもやけどアトリのうちへの心が関心に変わらんかったら……」
 そう言ってふと、零す。そしてキアラはぱっとアトリへと視線向け。
「だって始まりは依頼一つやったもん。変わるものも、ええね」
 ありがとだよと笑って、あげるとプレゼントしたのはさっき気に入ったと紡いだ葉っぱのクッキー。
 そんな、皆の華やぎをどこか眩しいと苑上・葬(葬送詩・e32545)は瞳細める。
 拘りを持つのは個性であり悪い事ではない。けれど自己満足だけでは客足は見込めないと葬は思う。
 折角なのでと注文したパフェが来るまで、テラスにて紫陽花眺める。弾む雨滴も音律めいて、心擽られる心地。
「雨音と合わさって音楽みたいだね」
 柔らかな表情で紫陽花眺めつつ、夜もほとりと零す。
「成人男子一人ではパフェとやらを食すのが聊か気恥ずかしくてな」
 藍染殿もご一緒なら違和感はあるまいと零しふと笑えば、妹を伴えばよかったのでは、と夜は問う。
 しかし問うた後にさてはと心当たり。
「いやなに、単に道連れだ。女性に慣れた貴殿ならこの雰囲気にも馴染んで居るのだろう?」
 やはり道連れかと肩竦める夜にからりと笑みつつパフェが来ると席に。
 雨上がりに煌く紫陽花のようなと夜は言いつつ、まず一口。
「崩して仕舞うのが惜しいくらいだ」
 けれど口にすれば、一つ一つが味わい深く、次々と匙が進む。
「多くの人に知られずじまいなのは勿体無い限りだね」
 最後の抹茶のカステラの僅かな渋みが甘い全体を引き締めてくれると夜は最後の一口を。
 とても美味しかった、御馳走様と葬と夜は声揃える。

●雨の中で
 そうしてカフェを満喫して――店主はどこか楽しげで嬉しそうな様子。
 それはつまり、戦闘能力の低下を意味する。
 攻撃の意志を向ければ――店長であったドリームイータ―はすぐさま臨戦態勢を取った。
 戦う場所は少し開けた中庭。そこは戦うに十分な広さがあった。
「こっちだぜ!」
 挨拶代りに一発。蒼は敵に軽く触れる。しかし螺旋の力の奔流が触れたところから流れ込み、敵を内側から破壊していく。
 その間に中庭に出れば、敵もつられて店から出てくる。
「店主さんには目を覚ましてもらわないと、ですね」
 だからそのために、とクィルは仲間達へ力を振るう。
「集中――ただそれだけのこと」
 翳した指先に宿る光。それは水に息を吹くもの。冴え冴えと、氷を透かすように澄んだ冷気をアイヴォリーのもとへ。
 曇り無く、邪念無く、ただ一筋に敵を捉える力を贈る。
 その力にありがとうと視線一つ、アイヴォリーは返す。
「忘却は蜜の味、どうぞ心ゆくまで」
 熟れ過ぎた心臓を蜂蜜で煮詰め、黄金の生地で幾重にも包み込む。出来上がるのは素晴らしく甘美な一皿。けれど、残念ながら触れるとたちまち溶けてしまう。
 その攻撃受けながら、敵は紫陽花を生みだし放ってくる。その攻撃を、仲間守るべく間に入って受けたのは蒼。
「あ、ヒメちゃんは危ないから安全なところに離れててね!」
 戦いは任せてとギルボークは斬霊刀を向ける。その刃に宿るのは雷の霊気。
 それをもって放たれた突きが敵を捕らえる。
 続けて朝希は一足、踏み込んで縛霊手を振りぬいた。その衝撃と共に敵の身は縛りを受ける。
 アトリは後方から古錆びた銀のリボルバーを抜いて弾丸放つ。目にも止まらぬ速さの攻撃は攻撃起点たる手元を狙って。
 そして傍らではキヌサヤが羽ばたき前列の仲間達へと援護を贈る。
「歌え踊れ花咲きほこれ!」
 ふわっふわっとあふれ出る花。ルソラの咲かせた花は舞い咲き誇る。
 その花に導かれるように、何も考えずにそれいけ前へとツインテール揺らして駆け抜けて。
「どの花が好き? って聞くまでもないでありますか!」
 きっと店主殿は紫陽花がお好きとルソラは思う。
 続いて葬は踏み込み、その脚を振り上げる。電光石化の蹴りは敵の身に痺れを残し、その動きを止め置く。
 ザザも攻撃に加わり、敵は大きな一撃をこちらに与える間もなく削られていく。
 それは満足したことによって戦力が落ちていたこともあり、戦いの流れは一気に決まった。
 先ほど一緒に楽しんだ仲間達も、その手を戦いに貸してくれ、次々と攻撃が決まりふらりと敵の身は傾く。
「物事の終わりを知れば、次へと踏み出せる。再出発への餞に店仕舞いを手伝わせて頂こう」
 これは良い機会になるだろうと、次の一手への為に葬は攻撃向ける。
「七変化の名を持つ花に似た頭部だが、散らさせて貰うよ」
 拳に己の力込めて放てば、敵の魂喰らう降魔の一撃。
 それを喰らった敵は、その身散らして果て消えた。

●雨はまだ
 戦いによって庭の一部は傷ついている。紫陽花に被害があるわけではなく、庭の地面、芝生が少しばかりめくれているくらいだ。
「澄み雪げ……水郷の参式、天網恵雨」
 しとしとと小振りの雨。それを集め自らの生気を蒼は拭きこむ。そして、雨に交じって振るそれは地面を癒し元通りの姿に。
 そして、本当の店主が目を覚ます。
 何があったのかちゃんと理解しているようではなかった。けれどその表情は薄暗く、どんよりと絶望しているというようなものではない。しかしまだどこか、諦めのようなものは感じられる。
 そんな店主を介抱しつつ、アイヴォリーは笑み向けて。
「ねえ、とっても素敵なお店ですね。わたくし大ファンになってしまいました」
「ありがとうございます。でも、この店はもう」
 そう、店主が紡ぐ言葉にそれはわかっているのとアイヴォリーは頷く。
「――だからもし、貴女がまた立ち上がるのなら常連第一号に手を挙げてもいいかしら?」
 アイヴォリーは皆似たような気持ちなのよと笑み向けると店主は皆を見回した。
「ヒメちゃんと一緒に来られたから、という訳ではないですがいいお店でした」
 商売だから難しいのはわかる。けれど、またお店を始められたら、伺わせてもらいますよと言うギルボークにヒメノもまたお邪魔したいお店ですねと頷いて。
「ヒメちゃんもその時はまたボクと一緒に行こうね! ……その、来てくれるよね?」
「もちろん、ボクくんからのお誘いも大歓迎ですよ」
 伺うような声色にまた食べに来ましょうねと笑うヒメノ。ギルボークはうんと笑み浮かべる。
「僕もパフェ、すっごく感動しました! きっとほかの天気の日に頂いても雨の日ならもっと素敵だろうな、って」
 何度でも来たくなると思いますと朝希は心からのことばを向ける。
 この言葉を――滴を糧にまたひらく花がありますように、と。
 この店はなくなってもまたと朝希は店主へと笑む。
「雨の日だけテラスの扉を開くとか、雨の日だけの特別メニューなどを用意して毎日といわずとも営業するのも良いかもなのであります」
 ほかにも色々な提案をルソラはして。
「こんなに素敵なお店なんですから、絶対お客さんももっと来ると思うのでありますよ!」
「雨の日に限らず開いて、どうか続けて欲しいな」
 そう言って、まだ雨が降ってますねとクィルは空を見上げる。
「帰り道もこれの出番のようです」
 雨の日のお出かけ用の大きな傘。その中には星空が描かれていて、クィルとジエロは一緒に入り星空の下を歩く気持ちでカフェを出る。
「新しくお店を再開したら、立ち寄りに行くよ。お花と空間の雰囲気を大事にしたサービス、また味わいたいからね」
 その日を楽しみにしているとアトリも紡いで店を後に。もちろんうちも! とその後をキアラが追いかける。
 終わりよければなんとやらだと、夜が零す。葬はもう大丈夫そうだと紡ぎ夜と笑み零しあった。
 それは店主の花綻ぶ笑みを目にしたから。
 何時の日か、新たな店を構えた時に――またのご来店をお待ちしておりますと微笑んだ。

作者:志羽 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 2
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