アーリーサマー・ホラーナイト

作者:七凪臣

●白衣の狂天使
 澱む空気に、ツンと鼻を刺す消毒薬の残り香が細く尾を引いている気がした。
 壁にはめ込まれた大きなガラス窓は白く埃を被り、雨の当った跡が涙のように垂れて残っている。
「……ぜっ、絶好のシチュエーションっ、だよな!」
 懐中電灯で闇を丸く切り取り、少年――リィド・エディオは静寂に声を張り上げた。しかし定まらず揺れ続ける光の帯が、彼の手元が震えていることを如実に表している。
「はっ、廃病院を彷徨う殺人ナースの噂なんてっ。っか、格好のっ、サマーバケーションネタだよなっ!!」
 言葉尻に多くの息が混じるのも、恐怖の証。
 けれどそれを上回る興味と好奇心に、リィドはガタつく膝を叱咤して、真夜中の廃病院をうろつく。
 数年前に潰れたというそこは、三階建ての個人病院。
「さぁ! 出てっ、来い!! 殺人ナース!!」
 診察室や処置室、検査室だった一階は後回しにし、入院病棟だった二階をリィドは大きな声とは裏腹にそろそろとゆく。
 ――そして。
「……こっ、ここか!?」
 軋む引き戸を開き、一つの個室を覗き込んだ時。
 リィドの胸には巨大な鍵が突き刺さる。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 果たしてリィドの瞳に『それ』はどう映ったのか。されども反応一つ返せず、意識を失ったリィドは蒸し暑さと冷たさが綯い交ぜになった床に崩れ落ちた。
 残されたのは、リィドから奪った『興味』から第五の魔女・アウゲイアスが具現化させた、返り血に塗れた白衣の狂天使。
『コロ、コロ、コロス。コロス、コロスコロスーー……』

●肝試しの予行演習
 この一件を危惧した時、鷹野・慶(業障・e08354)は言っていた。
『肝試しは止してくれ』
「まぁ、実際肝試しですよね。廃病院に殺人ナース。リィド君も夏休みに友人たちを驚かせる為のネタ探しとしてここを訪れたようですし」
 止してくれ。
 そう願ったにも関わらず、現実になってしまうのが世の無常。
 かくしてリザベッタ・オーバーロード(ヘリオライダー・en0064)は語り出す。
 『廃病院を彷徨う殺人ナース』の噂から形を成した、白衣の狂天使なドリームイーターに関するあれこれを。リィドを無事に目覚めさせる為にも。
「リィド君から『興味』を奪った方のドリームイーターは既に姿を消していますが、殺人ナースはまだ現場に残っています」
 現場となるのはリィドが探検していた廃病院。
 階や場所はどこでも構わないが、存在を信じる素振りや、噂話、そして怯える風情でいたら、あちらから現れてくれる。
 ナースキャップにワンピースタイプのメディカルウェア、ナースシューズで揃えた姿は、文句なしの白衣の天使。けれど彼女が纏う白は夥しい朱に濡れ、モザイクで埋め尽くされた顔は狂気の笑みを浮かべているようにも見えるという。
「何せ殺人ナースと言うくらいですからね。現れるや否や、問答無用で此方に襲い掛かってくる筈です。怯えていると格好の的になるんじゃないでしょうか」
 時間帯は深夜。
 シチュエーションは絶好ですね、とリザベッタは完全に他人事の体でお気楽に笑う。これから現場に出向かなくてはならない面々からしてみれば、敵は一体とはいえ、夏を先取りした恐怖体験になるかもしれないというのに……!
「大丈夫ですよ、皆さんならささっとぱぱっと片付けて下さるって信じていますから。それに、ほら。殺人ナースを倒したらリィド君もちゃんと目を覚ましてくれますし。どーんと、やっちゃって来て下さい」


参加者
カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)
リヒト・セレーネ(玉兎・e07921)
鷹野・慶(業障・e08354)
祟・イミナ(祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟・e10083)
妹島・宴(交じり合う咎と無垢・e16219)
御堂・蓮(刃風の蔭鬼・e16724)
レクト・ジゼル(色糸結び・e21023)
藍凛・カノン(過ぎし日の回顧・e28635)

■リプレイ

●幽?
 足音の立ち難い廊下に、ひたひたひたと忍ぶ響きが重ね鳴る。
 窓の外は梅雨の闇。けれどそれ以上に停滞した闇が廃病院には立ち込めて――いる筈だった。
(「僕は本物の幽霊に会ったことが無いのです」)
 仲間にサンドされてるのにふらふら迷子りそうな方向音痴のカルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)の瞳は、掲げる灯りよりもキラキラしている。
(「肝試しとは、幽霊に会いに行くイベントと聞きました!」)
「廃病院で僕と握手……じゃ、なくって」
 通りすがりの処置室扉を勢いで開けようとしたカルナ、ふと思い出す。確かこういう時は、溜めるのがお約束だと誰かが言っていたのを。
「……おじゃましますー」
 瞬き三回分くらいの静寂――からの。
「ぎゃああああ」
「わぁあ」
 鷹野・慶(業障・e08354)の絶叫。その音量に驚いたカルナの間延び気味の悲鳴。
「なっ、何かいたの、でしょう、かっ」
 一連の流れに肩を跳ねさせたリヒト・セレーネ(玉兎・e07921)が、心臓バクバク言わせ乍らも懸命に平素を装い訊ねれば、
「……つー感じで驚くんだよ。迫真の演技だったろ?」
 慶、いい感じ(と思っているのは本人だけの可能性)に誤魔化した。
 因みに、瞬き三回分の間に何が起きたのかと言うと。絶好の機会とばかりに、慶は目の前の人物を驚かそうと肩にタッチした。で、接触テレパスで『――みつけた』なんて幽霊よろしく語りかけてみた。だが、相手は祟・イミナ(祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟・e10083)だった。
 そう、イミナだったのだ。長い黒髪を白い貌にだらりと垂らし、如何にもな恰好で藁人形を握ったイミナ。苗字やら称号で色々お察しイミナ。そんな彼女が雰囲気たっぷりに慶を振り返ったものだから以下略。
「相手の正体が判ってるってのは有り難てぇよな。あれこれ考えずに済む――勿論、判らなくたって、別にビビりゃしねえけどさ」
「そ、そうです、よね」
 カハハと若干呼気多めの慶の笑いに、今宵最年少のリヒトは素直に納得する。だって、この薄気味悪い廃墟に単身挑んだリィドだって同年代。リヒトも負ける訳にはいかないのだ。
(「暗いし、怪しいし、怖……くはないけど!」)
 内心で漏れかけた本音を全力で否定し、リヒトは年長者たちをぐるりと見遣り、
(「……皆、平気なのか――っ」)
 いつの間にか怪しげな物陰に移動していたイミナと目が合い、びくりと身を竦ませた。

 置き去られた医療器具や、蠢く小動物。それらの影に虚を突かれるより、イミナに驚かされ続けた一階探索を終え、一行は温い隙間風が吹く階段を上がりリハビリ室等がある二階へ至る。
「リ、リハビリ室は……」
「あちらのようです」
 リヒトが見つけた案内板の埃を払い、レクト・ジゼル(色糸結び・e21023)は慣れた足取りで歩き出す。幼い頃から『病院』に馴染むレクトにとって、ここも庭に等しく。大凡の構造はすぐに頭に入った。
 人の手が入らなくなった地は、廃るのみ。張った蜘蛛の巣には、小虫がかかり。朽ちた遺骸も埃と同化し、在りし日を遠く物語る残り香と相俟り、視覚、触覚のみならず嗅覚をも刺激する。
「――雰囲気はあるな」
 翳した光に細かな塵がちらちら瞬く夜を、御堂・蓮(刃風の蔭鬼・e16724)はしげしげと観察した。
 濁った空気は重く淀み、確かに今にも『出そう』な空気感はある。
「人の生死が関わり、尚且つ古い場所にはどうしても付き物な話だな」
「そうですね」
 日頃から曰く付きな品や憑き物の相手をしている蓮のお墨付きに、妹島・宴(交じり合う咎と無垢・e16219)もまた頷く。
 が。
「普段、除霊のために廃墟に来る事はありますが……こうして肝試しをするようなことはないので新鮮です」
 イミナがゴーストスケッチで動かしたペンにぴくんと反応した慶や、無邪気にきゃっきゃ喜ぶカルナ(その肩には、ちょっとがっくり気味のシロフクロウ)。そんな様子をかつての縁から「流石、イミナさんっす」なんて内心で思っている通り、宴は怖がっていない。勿論、蓮も。二人とも、全く普段通り。肝試しと言いつつ、肝は試されてない。全く、これっぽっちも。
 更に。
「大丈夫じゃよ。いざとなったら吾輩が壁になるからのぅ」
 必死に強がるリヒトの頭をそろっと撫でる藍凛・カノン(過ぎし日の回顧・e28635)に至っては、目が輝いている。
「ふむ……殺人ナースとか言ったかの。どこから出て来るかのぉ?」
(「吾輩、年甲斐もなく楽しんでしまっているぞい」)
 実年齢は22歳ながら、老成した雰囲気漂わすカノンは夜行性。お陰で内心のワクワク感は絶賛ダダ漏れだ。
「……」
「……」
 無言で視線を交わす慶とリヒト。殺人ナースが可哀想になって来ていた。

「……うむ。怨念が渦巻いてそうで良いな、此処は」
 ああ、こんなところで祟りたい。
 ……祟る、祟祟祟……。
 ふつふつと口の中で繰り返すイミナに、懲りずに顔を強張らせたリヒトは、ふぅと深呼吸して周囲を見渡す。
 置いてきぼりのリハビリ器具には、手垢が残り。『ここから出たい』という想いを立ち昇らせるよう。
「殺人ナース……もしかして此処が廃病院になったのって――」
 ぞわり。自分の想像にリヒトはひっそりと体を震わせる。の、だが。
「患者へ安心を与え、生きる為の手助けをする者が殺人呼ばわりとは。一体、何をしたんでしょうね」
 同じ結論に至っていたレクトは、静かな怒りに身を震わせていた。正しく医療の道を目指すレクトにとって、殺人ナースなど言語道断。夢喰いだろうと噂だろうと、許せるものではない。
「はっはっは。皆、それぞれじゃのう――いや、ここはびくびくしないといけないんじゃったな」
 カノン、慌てて取り繕うが。若干、遅い。頑張って作った空気が、もう和らいだ。
「怨霊と化したのなら、恨みを抱いて死したか。尚も思念を残し殺人に興じる恨み――その姿、拝んでみたいものだ」
 すかさず蓮が軌道修正。事実、蓮には、本物の死者の霊なら祓い、安らかに眠らせるのに、という想いがある。されど、やっぱり。恐怖ではなく興味。
「ナースの幽霊が出るなんて面白そ……、じゃなかった、怖いですね!」
 かくして、相変わらずの調子なカルナは手にしたランタンを高く掲げ、リハビリ室を四方隅々まで照らし出し、
「あ」
 窓際の天井を見て、一時停止。
「あ」
 同じ場所へ視線を移した慶、惚けた。
「あ」
 猫よろしく、空っぽの筈の空間をじぃっとみつめていた宴も眼を動かし、語尾を上げる。
 何故なら、そこには。
『……こ、コロ、こ』
 噂話に引かれて現れたものの、微妙にタイミングを逸したっぽい血濡れの――。
「やっぱりナース服はサイコーっすねえ」
 多くは語るまい。無類のナース好きな宴が、口数少なくぼんやり系イケメンである筈の宴が、ちょっぴり(?)テンション上がる姿の何某が四肢をつっぱり張り付いていたのだから。

 その道のプロ二人。真面目一人。むしろあっち寄り二人。天然一人。
 対し普通が二人じゃ、肝試しも肝試しにならなかった(殺人ナースも涙目)!

●それでも果敢にブラッディ
 情緒不安定を掻き立てるモザイクが、最低限の光源を受けて殺意に輝く。
『コロ、コロ、コロス。コロスコロス!』
 どす黒く変色した部分から鮮やかな緋を不条理に滴らせ、殺人ナースは慶が連れたウイングキャット――ユキの力を吸った注射器を床へと放り。新たな獲物目掛けて、ナースシューズで床を蹴る。
 一応、鬼気迫る状況。けど。
「……勿体ないっすねえ」
 宴はアンニュイ成分多めの溜め息を零す。
「血に染まっていなければ、良かったんですが」
 前述の通りな宴の着目点はそこ。ナースなら人でなくても良いのか、というツッコミはさておき、宴は惜しむように退魔の力を備え雷喚ぶ錫杖を構えた。
「逃げられるとお思いでしたら、どうぞ?」
 一気に詰めた間合いは、殺人ナースの懐の内。刃を突き出すモーションと同じにグラビティを込め雷を帯びた紫電を夢喰いに叩き込めば、血濡れのナースは衝撃に全身からモザイクを散らす。
 されど、再び体制を整えた時には既に殺意の塊。乱れたナースキャップの位置を直すと、点滴チューブを生成する。
 正直、治療以外ではお世話になりたくないタイプ。
「大人しく成仏して来世は本来の仕事を全う……いや、夢喰いに言っても無駄か」
 蓮は凪いだ漆黒の瞳で静かに敵をそう判じ――、
「空木、フリでもいいから怖がれ」
「Σ」
 傍らのオルトロスへ無茶ぶった。
「……まぁ、お前の顔も十分怖いが」
「ΣΣ」
 違う、怖くない。凛々しいだけ(空木、声なき訴え)(多分)。
「いや、悪かった。そんな顔するな」
『コロスーー!』
 ブチ切れ気味の殺人ナース、幕間のやり取りに痺れを切らし、恐怖に惹かれてるのか怒りに任せてるのか分からない勢いで空木を点滴チューブで絡めとった(空木、なんやかんやで頑張った。あと、空木同様にイミナに無茶ぶりされたビハインドの蝕影鬼もそれっぽくなるよう尽力してた)。
 そしてそこを蓮が縛霊撃で返り討ち、空木も咥えた神器の剣で応戦する。
(「あー……」)
 恐ろしきは、人ならぬモノより、人の業。
 そんなことをふっと脳裏を過らせつつ、若干遠い目で慶は巨大ハンマーをフルスウィング。ユキは素知らぬフリで清き翼をはためかせた。
「大丈夫。コレは殴れます。倒せます」
 殴れるものイコール殺れるもの。オカルトだろうと何だろうと、実態があればこっちのものなカルナは相変わらずの天然ぶりで、実に楽し気。
「穿て、幻魔の剣よ」
 さっきまでお目付け役ポジションに鎮座してたシロフクロウから転じた杖を携え、不可視の魔剣を生成し、攻防一体となった高密度な魔力の塊である一撃で夢喰いのメディカルウェアを無残な姿へ変える(この瞬間、宴が「勿体ない」と思ったか否かは不明)。
「ふぅむ。生死をかけた鬼ごっこは、もうちょっとスリルがあると思ったんじゃがのう」
 赤い瞳を怪し気に煌かせ、カノンは早くも劣勢に追い込まれた殺人ナースへ一瞥を呉れた。
 マイ棺桶を寝心地良いと述べるカノンが思い出していたのは、最近プレイ中の某ゲーム。ハラハラドキドキ展開が刺激的なのだが、どうから今宵は愉快成分の方が上回るらしい。
 それでも。
「まぁ……倒れるのが殺人鬼側なのは同じじゃな」
 夜に戯れる美丈夫はククッと喉を鳴らし、夢喰いへ悪夢を見せる魔弾を放つ(おそらく、この状況そのもが殺人ナースにとっての悪夢だ)。
 そして何より。
「……蝕影鬼、怪異や怨念で負けられんな」
 イミナの存在が、殺人ナースを苦しめる。だってどっちが怖い? どっちが皆を驚かせた!?
「……背筋が凍るほど凍てつけ」
 含みを持たせまくりな一拍置き口調で世界を自分色に染め、イミナは螺旋の力で殺人ナースを氷らせた。追う蝕影鬼も本家本元ポルターガイストで仮初の幽鬼を痛めつける。
「殺人するナースはナースと認めませんよ」
 更にレクトは殺人ナースを根本から否定。ナースとは人を癒す聖職。逆を行う時点で、レクトにとって夢喰いは『ナース』を名乗るに相応しくない存在なのだ。
「怪我や病気を治すために尽力してる方々の名誉のためにもさっさと消えてもらいましょう――優しき願いに応えて集え」
 医師を目指す青年は、至極真っ当な志を胸に力を振るう。招かれた清浄なる風は、殺人ナースの振り撒く淀みさえ吹き飛ばすよう仲間を癒し。共に在るビハインドのイードは、見守る穏やかさのまま敵を縛めた。
「ぼくも、頑張ります……!」
 残された爽やかなペトリコールを嗅ぎ、リヒトも凛と胸を張る。幼くとも、リヒトもドクター(殺人ナースに唯一キョドってくれたけど。盾役を担うサーヴァントを憐れんでくれてたけどっ)。
「病院は人を癒すところだ。傷付けるのは、許さない――さぁ、遊んでおいで」
 レクトの首肯を横目に、リヒトは掌大の光弾を放つ。それは祖父から教わった初級魔法。闇にウサギが如く跳ねた光は、殺人ナースを翻弄した。

「さすが殺人ナース、自己回復より患者第一ってか。でも世話されっぱなしじゃ悪いからな、こっちからも同じ技を見舞ってやるよ!」
 その技、くれよ。もっと上手く使ってやるから。
 尊大にも聞こえる詠唱通り、慶は召喚した大型絵筆で鋭き手刀を模写し、殺人ナースの胸部を深く抉る。
『コロ、ころ、こロッ』
 歪むモザイク顔は口惜し気。それを鬼に喩えた蓮は、己が鬼とも言う本の頁をするりと撫ぜた。
「ここに悪霊などおらんよ。あるのは人の興味だけ」
 一瞥。そして、ぱたりと本を閉じた蓮の心は殺人ナースになく。体を引いてイミナへ道を譲ると、結末を託す。
 かくて、怨霊同士――もとい、女二人は向かい合い。
「……忌まわしく、呪わしく、糧になるといい。……祟る祟る祟る……祟祟祟……封ジ、葬レ…!」
 打ち込まれたのは呪力を込めた杭。幾度も、幾度も、幾度も。
 返り血を浴びるよう、モザイクを爆ぜ散らし。怨念勝負で勝利した(!?)イミナは、興味より出でし殺人ナースへ真の恐怖と終わりを呉れた(なお、宴がナース服との別れを惜しんでいたかは謎)。

●むしろホラー
 好奇心は猫を殺す、ともいう。全く、この少年は本当に殺人ナースに遭遇したらどうするつもりだったのか。
「こういう領域へは、対策なしに踏み込むな。いや、対策していてもいかんが」
 膝を折り視線の高さを合わせた蓮の言葉に、目覚めて状況を把握したリィドの肩が落ちる。
「そもそも廃墟は危険だとわかっていますか? 犯罪者や裏社会の人間が隠れ住んでいる可能性もあるのですよ――それに」
 ちら。思い切り意味あり気に宴は虚空を見遣った。そこに『何か』がいるように。
「……ふぅ。今回はぼくらが駆け付けましたけど、誰にも気付かれずデウスエクスに――」
「いやいや、にーちゃん。ちょっと待ってよ。今の何っ!」
 説教内容より思わせぶりな態度にリィドは肝を冷やしたらしく、ざぁっと顔が青褪める。そして物陰からそぉっと除くイミナに気付いて、ひぃっと叫ぶ。
「とにかく。君が無事で良かったよ」
 恐怖に身を竦ませた少年の頭をレクトはそっと撫でる(イードも倣うが、それでまたリィドびっくり)――が、その後のお説教も勿論忘れない。

「むしろお説教が記憶に残るかものう」
「みなさん、ほどほどですよ」
 リィドに振るわれる飴と鞭作戦をカノンは呑気に笑い、カルナは相変わらずのほほん。だが子供なリヒトにとってはリィドの置かれた状況は他人事には思えず。ちびっこドクターは、色んな意味で『肝試しはもういいかな……』と心に誓う。
 で。
「ま、無事解決で良かったぜ。さ、帰ろ……」
「……祟る、祟祟祟る」
「Σ」
 出口へ向かった慶が、またも先回りしていたイミナに驚かされるところまでがお約束。
 結論。幽霊や夢喰いよりも、生きてる人間の方がホラー?

作者:七凪臣 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 9
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