ユグドラシルの意志の元に消えし命

作者:陸野蛍

●攻性植物の『巫女』の最期
「たかが、ユグドラシルの操り人形が俺に勝とうなんざ、100万年早ぇえんだよ! くそがぁ!」
 コルトと呼ばれる、美しい民族衣装も、2mを超すエインヘリアルの巨斧に引き裂かれ、その北欧民族サーミ族の特徴を持った女は、膝を付く。
 斬り裂かれた着衣からは、攻性植物の浸食がトライバルタトゥーのように緑の紋様として浮かび上がっている。
「私は倒れません……私の使命は、『デウスエクス・ユグドラシル』以外のデウスエクスを葬り去ること。たとえその為に、命を落としても……私の躯は、ユグドラシルの元へと還るでしょう……」
 淡々と静かに自分の成すべきことと、成せなかったとしても無駄にならないと……その金の髪の女は、言った。
 数分後、エインヘリアルの巨斧が彼女の身体を上半身と下半身に別った。
 彼女の躯の傍らには、エリカの花を咲かせるシャーマンズカードが落ち、彼女の種子を受けた、小鳥や野犬と言った小動物達も躯となって、辺りを赤く染めていた……。

●必要なのは『巫女』としての彼女では無く
「みんな! 暴走後、行方不明になっていた、スヴァルト・アール(エリカの巫女・e05162)の所在が分かった! だけど、事態は緊急を要する。説明次第、和歌山県にヘリオンを飛ばし、彼女を救出に向かう。今回の任務を理解した者は、直ぐにヘリオンに搭乗してくれ!」
 ヘリポートに現れた、大淀・雄大(太陽の花のヘリオライダー・en0056)は、資料を開くと口早に説明を始める。
「スヴァルトは、徳島県鳴門市の東の海上にある『雪晶島』のミッション破壊作戦時に暴走し、行方不明になった3人の内の1人だ。戸籍上は地球人なんだけど、暴走後は攻性植物として、半デウスエクス化した模様。戦闘能力は暴走前より格段に上がっていたんだけど、どんな形でかは分からないけど、ユグドラシルの意志を受け、攻性植物の『巫女』として、他のデウスエクス勢力に戦闘を挑み続けていたみたいだな。その結果、和歌山県山間部に出現する魔空回廊から現れる、罪人エインヘリアル『巨斧のニグリューム』に殺害される未来が視えた。みんなには、この窮地を救い、スヴァルトを本来の人格に戻してほしい」
 罪人エインヘリアル『巨斧のニグリューム』は、和歌山県市街地へと攻撃に向かう途中、ユグドラシルに操られたスヴァルトと遭遇、敵と見なし、久方ぶりの巨斧の贄としてスヴァルトを両断するらしい。
 デウスエクス同士が争っても本来ならコギトエルゴスム化するだけだが、スヴァルトの攻性植物化は完了していない……そこに待つのは、完全な死だ。
「現着して、ヘリオンから降下出来るのは、スヴァルトが止めを刺される直前くらいになるな……誤差分早く着いても、1、2分が限界だと思う。スヴァルトは、ほぼ身動きの取れない状態になっているけど、暴走状態のままだと、みんなも攻撃対象として彼女の目には映る。スヴァルトの動きを上手く抑制した上で、『巨斧のニグリューム』を撃破、その後、スヴァルトの暴走解除が出来るようにしてくれ。ただ……」
「ただ……なんじゃ?」
 歯切れの悪い雄大の言葉に、野木原・咲次郎(金色のブレイズキャリバー・en0059)が先を促す。
「スヴァルトの暴走を解く正確な方法が分からない……。思考は完全にユグドラシルに支配されていて、『ユグドラシルの巫女』となっている状態。デウスエクスとしての力は、まだ、小動物を種子で支配する程度の弱い物なんだけど、完全回復した場合、かなり強力な攻性植物になってしまう。可能性があるとすれば、『巫女』としての彼女では無く、彼女を『スヴァルト』として必要とし、受け入れる心からの言葉……植物に雨が必要な様に、スヴァルトと言う花を育む気持ちを、多くの者が持ち寄ることだと思う」
 スヴァルトの戦闘でニグリュームは少なくなくないダメージを受けている状態だが、その状態でも十分な強敵だと言う。そして、スヴァルトも、ケルベロスとデウスエクスの区別がつかない状態。
 厳しい戦闘……加えて、スヴァルトを本来の姿に戻すこと、かなり難しい任務になるだろう。
「一筋縄じゃいかない、依頼だ。危険も伴うし、最悪……スヴァルトの未来を諦めなければならない結果になるかもしれない。それでも、ケルベロスとしての『スヴァルト』の心が心底に潜っているだけなのなら、みんなの想いは届く筈だ。……宜しく頼む」
 真摯な瞳をケルベロス達に向け言うと、一刻も早い離陸の為に、雄大はヘリオンへと駆けて行った。


参加者
蛇荷・カイリ(暗夜切り裂く雷光となりて・e00608)
大義・秋櫻(スーパージャスティ・e00752)
ディークス・カフェイン(月影宿す白狼・e01544)
真夏月・牙羅(ネコゴニアン・e04910)
村雨・柚月(黒髪藍眼・e09239)
山口・ミメティッキ(満月の夜の夢・e10850)
リディア・リズリーン(想いの力は無限大・e11588)
南條・夢姫(朱雀炎舞・e11831)

■リプレイ

●巫女の死を覆すべく
 ヘリオンが和歌山県山間部森林地帯の真上に差し掛かると、村雨・柚月(黒髪藍眼・e09239)は一も二も無くヘリオンから飛び降りた。
(「作戦を成功させても、戻って来なきゃ意味ねぇんだよ。まだ望みがあるなら……連れ戻す、絶対にだ!」)
 心底では、助けを求めているであろう、スヴァルト・アール(エリカの巫女・e05162)は、この眼下に居る筈だ。
 スヴァルトの為に黒猫師団の仲間達を中心に多くの仲間が集った。
 彼女の人望の成せる業だと柚月は思う。
「まずは、スヴァルトさんを守り切る! 行くぞ!」
『巨斧のニグリューム』と思しきエインヘリアルが金髪の女性……攻性植物となってしまった、スヴァルトに向かって、その巨斧を振り上げるのがケルベロス達の目に入る。
 スヴァルトは、地に膝を付き、避けることも適わないだろう。
「やらせないでぃす!」
 急スピードでニグリュームとスヴァルトの間に割って入ったのは、リディア・リズリーン(想いの力は無限大・e11588)だ。
 リディアは肩口に斧を受けるが、不敵な笑みを浮かべると、一度着地した反動で跳び上がり、美しき虹を纏った勢いのある蹴りを放つ。
「迎えに来ましたよ、アルトさん!」
「……ケ……ロス。……ドラシルの敵」
 リディアの呼びかけに反応するスヴァルトだが、彼女の瞳にはケルベロス達が……仲間である筈の彼女達が敵として映っている。
「アルトさん、貴女を助けるのは、私達の我儘と思ってくれていいです。伝えきれていない沢山の『ありがとう』が、残ってるんです。だから……絶対、助けます!」
「……そうだ、お前に、お前達に生かされた命だ……お前のお陰で、俺は……今、在れる。逝かせない」
 視線はニグリュームに、言葉はスヴァルトに向け、ディークス・カフェイン(月影宿す白狼・e01544)は、『晶樹の手鎚』を砲撃形態に変えると、竜砲弾を撃ち放つ。
 自身達を逃す為に暴走したスヴァルト……漸く見つけた彼女を死なせるものかと、ディークスは半歩下がって、スヴァルトの傍らに寄り添う。
「……やっと見つけました! 絶対に……絶対に連れて帰りますからねっ! お姉ちゃん!」
 潤みそうになる瞳を堪え言うと、南條・夢姫(朱雀炎舞・e11831)は、癒しの歌を唄う。
「わたしの唄声で―――癒します」
 夢姫の歌声は、仲間達に護りの力を与えていく。
(「お姉ちゃんが居なくなってから、数週間。すごく寂しくて辛かった……! 絶対に助けるよっ!」)
「次から次に、うぜえんだよっ!」
 ニグリュームが怒りで吠えた時だった。
「再び出会えた友との邂逅を邪魔する輩はぁッ! 塵となりて空に散れッ! 我が身模するは神の雷ッ! 白光にッ! 飲み込まれろォッ!」
 叫びと共に蛇荷・カイリ(暗夜切り裂く雷光となりて・e00608)は、自身の肉体を霊子分解し、それを起点として創生の雷を呼び起こすと、雷そのものとなった一刀でニグリュームを袈裟に斬る。
(「言葉で言い表せる程、私は聡明じゃない。だから、少しでも多くの言葉をッ……!」)
「お前は……邪魔だぁッ!」
 カイリは気持ちの昂りを声に出し、巡るグラビティ・チェインを高めていく。
 一陣の風が吹き、ニグリュームの視界を一瞬、紅きマントが遮った。
「スーパージャスティ参上。大切な仲間をこの様な目に合わせた報いを受けてもらいます」
 表情も変えず、淡々とした名乗り……それでも『ココロ』に宿る、密かな怒りを向け、大義・秋櫻(スーパージャスティ・e00752)は、超近距離からアームドフォートの主砲を一斉発射する。
(「羨ましいですね、こんなに慕われていて。私は、機械故に感情表現は苦手です。それでも、皆さんの想いがココロに伝わってきて熱いものがあります」)
「正義の味方は、どんな形であろうと必ず救い出し、ハッピーにするのです」
 呟きながら宙を舞う、秋櫻。
 秋櫻が射線を開いた次の瞬間、顔は猿、胴体は狸、手足は虎、尻尾は蛇の怪物がニグリュームをその牙と爪で襲った。
「よう、巨斧のニグリューム、初めまして……そしてくたばれっ!」
 合成獣の様な正体不明のモノを呼び出した、真夏月・牙羅(ネコゴニアン・e04910)が敵意を込め睨みつける。
「アトラス!」
 牙羅が相棒の名を呼べば、アトラスは祈りを捧げ、夢姫に護りの力を授ける。
「熱くて……太くて……ごっついの!!」
 戦場に強き言葉が響くと、地獄の業火に焼かれ、どす黒く燃え上がった『ミマース』を振るう……いや、悪魔の極炎で喰らおうとする、山口・ミメティッキ(満月の夜の夢・e10850)の剣閃が奔る。
「アルト、待っててね。直ぐに終わらせるから」
 柔らかくスヴァルトに声をかけると、ミメティッキはニグリュームに向き直る。
(「皆の素直な想いが届く。だから、その想いを遮る奴を――消さなきゃね」)
「アルトには手を出させない。お前の力、封じさせてもらう」
 表情も声音さえも変え、ミメティッキは『敵』に言い放った。

●巫女護りて
「……彼等も遊びたいんだって……一緒に遊んであげてくれる?」
 弥生が言うと、動物のぬいぐるみ達が命を持ったように動き出し、本能のままニグリュームに襲いかかる。
(「誰かが居なくなるのは……もう嫌だから」)
 その思いは、弥生のものだけは無い。
 ここに集った者達全てが、スヴァルトが居なくなることを拒否していた。
「ニグリュームの攻撃が、スヴァルト様を巻き込まないように、ディフェンダーの皆さんは、展開をお願いだよ」
 ヒールグラビティを高めている、ちさだったが、スヴァルトにヒールをかけることが出来ず、歯痒い思いをしていた。
 痛み苦しんでいるスヴァルトにヒールをかけることは容易い。
 だが、暴走状態のスヴァルトは『デウスエクス・ユグドラシル』なのだ……これ以上、ダメージを受けないように最善を尽くすしか方法が無い。
(「一緒の戦場になったのは――黒部峡谷のミッション破壊作戦だったな」)
 記憶を辿りながら有理は、戦乙女の槍に雷を纏わせニグリュームの左肩を貫く。
「時間をかけると、彼女のヒールが遅くなるな……これだけの仲間が集まったんだ。救えなければ意味が無い」
 雪豹のように俊敏に動き、冷気の一撃を与え、仲間達に聞こえるように陣内が言う。
「あの動きは……! ニグリュームの斧が飛んで来ます。ディフェンダーは、後衛、主にメディックを防御! 回復班はヒールを直ぐに飛ばして下さいっ!」
 自身もニグリュームの巨斧を受けながら、ユウマが的確な指示を飛ばす。
「いい加減、倒れなさいっ! わたし達の目的はお姉ちゃんを助けることなんだからっ!」
 夢姫が裁きの雷をニグリュームに落とせば、続くようにプリンがリングを撃ちつける。
 戦闘が開始され既に10分が経過していたが、ケルベロス達の予想以上にニグリュームの防御力、そして体力が高く、肩で息をしているとはいえ、ニグリュームの攻撃が止むことは無かった。
 仲間達の数は確かに多かった。だがスヴァルトの身を護ることを最優先に考えた者が多く、アタッカーとなれる者の数は少ない。
 厚い防御陣と、潤沢な回復、ケルベロス達が危険を感じることは無かったが、夢姫の言った通り、ニグリュームの撃破だけが今回の目的では無い。
 時間をかけただけ、スヴァルトの死が近づいてしまう。
「頑張って頂戴。……らしくない、なんて言うと傲慢かしら。でも、少なくとも……私や、皆と過ごしてきた貴女は、彼らに支配されたまま……なんて人じゃないでしょう」
 スヴァルトの金の髪を撫でながら胡蝶が囁く。
「スヴァルトさんに恩を着せるチャンス……なかなか無いぜェ!!」
 スヴァルトの盾になりながら、非正規雇用は仲間達に活力を与えるカラフルな爆発を起こす。
「俺は貴女を信じている。必ず、俺達の家に帰って来ると。だから、こんな障害などに負けない!」
 刃の如き蹴りを放ちながら、ソルはスヴァルトの心に呼びかける。
「暴走して、突っ走って、皆に心配かけて……駄目じゃないか。皆、スヴァルトさんのことが大切で心配で、こうやって迎えに来たんだよ――勿論、おじさんもね」
 誕生日に貰ったマフラー、それが彼女自身を取り戻す切っ掛けになればと彼女の首に巻き、瓔珞は、スヴァルトを護れればと身体を張る。
(「――スヴァルト・アール。……姉貴さん。貴女はいつも戀物語を見守ってくれていた。ならば自分もまたこの物語を見守りたく思う。南條夢姫が、貴女にとってもまた大切な妹御が……ここに花一輪を、取り戻そうとしてくれている。ならばこの身は雨一滴として、ただ希うばかり――」)
 戀人である、夢姫のサポートに徹する……彼女の大切な人を取り戻す。その思いのみで、佑繕は自身を盾とする。
「スヴァルトさんの下僕となった動物達の排除、全て終わりました。カイリ、こちらはもう大丈夫です。早く、ニグリュームを!」
 数十匹居た、小動物を全て消し去り、仁王がカイリに声を届ける。
「分かってるよ! さっさとくたばれぇ!」
 仁王に声を返しながらカイリは、空すらも断ずる斬撃を放つ。
「メティさん、グラビティの流れを正すから、力強いのお願いです! 誰もが正義を信じてその手を汚した―だけどそれでも、愛を知る優しい瞳のまま―世界を背負い、明日を護り抜こう―『僕達は一人じゃない』」
『グラディウス』をリディア自身がアレンジした『エクスカリバー』として奏でれば、乱された護りのグラビティが正常化された、ミメティッキの大剣が容赦なく、ニグリュームに叩きつけられる。
「刻め螺旋に舞う式神! 顕現せよ! カードスラッシュ!」
 ミメティッキの攻撃を繋げるように柚月が、大いなる奇術の力を秘めたカードの力を発動した状態で飛ばす。
 カードは、回転しながらニグリュームの周囲を回り、小さな傷を幾つも付け、次第に大きな傷にしていく。
(「私は、あまり口達者な方ではないから、皆さんがアール殿への気持ちを伝えられるように……」)
 強い気持ちを保ったまま、三日月は黒鎖が皆の力になればと力を込める。
 月弧を描いた斬撃が、炎を纏った斬撃が、後方から駆ける者達により、次々と繰り出される。
(「恩人は必ず連れ帰る……その為に私に出来ることを」)
 スコープを覗き、ティが正確にニグリュームの瞳を傷つければ、ひさぎが冷気の光線を撃ち放つ。
(「スヴァルトをユグドラシルの元には行かせない、あなたが帰るべき場所は迎えに来た、みんなの所!」)
「今一度だ、トラツグミ! 喰らえ!」
 牙羅が数度目の異形の召喚を行えば、遂にニグリュームが片膝を付く。
「近接高速格闘モード起動。ブースター出力最大値。腕部及び脚部のリミッター解除。対象補足……貴方は私から逃れられません」
 秋櫻が機械的に言えば、ニグリュームは避けること適わず、岩をも砕く破壊力を持つ秋櫻の超高速の打撃と足技に身体を揺らす。
「……アルトを傷つけた報い、その身に刻め。……唱え、遊べ、呼び声よ……。汝らは個に非ず。乞い願い、認めて挑むは声無き調べ。繋がり絶ちて力得た、穢れし霊に問い賜う……汝が名は何か……」
 鋭い瞳をニグリュームに向けディークスは、数万にも及ぶ黒き刃の雨をニグリュームの下に降らせた。確実な死を与える為に……スヴァルトを傷つけたモノに相応しい最期をディークスは自身の力で与えた……。

●求めるは巫女で無く
「アルト、俺のロビニア。――助けにきたよ」
 オーラを注ぎながら、ノルがスヴァルトに語りかける。
「俺は、共に戦うアルトを知っている。頼もしくて、信じられる仲間。この背も、命も、預けられる人」
 共に帰りたい、この場に集まった者達全ての想い。
「スヴァルトさんは、みんなのお姉さんって感じだよね。今回もみんなの為に頑張って、ちょっと無理しちゃったのかな? 帰って来て私達にも思いっきり甘えてほしいな……」
 普段なら口にしない言葉をバジルは、口にする。
「色々なお酒のお話、それに合うつまみの話、もっと沢山のお話を聞かせて欲しいっす。ユグドラシルの傀儡なんかではなく、貴女と!」
「お願いします! 元の優しいスヴァルトさんに戻って下さい! スヴァルトさんに黒猫師団に戻って来て欲しいです!!」
「多くの方々が貴女の為に集ったんです。アールさんの人徳ゆえでしょうね。――なればこそアールさん、どうか、耳を傾けて下さいませ。貴方のお帰りを待ち望む者達の切なる声を!」
「聞こえるのなら返事をして! 貴女の無事を……帰還を待ち望んでいる人達がこんなにもいるの!」
 リン、リュセフィー、鼓太郎、フェル、黒猫師団の面々がスヴァルトの帰還を祈り、言葉を重ねていく。
「スヴァルトさんたちのおかげで、ワタシたちは無事に帰れたヨ。グラディウスも全部無事ネ。今度は私が迎えに来たアル! 『巫女』なんて知らないネ。スヴァルトさん本人が帰ってきてくれないと意味がないアル……」
「スヴァルトさん、ドラゴンのミッション破壊以来、ですね。エリカの巫女……おれには、スヴァルトさんの事情は、よくわかりませんが、こんな状態になっているスヴァルトさん、とてもみていられません。みんな、みなさん、心配してます。あの、ドラゴンと対峙してたときの、スヴァルトさんの言葉、あれがあったから、おれも……」
 メイリーンとエドワウ、あの戦場に居た2人は、何故スヴァルトが暴走しなければならなかったのかを知っている……護りたかったからだ、仲間達を。
「迎えに来ましたよ、アルトさん!  ほら、皆さんも来てくれましたよ。私は、私達は、これからも『スヴァルト』さんと共に過ごしたいんです。どうか戻ってきて下さい。そして、これからも私を見守っていて下さい」
 スヴァルトの為に集まった多くの仲間、彼女に見てほしいとリディアは伝える。
「よく頑張りましたね、さぁ帰りますよ、スヴァルト。貴女には、待っている人が大勢いる。そして、貴女の居場所は其処ではない。黒の猫が欠伸を噛み殺して待っています。ゆるく生きる貴女には不釣り合いな世界です。さぁ、帰りましょう」
 紅き瞳で真っ直ぐ見つめ、秋櫻が言う。
「黒猫師団には、個性的な人が多くてね。よくもまあ、あんなに色んな人が集まったなと思っていたが、不思議と衝突して仲違いとか、和が乱れるということは無かった。それは、彼らの間に立って上手く取り持っていた人物がいたからだ。黒猫師団に無くては、ならないものだ。俺も皆も、それを失いたくないからここに来た。思い出してくれ! 『スヴァルト・アール』のことを!」
 柚月は、スヴァルトの心を引き戻そうと熱く訴える。
「スヴァルトさん、貴女は『ユグドラシルの巫女』ではなく、ケルベロスのスヴァルト・アールじゃないと、いけないんだ! お願いです戻ってきてください! 何時ものように笑顔を見せて下さい! だから攻性植物に負けないで下さい!」
 牙羅も必死に言葉をかける。
「貴女がいなくなったあの日に、1人で飲んだお酒は美味しくなかったわ! 他の人が聞いたら巫山戯ているなんて言われるかもしれないけどね、私は大好きな、友達の『スヴァルトちゃん』と! 一緒に美味しくお酒を呑んだり、楽しく語り合うことの出来ない未来なんて、そんなものは必要無いの!」
 カイリの言葉に同意するように、レクス、アウラ、胡蝶、光闇は、スヴァルトの帰りを待ち侘び、酒を持参し宴会の準備もしている。
「私達は貴方を迎えに来ただけじゃない、ここにいる皆の未来も含めたスヴァルトちゃんと私達の全てを『救う』ために、ここまでやってきたのよッ!」
「皆がアルトを必要としている、アルトに帰って来てと心から願っている。そんな想いを私は……ここに居るみんなは、背負ってる。もちろん……私だって……アルトを大切に思っているから、アルトを失いたくないから……一人で抱え込まなくていい、貴女に頼って貰いたい人はこんなにいる。だから……一緒に帰りましょう?」
 聞こえてるんでしょ?
 届いてるんでしょ?
 私の声、みんなの声……。
 言葉にしない思いも込め、ミメティッキが優しく言う。
「『巫女』としてじゃなくて、スヴァルト・アールとしてわたしのお姉ちゃんとして一緒にいて欲しいんです……! だから……だから……その支配に負けないで戻ってきてください……!」
 夢姫はもう涙を止めることなど出来なかった……大粒の涙を流していた。
「……約束を覚えているか? 暴走すれば、一思いにと考えていたお前に、俺は持てる力以って生かす道を選ぶと云った。……努力してみると、云ってくれただろう? ……植物如きに……お前を譲る気は無い。逝く事は……赦さない」
 真摯な瞳でディークスは言うと、もう一言、彼女の母国語で言葉を伝える。
「Jeg vil ha deg. Sa vennligst ikke lope unna.jeg vil du skal komme tilbake.Svart……Jeg elsker deg」
 少しの静寂。
「……私も愛しています。……ディークスを……夢姫を、みんなを」
 切なげにスヴァルトが呟く。
 彼女の褐色の肌を覆っていた攻性植物の緑の証は徐々に枯れ果て消えていった。
『おかえりなさい』
 誰ともなくその言葉を皆が彼女に贈っていた……。

作者:陸野蛍 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 14/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 10
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