星を見る少女

作者:ほむらもやし

●間も無く起こること
 夜になると誰も居ないはずの展望塔に星を見上げる美少女の幽霊が現れる。
 怪談の類いではあったが、その美少女に出会った者は生気を吸い尽くされて死ぬと言われている。
 前期の試験も終わり、大学に入ってから初めての夏休みを控えたこの日、青年は施錠された柵を乗り越えて展望塔に足を踏み入れた。
 夜間、エレベータは止められているため、青年は階段で展望所を目指す。
 この展望塔は栓抜きのような形状をしており、高さは45メートルほど栓抜きにあたる膨らみの部分が展望所になっており、つくば市を一望のもとに見渡すことが出来る。
 青年は照明も持たずにゆっくりと階段を上り続けた。幽霊の正体を突き止めてやろうと意気込んで。
 5分ほどで上層にたどり着く、そしてドアノブを回すとドアは抵抗なく開いた。
「そもそもこの話、少女の自殺の動機が不明なんだよね」
 怪談の非合理さを呟きながら、青年がスマートフォンを片手に中に入ろうとした瞬間、背後からの気配に胸を貫かれる。
 血こそ出ていないが、胸から突き出る鍵を目の当たりにして青年は半狂乱で振り向こうとする。しかし鍵を突き刺した者の正体を目にする前に、意識が闇に落ちる。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 声の主は、第五の魔女・アウゲイアス。
 手にした鍵が引き抜かれると、青年は倒れ伏し、首に縄が巻き付いた少女が出現する。
 アウゲイアスが消え去ると、浮遊する少女は顔を上に向けたまま、食い込むように首に絡んだ縄を引きずるようにして彷徨い始めた。

●依頼
「不思議なことへの興味って、研究を志す者にとってはとても大事なことだよね」
 夢の『興味』を奪った、第五の魔女・アウゲイアスによってドリームイーターが作り出される。
 ケンジ・サルヴァトーレ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0076)はそう告げると、被害者となった大学生を救い、生み出されたドリームイーターによる被害の発生を防いで欲しいとあなた方に対応を依頼した。
「ドリームイーターは首に縄を巻き付けた寝間着姿の少女の外見をしている。奪われた興味を元に怪物化した少女は深夜の公園をペデストリアン沿いに移動して出会った人を襲おうとしている。速やかに現地には送り届けるから、新たな被害が発生する前に、このドリームイータを撃破して下さい」
 ドリームイーターは人間を見つけると、『自分が何者か?』と問いかける。
 このドリームイーターの場合『星を見る少女』と応えれば危害を加えることは無い。
 なお正しく答えられないと、ドリームイーターの少女はモザイクに覆われた両目からモザイクを飛ばす他、首に絡んだ縄を駆使したり、心を抉る鍵を棒術のように扱って襲いかかって来る。
「現地到着は午前2時頃、深夜だから人通りは無い。ドリームイーターが現れるのは栓抜きのような形の塔と言うことも分かっているから、取り逃がす可能性は低いと思う。けれどペデスドリアン沿いに北側にある学生寮街に向かわれると夜遊びをしている学生に遭遇する恐れがあることは気にとめておいて欲しい」
 ドリームイータは自分の存在を信じていたり、噂話をしている者の方へ引き寄せられる性質がある。
 夜遊びをしている学生は怪談をネタにすることが良くあるよね。とケンジはさりげなく付け加える。
 なお興味を奪われてしまった青年は、生み出されたドリームイーターを倒さない限り眠りについたまま。
 青年の目を覚まさせて、勝手に侵入した塔から立ち去らせる為にも、早くドリームイーターを倒さなければならない。勝手に入ったことが露見すれば、たっぷりと怒られた上に何らかの処分があるかも知れない。
「興味に向かって一直線に行動するのは昔なら大らかさによる目こぼしもあったけれど、今はそう言う時代では無いかも知れないね。だから、できれば夜が明ける前に青年が塔から立ち去れるように段取ってくれないかな——」
 そう言うと、耳を傾けてくれたケルベロスたちの顔を確りと見つめる。
「僕は一緒に戦えないけれど、どんな相手でも、戦いは常に命がけだよね。もし戦いに赴くに当たって、動機はとても大事だよね。だから、仕事はよく考えてから引き受けて欲しい」
 そして、よろしくお願いします。と締めくくって、ケンジは信頼をこめて頭を下げた。


参加者
陶・流石(撃鉄歯・e00001)
リリア・カサブランカ(グロリオサの花嫁・e00241)
御神・白陽(死ヲ語ル無垢ノ月・e00327)
藤守・つかさ(闇視者・e00546)
燈家・陽葉(光響射て・e02459)
ラズ・ルビス(祈り夢見た・e02565)
篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558)
レイヴン・クロークル(水月・e23527)

■リプレイ

●はじまり
 つくば市は筑波研究学園都市とも呼ばれ筑波山の麓に昭和30年代後半から建設が始まった都市である。
 あまり意識されないが、昔からこの土地で生まれ育った者は居る。
 にもかかわらず農村地帯ではなく、無人の原野に作られた街と印象づけられている。それが多くの都市伝説を生み出す原因のひとつになっているのかもしれない。
「そういえば……少女の霊が現れるという話、ちょうどこのあたりのことですよね」
 ヘリオンから降りた一行のうち、先頭を行くのは、ラズ・ルビス(祈り夢見た・e02565)である。南に向かう彼女の左前方には松林が見えて、その先に藍色の空をバックに影絵のように切り抜かれた栓抜きのような形が見える。
「わりと有名な都市伝説ですし、別の場所では、オリオン座を見つめる女性とも呼ばれるらしいわ」
 リリア・カサブランカ(グロリオサの花嫁・e00241)が、これも名前だけならロマンチックなのにゾッとするようなお話なのよ。と、言葉をつなぐ。
 こうした話が実際にあったかどうかは在校生の間では曖昧にされているが、モデルとされた宿舎の窓は東に面しており道から見上げることの出来る位置にあることは事実である。
「まさかね、本当に何か過去に事件事故が……、えっ?」
 次の瞬間、ラズが視線を向けた先に、真下からの照明の光に浮かび上がる篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558)の顔があった。
「いきなり何のつもりですか?」
 少し驚いてしまったが、どうやら照明の向きを調整しようとして、偶々光が真上を照らしただけらしい。
「これのせいですか。失礼しました。ところで、寮の部屋に縄を吊せる所なんてあるものなのでしょうか?」
 ドリームイーターは近くにいるはず。ならばうわさ話を続けようと言うことで、佐久弥が続ければ、御神・白陽(死ヲ語ル無垢ノ月・e00327)が感想を告げる。
「元より形のないもの、幽霊など、潔く在った場へ帰るが良い」
「いや、それじゃあ、話題が終わってしまうだろう?」
 藤守・つかさ(闇視者・e00546)が苦笑いを浮かべる。だからと言ってネタは用意していないのだが。うわさ話を楽しむならなら相応の用意は必要だろう。
 首つりはドアノブなどの低い位置でも縄を掛ける場所があれば出来てしまうが、星をみる少女は窓の外を見上げて居るのだから、辻褄が合わない。備品の鉄製ベッドを立てれば、同じ状況を作ることは可能だが、そこまでする理由は無いだろう。
「まあ、好奇心が強過ぎるのも考えものだな」
 辺りを見渡してみると、ペデストリアンは戦うには申し分ない広さ、また学生宿舎に向かうには公道を横断する必要があるため、全員がよそ見でもしていない限り、ドリームイーターの通過を見過ごす恐れは少ない。
「星が見たいのに、自殺したのかな」
 そう言って、燈家・陽葉(光響射て・e02459)は満天の星を見上げる。
「あ、でも。死んだら星になるとも言うし、星に憧れてて、星になりたくて死んだ……とか」
 個室は狭く壁にはすぐに黒カビが生える。場所によっては部屋が五角形、居住性も素晴らしくは無くて、老朽の進行の速さから、一部の棟はスラムなどとも呼称されるほど。そう言う訳で痛みも激しく修繕されて居ない部屋が開かずの間とされて、中に壁にお経が書かれていたなどの話がまことしやかにされるようになる。
「こういう怪談、それ自体はよくあるものだと思いますが……」
 そう言って、ラズはアイズフォンを起動し掛けて、やはり戦いあとにしておこうと、思いとどまる。
「そういえば、てめぇとは久しぶりだよな、よっさん。しっかし、また怪談ねぇ。この間も怪談に対する興味で動いてた魔女の一件があったし、アウゲイアスってのは、怪談マニアなのかねぇ」
 陶・流石(撃鉄歯・e00001)の言葉に、気のない様子で頷く白陽。
 今夜は気温は高くは無いが、吹き抜けて行く風は生ぬるく、空気がねっとりと纏わり付くような気がする。
「絶好の怪談日和だと思うんだがなあ」
 流れ込む川も無いのに水を湛える池、共同溝、壁を突き抜けて走るマラソンランナー、不思議な亀裂が刻まれた公務員住宅、怪談のネタには事欠かない土地柄ではあるが、やはりドリームイーターを倒さねばならない使命感と緊張からか、どこか会話はぎこちない。
「……そもそも事実であるかも定かではないしな、ただの噂ならそれで構わない、そうだよなミュゲ」
 連れているテレビウムに語りかけるように、レイヴン・クロークル(水月・e23527)は呟く。
 実際のところ、こうした階段真相はつくばで暮らしていても謎のまま。
 しかし、つくばシンドロームなどと言う言葉が過去のものとして、聞こえの悪い事象を曖昧にして、取り上げようとしない体質を変革しない限り、この場所から生まれる都市伝説は途切れることは無い。

●遭遇
 不意に生暖かい風が吹き抜けた。直後、首に絡みついた縄を引きずるようにした、浮遊する少女の外見を持つ、ドリームイーターが現れた。
「……?!」
「わたし、だれなの?」
「星を見る少女よね」
「……夢喰いですか?」
 問い掛けられたのはラズとリリア。突然の出来事ではあったが、リリアは正しく答えて後ろに跳び、ラズは敢えて誤りで返した。次の瞬間、ドリームイーターは顔を正面に向けて唇をとがらせる。
『ブッブー♪』
 クイズの誤答を示すブザー音の如きひょうきんな声が響き渡って、同時に地面に垂れているだけだった縄がまるで生きているかのように、鋭い動きで這い上がる。そして目にも止まらぬ速さでラズに絡みついた。
「……忘れるなんてっ、信じられないわ!」
「くッ?! かはあっ……」
 浮遊するドリームイーターが降下するのに呼応して首にまで巻き付いた縄は明らかな殺意と共に急激に締まる。攻撃を引き受けるための意図した誤答ではあったが、その代償はポジションをディフェンダーとするだけでは払いきれるものでは無かった。
「放せ!」
 陽葉の繰り出すグラビティブレイクがドリームイーターの繊細な体躯を捉え、続けてリリアの輝く蹴りが衝突すると同時、ラズは血走る目を見開いたまま、壊れたおもちゃのように仰向けに倒れる。
 どこか寂しげな様子で、エイドと名付けられた、ミミックが偽りの黄金をばらまく音が響き、その無造作な輝きが路面に広がる。
「なんですか、これ?」
 想定を数倍はあるだろう敵の一撃に佐久弥は戦慄する。彼の繰り出す一手が空回りするとほぼ同時、レイヴンが左目から溢れた炎を弾丸に変えて、撃ち放った。
「此の炎はお前の身体を焼く事はない、安心しろ」
「我が手に来たれ、黒き雷光」
 弾丸は光る軌跡を描いて、暗い空間を飛び抜けて行く、だが、機を合わせるように放たれた、つかさの黒い雷がドリームイーターを捉えて、その動きを鈍らせる。
「こいつ、強いぞ」
「分かっている」
 テレビウムのミュゲが振り下ろした凶器が空しく路面を打ち砕く様を見て、緊張からか2人はほぼ同時に唇を噛む。
「ずいぶん、お痛が過ぎるじゃ無いか、夜歩きのお嬢さん」
 語りかけると同時、瞬きをする程の間に白陽は鋭い蹴りの一撃を与える。揺らぐドリームイーターの身体、糸の切れた凧のように漂う先に回り込んだ流石が鋼の如き冷徹さを孕んだ視線を向ける。
「おう、目ぇ逸らしてんじゃねぇよ」
 応じるようにドリームイーターの目の辺りを覆うモザイクが急速な膨張を見せて、嵐の如くに流石、そして後列にポジションを取る、リリア、陽葉、佐久弥の方を目がけて飛ばされる。
 咄嗟の反応で、その身でモザイクを止めようとした、ミュゲ——テレビウムの脇を抜け、続いてラズが残したミミックをのみ込んで、モザイクは津波の如くに後列に襲いかかる。
「我信ずる路を歩き満足とす。我愛とトモに生き幸せとす」
 吹き抜けたモザイクに倒された者は居なかったが、ダメージは重い。長い詠唱と共に癒しの技を発動しながら佐久弥は、たった1体でも何人ものケルベロスと渡り合えるドリームイーターの戦闘力を実感する。
「我は邪毒喰らう焔なれど――愛に、友に応え汝らの生に祝いを為さん!!」
 次の瞬間、夜闇に灯る2つの炎が、混じり合い、我が身を炎の輝きに変えた佐久弥の手が仲間たちに伸びて、その傷を癒して行く。
「悪いけれど、ここで終わらせてもらう」
 空の霊力を帯びた、つかさの斬撃がドリームイーターの細い身体に刻まれた傷をなぞるように斬り広げる。
 このドリームイーターは攻撃に特化した戦法をとっているのだろう、その苛烈な攻撃を単身で受ければ、凌ぎきれるのは恐らくレイヴンのみ。守りの両輪を担うはずだったラズも落ちて、後列の者たちにも少なく無いダメージが重ねられている状況は、敵の出方次第では戦線が崩壊する危険を孕んでいる。
 速攻で倒さねばならない。切迫する事態が白陽の刃に狂いを生じさせたのか、それとも単なる不運か。いずれにしても卓越した技量から放たれたはずの一撃が、空振りに終わる。
 今回の敵は単に興味から生み出されたドリームイーターに過ぎなかったが、怪談は喧伝された理想的な都市のイメージに対する、アンチテーゼであった。救いの手を差し伸べられなかった学生の苦悩や苦しみを忘れてはいけない、繰り返すべきではないとする学生らの怒りと悲しみを孕んだ産物でもある。そこに絡み合う因果の糸は一朝一夕で把握できるようなものでは無い。
「邪魔だ。退け!」
 レイヴンの声に視線を向ければ、腰だめに構えたドラゴニックハンマーが砲撃形態を取っている。巨大な竜砲弾が轟音と共に放たれ、次の瞬間、衝撃波と共に大爆発の炎が地面を舐め広がって、風景を橙色の光で染める。
「まだだ、こいつはそんなに甘くない」
 輝く橙の中に飛び込んだミュゲが、揺らめくドリームイーターに向かって凶器を叩き付ける。
 爆炎が過ぎた後、街灯の鉄柱は飴のように曲がって倒れて、松林の木々がなぎ倒されている。
「いったいあなたは何者なの?」
 繊細な体躯のどこにそれだけの力があるのか、驚きを込めながらリリアは、El Diablo——精霊の魂を宿すナイフを構える。
 獰猛な心の灼熱を宿すが如き刃に映るは、ドリームイーターを生み出す元になった無数の因果か、実際それが何であるかを理解できる者は居ないが、そのイメージは具現化して、ドリームイーターを蝕んで行く。
 ボロボロの姿になったミミックのエイドがドリームイーターの頭部に齧りつく。その隙を見逃さずに流石の繰り出した超音速の拳が、揺らめくドリームイーターの身体を強かに打ち据える。
「悪いけど、もう君に星は見せられそうにないかな」
 生み出した冷気を薙刀に集中させると、陽葉は刃を叩き付ける。少女のような薄い肩口に突き刺さった切っ先を袈裟懸けに振り抜くと、その傷口に添って赤黒いモザイクの花が裂き、そのモザイクは間も無く氷の結晶に覆われる。
『こんなんじゃ……できないの、もう時間がないの……うああぁあああああぁ!!!』
 食らい付いたミミックを自分の首ごと投げ捨てると同時、ドリームイータの少女は首からモザイクを噴き上げながらリリアの方に歩み寄ってくる。
「なぜわたし?!」
 ふわりと青翠の風を纏うようなステップで横に跳び、リリアは続く動きから攻撃に転じる。
「誓約の舞、魅せてあげる」
 白く細い指先から伸びる一条の布、放れた比礼の風はドリームイーターに絡みつくと同時、鋭い刃の如くに変わり、その繊細な身体をバラバラに切断した。
 次の瞬間、8個ほどの塊に切断されたドリームイーターの身体は地面に落ちて湯気のようなモザイクを散らす。
 間も無く宙に立ったままだった縄が地面に落ちて、散乱する塊と共に消えて行く。
 その様子にリリアは激しい戦いが、今終わったと知った。

●戦い終わって
「私よりも早く、被害者の方を……」
「それならもう向かっていますから、心配ないわよ」
 そう告げて、リリアは倒れたラズの頭を膝に乗せるようにして介抱を続けた。
「結局、私は誰かの助けにはなったのですか?」
 誰に言うわけでもなく呟いて、ラズは小さな足で脇に立っているミミックのエイドの方を見つめる。
「あなたが受けなければ、他の誰かが倒れたのではないかしら?」
 それ程までに敵の攻撃は苛烈だったと、後列で自身も傷ついたリリアは静かに告げた。
 同じ頃、自身の飛行能力で、栓抜き塔の上層にたどり着いた流石は倒れた青年の身体を揺さぶる。
「おい、起きろ、急がねえと不味いぞ」
 ドリームイーターとの戦いは周囲に大きな被害をもたらしたわけでは無いが、ちょっとした騒ぎを引き起こしており、消防や警察の車両が赤い回転灯を光らせながらやって来る様が見える。
「えっ、何でこんな騒ぎに?!」
「あたしはケルベロスだ。まあ、色々あってな、とにかく急ぐぞ」
 明かりも無しに2人は大急ぎで階段を降りはじめる。僅かに2分ほどの時間ではあったが、塔を降りて建物の外に出るまでの時間はとても長く感じられた。
「ちょっと待った。勝手に侵入するのはダメなんだよ?」
 そして、ほっとひと息を付きかけた2人の前に立ちふさがるのは陽葉。彼女の言葉に青ざめた顔で青年はごめんなさいを連呼する。その様子はまだ17歳の陽葉が逆に恐縮しそうになるほどの勢いだった。
「無事なら構わない。俺らも問題にするつもりは無い。それで良いよな」
 そう言い放って、白陽が目線を向けた先、つかさも「おつかれさん」と返しつつ、さて、帰ろうかと目線で語る。
(「噂の元になった少女が何を見ていたのかなんて、知りようがないし、知ったところでどうなるもんでもないしな」)
「じゃあ、そう言うことで」
 ひょいっと会話に入ってきたレイヴンが、身体に異常が無いなら、これで終わりにしようと伝え、もし心配ごとがあるなら、お部屋までお送りしましょうか? と、リリアが念のために告げた。
「ありがとうございます。まだ、足が震えていますけど、たぶん大丈夫です」
「気にしなくても良いわよ。これもケルベロスとしてのお仕事だもの」
 どうも大丈夫な感じに見えないし、頼りない。私も手伝うと、ラズがエイド、救急箱の形をしたミミックと共に続く。
 夜中でも自由に出入りできるなんて、にわかには信じられない開放的な学生寮と思いながら、青年を送り届けようと決めた者たちは、北へ向かって歩き始める。
「ネットの情報には限界もあるものですね」
 ネットで得る情報よりも多くの情報が現実には存在することを知り、ラズはアイズフォンを閉じた。
 見上げれば満天の星が煌めいている。
 星を希望の道しるべにする者も居れば、死の予兆と不吉がる者も居る。
 考え方ひとつで世界は変わる。
 そして、ここは人生を終える場所では無い。夢を現実にする可能性を追求したい人が集まる場所だ。

作者:ほむらもやし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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