最高のドラグナー素材? ただ殺したい男

作者:秋津透

「喜びなさい、我が息子よ。実験は成功です。お前は、ドラゴン因子を植えつけられた事でドラグナーの力を得ることができました」
 神奈川県相模原市のどこか、薄暗い室内で、実験台の上に横たえられた筋骨逞しい男性が焦点の合わない目を物憂げに開いた。
「息子……? クソ親父か? ……いや、違うな」
「これからお前がするべきこと、それは与えられたドラグナーの力を振るい、多くの人間を殺してグラビティ・チェインを奪い取ることです。そうすれば、お前は完全なドラグナーとなることができるでしょう」
 仮面で顔を隠したドラグナーが、男性に向け、一方的に告げる。
 すると男性は、くわっと目を見開いた。
「殺せ、だと? 殺して、いいのか? 人間を殺しても、いいのか?」
「いいどころか、殺さなくてはならないのです」
 そうしないと、お前はいずれ死んでしまうのですから、と、仮面のドラグナーが告げるより早く、男性は凄まじいとしか言いようのない、狂った歓喜の笑みを浮かべて起き上がる。
「素晴らしい! 俺は、物心ついて以来、人間を殺したくて殺したくて、たまらなかったんだ! それを、クソ親父やクソ医者どもに邪魔されて、おかしな場所に閉じ込められて……だが、あんたのおかげで、俺は思う存分、人を殺すことができる! 礼を言うぞ!」
 そして手始めにあんたを殺す、と、男性は無謀にも仮面のドラグナーに殴りかかる。
 しかし、仮面のドラグナー『竜技師アウル』の姿は一瞬早く消え、声だけが残る。
「よい闘志ですが、私は人間ではないので殺せません。表へ出て、そこらにいる人間を思う存分殺しなさい」
「ああ、言われなくともそうするとも」
 少々忌々しげに応じると、男性はその場にあったごつい手甲を、がきりと音をたてて手に嵌めた。

「神奈川県相模原市で、佐々塚・ささな(やりたいほうだい・e07131)さんの宿敵であるドラグナー『竜技師アウル』が事件を起こす予知が得られました。『竜技師アウル』は人間にドラゴン因子を移植し、新たなドラグナーを生み出す実験をしています。そして、強烈な殺人嗜好を持つために、専門の施設に隔離されて治療を受けていた男性を奪取して実験体とし、新たなドラグナーにしてしまったようなのです」
 本人はともかく、彼が治療されることを望んでいた家族の方にはお気の毒ですが、この人はもう助けられません、と、康は深く溜息をつく。
「幸いと言うべきなのかよくわかりませんが、この新たなドラグナーはまだ未完成で、完全なドラグナーとなるためには大量のグラビティ・チェインを得る必要があります。そこで、グラビティ・チェインの入手と、何より長年抑圧されていた自分の殺人嗜好を満たすため、人々を無差別に殺戮しようとしているのです。急ぎ、現場に向かい、未完成のドラグナーを撃破してください」
 そう言って、康はプロジェクターに地図と画像を出す。
「未完成ドラグナーが出現すると予知された場所は、神奈川県相模原市の県立公園で、時刻は正午です。彼がどこから現場に来たかは、現時点ではわかりません。探り出すことはできるかもしれませんが、竜技師アウルは冷静で用心深いドラグナーだそうですので、もたもたと居残っている可能性はほとんどないと思います。また、現場には多くの市民が憩いにきていますが、事前に避難勧告や区域封鎖を行うと未完成ドラグナーが出現しなくなるおそれがあるため、それはできません。敵の出現が確認されてから、急遽避難してもらうことになります」
 苦悩の表情で告げる康に、遠音鈴・ディアナ(ドラゴニアンのウィッチドクター・en0069)が告げる。
「そういう状況なら、私とロコも行きます。少しでも人数がいた方が、避難誘導の手助けになるでしょう」
「よろしくお願いします。殺人嗜好の未完成ドラグナーは、目についた人間をひたすら殺そうと、猛然と殴りかかってきます。相手が強かろうと弱かろうと関係ありません。予知によれば、覚醒直後に『竜技師アウル』に殴りかかっているほど見境なしです」
 おそらく、皆さんが正面に立って相手をしてやれば、逃げたり、皆さんを放置して一般人を殺しに行くという行為には出ないと思われます、と、康は告げる。
「また、未完成ドラグナーの能力やポジションは不明ですが、バトルガントレットを装備していることがわかっています。そして、本当に幸いなことに、一時的にドラゴンを自己憑依させて変身する力はありません」
 まあ、それができてしまうなら、もう完全なドラグナーですよね、と、康は肩をすくめる。
「残念ながら、ドラグナーとなってしまった人を救うことはできません。彼が人々を無差別に殺戮して、殺人嗜好を満たしながらグラビティ・チェインを蓄えるのを止め、完全なドラグナーとなる前に撃破するよう、よろしくお願いします」
 そう言って、康は頭を下げた。


参加者
小山内・真奈(おばちゃんドワーフ・e02080)
エリシエル・モノファイユ(銀閃華・e03672)
鈴木・犬太郎(超人・e05685)
佐々塚・ささな(やりたいほうだい・e07131)
ヒナタ・イクスェス(世界一シリアスが似合わない漢・e08816)
ウィルマ・ゴールドクレスト(地球人の降魔拳士・e23007)
小鳥谷・善彦(明華の烏・e28399)
ベルベット・フロー(電光石火の美少女ポリス・e29652)

■リプレイ

●殺す? いや、殺されるだけでしょ?
「くぁ、怪しいヤツはいないのオチか?」
 神奈川県相模原市の県立公園に降下してきた、皆のヒーロー赤ペンさんことヒナタ・イクスェス(世界一シリアスが似合わない漢・e08816)は、両眼を油断なく光らせて周囲、特に人の多い場所を窺う。
(「……正直、誰よりいっちゃんアヤしいのは当のヒナタクンやけどな」)
 続いて降りてきた小山内・真奈(おばちゃんドワーフ・e02080)が、さすがに声には出さずに呟く。
 赤いペンギンぐるみに身を包み、縦横無尽に周囲を駆け巡って不審者を探すその姿は、確かにとても怪しいが、最近は着ぐるみ姿のご当地ゆるキャラが各地で定着しているせいか、不審そうな目で見る人は意外に少ない。
 むしろ、わー、ペンギンさんだー、とか無邪気な声を出して子供たちが走り寄ってくるという、ばーさーかーなヒナタを知っている者には、おい待てちょっとそれ別の意味でアブない、と制止したくなる光景が繰り広げられかかったが。
 その時、おそらくまったくの偶然なのだろうが、ヒナタの目の前にあるマンホールの蓋が地下側から横にずらされ、両腕にガントレットを嵌めた筋骨逞しい大男……ヘリオライダーが画像で示した「未完成ドラグナー」と寸分違わぬ人物が出現した。
「くそっ、仮面野郎め、とんでもない場所で目覚めさせやがって……下水道抜けないと表に出られないなんて、聞いてないぞ!」
「くぁ、出たのオチね、キケン人物、殺人狂ドラグナー!」
 睨み据えると、ヒナタは大声をあげながら、最終決戦アルティメットモードに変身する。
「みんな、急いで逃げるオチ! こいつはとんでもないヘンタイのキケン人物オチよ! しかも下水道から出てきたから臭いオチ!」
 それに対して赤ペンさんは、アルティメットモードで格好良くてステキオチ! とヒナタは堂々と胸を張る。
 当然ながら、その態度を目障りに思ったのだろう。未完成ドラグナーは、咆哮をあげてヒナタに殴りかかる。
「てめー、このペンギン野郎! いきなり出てきて何ほざく!」
「くぁ、赤ペンさんの言うことは、すべて正義と真実の暴言オチよ~!」
 相手のパンチを顔面に受けながらも、ヒナタは平然と言い返す。
「耳に痛い暴言こそ聞くオチ! そして、顔に痛い蹴りこそ受けるオチ! 虹の一撃、ファナティックレインボウ~オチ!」
 何が何だかよくわからないが、妙にファッショナブルなフェアリーブーツ(ペン足仕様)から繰り出される、美しい虹をまとう急降下蹴りがドラグナーの顔面をまともに捉える。
「て、てめー!」
(「なりはデカいけど、ほんま中身はガキやな。ガキ殺すのは気が進まんけど、一般人殺させるわけにもいかんしな」)
 声には出さず呟くと、真奈は刃のような蹴りをドラグナーの側面から見舞う。
「こ、このガキ!」
「ガキはお前や」
 むしろ哀れみを含んだ口調で、真奈は告げる。
「こう見えても、おばちゃん四十四やで。そうは見えんやろ? 世の中には、お前の知らんことが、ようけあるんや」
「な、なにふざけたこと言ってやがる!」
 喚くドラグナーの前に、ウィルマ・ゴールドクレスト(地球人の降魔拳士・e23007)がふらりと立つ。
「……件の仮面のドラグナー、さん。あい、かわらず、よい趣味をしていらっしゃい、ます、ね」
「な、なんだと!?」
 恐れげもなくクスリと笑って呟くウィルマを、ドラグナーは何か感じたのか、表情を引き攣らせて見やる。
「てめぇ、あの仮面野郎と知り合いか?」
「さあ?」
 小首を傾げると、ウィルマはヒナタと同様に、フェアリーブーツから虹をまとう蹴りを繰り出す。
「ぐあっ!」
「簡単、な、問題です。誰かを殺し、たいなら、まず私たちを殺さ、ないと誰も、殺せ、ないということ、です」
 下腹を容赦なく蹴られてうずくまるドラグナーに、ウィルマは独特の口調で淡々と告げる。
「ね、簡単で、しょう?」
「……殺してやる、ああ、殺してやるとも!」
 凄まじい形相でドラグナーはウィルマを睨み据えるが、彼女は動じないというか、むしろ不思議そうに見返す。
「でも、おかしな、人です、ね。殺してしまう、なんて。そんな……もったいない、事」
「もったいない……か」
 少し間合を置いた位置で、エリシエル・モノファイユ(銀閃華・e03672)が呟く。
 避難誘導の手が足りなければ、そちらに回るつもりだったが、ベルベット・フロー(電光石火の美少女ポリス・e29652)佐々塚・ささな(やりたいほうだい・e07131)遠音鈴・ディアナ(ドラゴニアンのウィッチドクター・en0069)の三人に加え、居合わせたフローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)が、手際よくかつ確実に周囲の人々を逃がしており、一方ドラグナーはディフェンダー陣の挑発にまともに乗せられ、周囲など見てもいない。
 ならば、少しでも早く終わらせる方に尽力するか、と、エリシエルはドラグナーの方を見やったが、もったいない、という言葉から想起された疑念が脳裏をよぎる。
「……正直、まともに成功させる気があるのかってレベルだよなあ。当たれば儲け、くらいな感じだし」
 改造した人間すべてがドラグナーの力を得ることができているとも思えないが、改造成功体がドラグナーとして完成するために必要な最終段階は手助けせず放置。結果、虐殺を完遂して完全なドラグナーになった者は、ケルベロス側の知る限りでは存在しない。竜技師とやらは、いったい何を考えているのか、と、エリシエルは呟く。
(「漫然と失敗を繰り返すだけの間抜けとも思えん……いい加減尻尾捕まえないと、イヤな予感がする」)
 たとえば、本当の狙いは虐殺によるグラビティ・チェインの補充なしで完全なドラグナーになれる改造法の開発だったりすると、ボクらは単に失敗作の処分をさせられているだけかもしれない、と、エリシエルは危惧する。
「……だからといって、目先の戦闘で手を抜くわけにもいかないんだけど!」
 忌々しげに呟き、エリシエルはドラグナーの足元に背後から滑り込むような体勢で重力蹴りを打ち込む。
 一方、ウィルマのサーヴァント、ウイングキャット『ヘルキャット』はヒナタを治癒し、鈴木・犬太郎(超人・e05685)は目先の敵にひたすら集中する。
(「無差別殺戮に躊躇のない者……確かに、野放しにしておいたらたちまち真正のドラグナーに進化する可能性はある。そういう意味では油断ならんが、実際に殺人や戦闘をした経験はないようだな」)
 侮りはしないが、怖れるほどでもない、と、落ち着いた表情で呟き、犬太郎は愛用の鉄塊剣『ヒーロースレイヤー』を力任せに叩きつける。
「ぐはあっ!」
 口から血を噴くドラグナーを見やり、小鳥谷・善彦(明華の烏・e28399)が淡々と告げる。
「殺人嗜好か……殺すより先に殺されそうに見えるが、それでも単純な暴力と殺意を撒き散らすのは楽しいかい?」
「楽しいわけがあるかぁ!」
 口の中の血を吐きながら、ドラグナーが喚く。
「俺は、暴れたいわけでも、殴りたいわけでもない! 殺したいんだ! 殴った奴が、首を絞めた相手が、ひくひく痙攣して息をしなくなるのが楽しいんだ! 貴様らみたいな、殴ってもびくともしない化物なんか、本当は相手にしたくない!」
「そうか」
 それはどうもお気の毒様、とあくまで冷淡に告げ、善彦は炎を伴う蹴りをドラグナーに叩き込む。
「ぐあっ!」
「暴れたいなら相手をしてやってもいいが、殺せなければ楽しくない……ならば、楽しめないまま死ぬ痛みを知れ」
 告げる善彦の傍らに、ライドキャリバー『風天』に乗ったミン・クーワン(修羅道・e38007)が走りこんでくる。
「よう! 俺も闘いに混ぜてくれよ! 相手は見境なしのドラグナーだっていうが、俺と似たようなやつかね?」
「いや……あんたは戦闘狂だろう?」
 そう装ってるだけかもしれんが、と、善彦は熱のない口調で応じる。
「だが、こいつは戦闘が好きなわけじゃない。殺人が好きなんだ。俺たちがちっとも死なないんで、イライラしてる」
「はぁん? ……なるほど、確かに、俺とは似ても似つかないやぁ! 俺は、勝ち負けも生死も関係なしに、戦闘で興奮するタチなんでね!」
 陽気に言い放つと、ミンはライドキャリバーに乗ったまま、呪文のようなものを唱える。
「八卦に凶、天には焔。あっはは、いきり立ってきたよぉ!」
 哄笑とともに、ドラグナーの足元から火柱が噴き上がる。どうやら、ミンのオリジナルグラビティらしい。
「くそう……貴様ら、よってたかって……」
「デウスエクスに慈悲はない。そして、自分の楽しみのために一般人を無差別に殺そうとする奴にもね」
 殺せないまま死んでいけ、と、善彦は冷淡に呟いた。

●粘ってもしょせん捨駒……しかし、捨てる狙いは?
「どうにか無事に、すべての人が避難できたようですね」
 フローネが、周囲を見回して告げる。広大な県立公園の中で、ドラグナーが出現した区画は警察に封鎖され、中にいるのはケルベロスとドラグナーだけ。飛行能力のあるディアナが念のため上空から確認し、降下してくる。
「姿が視認できた人はいません。戦闘は、味方有利に進んでいるようです」
「まあ、ボクら抜けてても、助っ人いるし七対一……サーヴァント入れれば九対一? 十対一? いくら相手が凶暴でも、ドラゴン変身でもしない限りラクショーでしょ」
 凶暴ってことは、裏返せば単純バカだし、と軽く言い放ったささなが、不意に語調を変えて続ける。
「で? どっかに隠れて成り行き見てる奴とかは……さすがにいないか」
「ええ、いませんでした」
 注意はしてみましたけど、私に見つかるほど迂闊な相手じゃないですよね、と、ディアナが応じる。するとベルベットが訊ねた。
「竜技師アウル?」
「ええ。改造体の闘いぶりを観察してるかも、と思ったんですが」
 ディアナが言うと、ベルベットは唸る。
「うーん、後で調べるつもりだったけど、戦闘中に空から見て居所わからないんじゃ……」
「相変わらず、用心深いったらありゃしない」
 心底忌々しそうに、ささなが唸る。
「どっちにせよ何かやばい感あるね……もうケリついてるかもしれないけど、戦闘に行こう!」
「そうだね。……警察先に呼んどきゃ、もう少し早く避難済んだかな?」
 ベルベットが少々未練げに言うと、ディアナが応じる。
「いえ……『事前に』警察に連絡したら、ドラグナー出てくる前に避難勧告放送始まっちゃいます。そうしたら、ドラグナーの出る場所が予知と変わって、惨事が防げなくなります」
 そう言って、ディアナは公園内の各所に設置されているスピーカーを見やる。戦闘が始まった後に流れ出したので、ドラグナーもケルベロスも気にも留めないが、スピーカーからは避難勧告放送がずっと流れている。
「警察に、公園にデウスエクスが出る可能性があるが、実際に出るまで一般人を避難させるな、公園管理事務所にも連絡するな、とは言えません。ヘリオライダーの予知は最高機密ですし……」
「……わかった、わかった」
 顔面が地獄化されているので表情はわからないが、ベルベットは辟易気味の声を出す。
「とにかく、急ごう!」

「終わってはいませんでしたが……」
「ぎりぎり、だね」
 フローネを含めた四人が、最初にドラグナーが現れた地点に戻ってみると、戦場はそこから動いておらず、今にも終わりそうな気配になっていた。
「【悲報】ヒナタ氏の左腕に、また不明なユニットが無事接続された模様。……これはいけませ~ん!」
 誰が喋っているのか、謎の実況アナウンスが流れ、ヒナタの左腕に超巨大チェーンソーブレードを6基束ねて出来たような外見の超特殊ステキ兵装が追加接続される。
「くぁ、お医者様には治せず、草津の湯でも直せそうに無いその性根! な~らば、地獄の湯にてその性根を直して来るのオチね~」
 言い放つと、ヒナタはオリジナルグラビティ『赤ペンGブレード(アカペングラインドブレード)』を作動させる。6基のチェーンソーが同時起動する事で大量の花火が辺りに飛び散り、豪炎を撒き散らしながらドラグナーに突撃。刃に触れたドラグナーは、問答無用で豪快に弾き飛ばされる。
「がはっ!」
 口から吐き出される血は、もはや赤くなく、青黒く見える。傷だらけの全身は、皮膚も筋肉も破れ千切れて血まみれだが、一部、鱗が生じている部分もある。
(「……まさか、重傷を負うことで、ドラグナー化が進んでいる?」)
 内心ゾッとするものを覚えながら、ささなはよろめき起き上がるドラグナーを注視する。
 そこへ真奈が、勇者の武器エクスカリバールに釘を生やした形態で、情け容赦なく強打する。
「ホーム……ランやっ!」
「ぐぎいっ!」
 もはや防御もままならない様子で、ドラグナーはまともに攻撃を受ける。
「殺す……こ、殺す……殺して、やる……」
「ああ……。本当に、本当に、どうしようもない、人」
 クスリと笑い、ウィルマが地獄から蒼い炎をまとった巨大な剣を召喚する。オリジナルグラビティ『ブレイドマスタリーⅠ(ブレイドマスタリーイチ)』を発動させたウィルマは、その巨大剣を無雑作にドラグナーへと叩きつける。
「さようなら」
「いや……まだのようだ」
 治癒グラビティを一つも持たないくせに、どこまで粘る、と、エリシエルは苦い顔で唸る。
(「体力だけは、本物のドラグナー並みか?」)
 しかし、とにかくここは潰すのみ、と、エリシエルもオリジナルグラビティ『布都御魂剣(フツノミタマノツルギ)』を発動させる。
「山辺が神宮石上、神武の御代に給はりし、武御雷の下したる、甕布都神と発したり。万理断ち切れ、御霊布津主!」
 愛用の斬霊刀『二代孫六兼元真打』が唸り、ドラグナーの胴を見事両断する。しかし、切断面からどす黒い液体が噴き出て、斬られた身体を繋ぎとめる。
「……本当に、体力だけは本物並みにあるのかもしれん」
「つまり、体力特化の実験体ってことか?」
 犬太郎が、顔を顰めて唸る。
「これで終わりにできりゃいいんだが……」
 長々と苦しませるのは流儀じゃない、と呟き、犬太郎はオリジナルグラビティ『神風正拳ストレート(ジンプウセイケンストレート)』の構えをとる。
「一撃だ、俺のたった一撃を全力で完璧にお前にブチ込む」
 宣告すると、犬太郎は鮮やかすぎる一撃をドラグナーの心臓部に打ち込む。打たれた胸側ではなく背中側が弾け、どす黒い液体……いや粘体が噴き出るが、ドラグナーは倒れない。
「殺ス……殺ス……」
「ふん、殺されるのはアンタの方さ、ドラグナーもどきが!」
 ドラグナーは容赦なく焼き潰す! ま、敵なら誰でも赦しはしないんだけど、ね!! と、二年前にとあるドラグナーに顔を焼き潰されたベルベットは嘯き、オルジナルグラビティ『インフェルノ・リアクター』を放つ。味方には治癒、敵には業炎の攻撃となるグラビティは、ドラグナーの全身を灼くが斃すには至らない。
 だがベルベットは、特に残念そうでもなく、ささなに向け告げる。
「ほい、ささな、決めな」
「えー? いいよ別に、クソ親父……アウルが相手ならともかく」
 こんな奴の魂、うっかり食べたら怒りっぽくなっちゃうよ、と、嫌そうに唸ったものの、攻撃の手番は譲るつもりはなく、ささなはオリジナルグラビティ『超電竜撃滅衝(ライトニングドラゴンブラスター)』を放つ。
「全身全霊、必殺の一撃だーっ!! ……ありゃ?」
「……外したか」
 エリシエルが呟く。ささなの『超電竜撃滅衝』は、当たれば確かに威力があるらしいが、大振りでなかなか当たらないと評判である。
 そして善彦が、冷淡に呟く。
「やれやれ。結局、俺が看取ることになるのか」
 治療はできない、意味ない相手と見切っているのに、最後に立ち会う羽目になるは医者の宿命かね、引導渡すなら坊さんじゃないかと思うが、と溜息をつくと、善彦はオリジナルグラビティ『止めの一撃(ドクターストップ)』を打ち込む。
「診察終了、サヨウナラ」
 潰すべきはここ、と、善彦はドラグナーの喉元、竜でいえば逆鱗のある所を掴み、力任せにむしり取る。またも黒い粘体が噴き出たが、もはや人間の原型を留めないドラグナーの身体は、ついに半ば溶けるように崩れ、その形態を失った。

作者:秋津透 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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