梅雨に見つかるカビ生えた餅

作者:神無月シュン

 ――梅雨。
 雨が続くこの季節、ジメジメとした湿気が部屋中に充満する。
「はぁ……完全に忘れてたわ」
 食品の整理をしていた主婦。すぐそばには、正月に飾ったのであろう鏡餅が置いてある。ここ連日の雨のせいか鏡餅の表面にはカビがびっしりと付いていた。
「これだけカビだらけだと、気持ち悪いわね」
 後で食べようと寄せておいて、そのまま放置してしまうのはよくある事。触るのも嫌だがそのままにはしておけず、カビの生えた餅を掴みごみ箱へと捨てた。
 その瞬間、胸への違和感。心臓に向かって『鍵』が突き刺さる。
「あはは、私のモザイクは晴れないけど、あなたの『嫌悪』する気持ちもわからなくはないな」
 突如現れた第六の魔女・ステュムパロスは、笑いながら突き刺した『鍵』を捻る。
 意識を失い崩れ落ちた主婦の隣には、斑点の様にカビが生えた鏡餅型のドリームイーターが現れていた。

「この時期は湿気が多くて大変っすね。カビには注意っす」
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)はそう言いながら、今回の事件の説明を始める。
「『嫌悪』を奪って、事件を起こすドリームイーターがいるみたいっす」
 『嫌悪』を奪ったドリームイーターは既に姿を消しているが、奪われた『嫌悪』を元にして現実化したドリームイーターにより、事件を起こそうとしているようだ。
「ドリームイーターによる被害が出る前に撃破して欲しいっす」
 このドリームイーターを倒す事ができれば、『嫌悪』を奪われてしまった被害者も、目を覚ますだろう。

「敵はカビの生えた鏡餅型のドリームイーターっす。びっしりカビが生えてるのを見ると鳥肌が立つっすね」
 想像して身震いするダンテ。
「上段と下段の餅で挟み込んできたり、カビとモザイクが混ざったものを飛ばしてきたりするっす」
「カビまみれにはなりたくないよ!」
 声をあげたのは話を聞いていた、赤星・緋色(小学生ご当地ヒーロー・e03584)。緋色の言葉に他のケルベロス達もうんうんと頷いている。

「皆さんにカビが生えない事を祈るっす」
 冗談かどうかわからない言葉で、ダンテは説明を終えた。


参加者
不知火・梓(酔虎・e00528)
天津・総一郎(クリップラー・e03243)
赤星・緋色(小学生ご当地ヒーロー・e03584)
マイア・ヴェルナテッド(咲き乱れる結晶華・e14079)
神宮寺・純恋(陽だまりに咲く柔らかな紫花・e22273)
島・笠元二(悪役勉強中・e26410)
浜咲・アルメリア(捧花・e27886)
地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286)

■リプレイ

●梅雨の湿気がもたらすもの
 しとしとと雨が降り注ぐ。梅雨なのだから雨が降るのは当然の事。しかし今日ぐらいは晴れてほしかったと思うのは、わがままだろうか……。ケルベロス達は雨に濡れながら目的地に向かって歩く。
「食いもんを忘れて放置、っつーのは、本当におっかねぇよなぁ。俺も注意しねぇとなぁ」
 先頭を歩いていく不知火・梓(酔虎・e00528)。禁煙中なのか、タバコの代わりに長楊枝を銜えている。
「いやさすがに正月の餅を処分してないのはズボラすぎだろ……。確かにおせちよりは消費しにくい物だけどさ」
「梅雨だからねー……湿度が高くなっても仕方ないのかな……? いやいやいや、鏡餅を6月まで放置はないわねー」
 天津・総一郎(クリップラー・e03243)と神宮寺・純恋(陽だまりに咲く柔らかな紫花・e22273)が鏡餅の事を話しながら歩く。
「……べ、別に心当たりがあるわけでは、ないのよ。食パンを買っておいたら忘れて半年前だったとか、自炊しなさすぎて炊飯器の中身を放置して酷い目にあったとか、そんなことは断じてないのよ。なかったことにする。それでいいのよ。忘却は人に許された救いなのよ」
 どうやら今回の事件が浜咲・アルメリア(捧花・e27886)のトラウマを刺激してしまったようで、頭を抱えている。
 赤星・緋色(小学生ご当地ヒーロー・e03584)は雨対策のレインコートを着て、仲間の周りを楽しそうに走り回っている。
 目的地へと着くと、花壇に咲いた紫陽花が雨に濡れ、元気そうに迎えてくれた。
「ここより先は、関係者以外立ち入り禁止です、ってなぁ」
 到着して真っ先にキープアウトテープを貼っていく梓。アパートの外、車2台がギリギリすれ違えるかという程度の道路。少々狭いが戦闘には問題ない。
 キープアウトテープを貼っている間に、地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286)が周囲に一般人が居ないかどうか確認していく。
 戦場の確保を終え、しばらくするとアパートの一室のドアが開くと、中から鏡餅の形をしたドリームイーターが姿を現した。
「ひゃっふー餅だ―! カビたのじゃなかったらよかったけど」
 カビだらけの餅を見て、緋色が残念そうにしている。
 1mくらいの大きさのドリームイーターは、カビとモザイクまみれで餅の部分はほとんど残っていない。鏡餅と言うよりも鏡餅だった物と呼んだほうがいいほどに……。
「にしても戦うのに全く気乗りしない相手だな。けどデウスエクスを倒せるのはケルベロスだけだし……。つまり餅は餅屋ってね。あっ、俺、今上手い事言ったんじゃない?」
 と、得意気に総一郎。
「こんなの食べたら、うちのメイドに叱られちゃうわ」
 やる気なさげにマイア・ヴェルナテッド(咲き乱れる結晶華・e14079)が呟く。
「あ~、カビてる食品殴らないといけないのかーしくしく。まあ、仕事だしきっちりとやるんだけどね。テレ蔵くんも頑張って守ってね」
 純恋が声をかけると、テレビウムのテレ蔵くんはコクコクと頷いた。
「この梅雨でも悪役模様の私が、カビまみれの鏡餅型ドリームイーターに負けるわけないじゃない。おーほっほっほ!」
 島・笠元二(悪役勉強中・e26410)が自らを鼓舞するように笑う。
「さぁて、戦闘開始と行こうかねぇ」
 銜えていた長楊枝を吐き捨てると、意識を切り替え、梓は武器を構えた。
 続くように他のケルベロス達も武器を構え、カビとの戦い……いやドリームイーターとの戦いが始まった。

●カビた餅との戦い
「そぉら」
 戦闘開始と同時、梓の放った斬撃がカビの一部を凍らせる。
「スターサンクチュアリ」
 マイアがゾディアックソード『白銀の選定者』へと力を籠める。すると地面に白鳥座が描かれ、光を放ち前衛を包み込んでいく。
「カビまみれには、なりたくないな」
 被害を逸らそうと、総一郎が自身の幻影を纏う。
「支援してあげるんだから、が、頑張りなさい!」
 オウガ粒子を放出して前衛の強化を行うアルメリア。
「カビ退治も主婦のお仕事ってね。ま、こういうカビじゃないんだけど。まあいいわ。やってやるわよー。必殺、主婦キック」
 純恋の飛び蹴りが、ドリームイーターの天辺へと命中する。踏みつけられたドリームイーターが地面へと叩きつけられる。更にそこへ、夏雪の飛び蹴り。
 上段と下段の餅がばらばらに別れ、緋色を挟む。
「ぐぇ……」
 潰れたカエルの様な声をあげる緋色。少しして餅の隙間から這い出てくると、地面から溶岩を噴出させ、攻撃する。
「おーほっほっほ、私が回復を手厚く振舞ってあげるわ。その代わりに私の為にキリキリ動きなさい!」
 後衛へと雷の壁を展開する笠元二。
「絶空斬」
「熾炎業炎砲」
 梓が空の霊力を帯びた刀で斬りかかる。続いてマイアの炎弾がドリームイーターを焼く。
 そこへ総一郎の蹴りが電光石火の速さで繰り出される。その一撃がドリームイーターを吹き飛ばす。
 吹き飛んだ先には、『名残雪』を砲撃形態に変形させ構えていた夏雪。
「そこです……」
 竜砲弾が放たれ、ドリームイーターへと襲い掛かる。
 連続で攻撃を受け、ドリームイーターはたまらずモザイクで傷を回復していく。
「とうっ!」
 緋色が掛け声と同時、跳び上がる。
「やああああ!」
 落下の勢いと共に放たれるスターゲイザー。
「すあま、間違っても食べちゃだめよ」
 攻撃しながら、ウイングキャットのすあまへと声をかけるアルメリア。
 食い意地が張っているすあまでも、流石に食べても美味しくないことは理解しているのか、特に興味も示さずに、羽ばたき回復につとめる。
「もう三十超えたけど、将来性がどうのこうのな一撃ドーン」
 純恋の大器晩成撃にドリームイーターが怯むが、すぐに体勢を立て直す。
 そして反撃にと、ばら撒かれるカビの胞子とモザイク。
 テレ蔵くんが飛び出し、攻撃を受けると全身カビまみれになる。
「おーほっほっほ、まだまだ強化いくわよ」
 笠元二がライトニングロッドを構え、エレキブーストを放った。

●敵も味方もカビまみれ
「いいねぇ……」
 攻撃を受け体が痛みを訴える、傷口からは血が流れる。そんな中に己が生きているという実感を感じる梓は、気分が高揚していく。これだから戦いはやめられない。距離を詰め放たれる達人の一撃が、ドリームイーターに襲い掛かる。
「……ふふふ、私は何もしてないわよ? 貴方を狂わせるのは他ならぬ貴方自身よ」
 マイアが魔眼を発動させ、呪いをかける。
「爆発しろー」
 精神を集中させ、ドリームイーターを爆破する純恋。
 ドリームイーターのカビの胞子が緋色を襲う。大量のカビの胞子に体が痺れ動けなくなる緋色。
 それを見た笠元二が急ぎ回復を行う。
 グラビティ・チェインを破壊力に変え、武器に乗せ叩きつける総一郎。この一撃にドリームイーターが怯む。
「癒せ、《枸杞》。叢雲流霊華術、壱輪・芍薬――改式」
 その隙に詠唱を終えるアルメリア。薄紅の芍薬の花が緋色の元に咲くと、浄化の氣を放つ。
 『名残雪』を構え、凍結を伴う一撃を振るう夏雪。
 ドリームイーターが分離しながら突進してくる。
「おっと、この攻撃俺に任せろ!」
 総一郎が飛び出し、ドリームイーターの攻撃を受け止める。
 笠元二が杖を掲げると、ほとばしる雷がドリームイーターを撃つ。
 雨で湿気は十分。ドリームイーターのカビの胞子は異常な成長速度を見せ、服はおろか、体のあちこちにまでカビが侵食していく。このままカビを浴び続けるのもマズイと、勝負を決めるため、ケルベロス達は猛攻に出る。
「我が剣気の全て、その身で味わえ」
 梓が刀へと己の剣気を溜め、斬撃と共に放つ。放たれた剣気はドリームイーターの体内へと浸透し、内部で炸裂。
「逃がさないわ……ストラグルヴァイン」
 マイアの放った蔓がドリームイーターに絡みつき締め上げていく。
「俺の太陽は勢いよく昇るけどよォ~、オメーの太陽は沈む時だぜ!」
 総一郎が懐へと飛び込む。そしてかがみ、跳び上がりながらの掌底。ドリームイーターの体が浮き上がる。
「このまま焼かれて煎餅になるがいいー」
 純恋が明日から本気を出すという誓いの心を溶岩に変え、ドリームイーターを焼く。
「ごめんね……」
 地面へと叩きつけられたドリームイーターに近づく夏雪。その瞬間、ドリームイーターを包囲するように粉雪が舞う。
 足掻く様にカビの胞子を飛ばすドリームイーター。その攻撃にアルメリアが立ち塞がる。
「あたしがこうして守ってるんだから、しっかり決めなさいよっ」
「よーし、任せろー! ひっさーつ!」
 アルメリアの言葉を受け止め、緋色は武器にグラビティ・チェインを纏わせ叩きこむと、ドリームイーターは、ばらばらに砕け散った。

●整理は定期的に
 戦闘を終え、総一郎とマイアが周囲のヒールを行っていく。他のメンバーは周囲の掃除を。
「ところで……理論的には『ブイヨン』を使えば食べられるのかしら……理論的には」
 アルメリアは転がっていたカビた餅の破片を一つ拾うと、試しにブイヨンにしてみた。
「さすがに食べるのはちょっと」
 しかし思い直し、作ったブイヨンをそっとゴミとして処分した……。
「クリーニングお願いねー」
 純恋に頼まれ、笠元二が服と体に付いたカビを『クリーニング』で取り払っていくと、自分もと次々に集まってくる。
「そんなに騒ぐなんて子供だな」
 その様子を見ていた総一郎が大人ぶっているが、
「あなたも、カビまみれですよ……」
「うおお気持ち悪い! 早くきれいにしてくれ!」
 夏雪に指摘され、総一郎も慌てて輪に加わっていく。
「餅がカビだらけだったっつーこたぁ、被害者の家、他にもカビてるもんあったりすんじゃぁねぇか? 掃除した方が良いんかねぇ……?」
 梓の言葉で、被害者の様子を見に行くことにするケルベロス達。
 特に怪我がないことを確認した後、夏雪が掃除を手伝い始める。それを見て他のメンバーも手伝う。
 その結果出てくる、賞味期限切れの食品の数々……。
「飽食の時代っていうけど、食べ物はちゃんと期限内に食べきらないとね!」
「鏡餅がそのままなのは鏡開きをしてない証拠。つまりこれは……昔からの風習を疎かにしたのが原因なんだよ! だから来年はきちんと食べような?」
 同じような目に合わないようにと、アドバイスしていく緋色と総一郎。
 掃除を一通り終えると、ケルベロス達はアパートを後にした。

作者:神無月シュン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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