智龍襲来~濁耀の屍花竜

作者:宇世真

「いよっすー。待ってたぜー。螺旋忍法帖の防衛戦、お疲れさん!」
 労いの言葉と共にケルベロス達を迎えた久々原・縞迩(縞々ヘリオライダー・en0128)は、この作戦の結果、螺旋帝の血族『緋紗雨』の保護に成功した事を告げた。
「螺旋帝の血族のもう1人、『亜紗斬』の所在は不明って話だが、まずは、結構デカい成果じゃねぇか?」
 デカい一歩だと思うぜ、と彼は笑ってみせる。
 だがな、と続く言葉に含む微妙なニュアンス、良い事ばかりではないらしい。
「螺旋帝の血族『イグニス』と同盟関係になったドラゴン勢力が、『緋紗雨』の奪取に動き出したってェんだ」
 ヘリオライダーが口にする、竜十字島からの刺客――その名は、智龍『ゲドムガサラ』。
 智龍『ゲドムガサラ』は、秘術により『緋紗雨』の居場所を特定する事ができるらしく、真っ直ぐ『緋紗雨』を目指して進んでくるという。
「そのゲドなんとかっつー智龍の奴が引き連れてんのが『宝玉封魂竜』の軍勢でな。定命化で死の際にいたドラゴンを、智龍の奴が『宝玉封魂法』で無理矢理生き延びさせたドラゴン達なんだわ。本来、死んでる筈の状態だからか、骸骨みてぇな姿になっちまってるが、元気な頃に準じる戦闘能力を持ってる。智龍にくっついて襲撃に来る宝玉封魂竜の数は相当のモンで、市街地で防衛戦なんて事になりゃ間違いなく大きな被害が出ちまうぜ」
 ――そこで、だ。
 ゲドムガサラの軍勢を迎え撃つのに最も適した場所、エインヘリアルによって要塞化されていた天下の名城『飫肥城』で迎撃作戦を行う事になった、と彼は言う。
「螺旋帝の血族『緋紗雨』を保護して飫肥城に向かい、飫肥城で、……ゲドムガサラ率いる『宝玉封魂竜』の軍勢を迎え撃ってくれ!」
 濁点の多いその名前を手帳で確認しながら拳を固め、説明は続く。
「『宝玉封魂竜』は数の暴力で押し寄せてくるからな、飫肥城がいくら難攻不落だっつって、まともにぶつかりゃどうなるか危ねぇモンだぜ。だが、ゲドムガサラが直接指揮しない限り、宝玉封魂竜はその戦闘力を充分発揮できねぇっつー欠点がある。敵本陣に切り込んで、ゲドムガサラを撃破できりゃあ、残戦力を蹴散らす事も不可能じゃねぇ。その為には、まず前衛の宝玉封魂竜を撃破する必要がある訳でな」
 まずは1体。
 今回の作戦で戦う事になるその宝玉封魂竜は、元々は『花竜』だったらしい。
 と、語られる外見特徴。
「摂理を捻じ曲げた無理な延命で、枯れ枝みてぇな骨の竜と化した今の姿にゃ、全盛期にはあったかもしれない美しさの、欠片も残っちゃいねぇ。萎びた花の結晶に惑乱の暗い光を湛え、ギザギザに乾いた葉には毒を宿し、胸ん中には『宝玉封魂竜』と呼ばれる所以の宝玉が、それも濁った奴が入ってる」
 花のブレスと、毒のブレス、それから何かよく判らないが鋭く尖った近距離列攻撃を仕掛けて来るだろう、と彼は言った。
「よく判らねーのはアレだ、そいつが殆どそれを使わねぇからじゃねーかと思うぜ。どっしり構えて一意専心、みたいなタイプなのかもな。……今のそいつにどれだけその性質が残ってっか解らねーけどな」
 という訳で。
 説明を終えたヘリオライダーは手を打ち、襟元に触れた。ゼブラ柄のスカーフを弄るのは彼の癖だった。
「イグニスに、智龍ゲドムガサラか――しかし、とんでもねーのが出て来たもんだよな。『緋紗雨』の情報も気になるだろうが、今回の作戦も、激しい戦いになる事は間違い無ェ。いつもの事だが、油断せず行こうぜ。そんで、まずは無事に帰ってくる事、だ」
 敵は、あの固体最強と謳われたデウスエクス・ドラゴニアなのだから。


参加者
藤咲・うるる(メリーヴィヴィッド・e00086)
メイザース・リドルテイカー(夢紡ぎの騙り部・e01026)
輝島・華(夢見花・e11960)
クローネ・ラヴクラフト(月風の魔法使い・e26671)
ローデッド・クレメインス(灰は灰に・e27083)
ラグナシセロ・リズ(レストインピース・e28503)

■リプレイ

●『屍花竜』来襲
 それは、思わず息を呑む光景だった。
 宝玉封魂竜の群が空を埋めているのを見て、ぞわりと肌が粟立つのを感じたクローネ・ラヴクラフト(月風の魔法使い・e26671)は、ふと、レッドレーク・レッドレッド(赤熊手・e04650)の方を見た。力強く返される彼の眼差しに、不安と恐怖が薄らぐのを感じる。
(「大丈夫、一緒ならきっと頑張れる」)
 言い聞かせる様に胸元で固く手を握り込み、キッと顔を上げたクローネの傍ら、向かい風に逆らう様に藤咲・うるる(メリーヴィヴィッド・e00086)もずずいと前に出た。掻き乱される柔らかな金の髪を押さえて、空を睨め上げる澄んだグリーンアイズ。
「来たわね」
「ドライフラワー……とも言えないねえ」
 件の宝玉封魂竜を見て、メイザース・リドルテイカー(夢紡ぎの騙り部・e01026)がそんな事を呟いた。年齢相応に落ち着いた声色。
「――さて。ひとまずはドラゴン退治といこう」
 思う所は胸に秘め、彼が続けた言葉に一同頷き、それぞれに動き出した。
「行きましょう皆さん。思う存分暴れて下さい。僕とロキがちゃんと看てますから!」
 ラグナシセロ・リズ(レストインピース・e28503)の言葉と共に起きるカラフルな爆発。爆風に背を押されて力を漲らせる前列の行く先、青き白金纏う戦乙女が楽しげに躍り出る。
「よし、来い!」
 叫ぶや否や、腰溜めに構えるバスターライフルから凍て付くレーザーを放つイルルヤンカシュ・ロンヴァルディア(白金の蛇・e24537)と共に、相棒のウイングキャット『オニクシア』とラグナシセロのウイングキャット『ロキ』がそれぞれ主の属する列を風で吹き清める中、うるるも竜砲弾を撃ち出した。合わせる様に、或いは先を争う様に。
「負けられないわ……!」
 内外どちらにも向きそうな彼女の台詞が迸り、それに続くはレッドレークの力在る叫び。真っ赤なレーキ『赤熊手』を地を割る程に叩きつけながら。
「『そこで大人しくしているがいいぞ』!」
「『空翔る者、地駆ける者、等しく重力の枷を――さあ、行っておいで』」
 メイザースも重ねて詠唱。
 地中を奔る2連の波は程なく屍花竜の足元に至り、大地を石巖の刃と化して突き上げるレッドレークの『YIELD-FIELD:E(イールド・フィールド・エッジアース) 』に次いで、指を鳴らすと同時に飛び出すブラックスライムが絡みつくメイザースの『Darker than darkness(メイフヨリイタルモノ)』が発動する。
 輝島・華(夢見花・e11960)が掲げた杖から迸る雷を追いかけて、肉薄するローデッド・クレメインス(灰は灰に・e27083)が握り込む『疾吼』、クローネは星型のオーラを蹴り込んで行く。オルトロスの『お師匠』と共に、屍花竜の装甲を削がんと。
 攻撃のチャンスを広げるべく、攻撃を重ねる彼らに、屍花竜は烈しいブレスで応じた。

●枯花、散花
 吹き荒れる枯花結晶の飛礫が前列のケルベロス達の肌を打つ。
 跳ね付ける様にイルルヤンカシュが足を跳ね上げた。流星散らし、重力を纏う蹴りで飛び込んで行く彼女の脇を、うるるが投じた大鎌が風を切って追い越し、屍花竜を穿つ。後方で再びカラフルな爆炎が上がる中、早々火力重視に切り替えたレッドレークがブレイズクラッシュを重ね、炎に包まれた骨の身体にメイザースが撃ち込む時空凍結弾、華は先程ブレスを喰らった仲間達の足元に黒い鎖を奔らせ彼らを守護する魔法陣を描いた。
「更に肝冷やしてやるよ。あァ、冷える肝も無ぇか」
 どうでも良いがとローデッドが重ねる螺旋氷縛波。地獄の炎を宿す彼の左目は、戦闘を開始したその瞬間から右と同じに見開いている。とん、とん、とフェアリーブーツを鳴らす軽やかなクローネの舞は、皆に花のブレスの悪い影響が出る前に、不安の種を取り除く様に。
 そんな彼女の心配りを無に帰す様に、毒と花の息吹が交互にケルベロス達を襲う。
 今の所それ以外の不穏な動きは見えない。しかし、応戦しながら多角的に警戒を注ぎ、応酬を重ねる内に彼らの身体は徐々に花毒に蝕まれて行く。位置取りに救われているとはいえ、その分攻撃に曝される局面も多く、メンバーの中で最も体力の低いクローネは特に影響著しい。気遣わしげに彼女を見遣ってレッドレークは歯噛みした。もどかしい。戦友として信頼しているのは元より、それ以上に――。
「さっさと墜ちろ、貴様」
 尊大な悪態は、枯れた命を濁った石で繋ぐ眼前の宝玉封魂竜へ。
「まったくもって同感ね」
「右に同じく」
「同じく」
 共感の声続々。イルルヤンカシュ、うるるに続いてローデッドも。
「花ってのはいつか散るもんだ。潔く堕ちな」
 いつまでも粘ってんじゃねぇとばかりに一撃ずつ叩き込んで行く。屍花竜はそれらに動じる風もなくどっしりと構えたままで、顎を開いた。枯れた花結晶が一瞬開き、花のブレスが。
「また来ます、気を付けて!」
 ラグナシセロは注意喚起しつつ、クローネに『フレイの平穏(ユングヴィフレイインフロディ)』を届ける。生温い暴風をあたたかな微風に塗り替える彼の祈りと共に。
「『豊穣を司りし神々よ、我らに慈悲を与え給え』」
 幸いにして大きく狙いを違える事も、手元が狂う事もなく、ここまで各々の役割を果たす事ができている。
 屍花竜だけが、彼らの相手ではない。
 その為に、なるべく誰も欠けずにこの場を切り抜けるべく彼らは立ち回る。
「竜十字島に挑み大きな可能性を掴んでくれた者達の思いを無下にする訳にはいかんのだ……!」
 地獄の炎を放ち、屍花竜の生命を喰らうレッドレーク。
 今日の戦いもまたその様にして数多の積み重ねにより生まれたものと思えばラグナシセロも決意を新たに。各自の心に浮かぶ想いは必ずしも同一でなくとも、今回の作戦に於いて目的は一致していた。
「せめて散り際は美しく飾ろうか」
 唸りを上げて加速するドラゴニックハンマーの一撃に、枯花結晶の一部が砕けた。一瞬、傾いだかに見えた巨体に向けて、メイザースが皮肉げに口にする『言葉』に、華が応える。
「任せて、メイザースおじ様! 『さあ、よく狙って。逃がしませんの!』」
 少女の掌に生み出された魔力の花弁が風に乗り、屍花竜を切り刻んで行く。

 ――花は散る。
 詳細不明の切札を隠したままで。
 それは対峙する彼らにとっては願っても無い幸運だった。

●防衛戦線
 屍花竜の撃破に相応の時間が掛かった事は否めない。
 態勢を立て直す間もなく飫肥城へと攻め寄せて来る第二波を前に、初戦で戦線を離脱したサーヴァントの代わりにからくもメイザースが前列に滑り込む、と同時に、骨ばった竜尾が薙ぎ払う風ごと彼らに襲い掛かった。いきなりの洗礼に思わず胸を押さえて呻く、が覚悟の上だ。
「これは、手厳しい」
「支えます!」
 ドォン、と爆裂。カラフルな爆炎を風に靡かせ、即座にラグナシセロが戦線の維持に力を添える。
「さぁて、ここから先は通行止めだ。回り道はあの世行だけだよ」
 自信に満ちた表情で、ドラゴニックハンマーを構えるイルルヤンカシュ。砲撃形態へと変化したそれが、新手の足を止めようと火を噴いた。竜を纏った弾丸が、宝玉封魂竜の巨体に喰らいついて行く。
 狙いは屍花竜の時と同様に。機を広げるべく全員で攻撃を集中させて行く。
 声を掛け合い、幾度目か、割れんばかりに大地を穿つレッドレークの『赤熊手』から生み出された衝撃波が地中を奔り、突出した鋭利な石巖の刃が骨竜の足元を裂き抉った。悪くない手応えに、赤レンズのゴーグルの奥で目を細める彼。重ねて達人の一撃を叩き込んだ華も息を弾ませた。
「兄様、姉様、おじ様方、もう少しですの! もう少しで……あっ?!」
「――?!」
 骨の翼を広げて、不意に気配が動く。
 咄嗟。反射的にメイザースはドラゴニックハンマーを振るい、ローデッドが舌打ちと共に殴り掛かって仕留めようとするも、次の瞬間、二人の攻撃は割り込んで来た別の骨竜に阻まれた。後退する先の骨竜を途中まで目で追いかけ――、
「お次はてめぇが相手って訳かよ」
 めきり。
 疾く吼える得物ごと音を立てて拳を引きながら、ローデッドはすぐに視線を戻して不敵な笑みを浮かべた。何が来ようと、目の前に立つ敵は全て――全力で相手をするのみだ。

 入れ替わり立ち代わり、攻防はいつ果てるともなく繰り返される。
 やっとの思いで大打撃を与えようとも、すぐに横入りしてくる次なる宝玉封魂竜。その所為もあってなかなか撃破には至らず、一体も墜とせないまま、むしろ自分達の方がじりじりと圧されている気がして、クローネは大地を踏み締めた。
(「いつも皆に助けられているから、今日は、ぼくが守る番……!」)
 強い思いで踏み止まる。
 ラグナシセロを筆頭に全員が互いを気にかけて動いている――動けているおかげで防衛戦に突入してからまだ誰一人、倒れていない。
 倒れる気も彼女達には更々、無いのではあるが。
 ――轟。
「……っ!」
 圧を伴う鋭い風が、眼前に迫り来る。
「絶対に倒れない! 壁役としての意地があるんでね!」
 何度目とも知れない重い斬撃、竜爪を瞬きもせず真っ向から受け止めた青き白金の戦乙女が勇ましく、高らかに返す言葉と笑みと轟竜砲。戦地のどこからか聴こえて来た雄叫びに、共鳴する心のままに「ウォオオ!」と叫んでぶっ放すイルルヤンカシュその人に、黒曜の翼持つ相棒が静かに目を向けている。その様が何故だか妙に可笑しくて、うるるは思わずくすりと笑みを漏らした。
 護りに徹する厳しい戦況、けれども不思議と力が沸いて来る。
「こんなにもたくさんのケルベロスが戦っているんだもの。作戦は絶対に成功するし、成功させてみせるわ」
 既にどこかで交戦して来たらしいその骨竜は、一見そうと判らない程に壮健ぶりを見せ付けてはいたが、その身に刻まれたばかりと思しき癒し切れない傷痕の数々から、共に防衛戦に臨む他チームの存在を感じて、彼女はますます奮い立つ。
「だから――私たちは、私たちに出来ることを!」
 固めた拳に降魔の力を宿した苛烈な一打は、母の教えを汲む彼女の『愛の忘却((オブリビオン・オブリビエイト) )』。全てを押し流す様な力の激流が、空気を打ち震わせる。
「『忘れていいわ、私が覚えていてあげる』――!」
「空を飛ぼうが地を駆けようが同じことだよ」
 言って、掌を前に向けたメイザースは『Darker than darkness』の詠唱に言葉を足した。
「――影より出で、神を堕とせ」
 ぱちんと指を鳴らせば、骨竜が影を落とす土中より絡みつくブラックスライム。
「てめぇに選ばせてやるよ、ぶっ蹴られるか、殴られるか。まァ、どの道、ぶッ潰すがな」
 裡でくすぶる炎の捌け口を得た昂揚を隠しもせずに、己の全てで骨竜にぶつかって行くのは褐色の獣。薄氷色の炎を宿す左眼を見開き、黒を残した白い長耳を揺らしてローデッドが繰り出す撲殺釘打法。

●守る者達
「あ、あれは……!」
 城外の彼方より負傷者を支えながら撤退してくるケルベロス達に気付いた華が声を上げた。
 混戦の中を掻い潜って飫肥城を目指す者達の中には、深手を負った者も在る。
 重傷者を支える執事然とした身形の青年を始め、仲間の為に肩を貸している戦友達を護る様に――赤髪のレプリカントメイドとテレビウム、白灰の長い前髪の隙間から鮮やかなシトリンの瞳を光らせた忍女性が哨戒に就いてはいるものの――、
(「万が一、巻き込まれでもしたら……!」)
 きっと一溜まりもない。
 城壁の内外で、宝玉封魂竜達が入り乱れる最前線にも異変は既に及んでいた。
 先程までとは明らかに性質の異なる拙い動きを見せ始めている骨竜達の動向に、それぞれ注意を傾けながら、うるるとメイザースが撤退支援の為に骨竜を抑えに動く。
 その間にも、先天八卦図を背負った男性が殿を務める一隊が無事に城内へと至るのを確認して、同年代のメイザースは内心胸を撫で下ろした。一方、うるるは目立つ赤翼の竜派女性と、黒衣に眼鏡の青年のチームを視界の端に捉えながら、仲間に担がれたダンダラ羽織の兎耳少女が無事に城へと運び込まれるまで気が気ではない。
 彼らが城内に消えるや否やの瀬戸際で、1体の宝玉封魂竜が轟く様な雄叫びと共に中空に躍り出た。
「!」
 弾かれた様にクローネもそちらへ走り出す。狙われたのは負傷者を多く抱える、最後尾のチームだった。無我夢中。祈る様な気持ちで顎先に飛び込んで、衝撃に揺れる視界に耐えながら、腕に触れたものを一心に上空へと弾いて――!
「こっちだよ! もう大丈夫、ぼくが……ぼく達が守るから!」
 激しい継戦を経て自らも満身創痍ながら笑みを向け、励ます様にそう言って退路を示した彼女は、飫肥城へと駆け込んで行く撤退者達を最後まで見届ける事無く骨竜に向き直る。
「ここは意地でも通さないよ」
 これまでの一糸乱れぬ連携は今や見る影もなく崩れ去り、どれだけ深く傷つこうとも後退すらせず好き勝手に粗い攻撃を続けるばかりとなった宝玉封魂竜達の姿に、智龍ゲドムガサラの撃破を確信したケルベロス達が一気呵成に攻撃を畳み掛けて行く。
 大群の渦中に斬り込んで行った仲間達が、遣り遂げたのだ。
 それにより、生まれた絶好の機会。
「今度こそ、このまま押し切るわよ」
 拳に力を溜めながら、うるるが大地を蹴って弾みをつけた。
 統制を失った宝玉封魂竜達は最早、彼女らの敵ではなかった。
「今すぐ俺様が同胞達の元へ送ってやるぞ!」
 戦友達の想いを背負い、己もまた仲間に信を預けて臨んだ防衛戦もいよいよ佳境と感じる。目の前で大切な人が傷ついて行く姿に積もり積もった怒りも最早我慢の限界域だった。自身も赤々と烈火の如く飛び込んだレッドレークが、燃え盛る『赤熊手』に思いの全てを乗せて叩き込む最後の一撃。
 限界を超えた彼の怒りを一身に受けた宝玉封魂竜の身体は、刻まれた多数の綻びからボロボロと剥がれ落ちる様に瓦解して行く……。
「――やりましたの!」
 歓びに湧く華の無邪気な声に呼応して、イルルヤンカシュも拳を天に突き上げる。

 あれほど空を埋めていた敵影は、もう殆ど見えなくなっていた。かくして飫肥城に攻め寄せていた宝玉封魂竜は、その防衛にあたっていたケルベロス達の手で順次撃破され、程なく殲滅される事となるのだった。

作者:宇世真 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月6日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。