智龍襲来~骸竜海嘯

作者:雷紋寺音弥

●禁忌の軍勢
「螺旋忍法帖防衛戦、ご苦労だったな。お前達の活躍によって、螺旋帝の血族『緋紗雨』を保護する事に成功したぞ」
 もう一人の螺旋帝の血族『亜紗斬』の所在は不明だが、まずは充分な成果と言える。だが、これで一安心とはいかないと、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)は緊迫した様子で、次なる戦いが迫っていることをケルベロス達に告げた。
「螺旋帝の血族『イグニス』と同盟関係となったドラゴン勢力が、螺旋帝の血族『緋紗雨』を奪還すべく動き出した。竜十字島からの刺客の名は、智龍『ゲドムガサラ』。やつは秘術によって『緋紗雨』の居場所を特定することができるらしく、まっすぐに『緋紗雨』を目指して進んで来る」
 無論、いかに強力なドラゴンといえど、たった一匹で特攻を仕掛けるほど愚かではない。智龍『ゲドムガサラ』は『宝玉封魂竜』と呼ばれる特殊なドラゴンの軍勢を引き連れている。
「『宝玉封魂竜』とは、定命化で死に瀕していたドラゴンを、ゲドムガサラが『宝玉封魂法』で無理矢理生き延びさせたものだ。本来であれば、既に死亡していてもおかしくない連中を、無理やり存命させたわけだからな。肉は削げ落ち、内臓も失い、殆ど骸骨のような姿になっているぞ」
 しかし、そのような姿になってもなお、元の姿に準ずる戦闘力を保持しているのが恐ろしい。『ゲドムガサラ』と共に襲撃に現れる『宝玉封魂竜』の数は多く、市街地での防衛戦では大きな被害が出るのは間違いない。
「そういうわけで、お前達にはゲドムガサラの軍勢を迎え撃つのに最も適した場所……エインヘリアルによって要塞化されていた、天下の名城『飫肥城』で迎撃作戦を行って欲しい。螺旋帝の血族『緋紗雨』を保護した上で飫肥城に向かい、そこでゲドムガサラ率いる『宝玉封魂竜』の軍勢を迎え撃ってくれ」
 『宝玉封魂竜』は、数の暴力で押し寄せてくるため、難攻不落の飫肥城をもってしても守り抜くのは困難である。しかし、『宝玉封魂竜』には、智龍『ゲドムガサラ』が直接指揮しない限り、その戦闘能力を発揮できないという欠点もある。
 前衛の『宝玉封魂竜』を撃破した後、敵本陣に切り込んで、『ゲドムガサラ』を撃破する。殆ど背水の陣に等しい作戦だが、成功させれば残る戦力を駆逐することも不可能ではない。
「今回、お前達に対応してもらいたいのは、『宝玉封魂竜』の内の一体だ。元は腹部にも巨大な口を持つ、双頭のドラゴンだったのだろうな。巨大な竜頭を携えた胴体を中心に、骨格だけの翼や触腕を思わせる二本の骸骨首を生やし、虹色に輝く宝石を体内に宿した異形の竜だ」
 既に骨格だけの存在になりながら、その戦闘力は生前と比べても衰えていない。青白い粘液状の猛毒ブレスを始め、触腕の如き長い首による薙ぎ払い、骨格化した爪による突き刺しといった技を繰り出してくる。
「既に半分は躯と化しているとはいえ、それでも『宝玉封魂竜』はドラゴンに準ずる戦闘力を誇る難敵だ。死せる運命にある者さえも手駒として使う……。智龍ゲドムガサラ……敵ながら、恐ろしいやつだぜ」
 ここで敗北し、『緋紗雨』を奪われるようなことがあれば、それは今までの苦労が水泡に帰すことを意味している。難しい任務ではあるが、なんとしても『緋紗雨』を守り抜いて欲しい。
 最後に、それだけ言って、クロートは改めてケルベロス達に依頼した。


参加者
マイ・カスタム(偽善者の毒・e00399)
ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)
ムギ・マキシマム(赤鬼・e01182)
水沢・アンク(クリスティ流神拳術求道者・e02683)
久遠・征夫(意地と鉄火の喧嘩囃子・e07214)
ディオニクス・ウィガルフ(ダモクレスの黒剣・e17530)
リョクレン・オルヴィアグレス(殲華の終獄・e19000)
羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)

■リプレイ

●屍の翼
 暁の空が、骨の色に染まって行く。飫肥城へ迫り来る宝玉封魂竜の群れ。肉体が朽ち果てているにも関わらず、その力は生前と何ら変わらぬドラゴンの一団が、夕刻の空を埋め尽くしていた。
「竜退治を成した騎士より名を頂きし俺が……竜に負ける訳にはいかんな!」
「ええ……。人間の底力、見せてあげましょう。クリスティ流神拳術、参ります……!」
 大地へと降り立った一匹の骸竜を前に、ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)と水沢・アンク(クリスティ流神拳術求道者・e02683)は、すぐさま戦闘に体勢に入る。だが、ジョルディの斧が振り上げられ、アンクの袖が焼け落ちるよりも早く、敵は二つの触腕のような首を振るわせ、凄まじい毒霧を吐き出した。
「……っ!?」
 青黒く淀んだ吐息の奔流を受け、マイ・カスタム(偽善者の毒・e00399)が思わず膝を突いた。
 自分も狙われながら味方の壁となる。そのリスクを理解していなかったわけではないが、しかしこれ程の威力とは。
「螺旋忍軍の暗躍かと思ったら、ドラゴンが出張ってくるとはね……。地球をなめてるわりには……セコい連中だな……ドラゴンも……」
 それでも、なんとか気力を振り絞って立ち上がるものの、既に彼女の身体は早くも猛毒による浸食が始まっていた。
「ったく、いきなり随分なご挨拶だな。だが、まだだ!」
 同じく、味方を庇って毒霧に巻かれたムギ・マキシマム(赤鬼・e01182)が、自らを叱咤するように叫び腕を振るった。
 紫色に変色した指先に、焼けつくような痛みが走る。しかし、ここで怯んでは男が廃る。なにより、この程度で退き下がる程、柔な鍛え方はしていない。
「護る、守り通す! その為に鍛え上げた筋肉だ!!」
 自分の身体のことは二の次にして、ムギは身に纏ったオウガメタルから銀色の粒子を周囲に散布した。
「バイタル確認……電圧調整……落ち着いて、そのまま」
 マイもまた、放電にヒールエネルギーを纏わせて自身へと通電することで、その身を蝕む猛毒を振り払う。全快というわけにはいかなかったが、それでも毒が消えただけで十分だ。
「我が嘴と爪を以て貴様を破断する!」
「壱拾四式……炎魔轟拳(デモンフレイム)!!」
 入れ替わるようにして前に出たジョルディとアンクの二人が、それぞれ左右に散開して仕掛けた。
 巨木をも切り倒す斧の一撃に、燃え盛る白炎を纏った拳。それらに身を形成する骨を砕かれて、宝玉封魂竜が咆哮を上げる。
「刹那のきらめきですが、誰かの希望となりますように……」
 敵の怯んだ一瞬に合わせ、羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)は輝く光を降り注がせて、ムギの身体を侵食している毒を取り払った。
 一瞬でも気が抜けない、緊迫した状況。おまけに、辺りでもあちこちで宝玉封魂竜との戦いが始まっており、酷い混戦になっている。
 私情を挟んで勝てる戦いではない。だが、それでも一瞬だけ自分の想いを告げる程度は許されるだろうと、紺はムギの後ろから言葉を掛けた。
「気をつけて……」
「ああ……頼りにしてるぜ、紺!」
 振り向いたら、そこを付け込まれると解っているのか、ムギは言葉でしか返さない。しかし、今の紺にとっては、それで十分だった。
「死期を悟って名のあるドラゴンとして死ぬのと、命令が無いとロクに動けなくなる骨だけの宝玉封魂竜……どっちがマシなんですかね」
 肉体を失ってもなお暴れ回る竜の背を見つつ、久遠・征夫(意地と鉄火の喧嘩囃子・e07214)が言った。
 正面から仕掛けるのはリスクが大きい。だが、敵もそう簡単に後ろを取らせてはくれまい。ならば……。
「ちょっと外法ですが……落月っ!」
 敵の真下に滑り込み、そこから肋骨に張り付いて身体を捻る。骨格の局面に添うようにして背中へと張り付き、そのまま宝玉を斬り付ける。
 骨だけとなった竜が、失った声帯の代わりに全身の骨格を振るわせて吠えた。口から漏れる猛毒の吐息は、まるで溢れんばかりの地獄の瘴気。否、今この戦場こそが、地獄そのものなのかもしれない。
「頼りにしてるぜ、緑煉。肩を並べるのは久しぶりじゃねェか……」
「ふふ、…思う存分発揮すると良い。お前の火力が頼りだ」
 ディオニクス・ウィガルフ(ダモクレスの黒剣・e17530)の言葉に、リョクレン・オルヴィアグレス(殲華の終獄・e19000)が微笑んで返す。二人とも、身体が震えていたが、それは恐怖によるものではなく。
「さァ……行こうぜ……? 死を、狩りによ」
 ディオニクスがにやりと笑う。生死の境、この世とあの世の狭間が垣間見える戦いも悪くない。
 半透明の御業が、轟音と共に放たれた竜砲弾が、それぞれに敵の食らい尽き動きを止めた。しかし、それらの拘束を引き千切るようにして首を振るい、骨の竜は前衛で奮闘する者達を、一度に纏めて薙ぎ払った。

●肉を切らせて
 肉体を失い、その果てに傀儡と化した竜の成れの果て。しかし、それでも力は生前と同等だけあって、宝玉封魂竜は手強かった。
 猛毒のブレスや長い首による薙ぎ払い。それを受け止め続けるマイやムギの負担が想像以上に重い。自分も狙われた状態で同じ隊列に位置する他人を庇うとなれば、一度の攻撃で複数回殴られているのと同じことだ。
「ムギさん、無茶は駄目ですよ」
 魔法の木の葉で紺がムギの周りを覆うも、蓄積したダメージは隠し切れない。だが、その一方で、敵が受けているダメージもまた、決して低いものではない。
 こちらの壁が突破されるのが先か、それとも相手が倒れるのが先か。火力に物を言わせたゴリ押しにも等しい、文字通り肉を切らせて骨を断つ戦いだ。
「助かったぜ。さあ、穿て轟竜砲、その名の意味を知らしめろ!」
 ハンマーの柄の先端を敵へと向けて、ムギの放った竜砲弾が骨の翼を正面から射抜く。轟音と共に砕け散る白骸。片翼となった竜は身を形作る骨を軋ませ、苦し紛れに爪を振りかざして来たが。
「……っ! 大丈夫、まだいける!」
 その身に纏った様々な力を粉々に砕かれながらも、マイがその身で攻撃を受け止めた。同時に自らの身体に電流を流し、残っていた毒を除去するのも忘れずに。
 これ以上、癒し手である紺に負担はかけられない。それを知っているからこそ、自分の傷は自分で治す。
「屍の竜に翼は要らぬ! 在るべき場所へ、帰るがいい!」
 側方から回り込んだジョルディが跳び、両手に持った斧を敵の翼に叩き付けた。同時に、アンクもまた一気に距離を詰め、敵の身体を真下から蹴り上げ。
「決めます……! 外式、双牙砕鎚(デュアルファング)!!」
 強引に仰け反らせたところで、白炎を纏った拳を胸骨に叩き付ける。その一撃は敵の身体を成す骨を粉々に砕き、内に宿した宝玉にまで届いて亀裂を走らせた。
「かなり消耗してしまいましたが……苦しいのは、相手も同じことです」
 身体ごと叩き付けるようなモーションから繰り出された征夫の蹴りが炎を呼び、骨だけとなった竜の身体を焼いて行く。それはさながら、肉体を失っても生き足掻き続ける異形の竜へ、この世の理を伝えて火葬に処すが如く。
「戦華に舞って魅せようか……。此れが骸竜の海嘯を迎え撃つ、地獄の番犬の海嘯だ」
「お前も素材にしてやるよ。骨だけ残して、大人しく悪夢の世界に還りな」
 リョクレンの掲げた槌に応えるようにして落雷が迸り、その閃光に敵の目がくらんだところで、ディオニクスが一気に間合いを詰める。
「星よ廻れ。織成す幻想を彩る為に――《其が望むは永遠の命か不滅の闘志か》贄靈宴、戦華の舞。狼の遠吠え、挽歌――最後の劔は折れない心」
 詠唱に呼応し、蒼雷は巨狼へと姿を変えて、貪るように躯の竜へと襲い掛かる。雷撃の牙が敵の身体を屠る度に、宝玉か骨と共に砕け散り。
「過日の幻、薄暮の現、黄昏の夢、宵闇の真――、汝が脳裏に刻まれし、棄て去れぬ者の面影よ……。……今一度、会い見える時――……さァ……」
 ついに頭を地に落とした宝玉封魂竜の腕を、ディオニクスの爪が斬り落とした。
 その一撃が見せるは過日の幻。しかし、肉体に刻まれし傷は、紛うことなき本物だ。
「ガ……ガァ……」
 掠れるような音と共に、崩れ落ちて行く骨の竜。互いに多くの手傷を負いつつも、初戦の勝利を掴んだのは、地獄の番犬たるケルベロス達だった。

●躯の波
 当初の目標である宝玉封魂竜を退け、目指すは敵の中枢であるゲドムガサラ。だが、敵もそれは解っているのか、智龍へと向かうケルベロス達の前に立ちはだかったのは、新たな宝玉封魂竜であった。
「さすがに、そう容易くは突破させてもらえませんか……」
 ここから先は、満足な情報もない敵との連戦となる。どことなく赤黒い色に染まった骨の身体を持つ竜。目の前に立つ新たな敵の姿を見据えつつ、征夫は油断なく距離を取った。
 先程の戦いで、前衛に立っていた者達は思った以上に消耗している。負傷の激しいマイに代わり、今はリョクレンが前に出ている。
「ここで時間を掛けるわけにはいかんな。……押し通る!」
 連戦にも臆することなく跳躍し、ジョルディが敵の頭を狙って巨斧を振り下ろした。が、渾身の一撃だったにも関わらず、敵の竜はそれを難なく避けると、お返しとばかりに凄まじい威力の炎でケルベロス達を攻撃して来た。
 ならば、これはどうだとばかりに殴り掛かるアンクだったが、その攻撃もまた竜は難なく回避する。先程の竜が攻撃力に特化していたとするならば、こちらは機動力に特化した竜ということか。
「速いですね……。力押しでない分、少々やり難い相手でしょうか……」
 すぐさま体勢を整えて、アンクは次の一手を考える。その間にも他の仲間達が仕掛けて行くが、連戦で消耗した状態では、陣形を変更しても苦戦は免れないようだった。
 まともに攻撃を当てられているのは、後方に下がり狙撃手の位置に着いたマイしかいない。こちらの攻撃が空を切る度に、敵は骨だけの身体をカラカラと震わせて、まるで笑っているかのような素振りさえ見せる。
「皆さん、無理しない様にしてくださいね?」
 幾度かの応酬を経て念を押すように仲間達へと告げるアンクであったが、それが気休めにしかならないのは、なによりも彼自身が理解していた。
 迫り来る竜の爪。こちらの反応よりも速く繰り出された一撃が、ディオニクスの胸元へと肉薄する。
「……っ! ……くっ……」
 だが、果たしてその一撃を受けたのは、他でもない盾役に回っていたリョクレンだった。
「ふ……ふふ……。生き残る戦いは……どれも厳しいものだな……」
 口元から溢れ出る鮮血と共に紡がれる言葉は、いつもの彼女と比べても弱々しい。他の者に比べ、防御でも耐久力でも劣った状態で壁を引き受けたこと。それが災いし、背中まで貫いた赤黒い竜の爪は、彼女へ致命傷に匹敵するダメージを負わせるのに十分だった。
「骨如きが……。テメェは絶対ェにぶっ殺す……」
 魔獣の爪と黒焔の爪。それを握り締めるディオニクスの拳が震えていた。
 この借りは、そちらの命で支払ってもらおう。奪われたものを奪い返すかの如く、ディオニクスは命を食らう地獄の炎弾を飛ばし。
「舐めやがって! 紺が俺の背を見てるんだ、格好悪い所は見せられねえんだよ!」
 宝玉の部分を抉るようにして斬り付けるムギ。同じくマイも拳を固め、一気に間合いを詰めて竜骨へ鋼拳を叩き付けた。
「撃ち抜け!」
 砕け散った骨と宝石の塊が、赤い破片となって降り注ぐ。だが、身体の一部を無残な欠片へと変えられながらも、屍の竜は未だ内なる闘士を失わず、戦うことを止めようとはしなかった。

●焔の先に
 紅蓮の炎が周囲を包み、空も大地も焼いて行く。智龍『ゲドムガサラ』の取り巻きである新たな宝玉封魂竜の猛攻に、ケルベロス達の強固な盾は、一枚、また一枚と剥がされて行く。
「重騎士の本分は守りに有り!」
 迫り来る尾の一撃を、ジョルディが身を呈して受け止める。攻撃手から護り手へと移動した彼の耐久力は、確かに目を見張るものがあった。
 だが、それでもやはり、限界というものは存在する。打撃には強いジョルディの鎧も、炎の前にはどうにもならない。
「ぐぅっ……ふ、不覚……」
 今までに受けていた無数の炎によって、身体を蝕まれていたことが災いした。攻撃を捌き切れず、漆黒の騎士は前のめりの姿勢で倒れ伏す。猛毒と異なり、炎は完全に除去することが難しい。それが彼の体力を徐々に奪い去り、持ち前の持久力を削ぎ落としてしまっていた。
「このままだと、智龍に届く前にやられそうだね。もっとも、そう簡単に撤退を許してくれるような相手でもないんだろうけど」
 氷結の螺旋を飛ばして敵を牽制するマイの頬を、嫌な汗が伝わって行く。このままでは拙い。そう、頭では解っていても、敵の機動力に対処するための術が見当たらない。それでも果敢に仕掛けるケルベロス達だが、火力に任せた力押し以外に、突破口が見えて来ない。
 終わりの見えない戦いは、戦場に立つ者達の意思と気力を、徐々にだが確実に奪って行った。敵の攻撃は脅威だが、しかし回復に専念し過ぎれば、今度は攻撃のための手数を失ってしまう。
「下がれ、紺!」
 後衛を狙って吐き出された炎。紅蓮の渦から紺を守ったムギだったが、その代償もまた大きかった。
「ムギさん!? ……そ、そんな!」
 回復を施す暇もなく、ムギは紺の目の前で倒れていた。ふと、横を見れば、巻き添えを食らってしまったのだろう。先の戦いで消耗が激しかったマイもまた、炎にやられて戦う力を失っていた。
「城に撤退しましょう。このままでは、こちらが危険です」
 空の霊力を纏った斬撃で牽制しつつ、征夫が言った。だが、長引く戦いで消耗し、限界が近いのは敵も同じだった。
「ああ、解ったぜ。だが、その前に、こいつには借りを返しておかねェとな!」
「どの道、倒さねば逃がしてもくれないでしょう。……これで終わりにします」
 この好機を逃せば、次はない。覚悟を決めてアンクとディオニクスが敵の懐へ飛び込み、それぞれの拳を炸裂させる。
「こいつでェ……」
「……終わりです!」
 目には目を、歯には歯を、そして炎には炎で対抗を。
 燃え盛る拳と爪が、焔を駆る骸竜の宝玉を打ち砕く。途端に消し炭のような姿となって、粉々に崩壊して行く骨の竜。
「撤退しましょう。……今度こそ」
 倒れたムギの手を取って握り、紺は残った仲間達へと告げる。同じくディオニクスも無言でリョクレンを抱え上げ、赤く染まった空を見上げた。
 智龍には届かなかったが、それでも二体の宝玉封魂竜を倒せたのだ。これが、この戦いを勝利に導く礎にならんと願いつつ、飫肥城へと撤退した。

作者:雷紋寺音弥 重傷:リョクレン・オルヴィアグレス(殲華の終獄・e19000) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月6日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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