智龍襲来~その先を掴む為に

作者:波多蜜花


「螺旋忍法帖防衛戦に向かってくれた皆が帰ってきたんよ!」
 信濃・撫子(撫子繚乱のヘリオライダー・en0223)が顔を綻ばせながら、螺旋帝の血族『緋紗雨』を保護する事に成功したと告げれば、ケルベロス達からも安堵の声が漏れる。
「もう1人の螺旋帝の血族『亜紗斬』の所在は不明やけど、十分な成果やったとウチは思ってる。それで、なんやけど早速動きがあったんよ」
 螺旋帝の血族『イグニス』と同盟関係となったドラゴン勢力が、螺旋帝の血族『緋紗雨』を奪還すべく動き出しているという情報を掴んだのだと撫子が手帳を開く。
「竜十字島からやってくる龍の名前は、智龍『ゲドムガサラ』や。このゲドムガサラなんやけど、なんや秘術を持っとるらしくってな。それによって緋紗雨の居場所を特定できるんや」
 つまり、まっすぐに緋紗雨を目指して進んでくるのだ。そしてゲドムガサラが引き連れるのは『宝玉封魂竜』と呼ばれる軍勢で、既に定命化で死に瀕していたドラゴンを、ゲドムガサラが『宝玉封魂法』で無理矢理生き延びさせたドラゴンなのだと言う。
「ほんまやったらもう死んでるはずの状態のせいかな、その姿はドラゴンの骸骨みたいなんやけど、元のドラゴン時に準じる戦闘能力を備えとるんよ」
 ゲドムガサラと共に襲撃に来る宝玉封魂竜の数は多く、市街地での防衛戦では大きな被害が出てしまうのは間違いないと撫子が柳眉を顰める。
「それで、や! このゲドムガサラの軍勢を迎え撃つんに最も適した場所で迎撃する事に決まったんよ」
 それはエインヘリアルによって要塞化されていた、天下の名城『飫肥城』だと撫子が人差し指をぴん、と立てた。
「皆には螺旋帝の血族である緋紗雨を保護してもろて、飫肥城に向かってもらう。それで飫肥城でゲドムガサラが率いとる宝玉封魂竜の軍勢を迎え撃ってもらいたいんや」
 宝玉封魂竜は数の暴力とも言える程の軍勢で押し寄せてくる。如何に難攻不落の飫肥城であっても守り抜くのは困難だろう。
「そうなんやけど、宝玉封魂竜にはゲドムガサラが直接指揮をせん限り、その戦闘能力を発揮する事ができへんっていう欠点があるんや。せやから、前衛の宝玉封魂竜を倒した後に敵本陣に切り込んで、ゲドムガサラを攻撃する事ができれば――残る戦力を駆逐するんも不可能とは言えへんワケや」
 希望はある、と撫子は言外に言ってのける。
「皆が最初に戦う事になる宝玉封魂竜は、元は氷を操るんに長けたドラゴンみたいなんよ。外見はドラゴンの骨に青い宝石が幾つも埋まっとってな、所々氷に覆われてるわ」
 能力としては氷属性のドラゴンブレスに爪と尻尾による攻撃を行うようで、油断は禁物だと撫子は手帳を閉じた。
「宝玉封魂竜はドラゴンに準じる戦闘能力があるよって、激しい戦いになるかもしれへん。せやけど、皆の頑張り次第ではゲドムガサラを返り討ちにできるかもなんや。せやから、皆の精一杯で頑張ってきてや!」
 ウチも精一杯サポートするよってな、と撫子が微笑んだ。


参加者
ティアン・バ(君の死・e00040)
灰木・殯(釁りの花・e00496)
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)
クーリン・レンフォード(紫苑一輪・e01408)
コロッサス・ロードス(金剛神将・e01986)
ガロンド・エクシャメル(愚者の黄金・e09925)
ルチアナ・ヴェントホーテ(波止場の歌姫・e26658)

■リプレイ

●迎撃
「来るよ!」
 短く言い放ったのは夜空を思わせるマントのフードを被り直したクーリン・レンフォード(紫苑一輪・e01408)で、その声にいち早く反応したのは自慢の八重歯を見せて笑ったシュリア・ハルツェンブッシュ(灰と骨・e01293)だった。青い宝石が埋まった宝玉封魂竜がこちらに一直線に向かってくるのを視認するや否や、迎撃の態勢を取る。
「……さよならまでのカウントダウンだ」
 生き血色をした大鎌に氷のオーラが纏わり付く。蒸し暑い空気が凍り付くような錯覚の中、くるりと大鎌を振るえば地面から巨大な氷の刃が現れた。『華氏の鉛(セルシウスグレイ)』を敵に放てば、相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)と絆を結び彼の身体を覆うオウガメタルがティアン・バ(君の死・e00040)とルチアナ・ヴェントホーテ(波止場の歌姫・e26658)に向けて、眩いオウガ粒子を放った。
「……掴め」
 精度の上がった半透明の御業をティアンが竜へと向ける。それは爪を立てるように敵の身体を鷲掴み、続く灰木・殯(釁りの花・e00496)が身に纏うオーラを指先に集中させ、その手を銃のように形作れば、弾丸よりも凶悪なオーラの塊が竜の身体を貫いた。
 コロッサス・ロードス(金剛神将・e01986)が眼前に闇を纏う炎の神剣を顕現し、彼の神剣『黎明の剣(レイメイノツルギ)』を鞘から抜き放つ。
「我、神魂気魄の閃撃を以て獣心を断つ――」
 夜明けを思わせる刀身の輝きは、黎明の如く竜を断ち切らんと振るわれた。その輝きを前に、ガロンド・エクシャメル(愚者の黄金・e09925)が攻性植物に眩く光る果実を実らせ聖なる光をクーリンとティアンに浴びせると、ミミックのアドウィクスがエクトプラズムで作り出した武器を持って竜へと襲い掛かる。
「ここで手こずる訳にはいかないよね」
 黒曜石で作られた巨大なハンマーを砲撃形態に変形させたクーリンが竜砲弾を撃ち放つ。
「そうだね、早く突破しなくちゃね」
 こくりと頷いたルチアナの小さな身体が駆ける。足首に飾られたアンクレットを揺らし、達人とも呼べる域に達した蹴りを竜へと喰らわせた。唸る様な声を上げ、宝玉封魂竜がその顎を開く。
「ブレスです、皆さん気をつけて!」
 後方から敵の挙動を見定めていた殯の鋭い声が飛んだ。間髪入れずに竜が吐き出した吹雪がシュリアとガロンドを襲う。防御姿勢を取ったシュリアの前にコロッサスが出た。歯を食いしばり、凍て付く様なブレスを盾役を担う2人が耐える。ここで時間を掛けては智龍の元には辿り着けぬとばかりに、シュリアの拳が、泰地の突きが竜へと奔る。ティアンのオーラの弾丸が決まると、殯が癒しの雨を降らせ、コロッサスが鋭い蹴りを放った。
「その傷、広げさせてもらおうか」
 変形した惨殺ナイフを片手に持ったガロンドがそれを一閃させ、アドウィクスが偽の財宝を撒き散らす。かざした掌からクーリンがドラゴンの幻影を放つと、ルチアナが空を仰いだ。
「青い星の空……わたしに応えて!」
 冷たいグラビティの爆風を叩き付ける『ボーラの鉄槌(ボーラノテッツイ)』が竜を押し潰すと、骨の翼を広げた竜がその禍々しい爪をクーリンへと振り下ろす。
「クーリン!」
 叫んだガロンドがクーリンへと迫る爪を受け止める。口の中で押し止めた呻きは竜の咆哮によって掻き消された。そこから数度の剣戟が響き、傷を癒す為の力が振るわれると、宝玉封魂竜の骨の身体に埋め込まれている幾つかの宝石がひび割れていくのが見えた。
「今がチャンスって奴か? とっととぶっ飛ばして、智龍ゲドムガサラの撃破と行こうぜ!」
 泰地の言葉にティアンが頷く。泰地が雷の霊力を帯びた右手用のガントレットに包まれた拳で神速の突きを放つと、ティアンの足元が青く光る。
「君の、首を、もらう」
 竜の頭上空中に構成した刃の上に、ティアンの足が乗る。とん、と足を踏み鳴らせば『断頭台宣言(ギロチンセンゲン)』は宝玉封魂竜の首を打ち落としたのだった。

●駆け抜けた先
 宝玉封魂竜を滅し、ケルベロス達は戦場を駆け抜ける。道中で宝玉封魂竜とニアミスしかけたけれど、何とか振り切って出来るだけの回復や、ポジションの入れ替えを行いながら走る内に、智龍ゲドムガサラを視認するに至ったのだ。
「あれが……ゲドムガサラですか」
 殯が呟きながら眼鏡の位置を直す。10階建てのビルほどの大きさはあるだろうかと思われる単眼の龍が、両手に持った宝珠に念を籠めているように見えた。それは恐らく、宝玉封魂竜を操作しているのだろう。遠目からでもわかる威圧感に、ガロンドが目を細めた時だった。
「俺達だけではないようだな」
 眼前に見知った後姿を見つけ、コロッサスが頬を緩める。別チームのケルベロス達が自分達と同じようにゲドムガサラに向かっているのが見えた。
「憂女にヒメか、こいつは心強いな」
 泰地の顔に、笑顔が浮かぶ。
「合流しよう、そうすればゲドムガサラだってきっと倒せるわ」
 ルチアナの言葉に頷き、全員が走る速度を上げた。その足音に気が付いたのだろう、先を走るケルベロス達がこちらを見て笑顔を浮かべる。
「あなた方と共に往けるか、心強い」
 見知った顔に安堵し、憂女が言う。それはこちらも同じ事だとティアンが僅かに視線を動かせば、キソラがニっと笑みを見せた。
「信号弾は?」
「市街地で打ち上げるのもな……公園に誘き寄せてからでどうだ」
 ヒメの問いに周囲を見渡した泰地が答える。飫肥駅から近い日南第一公園まではすぐそこだと周辺地図を事前に頭に叩き込んでいた殯が言えば、否はない。公園に誘い込んでからこちらで打ち上げるとヒメが言い、頼むと短くコロッサスが答えて再び走り出す。程なくして目指す公園に辿り着けば、尚も城を目指して進軍を続ける宝玉封魂竜達の姿が見えた。そして、それを操っているゲドムガサラの姿も。
「注意をこちらに向けて、そのまま誘き寄せるぜ」
 スナイパーに移動したシュリアが隣に立つ殯と視線を一瞬混じ合わせると、赤い瞳を細めて智龍を睨む。行くぞ! という気合の入った声が別チームから発せられると同時に、それぞれが持てる力を標的に向けて放った。智龍の視線がこちらに向けられると、底冷えするような龍の声が響き渡る。
「――死に急ぐか」
 ぞくり、と背筋を走る強張りを戦う意志で捻じ伏せて公園の中心部へと誘えば、長い龍の身体をくねらせて智龍がケルベロス達へと迫った。智龍の身体に纏わり付く巻物の文字が蠢いたかと思うと、それは闇の獣に変化しケルベロス達へ牙を剥く。
 ゲドムガサラの狙いは後列に位置する者――シュリアにコロッサス、クーリンとルチアナ、そして殯に向かって漆黒の獣が襲い掛かる。アドウィクスが殯を庇い、ティアンがシュリアを庇う。全てを喰い散らかすような猛攻に、呻き声が漏れた。
「強い……!  は、面白いじゃねーか、やってやるぜ!」
 シュリアが『華氏の鉛』を放てば、泰地がオウガ粒子を被害を受けた後列の仲間へ飛ばす。ティアンは自己回復に努め、盾としての体勢を整えた。殯が薬液の雨を降らせ、ダメージが比較的軽かったコロッサスが『黎明の剣』を智龍へと撃ち放つ。
「アドウィクス……!」
 今にも消えそうな自身のサーヴァントを心配しつつも、ガロンドは掌に溜めたオーラをクーリンへと向けると、満身創痍のアドウィクスが作り出した武器で果敢に攻撃を仕掛けていく。大丈夫か、と声には出さなかったが傷を癒すオーラの温かさに、
「大丈夫、いけるよ!」
 と、クーリンが応えると黒曜槌参型を変形させて竜砲弾をゲドムガサラへと撃ち込む。
「大きいけれど……攻撃は届くもの!」
 智龍と戦えるチャンスがあるとは思っていなかった、とルチアナが小さく呟き達人の域に達した一撃を喰らわせる為に戦場を駆けた。

●激戦
 攻撃は当たっている、けれど智龍が怯む様子はひとつも無かった。巻物の文字が蠢くと人の影のような姿を以て憎め、憎めと嗤いながら後列の5名へと襲い掛かる。ボロボロの身体を引き摺って、アドウィクスがコロッサスの前に立つ。人の姿をしたそれらに蹂躙され、アドウィクスの姿が掻き消えた。
「アドウィクス!」
 殯を庇った姿勢のまま、ガロンドの唇が歪む。覚悟はしていたけれど、想像以上の強さだ。
「負けるものか……!」
 気圧されそうになった瞬間、隣で戦うチームのシヴィルが発したその声に、シュリアが答えるように吼えた。
「ああ、そうだ! 負ける為にここまで来たわけじゃねぇ!」
「それでこそシュリアさん。さぁ、ここからが正念場です」
「苦しいかもしれないが……耐えるよ!」
 殯がシュリアに頷き、ガロンドが仲間達を見れば、全員の瞳に闘志が宿っているのが見えた。自分達だけでは届かなくても、必ず増援は来るはず。ひゅうっと、緑の信号弾が空へと揚がった。ならば、今自分達に出来る事は戦う事のみ! 音速を超える拳をシュリアが構えると、泰地が合わせる様に青白い雷を纏わせた手甲型ナイフを構える。どちらからともなく頷けば、2人の握られた拳はゲドムガサラへと向かっていく。
「殯、手伝いは必要か」
 ドラゴンは仇だと、智龍から視線を逸らさずにティアンが問う。倒したいけれど、仲間を倒れさせるわけにはいかないし、何より今の自分はチームの盾だ。
「お願いします、範囲回復では癒しきれません」
 けれど、範囲回復を行わなければ攻撃を受けた複数名に纏わり付く悪しき効果を払拭できない。それですら、払拭しきれない場合もあるというのに。ジレンマと戦いながらティアンにガロンドの回復を頼む。
「私も回復に回るね!」
 自身も相当傷付いているはずなのに、クーリンは精一杯明るい声でそう告げる。今攻撃の要となっているのはシュリアだと判断したクーリンは、自身と同じ大きさの狛犬『守護獣召喚(フォルンショウカン)』を呼び出す。
「Depending on my summons―!」
 それはシュリアに寄り添い、傷口を塞いでいく。自分の傷の状態を確認し、まだいけると判断したコロッサスが精神を集中し、智龍に向けて爆発させた。
「ルチアナ」
「私は大丈夫よ。だから自分に、ね?」
 大丈夫ではないだろうに、ルチアナは気丈にもガロンドに微笑む。その笑みに促されガロンドが自身に治癒を施すのを見て、ルチアナが『ポーラの鉄槌』によるグラビティの爆風を叩き付けた。智龍の纏う巻物が再び蠢く。最初に見た黒き獣が飛び出し、またしても後列の者に牙を剥いた。
「クーリン!」
「……っ!」
 ガロンドとティアンが庇おうと動くも、それは間に合わない。獣が消え去った後には、倒れる2人の姿だけが残されていた。唇を噛締め、ガロンドが倒れた2人を庇うように背にする。呆けている場合ではないとシュリアと泰地が智龍へと駆け、殯がコロッサスに緊急手術を施すと同時にコロッサスが裂帛の叫びを放った。
 智龍が、嗤ったような気がする。そう思った時には智龍の背中の毛が闇を纏っていた。その次の瞬間、角から黒い雷撃が迸る。目標を違える事無く迸る黒雷は、真っ直ぐにシュリアを狙う。奥歯を噛締めシュリアが衝撃に備えようとした瞬間、ティアンが彼女を突き飛ばす。今度は間に合った、そう唇が動いたと思うと同時に、ティアンが頽れた。体力には余裕があったはずだと、誰もが思った。ならば、あの黒雷は相当の威力を持っているのだろう。
「くそ……っ!」
「厄介な相手だが、俺達はまだ立ってるんだ。行くぜ!」
 泰地が鼓舞するように叫ぶと、シュリアの『華氏の鉛』と泰地の『足止め蹴り』が智龍に放たれる。殯が癒しの雨を降らせ、ガロンドがオーラの塊をシュリアに向ければ、コロッサスが『黎明の剣』を飛ばして応戦する。それでも、智龍の放つ黒い獣が獰猛な牙と爪を見せれば、今度はシュリアが倒れた。
 状況は最悪と言えるだろう、少し離れた場所で戦う別チームを伺えば数名が倒れているのが確認できた。それでも、戦う力が残っているのだと、4人は攻撃と回復を行う。また、あの黒雷が空を裂いて走る。チリン、と小さく鈴の音が聞こえて憂女が倒れるのがやけに遠くに感じられた。

●託す者、託される者
 このままでは全員が倒れるのも時間の問題――最後の手段を打つべきか、と殯が考えた時だった。後方から、複数の足音が響いてきたのは。智龍から意識を外さずコロッサスがそちらを向けば、厳しくも冷静な表情を浮かべながらチームを先導して走るリューディガーと壊し甲斐があるなとばかりに智龍に攻撃を仕掛ける為に駆け抜けていく巌が見えた。そして、泰地の横をこの状況の中でも柔らかい笑みを絶やさないシマツが駆けていく。そんな中でまだ幼さの残る少女、わかながガロンドの前に立った。
「大丈夫、今度は私たちの番、しっかりやるよ。背中は任せて!」
「助かるよ、共に戦おうって言いたいところだけどねぇ……見ての通りだよ」
 戦闘不能者は4人、残る4人の内2人は既にボロボロだ。足手纏いになる訳にはいかないとガロンドが意識を切り替える。
「僕と灰木くんで4人を運ぼう、それでいいかい?」
「この有様では否はないです」
 怪力無双の力を駆使し、ガロンドがクーリンを背に、両肩にティアンとルチアナを担ぐと殯がシュリアを横抱きにする。
「俺は残って戦うぜ」
「俺もだ、まだ戦う力なら残っているからな」
 ポジションの妙もあり、未だ傷ひとつ負っていない泰地が軽くジャンプをしながら言えば、痛む箇所はあれどまだ体力に余裕のあるコロッサスが続いた。
「コロッサス、後は頼んだよ」
「泰地くん、私達の分もお願いします」
 撤退する口惜しさも、祈りも想いも全てを2人に託し、ガロンドと殯が戦場を離脱する為に動き出す。コロッサスと泰地は、その全てを受け取ってわかなと共に走り出した。
「気を……付けて……」
 僅かに意識を取り戻したルチアナが、ガロンドの肩に担がれたまま薄く開けた瞳で智龍に向かう仲間を見て呟く。その声は彼らに届いただろうか。誰かが任せろと言わんばかりに拳を突き上げたのが見えた。それに安堵したのか、ルチアナは再び意識を手放す。
「急ごう、皆が隙を作ってくれている間に安全な場所まで移動するよ」
「はい、一刻も早く治療しないといけませんからね」
 腕の中の、意識を戻さないシュリアに一瞬だけ視線を落とし、殯が走る。その後ろでは、ますます激しさを増す戦闘の音が聞こえていた。残った仲間や、更に智龍へ向かっていくケルベロス達に後ろ髪を引かれる気持ちはあった。けれど、それ以上に撤退する者達の胸の内には、信頼があったのだ。
 必ず、自分の仲間達が智龍ゲドムガサラを撃破するであろうという、信頼が――。

作者:波多蜜花 重傷:ティアン・バ(灼き跡・e00040) シュリア・ハルツェンブッシュ(灰と骨・e01293) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月6日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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