智龍襲来~明滅するは竜の光

作者:廉内球

 螺旋忍法帖防衛戦において、ケルベロス達は螺旋帝の血族、緋紗雨を保護することができた。
「もう一人、亜紗斬は未だ所在不明だが、まずは上々の結果だな、無事で何よりだ」
 だが、アレス・ランディス(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0088)の手には次なる事件の資料が束ねられている。亜紗斬の奪還を狙う螺旋帝の血族イグニスが、ドラゴンと同盟しその戦力を差し向けてくるというのだ。
 敵は智龍ゲドムガサラと、その配下の宝玉封魂竜。宝玉封魂竜は定命化で死に瀕したドラゴンを、宝玉封魂法を用いて生きながらえさせたものだという。
「代償と言うべきか、見た目は骨と宝石だ。だが力は衰えていない。そのうえ、数も多い」
 万が一ゲドムガサラの軍勢が市街地を襲うことがあれば、甚大な被害を受けることになるのは間違いない。
「そこでだ。先日エインヘリアルから奪還された飫肥城を使う。幸い、要塞化もされているからな、守るには適しているはずだ」
 今回の作戦では、飫肥城にて緋紗雨を守りつつ、宝玉封魂竜――ひいては、智龍ゲドムガサラを撃破、あるいは撃退することになる。
 しかし天下の要害をさらに要塞化したとはいえ、高い戦闘能力を持つ宝玉封魂竜、そのうえ数に優れた軍勢を前にしては、防衛しきれず押し切られてしまう可能性が高い。
 それでも、とアレスは資料に落としていた目線を上げる。
「勝機はある。宝玉封魂竜はゲドムガサラが直接指揮を執らねば、戦闘能力はかなり落ちるようでな」
 ゆえに、宝玉封魂竜を撃破し前線を突破したうえで、ゲドムガサラをも討つことができれば、残る戦力を一掃することも不可能ではなくなるだろう。また、もしこのチームが本陣突入を果たせない場合は、襲い来る宝玉封魂竜との戦闘を続けねばならない。だが、飫肥城防衛もまた重要な役割だ。
「お前たちが最初に戦う宝玉封魂竜はイルミナスという……どうも電飾を喰らったらしくてな、骨の中に色とりどりの宝石と電飾が入り混じったような外見をしている」
 発する光から生まれる熱のブレス、肉が落ち鋭さを増した爪、骨だけとなった尻尾の攻撃の威力も侮りがたい。
「死に瀕したドラゴンまで戦力にするとは、恐ろしい相手だが……お前たちならやれると信じている」
 そう言って、アレスは説明を終える。螺旋忍軍大戦から始まった一連の事件はいまだ、混迷を極めている。


参加者
幸・鳳琴(黄龍拳・e00039)
毒島・漆(魂操術師・e01815)
アーティア・フルムーン(風螺旋使いの元守護者・e02895)
狐村・楓(闊達自在な螺旋演舞・e07283)
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)
ハインツ・エクハルト(生体魔除け・e12606)
渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)
六壬・千那(六壬エンチャンター・e35994)

■リプレイ

●切れかけた電飾
 無数の竜が飛来する飫肥城。その一角に、ちかちかと点滅を繰り返す光が舞い降りる。骨に埋め込まれた宝石とは別の光はしかし、切れかかった電灯のように頼りない。
「その骨と宝石、光の装飾だけの身体でどこから雄たけびをあげるのかしら?」
  アーティア・フルムーン(風螺旋使いの元守護者・e02895)の黒髪が風に踊る。先んじて飛び出したアーティアの脚が、骨となったドラゴンを打ち据えた。巻き起こされた突風に追いすがるように、フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)の紙兵が飛びケルベロス達を守護する。かつて経験した八竜との闘い。その経験をすべて引き出すべく、フローネは絶対防御の覚悟を決める。
「盾の役目は任せてください。攻撃はお任せします」
「任されました!」
 黄龍三節棍を手に前進する幸・鳳琴(黄龍拳・e00039)は、迎撃するイルミナスの爪をかいくぐり、まずは一撃。鳳琴の打撃は爪の一本に小さな欠けを作る。反撃とばかりに、イルミナスはかすれた咆哮を上げて尻尾を振り回し、ケルベロスたちに襲いかかった。
 距離を詰めていた番犬達をなぎ払う尻尾の一撃。そこに、ハインツ・エクハルト(生体魔除け・e12606)のオルトロス、チビ助と六壬・千那(六壬エンチャンター・e35994)の連れるテレビウム、矢星が割り込み前衛を守る。
「いいぞチビ助! 今治してやる!」
「うん、誰も死なせたりしない!」
 六壬・千那(六壬エンチャンター・e35994)が神楽舞にて摺り足で舞う中、ハインツは魔法のブーツでステップを踏む。彼にとって初めて扱う武器だが、戦いが始まっている以上、迷う時間は無い。
「ここで止まってられるか! 光よ、舞い踊れ!」
 傷を受けた番犬たちを二つの虹が癒やす中、チビ助は可愛らしい顔に闘志を浮かべ、神器を骨に突き立てた。傍らでは矢車が千那の舞を映し、ケルベロス達を応援している。
「一撃目は乗り切ったね。まだいける」
 渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)はタイミングを見極めてイルミナスに駆け寄った。そのまま、彗星のごとき蹴りを入れる。手応えあり。強い衝撃に、明滅する電飾の一つが沈黙。数汰はこれまで戦ったドラゴン達の動きを思い出す。
「よし……今度こそこの手で未来を掴む!」
「ええ、頼りにさせてもらいますよ。一旦下がってください」
 毒島・漆(魂操術師・e01815)は砲撃の体制を整える。砲門が火を噴き、イルミナスの翼をへし折った。
(「緋紗雨の思惑はわかりませんが、とりあえず今は目の前のドラゴンが優先ですかね」)
 ちらと後方に視線を送り、漆は再び竜を見据える。彼の視界の上方では、多くの宝玉封魂竜が飛来している。
「おー! 強そうなドラゴンがいっぱい押し寄せてきてワクワクするっすね!」
 狐村・楓(闊達自在な螺旋演舞・e07283)は嬉しそうに、巨大な注射器を槍のように構えた。
「楓さんも続くっすよ! まずはイルミナスをぶっ倒すっす!」
 威勢良く放たれる螺旋の力はイルミナスを氷結せしめる。
 開かれた戦端、ケルベロス達は緋紗雨の思惑に思いを馳せる。その内心は図れずとも、今は乗るしかない。そのためにも、目の前のドラゴンを撃破せねば。

●光、ゆらりと、火に継がれ
 目指すはゲドムガサラのいる本陣。そのためにはイルミナスの早期撃破が不可欠だったが、威力よりも命中の確実性を取った分、敵の損傷の蓄積は遅れている。とはいえ戦局はじりじりとではあるが、ケルベロス側に有利に傾いていた。
「そろそろ倒れてもらえませんかね」
 漆は武器を構えて突進する。ごうと風を切りながら繰り出された突きが、竜の肋骨をへし折った。骨に埋め込まれていた赤い宝石も砕け、血飛沫のように地面に散る。すぐさま後退した漆を追うように、怒り狂うドラゴンは電飾を発光させ、ブレスに変えて吹き付けた。
「させません!」
 閃光の中にフローネが飛び込み、アメジスト色のシールドを展開して後方の味方を守る。しかし彼女の盾とて全ては防ぎ切れず、光の中で、主人を守ったチビ助が消滅していく。フローネをかばおうとした矢車の応援動画も、ぷつりと途切れた。
「……まだまだッ!」
 熱を帯びた盾を裂帛の気合いと共に構え直し、フローネはイルミナスを睨む。まだ、心折れてはいない。そして折れぬ限り、彼女は番犬達の盾でありつづける。
「矢車……」
 指示した通り最後まで味方を守ろうとしたテレビウムの名を、千那は呼んだ。それでも、途切れることなく神楽舞を続ける。一人の力は弱くとも、ケルベロスは一人じゃない。たとえサーヴァントが消滅しようと、守るべき友はまだ健在なのだ。
「……これで大丈夫だ、トイ、トイ、トイ!」
 ハインツの叫びに呼応して、黄金の蔦が地を這った。トイトイトイ、と発された言霊は魔除けのおまじない。癒やしのグラビティを宿した呪文は蔦に触れた者の傷を塞ぎ、その心を奮い立たせる。
「早く決着をつけないと。鳳琴ちゃん!」
「はい、行きましょう数汰さん!」
 鳳琴はうなずくと同時に駆けだした。イルミナスを挟むように距離を詰める兄妹弟子の二人。数汰の拳に宿るは氷屍雪魄(コキュートス)の無限の冷気。鳳琴のパイルバンカーに宿るのもまた、雪すら退ける苛烈な冷気だった。二つの技がイルミナスを同時に打ち据え、熱と炎のドラゴンは急速に凍結、その力を奪われていく。
 かすれた咆哮がアーティアの耳に届く。イルミナスの虚な眼窩からはそれでも、ケルベロスに対する怒りと殺意を感じ取ることができた。
「私たちと争う以上、死ぬまで誇りあるドラゴンとして在り続けるといいわ」
 アーティアは未完の棍棒を振りかぶり叩きつける。整えられぬままの鉱石が棘となり、イルミナスの骨に食い込む。その衝撃で破砕されたグラビティの氷もまた、イルミナスを蝕んでいった。
「これでおしまいっすよ!」
 楓はナイフに霊力を宿し、イルミナスの骨を、宝石を、そして電飾を切り刻む。いくつもの剣閃に、残留した氷のグラビティが呼応した。そしてついに、光と熱の電飾竜はその冷気の中で息絶える。骨の塊が崩れ落ち、電飾は完全に沈黙した。
「ふふん! この敵も強かったけど、向こうにはもっと強いドラゴンがいるっすね! 楓さん楽しみっすよ!!」
 強敵との戦いを想像し、至極楽しそうに本陣へと走り出した楓の目の前に、巨大な影が落ちる。
「戻ってください、二体目です!」
 漆の警告と地響きが同時。骨と宝石をろうでつなぎ合わせたドラゴンが舞い降り、ケルベロス達を睥睨した。ろうの塊のところどころに芯が突き出し、ちらちらと火がついている。その姿は、どこか燭台に似ていた。
「急いでいるのに……」
 千那は焦りを浮かべつつ、この戦場で共に戦う仲間の存在を思い浮かべる。その何人かが、本陣にたどり着けさえすれば。

●ろうは燃える
「一か八か……ッ!」
 鳳琴はパイルバンカーの杭を最も巨大な宝石の真中に打ち込んだ。大きな手ごたえと共に、狙い通り宝石は粉砕されたが、宝玉封魂竜もその宝石一つを失っただけで倒れてはくれない。
 ドラゴンが一瞬ひるんだ隙に、アーティアは後方をちらと見る。塞がれてはいない。退くことはできる。だが、まだその時ではない。ならばと視線を眼前の竜に戻し、呼吸を整えて。
「天つ風を引き合わせ、呼ぶは叢雲。帳を下す暗雲は其の命を閉ざすもの。人は来な処、水神の怒りなり。――風螺旋八衢孔(フウラセンオロチノアナ)!」
 アーティアが撃ち込んだ螺旋の楔が気圧を奪い取り、局所的にして猛烈な嵐を生み出す。雨に打たれ風にまかれたドラゴンは悲鳴を上げた。
「いいぞアーティア!」
 ハインツは声をかけ、嵐の中に飛び込んだ。一瞬、根性Tシャツが嵐にはためく。即座に止んだ豪雨の残滓を踏みつけて、Heiligtum(ハイリヒトゥーム)を振りかぶる。振り下ろされた衝撃で、ろうの塊が剥がれ落ちる。
 怒りに任せて咆哮し爪を振りかぶるドラゴンに、しかしハインツは笑って見せた。
「さあ来い、ただし、頭上注意だぜ」
 その骨の爪が振り下ろされると同時。先んじて跳んでいた漆が、竜の死角から砲撃を放つ。大きな衝撃にドラゴンは闇雲に尾を振り回すも、漆の姿はすでに無く、骨は空を切った。
「手ごたえあり……大丈夫ですか、ハインツさん」
「すぐに癒します!」
 千那の手には満月に似た光球。光はハインツへと届き、傷を塞ぐと同時に闘争本能を掻き立てる。
「楓さんはもっと強いドラゴンと戦いたいっす! だから、邪魔するなら……全部凍ってしまえ!!」
 楓の、紅葉の瞳が蒼い光を帯びる。その視線を直視したドラゴンは、落ちくぼんだ眼窩の中から凍結していく。冷気に対して不快げに暴れるドラゴン。その体に宿る炎から、数汰は特徴を推察する。
「見たところ、イルミナスと同じようなタイプだね」
 同じような敵であれば、同じ手も通用する。おそらくブレスは熱が来る。その前兆がないのを見て取った数汰の蹴りが、ドラゴンの鼻を打ち据え氷を砕いた。
「連戦であっても、ここで逃げるわけにはいきません」
 フローネは再び紙兵を撒いて守りとする。進むにせよ退くにせよ、目の前のドラゴンを倒すまで、膝をつくわけにはいかない。満身創痍にもかかわらず強い意志を秘めた紫水晶の瞳が、まっすぐに竜を見据える。

●燃え尽きる炎
 互いに損傷を重ねながら、しかしケルベロスたちは二体目のドラゴンさえ倒そうとしていた。剥がれ落ちたろうは季節外れの雪のように、氷と混ざって地面に落ちている。
「トイ、トイ、トイ……」
 ハインツがささやくように祈るとほぼ同時。しっぽの一撃がドラゴンの最後のあがきだった。防御姿勢をとる漆を、フローネとハインツがかばいに前に出る。
「ココロが折れぬ限り……何度でも……!」
 だがつに、いに、紫水晶の盾が光となって砕け散る。治癒を上回る衝撃がフローネを襲い、その体を大きく吹き飛ばした。ハインツもまた、硬い骨に打たれて倒れる。
「ど、どうしたら……」
「大丈夫、落ち着いて。あと一押しのはずだよ」
 狼狽する千那に、声をかけた数汰はナイフを構えてジグザグに振るう。必中祈願の鈴がメイチュー、と不思議な音を鳴らした。願い通り、数汰はこの戦いで一度も攻撃を外してはいない。どこか気の抜ける鈴の音にくすりと笑い、千那も回復と支援の体制を整える。
「十二天将が一柱、南東を守護せし災火ノ凶将、丁ノ炎蛇よ。六壬の巫女が願い奉る。万物を焼き払いしその神威、彼の者らに与えたまえ」
 神威は炎の鎧となって、ケルベロスたちを包み込む。その熱はドラゴンのそれとは違う、荒々しくも暖かい光だ。
「ラッシュっすよ! 氷漬けっす!!」
 楓の形見のナイフの刃が閃き、グラビティの氷を成長させる。
「じゃ、俺も合わせましょうか。……友人に怪我を負わせた代償、高くつきますよ」
 それは、降魔拳士の業のアレンジ。指極・玻璃絶刀刺(シキョク・ハリゼットウシ)。グラビティを操れば、漆の手刀とてガラスの刃へ変わり、メスの切れ味を作り出す。新たな斬撃が、ドラゴンを包む氷塊をさらに成長させていく。
 そして。
「今こそ最高に輝け、私のグラビティ」
 駆ける鳳琴の足に、グラビティの龍が宿る。赤く輝くその力は、踏み切るとともに力強く天に昇った。目指すはドラゴンの頭部。
「我が敵を――砕け!!」
 蹴撃一閃。砕けた氷塊を雲として、龍が竜を食らいつくす。燭台竜の骨はバラバラに砕け散り、ついに二体目の宝玉封魂竜も沈黙した。

●飫肥城へ
 倒れたケルベロスは二人。あらかじめ定めた撤退のラインには達していないが。数汰は仲間たちの様子と、ゲドムガサラの本陣へと続く道を交互に見やる。
「まだ戦えるとは思うけど……時間をかけすぎたね」
 よく敵を観察し、損害を抑え、命中を第一に着実に敵の体力を削ったケルベロスたちだったが、機をうかがった分、どうしても時間あたりの火力は下がっていた。
「今から行っても大勢は決しているでしょうね。ここは退きましょう」
 漆は倒れたハインツを抱える。フローネは千那が。周辺に危険がないことを確認しながら、ケルベロスたちは飫肥城へと撤退していく。
「こっちよ、退路は開けてる」
 アーティアの先導に従うケルベロスたち。楓は一度だけ振り返り、空を見上げる。
「強いドラゴン、戦いたかったっすね」
 ゲドムガサラの本陣があるであろう方角。だが、この戦場からは様子は見えない。
「楓さん、行きましょう。三体目に襲われる前に」
 鳳琴に促され、未練を断ち切り、楓はケルベロスたちを追いかけた。

作者:廉内球 重傷:フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983) ハインツ・エクハルト(光を背負う者・e12606) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月6日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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