智龍襲来~群竜迎撃戦線ココニ在リ

作者:久澄零太

「皆、改めてお疲れ様」
 大神・ユキ(元気印のヘリオライダー・en0168)は改めて番犬達をねぎらうが、こうして集められたという事は、また何かが起ころうとしている事は想像に難くなかった。
「今回の防衛戦の結果、螺旋帝の血族『緋紗雨』を保護できたの。もう一人の螺旋帝の血族『亜紗斬』がどこにいるのかは分かんなかったけど、それでもいい結果だと思う」
 コクコク頷き、耳がペタリ。何か厄介事に繋がってしまったようだ。
「でもね、螺旋帝の血族『イグニス』と同盟関係になったドラゴン勢力が、螺旋帝の血族『緋紗雨』を奪い返す為に動き出すみたいなの。竜十字島の智龍『ゲドムガサラ』って敵が今回の敵のボスだよ」
 ボス。察しのいい番犬は気づいた。敵は軍勢なのだ。それを肯定するように、目が合ったヘリオライダーが頷く。
「智龍『ゲドムガサラ』は、その秘術で『緋紗雨』の居場所が分かるみたいで、まっすぐに『緋紗雨』を目指してくるんだけど、その時に『宝玉封魂竜』って配下を連れてくるよ。『宝玉封魂竜』は、定命化で死んじゃうはずだったドラゴンを無理やり生き延びさせてるドラゴンで、皆骸骨みたいになってるの。でも、元のドラゴンとしての戦闘力は持ってるから、絶対に油断しないで」
 念を押すように、ジッと見回してから、ユキは大型の地図を広げた。
「ゲドムガサラと宝玉封魂竜は物凄く数がいて、町の中で戦ったりしたら大変な事になっちゃう。 だから、ここ」
 少女が示したのは『飫肥城』。エインヘリアルに利用され、要塞化した天下の名城だ。
「ここで螺旋帝の血族『緋紗雨』さんを保護して、迎撃作戦を実行することになったの」
 第二の防衛戦。番犬に緊張が走り、ヘリオライダーの銀毛がブワッと膨らむ。やはり、一筋縄ではいかない作戦のようだ。
「敵は数に物を言わせて、どーんって攻めてくるからお城に籠って防衛戦に持ち込んでも、守り抜くのはちょっと無理があるの。でも、『宝玉封魂竜』は智龍『ゲドムガサラ』が直接指揮を執らないと弱くなっちゃうっていう弱点があるから、前衛のドラゴンをやっつけて、軍勢の中に突撃して、ゲドムガサラを直接やっつけちゃうことができれば、残りの敵を倒す事もできなくはないかもしれないの」
 ここでユキが示したのは、竜の骸に赤い結晶と巨大な球体……ガスタンクがついた『宝玉封魂竜』のイラスト。恐らくはこの部隊が迎撃するのであろう、竜の姿。
「敵は昔工業施設を襲ったドラゴンみたいで、ガスタンクに乗っかってるの。体から有毒ガスが噴き出してて、それを吹きつけてきたり、ガスタンクごと体当たりして体勢を崩してきたり、タンクを転がして皆の動きを制限しようとしたりしてくるよ」
 竜同様、ガスタンクも相当な大きさを誇る。周囲一帯を薙ぐことが予想され、陣形をどのように組むかは重要なポイントの一つになりそうだ。
「今回は攻め込むわけじゃないし、敵の目的は血族の人だから、最悪勝てないと思ったときは一旦諦めるって選択肢もあるの。だから、その……」
 うまく言えなくて、ユキは頭を振って言いたいことだけを告げる。
「……絶対に、帰ってきてね」
 約束。そう呟いて、少女は小指を差し出した。


参加者
ファン・バオロン(剥ぎ取りは六回・e01390)
一条・雄太(一条ノックダウン・e02180)
ケルン・ヒルデガント(共に歩む・e02427)
白波瀬・雅(サンライザー・e02440)
ラプチャー・デナイザ(真実の愛を求道する者・e04713)
黒斑・物九郎(ナインライヴス・e04856)
伊庭・晶(ボーイズハート・e19079)
スノー・ヴァーミリオン(深窓の令嬢・e24305)

■リプレイ


「『これよりこの戦線を、護るべき我が自宅と定義する』――ま、どうぞ頼りにしてやってプリーズ?」
 黒斑・物九郎(ナインライヴス・e04856)は黒猫の描かれた扇子を広げ、口元を隠して不敵に笑う。
「全員意識がガチでトぶまでは戦い続けられるようにしたげますからよ!」
「先生、頼む!」
 伊庭・晶(ボーイズハート・e19079)が鬼鋼を展開、前衛に片眼鏡のような姿で貼りついた。
「ほう、目標までの距離と敵の移動予測か……便利なものじゃのう」
 情報を吟味するケルン・ヒルデガント(共に歩む・e02427)が白波瀬・雅(サンライザー・e02440)と肩を組み、脚甲に重力鎖を集中。
「何はともあれ、まずは勝たねばのー! 途中で酔うてくれるなよ?」
 雅の答えを聞く前に、跳躍。天高く跳びあがる軌跡に、後を追うように光の羽根が舞う。浮遊する気竜を眼下に、雅はケルンの肩を基点に反転。天使は翼を広げ、向日葵は太陽に背を向けた。
「今更恐いというのはなしじゃからな!」
「そっちこそ羽のせいで遅れたとか言わないでよね!」
 背と脚に翼を纏い、二条の光は落ちる。
「まずはその翼……」
「折らせてもらうんだから!!」
 ケルンが右翼、雅が左翼に着弾。
「そうら、黒猫のおでましでさァ!!」
 物九郎の扇子から黒猫の影が飛び出し、雅に絡み付いて潜り込む。
「んにゃ!? にゃー!!」
 黒猫の耳と二本の尻尾を生やした雅がクルリ、軽やかに宙を舞い気竜の体をなぞるようにして、両脚を交互に繰り出し足跡をつけるように亀裂を残すと、トドメに大きく蹴り上げた。両翼を砕かれた竜が地面に叩きつけられ、ドス黒い粉塵を撒きあげる。
「常時毒を吐き続けるとかどんな公害でござるか……接近は避けるでござるよ!」
 ラプチャー・デナイザ(真実の愛を求道する者・e04713)が生み出した星を膝で蹴り上げ、狙い澄ましてトーキック。顎を掠めて頭蓋骨に振動を叩きこみ、動きが緩慢になった隙を見逃さずに一条・雄太(一条ノックダウン・e02180)が右腕に凍気で螺旋を描く。
「了解です。さぁて、どうなる……!?」
 拳を振り抜き、ガスタンクを狙う錐状の砲弾が……振るわれた腕を凍てつかせた。
「叩き落とした!?」
「タンクには何かある、という事か?」
 ファン・バオロン(剥ぎ取りは六回・e01390)が肉体に紫炎を走らせて、竜人化。ゆっくりと竜に向かって歩き始める。
「ファン殿!? さっき近づくなと!!」
「すまんな、私に飛び道具はない」
 拳を構えた瞬間、気竜が『消えた』。
「あの巨体で跳んだのかえ!?」
 ケルンが驚くのも無理はない。眼前にすれば山の如き巨躯が跳躍、一瞬で距離を詰めたのだ。
「舐めるなよ風船が……!」
 噛み砕かんとする牙に、素早く回転した踵が迎撃。砕き、衝撃で突進の軌道を逸らしながらも、巨大な爪が竜人の身をすり潰さんと襲いかかる!
「竜ガラの癖に人を食べようとするだなんて、身の程をわきまえていないのではなくって?」
 スノー・ヴァーミリオン(深窓の令嬢・e24305)はファンと爪の間に滑り込み、蹴脚。攻撃としてではなく、振るわれる軌道に合わせて蹴りつけ、慣性に自分の脚圧を加えて空中で身を捻り、いなす。それでもなお巨大すぎる脅威は彼女の肌を引き裂き、鮮血を散らした。


「淑女の肌に爪を立てるなんて……礼儀がなっていませんわ」
 吹き飛ばされたスノーはすぐさま立ち上がり、第二撃に備えて不快そうに唇を尖らせる。
「頭の中もすっかすかなら仕方なかろう」
 クロスボウに小さな竜炎を番えるケルンが片腕を掴んで弓を支え、照準を合わせながらふと疑問を抱く。本当にあのタンクを破壊していいのか、と。
「ちとリスクがあり過ぎるかのう?」
 直前に目標を変更、タンクを掴む爪を狙い、関節の隙間に炎を氷の魔力で包んだ矢を打ちこみ、骨の接続を弾き飛ばした。
「はずした!? やっぱり近づかないと……!」
 友の仇を想い、焦ったのだろう。雅がケルンの懸念に気づかず、懐に飛び込んで地面を踏み締め、掌を対象と水平に広げて後方へ引く。腰を捻りながら肩、肘を伸ばして、全身の回転力をまっすぐに、掌底に乗せて叩き込む!
「内側からなら、どう!?」
 重力鎖を織り込んで、貫通させた衝撃と共に内部へ。タンク内に浸透した重力鎖は気竜と拒絶反応を起こし、小爆発を起こしたが最期。発生した熱が内部のガスに引火。巨大な爆弾と化したガスタンクが爆ぜ、周囲を薙ぎ払う程の風圧と、大地すら溶かすほどの毒素がばら撒かれ最前線にいた雅の肌が、死を直感して粟立つ。
「くそっ、やっぱり地雷かよ……!」
 雅の前に雄太が滑り込み、脚に重力鎖の流れで生んだ気流を纏わせて、大きく薙ぎ吹き飛ばそうとするが……大きく広がった気体を人の脚なぞと細い物で振り払うとどうなるか? 気圧に変化が生じ、引き裂かれた空白を埋めるように外側の気体が雪崩れ込んで……全体に散るはずだった毒ガスが、雄太の身を包みこんだ。
 直に触れた肌はもちろん、吸い込んだ気管や肺ですら焼け付いて、呼吸すらままならずにのたうち回る。全身を焼く激痛と、体から酸素を抜き取られたような苦痛に襲われ、やがては眼球が裏返り、意識を手放した。
「くっ……さっさと片ァつけて、すぐに治しまさァ、今しばらくのお待ちを!!」
「あぁもう、まだ吐く気でござるか!?」
 物九郎がまだ戦闘続行が可能なスノーに扇子を向け、ラプチャーは骸の頭蓋に飛びかかり、大きく息を吸ったその顎の隙間に機械刃を突っ込んだ。
「悪いお口はチャックでござるよー!」
 片刃だけを押し当てエンジンを唸らせる。高速回転する刃は骨を捉えて無理やり口を閉じ、なおも開こうとする力に対して逆の力を加え口を塞ぐ。
「いきなりやられるなんて……ルナティック・ヒール!」
 晶がスノーの治療にあたり、雄太をチラと見やれば重力鎖を感じる。まだ生きているようだ。
「ふん、武器を失い暴れるしか能がないか」
 ラプチャーを叩き落とした気竜を見据え、手刀に纏わせた地獄が黒く澱む。
「先を急ぐのでな、そろそろ退いてもらおう……!」
 天を突くように伸びた黒焔が倒れ、骸を左右に両断、崩れゆく骨は霧散して消えていく。
「まったく、手間取らせてくれたものだ」
 振り返る竜人は、部隊の被害状況に苦虫を噛むのだった。


「情けねぇ……」
 物九郎が歯噛みして見下ろすのは、地面に寝かされた雄太。解毒と止血、気道の確保まで終えて容体は安定しているが……悔やむように手を握り込む物九郎の頭を、ばふっ。
「気に病むな……といっても無理だろうが、気にしても仕方がない」
 雄太の犠牲がなければ、気竜の弱体化と同時に部隊全体に致命的なダメージがあっただろう。八人全員が死にかけるより、一人が倒れた方が被害としては実に軽い……が、それに加えて友人の息子が我が子のように思えたファンが心配のあまりグリグリ撫でまわしてたりする。
「あー、皆の者?」
 周囲を警戒していたラプチャーが冷や汗と共に振り返る。
「敵襲でござる☆」
 震え声のサムズアップ。一人倒れた上に、回復は行き届いたとは言い難いが敵は待ってくれない。
「体から噴き出してるの酸でござろうか?」
 先ほどの竜と異なり、体中を液体が伝って霧と異臭を放っている。触れればただでは済まないだろう。
「接近戦は避けるでござるよ!」
「さっきも言ったろう。私に飛び道具はない!」
「ですよねー!!」
 羽ばたく度に振り撒かれる毒素にその身を晒し、紫焔が跳ぶ。
「……堕ちろ!」
 地獄を脚部に集中、自身が燃え盛り周囲の熱を奪う。眉間に落した踵が頭蓋を揺らし、竜の鱗代わりに張り付いた強酸性の水が凍てつき、落下する先に待ち構えているのは機械刃。
「全く、好き勝手、好き勝手。誰もが好き勝手、何時になった平和になるのでござろう」
 吼える刃を低く構え、ため息をこぼす。
「こちらは一人倒れた上にいつまで戦うかも分かったものではござらん。速攻で片をつけるでござる! 援護を!!」
「分かっておる。雅、合わせるのじゃ!」
「おっけー!!」
 トン、軽く跳ねた雅に向けてケルンが大きく脚を振り上げた。
「流星は地に落ちるだけではない」
「空に向かって飛んじゃうんだから!」
 足の甲に雅を乗せるようにして、落ちる竜めがけて打ち上げる!
「短期決戦故、出し惜しみは無しじゃ。合体奥義……」
「サンライザーッ!!」
 昇天するは一筋の光。反転して光を返し、脚部の輝きは翼に姿を変えて、光翼を纏うは乙女の矢。さらに加速する太陽の矢が右目を穿ち、後頭部から抜けていく。
「頭を砕かれても平気とは……さすがは骸でござるな」
 駆けのぼる太陽の陰、背後を取ったラプチャーは星型の手裏剣を投擲。片翼を破砕して飛び去る刃が翻り、黒く染まった。
「これが拙者の気持ちでござるよ……貴殿本人ではないでござるが、拙者とて仲間をやられてオコなのでござる」
 スッ……豆腐でも切るように残る翼を斬り落とし、星は霧散。
「今でござる! 一気に畳みかけるでござるよ!!」
「俺も接近戦しかねぇんだけど……」
 片脚を軸に、地面に円を描くように片脚を後方へ、拳を握ったファイティングポーズ。晶は耳をペタッと倒して鬼鋼を引いた脚に集中。
「先生、ちょっとだけ我慢してくれ……!」
 落ちゆく竜めがけて跳び、膝を抱えるようにして回転。
「いくぞオラァ!」
 敵の顔面めがけて、オーバーヘッドキック。
「……ッ」
 落ちる竜と跳ぶ兎。逆の力はその衝撃を重ねるが、それは晶への反動も同じ。脚が引き千切れるほどの激痛の中、表面を覆う鬼鋼が伝って来る酸を食い止めて、晶の骨が折れないように補強。
「ブッ……飛べぇえええ!!」
 皮が、肉が、骨が張り裂けんほどの悲鳴を上げても引きはしない。強引に振り抜いて、体勢を崩してしまうが竜の巨躯を衝撃でひっくり返す。
「やば……」
 受け身も取れずに落ちていく晶を、スノーが抱き留めてにこり。
「無茶しすぎですわ。淑女たる者、後先を考える物よ?」
「……」
 むすぅ。ふてくされた晶の頬を撫で、花開くほどの笑顔でありながら、どこか無機質な美し『過ぎる』笑みを竜に向け。
「さて……いい加減この大きな竜ガラ? 骨っ子さんには道を開けてもらわないといけませんわね」
 ズン――大地を揺らして落下した骨を、汚らわしそうに砂埃を振り払ったスノーが見定める。
「わらわ達は先に進まなくてはいけないの。でも、お色直ししたいのよね……」
 先の戦闘で、傷つけられた肌をなぞる。この戦場でありながら、鏡を前にした少女のように悩ましいため息を残して、強酸性の体躯に触れる。
「さぁさぁわらわの美味しい糧になってちょうだいな♪ 骨しか残ってなくても、少しはお肌の役に立つでしょう?」
 フッ……口づけに似た、小さな吐息が竜を撫ぜる。触れた掌は酸で溶けるどころか美しさを増し、傷が癒えてより艶やかな肢体へと姿を変えるスノーだが。
 ―――!?
 骸に悲鳴があるのなら、きっとそうだったのだろう。歪で耳障りで、苦痛に満ちた騒音が響く。パキリ、氷の下の朽ち果て、乾ききったはずの骨が『枯れる』。自壊し始める骸が腕を振り上げた。
「おぉっと、そいつァ許さねえっス!」
 スノーに向けた爪を、巨大な猫の爪が受けとめる。
「犬は人に着き、猫は家に着く。即ち猫ウェア自宅警備員・イズ・最強!」
 逆の腕も掴み合い、骨と猫の取っ組み合い。物九郎の声で鳴く巨大な化け猫は咆哮を上げた。
「化猫任侠黒斑一家『九代目』物九郎。行きますでよウラー!」
 膂力では互角。竜の脇にしなやかな動きで回り込み、喰らいついて爪を立て、後ろ足の連続キック。肋骨を削り取るように打ち砕き、蹴り飛ばして反転、体勢を崩した骸に突進、吹き飛ばして地面を転がす。
 跳ねて体勢を整える竜と、毛を逆立てて唸る化け猫が睨み合い、ケルンが骸の頭上をとった。
「ではお見せしようか。上の姉様直伝、敗北を司る我が妹よ!」
 少女の手の中に握り込まれたのは、小さな刃。短剣を目視した竜が尾で叩き落とそうとするが。
「俺めをシカトたァいい度胸でさァ!」
 顔面に猫フックを食らい狙いが逸れてケルンを掠めて空振り、首に食いつかれて抑え込まれる。しかし相手は触れる物を侵す酸の竜。猫の前脚と牙が焼け、辺りに広がる肉の腐臭。
「離しゃァしやせん、もう手は出させないっスよォ!!」
 ドロリ、質量を持った概念が溶けていく。牙は溶け落ち、爪が腐って脚が裂け、やがては腕の一薙ぎで肉体を砕かれ消えてしまった。同時にケルンの刃が竜の頭蓋を打ち、甲高い音を響かせて。
「我が妹は敗北の具現……小さいと思って侮ったかの?」
 振るわれた爪がケルンに触れた途端に崩れ落ち、伝染するように腕が、肩が、胴体が瓦解し始め、やがてはその身を持って敗北を体現した。
「まったくあの子は……!」
 宙に投げ出された物九郎をファンが受けとめ、胸を撫で下ろす。
「無茶をする……」


 進軍を進めた部隊の先に、同じく襲撃を突破した別部隊が見える。その先遥か遠方、ゲドムガサラが交戦しているらしい。恐らく先に突破した部隊が交戦しているのだろうが……。
「劣勢、でござるな」
 ラプチャーが呟く。
「しかしこの距離では間に合うかどうか……」
「ここから撃つしかないですよ」
「雄太殿!?」
 意識を取り戻した雄太が重力鎖を練る。
「どうせ移動してたら手遅れになる、このまま見てるだけなんて……!」
 よろめく彼を、ファンと晶が支えた。
「やるのなら、私の重力鎖を使え。いかんせん、この距離ではなにもできないのでな」
「同じく。狙撃とか、俺には向いてないし」
「そういうことなら、わらわもお力添えいたしましょう」
「もういっそ、皆一緒にしちゃう!?」
「ありかもしれぬ。バラバラに撃って足りないくらいなら、まとめて叩き込めばあるいは……」
「そういうことなら俺めも! 今度こそ支えて見せまさァ!」
 雄太の体に一人、また一人手を添えて、ラプチャーが最後に重なる。
「皆様方、聞こえてたでござるな!? 友の危機、見過ごせぬのは同じはず……総員、砲撃用意でござる!!」
 集まった番犬達に鬨の声を響かせて、彼は雄太に向き直る。
「チャンスは一回、外すとかナシでござるからな!」
「えぇ……!」
 腕に纏うは最期の螺旋。仲間の重力鎖を重ねて、狙い澄ます。
「いけ……ッ!」
 八つの重力鎖が重なって、一発の螺旋がいくつもの光と共に空間を駆け抜ける――群竜の襲撃を掻い潜った各部隊による、一斉射撃。支援砲撃はやがて竜を撃ち、遠方の戦場から、重力鎖の活性を感じて……。
「後は……大丈夫……だよな……」
「雄太殿!? く、拙者たちは急ぎ撤退、雄太殿の治療を優先でござる。ここまで来て誰か欠けるとか、クソゲー待ったなしでござるからな!」
 竜の散りゆく咆哮を背に、番犬達は友を背負って駆けだした。

作者:久澄零太 重傷:一条・雄太(一条ノックダウン・e02180) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月6日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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