智龍襲来~飫肥城に降るは恵みの雨か血の雨か

作者:陸野蛍

●交錯する策略の中で
「みんな、螺旋忍法帖防衛戦お疲れ様だったな。結果的に、金沢城で螺旋帝の血族『緋紗雨』を保護する事に成功した。もう一人地球に落ち延びたと言う、螺旋帝の血族『亜紗斬』の所在については不明だけど、充分な成果だったと言えると思う」
 資料に目を通しながら言う、大淀・雄大(太陽の花のヘリオライダー・en0056)の話では、『螺旋忍法帖』も御下命を果たしたことにより『然るべき時にスパイラスのゲートが開かれる場所を連絡する』と言うものに書き変わったらしい。
「だけど、螺旋帝の血族『イグニス』と同盟関係となったドラゴン勢力が、螺旋帝の血族『緋紗雨』を奪還すべく動き出すと言う、厄介なことが起こった」
 螺旋忍軍は多くのデウスエクスに雇われ、同盟を結び、勢力を大きくするデウスエクスだ。そして『エインヘリアルの王子』だった筈のイグニスが新しい生の元、螺旋帝の血族の力を得、暗躍している……良くないことが起こる前兆としか思えない。
「イグニスから要請を受けた、竜十字島からの刺客の名は、智龍『ゲドムガサラ』。智龍『ゲドムガサラ』は、その秘術により『緋紗雨』の居場所を特定する事が出来るらしく、真っ直ぐに『緋紗雨』を目指し、配下を引き連れ、竜十字島を発つみたいだ」
『智龍『ゲドムガサラ』』相対したこと等無い筈なのに、記憶の片隅で老いたる緑竜の姿が掠めるケルベロス達も居る。
「『ゲドムガサラ』が引き連れているのは、『宝玉封魂竜』。『宝玉封魂竜』ってのは、定命化で死に瀕していたドラゴンを、ゲドムガサラが『宝玉封魂法』で無理矢理生き延びさせたドラゴンのことを言うらしい。本来ならば、既に『重グラビティ起因型神性不全症』によって、死亡している状態である為か、その姿はボーンドラゴンのような状態になっているけど、戦闘力は元のドラゴンの力を保持している……強敵だな」
 数多のドラゴンの襲来、普通に戦えば、どれだけの被害が出るか分からない。
「ゲドムガサラと共に襲撃に来る宝玉封魂竜は強く数が多い。市街地での防衛戦だと大きな被害が出るのは間違いない。だから、ゲドムガサラの軍勢を迎え撃つのに最も適した場所として……エインヘリアルによって要塞化されていた、天下の名城『飫肥城』でゲドムガサラ達を迎え撃つ!」
 拳を強く握り、雄大が熱く言う。
「みんなには、螺旋帝の血族である『緋紗雨』を保護し、飫肥城に向かい、飫肥城にて、ゲドムガサラ率いる『宝玉封魂竜』の軍勢を迎撃してほしい」
『重グラビティ起因型神性不全症』に罹患しながらも、ドラゴンの力は健在の竜の軍勢……一筋縄ではいかないだろうことが容易に想像出来る。
「『宝玉封魂竜』は、数の暴力で押し寄せてくるから、難攻不落の飫肥城に籠城しても、護り抜くのは困難だと思う。1つ勝機がるとすれば『宝玉封魂竜』には、智龍『ゲドムガサラ』が直接指揮を下さない限り、その戦闘能力を充分に発揮できないという欠点がある。だから、前衛の宝玉封魂竜を撃破した後、敵本陣に切り込み、ゲドムガサラを撃破する事が出来れば、残る戦力を駆逐する事も不可能じゃない。簡単に言うと、『ゲドムガサラ』の前に立ち塞がる『宝玉封魂竜』を撃破及び突破し、1チームでも……いや、1チームじゃ厳しいのか……とにかく、突破したチームが『ゲドムガサラ』を撃破出来れば、残った『宝玉封魂竜』を殲滅することが充分可能になるってことだ」
 まずは、各々が担当することになる『宝玉封魂竜』を撃破すること、力を温存して勝てる相手ではないのだから。
『ゲドムガサラ』の元に辿り着くチームが出なければ、次々に攻め寄せる宝玉封魂竜から飫肥城を護ることが最優先になる。
 こうなってしまえば、ケルベロスとゲドムガサラの根比べになると言っていい。
「みんなにまず、撃破をお願いしたい『宝玉封魂竜』の説明に移る。『宝玉封魂竜』になる前の名前は『雨水』東洋龍型のサーペントタイプのドラゴンだったみたいだな」
 古き時代、龍は雨雲の子供、雨を司る神という伝承があった……この竜も、雨神として畏れられた龍なのかもしれない。
「攻撃手段は、頭上にグラビティを集中させることで攻撃性の雨を降らせる攻撃、強力な雷撃を放つ攻撃、長い尾による薙ぎ払いの3つ。どの攻撃も、攻撃力は絶大。盾役や回復役が早期撃破されれば、陣形を立て直すのはかなり難しいと思う。『ゲドムガサラ』の兵隊だと思って、油断しないでくれよ」
 外見こそ変われど、戦闘能力の変わらないドラゴン……確実に勝てる相手とは、言い難い。
「イグニスがどうやって復活し、惑星スパイラスで権限を持ったかは、現時点では不明。ドラゴン勢力との繋がりも正確には、分かっていない。今は、情報が欲しい所だけど、敵が攻めてくる以上、迎え撃つしか俺達には、選択肢が無い。この戦いに勝利し、幾つもの謎の一つでも解き明かせれば、活路は見出せると思う。だから、みんな……勝って来てくれな!」
 雄大は真摯な瞳をケルベロス達に向けると、ヘリオンの最終チェックへと向かった。


参加者
ジューン・プラチナム(エーデルワイス・e01458)
燦射院・亞狼(日輪の魔戒機士・e02184)
トゥリー・アイルイヘアド(紅蓮ノ騎士・e03323)
斎藤・斎(修羅・e04127)
シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)
フィー・フリューア(赤い救急箱・e05301)
御影・有理(書院管理人・e14635)
鉄・冬真(薄氷・e23499)

■リプレイ

●飫肥城にて待つ
「さて、ドラコン退治はこれで三度目だが……今回は特にハードだな」
 赤髪のポニーテールを揺らし、トゥリー・アイルイヘアド(紅蓮ノ騎士・e03323)は、腕を組み、何とも言えない不穏な空気を纏った空を見、呟く。
「この飫肥城に来るんですね……夥しい数の『宝玉封魂竜』……、そして『智龍『ゲドムガサラ』』が……」
 言葉こそ静かだが、斎藤・斎(修羅・e04127)の眼鏡の奥の金色の瞳には、これから襲来するドラゴン達への敵意……ドラゴンの首を落とす機会に恵まれたと言う、本人にも明確には説明出来ない高揚感に似た意志の炎が見て取れる。
「ボク達の背中……飫肥城場内に『緋紗雨』さんが居るんだよね……」
 背に建つ飫肥城を高く見上げながら、シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)が螺旋帝の血族の姫君の名を口にする。
「緋紗雨さんの事はまだよくわからないけれど……ボクたちの事を信じて、賭けてもいいって、考えてくれたんだよね。それならボクは特に迷うことはないかな……。頼って良かったって思ってもらえるよう、めいっぱい頑張る。それだけだよ!」
 小さな身体に、大きな竜鎚『まう』とチェーンソー剣を携え、シルディはケルベロス達に協力を願い出た、螺旋忍軍の姫君を護ると誓うが、ケルベロス全ての者が彼女を信用している訳ではない。
 事実、緋紗雨本人が現時点で同盟関係を築いているにすぎないと断言しているし、彼女が第一に護るべきと思っているのは、『惑星スパイラス』であり、現状『スパイラス』の実権を握っている『螺旋帝の血族『イグニス』』さえ退位させてしまえば、彼女が螺旋忍軍の長として、地球勢力と敵対関係に戻る可能性は高い……と言うより、間違い無いと言ってもいいだろう。
 螺旋忍軍にとっても、所詮地球は、『グラビティ・チェイン』と言う資源を搾取する場でしかないのだから。
 だが、それでも今、緋紗雨をイグニスの手に渡す訳にはいかない、何故なら……。
「ドラゴンに、彷徨えるゲートを使用される訳には、いかないからね。螺旋帝の血族の緋紗雨がどんな奴か、まだよく分からないけど、利害関係の一致ってとこかな? とりあえず、守ってあげてから詳しい話をしようか。この場をクリアしちゃわないと、それもできないもんね」
 ジューン・プラチナム(エーデルワイス・e01458)の言葉に、頷く仲間達。
 侵略勢力最強の『ドラゴン勢力』が『彷徨えるゲート』を使用可能になれば、ドラゴン勢力の侵略強度は、間違いなく数倍……いや、数十倍に膨れ上がるだろう。それだけは、防がなければならない。
「なかなか、オオゴトになってきたけど、まあ僕らがやるべき事を確実に、だねぇ」
 トレードマークである赤い頭巾から、エメラルドの瞳を覗かせ、フィー・フリューア(赤い救急箱・e05301)がいつものテンポを崩さず言う。
 これから戦う敵が強敵なのは既に分かっている。ならば、今更ジタバタしても仕方が無い。最善を尽くすしかないのだから。
 そして、今回、フィーは同じチームメンバーに親しい友人が含まれていると言う、幸運にも恵まれていた。
(「今回は、ほんとにメンバー頼もしいからね、僕は皆が自在に動けるようしっかり回復して戦線維持に努めないとねぇ。仲良しで頑張り屋のシルディさんに、有理さんと冬真さんの二人までいるもん。二人が揃えば、きっと無敵……僕が幸福を願っている二人だもの。僕からの全幅の信頼を……そして、みんなの信頼に僕も応えるんだよ」)
「さあ、頑張ろっ!」
 フィーが気合を声に出して叫んだ時だ、鉄・冬真(薄氷・e23499)が御影・有理(書院管理人・e14635)を気遣うように声をかける。
「有理、君は後衛の攻撃の要になるだろう。だが、僕達がまず相手にする『宝玉封魂竜『雨水』』には、遠距離への攻撃もある、そして乱戦になれば、どこからどんな攻撃が飛んでくるかも分からない。今回、僕は君を護ることは出来ない。だから、無理はしないでくれ」
 有理が後衛のダメージソースの一人であるなら、冬真は前衛のダメージソースの一人だ、戦闘に入ってしまえば、後ろを振り返る余裕すらないかもしれない……例え、愛する人が傷ついていたとしてもだ。
「大丈夫だ、冬真。私も我が身程度は護れるケルベロスだ。それに、竜勢力に『惑星ドラゴニア』からの強大な戦力の襲来を許したら、その被害は計り知れない。緋紗雨も……人の命も、奪わせはしない……」
 冬真の愛する有理は心の芯から強い女性だった……だからこそ、彼女は決して奪わせないものの中に、愛する人『冬真』が居ることをあえて口にしなかった。
 彼の愛を言葉の端に感じはするが、ケルベロスとして対等に戦場に立つならば、護られるのではなく、冬真の背中を預かれる自分でいたいと、有理は思う。
(「冬真、そして、フィーと戦場を共に出来るのは、とても心強い。だからこそ、何としても事を為し遂げ、皆無事で帰らないとな……」)
「おうおう、ドラゴン様が一斉に御登場ってか?」
 飄々とした、燦射院・亞狼(日輪の魔戒機士・e02184)の声がケルベロス達の耳に入ると、その巨大な生物達の群れ……半ば死んでいると言っていい、ドラゴン達が宙に地に不気味な影となって数十……いや、百を超える数となって押し寄せて来ている。
 最後衛に長大に神々しく控える緑龍が『智龍『ゲドムガサラ』』だろう。
「やる事ぁいつもと一緒さ。まずは、雨水って言ったか? そいつを潰して、他もテキトーにいくぜ」
 言う、亞狼のマスクで覆われた瞳はいち早く、『雨水』の特徴を持つ『宝玉封魂竜』を映していた。

●宝玉封魂竜『雨水』
「おめーの相手ぁ、こっちだ。ぁ? 文句あんのかよ? ねぇよな? 俺達、倒しにに来てんだろ?」
 雨水の空虚な瞳のみに映る、亞狼の背に浮かんだ強烈な黒い日輪は、熱波を放ちながら、雨水に亞狼の存在を刻みつける。
「亞狼さんだけを見ちゃ駄目だよ! この身、この意志は鋼の盾なり。脆弱なるものよ、砕けるものなら砕いてみせよ!」
 シルディの身体から放たれた赤いオーラがシルディ自身と雨水を包むと、ゲドムガサラの預かり知らぬ所で、雨水はシルディを倒さねばならぬものと認識する。
 そこからの雨水の一連の動きは迅雷の如き速さだった。
 宝玉を光らせると、蛇のように伸びた竜骨尾を大きく振り、ケルベロス達を纏めて横薙ぎにしようとする。
「リム! 斎殿を護って、そのままブレス!」
 有理が相棒の闇色のボクスドラゴン『リム』に指示を出せば、リムは小さな身体を弾き飛ばされながらも地を蹴って、反撃に転じる。
 雨水の初撃を受けずに済んだ、斎と冬真も直ぐに得物にグラビティチェインを込める。
 戦闘開始直後に全身を覆い尽くした斎の地獄の炎は既に、斎のグラビティ・チェインと絡み合い、斎の右腕を通して、ドラゴンだけを殺す『聖毒』を精製するという巨大剣『竜殺しの大剣』に更なる力を与えていた。
 そしてそこに、もう一段猛烈な地獄の炎を纏わせ、無言で力の限り斎は大剣を雨水に振り下ろす。
(「必ず、その首……頂きます」)
「……お前達の好きにはさせない。この身を刃とし守り通す」
 静かに誓うと、冬真は己の拳に等しい『黒槌』を振りかぶると、生命の進化の可能性を奪う……いや、『重グラビティ起因型神性不全症』で死ぬ運命だけを助長する、冷気の一撃を雨水に叩きつける。
 雨水が首を捻った時、既に冬真は仲間の……いや、有理の攻撃の射線を開くように動いていた。
(「冬真と同じ戦場……負ける気は無い」)
 有理の『天狼』が月弧を描いた後、袈裟に奔ると、雨水の骨の身体に亀裂が入る。
「仲間の傷にはこの秘薬ってねえ。こんな事もあろうかと、特製薬も準備万端、ってね」
 愛用の救急箱から謎の薬瓶を取り出し、ニヤリと口元に笑みを浮かべるとフィーは、前を固める者達にその光薬を浴びせ、仲間達の傷を癒すと共に、集中力を高める。
「おっまたせだよー♪ 鎧装天使エーデルワイス、いっきまーす!」
 オラトリオの翼で低空飛行し、一気に雨水に接敵すると、ジューンは、英雄のように輝く流星を纏った蹴りを雨水の顎に向けて放つ。
「これだけの大軍勢とはね。なんにせよ、再生怪人には用はねぇ! さっさと本命に行こうじゃないか!」
 赤鎧の女騎士トゥリーは吠えると、雨水の懐に飛び込み、フレアドレスを風にはためかせる。
「ブッ潰れろっ!!」
 手にした得物は離さず、ガントレットと脚甲による近接格闘術……長物を得意とするトゥリーだからこそ、辿り着いた長物の弱点をカバーした、物質破壊戦術だ。
 ケルベロス達の雨水との激闘は始まったばかり……だが、フィーは、何故か雨水の瞳を見た瞬間、背筋に冷たいものが走るのを感じた。

●雨止みて竜新たに来たる
「ごめん! リムは間に合わない! 他の前衛は立て直すから、雨水を早く倒してもらえるかい?」
 闇色のボクスドラゴンがグラビティチェインの枯渇で消えていくのを見ながら、フィーは唇を噛み締め、黄金の果実を生みだし聖なる光で仲間達を癒す。
 雨水との戦闘開始から既に10分近く経過している。
 遠目で正確には分からないが、既にゲドムガサラとの戦闘に入ったチームも出ている様子だ。
 対雨水戦に臨んだ、フィー達は思わぬ苦戦を強いられていた。
 雨水の攻撃は、7割方、前を固める者、正確には亞狼とシルディが受けていた。
 守りの堅い二人が、盾役を務める……ケルベロス達の作戦通りにいっていた。
 だが、雨水が生み出す邪な雨は、二人の護りのグラビティを著しく乱し、その上で強烈な轟雷を雨水は、放って来ていた。
 ドワーフに伝わる自己暗示の言霊で、自身のグラビティの護りをを逐一固めていたシルディですら、雷の威力を打ち消すのが精いっぱいの状態だ。
 亞狼に至っては、フィーの最大ヒールでも間に合わないダメージが蓄積されている。
 そして、二つの盾が綻べば、当然、他のメンバーもダメージを受ける頻度が上がり、フィーの援護としてヒールも担当しなければならない。
「冥き処に在して、三相統べる月神の灯よ。深遠に射し、魂を抱き、生命の恵みを与え給え」
 数々の神格を持つ『月と魔術の女神』を讃える詩篇を有理が詠唱すれば、其の加護は白き光の姿で現れ亞狼を優しく包む。
「面倒くせぇな! さっさと、くたばれ!」
 亞狼が憤りをぶつけるように、鉄塊剣で雨水を斬る……いや、打ち叩く。
(「感情は戦闘の前と後にだけありゃいんだ、今は欠片もいらねぇ。こいつはただのモノだからな」)
「キミの相手はもう充分なんだよ。ゲドムガサラが待ってるんだよ!」
 雨水の傷口を広げるように、チェーンソー剣を操り、シルディが叫ぶ。
「ジューン! 一瞬でいい! あいつの気を引いてくれ!」
「了解! フロストレーザー! いっきまーす!」
 トゥリーの声を聞くと、ジューンはバスターライフルから冷気のエネルギーを瞬時に発射する。
「これだけ、同じ所を攻撃してるんだ、いい加減ぶっ壊れな!」
 鎧をも砕くトゥリーの数度目の殴打が雨水に決まれば、雨水の首筋の骨の表面に目にハッキリと見える程のひびが出来る。
「まだ、戦いは終わらないからな。お前のグラビティ・チェイン奪わせてもらう」
 言うと、冬真は雨水の首筋に手をかざし螺旋エネルギーを発生させる。
「この鋼渦の糧となれ」
 通常と逆に螺旋を回転させ、雨水の命そのものを強引に吸収する、冬真。
(「竜殺し……剣の名に掛けて、その首貰い受ける」)
 口にはしないその言葉。
 だが、明確な殺意と意志を持って、斎は雨水のひび割れた首筋に巨剣を振り下ろした。
「……やっと、終わったねぇ」
「まだだよ! ゲドムガサラ撃破の支援に行かなきゃだよ!」
 フィーの言葉を直ぐに否定すると、シルディは回復しきれていない身体で走り出した。
 他の仲間達も、視線だけを交わすと、一斉に巨大な緑龍に向かって駆ける……だが。
「二体目、相手しろってか? 舐めてんのか?」
 亞狼は、愚痴るように言うと、背に日輪を浮かび上がらせる為にグラビティ・チェインを高めた。

●けして一人の力では無く、それは皆の力
「……折角の宮崎だろ? 厚焼き卵と芋焼酎、味わっておきたかったんだけどよ……」
「シルディ! 耐えきれるかい?」
 倒れ伏し、意識を失った亞狼の前に立ちはだかる帳に、得物を構えるシルディに、トゥリーが光の盾を放ちながら訊く。
「耐えて見せるよ。だけど、早く終わらせたいかな……!」
 数度目の赤きオーラで自身だけを見るように、『宝玉封魂竜』を捕えるシルディ。
 二体目の『宝玉封魂竜』を相手にすることを想定していなかった訳ではない……だが、この個体に関しては戦闘データが予測されていなかった。
『雨水』程、幅の広い攻撃がある訳ではないが、ケルベロス達は二連戦である。
 二体目の相手、援護の無い状態では……正直苦しいと言うのが、本音だった。
 盾として機能するのはシルディのみ……最低限の回復を残し、総攻撃を仕掛けるしか勝機は無い。
 ケルベロス達は魂の部分で理解すると、一斉に動く。
 宝玉封魂竜の首を取りに飛びかかった斎に、爪が振り下ろされれば、シルディが身を呈して庇い、シルディは得物ごと地に叩きつけられる。
「……ボクの回復より、攻撃だよフィーさん」
「分かったよ! 冬真さん、攻撃力上げていくよぉ!」
 信頼する相手からの言葉、終わらせれば回復をしてあげられる……フィーは悩みながらも有理に、雷のエネルギーを降り注がせる。
「お前の時間は終わってるんだ。潔く凍れ!」
 冷気のグラビティで冬真が一気に宝玉封魂竜を氷結すれば、体勢を立て直した斎が下から打ち上げるように大剣を振るう。
「ボクのハンマーで足止めするよ! 有理さん止めを!」
 砲撃形態に変えたハンマーで竜砲弾を撃ち出し、ジューンが叫ぶ。
「時間を取らせてくれたな。死を持って償ってもらおう」
 闇色の大鎌で宝玉封魂竜を大きく裂き、有理が呟く。
 赤玉が割れ骨屑となって、戦場の風にさらわれる、宝玉封魂竜。
「ゲドムガサラ達が現れて23分……あっちには、支援も向かってるな。亞狼、シルディも、もう無理だな……」
「……ごめんなさい」
 トゥリーの言葉にシルディが、有理に支えてもらいながら言葉を返す。
「悔しいけど、他のチームの武運を祈るしかないねぇ」
「……飫肥城に撤退だね」
 フィーの言葉をジューンが続けると、亞狼を冬真が、シルディを斎が抱きかかえ、飫肥城へ向けケルベロス達は駆け出した。
 防衛班の援護もあり、飫肥城へ無事に退避し数分後……ゲドムガサラ討伐に成功したとの報が彼等の耳に入った。
「……やってくれたんだね、みんな。……よかった」
 呟くと、シルディは張りつめた糸が切れた様に意識を手放したのだった……。

作者:陸野蛍 重傷:燦射院・亞狼(日輪の魔戒機士・e02184) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月6日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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