智龍襲来~腐敗撒き散らすは死の髑髏

作者:ハル


「皆さんの奮闘、連戦に耐え抜く信念、大変心強く、また誇りに思います!」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は、ケルベロス達に賛辞を送る。
「その結果、螺旋帝の血族『亜紗斬』の所在こそ特定する事はできませんでしたが、『緋紗雨』は無事保護することができました! 残念に思う方もいるかもしれませんが、そんな風に思う必要もない程の成果であると、私は思います。しかし――」
 だが、そこでセリカの表情が曇る。何やら事情があるのだろう、ケルベロス達が問うてみれば……。
「螺旋帝の血族『イグニス』と同盟関係となったドラゴン勢力がいるようなのですが……そのドラゴン勢力が、『緋紗雨』を奪い返そうと動き出したそうなのです。しかも、その刺客というのが……」
 ――智龍『ゲドムガサラ』
 例の八竜襲撃に関与したとされる龍であった。
「先の事件での螺旋忍軍ではありませんが、ゲドムガサラはある秘術で『緋紗雨』の居場所を特定できるそうなのです。恐らく、狙いである『緋紗雨』を目指し、進撃してくるでしょう」
 そこで、セリカはケルベロス達に資料を配る。そこには、ゲドムガサラの配下とされる、『宝玉封魂竜』の軍勢に関する詳細が記されていた。
「配下のドラゴンは、定命化の影響で死に瀕していた所をゲドムガサラの『宝玉封魂法』で、なんとか命だけを繋ぎ止めている状態です。本来ならばとっくに死んでしまっている状態であるためか、一様に姿は骸骨のような無残なものとなっています」
 しかし、元のドラゴン時……とまではいかないものの、ゲドムガサラの支配下にある限り、それに準ずるくらいの戦闘力を行使する事ができる。
「資料を見て頂ければ分かると思いますが、ゲドムガサラに従えられて襲撃に来る宝玉封魂竜の数は非常に多く、市街地での長時間の防衛戦は、受ける被害を考えれば非常に危険……というよりも、被害がほぼ間違いなく出てしまうと思われます」
 そこで、ゲドムガサラを迎え撃つに相応しい場所が、一つだけある。セリカは資料のページを捲るように告げると、そこに場所の詳細が。
「ここです。エインヘルアルによって要塞化されていた、天下の名城『飫肥城』。ここにて、『緋紗雨』さんの保護……そして、ゲドムガサラ率いる『宝玉封魂竜』の軍勢の迎撃を皆さんにはお願いしたいのです!」
 ケルベロス達が、気勢を上げる。セリカはそれに感謝の言葉を述べると、さらに詳しい内容について語り出した。
「先程もいったように、敵の規模は大きく、難攻不落の飫肥城であっても、普通の方法では守り抜く事は困難です。ですが、無理矢理に生命を維持させている『宝玉封魂竜』には、代償というか、弱点のようなものがあります」
 それは、ゲドムガサラの直接指揮下にない限り、本来の戦闘能力を生かし切れないという事。姿や戦闘力のみならず、思考力も劣化している証である。
「まずは、前衛の宝玉封魂竜を撃破。その後本陣に切り込んでゲドムガサラを撃破するのが理想です。仮にゲドムガサラさえ撃破してしまえば、後に残るのは著しく弱体化した個体だけになりますから」


「次に、皆さんに担当して頂く宝玉封魂竜の説明をします」セリカはそう言って、骸骨のようなドラゴンを指さした。
「このような姿になる前、このドラゴンは様々な種族の死骸を喰らっていたそうです。そのためか、他の『宝玉封魂竜』と比べ、一目で分かる程身体を形成する骸骨や宝石がボロボロの状態になっています」
 しかし、それでそのドラゴン――コープスドラゴンが脆いと考えるのは早計だ。
「確かに、耐久力は他のドラゴンと比べ、低いと言えます。しかし、脆いゆえに高い再生能力を有し、近づくだけで鼻の奥をねじ曲げるような腐乱臭に、翼をはためかす事によって巻き上がる霧は、口や皮膚を通して浸食してくる神経毒です。一つのミスが命取りになり、戦闘が長引けば長引くほど、皆さんの命を着実に削っていくことになるでしょう」
 このコープスドラゴンが、ケルベロス達がまず撃破しなければならない敵となる。本陣に切り込み、ゲドムガサラと相対、撃破できるかは、その初戦にかかっている。
「ドラゴンに準ずる程の戦闘力……相手にとって不足なしと言いたい所ですが、私はまず、皆さんの無事をお祈りしております。また、緋紗雨さんの情報の裏を取ることができました。ある程度、話を信用してもよさそうですね。ただ、まずは今回の戦闘を乗り切ることに集中しましょう! 皆さん、どうかよろしくお願いします!」


参加者
羽丘・結衣菜(ミスディレクションの少女・e04954)
九六九六・七七式(フレンドリーレプリカント・e05886)
ククロイ・ファー(鋼を穿つ牙・e06955)
妹島・宴(交じり合う咎と無垢・e16219)
鏡・胡蝶(夢幻泡影・e17699)
神居・雪(はぐれ狼・e22011)
植田・碧(ブラッティバレット・e27093)
巡命・癒乃(白皙の癒竜・e33829)

■リプレイ


「碧おねーちゃーん、また一緒だね、頑張ろうねー! ……なぁんて、言ってる場合じゃないみたいね」
「そうみたいね。喜ぶのは、きっちり私達の役目を果たしてからでも遅くないわ、結衣菜さん」
 羽丘・結衣菜(ミスディレクションの少女・e04954)と植田・碧(ブラッティバレット・e27093)の見上げる先で、コープスドラゴンは幾重にも塒を巻いていた。
 一際朽ちた骸骨の肉体と宝石。生気の欠片もない死相が浮かぶ瞳。
 だというのに――。
「黄泉の世界へようこそ、ケルベロス」
 コープスドラゴンが蠢くだけで、呼吸をするだけで……それだけの何でも動作が、世界に腐敗と死を撒き散らす。
「……っ、凄い臭いですね……っ」
 卵が腐ったような、耐え難い臭気。鼻が曲がる所ではなく、嗅いでいると鼻の感覚自体がなくなり、膿の混じった鼻血が垂れてくる。妹島・宴(交じり合う咎と無垢・e16219)が、慌てて雷の壁を張り巡らせ、臭気を少しでもブロックしようと試みた。
「宴、アリガトデスヨー! レプリカントのワタシデモ、アノ匂いハヤバイデス!」
 雷の壁によって、多少はマシになった周囲の空気。九六九六・七七式(フレンドリーレプリカント・e05886)が、恐る恐る呼吸をしながら、炎を纏った蹴りを放つ。
「チッ、見るからに厄介な野郎だぜ。宴達みたいに鼻血こそ出ないが、こっちまで匂ってきやがる!」
 続くのは、オウガメタルを纏うことによって、背中に鬼を宿した神居・雪(はぐれ狼・e22011)の拳だ。
「なっ!」
 だが、拳を叩き込んだ感触に、雪が驚愕を見せる。
「腐っても龍……そう言いたいのかしら?」
 飛び退く雪に変わって、稲妻を帯びた鏡・胡蝶(夢幻泡影・e17699)のゲシュタルトグレイブが、コープスドラゴンの翼を貫く。しかし――。
「如何かな、ケルベロス共よ。我を攻撃するのはよいが、貴様らもただではすまぬという事だ」
「……私達の攻撃を受けて身体が揺らぐだけでも、神経を麻痺させる霧が散布されるという訳ですか」
 今度は、巡命・癒乃(白皙の癒竜・e33829)が前衛に雷壁を盾として構築する。吹き荒れる神経毒から宴を守ったルキノの純白の頭を撫でながら、癒乃は小さく唇を噛む。
「関係ねぇな」
 紛う事なき強敵を前に、しかしククロイ・ファー(鋼を穿つ牙・e06955)は微笑みを。
「お姫さんを狙う悪い龍はやられ役って相場が決まってんだよね。そういう訳で!」
 一先ず、お薬出しときますねーッ! ククロイが、ウイルスカプセルを投射する。まるで、その薬で頭を冷やし、身の程を思い知れとでも言うように。
「まっ、お薬が欲しいのは私達も同じだけれどね」
 一瞬ながら、気圧されかけていた。だが、すぐに不穏な気配はどこか遠くへ。
「大丈夫よ、碧お姉ちゃん、まんごうちゃんに任せて!」
 結衣菜が重力を帯びた飛び蹴りでコープスドラゴンの機動力を下げている間に、まんごうちゃんが碧に祈りを捧げる。痺れが取れた碧は、微笑みを浮かべながら電光石火の蹴りを見舞った。
「百合百合してて、いいっすね~!」
「はいはい、そういうのは後になさいな」
 目を輝かせる宴に、シガレットを咥えた胡蝶が苦笑を向ける。
「……威勢の良い奴らだ。気に入らんぞ、ケルベロス」
 そんな、生命力に満ちた態度、許すまじ! 怒気を纏ったコープスドラゴンが、悪魔的なまでに鋭い爪牙を繰り出してくる。
「あんまアタシらを舐めるなよっ!」
 雪はククロイに向けられた爪牙を受け止めると、炎を纏うイペタムに乗り込み、その勢いも借りて流星の煌めきの如き飛び蹴りを放つのであった。


 周囲には、濃霧が漂っていた。無論、その霧はただの霧ではなく、毒霧。
「視界ガ悪イデス! サスガニ、ドラゴンの巨体ヲ見失ウ事ハアリマセンガ!」
 ドラゴン特有の巨体を足場に、七七式は星座の重力を宿した2対のゾディアックソードを叩き込む。
 ――が!
「宴、癒乃、気ヲ付ケテ! 雪トサーヴァント達ハ、二人ヲ守ッテアゲテクダサイ!」
 七七式の警戒を飛びかける声のすぐ後に、コープスドラゴンの口から黄土色をした腐乱の呼気が放出される。
「まんごうちゃん!」
 結衣菜の指示を受け、まんごうちゃんが庇いに入る。だが、雪とイペタムは、一瞬タイミングを逸した。
「できる限り宴さんを優先してください!」
 癒乃が叫ぶ。彼女は最初から一貫して、ルキノに宴を庇うことを優先させている。
「クククッ、よい顔になってきたではないか」
「大丈夫!? コープスドラゴンも消耗してきているわ! 攻撃の手応えも、動きの鈍り方からもそれが分かるはずよ!」
「ええ、そうね。結衣菜さんとククロイさんの攻撃は、確実に浸透してきているはず」
 碧の「虚」の力を纏った翠玉の大鎌と、胡蝶の掌に籠められた臓腑を抉るグラビティ・チェインも、着実にコープスドラゴンに傷として刻まれている。
 だが、それにしてもコープスドラゴンの、いい気になったかのような声色が癇に障る。数分前から、戦闘の肝が後衛にあると読んだ敵の標的が後衛に移った事も、そしてそれが的を射ている事も……。さすがは、肉体と思考を劣化させながらも、ドラゴン。
「ククロイくん、一旦私が回復に回るわ!」
「了解だ、結衣菜ちゃん。おら、ここからはモディファイズの出番だ――っと、強化なんてさせるものかよ!」
 結衣菜が、「真に自由なる者のオーラ」で癒乃を治癒する。ククロイは、自らの肉体を喰らうことで回復、強化を図ろうとするコープスドラゴンに、激しいモーター音と共にモディファイズで斬り掛かった。
 ジャマーであると判明したコープスドラゴンの毒とパラライズから生き延びられているのは、メディック二人のおかげといっても過言ではない。ポジション効果のキュアがなければ、あっと言う間にBS漬けにされジリ貧だったろう。
 逆に、コープスドラゴンからすれば二人を喰らえば勝利に近づく。
「っちぃ! 汚い腕でアタシに触ってんじゃねぇ!」
 そうはさせまいと、雪は奮闘する。二種の毒に、爪牙をループさせるコープスドラゴンの戦術を破綻させようと、雪の白い肌が血に染まり、仏頂面を僅かながら崩される。
「川の恵みよ。今、我らの身に宿れ。……力、借りるぜ」
 態勢を整えようと、川のカムイに祈りを捧げる雪の視界の端で、攻撃と祈りを繰り返しながら堪え続けたルキノが消失する。
(ごめんなさい……そしてありがとう、ルキノ)
 癒乃は、ルキノに胸中で感謝と謝罪を告げる。そして、ここからだと前を向いた。
「貴方の個にして一なる強さを信じています、私にはない力を……」
 何故なら彼女の隣には、友の支えがなくとも立つ宴がいるのだから。
「それはこちらの台詞ですよ。あなたとルキノさんがいなければ、今まで生き残れていたか……」
 宴は、雪に緊急手術を施しながら微笑を。コープスドラゴンを二人で見据えた。
 癒乃は宴に、改めて信頼を。そして、宴とルキノのためにも、強くありたいと願った。DFに劣らず疲労が色濃いアタッカー二人に、来る勝機の時に備え、順番に気力を溜めた。

「ボロボロをズタズタにィ!!」
 ククロイのモディファイズが、コープスドラゴンの傷口を強かに抉る。
「すでに死に瀕した我に、痛みなど!」
 コープスドラゴンはそう猛るも、
「あら、だったら何故、私の攻撃を避けられないのかしら?」
 胡蝶の魔法光線を、棒立ちのまま受けてしまう。
「ドウシテ? ドウシテ? ホワイ?」
「囀るな!」
 煽り立てるような七七式の問いと炎を纏った蹴りに、苛立ったようにコープスドラゴンは感情を露わにした。それこそが、焦りを抱いている証拠であり――。
「ほっとしたわ、もしかしたら、本当に不死なんじゃないか、そう思ったわよ。でも、もうお終い。きりきり舞いさせてあげるわ!」
 皆に力を与える。結衣菜は蔓延る濃霧を操作することによってコープスドラゴンの視界から消え、死角から一撃を。
「我は喰らうもの也! 貴様らケルベロスこそが、喰らわれるもの!」
 前衛に、神経毒が撒き散らされる。追い込まれたコープスドラゴンにとって、恐ろしいのはアタッカーの一撃。今までに繰り返してきた、再生力を越える程の……。
 碧がこの一撃で行動不能になっていれば、コープスドラゴンにもまだ勝算はあった。後衛は、絶えず腐乱の呼気によるスリップダメージの支配下に置いているのだ。後衛は、自分達だけを回復していればいい訳ではない。その合間合間で被害を受け、宴は桃色の霧で、癒乃は淡い生命の光が宿し、次の攻撃に備えている。
 霧が晴れた時――。
「悪ぃな、ここにアンタの目当てはいねぇよ」
 コープスドラゴンの視線の先には、パラライズとダメージにより膝をついた雪だけの姿しかなかった。
「……一体、どこに! ぐぅ!?」
 コープスドラゴンが視線を巡らせると、その眼前に激しくスピンをするイペタムが! コープスドラゴンは、イペタムを爪牙で迎撃する。
「こっちよ! 悪いけれど、狙いは外さないわ――!」
 だが、イペタムに庇われた背後には碧がいて、コープスドラゴンの無防備に晒されたコアへと、碧のグラビティ弾は吸い込まれるのであった。


 コープスドラゴンとの戦闘時間は、12分少々。安定感をとったため、多少時間はかかったが、態勢と布陣を整えた一同は、他班と共に城を囲むように緋紗雨の警護に回っていた。ケルベロス達はその中で、比較的城と緋紗雨に近い最奥部に陣取っている状況。
「緋紗雨ニハ、ワタシ達ヲ応援シテモライタカッタノデ、残念デスヨー!」
「仕方ないっす! 緋紗雨さんは、戦闘不能者を奥で守ってくれているようですので」
 無論、作戦の性質上、それが誤情報の可能性もあるが、今は絶え間なく襲い来る猛攻、薙ぎはらうブレスに、硬化された爪を捌くしかない。
 七七式は炎を纏った蹴りで、宴は付与された火傷を癒やそうと、ブレスの前に雷壁を構築して応対する。
「俺はまだ、あのお姫さんを信用した訳じゃないけどね」
「アタシだって同じだ。だけど、今は仕方ねぇ」
 実際に宝玉封魂竜が襲来した以上、ある程度の信憑性はあるのだろう。碧にカムイへの祈りを捧げる雪の言葉に、ククロイは一先ず納得するように「だね」と頷いた。
「煌めけ! 俺ェ!!」
 そして、最も手近な宝玉封魂竜へと、玉虫色のエネルギーを輝かせた跳び蹴りを!

「っ、まんごうちゃん……碧お姉ちゃんも気を付けて!」
 宝玉封魂竜が放つ爪の一撃を受け、まんごうちゃんが姿を消して数分。結衣菜は、「真に自由なる者のオーラ」で碧を包む。だが、戦況は芳しくなく、前衛では碧と胡蝶が、後方では癒乃が危険な状況に晒されていた。
「ルキノのためにも、私が倒れる訳には!」
「癒乃さん、前衛二人はぼくが!」
「……すみません」
 初戦での回復不能ダメージの影響が色濃い癒乃は、緊急手術をこなす宴に謝りながら、
「生きる事は……死に向かう事。代償なき生は世の理に非ざる欺瞞……。あなたは滅びずにいられるかな……?」
 淡い生命の光に包まれた。
「宴さん、ありがとう、助かったわ」
 ディフェンダーにポジションを移った胡蝶、そして雪は、まんごうちゃんが戦闘不能になった影響で、負担が増している。雪程強靱な耐久力がない胡蝶は、なおさらだろう。
(……螺旋忍軍のために、こんなに傷だらけになるなんてね。でも――)
 自嘲気味な笑みを浮かべながらも、胡蝶は「まだ、終わらせないわよ?」そう言いながら、掌のグラビティ・チェインを、全力で宝玉封魂竜に撃ち込んでいく。
(……まだほとんど宝玉封魂竜を撃破していないっていうのに!)
 大きなダメージを与えた宝玉封魂竜は一時撤退し、それをカバーするように、入れ替わりで元気旺盛な宝玉封魂竜が突撃してくる。フェアリーブーツから星形のオーラを放った碧は、口元から垂れた血を拭った。泥臭くとも、ゲドムガサラ撃破まで堪える。そうすれば、反撃のチャンスある。だが――。
「……ぁ」
 碧の視界を、宝玉封魂竜の放ったブレスが包み込むのであった。


「癒乃ちゃん!」
 これ以上前衛を墜とされる訳にはいかない。消耗の激しいDfに、癒乃がオーラを溜める。だが、続く宝玉封魂竜の襲撃に意識を失った癒乃に、ククロイが目を見開いた。
「癒乃の事は、アタシに任せな!」
「頼んだぜ、雪ちゃん! あと竜共は――ぶっ殺す!」
 雪に庇われながら、緋紗雨もいる飫肥城内に撤退する癒乃の後ろ姿を一瞥しながら、ククロイのモディファイズが唸りを上げて宝玉封魂竜を斬り裂く。
「他の班の人達が撤退してきているのに、その手助けもできないなんて!」
「……仕方ないわ、結衣菜さん。ただでさえ私達は後方に控えているんだから。何よりも、ここを突破される訳にはいかない。……絶対にね」
「……うん、分かってるよ、胡蝶ちゃん」
 飫肥城へ大きな傷を負いながら撤退してくる他班を、見ている事しかできない。仲間は次々と倒れていく厳しい現状。オウガメタルを背に纏った結衣菜の鬼と化した拳が、胡蝶の掌から放たれた「ドラゴンの幻影」が、火を噴く。
「今は堪えるしかありません。緋紗雨さんを敵に渡す訳にはっ!」
 雪が一旦離脱している今、胡蝶とイペタムに頼るしかなく、宴は唇を噛んだ。かといって、攻め手がある訳でもない。押し切られ、蹂躙される未来が宴の脳裏を過ぎるが、彼にできる事は、とにかく回復で支える事。放出された桃色の霧が、宝玉封魂竜の尻尾の直撃を受け、苦痛に呻く胡蝶に降り注ぐ。
『オオオォォ!』
 その時! 熱く燃えたぎるような、強い意志を宿した青年の咆哮が、ケルベロス達の耳に届いた。
「OH! スゴイ根性ヲ感ジマスヨ! ワタシタチモ負ケテラレマセンネ、オオオオッ!」
 その声が、戦っているのは自分達だけではないという当たり前の事を教えてくれる。呼応するように、次々と上がる魂の叫び。七七式は、自分もここにいる! そう伝えたくて天を仰ぐと、クロスさせたゾディアックソードに重力を込め、宝玉封魂竜に飛びかかった。

「おい、見ろよ、敵の様子がおかしいぜ! 回復もままならないみてぇだ!」
「やったのねっ!」
 もう立てない胡蝶を下がらせながら、雪が鋼の拳を、結衣菜が姿を消して不意をつく。それに対する宝玉封魂竜達の動きには、統率の欠片もなく、為すがまま。
「ゲドムガサラ、撃破デスネ!」
 七七式の声に宿るのは、確信。スローモションとなった七七式の世界は、最早彼女の思い通り。
「皆さんにいい報告を!」
「当たり前だ! 待ってろよ、皆、お姫さん!」
 劣勢だった宴によって張られた雷壁は、今や宝玉封魂竜の攻撃を物ともせず。玉虫色のエネルギーと共に跳躍したククロイの跳び蹴りが、叩き込まれると――。
 他班と連動した一斉最後の力を振り絞った反撃も相まって、宝玉封魂竜の軍勢を崩壊へと導くのであった。

作者:ハル 重傷:植田・碧(紅き髪の戦女神・e27093) 巡命・癒乃(白皙の癒竜・e33829) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月6日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 2/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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