智龍襲来~群竜行路

作者:黒塚婁

●智龍襲来
 螺旋忍法帖防衛戦の結果、螺旋帝の血族『緋紗雨』を保護する事に成功した――もう一人の血族、『亜紗斬』の所在は不明だが、成果としては充分だろう――言って、雁金・辰砂(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0077)はケルベロス達を見た。
「だが螺旋帝の血族『イグニス』と同盟関係にあるドラゴン勢力が『緋紗雨』を奪還すべく動き出した――かの刺客の名は、智龍『ゲドムガサラ』」
 かのドラゴンの詳しい説明は省略するが、その名に聞き覚えのあるものもあるだろう――彼は続ける。
 ゲドムガサラはその秘術により緋紗雨の居場所を特定する事ができるらしく、まっすぐに『緋紗雨』を目指し進撃してくる――それが引き連れるのは、『宝玉封魂竜』の軍勢である。
 宝玉封魂竜は定命化で死に瀕していたドラゴンを、ゲドムガサラが『宝玉封魂法』で無理矢理延命した存在だ。
 本来なら死亡している状態であるためか、その姿は骸骨のようになっているが、戦闘能力は変わらぬようだ。
 問題となるのは、その数――あまりに巨大な軍勢ゆえ、市街地での防衛戦では大きな被害が出てしまうのは間違いない。
「よって、エインヘリアルによって要塞化されていた『飫肥城』で迎撃する作戦を行う事となった」
 淡々と辰砂は告げる。言葉にせずとも、その微妙な眉加減がまたしても真の籠城戦か、と語っていた。
「兎角、宝玉封魂竜は数が多い。難攻不落の飫肥城をもってしても防衛は儘ならぬだろう。しかし奴らはゲドムガサラが指揮を執らねば、戦闘能力を発揮できぬという欠点がある」
 つまり、前衛の宝玉封魂竜を撃破した後、敵本陣にてゲドムガサラを撃破、或いは撤退させる事ができれば、残る戦力を駆逐できる――逆に、それを為さねば、無数のドラゴンと戦い続けるという絶望的な状況が続くのだ。

 さて、貴様らに倒してもらいたい宝玉封魂竜だが――辰砂はそう切り出す。
 前衛の一翼、それは数多の魔法を喰らったもの。
 外見は他の宝玉封魂竜と変わらず、骨と朽ちたドラゴンであるが、いくつか色の違う宝玉を持ち、それが魔法を蓄積している。
 先にそれらを砕くことは出来ないが、攻撃の予兆をそこから見て取れるやもしれぬ、と辰砂は言う。
 知性は衰えているが、戦闘能力においてはかつて戦ってきたドラゴン達にひけをとらぬ――むしろそれゆえに、ただ暴虐に力を振るうならば、厳しい敵という見方もあるだろう。
「敵は智龍ゲドムガサラ……一筋縄ではいかぬ相手だ。のみならず、宝玉封魂竜も常に押し寄せる状況となる。全体を通し如何に戦うか、無策ではままならんだろう」
 準備を怠らぬよう――辰砂は最後に警告し、説明を終えるのだった。


参加者
繰空・千歳(すずあめ・e00639)
ネロ・ダハーカ(マグメルの柩・e00662)
嵐城・タツマ(ヘルヴァフィスト・e03283)
アリシスフェイル・ヴェルフェイユ(彩壇メテオール・e03755)
ビーツー・タイト(火を灯す黒瑪瑙・e04339)
一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)
ハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)

■リプレイ

●開戦直前
 飫肥城の周囲を包む張り詰めた空気。緊張と、闘志と、それ以外の様々なものが渦巻く戦場であった。
「ちょっと離れてる間に、どいつもこいつもケツに火が点いてるな。楽しくなってきたぜ」
 嵐城・タツマ(ヘルヴァフィスト・e03283)が口の端を歪める。
 よもや螺旋忍軍との戦いから、ドラゴンが駆り出され――それも名あるドラゴンまで出向いてくるとは、誰が想像しただろうか。
「堪え忍ぶより、脅威を討ち払う方が性に合ってるわ」
 複雑な心を抱いて、アリシスフェイル・ヴェルフェイユ(彩壇メテオール・e03755)は剣の切っ先を見つめつつ零す。
「闘う相手に不足無し、なんてところかしら」
 気合いを入れて最後までやり抜きましょうか、繰空・千歳(すずあめ・e00639)がそんな彼女に穏やかに声を掛けると、ちりん、と涼しげな音がした。傍らでミミックの鈴が、ぴょんと跳ねたのだ。
「おう、やる気だな」
「私達も負けられないですね」
 ハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)が親しみを込めつつ声を掛けてくる横で、嫋やかに一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)が微笑む。
 尾に白橙色の炎を灯すボクスドラゴンを傍らに、静かに待つビーツー・タイト(火を灯す黒瑪瑙・e04339)は、前に出たメルカダンテ・ステンテレッロ(茨の王・e02283)に釣られ、空へと視線を向けた。
 彼女の青い瞳が捉えていたのは、空を覆う暗雲。
 よく見れば、それは羽ばたく骨の竜の群であった――大規模な作戦であることは重々承知であれど、圧巻の光景であった。
 そこから何体かの竜が離れ、それぞれの方角へと散開した。向かってきた先兵は、凄まじい速度で、あっという間にその容貌が確認できる距離に迫る。
「さあ、出番です」
 物怖じを知らぬ不遜な声色でメルカダンテはケルベロス達へ告げる。
 到来を告げる突風と共に、現れた宝玉封魂竜――赤い宝玉は左爪に、青い宝玉は右爪に、緑の宝玉が額に埋まったそれは、聴いていた個体に違いない。
「朽ちし竜よ、黄泉路へ手引を致そう。疾く参られよ――ここには既に、竜の居場所は無いのだから」
 ネロ・ダハーカ(マグメルの柩・e00662)が誘うままに、それは骨の顎を裂けんばかりに開くと、虎落笛のような咆哮を上げながら襲いかかってきた。

●前哨戦
 掲げた赤い宝玉が輝くや否や、ケルベロスの頭上に獄炎が広がる。
 生命を脅かす炎に対するは、希望を与える臙脂の炎。
「不死鳥よ、我等に聖なる加護を…!」
 ビーツーとボクスが放った炎が、大地に巨大な魔法陣を描く。
 足止めとなるべく真っ先に敵の前に飛び込んだのは鈴で、見送る千歳は、鮮やかな橙に光る大地の上、ガトリングガンのように変じた鋼の腕で炎を振り払う。右手で押したスイッチが、後方で鮮やかな爆風を生む。
 戦場を彩る様々な色――それらを一瞬にして、塗り上げる圧倒的な青。
 時間、空間を無視して降り注ぐ燐光で、その場は区切り、支配される。
「ようこそ、わたくしのくにへ」
 仲間達に向け、メルカダンテが招くよう手を広げて囁く。感情の起伏に乏しい彼女だが、その意志は確固として存在している――守る、と。
「行くわよ!」
 アリシスフェイルが先陣を切って、地を蹴った。
 一足の跳躍で竜の頭上まで及び、流星の煌めきが斜めに走る。軽やかな動きではあるが、重力を宿した蹴撃はかなりの重さだ。
「意外に素早いのね」
 だが、彼女は僅かに眉を顰めた。相手は素早く頭を下げて、凌ぐ――しかし、無造作に構えたハンナがその先に待つ。
「ちょいと揺れるぜ」
 言い放つと当時、スーツに包まれた黒い脚が美しい孤を描く。
 隙の無い回し蹴りは、骨だけの頭部を激しく揺らす――が、それは反動を利用し、ぐるりと転身し、ハンナの脇を尾で薙ぎ払おうとする。
 それは目的を達する前に、不思議な軌道で吹き飛ばされた。しなり、元の位置に戻ってきた骨の尾は空を掻く。
「……捉えました」
 砲撃形態に変じたドラゴニックハンマーを構えたまま、瑛華が微笑している。
「あの程度、喰らっても大丈夫だったけどな」
「あら、それなら避けてくれる方が助かるけど」
 相棒のつれない言葉に小首を傾げて受け流しながら、それへと視線を向けると、竜は何事も無かったかのように上半身を起こし、次の挙動へと移ろうとしていた。
 オウガメタルの装甲を纏ったタツマが距離を詰める。竜は身体を反転させるように捩って、相手を近づけさせまいとした。確かに、彼の一撃はそれによって芯を捕らえ損ねた。
 しかし知性も何も無い――それがシンプルに強さに繋がることもあるだろうが――雑な対応に、やれやれ、と彼は呆れる。
「身体も脳ミソもまともじゃなくなって、そこまでして死にたくないもんかね……。こいつらにとっちゃあ身につけた力こそがすべてか」
「削ぎ落とされた果て、この姿が本能ならば……竜とて生物だったということだ」
 喰らった魂を憑依したネロが嘲るように囁いて、繊手を向ける。
 炎の尾を燃やしながらドラゴンの幻影が、宝玉封魂竜へと食らいつく。炎に包まれながら、ひゅうと喉を鳴らして天を仰いだそれの、額の宝玉が鈍く輝き始める。
「前か後ろか……来るぞ!」
 吼えるように警告するは、ビーツー。
 戦場に破裂音と目の眩むような閃光が落ちる。
 真下――オーラで練り上げ作った、飴色の華を集めた盾を斜めに掲げ、千歳は涼しげに告げた。
「こんな程度じゃ、私達は砕けないわよ?」

 炎が追い詰め、雷撃が加護を破り、時に巨大な氷柱が降り注ぐ。その最中をケルベロス達はかいくぐり、誰も欠く事無く、一手一手を深めていった。
 脚を奪い、守りを削ぎ――証左とばかり、それの躰は至る所に亀裂が走って、今にも崩れ落ちそうな箇所がいくつもある。
 片やケルベロスは守りを堅め、狙いを高め、威力を上げる。
「無駄です。おまえはもう動けない」
 メルカダンテが憐れむようにそれに告げる。彼女が起こした色彩豊かな爆風に、オウガ粒子が混ざって更に鮮やかに光輝く。
「さあ、畳みかけるのだ!」
 ビーツーの言葉に頷いて、皆が一斉に攻め上がる。
 もう殆ど回避できぬ竜は容赦のないグラビティの雨を、ただ受け止めるしかない。
「青が来ます!」
 されど、そのままやられはしない。右爪を弾くような仕草に気付いた瑛華が、注意を促す。相手の守りは重点的に削いできたが、攻撃に関しては漫然と受け止めるには危険な儘だった。
 咄嗟、タツマがバスターライフルから一筋の光線を放つ――それと、巨大な氷柱が生成されたのはほぼ同時。
 私が請け負う、皆へ告げ、左腕を構えた千歳の前に、小さな影が飛び込んで来た。
 自身を守るよう構えた酒瓶のエクトプラズムを貫いて、鈴が砕ける――飾り鈴の音が悲鳴をあげたかのように激しい音を立て、消えていく。
 先程まで十全であった加護が破られていたから、万一を畏れ、身を挺して主を守ったのだろう。
「任せてって言ったのに……」
 その声音に、不思議と悲哀はない。戦場ゆえに仕方ないと割り切っている――だが、何も感じないわけではない。裡から湧き出す怒りに従って、千歳は竜へと駆けた。
 空の霊力を帯びたドラゴニックハンマーを思い切り振り上げ、突き出したままの右腕に、振り下ろした。相手は躱さない――躱せない。
 ミシリ、鈍い音がケルベロス達の耳に届き、全身に広がっていた亀裂が更に深く広がっていく。
 気付けばそこに、アリシスフェイルが既に左の剣を穿とうと詰めていた。
「――狂葬の翼」
 甲に黄と橙の光で編まれた翼を広げる竜の姿を浮かび上がらせた左手で、刺し貫く。
 応報の一撃は内部で力を解放し、それを裡から砕いた――傷付きすぎたその器では、耐えきれなかった。一気に形を失った竜は、戦場を舞う塵となり、消えた。
 数多の魔力を得てきたドラゴンの末路としては、皮肉なものであろう。
 だが、ケルベロス達にはそれへと思いを巡らせる時間はない――これはあくまで前哨戦に過ぎない。
「さあ、次の戦場へ参りましょう。ひとつでも多く墜とさねば」
 メルカダンテの青い双眸は、ただ前だけを見つめていた。

●死線
 待っていたのは、先程突出した一体を討ち取ったように、ひとつひとつを確実に屠っていく――という戦場では無かった。
「これ以上は通しませんよ」
 メルカダンテの放った炎で顔面を灼かれ、大きく仰け反ったそれの首を取ろうとハンナが光の剣で斬りかかったところへ、横から新手の宝玉封魂竜が突進してきた。
 回避できず、吹き飛ばされた彼女は罵声を放ちつつも健在であったが、逃すまいと瑛華が放った弾丸は空を掻いた。
 素早く旋回した竜の背後、傷付いた竜は退いていく――幾度となく繰り返されたことだ。
「チッ、また逃げやがった」
 額から流れる血を乱暴に拭い、悪態を吐くはタツマ。
 先程から、体力の半分程度削ったと思った個体はあっさりと撤退し、新たに――或いは回復が完了した個体が参戦してくる。
「時間稼ぎは向こうも同じってか」
「数の利をちゃんと理解しているのね」
 指揮官の采配が続く限りだろうけれど――アリシスフェイルも口内に溜まった血を吐き捨てながら、新手を見据え、ぽつりと零す。
「私、ドラゴンは嫌いなのよ……魂への刷り込みかしら」
 そんな相手に戦場で翻弄されるなど、全くもって忌々しい。
 ゲドムガサラがある限り、宝玉封魂竜たちは統率をもって攻城してくる。
 攻撃が激しくなりそうな場所の守りに就いた彼らは、ほぼ万全な敵と対峙することとなる。彼らがここまで揃って戦えているのは、ひとえに防衛に対して強い意識をもった編成だったからであろう。
 ひとたび判断を誤れば、或いは守りの一翼でも失えば、一気に崩れてしまうだろう危うい戦いだ。何せ、竜は視界の限り連なっている。
 この絶望を端的に表現したような戦場において――藍色の瞳を爛と輝かせるは、夜の娘。
「――ネロは、こういうのが愉しくて好きだ」
 それが強がりではなく本音であることは、彼女の表情を見れば明らかだ。
 美しいヴェールが破れようと構わず、舞うようにエクスカリバールを振るい、竜の爪や尾を凌いでいる。
 勝色に光る鱗で迫る爪を弾いたビーツーは、薬液の雨を降らせながら、果敢に同胞に挑む相棒に視線を向ける。小さな身体はもう限界に近い――回復に転じても、蓄積したダメージを消す事はできぬ。
 もうどれほど戦っただろうか。
 誰もが傷を負い、埃まみれになり、疲弊している。
 それでも表情には疲労の色を微塵も見せず、メルカダンテは不遜に放つ。
「邪魔は許さん」
 彼女は既に竜の頭上。流星の輝きを纏い、飛来する。
 重力に囚われ蹌踉けた竜へ、雄叫びをあげながら、鋼を纏ったタツマが拳を振り抜く。
 無防備な状態で横っ腹を穿たれたそれは傾ぎつつ、何とか首を動かし、強烈な炎を吐いた。
 その炎の前に身を投げ出すは、火山の属性持つボクス――白橙色の炎はそれに呑み込まれ、消えていった。
「……お前の分まで戦いきろう」
 相棒から最後に受け取った炎の力を合わせ、ビーツーは仲間を守るための炎を全身から放つ。
 陽炎揺らめく戦場に、更に竜が増える――。
 激しく肩を上下させながら、貌を無造作に拭ったハンナは、ふと背にぬくもりを感じた。振り返り確かめなくても、わかる気配に口の端を歪める。
「よお、瑛華。真っ黒に煤けて綺麗な顔が台無しだぜ」
「ハンナこそ。自慢のスーツが散々になってるわよ」
 背中合わせに構える瑛華と、軽口をたたき合う。それぞれに異なる印象を与える笑みを浮かべ、同時に地を蹴る。
 折れそうな肢体から想像もつかぬ重力を乗せた強烈な蹴撃に揃え、オーラの礫が竜の額を弾く。一体の危機に次の竜が滑りこんでくる――無防備なハンナの背に振り下ろされる骨の尾を、金属の腕が抑え込む。
 鈍い音を立て軋み、いくつかのパーツが破損した――それでも、涼しげな表情で千歳は敵を見つめる。
「残念、後ろへ攻撃は通させないわ」
 破壊された左腕はまだ動く。それ以外の四肢もまだまだ力が漲る。例えそれが、死地にあるが故に昂揚によるものであったとしても。
「千歳から離れなさい!」
 友を案じてアリシスフェイルが叫び、炎を巻き上げれば、ネロが放ったバールが敵の片翼をへし折った。
 そして、次の竜が現れる。そいつは不思議と、首に大きな傷を残している手負いであった。
 だが、それを怪訝に思う間もなく――ごう、と全ての音を掻き消す突風が吹いた。
 横脇から、巨大な骨の顎がタツマの身体をいとも容易く掠った。肩を、胸を、食い込む牙の痛みより、それで戦えなくなる傷を負わされたという事に、彼は奥歯を噛みしめる。
 ――此処で終わりかよ、情けねえ。
「釣りはいらねぇ、遠慮せずくたばれ!」
 自分への怒り、動かぬ身体への怒り、それらも纏めて叫べば、何とか動いた。
 自身のグラビティ・チェインや奪ってきた敵の魂を強引に纏めて結晶化したそれを、拳と共に叩きつける。
 内側で爆ぜたそれが竜の頭部を粉砕したことで解放されるも、悪態ひとつ吐き捨て――タツマは膝をついた。

●骸の群
「此岸に憾みし山羊に一夜の添い臥しを、彼岸に航りし仔羊に永久の朝を、」
 ぐにゃり、それが歪に縊られ――捩り切る。
 贓物がないゆえ、それは不格好なオブジェのようでもあった。
「――ネロの前に跪け、竜よ」
 夜の娘がそれを解放すれば、ばらばらと崩れ落ちる。巨大な力に潰された骸は無惨なものだった。
 その場で一度ステップを踏んで、鮮やかに孤を描いたハンナの脚が、竜の顎を砕く。そのまま崩れゆく白煙の中、瑛華が拳を振るって別の竜を仕留める。
 ――流れが変わった。千歳は確信する。
 死にかけた竜が撤退せず、治癒を得意とする竜が効率的に機能していない。こうして、死する竜も増えてきた。
 アリシス、彼女が小さく友の名を呼べば、わかっていると頷いたアリシスフェイルの薄灰が音を立てた。
 ビーツーが送ったオウガメタルの輝きを纏い、詠唱と共に、彼女は走る。
「金から水銀に至り、血を啜りて破滅を望め――」
 蝶の羽が黄と橙の光で輝き、竜の翼となって加速する。
「抱く蒼星、竜の悪夢、――Nemo me impune lacessit.――狂葬の翼」
 最後の一体まで狩り尽くしてやろうといわんばかり、彼女の金の瞳は明るく輝いた。
「さあ、行くわよ」
 開戦の頃に告げた台詞を再び、嚆矢として放ち。攻勢に転じる。

 後に響く破壊の轟音は、竜を打ち砕いていく。流星のようにグラビティが煌めき、ひとつひとつ丁寧に屠っていく。
「……ああ、滅びの音がする」
 それを聴きながら、ネロは目を瞑る。恐怖を知らぬ竜と、竜を恐れぬケルベロスと。
 全てでは無いが大多数の終わりが訪れるまで――双方、戦い続けたのだった。

作者:黒塚婁 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月6日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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