智龍襲来~先々の先

作者:譲葉慧

 新たな脅威来たる。ケルベロスが螺旋忍法帖防衛戦を乗り切り、螺旋帝の血族『緋紗雨』を保護したのも束の間、緋紗雨の身を狙う者が襲来するという情報が入った。
 螺旋帝の血族となったイグニスの差し金によるものだ。彼はドラゴン勢力と同盟を結び、ドラゴンの大群を差し向けて来るという。
 息を吐かせぬ情勢に、ヘリポートには多数のケルベロスが集っている。マグダレーナ・ガーデルマン(赤鱗のヘリオライダー・en0242)は、その中に立ち混じり、迎撃作戦の参加者を募っていた。
「智龍『ゲドムガサラ』とその手勢が竜十字島から襲来する。防衛作戦に参加する者はいないか? 危険な作戦だが、ここで緋紗雨を攫わせるわけにはいかないのだ」
 マグダレーナは耳を傾けてくれたケルベロスに向かって、感謝の印にかるく頷いてみせてから、話を続けた。
「ゲドムガサラは、緋紗雨の居所を知る術を持っていてな。手勢の『宝玉封魂竜』どもを引き連れて、竜十字島から真っ直ぐ向かって来る。だがそれは、こちら側が迎え撃つ場所を選べるということでもある。迎撃作戦の戦場に選定されたのは飫肥城だ。エインヘリアルが要塞化していたな。防衛にはうってつけだろう」
 プリントアウトした飫肥城の写真や図面をケルベロス達に見せるマグダレーナに、ケルベロスから『宝玉封魂竜』について問う声が上がる。
「『宝玉封魂竜』とは、定命化で死す寸前を、秘術で生きながらえさせた竜のことだ。見てくれは、宝玉が埋め込まれた骨の竜。ほぼ元の戦闘能力を保持している。戦う相手の詳細については、後ほど説明しよう」
 ドラゴンの脅威はその身で知る者も多い。見せられた飫肥城の図を参考に、早速対竜防衛布陣について論じようとするケルベロスを、マグダレーナは一旦留めた。
「飫肥城は守りに優れた地ではあるが、防戦一方というわけにもいかないのだ。宝玉封魂竜の数が多すぎる。だが、智龍の秘術にも破れはあってな。ゲドムガサラの直接指揮なしでは、宝玉封魂竜どもの力はがた落ちとなる。先鋒の宝玉封魂竜を撃破した後、本陣のゲドムガサラを討つのだ。奴を撃破した後ならば、飫肥城の大掃除もはかどるだろうて」
 早期に先鋒宝玉封魂竜を制し、ゲドムガサラに挑む。それが叶わなかった場合、先んじた他のケルベロス達がゲドムガサラを撃破するのを信じて、多数の宝玉封魂竜と戦い続けることとなるのだとマグダレーナは言い添えた。
「私に予知できたのは、最初に戦うことになる宝玉封魂竜1体のことだけだった。その後、いかなる戦況でも対応できる備えはしておいて欲しい。相手はデウスエクス最強とも言われるドラゴンなのだからな」
 いくら備えても備えすぎということはないぞ、と念を押してから、マグダレーナは予知で見えた宝玉封魂竜について、語り始めた。
「見えたのは幻の炎を操る者だ。骨の体をうっすらと炎が覆っているように見える。埋め込まれた宝玉も同様だ。奴が繰り出す骨翼の斬撃は、傷口を幻炎で焼灼し回復しづらくするし、口から幻炎を吐いて来る。しかも奴自身は幻炎で回復する……というわけだ。厄介だろうが、まず此奴を倒さねば、道は開けない。よろしく頼む」
 マグダレーナがそう言ったところで、一陣の風が吹き抜けた。離陸していったヘリオンの起こした風だ。管制より離陸許可の合図を受け、マグダレーナは搭乗口を開いた。
「ゲドムガサラの目的は緋紗雨だ。当作戦はゲドムガサラ撃破が目的だが、飫肥城防衛に徹し緋紗雨を護る者も必要だろう。戦場でどのように在るか、それはお前達次第だ、戦士達よ。だが、皆、無事で還ってきてくれよ……では、出発する!」


参加者
三和・悠仁(憎悪の種・e00349)
アリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426)
シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)
リディ・ミスト(幸せ求める笑顔の少女・e03612)
七星・さくら(日溜りのキルシェ・e04235)
コンスタンツァ・キルシェ(ロリポップガンナー・e07326)
ヴァルカン・ソル(龍侠・e22558)

■リプレイ


 螺旋帝の血族『緋紗雨』を狙い、智龍ゲドムガサラが動く。緋紗雨を守りつつ迎撃する地として選ばれたのは守りに優れた飫肥城だ。ゲドムガサラ麾下の宝玉封魂竜達の攻撃に耐えつつ、隙を突きゲドムガサラへと至り倒す。
 緋紗雨を奪われれば、螺旋忍軍のゲートがドラゴン達に掌握され、いつか巨大なドラゴンの地球侵略口とされるはずだ。その脅威は計り知れない。この戦い、敗北は許されなかった。
 飫肥城上空から、次々とケルベロス達が降下している。たった今降下した8人は街中へと駆けてゆく。彼らは先陣の宝玉封魂竜を突破し、ゲドムガサラの首を狙う心算だ。
 そして、程なく彼らは飛来する宝玉封魂竜の先陣と遭遇した。ゲドムガサラへの道を切り開くには、これを撃破しなければならない。宝玉封魂竜も、ケルベロス達の姿を認めるや、排除のため降下して来る。
 宝玉封魂竜は、個体ごとに多少の差異はあるが、骨と化した身体に宝玉が埋め込まれているという外見は共通している。それは定命化により死に瀕した命を秘術で無理矢理長らえさせたが故なのだという。
 降り立った宝玉封魂竜は、骨の身体に薄く幻炎をまとっている。それは燃え盛る炎ではなく、火種を失い消え去りつつある炎と見えた。
「宝玉竜さん……その様なお姿になってまで……せめて私達の手で、安らかに……」
 死の定めに捉えられた竜の姿に、アリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426)は心痛ませながらも身構えた。戦士ならば、ゲドムガサラの傀儡として生き続けるよりかは、戦場で力尽くして散る方が本望であるはずだ。
 アリスはオウガメタル『ハート・オブ・プラチナ』の力を借り、その輝きで竜に接して立つ仲間を包み込み、彼らに一歩先の手を見抜く研ぎ澄まされた感覚をもたらした。
 彼女の言葉に応じるかのように、幻炎竜は咆哮した。その声色には己をこの様にした地球とその民と、そして運命への怒りと呪いが満ち満ちている。
 負の感情を吐露した幻炎竜は、アリスをはじめとした、距離が離れた3人に向け、幻炎を吐いた。
 その半ば透き通った炎が彼らを包み込むかと思われた瞬間、人影が身を割り込ませ、その身で炎を受け止める。あたかも1人のように見えるその人影は、実は寄り添う2人のものだった。ヴァルカン・ソル(龍侠・e22558)と七星・さくら(日溜りのキルシェ・e04235)だ。
 2人共に守りの構えと防具の相乗で、幻炎の勢いは相当削がれているようだ。幻炎竜との間合いを測るため動く2人の瞳がお互いを捉えた。
 いとし気に妻を見るヴァルカンは、心の中で少しだけ、苦笑いした。結婚して初めての共同作業が、よりにもよってドラゴン退治だとは。相手は衰えに衰えた身体を秘術で維持しているとはいえ、デウスエクス最強の一角、ドラゴンには違いない。危険すぎる共同作業だ。
 さくらは己の横顔を見つめるヴァルカンの眼差しに淡く頬を染め、目を伏せた。戦場でいつも見るのは彼の広い背だった。でも肩を並べる今日は、見上げると彼の横顔が見える。浮かんでいるのは決然と前を見据える表情。彼は戦に臨むとき、こんな表情をしていたのだ。目を上げたさくらの眼差しとヴァルカンのそれが交差する。そこには口に上る言葉はない。
(「夫を支えるのは妻の役目よ」)
(「妻を守るは夫の役目」)
 支え合う2人は、幻炎竜の至近へと距離を詰める。正面から竜の間合いに飛び込む2人に、シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)は少しだけ危ういものを感じて、声をかける。
「さくらさん、ヴァルカンさん、無理しちゃだめだよ」
 新婚の2人には共に無事で帰還して欲しい――シルはエアシューズで幻炎竜の側面へ滑り込み、その横腹に強かに火花散らす蹴りを叩きつけた。痛打に骨が軋み、火花が引火し炎と燃え盛る。それは幻炎と明らかに異質の、真の炎であった。幻炎竜は叫びを上げ、殺意の篭もった目でシルを睨めつける。
 大丈夫、怖くない。離れていてもあなたが一緒だから。シルは視線を撥ね付け、左手の指輪をそっと撫でた。同じ指輪を嵌めた彼女と、魂はいつも、いつまでも繋がっている。
「シルちゃんも待ってる人がいるんだから、無理しないでねっ」
 リディ・ミスト(幸せ求める笑顔の少女・e03612)はシルとは逆側から攻め入った。とは言え、この幻炎竜を手早く仕留めなければ、ゲドムガサラへ至れない。ヴァルカンとさくら、シルだけではなく、仲間全員が前のめりで幻炎竜へ攻勢をかけている。勿論リディもそうだ。
 リディは鋭い縁を持つ骨翼に向けて、時留めの力を発現させる。かつて時空の調停者と呼ばれたオラトリオ達が持っていた力の一端に過ぎないが、それでも幻炎竜周りの時空に干渉することはできる。時の淀みに囚われ、動きを止めようとする身体に幻炎竜は抗いながら戦うことになるのだ。
 骨翼を振るうため、間合いを測る幻炎竜の足元に、遠間から狙いすました砲撃が相次いで着弾する。アリエータ・イルオート(戦藤・e00199)と三和・悠仁(憎悪の種・e00349)の攻撃だ。放たれた竜砲弾は、被弾者の回避を妨げる力を持っている。
「竜砲弾の味は気に入っていただけた? お代わりは沢山ありますのよ」
 アリエータは砲撃を放ったドラゴニックハンマー『ルーンの棍棒』を幻炎竜に向けて構えて見せた。戦闘力に秀でたドラゴンに対抗するために、命中精度の高いアリエータと悠仁の砲撃で幻炎竜の回避を阻みつつ、シルとリディの高火力攻撃を叩き込む。それが基幹の作戦だ。
 ただ、砲撃一辺倒では動きを見切られる。手を変えるため悠仁はドラゴニックハンマーを収め、代わりに螺旋の力を練り上げ始める。先程吐きかけられ、彼の身体で燃える幻炎が、砲撃の動きで勢いを増していた。
 悠仁には幻炎竜の憎悪に燃える眼に見覚えがあった。他ならぬ自身の眼に宿る炎と同じだ。憎悪に駆られた竜の炎は、何もかもを焦がすほど熱いと思っていた。だが違った。幻炎からは熱を感じない。痛みもない。しかし炎は、確実に悠仁の命を糧に燃えていた。身体を舐めるように広がりゆく様は、一瞬悠仁に、妄執に取り付かれたような錯覚を与えた。だが。
 ――己が憎悪は幻の妄執如きで凌駕される程浅くはない。悠仁は一笑に付す。
 皆が間合いを測り攻撃の機を狙う中、間を縫うようにコンスタンツァ・キルシェ(ロリポップガンナー・e07326)は走り、高く跳んだ。両手の爆破スイッチをこれでもかと連打する。
「死にぞこないの竜に、引導を渡してやるっスよ!」
 幻炎竜の顔面付近で相次いで爆発が起こる。彼は驚いたように身を反らし、弾幕を骨翼で勢いよく切り裂き薙いだ。鋭い翼の斬撃はその先にいたコンスタンツァを捉える。音を立て、裂かれた傷口が幻炎に灼かれた。癒しの力を拒む呪いの籠った火傷だ。
 だが、それも織り込み済みだ。アリスの金色の髪で白い薔薇がふわりと花開く。そして彼女の祈りに応え、前衛の仲間達の周りに咲く白薔薇は、蕾から咲き誇る大輪へと変じてゆく。無垢な白は、禍を退ける浄めの力を仲間達に分け与えてくれる。そして癒し手たるアリスの力でコンスタンツァの火傷も消えた。
 幻炎竜は戦場のケルベロスを見渡した。炎を食らわせても、痛打を浴びせても怯まない彼らに、そして倍返しで反撃してくる彼らに、幻炎竜の眼は怒りの薪をくべられ、爛々と光った。まとう幻炎が呼応し勢いを増し、ケルベロスが嵌めた枷の幾ばくか焼き切れる。
「枷を外されたなら、また嵌めればいい。簡単なことですわ」
 アリエータは幾たび目かの竜砲弾を放つ。地を揺るがす振動が、幻炎竜の足元をも揺るがした。
「そうそう。わたし達は絶対諦めないから!」
 さくらも雷をロッドから一気に放出し、幻炎竜の胴を貫く。雷は骨と宝玉の身体に留まり、幻炎竜が動くたびに火花を散らし、その動きを阻害している。
 幻炎竜の回避能力と行動を阻み、効果的に攻撃を命中させつつ、幻炎竜を行動させないことで被害を減らす。仲間同志でグラビティを合わせることで実現させた戦術は、効果を上げていた。
「私達には時間がない。押し通らせてもらう!」
 ヴァルカンは走り込む勢いのまま、雷をまとう二刀で幻炎竜を柄まで突き通す。刃に削られた骨や宝玉の破片が散り、刀を引く際に再び斬られたそれらは半ばで折られ、こそげ落とされた。
 堅固な骨格の守りが削がれた。好機だ。次に幻炎か骨翼を繰り出される前に、地獄の鎖を屍の心臓に叩き込む。ケルベロス達の威力重視の集中攻撃が幻炎竜を襲う。
「……もう、何も、誰も、奪わせないよっ!」
 リディは再び時空を操る。それが威力と命中率とを量りにかけた最適解だった。創痍の幻炎竜は止まり始めた時の狭間に囚われ、その足掻きは、もはや時空の檻を破ること能わない。幻炎が薄れていき、遂に立ち消え骨の屍も形を失い崩れ落ちた。時空の檻は屍の竜の棺桶となったのだった。


「やったっス! 結構早くやれたっスね?」
 歓声を上げるコンスタンツァに、仲間達は同意の応えを返す。ゲドムガサラの元へ到達できるかは、この先の動き次第だ。悠仁は空を仰ぎ、宝玉封魂竜の姿を探した。
「宝玉封魂竜の飛んできた方へ向かえば、ゲドムガサラがいるのではないでしょうか」
「わたしもそう思うよ。さっきの宝玉封魂竜は、飫肥城から見ると……東側から来てたみたい」
 さくらの言葉にアリスも頷いた。
「ゲドムガサラさんに会う前に……お怪我している方はいませんか?」
 手短に応急の治療を終え、負傷度合いに応じ陣形内の立ち位置を交代した後、ケルベロス達は東へと向かう。
「第二陣の宝玉封魂竜が来るかもだから、見つからないように行こうねっ♪」
 リディは仲間達を先導し、人気のない街中を走る。遠くで交戦中らしき音が聞こえていた。第二陣と接敵したケルベロスのものかもしれない。そして……。
「……気付かれましたわ!」
 アリエータの視線の先に、一直線にこちら目がけて飛び来る宝玉封魂竜の姿があった。遮蔽物が少なく開けた場所を通った時に視認されたらしい。
「撃破するしかないな」
 ヴァルカンは仲間の盾たる者として大地を踏みしめた。アリスと悠仁も同じく、仲間達の盾として前に出る。
「さっきと同じに戦えば、大丈夫っスよ!」
「そうだね。みんな、回復なら任せて!」
 コンスタンツァとさくらは大事を見て、アリエータは引き続き、宝玉封魂竜から間合いを取っている。
「じゃあ、片づけちゃおうね!」
「誰も私達を止められないよっ」
 シルとリディは宝玉封魂竜の出鼻を強かに挫く一撃を繰り出すため、勢いよく駆けだした。
 その宝玉封魂竜は雷を操る個体だった。幻炎竜と同様に距離を取り仕掛けて来る。回避及び行動阻害で攻めるのは、ケルベロスと同じだ。そのため回復に手数を取られたが、戦況は幻炎竜とほぼ同様に推移した。火力重視の策が功を奏しているようだ。
 2戦目も早期に決着がつき、戦闘不能者もいなかったが、大きな不安要素は抱えていた。この竜は主に前衛を狙ったために、前衛の損耗が激しかったのだ。ゲドムガサラと交戦した時、攻め手のシルとリディにとって只の一撃が致命打となり得る。火力を担う2人が倒れたならば、決定打を欠き敗北するだろう。
 だが、それでもケルベロスは前進する。身体さえ動けば攻撃は出来る。生にしがみ付き、敵に食らいつく。ケルベロスとは、地球の民の守護者とは、如何なる戦況でも、全てを賭けてデウスエクスに挑む者のことを言う。彼らにとって、絶望は愚か者の結論にすぎないのだ。


 ゲドムガサラを求め、飫肥の街を走るケルベロスは、飫肥駅を越え、日南第一公園へ辿り着いた。街を抜けた他のチームの姿もある。
 公園グラウンドの方角から聞こえる激しい交戦の音を目指し、全速で駆けぬけた彼らがグラウンドで見たのは、果たして先行したケルベロス達がゲドムガサラと戦っている姿だった。しかし――。
 明らかに劣勢である。既に数人が地に伏しており、見る間にまた一人倒れた。このままでは彼らは撃破される。迷う暇は残されていない。視線を交わし、或いは頷き合い、その場の総勢40名程のケルベロスは、各々の得物を構えた。
「四精霊よ……契りを結び、智龍を砕く力となれっ!」
 シルは淡く光る魔法陣を描き出し、地水火風の精霊達を喚んだ。異なる性を持つもの同士の結合は、力の奔流を生む。加えて彼女は威力増加の為の追加術式を起動した。彼女の背に輝く光翼が発現し、力を得た魔法陣が一段と光を増す。放たれた大いなる力は、ゲドムガサラに叩きつけられる。
「誰も死なせたりしない。皆守ってみせるっ……!」
 リディのケルベロスチェイン『ハピネスグローリー』が獲物に食いつく猟犬のごとく、一直線にゲドムガサラへと伸びた。
「ゲドムガサラさん……貴方を……討ちます……!」
 ふわりと跳んだアリスは、彼女に良く似合う可愛らしいフェアリーブーツで、煌びやかに光る星型の気をゲドムガサラに蹴り込んだ。
「そろそろあなたも眠る刻限ね」
 アリエータはアームドフォートの射角を微調整し、最大出力で全砲門から斉射する。熱で赤く焼け付く砲門から放たれた弾は、ゲドムガサラに吸い込まれるように着弾した。
「ゴートゥーヘヴン!!」
 斉射で生じた煙幕を、コンスタンツァが巻き起こした竜巻がきれいに吹き飛ばす。竜巻は周囲の土をもうもうと巻き上げながらゲドムガサラに迫り、荒れ狂う風で丸ごと身体を呑み込んだ。
「四散し地獄へ堕ちろ……もとより地球に貴様の場所はない」
 暴風の次はうねりながら上空へと奔る氷の塊だ。悠仁の意思に応じ、それは突如真下へと方向を変え、雹の如くにゲドムガサラへ叩きつけられた。
「ね、痛いでしょ?」
 さくらは囁いた。紅い糸が彼女の傷口とゲドムガサラの身を繋いでいる。糸は幾重にも纏わりつき、絡みつき、痛みという名の絆をゲドムガサラに強いるのだ。
「智龍よ、お前が死を識る時が来た」
 次いでヴァルカンが畳みかける。彼は二刀で空を斬り裂いた。その閃きは、さくらの紡いだ紅い糸を道標として空間を渡り、ゲドムガサラの身でうつつへと現れ出で血の花を咲かせた。
 四方八方から放たれた遠距離からの一斉攻撃は、この軍団の首魁ゲドムガサラをして、怯ませるに充分だった。そして、ケルベロスにとっても、その一瞬の隙だけで充分だったのだ。
 倒れていたケルベロスが、魂の力で再び立ち上がり、仲間の支援を受けて奔り跳んだ。その刃は、ゲドムガサラの喉元に横真一文字に致命の一撃を刻んだのだ。
 ゲドムガサラは末期の一句を吐き、そして力を失った巨体が大地に崩れた。
 智龍死す。それはケルベロス皆で掴み取った結果だ。今見届けたその報を携え、8人は作戦の最後の仕上げ、残る宝玉封魂竜殲滅の為、飫肥城へと発った。

作者:譲葉慧 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月6日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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