●息つく間もなく
螺旋忍法帖防衛戦の結果、ケルベロスたちは地球に逃げ延びてきた螺旋帝の血族『緋紗雨』と接触。情報提供と提案を受け、緋紗雨を保護した。
「共に逃げてきたという『亜紗斬』さんの行方は分からないけれど、全体の成果としては十分なものよ。敵がすぐさま、次の手を打たなければならないほどにね」
ミィル・ケントニス(採録羊のヘリオライダー・en0134)は手帳に目を落としつつ、言葉を継いでいく。
「ケルベロスが緋紗雨さんの身柄を確保したことで、螺旋帝の血族『イグニス』と同盟関係にあるドラゴン勢力が、緋紗雨さんの奪還を狙って動き出したわ」
一軍を率いる刺客の名は、智龍『ゲドムガサラ』。
「ゲドムガサラは秘術によって緋紗雨さんの居場所を特定できるらしく、定命化で死に瀕していたドラゴンを『宝玉封魂法』で無理矢理生き延びさせた『宝玉封魂竜』というドラゴンたちを大量に引き連れて、竜十字島からまっすぐに向かってきているわ」
宝玉封魂竜は本来ならば死亡している状態であるためか、骸骨のような姿になっている。
彼らはゲドムガサラの指揮下にある限り、宝玉封魂竜になる前と同等の力を発揮できるらしい。
「なにせ大軍なものだから、市街地なんかで迎え撃てば大規模な被害発生は免れない。そこで、迎撃戦は天下の名城……エインヘリアルによって要塞化されていた『飫肥城』で行うことになったわ」
しかし如何に難攻不落の飫肥城といっても、押し寄せる宝玉封魂竜の群れから緋紗雨を守り続けるのは難しい。
「この戦いで勝利するためには、ゲドムガサラの直接指揮を受けない限り本来の戦闘力を発揮できないという、宝玉封魂竜の弱点を突くしかないわ」
具体的な作戦の流れとしては、まず敵の先鋒として来る宝玉封魂竜を素早く撃破する。
その後、敵本陣への切り込みを図り、成功すればゲドムガサラの首を狙う。ゲドムガサラを討ち果たせば、残る戦力を駆逐することも不可能ではないだろう。
「もしも切り込みに失敗したら、攻め寄せてくる宝玉封魂竜たちから飫肥城と緋紗雨さんを防衛する役目に回る、という感じね」
宝玉封魂竜たちは共通して、体内に宝石を有する骸骨化したドラゴンである。
だが、材料となった個体によって、能力・外見に多少の差異があるという。
「皆が最初に対する宝玉封魂竜は右腕が剣、左腕が斧、尾が鎌のようになっているわ。恐らく、様々な武器を喰らって進化してきた個体だったのでしょう」
先鋒を務めるだけあって攻撃に全霊を注いでいるが、力馬鹿というわけでもない。ケルベロスたちの中から手早く叩き伏せられそうな者や、自らにより脅威を及ぼそうとする者を見定めて、強力な一撃を見舞ってくるようだ。
それをまともに受けてはひとたまりもないが、しかし本陣への切込みを狙うなら、自己強化や相手の弱化ばかりに時間をかけてもいられないだろう。
幸いにして敵のグラビティは詳細が判明しているため、然るべき備えと戦い方を用意し、チームを組むことになったケルベロス全員で力を合わせれば、速攻撃破も成し遂げられるはずだ。
もっとも、ケルベロスたちが最初からゲドムガサラの撃破より、飫肥城の防衛に力を注ぐというのなら話は別だ。防衛戦に大切なのは、より長い間、万全の状態で戦い続けられるようにすることなのだから。
「……智龍ゲドムガサラは先の八竜襲撃を命じたドラゴン。そんな強敵が直々に出向き、作戦指揮をするというのだから、厳しい戦いになることは想像に難くないでしょう。悔いなく勝利を掴み取るためにも、皆の全力を尽くしてちょうだい」
ミィルは頭を下げ、説明を終えた。
参加者 | |
---|---|
シルク・アディエスト(巡る命・e00636) |
戦場ヶ原・将(ビートダウン・e00743) |
葛城・唯奈(銃弾と共に舞う・e02093) |
リコリス・ラジアータ(錆びた真鍮歯車・e02164) |
クーゼ・ヴァリアス(竜狩り・e08881) |
カッツェ・スフィル(黒猫忍者いもうとー死竜ー・e19121) |
柚野・霞(瑠璃燕・e21406) |
嶋田・麻代(レッサーデーモン・e28437) |
●迎撃
「忍者といえば城だよねぇ」
要塞化された飫肥城を振り返り、カッツェ・スフィル(黒猫忍者いもうとー死竜ー・e19121)がしみじみと零す。
「緋紗雨だっけ。ちょっと話してみたかったな」
「仕方ありませんね。危急の事態ですから」
リコリス・ラジアータ(錆びた真鍮歯車・e02164)が答え、薄笑いを浮かべた。
それにしても、まさかデウスエクスを――それも螺旋忍軍を統べる帝の一族を護って戦うとは。
奇妙な巡り合わせであるが、しかし為すべきことであるなら粛々と。
リコリスは表情を変えずに空を見上げる。
骸の姿をした竜の群れは、もう目と鼻の先。
「汚名……なんでしたっけ? 挽回とかそんな感じの。やらせてもらいますよ」
抜き身の刀を彼方に向け、嶋田・麻代(レッサーデーモン・e28437)が言う。
それは返上するものじゃないのか。誰かの囁きは、右から左。
麻代の思考は既に移ろい、函館で溜まった憂さをどう晴らしてくれようかとの一点に集っていた。
同じく、彼の地で苦杯を嘗めたカッツェも、蒼黒二振りの鎌を握る手に力を込める。
今度こそ。その決意を試すかのように、一頭の宝玉封魂竜が此方を見定めた。
「来るぞ!」
「こんなに楽しめそうなのは、砲竜とやりあったとき以来だ。 ……さあ、熱いバトルをしようじゃねえか! オープン・ザ・ゲート! フューチャライズ!」
一団の最前に立つクーゼ・ヴァリアス(竜狩り・e08881)に続いて、意気盛んに戦場ヶ原・将(ビートダウン・e00743)が言い放つ。
彼らの間を割って葛城・唯奈(銃弾と共に舞う・e02093)はリボルバー銃を抜き、撃ち出された銃弾が大地で跳ねて竜の片脚を穿った。
天から咆哮が返る。禍々しい光を湛えた二つの眼が、硝煙立ち上る銃の持ち主を見やる。
直後、竜の尾が伸ばされた。蛇腹剣のようなそれの先にある湾曲した刃は、唯奈を庇いに立ったクーゼの背から脇腹まで一息に裂く。
さすがはドラゴン。守勢に立つ者の生命さえ簡単に削ってくる。たとえ血肉を失っていても、デウスエクス最強種を自称するだけの力は健在らしい。
だが、その暴虐さに怖じけて退くわけにはいかない。
「後ろまでは通さないよ。俺自身の誇りにかけて……!」
クーゼは裂帛の叫びを上げ、痛みを吹き飛ばす。漲る戦意に煽られたかボクスドラゴン・シュバルツも哮り、己が持つ影の力で主の傷を僅かながら埋める。
呼応するように、宝玉封魂竜も大地へと降り立って吼えた。ぎりぎりと身体を揺さぶる耳障りな音。そこに詰め込まれた怨嗟と憎悪に触れて、シルク・アディエスト(巡る命・e00636)と柚野・霞(瑠璃燕・e21406)は異なる想いを抱く。
片や、死に怯えて行き着いた姿が、皮肉にも死と親しい骸であることへの嘲り。
片や、そこまでの醜態を晒しても生き永らえようとする、強情な姿勢への感嘆。
そして二人は、動きも二様に分かつ。シルクが脚部装備を唸らせ跳び上がり、流星の如く降って竜の頭蓋を叩き伏せれば、霞は瑠璃色の翼を翻して地を滑りつつ魔術書を紐解く。
断章を唱える声は将の耳から脳に染み入って、赤い瞳を竜の宝玉よりも強く輝かせた。
「そこだッ!」
切り札を叩きつけんばかりに荒々しく、けれども冷静に狙いすまして。
将は地を舐めるほどにまで頭を下げていた竜の領域へと飛び込み、超硬の籠手に包まれた指先で眉間を突いた。
衝撃が頭骨から全身へ波打つように行き渡って気脈を断つ。竜は一時ばかり彫像と化した後、首をもたげて荒れ狂う。
右の剣が空を裂き、左の斧が大地を抉り、鎌の形をした尾は幾度もうねって、喰らいつこうとする寸前の攻性植物を打ち払った。
(「腐っても……いえ、朽ちかけてもやはりドラゴンですね」)
眼力が示す値も些か心許ない。しかし欠片ほどの焦燥も見せることなく、リコリスは冷やかに敵を睨めつけて次の機会を伺う。
一方で竜は咆哮を止めず、あらゆるものを破壊し尽くさんと暴れ続ける。
その悶える様を遠巻きにして眺め、カッツェは邪な笑みを浮かべながら蒼色の鎌を振るった。
風を斬る音が鳴って大気が歪む。陽炎のような揺らめきが螺旋を描きつつ宙を走り、竜の懐で炸裂して広がる。
それは骨を余すところなく凍てつかせ、叫びまでも奪う――が、静寂は一瞬。空の霊力を帯びた麻代の刀が閃き、竜を死へと近づける代わりに啼き声を返す。
「図体の割に喚きすぎだぜ。……そんなんじゃ、こいつは避けられねーな」
不敵な面構えで言って、唯奈がまた引き金を引いた。
撃ち出される弾丸は、まるで見えざる何かに操られたように幾度も軌道を変えて骨の中に埋まる。敵を射殺すことに全神経を研ぎ澄ませた一撃は強力で、弾の小ささから想像し得ないほど竜の身体を震わせる。
そこに脅威を感じないわけがない。竜は忙しなく両眼を動かしていたが、程なく唯奈に視線を戻すと骨の斧を振り上げた。
しかし吹き荒ぶ暴力の嵐は、盾となることに意識を傾ける二人のドラゴニアンがボクスドラゴン一匹を交えて、代わる代わるに受け止める。
「やるじゃあ、ないかッ! だが、俺たちだって負けちゃあいない!」
またぞろ叩きつけられる骨斧に抗い、取り落とした刀をシュバルツから受け取って叫ぶクーゼ。
間髪入れずに伸びてきた骨剣にはカッツェが立ちはだかる。己の身体より大きな刃に斬り裂かれても何のその。少女は怯むことなく黒鎌を振るい、簒奪した生命で傷を僅かに塞ぐ。
無論、それだけでは竜を相手に立ち続けていられないだろう。二人が盾役として永らえているのは、魔術書を通じて借り受けた癒やしの力を行使する霞あってこそ。
それでも傷は積み重なり、いつ彼らの意識を途切れさせるかわからない。残る仲間たちは火力と正確性が最大限両立する手段でもって、猛攻を続けた。
将が飛び蹴りで動きを鈍らせた後、シルクが目にも留まらぬ速さで喉元を斬り抜ける。開いた傷口をリコリスが駆動式の刃で粗く削り、麻代が魔力弾を撃って黒く染め上げる。
あらゆる異常に蝕まれた竜の宝玉は次第に輝きを失って、もはや生命の尽きる間際であろうことを予期させた。
――このまま果ててなるものか。
最強種たる矜持に突き動かされたか、竜は応酬の果てに一際大きな咆哮を轟かせ、右腕を振り上げる。
それは狙い続けた唯奈から逸れ、幾度となく攻撃を阻んだ青年へと向けられた。
「っ……!」
恐らく、これは最期の一撃。凌げば一先ずの勝利が掴めるはず。
けれど仲間を庇うため最前に立つ身では躱しきれそうにない。クーゼは防御態勢を取りながらも覚悟を決める。
そして白骨の刃は迫り――僅かに外れて大地に刺さった。
土煙が舞って頬を撫でる。その中に混じる黒く小さな靄のようなものが何であるのか、クーゼはすぐに悟った。
「……全天穿て、雷天征路ッ!」
己を庇って消えた相棒の名を呼ぶ代わりに、声を張り上げ鍔鳴り響かせ、足踏み鳴らして翼で風切る。
それら全てが混じり合い、創り出された音は将やシルクに得も言われぬ高ぶりをもたらす。今なら討ち果たせぬものなどない。我等の行く道に敵はない!
「その暴威、ここで止めさせてもらいます!」
言葉遣いこそ穏やかなまま。けれど不死なる者への嫌悪から身の内に秘める凶暴性を剥き出しにして、シルクは敵の鼻先まで翔ぶと変幻自在のアームドフォートより弾丸を撃ち、着弾点に続けざま雷を放つ。
竜の剣が折れ、斧が砕けた。それでも牙の一欠片さえ残るなら抗おうと、吼えるドラゴンに向けて将が叫ぶ。
「フューチャーカード、ライズアップ! イルミナルセイバー……ドラゴンッ!!」
金髪赤眼の姿から変わって現れた竜が、最上段から大剣を振り下ろす。
両断された宝玉が砕け散り、骨竜は瞬く間に塵と化していった。
●継戦
無事に先鋒を屠ることはできた。
しかし、依然として戦場には宝玉封魂竜の群れが飛び交っている。
これを抜けて先に進むべきか、留まって防衛に臨むべきか。
……と、悩むほどの余力はあっても、既に機会が失われていた。八人全員が猪武者であったならともかく、突破以外も念頭に置くケルベロスたちは戦況を冷静に読む。
「防衛に回った方が良さそうだな」
「そうですね。……あちらの守りが、少しばかり手薄そうです」
将に答えて、霞が鎌で戦場の一角を指し示す。
ケルベロスたちは飫肥城に幾らか近づいたところへと陣取り、次の敵を迎え撃つため手早く態勢を整えた。
同じ盾役を務めても、やはり使役する者を有する差か。カッツェより疲労の色濃いクーゼが後方に下がり、代わってシルクと将が前衛に加わる。
それ以外の者は引き続き、初戦で受け持った役割を維持。
「あとはどれだけ耐えられるかが勝負だぜ」
「……よっしゃ! 目一杯楽しませてもらいます!」
将の言葉を耳にした麻代が、頬をぴしゃりと叩く。
それから程なく向かってきた竜は、これまた片腕を槍のように鋭く尖らせていた。
「――その歪んだ命、ここで終わらせて差し上げましょう」
竜の突撃を真っ向から受け止め、シルクが砲弾を返す。
やはり口振りは穏やか。けれど含む想いは熾烈で反撃は苛烈。しかし初戦から戦う姿勢を変えたことで砲撃の正確性が半減し、敵には思うほどのダメージを与えていない。
けれども、それでいい。とにかく当たればいい。現状で肝心なのは敵を倒すことでなく、自分たちが倒れないこと。
続いて撃ち放たれた雷が竜の身体に纏わりつき、動きを妨げて攻撃の勢いを削ぐ。間隙を縫って踏み込んだ将の籠手も狙い所から僅かに逸れたが、気脈の流れを確実に阻害する。
そしてリコリスの攻性植物から送り込まれた毒が、カッツェの生んだ氷結の螺旋を巻き込んで全身に及び、宝玉の色までも淀んだものに変える。
さすがに一体目よりは時間がかかったが、ケルベロスたちは何とか一人も膝を折ることなく、また竜を屠ろうとしていた。
「こいつを喰らいな!」
盾の合間を抜けた攻撃で多少傷ついたものの、精神的にはまだまだ余裕を覗かせて、唯奈が銃を撃つ。
弾丸は竜の宝玉を三分ほど砕き、竜はびくんと跳ねて頭を天に向けたまま止まる。
トドメを刺す絶好機。
「……さよならだ。先に冥府で待っていろ」
クーゼが二刀を構えて勢いよく振り、衝撃波を放つ。
――が、しかし。それは討つべき相手にまで届かなかった。
唖然とするケルベロスたちの前で、竜の啼き声が『二つ』重なる。
やがて手負いの竜は空へと帰り、新たに舞い降りて同胞を庇った竜は敵意を剥き出しに大口を開く。
ドラゴンの群れを相手取るとは如何なることか。
ケルベロスたちは此処に来て、相対する者たちの強大さを思い知った。
応酬の合間で戦場を見る限り、一度引き下がった宝玉封魂竜は回復を得意とする同胞に治療され、再び戦場へと舞い戻っているようだった。
ケルベロスたちを軽く上回る地力を有しているドラゴンたちに、そのような戦い方をされては。
さすがに僅かばかり、絶望が過る。
それでも戦い続けなければならない。先鋒を突破した仲間たちが、必ず智龍ゲドムガサラを仕留めると信じて耐え忍ばなければならない。
「――カッツェさん下がって! 私が前に出ます!」
麻代が叫び、答えを聞くまでもなく前衛に入る。
「まだ全然っ……あぁ、もう!」
さすがに三頭目ともなれば、盾で在り続けた少女の傷はおびただしい。消耗を感じていたカッツェは満足するほど魂を喰らえていないことに憤慨しつつ、後衛に下がると機を伺って氷結の螺旋を撃った。
竜の骨が微かに白く染まる。が、ほぼ万全といっていい状態の宝玉封魂竜から戦意まで奪い取ることはできず、反撃に炎が吹きつけられて前衛陣を焼いた。
それは程なく消え失せたものの、肉と髪が焦げる臭いが血煙と混ざりあって鼻につく。しかしその悪臭が、朦朧とするケルベロスたちの意識を、返って現世に繋ぎ止める。
「……危ねえ。うっかり投了するところだったぜ」
将は頭を振って、自身を鎧型の御業で包み込む。けれど傷の治りは悪く、否が応でも迫る限界を感じさせられる。
自分だけではない。既に盾役を務めたドラゴニアンの二人に、肩を並べているシルク。リコリスや霞など、まだ前衛に出ていないケルベロスたちですら無傷ではない。
最悪の事態となれば――。戦意は衰えずとも現実を見据えて、将やカッツェは敵との攻防を続けつつも、一時退くとすればどちらに向かうべきか考える。……と、そんな二人の思考を遮って聞こえる、突飛な声。
「そぉい!!」
何を思ったか。竜の爪先で身体を裂かれた麻代が、手にした刀で己の腹部を貫いていた。
空から新手が降ってきた時よりも衝撃的な光景。ケルベロスどころか宝玉封魂竜でさえ、その奇行に目を奪われる。
だが、麻代は不利な状況に気が触れたわけでも、何か責任を取ろうとしたわけでもない。
「――っぁぁぁあああ!」
激痛に絶叫が漏れるのと合わせて、腹部から地獄の炎が勢いよく噴き出す。
それはただ、この戦場で生き残るために『気合をぶち込む一撃』でしかなかった。
「痛い! 死ぬほど痛いです! けどこれだけ痛くても死なないんですから! まだまだ暴れられますよ!」
「……とんでもねぇ奴だぜ」
「えぇ……」
唯奈がぽつりと零した言葉に、辛うじて頷き返すシルク。
どことなく異様な空気が広がっていく。しかし当の麻代は嬉々とした表情で竜の前に立ち、身体に牙を突き立てられると再び己を貫いた。
そうして幾度か、麻代の身体から地獄が噴き上げた頃。
ケルベロスたちは相対する竜が、どれほど傷ついても退く気配を見せないことに気付く。
(「……ひょっとすると」)
二十数分もの間、ひたすらに癒やしの詠唱を続けていた霞は、戦場を見渡す。
まだあちこちに宝玉封魂竜の姿はあるものの、それらは全て傷だらけ。
同胞を庇おうと割り込む機会を狙っているようにも見えない。
「もしや――」
リコリスが何かを言おうとした時、目の前の竜が唯奈の銃弾を受けて砕け散った。
もはや疑うべくはないだろう。蠢く竜の骸から、脅威は感じられない。
それはつまり、指揮するゲドムガサラが死したことを意味しているのだ。
ケルベロスたちは痛みも忘れ、一挙に攻勢へと転じた。
「竜の命が、一番美味しいんだよねぇ!」
砕いた宝石の欠片を掬って、カッツェは恍惚に浸る。
「この鎌を墓標に、今日こそは永遠に眠りなさい」
それまで癒し手として働き続けていた霞も、鎌に虚の力を込めて竜を斬り伏せる。
やがて方々に転がっていた残骸から、リコリスが九つ頭の巨大な鋼鉄龍を作り出し、戦場の一端を地獄の息吹で薙ぐ。
そうして防衛から殲滅に移ったケルベロスたちは、それまでの鬱憤を晴らすかのように、宝玉封魂竜たちを残らず蹴散らしていくのだった。
作者:天枷由良 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年7月6日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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