智龍襲来~迎撃の番犬

作者:雨音瑛

●ヘリポートにて
 ケルベロスたちは、螺旋忍法帖防衛戦の結果、螺旋帝の血族『緋紗雨』を保護する事に成功した。もう一人の螺旋帝の血族『亜紗斬』の所在は不明だが、ひとまず充分な成果だったといえるだろう。
 だが、ウィズ・ホライズン(レプリカントのヘリオライダー・en0158)は顔を曇らせる。
「螺旋帝の血族『イグニス』と同盟関係となったドラゴン勢が、螺旋帝の血族『緋紗雨』を奪還すべく動き出した」
 日本に飛来する竜十字島からの刺客、その名は智龍『ゲドムガサラ』。ゲドムガサラは、秘術より『緋紗雨』の居場所を特定できるらしく『緋紗雨』を目指して真っ直ぐに進んでくる。
 ゲドムガサラは、『宝玉封魂竜』の軍勢を引き連れている。宝玉封魂竜は、定命化で死にかけていたドラゴンをゲドムガサラが『宝玉封魂法』で無理矢理延命させたドラゴンだ。
「宝玉封魂竜は、本来ならば死亡している状態のためか、その姿は骸骨のような状態だ。しかし、元のドラゴンだった時に準じる戦闘能力を保持している」
 ゲドムガサラと共に飛来する宝玉封魂竜は数多。市街地で防衛戦を行えば、大きな被害が出るのは間違いない。
「そこで、ゲドムガサラの軍勢を迎え撃つのに最も適した場所――エインヘリアルによって要塞化されていた、天下の名城『飫肥城』で迎撃作戦を行うことになった」
 螺旋帝の血族『緋紗雨』を保護して飫肥城に向かい、飫肥城にてゲドムガサラ率いる宝玉封魂竜の軍勢を迎え撃つ。それが、今回ケルベロス頼みたいことだという。
 とはいえ、宝玉封魂竜は数の暴力で押し寄せてくる。これでは、難攻不落の飫肥城をもってしても守り抜くのは困難だ。
「だが、智龍『ゲドムガサラ』が直接指揮しない限り、宝玉封魂竜はその戦闘能力を発揮できないという欠点がある」
 つまり、前衛の宝玉封魂竜を撃破したのち敵本陣に切り込み、ゲドムガサラを撃破できれば、敵の残存戦力を駆逐する事も不可能ではない。
 前衛の宝玉封魂竜1体を急ぎ撃破して敵本陣に切り込むことに成功すれば、ゲドムガサラとの決戦に持ち込める。切り込みに失敗した場合は、次々に攻め寄せる宝玉封魂竜から飫肥城を守ることになる。
「では、君たちが最初に戦うことになる宝玉封魂竜だが……」
 戦闘となる宝玉封魂竜は、骸骨の体の中に黒瑪瑙が見える個体。
 仕掛けてくる攻撃は3種類。毒のブレス、尾での薙ぎ払い、爪での攻撃。どれも威力は高く、油断はならない。
「宝玉封魂竜はドラゴンに準じる戦闘能力がある――激しい戦いとなるだろう。君たちの武運を祈る」
 そう言い、ウィズはケルベロスたちを見渡した。


参加者
メロゥ・イシュヴァラリア(宵歩きのシュガーレディ・e00551)
奏真・一十(寒雷堂堂・e03433)
茶菓子・梅太(夢現・e03999)
香坂・雪斗(スノードロップ・e04791)
アトリ・カシュタール(空忘れの旅鳥・e11587)
クレーエ・スクラーヴェ(白く穢れる宵闇の・e11631)
卜部・サナ(仔兎剣士・e25183)
曽我・小町(大空魔少女・e35148)

■リプレイ

●襲来
 骨の竜が、飫肥城に飛来する。智龍『ゲドムガサラ』が引き連れるそれらは、1体や2体では済まない。いわば『数の暴力』、その体現だ。
 飫肥城で待ち受けるケルベロスは、数では適わないかもしれない。
 しかしこの場に立つ者のひとり曽我・小町(大空魔少女・e35148)は、意に介さないというように軍勢を見つめる。
「来たわね、骸骨怪獣さん」
 体に黒い瑪瑙を埋め込まれた骨の竜――宝玉封魂竜はケルベロスたちに接近し、容赦なく尾で薙ぎ払った。
 直後に動いたのは、クレーエ・スクラーヴェ(白く穢れる宵闇の・e11631)。白い衣装に映える黒髪を揺らし、ゾディアックソード「Gladius de《Leo》」で星辰を描いた。
「戦艦竜から死にかけのドラゴン、そして今回の宝玉封魂竜……」
 仲間を加護する星の煌めきを見届け、歯噛みする。いくつかのドラゴンに関わってきたクレーエだは、今回はいつも以上に気を引き締めて。
 重なるは、奏真・一十(寒雷堂堂・e03433)のケルベロスチェインで描かれた魔法陣。
「……もとより苦戦は承知、怯む事などあるものか」
 出会い頭に前衛を襲った傷は、思いがけず深い。癒やし手の位置に着くボクスドラゴンの「サキミ」が、主へと水の属性をインストールする。一十が礼を述べても、つれない態度ではあるが。
 アトリ・カシュタール(空忘れの旅鳥・e11587)も、味方を護るべく雷壁を展開する。アトリに続きウイングキャット「グリ」が清らかな風を前衛へと届ければ、小町は九尾扇「冥闇黒華」から幻影を生み出し、メロゥ・イシュヴァラリア(宵歩きのシュガーレディ・e00551)へと付与した。
 メロゥは小さく礼を述べドラゴニックハンマーを構える。
 視線を移すと、隣にいるのは茶菓子・梅太(夢現・e03999)。彼と同じ場所に立っていると思うと、不思議とメロゥの気は引き締まる。
「……かっこ悪いところは見せられないものね」
「……? メロゥ、何か言った?」
「なんでもないわ。ほら梅太、メロに続いて」
 そう言って、メロゥは竜砲弾を放った。描く軌跡は確かに宝玉封魂竜を捉える。続く二つ目の軌跡は、星屑を交えた梅太の蹴撃によるものだ。
 ひときわ大きな打撃を与えたのは、卜部・サナ(仔兎剣士・e25183)の放った竜砲弾だ。加えて、香坂・雪斗(スノードロップ・e04791)の光線が宝玉封魂竜に浴びせられる。
 命中を確認し、雪斗は宝玉封魂竜を見る。骨や黒瑪瑙に走るいくつかの傷は、打撃を与えられている確かな証拠だろう。
 とはいえ、こちら側も無傷で済まない。誰もが理解していていることだ。
 戦いは始まったばかり。まずは目の前の宝玉封魂竜に注力を。それぞれが決意を胸に、確実に役割を果たそうと応戦する。

●砕ける石
 宝玉封魂竜の攻撃を、盾役のケルベロスやサーヴァントが時折肩代わりする。
「敵の掌中のようで些か気に食わぬ節はあるが……強固な盾たるべく尽力しよう」
 一十は帽子を軽く持ち上げ、仲間を見遣った。
 サナの日本刀「星火燎原」が雷の色を帯びる。駆け出し、突きを繰り出せば――。
「っ、早い……!?」
 切っ先は、寸前でかわされる。だが、すかさず雪斗がフォローする。
「サナちゃん、下がって!」
 雪斗の放った凍結光線が、宝玉封魂竜の一端を凍らせる。
 敵の体力を少しでも削ろうとするための攻撃。それを支えるのは、味方を癒し、加護を与えるグラビティだ。
 アトリが目をつむり、魔力を集約する。
「さあ、私達に守るための力を……!」
 アトリの魔力から、翡翠色の鳥が生成された。羽ばたき、飛び立った鳥は防備を高める力を分け与える。
「後ろを護るなら得意ってものよ!」
 小町もまた、後衛から攻撃を仕掛ける仲間のためにオウガメタル「蜃気籠」の輝く粒子を放出する。主の指示を受け、グリはひたすらに前線に風を送り込む。癒し、そして加護のために。
 ケルベロスに与えられた加護を打ち砕こうと、宝玉封魂竜は足の爪を一瞬で硬化させる。瞬間、クレーエの前にグリが立ち塞がる。
 思惑が外れた宝玉封魂竜は一歩下がるが、それを黙って見過ごすクレーエではない。エアシューズ「Ventus vero Tempestas」で蹴り抜き、宝玉封魂竜の動きを鈍らせる。
 響き渡る宝玉封魂竜の咆吼は痛みか苦しみか、もしくは異なるものか。
 メロゥは眉を下げ、宝玉封魂竜を見遣る。
「……つらいでしょう。すぐ楽にしてあげるから、待っていて」
 ファミリアロッドから、時空すら凍てつかせる弾丸を精製して。宝玉封魂竜を示し、命中させる。梅太が叩きつけた拳もまた、氷を伴って。
 サキミが雪斗を癒すのを見届け、一十は小さくうなずく。
「ここまでは順調だな。――はじめよう。君の為の膳立てだ」
 はじける、音に続くのは、一十流のもてなし。自身を含む前衛の耳に届いた音は、闘志を灼く破壊の意志となる。礼は不要と、一十は帽子を軽く持ち上げた。
 決して楽な戦いではない。宝玉封魂竜にとっても、ケルベロスにとっても。
 宝玉封魂竜は、ケルベロスを毒で侵そうと毒の吐息を浴びせかける。
 前衛を襲うそれらは、他の仲間が癒やせる。そう踏んだクレーエは、宝玉封魂竜に刻まれた傷を斬り広げる。続くは一十、パイルバンカーに纏わせた凍気が宝玉封魂竜の氷を増やせば、宝玉封魂竜の骨に亀裂が入る。
 好機、と捉えたのはサナ。太陽、月、星の力を剣に宿し、刃を輝かせる。
「お日様、お月様、お星様……サナに力を貸して下さいっ! ……日月星辰の太刀っ!」
 星占いを応用して放たれる斬撃は、今度こそ外さない。否、外れるわけがない。太刀筋は、宝玉封魂竜に吸い込まれるよう。
 サナの刃から光が消えれば、黒瑪瑙の宝玉封魂竜は無残にも砕け散った。
「やった……!」
 思わず、サナの顔に笑みが広がる。
 しかし、すぐに別の宝玉封魂竜がケルベロスたちに襲い掛かるべく飛来する。誰もが表情を引き締め直す。
「踏ん張りどころってわけね」
 小町が髪を払い、冥闇黒華を握り直す。
 宝玉封魂竜が迫るまでのわずかな間に、雪斗は左手の薬指を見つめた。
「無事に帰るって約束、守るからね。……絶対に」
 薬指に光る指輪は、大切な恋人からの贈りもの。雪斗は内側に刻まれた文字を思い描き、バスターライフルの銃口を宝玉封魂竜へと向けた。

●守るもの
 刃が、拳が、脚が。それぞれの武器や体が、襲い来る新たな宝玉封魂竜の体力を削る。
 それは、ケルベロスにとっても同じこと。事前に取り決めた体力以下になった者は後ろへ、後ろにいた者は前へと、位置を変えて応対する。
 後衛へと移動したサナは「御業」を放ち、宝玉封魂竜の動きを低下させる。
「ひとまずイグニスを倒すまでは、緋紗雨は仲間って事で良いんだよね。あの人、力を借りたいって言ってたもの」
 サナの言葉に、少しばかり首を傾げるのは小町。
「緋紗雨さんを全面的に信用って事も出来ないけど……ドラゴンさんが攻め込んできてる以上、あれこれ言うのは後にしましょっか。飫肥城防衛、きっちり務めさせてもらうわ!」
 小町は顔を上げ、声に音を乗せる。
「其は彼方の月の城――全てを拒む、魔女の城」
 月に住まう、全てを拒む白き魔女。歌い上げるは、白銀の城の物語。作り上げるは、危害を加えるグラビティを拒絶する力場。
 その加護を受けたのは、前に出た梅太だ。盾役を担いつつ、回復を主軸として動く。気持ちを切り替えるべく、呼吸をひとつ。初めての前衛に不安を覚えるものの、顔にも言葉にも出ない。
「……よい夢を」
 同じく前に出たメロゥを見つめ、幾ばくかの癒やしを与える。メロゥの眼前で、ふわり、くらげが揺れたような気がした。
 不意に、新たな宝玉封魂竜が襲いかかる。先ほどまで戦っていた宝玉封魂竜はいったん下がり、また別の宝玉封魂竜に癒やしを受けている。
「1体が撃破寸前になったところで、撤退を支援するための宝玉封魂竜が割り込んでくるみたいだね」
 これは厄介だと、クレーエが眉をひそめる。
「撤退した宝玉封魂竜は回復を受けて……また攻撃を仕掛けてくる……これじゃあ、なかなか撃破できないね……」
 梅太は、新たに襲い掛かってきた宝玉封魂竜を見つめた。表情こそないが、その心中は複雑だ。
 新たな宝玉封魂竜は爪を硬化させ、グリを切り裂いた。その一撃で、グリは消滅する。
 小町は眉根を寄せるが、すぐに首を振って宝玉封魂竜を睨むように見た。
「お城が怪獣さんに壊されるのはお約束って奴だけど。あたしのお城も、飫肥城も、そんな風にはさせない。護るって覚悟、見せてあげる!」
 響く声。それに同意するように、ケルベロスたちは攻撃を仕掛けてゆく。
 機動力を奪っては、確かに当てるように。氷を与えては、攻撃時に与える打撃を増やすように。
 前衛に接近した宝玉封魂竜の選んだ攻撃は、強かな尾による薙ぎ払い。訪れる痛みを覚悟したメロゥだったが、いくら待てども傷みも傷も訪れない。
 恐る恐る目を開けた先で、見たものは。
「二人分は、結構痛いね……」
 自身を庇い、その場に倒れ込む梅太だった。メロゥは梅太の腕を引き、後ろに下げる。
 オウガ粒子を後衛に捲き、小町は額の汗を拭う。
 戦えども闘えども、終わりは見えない。永久機関とすら思える、敵の連携。
「ギリギリまで、踏ん張らないとってやつね!」
 小町は額の汗をぬぐい、強気の笑みを浮かべた。

●落とせよ骨竜
 癒やしきれない傷が、増えてゆく。
 少しでも効率的に倒そうと弱点を見極めるべく観察しても、撃破寸前になればまた新たな宝玉封魂竜が訪れる。その度に観察を繰り返す――まるで、果てが無い。
「まさに消耗戦であるな。想像以上に厳しいものではないか」
 ため息ひとつ、癒やし手へと位置を変えた一十はバトルオーラ「カレヰドスコオプ」で自身を癒やす。
 そのように的確に癒す一十を厄介だと感じたのだろう、宝玉封魂竜は後衛へと目をつけた。竜の吐き出す息は、雷を帯びて後衛に降り注ぐ。
「これはまた――随分な歓待であるな」
 しかし後は、仲間がやってくれるだろう。くずおれる一十を後ろへと下げ、ケルベロスたちは戦闘を続ける。

 怒り。焦り。疲弊。
 それでも、雪斗は思い出す。「離れていても君を護りたい」という、恋人の言葉を。
 だから心を奮い立たせ、バスターライフルで狙いをつける。
「アトリちゃん、続いて!」
 雪斗の放った光を追うよう声をかけるのは、家族と思えるほどの存在。
「続くよ、ゆきとーさん!」
 応えるアトリもまた、雪斗を大事な家族だと思っている。
(「だから……必ず守って、彼の大事な人の所へ帰さなきゃ……!」)
 アトリのライトニングロッドから放たれる光が宝玉封魂竜を照らし、包む。
 視界に入る武器飾り「紫竜の花」は、アトリが大事な人からもらったお守りだ。
(「私に守る力を……貸してください」)
 強く強く、何度でも願って。仲間を庇って受けた傷、その痛みをこらえてアトリは立ち向かう。
 一方、小町はひたすらにヒールを施す。
「皆が出来るだけ、攻撃に集中できるようにね!」
 いつ終わるとも知れない戦いではあるが、
「何としてでも、ここは食い止める。思い通りにはさせない……まだ、倒れない……倒れるわけにはいかないの」
 ケルベロスを頼った緋紗雨のために。何より、自身を守って倒れた梅太のために。
 それぞれの思いなど関係なしに、宝玉封魂竜は攻め入ってくる。
 今度は、氷の息を吐く宝玉封魂竜だ。
 氷のブレスは、後衛へ。
 耐えきれず、サナはさらに後ろへと下がる。
「ごめん、もう限界みたい……! あとはお願い……!」
 これで、3人のケルベロスと1体のサーヴァントが戦線から離脱。
 どうにか持ちこたえて経過した時間は、防衛が始まること25分。それぞれが暴走を視野に入れ始めたその時、宝玉封魂竜たちは、それぞれ個別に攻撃を始めた。撃破されようとする宝玉封魂竜を支援する者はなく、回復をしていた宝玉封魂竜は自身のみを回復している。
「まるで統制が取れていない……? そうか、ゲドムガサラが撃破されたんだね」
 クレーエの確信。
「そうと解れば――」
 と、メロゥは石化の魔法を詠唱した。
 古代語魔法によって、宝玉封魂竜が落ちる。
 ならば、と、クレーエも攻勢に出る。
「冷たさに抱かれ、凍り付くまで良き夢を」
 ふわり現れる雪の精は、温もりに焦がれている。竜への抱擁は優しく、冷たく。竜の体表を覆う氷は、やがて竜自身を氷像と変え――地へと堕とした。

作者:雨音瑛 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月6日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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