ガラス細工に魅せられて

作者:なちゅい

●ガラス細工の技の取得を
 薄暗い部屋の一室。
 その中で、螺旋の仮面を装着した2人が色っぽい黒のハイレグ衣装を纏うミス・バタフライの前でひざまずく。
 1人は、簡素な道化師風の姿をした螺旋忍軍の女性。もう1人は、サーカス団員のような姿の男性だった。
「あなた達に使命を与えます」
 ミス・バタフライはまず、手にするガラス細工の青いアクセサリーを2人に見せ付ける。
 こうしたガラス細工を作る職人がこの町におり、その人間に接触して仕事内容を確認、可能ならば習得の上で殺害せよというのがミス・バタフライの使命だった。
「グラビティ・チェインは略奪してもしなくても構いません。技術の習得を最優先に願います」
「……了解しました」
 それを聞いた女性配下は首を傾げ、腑に落ちないといった表情で立ち上がる。
「何か思惑がおありの様子。意図はわかりかねますが、最善を尽くしてまいります」
 そうして、道化師の女性は男性を従え、この場から去っていったのだった。

 こちらはとあるビル内。
 ヘリポートに向かおうとするケルベロス達は、通路のベンチに座っているリーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)を発見した。
「涼しげなガラス細工扱う工房に、忍軍の刺客が現れるとうかがいましたが」
 丁度、ケルベロスが集まっていることもあり、卯京・若雪(花雪・e01967)が早速話を切り出すと、リーゼリットは話に先立ち、青いとんぼ玉のネックレスをケルベロスへと見せた。
「うん、狙われているのは、こういったアクセサリーを作る職人だね」
 この敵が計画する事件は、直接的には大した事は無い。だが、巡り巡って大きな影響が出るかもしれないという厄介な事件だ。
「螺旋忍軍はガラス細工職人の仕事情報を得た後、その職人を殺そうと動くようだね」
 この事件を阻止しないと、『風が吹けば桶屋が儲かる』といった具合にケルベロスに不利な状況が生まれる可能性が高い。
「デウスエクスに殺される一般人を、見過ごすわけには行かないよ」
 襲撃してくる螺旋忍軍を撃破し、職人を救ってあげたい。
 螺旋忍軍はガラス細工職人の工房を夜に訪問するが、ケルベロスは事件の3日前の夜に到着してそのまま準備することが出来る。
「職人には申し訳ないけれども……、事前避難だけは行わないようにね」
 この職人を避難させた場合、敵は別の職人を狙ってしまい、被害そのものを防ぐことが出来なくなってしまう。
 対策としては、ガラス細工職人に事情を話した上で、その製作方法を教えてもらうなどという手段が考えられる。こうすることで、螺旋忍軍の狙いをケルベロスへと向けられるかもしれない。
「本来なら何年もかかって極めるものだから、3日間で習得は難しいけれど……」
 自分が作りたいものだけに専念する形で修行を行えば、職人に認めてもらえるかもしれない。
 技術の習得が難しいと言うことであれば、事件当日は職人に囮となってもらう必要もある。それを踏まえて作戦は練っておきたい。
 現れる螺旋忍軍は2人1組で現れ、いずれも螺旋の仮面を被っている。
「1人は道化師風の衣装を纏った女性、もう1人は、サーカス団員の姿をした男性だよ」
 ミス・バタフライ配下の女性道化師は、アクロバティックに襲いかかってくる他、玉乗りによる突撃、逆さにした帽子から相手のトラウマを呼び起こすなど、多彩な攻撃を行う。
 また、男性は手にするカードで動物のオーラを一時的に召喚して、襲わせて来る。
「場所は、東京都某所の下町にあるガラス細工職人の工房だね」
 そこは、個人の工房で、自宅も併設されている。
 職人は熔解炉を使って吹きガラスによる製作を普段は行い、アクセサリーやグラス、風鈴など涼しげな見た目の実用品を製作して販売している。
 また、この職人は普段から、体験学習の受付も行っている。その場合、卓上でバーナーを使った方法での細工製作も行うようだ。
 工房は小規模なものの為、敵と戦いを考えるならば相手を別の場所に誘導するか、職人にヒールグラビティでの修復を行うことについて予め説明した上で、工房内で戦うことになるだろう。
「基本的には、職人を護りながら戦うと思うのだけれど……」
 状況によっては、戦況は大きく変わる。職人に認めてもらったことで自分達が囮となれるのならば、螺旋忍軍に技術を教える修行と称して、有利な状態で戦闘を始める事が可能となる。
「上手くいけば、2体の螺旋忍軍を分断するとか……、一方的に先制攻撃ができるかもしれないね」
 囮となるのが難しければ、予めガラス細工職人を護る作戦を行う方が無難かもしれないので、どういった作戦をとるかは仲間内で作戦を詰めておきたい。
 一通り説明を終えたリーゼリットは自身のネックレスに視線を落としてから、さらにケルベロス達へと話す。
 作戦の兼ね合いもあるが、任務の為に一生懸命覚えるもよし、経験だと楽しんで学ぶもよし。
 螺旋忍軍と戦う作戦もそうだが、3日間をどう過ごすかもじっくり考えたい。有意義に過ごすか、無為に過ごすかはメンバー次第だ。
「これも経験だと思って、作ってみるといいよ」
 製作した品は思い出の一品にしたり、誰かのプレゼントにしたりするのもいいかもしれない。
「それでは行こうか」
 リーゼリットは作戦の成功を願いつつも、ケルベロス達と共にヘリポートへと向かうのである。


参加者
相良・鳴海(アンダードッグ・e00465)
卯京・若雪(花雪・e01967)
ムスタファ・アスタル(同胞殺し・e02404)
七種・酸塊(七色ファイター・e03205)
ラピス・ウィンドフィールド(天蓋の綺羅星・e03720)
高辻・玲(狂咲・e13363)
リュティス・ベルセリウス(イベリス・e16077)
祝部・桜(玉依姫・e26894)

■リプレイ

●職人に弟子入り
 東京都某所。
 ガラス細工職人、里山・新之介の元を訪れるケルベロス一行。
「……というわけなんだぜ」
「まさか、俺が狙われるとはな」
 ウェーブヘアの七種・酸塊(七色ファイター・e03205)のざっくりとした説明を、職人は小さく頭をかき、驚いてみせる。
「是非、作戦の為にも、アクセサリー製作をご教授頂きたいのです」
「精一杯努めますので、よろしくお願い致します」
 メイド服姿のリュティス・ベルセリウス(イベリス・e16077)、清潔な身なりの卯京・若雪(花雪・e01967)が丁寧に、その技の手解きを願う。
「こちらこそ頼む。……ただ、修行はみっちり行うからな」
 了承してくれた職人だったが、早くも彼は師匠としての風格を見せていたのだった。

 まず一行は、職人に吹きガラスの手法を見せてもらう。
 長い金属管の先に高温で熔けたガラスを巻き取り、職人は息を吹き込んで形にしていく。
 そして、職人は冷える前に少しずつ形を整える。基本ということで、無色透明のグラスを作成して見せた。
「うわぁ……」
 それに、可愛らしい飾りをおかっぱ髪につけた、祝部・桜(玉依姫・e26894)が瞳を輝かせる。
「おー、この前修行した飴細工も綺麗だったけど、こっちもまた綺麗だな……」
 ぼさぼさの髪に無精髭という見た目の相良・鳴海(アンダードッグ・e00465)は、以前行っていた飴細工の修行を思い出す。再び物作りの技術を習得できることに、彼は気分を昂ぶらせていく。
「作る際の熱と仕上がりの清涼な姿が対照的で、また一段と心惹かれるね」
 グラス製作を考えている高辻・玲(狂咲・e13363)は、礼節をもって職人の動きを注視し、気になるところはしっかりとメモも取る。
 なお、着色は炉の中の酸素量で決まるとの事。涼しげな物を作りたいなら、主に酸化した鉱物を含ませるのだとか。
 説明は途中だが、ムスタファ・アスタル(同胞殺し・e02404)はそこで背を向ける。
「相手が誤解するなら、別に完成品を目の前で作る必要はないだろう?」
 芸術の類に疎いとのことで、出来る限り簡単な物のさらに一工程のみに集中したいと彼は主張した。
「ならば、待ってろ。小物なら別の手法が楽だ」
 職人は一通り吹きガラスの製法を教えた後、卓上でバーナーワークの手法を話す。重い金属管を持つよりは、女性にも人気があるのだそうだ。
 こちらの手法に当たっては、バーナーの光や割れたガラスから目を守る為に、眼鏡などが必須とのこと。
 後は原材料を混ぜた後、炙りながら心棒に巻きつけてから冷ます。これで基本のとんぼ玉の完成である。
 色、大きさを変えたとんぼ玉を繋げるなどすれば、ネックレスに。チェーンにつけてペンダント、金具をつけてイヤリングなどのアクセサリーになる。
「頑張りますよ!」
 リュティスは折角だからと、楽しみながらチャレンジしようと考えていた。
 早速、銀色の長髪を揺らすラピス・ウィンドフィールド(天蓋の綺羅星・e03720)も、ゴーグルを装着して作業に当たる。元々ビーズ細工は好きということで、楽しみつつ製作して見せるのだが……。
「あっつぅ……。わわ、ゆ、ゆがんじゃう!?」
 うまく形にならず、彼女は四苦八苦していた様だった。

 その後、ケルベロス達は3日間ガラス細工を作り続ける。
 こちらは、吹きガラス製作を行う男性メンバー達。
 頭にタオル、ジーンズに黒シャツといった姿の鳴海は、汗を流して作業に当たる。
 銃を片手に毎日を生き抜いてきた鳴海にとって、こうした綺麗な細工は心引かれる対象だ。だからこそ、彼は眠気を振り払いつつ、真剣に作業を行う。
「……そんな甘くねぇな」
 以前、学んだ飴細工と同じようにと息を吹き込むが、うまく形にならない。
 若雪、玲のオラトリオコンビは気心知れた親友同士。2人で交替して、原料作りと成形を行う。
 風鈴を作ろうと若雪は自分のペースでガラスで形をつくっていくが、どうしても思った形とはならない。元々、地道な作業や細やかな手作業は好みの彼だが、少し手元が狂うだけでもガラスは大きく崩れしてしまう。
 玲も職人に時折作ってもらうのを目にしつつ、それを真似てグラスを象ってみる。若雪を笑う玲もまた、微妙なコツを捉え切れずにいたようだ。
 ムスタファは結局、材料からの調合をメインに集中して作業を行っていた。これによって、仲間達の成形作業の補佐も合わせたサポートを行う。
 また、泊り込みとなる状況もあってか、彼は寝食と修行の時間以外は礼拝を行い、さらに新妻と連絡を行っていたようだ。
 こちらは、バーナーワークを行う女性メンバー達。
 小難しい顔で作業していた酸塊。人命がかかっているからと真剣に習っていた彼女だが、生来の大雑把さと不器用さが合わさり、なかなか覚えることができない。
「……なんで、こんなぐにゃぐにゃしたものを形にできるんだ?」
 酸塊は早々に、修行を投げ出してしまう。
 リュティスはシンプルな一品を目指し、作成を目指す。
 綺麗なとんぼ玉を心がけるだけならと思い、重点的に実践を繰り返していた。
 その隣りでは、桜も一つずつ丁寧に製作過程を進めていく。
 それは、去年の今頃、まだ関係を踏み出していなかった大事な人と目にした、煌く空の星と青く輝くウミホタル。
 夜空と海、2つの銀河。それらの輝きを思い出しながら、桜は武器飾りを製作する。
 メンバーで最も習得が早かったのは、ラピスだろう。
「むぅ……、この花弁がちょっと歪んでしまった気が……」
 彼女はかなり難しい、ペンダントトップにチャレンジしていた。
 ガラスビーズの花弁の造形もさることながら、土台となる藍色のガラスに花を並べる作業など、ラピスは職人に助言を仰ぐ。
「迷ったら駄目なんですね」
 思い切って、彼女は成形を行う。序盤は歪な形だったガラスビーズも、徐々に綺麗な球体へと安定していたようだ。
「夢中になって、螺旋忍軍を忘れそうになったけれど……」
 そこで、ラピスはハッと思い出すが、忘れてならないのは螺旋忍軍の対処。
 メンバーは修行の合間に、この近辺の下見を行う。
 早々に、螺旋忍軍との交戦に意識を切り替えた酸塊。そして、玲や桜も比較的安全に戦える公園を見定めていた。
 また作業に戻れば、淡々と地道な作業を続ける事となる。とりわけ、ラピスは最後の一日、気を引き締めて作業していたようだった。

●螺旋忍軍の誘い出し
 あっという間に過ぎ去った3日間。
 修行の結果、職人が見習いとして認めるに至ったのは、それぞれの工程から、ラピスと玲。シンプルさを追及し続けて政策したリュティスの3人だった。
 他のメンバーも真面目に作業を行っており、いい物を作成してはいたが、残念ながら今一歩職人に認められるには至らなかったようだ。
 さて、当日、日が暮れる頃になって螺旋忍軍2人は姿を現す。
「こちらに、ガラス細工職人がいるとうかがいましたが」
 ミス・バタフライ配下、ミレイアは帽子を取って頭を垂れる。そばに控えるサーカス団員風の男、ベニートも同様だ。
「……生憎と師匠は留守でね」
「私達見習いで恐縮ですが」
 玲が平然と見習いとして振舞い、ラピスも凛とした態度で振舞いながらも、敵の影で小さく舌を出す。当然、工房に職人はおらず、自宅で待機してもらっている。
 早速、自分達が初日に教わった通り、珪砂、ソーダ灰、炭酸カルシウム……。ガラスの材料を調合しようとするのだが、リュティスが首を傾げた。
「足りませんね。……申し訳ないですが、資材の買出しに付き合って貰えませんか?」
 それらは物陰に隠れているだけなのだが、とぼけるリュティスが螺旋忍軍の2人へと問いかける。
「……いいでしょう」
 このままでは、例え職人が帰ってもガラス細工の製作工程を見せてもらえぬと考えたミレイアは渋々それを了承し、ついていくこととなった。

 桜がキープアウトテープを張り巡らせた公園。
 酸塊が見定めた広場の周囲にある物陰に、他のメンバー達は潜んでいた。彼らは見習い……囮メンバーが螺旋忍軍を引き連れてくるのに気づいて、共に敵を囲んでいく。
 普段は春陽の様な温厚さを見せるも、いざ戦いとなれば、雪のように凛と冴えた姿勢で構える若雪。鳴海も自身の周囲に鎖を展開させる。
「誤解したお前達が悪い。覚悟しろ」
 ムスタファの言葉に、囮となっていた玲が頷く。
「あの素晴らしい技を無粋な君達に渡す等、以ての外だ」
「図りましたね……」
 キッと睨みつける螺旋忍軍。敵が攻撃態勢を取るのを待たずして、ケルベロスは攻撃を開始したのだった。

●先手必勝!
 作戦がうまくいき、工房を戦場とせずに済んで桜はホッとする。
 召喚の為のカードを取り出すベニートへと先んじて、桜は呼び出した御業にその体を鷲掴みさせた。
 続き、後方からリュティスが敵の背後より強襲し、太股に仕込んだナイフをジグザグに変形させて切りかかっていく。
 ウイングキャット、シーリーに翼で羽ばたかせて前衛メンバーの邪気を払う中、その援護を受けたムスタファが動く。
「技術など、断じて渡さん」
 拳を振りぬき、オーラの弾丸を飛ばすムスタファ。箱竜カマルも箱に入って体当たりを繰り出す。
 そこで、ようやく動く敵。ベニートが呼び出した荒ぶる巨象がメンバーを踏みつけるも、玲は紳士然として言い放つ。
「僕が傷付く分には、一向に構わない――けれど」
 長年磨き上げてきた業や心。それらを尽くした作品を踏みにじる真似など、許されようはずもない。
「門前払いと行こうか。……全てを――」
 どうやら、ベニートはディフェンダーだ。彼は颯爽とそいつに近づいた刹那、何かが一閃する。
 ベニートの体より赤い物が飛び散り、そいつは小さく呻く。
 鳴海も自身の周囲の鎖を揺らめかしながらも、斬撃による追い討ちをかけていた。
「やっぱ、こっちの方が思ったように体を動かせるぜ!」
 戦いとなり、ドラゴニアンの酸塊は嬉々としてケルベロスチェインを伸ばし、ミレイアの体を縛りつけようとする。
「心洗われるような作品の数々に、貴方達のような心無き者を近付ける訳には行きません」
 斬霊刀を抜く若雪もまた、ミレイアの牽制に動く。
「大切な工房を土足で踏み荒らす者達には、お引取り願いましょう」
 そうして、彼は大地の霊力と御業を乗せた一太刀で敵を切り伏せる。さらにその傷口の周囲に花や蔦が絡み、ミレイアの動きを制していく。
「猪口才な……!」
 それでも、宙を舞うミレイアはナイフを両手に持って切りかかってくる。
 だが、その前に、ラピスが立ちはだかった。彼女は天空に舞う瑠璃蝶を風の刃となして、ベニートに放っていた直後にすぐ、身を翻して敵のナイフを防ぐ。
「盾として、後ろへの攻撃はさせません」
 堅固な壁となるラピスに、ミレイアは歯噛みしてしまうのである。

 螺旋忍軍2人は完全に、ケルベロスの講じた策にかかった形となっていた。2人は連携プレイを得意としていたはずだが、それも酸塊が動きを制しようと動く。
「行かせねーよ、お前の相手はアタシだぜ」
 酸塊は竜鎚「饕餮」(とうてつ)から豪快に竜砲弾を叩き込むが、ミレイアは反撃にと帽子を逆さにし、なにやらバーナーの炎を見せ付ける。
「うっ……」
 それは、修行中、酸塊が作業に熱中過ぎて髪を焦がし、ものすごい熱さを覚えたトラウマ。ひょっとすると、彼女はこのせいで早々に修行を切り上げたのかもしれない。
 敵は油断していたとはいえ、手練のデウスエクス。ムスタファは気力で己を回復させつつ戦線を持たせる。
「走れ! 振り返らずに 脇目も振らず逃げ続けろ……」
 回復役のリュティスもギターをかき鳴らし、力の限り歌う。
 そんな中、鳴海がベニートを追い詰めていた。
「……!」
「ガラス細工……俺なんかでもわかるくらい綺麗だったんだよ」
 鳴海の周囲の純白の鎖が、じゃらりと音を立てる。
「だから、お前らなんかにくれてやるわけにはいかねぇよなぁ」
 食らいつく鎖が血錆のように濁るのに対し、ベニートはなすすべなく崩れ落ちていく。
「まだ、ここからです……」
 ミレイアは曲芸さながらに大きなボールを出現させ、それに乗ってケルベロス達を纏めてひき潰そうとする。
 重量感のあるボールの下敷きになりながらも、玲は涼しい顔で日本刀に空の霊力を込めて、敵を切り裂いていく。剣戟こそ生き甲斐と、彼が再確認する瞬間である。
「傷は大丈夫ですか?」
 やはり親友の傷は気になるもの。若雪は敵の包囲を解かぬ様注意しつつも、翼を広げて極光によって前衛の仲間の傷を癒す。
 そして、活力を得たラピスは見た目に反して、果敢に得意の流星の蹴りを食らわせていく。おてんばな彼女だが、それでも着地すれば乙女の立ち振る舞いも忘れない。
「賢しいですね……!」
 追い詰められ、肩で息するミレイアへと桜が大鎌「Gespenst」を振るう。
「あんな綺麗な物を作る技術、渡しはしません……!」
 振るわれた斬撃によって体力を大きく奪われたミレイア。宙返りしようとした彼女は、所々束縛された体が動かぬことに気づく。
「逃がさねえよ」
 そこへ、酸塊が星型のオーラを繰り出す。
「きゃああああっ!」
 それによって服を破かせたミレイアは叫び声を上げて倒れ伏し、完全に意識を失ったのだった。

●思い出の品を手に……
 無事に螺旋忍軍を倒し、職人を守りきったケルベロス達。
 公園の修復作業を終わった頃には夜も更けていたが、メンバーは自身の作品を仕上げていた。
 ラピスが完成させたペンダントトップは、金彩銀彩を散りばめた藍色のガラスを空に見立て、淡い桜の花のようなガラスビーズを並べたメダル型のもの。渾身の出来栄えに彼女は満足そうである。
 桜も滴型の武器飾りを、満足いくよう仕上げていた。
 夜の海の紺碧色に、海蛍の青を閉じ込めたような一品。職人はあと1日完成が早ければとこのタイミングで認めてくれた。それもあって、彼女は笑みを零す。
 調合メインで過ごしたムスタファも、合間を見て一品製作していた。3日間かけてしっかり仕上げ、藍色基調に綺麗な月が浮かぶ風鈴を完成させたのである。
「終わったよ。改めて、協力に感謝させてもらうよ」
 玲は紅茶を彩るグラスを完成させていた。仕上げに付けられた猫の足跡模様がなんとも可愛らしい。
「良い経験と思い出を、ありがとうございました」
 最後に、若雪。澄んだ水面を写したような風鈴をちりんと鳴らす。その音もまた、水面に落ちる水滴を思わせる。
「人々に涼と癒しを届ける作品と技が、どうか末永く在り続けますよう」
「こちらも、お前達が頑健であることを願っているぞ」
 新たな戦いに出向くケルベロスを案じ、職人里山は人情溢れる言葉でメンバーを送り出したのだった。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年6月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 1
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