ミッション破壊作戦～忍ぶ影

■リプレイ

●空に思いの丈を
　そういえば直に見るのは初めてと、藤守・景臣（ウィスタリア・e00069）は手にあるグラディウスを見詰め、その刃を撫でた。
「――貴方の力、この目で確と見届けさせて頂きましょう」
　そう言って景臣は近づく目的地へと視線向ける。
　舞鶴――その目的の場所が、今この足元にある。
「再び戻ってきました。前回は叶いませんでしたけど、しかし今日こそは」
　今日こそは、この舞鶴を開放してみせると結城・レオナルド（弱虫ヘラクレス・e00032）は思う。
　何度かミッション破壊作戦に参加したが、この降下前の時間は相変わらず緊張する。
　うう、と呻いてお腹痛くなってきたと零す。けれど。
「いえ、こんな事じゃダメですね。気を引き締めていきましょう」
　ふるりと首を振る。
　その様子をアルルカン・ハーレクイン（道化騎士・e07000）は目にし、地球を守護するのがケルベロスの役目と紡いで空に一歩踏み出す。
「侵攻するデウスエクスを一体でも多く退けて平和な場所を取り戻すのも、今ここにいる我々にしか出来ないことでしょうから……邪魔する壁は、想い込めたこの一撃で取り払ってしまいましょう」
　アルルカンが静かに紡ぐ言葉には強い想い。それはグラディウスにグラビティと共に募り、魔空回廊へと向けられている。
「ここへの襲撃は四度目ね」
　螺旋忍軍が何を考えてるのかは知らないけど、と東名阪・綿菓子（五蘊盛苦・e00417）は言う。
「こう何べんもケルベロスに攻撃されてんだもの。これ以上の猶予を与えたら、お尻に火がついたアイツらが、いつ市民をターゲットにして動き出してもおかしくない」
　そんなことになったら、ごめんなさいじゃ済まないわと淡々と紡ぎながら綿菓子はきゅっと眉寄せて青の瞳を足元へ向ける。
「そうよ……絶対にそんなことさせちゃ駄目よ！」
　想いを口にしながら、綿菓子は大きく空へ跳ぶ。
　眼下に見える町並みはボロボロ。失ったものは取り戻せないのだと心痛む。
　けれど、まだ出来る事はあるからこそ、今ここにいる。
「でも、人々の未来は、この手に懸かってる！」
　そう言いながら綿菓子はグラディウスを両手でしっかり持ち、切っ先を魔空回廊へ。
「このグラディウスの一撃で！　今度こそ絶対に、こんな魔空回廊をブチ破ってやるわ！！」
　噛み付いても引っかいてでも、今度の今度で終わりにしてやるわよ！！
　そう、絶叫に近い叫びが響き渡る。
　その声を耳にしつつ、クロコ・ダイナスト（牙の折れし龍王・e00651）はここから飛び降りるのかとごくりと息を飲む。
「うぅ、怖いですけどわたしたちが頑張って魔空回廊を減らせればその分一般人さん達の笑顔が戻るんですよね。が、頑張ります」
　えいっと意を決して飛び降りる。その瞬間、クロコのスイッチが切り変わった。
「我が牙は折れど敵を討ち同胞を守る意志に一変の曇なし！　我が渾身の闘気にて汝ら野望の象徴を見事打ち砕いてみせよう！」
　クロコは高らかに声をあげグラディウスを掲げる。向かう場所に己の高き心を叩き付けるように。
「ケルベロスの攻撃を三度耐えた、その事実は純粋に凄いと思う」
　けど、とアイリ・ラピスティア（宵桜の刀剣士・e00717）は言葉続ける。
「だからこそ、私達も負けられない。諦められないんだよね」
　私達の手で、今度こそ――その思い抱いてアイリも空へ。
「螺旋忍軍、スパイラルコマンドー、これで終わりにしよう。その魔空回廊を……殺す！」
　アイリの叫びは意志に満ち溢れる。
「テロなんて物騒なことよく計画するわね。しかも京都っていう風情ある素敵な場所に潜伏するなんて」
　何を考えてるのかしらと小花衣・雅（星謐・e22451）は零し、飛び降りる。
「貴方の存在はここには相応しくないわ。恨みはないけれど、ここで倒されてくれるかしら？　そして私の知識の糧になりなさい」
　雅もまた想いのせてグラディウスを振り下ろす。
　人々の穏やかな営みを取り戻す為に、無辜の人々を恐怖に陥れぬ為に。
「僕が出来るのは……この剣を取る事」
　景臣は空へ足を踏み出す。
　これ以上、愛する者を喪う悲しみを誰かが背負わなくて良い様に――そう思うのは、自分と同じ思いをしなくて済む様に人々を守るという想いの為。
「――さあ、そろそろ幕引きと致しましょう？」
　恐怖よ、今だけは静まってくれととレオナルドは己の身の内へ紡ぐ。
「情けない俺に立ち向かう勇気を……！」
　その言葉は小さく。けれど続く言葉は徐々に強くなっていく。
「これ以上、誰も傷つかないように！　みんなが安心して暮らせる世界を！」
　そう今までより強い言葉で紡ぎ、眼下へ視線を向ける。
「このテロ計画に終止符を打ちます！　では、行くぞ！！」
　空に足を踏み出して落ちる。
　ウオォォォ！！　とレオナルドは吼えグラディウスを振り下ろす。
　続けて飛び降りたのは天変・地異（正義の極道・e30226）だ。
「壊れろっ！！　今までの仲間達が残した想いが変えるんだ！！　全てを！！」
　この場所は四度目。野放しにはしておけないと地異は思う。
　今まで螺旋忍軍を倒してきた。今回も絶対に成功させると熱い想いをその声に。
　それぞれのグラディウスは、極限まで高められたグラビティの力を受け、そして想いを受け魔空回廊へと振り下ろされる。

●雷鳴の中で
　高高度からの落下を含めた衝撃――けれど魔空回廊は揺るがずまだそこにあった。
　踊る雷光と爆炎、グラディウスを持たぬ者達にそれは縦横無尽に襲い掛かり動きを奪っていく。
　だが、その中でも動ける者はいた。
　雷光と爆炎の中から姿を見せたのはスパイラルコマンドーだ。
　眼前の敵へ向かって、雅はドラゴニックハンマーを向けた。砲撃形態となったそれは振るわれると同時に竜砲弾を放つ。
　その攻撃が中った感触――別段、守りが堅いという事は無く。攻撃を当てにくい、ということも無い。それを最初に動いた雅は仲間へと伝える。
　それで相手の状況も少し絞れた。
　その間にも雅のウイングキャット、アステルは羽ばたきを仲間達へと向け援護する。
　仲間からのグラディウスをアルルカンは預かりつつ敵の態勢に注意向ける。
　周囲には雷光と爆炎に打ちのめされ動けない螺旋忍軍の姿がいくつか見える。しかしすぐさま動けるようではなく、彼らが回復するまでにまだ時間はあるだろう。
　敵の増援はなさそうだとアルルカンは思う。
「ほう、我等の道を拒むか、下郎ども。よかろう、少しの間遊んでやろう！」
　強敵であるなら尚良しとばかりに笑み浮かべ、クロコは懐に踏み込み足振り上げる。
　電光石火の蹴り。それを受けた敵は衝撃の痺れに動きが鈍くなる。
　敵の動きがクロコの攻撃で乱れた。その瞬に踏み込んだのは景臣だった。
　グラディウスは奪われぬよう腰ベルトに固定し、その代わりに手にするは一刀。構えれば揺らぐ、刀を彩る下がり藤の透かし鍔。唯、斬る為だけに存在する一振りは雷気を纏い、敵を穿つ。
　穏やかに、冷静に。戦う為、眼鏡外せば瞳は藤色の輝きを現していた。
　さらに攻撃はいていく。
「こちとら螺旋帝の血族、緋紗雨さんの覚えめでたいケルベロス御一行よ。下っ端が行く手を阻む道理はないんじゃない？」
　そう思わない？　と綿菓子が掲げた手の上、身の丈ほどもある先割れの蛮刀が作り出されその手に収まる。
「生者必滅！！」
　それを両手で握って、めいっぱい振り抜く――ただそれだけのものだが攻撃力は十分。
　綿菓子の一撃は真正面から叩き込まれた。
「やっぱり、来たか」
　顔を合わせるのはこれが初めてではない。レオナルドはグラディウスを奪われぬよう、後衛の仲間へと託し敵へ向かっていた。
　刃に宿るは、雷の霊力。レオナルドは神速の突きを放つべく敵を見据えた。
（「俺に力を、恐れに立ち向かう勇気を！」）
　その一歩は気持ちの表れ。一突きは迷うことなく敵の身体、その中心を捕らえていた。
　そしてその端、武器持つ手を銃弾が襲う。
　よく手入れされている形見のリボルバー銃よりアイリが放った弾丸は迷いなく敵を貫く。
　牽制も兼ねたその銃撃。隙があればもう一方の手にある刀でアイリは踏み込む構えをとっていた。
　ケルベロス達からの攻撃は厚い。
　しかし敵はまだ十分に余力を残している。
　レオナルドに接した敵はその掌に螺旋の力を込め、触れる。
　軽く触れただけ。けれど瞬きの間に感じた衝撃は重い。
　攻撃受けたレオナルドは攻撃に重きを置いていると判じて仲間達へ痛みの代償に得た情報を告げた。
　けれどその痛みもすぐに払われていく。
　地異がカラフルな爆炎を発生させ士気を高める。それはレオナルドだけでなく、前列に立つ皆に送るエールだ。地異は今日、皆の回復役としてここにいる。
　地異は爆破スイッチ押しつつ、敵を睨んでいた。螺旋忍軍は地異にとっては大嫌いな相手。
　攻撃に重きを置いた敵。しかしこの場に集ったケルベロス達にとってその力は格上の相手というわけではなかった。
　戦いの流れは一手二手と紡いでいくうちに固まっていた。

●忍の末
　ただ戦いの音が響く。周囲はまだ混乱の中、落ち着いてはいない。
「よそ見の暇はないぞ！」
　レオナルドは相手の気を引くように声あげ、炎弾を放った。それは相手の生命力を喰らうもの。レオナルドの地獄化した心臓、その焔の一端が敵の上で燃え上がる。
　炎を振り払う事もせず、向かってくる敵。
　景臣は仲間を守るべく敵の前に踏み込んだ。
　螺旋の力を以て放たれた一投の正面、その攻撃を刃でいなしてすべてを殺す。
　人々を、仲間を守る為に傷を負うことを厭いはしない。けれど甘んじで受けるものでもありませんからと景臣は洗練された動きでそれを払った。
　その様に相手がちっと舌打ちする。
「逃がさない！」
　敵は慌てる。それは身体が突然引き寄せられたからだ。それは綿菓子の光り輝く左手の仕業。引き寄せられた敵に打ち込まれるのは漆黒纏う右手。
　魔空回廊が割れなかった、その悔しさの気持ちまで乗せて、綿菓子は一撃をいれる。
　そこに続けてクロコが拳向ける。
「右腕を失えど龍王と呼ばれし我が闘気に一片の衰え無きことをその身で味わうがいい！」
　地獄化した右腕に龍王の闘気の渦を纏わせただ振りぬく。殴りつけるだけの一撃を敵の身体の中心へと叩き込む。
　クロコはその手応えをその手に感じていた。
「宵闇に浮かぶ月の如く。冷たく、鋭く、鮮やかに」
　声静かに響かせアイリは夜色の刀身持つ斬霊刀を振るった。放たれるのは凍てつく『霊気』纏う斬撃。
　月の淵撫でる軌跡の斬撃はその傷口を凍らせ引きつらせ広がっていく。
　アステルは清浄の翼の恩恵を絶えず雅の近くで送る。雅は敵の動きを阻害すべく、懐に走りこんでその足を振り上げた。
　顎を捉えたその一撃に、敵の頭は大きく揺れる。
　そこへ白から黄に変わる花弁の幻想が降る。
「形なき声だけが、其の花を露に濡らす」
　アルルカンが姿のなき歌声に合わせて舞うは無音。ふたふりの獣の牙、月喰らう大神、陽喰らう大神をもっての剣舞により閃く花弁が舞い襲った。
　だが敵もただやられているわけではなく、攻撃をしかけてくる。
　しかしそれは敵の思うとおりには通らない。クロコと景臣がそれを引き受ける時もあるからだ。
　そして、常に地異が回復を行い戦列は崩れない。
　時にルーンアックスを振るい、破壊のルーン宿し魔術加護を打ち破る力を与え、またオウガメタルの力を借り仲間の超感覚を覚醒させる。
　そうやって地異は仲間たちを支えていた。
　ケルベロス達の攻撃が募り、敵は追い詰められる。
　回復も追いつかず、おそらく力尽きるまであとわずかというところ。
「熱く、燃え滾れ」
　ここで糧とする――すべてを焼き尽くさんとする炎で己を身に孕む少女を内側から焦がすのは炎纏いし蛇神。
　雅の身から溢れし炎は劫火。それがかたどるは一振りの剣。
　その剣もって繰り出される斬撃は瞬く間に燃え広がり敵の身を覆い尽くす。
「心静かに――恐怖よ、今だけは静まれ！」
　ふらつく敵の前へレオナルドは走り込み足を止める。瞬で整えた居合の構えから繰り出されるは高速の斬撃。
　その一瞬は、心臓の畏れの炎の生み出す陽炎の揺らめきの下で放たれた。
　ふらつく敵にあと一押しと肉薄したのは景臣だ。
「――頂きます」
　熱を奪う、凍えるような紅炎を景臣は躍らせる。
　君の体温を僕におくれと緩やかに紡ぎ、放たれる一閃は――鋭く。
　紅炎纏う刃が敵を斬りぬいた。
　熱を奪い切られた敵はその場に崩れ落ちたのだった。

●未明
　行く手を阻む敵は倒れた。しかしここは敵陣の中。
　雷光と爆炎が引き始め、周囲から動ける者達も出てくる様子。
　このままここにいれば囲まれてしまうのは必至。
　向かってきた敵を倒した今は脱出の機。
　地異はまだ周囲で動けないままの者達を一睨みし、いつか倒すと心に思う。
「此度はここまでか」
　クロコは引き際かと零す。
　行く手を阻むものを倒したケルベロス達は、急ぎその場を離れるべく動いた。
「今度こそと思っていたんですけど……」
　未だ存在する魔空回廊。けれど、それにダメージを負わせたことは確かだ。
　レオナルドは舞鶴の平和をいずれはと固く思う。
「本当に悔しいわ」
　今度こそと思ってたのにと綿菓子は淡々と零すのだが、その言葉には悔しさが滲んでいる。次は絶対に、とそんな気持ちは膨れ上がるばかりだ。
「急ぎましょう」
　動ける者も出てきているようですからと景臣は周囲の様子を示す。
　それぞれ戦いで負った傷はあるものの、それが致命傷になる事もなく十分に動ける。
「グラディウスの忘れ物は……ないね」
　大丈夫とアルルカンはアイリへと頷く。
「増援が来る前に離れましょう」
　ここはまだ敵地。
　ふと、空を仰いで雅は瞳伏せる。それは一瞬の祈祷だ。その傍らでアステルが一声鳴いて頬寄せる。
　この場所が解放されるまでケルベロス達はまた再び、この場所に赴くことになる。

作者：志羽	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年7月3日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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