夢は広がり、破裂する

作者:幾夜緋琉

●夢は広がり、破裂する
「わーい。ピエロさんだピエロさんだー♪」
 何処かにある、遊園地の中。
 笑う子供の前にいるのは、赤鼻に白塗りの顔、そして華美な付けばねをつけた、所謂ピエロの格好をした男。
 言葉は喋らず、その動きだけで笑いを誘い、おどけてみせる……道化師の姿。
 そんな道化師の動きに、キラキラとした視線を向ける少年。
『……♪』
 ニッと笑顔を浮かべたピエロは、少年に、どこからともなく取り出したふうせんを一つ差し出す。
「わぁ、ありがとー!!」
 と嬉しげにふうせんを手にする少年……と、次の瞬間。
 みるみる内にふうせんが大きくなり、その視界を覆い隠し……そして『パァァン!!』と、大きな音を立てて破裂する。
「わあああ!!」
 と、驚き……ベッドの上から転げ落ちる少年。
 ……纏わり付く汗が気持ち悪く、そして。
「あ、あれ……夢だったの……!?」
 と呟くと、その少年の心臓を……手に持った鍵で、裏から一突きする、第三の魔女・ケリュネイア。
 ……そして、ケリュネイアは。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
 と微笑みを浮かべると、次の瞬間……少年の隣に、夢の中で出逢ったピエロが具現化。
 そして代わる様に、少年はその場に崩れ墜ちるのであった。

「ケルベロスの皆さん、集まってくれたッスか? それじゃ、説明始めるッスよ!」
 と、黒瀬・ダンテは、集まったケルベロスらに元気よく挨拶すると、早速。
「ケルベロスの皆さんは、子供の頃に驚いた夢を見た事無いッスかね? 理屈は全く通ってはいないのに、何故かビックリして、夜中に飛び起きたりする様な夢」
「今回、そんなビックリする夢を見た子供がドリームイーターに襲われて、その『驚き』を奪われてしまう事件が発生した様なんッスよ」
「『驚き』を奪ったドリームイーターは、既に姿を消して閉まってるッスけど、奪われた『驚き』を元にして、現実化したドリームイーターが事件を起こそうとしている様なんッス」
「そこで、ケルベロスの皆さんには、このドリームイーターによる被害が出る前に、撃破してきて欲しいんッスよ。このドリームイーターを倒す事が出来れば『驚き』を奪われた被害者も、きっと目を覚ましてくれる筈ッスからね!」
 更にダンテは、詳しいドリームイーターの情報について説明を続ける。
「今回ドリームイーターとして現れるのは、ピエロを模したドリームイーターが一体ッス。幸い、その他に配下の様な者は居ない様ッスね」
「しかしながら、このドリームイーターは夜の市街地、被害者さんのご近所に現れてしまってるッス。一般人の影は少ないッスけど、無いとは言い切れないから避難させる必要があるッス」
「又、ドリームイーターは夜の市街地を歩き、誰でも良いから驚かそうとしている様ッス。だから夜の街角を歩いていれば、ドリームイーターの方から近づいてくるッスよ」
「そして大っきなふうせんを渡して、目の前で大きくさせて驚かせる、といった具合で驚かせてくるッスけど、驚かない人を優先的に狙う様ッスから、驚かなければ自分に攻撃を引き寄せる事も可能ッス」
「ちなみに、このドリームイーターの攻撃方法は、爆発するふうせんの中にいろんな物を仕込んでいる様で、例えば中から針が飛んできたり、鉄塊が放られて来たりする様ッス。中にはいっている物は、外からだと分からないッスから、何が出て来ても良い様に注意して欲しいッス」
 最後にダンテが。
「こういう子供の無邪気な夢を奪って、ドリームイーターを作るだなんて絶対に許せないッスよ! 被害者の子供が、再び目を覚ましてくれるよう、ドリームイーターの討伐、お願いするッス!!」
 と、拳を振り上げるのであった。


参加者
リリア・カサブランカ(グロリオサの花嫁・e00241)
朝倉・ほのか(ホーリィグレイル・e01107)
風魔・遊鬼(風鎖・e08021)
スミコ・メンドーサ(グラビティ兵器技術研究所・e09975)
ルル・キルシュブリューテ(ブルーメヘクセ・e16642)
ヒエル・ホノラルム(不器用な守りの拳・e27518)
リョウ・カリン(蓮華・e29534)
ラルフ・ガーファ(アクロニム・e35444)

■リプレイ

●驚きの具現化に
 夢の中、赤鼻で白塗りの顔、そして……華美な付けばねを付けたドリームイーターの、ピエロの男が現れる夜の町。
 ピエロだから言葉を喋らず、おどけた動きをで以て人を笑わせる存在の筈なのだが……今回のピエロは、ふうせんを渡してくると言う。
 それも、そのふうせんを渡した相手の目の前で、みるみる内に大きくさせて……目の前で大きな音と共に破裂させて、驚かせて楽しむという、そんな悪趣味なピエロ。
「大きな音がなる、大きなふうせんだもんね。事前に分かってても普通に驚いちゃいそうだー。ね、イコちゃん! イコちゃんはおどろかない様に頑張ってね?」
 とは、ルル・キルシュブリューテ(ブルーメヘクセ・e16642)。
 傍らのテレビウムをぎゅっと抱き上げながら、微笑んでくるルルに、イコちゃんはその笑顔のまま、ちょっと小首を傾げる。
 ……テレビウムに驚きという感情があるのかどうか、というのはちょっと分からないけれど、少なくともその顔、表情で感情を示すことはあるだろう。
 イコちゃんをディフェンダーとして、ドリームイーターを誘い出す作戦。
 ……まぁ、そんなイコと共に、囮役として手を上げたのはヒエル・ホノラルム(不器用な守りの拳・e27518)と、そのライドキャリバーの魂現拳。
「まぁ、しかし驚きを生み出すはずのピエロが驚きによって産み出されるとは……滑稽だな」
 とヒエルに朝倉・ほのか(ホーリィグレイル・e01107)とリリア・カサブランカ(グロリオサの花嫁・e00241)らも。
「驚きを奪うドリームイーター……ケリュネイアと言いましたか……」
「そうね。悪意を持って、人々を驚かせる為に現れるピエロ……最愛のフィアンセが聞いたら、喜びそうなシチュエーションね。ホラーもサスペンスも大好きな人だもの」
「ふふ……まぁ……彼女達の目的が何なのかは良く分かりませんが、このままにしておくのは危険です。ピエロには速やかに退場して貰いましょう」
「そうね……わたしは正直、ピエロって苦手……だって怖いもの。ホラー映画でも、ピエロを題材にしたものってあるし、みんなが一緒で良かったわ。一人だったら、怖くて動けなくなってたかもしれないわね……」
 そして、ラルフ・ガーファ(アクロニム・e35444)とリョウ・カリン(蓮華・e29534)の二人も。
「まぁ、どのように驚かせてくれるか楽しみな部分もあるな……」
「そうだね。驚きから作り出されたドリームイーターかぁ。確かにふうせんの破裂音とかってさ、思わずビクッとしちゃうもんね」
 と、それに風魔・遊鬼(風鎖・e08021)、スミコ・メンドーサ(グラビティ兵器技術研究所・e09975)の二人も。
「……音に驚くのならば、音を遮断すれば良いでしょう。勿論心の持ちようでもありますが」
「ま、確かにそうだね……でも囮役以外は驚いた方が良いんだよね。ああ、出来れば囮役が驚かない様に、陣形を工夫した方が良いかな?」
「ああ。メディックのルルを中心にして、その周りにスナイパーの自分とラルフ。その周りを残る仲間で囲むとしよう。ああ……前後のどちらから来るかも分からないからな。イコとヒエル、魂現拳は分散する様にしてくれ」
「うん、了解だよっ!」
 ルルの言葉に、イコちゃんは凶器をぶんぶんっと振り回して気合い一杯。
 ……そして、ケルベロス達はドリームイーターが出没するという、深夜の街中を歩き始めるのであった。

●闇と驚くふうせんに
 そして、深夜の街中を歩くケルベロス達。
 陣を組み、ぐるぐると歩く……ピエロが現れるまで。
 いつ驚かしに現れるかも分からないから、気を抜くことも出来ないし……特に囮役の三人は、一層驚く訳にも行かない。
「……何だか、薄気味悪い所よね……」
 と、リリアがぽつり……でも、当然逃げるわけには行かない。
(「仲間が頑張って作ってくれたチャンス、ムダにはしないわ」)
 それに加え、リョウの殺界形成を発動し、周囲から人気を取り除く事で、一層不気味な雰囲気が漂う訳で。
「……」
 と、明らかに恐怖の表情を浮かべているほのか。
 ……そんなケルベロス達を、闇の影からそっと見つめる……ピエロ。
『フフ……』
 と、悪巧みする笑顔を浮かべ……そして、ケルベロス達が通り過ぎた後、その背後に素早く近づき。
『……パァァァン!!』
 大きな風船の破裂音が、深夜の街角に響き渡る。
「キャアア!!」
 と、その破裂音に思いっきり声を上げて驚くリリアに、ほのかも。
「す、凄い音がしました。耳がきーんってします……」
 とわたわた、うろうろ。
 でも、驚いたものだから、ドリームイーターは喜んで、また一端姿を隠してしまう。
「……やっぱり、驚かないとそれ以上仕掛けてこないんだね」
 とスミコの言葉にリョウも。
「そうだね……となると、やっぱりイコちゃんとヒエルに期待するしか無いかな……ライドキャリバーが驚くって、傍目から分からなそうだし……」
「……確かにな」
 リョウの言葉に、頷くヒエル。
 そしてイコちゃんが前、ヒエルが後ろに回り込んで、更に歩を進める。
 ……そして、程なくして……又、近づいては風船をパァァン、と破裂させるドリームイーター。
 左から、右から、前から……と様々な方向から風船を投げ込んでくるドリームイーター。
 だが、前から来た瞬間、そこに居たのは……イコちゃん。
 そのディスプレイに移された表情を変えること無く、驚いた風を装わず、凶器をぶんぶんとふって威嚇するイコちゃんに……ドリームイーターは。
『ムゥ……』
 と不満そうに呟き、そして……ケルベロス達の目の前に姿を現わす。
 それに、すぐさま反応するスミコ。
「それじゃ、いっちょやりますか」
 とグラビティジェネレーターを指導、機械翼を大きく展開し、一気に。
「先手必勝!」
 と斬りかかるスミコ、更にほのかも。
「戦いを始めます」
 とクールに一言を紡ぎ、戦闘モードへシフト。
 遊鬼も発光状態のケミカルライトを一気に周囲に散らばせて、戦場に光を確保する。
 そして……ドリームイーターは、ケルベロス達のそんな行動を、敵対行動である、と認識した様で。
『クスクス……』
 怪しく笑い、おどけたピエロの動きで左手、右手に風船を取り出す。
 明らかに、中に何かがはいっている……でも、ぼんやりとしていて、はっきりとは分からない。
 ……そして、そんなドリームイーターに容赦無く、遊鬼は無言で、棒苦無を相手に突き刺し、着火、爆発させる『風魔式斬撃術『爆魔』』。
 更にその横でラルフが、旋刃脚で敵にパラライズを付与する。
 そして、ジャマーのリョウがアイスエイジにて氷を付与。
 そんなケルベロス達の攻撃に対し、ドリームイーターはチッ、と舌打ち。
 そして……左手の風船を、前衛の位置へと投げ込むと、そこで破裂。
 中に仕組まれていたのは、沢山の針……四方八方に、針が飛び散り、突き刺さる。
「っ……!」
 と、ぐっと唇を噛みしめ、耐えるヒエル。
 勿論、他の仲間達への針攻撃を……ライドキャリバーの魂現拳と、イコちゃんがカバーリング。
 そして、受けたダメージをすぐルルがマインドシールドで盾アップと共に、回復を行い、そしてクラッシャーが続く。
「これはあなたの罪、苦しみなさい」
 とリリアが攻性捕食を飛ばし、毒をドリームイーターに付与すると、ほのかも。
「流の吐息を」
 とドラゴニックミラージュで傷付け、スミコもペイルウイングで、急接近した上での稲妻突き。
 そして、ディフェンダーのヒエルが。
「お前の攻撃は必ず当たる。これまで培ってきた経験が生きるはずだ」
 と、前衛列に『当足一閃』で狙アップを付与する事で、命中率を高めた上でイコちゃんが応援動画、魂現拳はキャリバースピンと続く。
 ……そして、共に行動が一巡し、次の刻。
 更に遊鬼が達人の一撃を強烈に叩きつけていくと、ラルフも絶空斬で続き攻撃、そしてジャマーも旋刃脚で、大量のパラライズを付与。
 流石に、動きが鈍りつつあるドリームイーター。
 次は右手から風船を、ケルベロス達の上方に投げつけて……破裂すると、その中からは重い重い鉄塊が降り注いでくる。
 この鉄塊を、咄嗟にカバーリングするは魂現拳……車体が大きくへこんでしまう。
 すぐにルルがスターサンクチュアリを掛けて、傷口を回復。
 そしてリリアが惨劇の鏡像に、ほのかが。
「続きます……」
 と連携し、接近しての絶空斬。
 そして、その間にスミコはドリームイーターの背後へと回り込んで……バックスタブの一撃。
「へっへ、驚いた? どうだい、自分がびっくりした気分は……!」
 と言い放つ。
 ピエロは、それに何か言葉を発すわけでも無く……いや、今迄に喰らった大量のパラライズに、苦悶の表情を浮かべている。
 そして……そんなドリームイーターには、変わらず多くのパラライズを付与し続け、苦しめて……経過する事、十数分。
「迷惑なピエロは、必ずここで倒しましょう」
 と、リリアが『比礼ノ踊リ手』を叩きつけた瞬間……ドリームイーター、がくっと片膝から崩れ墜ちる。
 ……すぐに再度立ち上がるものの、ドリームイーターの体力は最早……限界に近づいてきている様で。
「……そろそろでしょうか。一気に畳みかけましょう」
 と、ほのかの言葉に皆も頷き、一斉攻撃を畳みかけるケルベロス。
 立ち上がりすぐに、そんな猛攻を受けては……ドリームイーターはそれを押し返す力も無く……怒濤の如く押し込まれ、そのまま、崩れ墜ちるのであった。

●驚きと共に
 そして……ピエロのドリームイーターを倒したケルベロス達。
「ふぅ……終わったか」
「ええ……お、お疲れ様でした。皆さん無事ですか?」
 汗を軽く拭い祓うヒエルに対し、ちょっと自身なさげの言葉で皆を伺うほのか。
「ああ、大丈夫。問題ありません」
「そうですか……良かったです……」
 遊鬼の言葉に、ほっと胸をなで下ろすほのか……そして、その傍らでラルフが、消え失せようとする、倒したドリームイーターの魂を吸収しながら……親玉である、第三の魔女・ケリュネイアについて。
「……どれだけ、ケリュネイアは強力な存在なのだろうな……」
 とぽつり。
 次々と、驚きの夢を具現化し、ドリームイーターとして仕立て上げるケリュネイア。
 未だにその尻尾が掴めても居ないのだが……でも、こうして一つ一つ対処するのが、今できる精一杯の対処であろう。
「さて……周りの建物の修復が終わったら、少年の元へ向かうとするか」
 とヒエルの提案に、リリアが。
「そうね。被害者の少年も、ドリームイーターが倒れた事で程なく目を覚ますでしょうしね」
 と頷き、そして傷の回復、建物の被害の回復をささっと実施。
 そして……一通り片付けを終えた後、夢を奪われた少年の元へ赴き……状況を確認。
「さて……少年は無事に目を覚ましたかしら?」
 と意識を確認。
 ……身を捩らせる少年、その表情にふとした笑顔。
「どうやら……大丈夫そうですね……」
 とほのかの言葉に頷きながら、リリアが。
「ええ……今、少年が見る夢は、幸福に満ちた、楽しい夢でありますように……そう思います」
 ふふっ、と微笑むリリア。
 そして、少年の元に跪いて。
「神さま、どうかこれからもわたしたちを見守っていて下さいね」
 と手を合わせ、祈りを捧げるのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年6月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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