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建設途中の運動場に、ミス・バタフライは訪れていた。
遠くないうちに歓声に包まれるであろうスタジアムには、彼女と配下の2名の螺旋忍軍だけが夜風に吹かれていた。
「あなた達に使命を与えます。この街にオーダーメイドの運動服を作る職人が居るようです。その人間と接触し、技術を確認して可能ならば習得した後に殺しなさい。グラビティチェインは奪わなくても構わないわ」
作りかけのスタジアムには、まだ椅子もないが手すりに腰かけてミス・バタフライが、部下に命じる。
「了解しました、ミス・バタフライ。一見、意味の無いこの事件も、巡り巡って、地球の支配権を大きく揺るがす事になるのでしょう」
部下たちは頷き、スタジアムから飛び去って行く。
それを見届けると、ミス・バタフライもその場を後にするのだった。
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「山之内・涼子(おにぎり拳士・e02918)さんの心配していた通り、ミス・バタフライの動きが予知されました。今回狙われるのは運動服のデザイナーの方のようですね」
一般的には知られていないが、専門的な競技用にオーダーメイドで運動服を作っているらしく、建設中のスタジアムの側に店を構えている。
「彼女の行為がどんな結果を狙っての物なのか分かりませんが、それはきっとケルベロスに対して不利な状況を作り出すものに違いありません」
もちろん、それがわからなくても一般人が殺されるのを見逃すわけにはいかない。
「今回も螺旋忍軍を撃破して、ミス・バタフライの企みを阻止して下さい」
セリカはそう言うと職人が仕事場にしている建物を拡大する。
2階建ての倉庫風の建物で、1階には着心地を確かめる運動スペース、2階にはミシンやアイロンなどの置かれた作業スペース。
建物の裏手には、布類を保管する物置がある。
「事前に職人さんに避難されてしまうと、別の人を狙いに行く可能性がありますが、螺旋忍軍が現れるのは3日後、それまでに事情を説明して技術を身に着ける事が出来れば、狙いを皆さんに変える事も出来ると思います」
特殊な服のため、習得することは容易ではないかもしれないが、それでも習得できる可能性はあると、セリカは言う。
「姿を見せる螺旋忍軍は2人、1人はエアシューズを武器にした背の高い男。もう一人は日本刀を武器にするようです」
基本的には二人は一緒に行動しているが、ケルベロスが囮となり上手く分断できれば、戦闘はかなり楽に進められるだろう。
「物置や運動場など、お店の敷地の中でもお互いに目の届かない場所を利用すれば、文壇もしやすいと思います」
表示された店の敷地を拡大しながら、セリカはケルベロス達にそう言った。
「ミス・バタフライが何を目指しているのか、それは不明ですが。きっとそれは私たちに不利となることに違いありません。皆さんの手で彼女の企みを阻止してください」
最後にそう言って、セリカはケルベロス達を送り出すのだった。
参加者 | |
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ラハティエル・マッケンゼン(マドンナリリーの花婿・e01199) |
山之内・涼子(おにぎり拳士・e02918) |
ライゼル・ノアール(仮面ライダーチェイン・e04196) |
空鳴・無月(宵星の蒼・e04245) |
フォトナ・オリヴィエ(マイスター・e14368) |
ヒマラヤン・サイアミーゼス(カオスウィザード・e16046) |
東雲・菜々乃(のんびり猫さん・e18447) |
紅・姫(真紅の剛剣・e36394) |
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一見すれば大型のスポーツショップか、スポーツジムのような作りの建物に、スポーツウェア専門店と看板が取り付けられていた。
(「体操服? 良く分からん、な。これが世界の行く末を左右する一戦とは、とても思えないが……」)
看板を見上げて、ラハティエル・マッケンゼン(マドンナリリーの花婿・e01199)が首をかしげる。
(「まぁ、敵の事情には興味がない。いつものように、ただ屠るだけだ。フッ……」)
しかし、敵の思惑などその程度の事と切り捨て、彼は笑みを浮かべる。
「ミス・バタフライの動向も気になりますがまずは螺旋忍軍二人を止めないといけませんね。体操服職人という珍しい方を守らないといけませんがきっと凄い体操服なのでしょうね」
運動する気はないが、東雲・菜々乃(のんびり猫さん・e18447)もどうせ着るならよいものをと、期待を膨らませる。
「動きやすさはトレーニングにも影響するからな」
そんな菜々乃とは対照的に日ごろからトレーニングをしている紅・姫(真紅の剛剣・e36394)も、期待しているようだ。
「運動服が、螺旋忍軍の悪事に、どう関わってくるか、分からないけれど……放っておくわけには、いかなさそう……」
空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)は、螺旋忍軍の凶行から職人を守ると、強く思いながら。
それぞれの思いを胸に、ケルベロスは職人の店へと足を踏み入れた。
「これは、意外に広いな」
まず現れた運動場を見渡す、ライゼル・ノアール(仮面ライダーチェイン・e04196)がその奥に店主らしき男の姿を見つける。
「唐突で申し訳ないんだけど……どうか宜しくお願いします!」
自らの身分を明かして説明するフォトナ・オリヴィエ(マイスター・e14368)に、店主は不思議そうな顔をでケルベロス達を見回す。
「そういう事なら構わんが……うちはオーダーメイドだからね」
「大丈夫です! 作ったらちゃんと着ますよボク!」
普段からジャージを愛用する山之内・涼子(おにぎり拳士・e02918)が、人一倍の愛着を持っているとアピールすると、店主は満足そうにうなずく。
「そうか、それにお前さんならうちの体操服もよく似合いそうだな」
そう言ってにこやかに笑う店主の手元では、運動着の絶滅危惧種とも呼ばれる紺色のブルマーが丁度完成したところだった。
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運動場から裏手の倉庫までを確かめるようにゆっくり歩くライゼル。
「あっちが物置で……こっちが運動場ね。実際歩いてみるとこんな感じか」
「結構広いね。そう言えば、ヒマラヤンは修行に回らなくても良かったのかい?」
ライゼルと共に歩くラハティエルが、邪魔になりそうな段ボールを運んでいたヒマラヤン・サイアミーゼス(カオスウィザード・e16046)に尋ねると、彼女は緩く首を振る。
「私は機械関係はそれなりに得意なのですが、お裁縫とかデザインとかは苦手なので、他の人に任せるのですよ」
その分はこうして運動場などを動きやすくして、彼らは修行に打ち込む仲間たちを待つのだった。
「う……これだと少しきついかも」
選んだ生地の問題か、涼子の試作したブルマは彼女のサイズに合わせて作ったはずなのに、試着してみると少々固い。
「今度は……別のに、してみる?」
並べられた生地から今より少しだけ柔らかめの素材を選んで、無月が涼子に手渡す。
「伸びる分も形を考えないといけないのね。ねるほど」
スーツなど普段使う衣装など、伸び縮しない普通の服との違いに感心しつつ、菜々乃もオリジナルのデザインを引いていく。
「ここでは他にはどんなものを作っているの?」
それぞれに指導をする職人に、姫が何を作っているのかを問いかける。
「基本的にはウェア系ならなんでも、野球でもバレーでも……まぁたまにはブルマとか特殊な注文もあるけどね」
サンプルとして壁に掛けられているユニフォームを指でさしながら説明する店主の言葉に、姫は頷きながらも最後だけは少し首を傾げていた。
「とりあえず普通のジャージかな、あっちは難しそうだし」
徹夜で基本から教わっていたフォトナは、落ちかける瞼を何とか押し上げながら、自分のサイズに合わせてジャージを縫い上げていく。
ケルベロス達の修業は続き、あっという間に3日が過ぎていた。
専門すぎる店の為、訪れる客の数はとても少なく、螺旋忍軍の2人組が店を訪れた時にはケルベロス達がしっかりと待ち構えていた。
「我ら2人、店主に弟子入りをしたいのだが」
「残念だけど、店主さんの弟子は私たちでいっぱいよ」
姫の言葉に、2人の螺旋忍者は小さく唸る。
「でも、どうしてもと言うのなら私たちが教えてあげてもいいけど?」
手製のジャージを着こんだフォトナがそう言うと、螺旋忍者たちは一度顔を見合わせ頷く。
「是非もない。我らが望むのは人ではなく技術である」
「よろしく頼む」
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螺旋忍者が案内された運動場では、無月が待ち構えていた。
「ここで作る運動着が実際にどんなものなのか、作成者自身が着心地を知っておかないと意味は無い……」
「む、言われてみれば確かに。完成形がわからねば」
早速背の高い男がジャージの感触を確かめようとする間、手持無沙汰なスーツ姿の男の側に、フォトナが近寄る。
「特注品だけあって、生地も良い素材使ってるのね……貴方には生地の選び方を伝授するわ。ついてきて」
彼女の言葉に素直に頷くスーツの男は、フォトナと菜々乃に連れられて外の倉庫へと向かっていった。
スーツ姿の男が運動場から姿を消すと、出入り口の扉が占められケルベロスが姿を見せる。
「私はラハティエル、ケルベロスが一員。悪なる暗躍者よ、我が黄金の炎を見よ! そして、絶望せよ。フッ……」
「……最後、なぜ笑った?」
現れると同時に名乗りを上げ髪をかきあげるラハティエルに、螺旋忍者はうさん臭そうな視線を向ける。
その視線をひきつけるように小さく咳払いをしつつ、ヒマラヤンが螺旋忍者の前に1歩出る。
「何の為に見境無く技術を覚えようとしてるのかは知らないのですが、それで人に危害を加えるなら、止めない訳にはいかないのですよ!」
広げられた九尾扇が生み出す幻影が、ヒマラヤンの周囲でうごめきだす。
「まぁいい、ケルベロスだというのなら蹴散らすのみ」
「守護の鎖よ。ここに!」
ライゼルの地獄化した腕から伸びた鎖が彼の全身を包み、正体を現した螺旋忍者の飛び蹴りを受け止める。
「……そこ」
狙いすまして繰り出された無月の稲妻を纏う槍が、空中で避けきれない螺旋忍者へと突き刺さる。
「我々がこの戦いに勝つだろう……私が、保証する」
体勢を崩す螺旋忍者へ、ラハティエルの地獄の炎が叩きつけられる。
「1人ではやはり不利か……ぐわっ!?」
逃げるそぶりを見せる螺旋忍者を逃がさぬよう、ヒマラヤンが砲撃を畳み掛け、彼女のヴィーが仮面に被われた頭部を引っ掻く。
「いっくぞー!」
運動場の床を蹴って、一気にジェットで加速する涼子が螺旋忍者目がけて拳を振るう。
「ごっ!?」
ゴキンッと、鈍い音を立てて叩き込まれた涼子の鉄拳に、螺旋忍者は崩れ落ちていった。
運動場に集まったケルベロスが、速攻で螺旋忍者を仕留めた一方で、物置では菜々乃達がもう一人の螺旋忍者を足止めしていた。
「……何か音がしたような」
「話に集中する!」
菜々乃の説明の途中で店の方を振り返ったスーツの男は、フォトナに咎められ布の棚に視線を戻す。
「さあ。何度も繰り返さないから、聞き逃さない様にね」
棚に収まっていた布が半分ほどまで説明が済んだ頃、唐突に倉庫の扉が開かれた。
「待たせたね! 君たち!」
勢い良く開いた扉から悠々と歩いて来るラハティエルに続き、ケルベロス達がスーツの男を取り囲む。
「これは……上手くハメられてしまったようだな」
「もう逃がしませんっ!」
小柄な姫の振り回す巨大な鉄塊剣が、螺旋忍者に向けて振り下ろされ、素早く引き抜かれた刀とぶつかりあう。
「いくわよっ!」
姫の鉄塊剣を受け止め足を止めた螺旋忍者へ、フォトナが掌からドラゴンの幻影を放つ。
「思い通りにはいかないよっ!」
幻影の炎に包まれる男を、グラビティチェインが込められたライゼルの槍が貫いた。
「シャァッ!」
しかし、腹を貫かれながらも、螺旋忍者がライゼルへ刀を抜き打ちに振るう。
「そうはさせません!」
ライゼルの首筋に向けて振るわれる刀を、間一髪で菜々乃が受け止める。
「コード・トーラス! これで殴られたら痛いですよ!」
オーラを巨大なガントレットに変たヒマラヤンに殴り飛ばされ、もう一人の螺旋忍者も打ち取られたのだった。
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螺旋忍者を撃退したケルベロス達は、再び運動場に集まっていた。
「いや、やっぱりこれ動きやすいね」
自分用のブルマに身を包み、涼子が確かめるように体を動かす。
「ふつーに覚えるだけ覚えて帰れば、邪魔されないよーな気がするのは、気のせいなのですかね……?」
その様子を眺めながら、ヒマラヤンが螺旋忍者の行動に首をかしげる。
「この度はご協力と貴重な体験、有り難うございました。これからも頑張って活躍してね」
「ご協力感謝致します。良かったらこれどうぞ。見た目は鎖ですが柔らかくて美味しいですよ」
フォトナは激励を込めて、ライゼルは鎖型の中華まんを添えて礼を言う。
「本当に、ありがとうございました」
ぺこりと姫が頭を下げると、店主は照れたように笑う。
「さて、シーズン開幕まであと僅か。頼んだぞ」
そして、ケルベロス達が揃って店を出る中、ラハティエルは足元に転がったラグビーボールを拾い上げ、作りかけのスタジアムへと掲げる。
沢山のスポーツが催される会場では、店主のユニフォームを身に着けた選手が、きっと沢山の人々を熱狂させることだろう。
作者:大亀万世 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年8月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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