夏の影、恐談の足音

作者:幾夜緋琉

●夏の影、恐談の足音
 夏の足跡が聞こえてきそうな、夏間近。
 ジメジメとした風が身体に纏わり付き、寝苦しい夜が続く日々。
 ……そんな、初夏の一日、既にかなりの昔に廃校になってしまった、岐阜県のとある学校。
 木造で、歩けばギシギシと音が鳴り……深夜ともなれば、不気味な雰囲気に包まれる場所。
 そんな廃校に立つは、何処か気弱そうな少年。
「こ……ここ……だ、よね……うう……」
 ……彼は、この近くの小学校に通う少年。
 最近、この学校に関する怪談話が学校内で良く噂になり……興味を持った彼は、真夜中、丑三つ時に来てしまった。
『……階段を歩くと、下の段から足を引っ張る、だったっけ……うう……怖いなぁ……でも……見て、見たいなぁ……』
 彼にとっては、怖い物みたさ、という興味から、彼を個々に引き寄せたのだろう。
 ……しかし、その興味に。
『……ふふ』
 と後ろで突然聞こえてきた、笑い声。
 その笑い声に振り向きざまに……その胸へ、彼女が手に持つ鍵を一突き。
 心臓を穿った鍵が、彼の身体を突き抜けると……。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』には、とても興味があります」
 その言葉と共に、意識を失い崩れ墜ちる少年。
 そして、少年の横には、床を這う様に蠢く、亡者の様な男が姿を現わすのであった。

「皆さん、集まって頂けましたね? それでは、早速ですが説明を始めます」
 と、セリカ・リュミエールは、集まったケルベロス達に一礼すると、早速。
「不気味な物事に強い興味を持ち、実際に自分で調査を行おうとしている少年が、ドリームイーターに襲われ、その『興味』を奪われてしまう事件が発生した様なのです」
「この『興味』を奪ったドリームイーターは、既に姿を消して閉まっていますが……奪われた『興味』を元にして、現実化した怪物型ドリームイーターが事件を起こそうとしています」
「この怪物型ドリームイーターによる被害が出てしまう前に、このドリームイーターを撃破してきて戴きたいのです。このドリームイーターを倒す事が出来れば、『興味』を奪われてしまった被害者も目を覚ます筈ですから」
 そしてセリカは、更に詳しい状況の説明を続ける。
「今回のドリームイーターは、所謂亡者の如き人型のドリームイーターです。しかし身体は半ば暗闇と同化するようになっており、深夜の廃校で身を隠すのが得意な様です」
「幸い怪物は一体ですが、暗闇に潜み、不意を突いて足元を引っ張り、転倒させた上で襲いかかる……というコンボで攻撃をしてくる様です」
「又、足を掴んだ後は、身体を引きずり回し、完全にその闇の身体で覆い隠されると、光も届かないステルス状態になってしまいます。そうなると、見つける事は困難になり、更に見つかるまでの間、ずっと攻撃を受け続ける状態になりますので、注意して下さい」
「なお、彼は自分の事を噂している所に引き寄せられる性質を持っており、見つけ次第、自分は何者か、を問いかける様です。問いかけに答えられずにいたり、外れた答えを行うと、その人を優先的に狙う様なので、その辺りもご注意下さいね」
 そして、セリカは。
「怪談話など、何に興味を持つかは人それぞれでしょう。それは決して悪い事ではありません……ですが、その興味を上手い事利用し、化け物を作り出すのは放置してはおけません。皆さんの力で、この化け物の退治をお願いします」
 と、深く頭を下げた。


参加者
リナリア・リーヴィス(クラウンウィッチ・e01958)
鈴木・犬太郎(超人・e05685)
黒須・レイン(小さな海賊船長・e15710)
ジルベット・アリストスティ(ヴァルキュリアの鹵獲術士・e24541)
ハートレス・ゼロ(復讐の炎・e29646)
言葉・彩色(妖シキ言ノ刃・e32430)
菊地・馨(時の嘆息・e35455)
七尾・八十(ルクスエテルナ・e37919)

■リプレイ

●湿る足元
 ジメジメとした、夏の手前。
 岐阜県にある、とある木造の廃校舎へ……怪談話という物に興味をそそられて、恐れて、やって来てしまった少年。
 怖いけれど、見てみたい……そんな子供心を上手く利用したのは、少年の興味を利用する、第五の魔女・アウゲイアス。
 アウゲイアスが作り出したのは、その学校の怪談を元にした、床を這う亡者のドリームイーターだというが……。
「お、おばけじゃなくてドリームイーターなら怖く無いもんね!! ひ、人を怖がらせて悪さまでしよーだなんてヤツは、海賊船長が倒してくれるー!!」
 胸を張り、威張るように声を上げる黒須・レイン(小さな海賊船長・e15710)。
 なんだか言葉尻が微かに震えていた様な気もするが……それはさておきとして。
 そしてその言葉に菊地・馨(時の嘆息・e35455)と言葉・彩色(妖シキ言ノ刃・e32430)の二人も。
「怪談話、にございますか? 学校の怪談ですか……あぁ……」
「まさしく学校の怪談だね。これからの時期にはぴったりな御話だ……とは言え、少年にはまだまだ早いだろう。よくもまぁ、こんな時間に抜け出せたものだよ」
 溜息、もしくは深呼吸をする馨に対し、彩色は白い狐の面の下で、くすくすと笑う。
 ……と、そんな仲間達の会話を聞きながら、改めてセリカから聞いた依頼の詳細を思い出し、口にするのはジルベット・アリストスティ(ヴァルキュリアの鹵獲術士・e24541)。
「しかし、厄介な相手ですね……今回のドリームイーターの一番の懸念点としては、覆い被さると姿が見えづらくなる……それに、灯のある所では、姿を隠そうとする、でしたよね?」
 と、それに鈴木・犬太郎(超人・e05685)、とハートレス・ゼロ(復讐の炎・e29646)二人も。
「そうだな。今回は相手の姿が暗闇の中で見えない敵と戦うというのか……そしてディフェンダーで相手を暗闇の中から引き釣り出す、と。重要な役回りだが、ま、何とかなるだろ」
「ああ、姿が見えんというのも厄介だよな……その暗闇ごと焼き尽くしてくれようか」
「まあ、焼き尽くすにせよ、掴まった時の対処法はこちらにもある訳だ。勿論仲間を信頼しないと囮役なんて出来ないしな。何とかなるさ」
 そう言いながら、煙草の煙をふかす犬太郎……と、そんな仲間達の言葉に対し、ぼんやりとしながら呟くはリナリア・リーヴィス(クラウンウィッチ・e01958)。
「そうねぇ……私って、あんまり夜目は利かないのだけどねー。まぁ、シャドウエルフとしての野生の勘に頼るとしましょうか。って、でもシャドウエルフの勘って、そんなのあるのかしらね?」
 くすりと笑うリナリア、それにレインが。
「んー……どうなんだろう? まぁ、リナリアには期待なのだ!!」
 レインからの言葉に、はいはーい、とひらひら手を振るリナリア。
 そして、七尾・八十(ルクスエテルナ・e37919)が。
「さあ、七尾・八十の初陣である! 勿論、先輩方の言う事は素直に聞く所存ではあるが、これがあれば万全であるぞ!!」
 手にしているのは、どうやら戦術を色々と収めた戦術書らしいが……事実、その中に記載されているのは、力を高めた上で、力尽くで殴れ、という事が殆どの様で。
 ……まぁ、今の時点ではその事実は彼以外は知らないのだが……。
「まぁ、何にせよしっかりと始末をつけないとねぇ……教えて貰おう。キミという『物語(いろ)』を、キミの『存在(ことば)』で、ね」
 と彩色がくすくすと笑い、ケルベロス達は、真っ暗闇に包まれている廃校舎の中へ、足を踏み入れるのである。

●灯に隠れ
 そして、廃校舎の中を歩くケルベロス達。
 ドリームイーターは、真っ暗闇の中でしか現れない……という事もあるが、敢て灯を点し、進む。
「……これは中々……だな……」
 しかしながら、廃校舎独特の不気味な気配に、額に汗を浮かべながら呟くレイン。
 リナリア以外の他の仲間達に比べては、彼女自身夜目は利くわけだが……でも、怖いものは怖い。
 そして、前、後ろに遮蔽物の無い場所……廊下のような場所に辿り着くと、そのど真ん中で。
「さて、と……それでは始めましょうか」
 と、ジルベットの言葉に、そっと点していた灯が全て消される。
 ……周囲は一気に、闇の中に包まれる。
 ほんの微か、外から入り込む月明かりだけが……その脚元を灯す光。
 ぼんやりとした光は、雲の流れに応じて暗闇、光を繰り返して行く。
「提灯か蝋燭の方が雰囲気が出るのだけれどね……仕方ないかな」
 と彩色がくすっと笑い、その一方。
「……みんなの知ってる怪談話、よね? ……そうねぇ……首が無いのにケタケタ笑う生首の話でもしようかしら?」
 とリナリアが、何時もの通りミミックを椅子にして座りながら、独特の語り口で怪談を始める。
 敢て怪談話を語り始め……ドリームイーターを引き寄せる作戦。
 そんなリナリアの怪談話に続き、ハートレスが。
「それじゃ続けてオレだな。この廃校舎に伝わる噂話なんだが……足の不自由な学生が、悪戯で階段から突き落とされたらしいんだな。そして、そいつは今でも犯人を捜して、通る人間の足を捕まえている、という話があるんだ」
 と、それに彩色、レインが。
「ああ、それは確か『床を這う亡者』の噂話だったかな?」
「おお、あれか! 足をひっぱられるならきょーじんな脚力をつけておくべきだな! 船の上では安定性が何よりも大事だ!」
 ……と、レインが言ったその瞬間。
 ぴとっ、と……レインの足を掴む、ドリームイーターの手。
『……フフフ……』
 と、不敵な笑い声。
 そして次の瞬間、その手がぐっ、と後ろの方に引っ張られ、体制を崩させるレイン。
「にょわーっ!?」
 と謎の叫び声を上げて、ジタバタ、足をガッと振り上げて、握られた手を振りほどく。
 と、そんなレインに馨が。
「後ろから突然声を掛けられたら怖いでしょう? それも暗い夜道や、明らかに自分一人だと油断していた場合……あぁ、その怖さと言ったら、けれども何も声を掛けられないままに、何かが触れたらもっと怖いと思うでございますよ」
 ……そう言う間に、一端またも闇の中に紛れてしまうドリームイーター。
 でも、程なくして次のターゲットを定め、またその足を握り……引っ張る、の繰返し。
 しかし二度目については、さすがにそんなドリームイーターを逃さんが如く、リナリアやジルベットが、前後を封鎖する様にLEDランタンを散らせると……光に逃げ道を封鎖されてしまうドリームイーター。
 勿論、人影に隠れるようにしてどうにか暗闇を探しているが……うぞぞぞと蠢くばかり。
 そんなドリームイーターに対し、スタイリッシュなポージングを取る八十が。
「さて、興味のバケモノか……! 闇から出て闇として喰らうなど、まさしく恐怖そのものの権化。敵ながら見事な擬態よ! だが、闇を祓うが人の智なり! もはや茫洋ならず、人の容を得てしまった闇を、いまさら恐れる訳も無し!」
「そうだぞ。お前が何者かは知らない。お前が何者かはお前自身が決めることだ! でもお前が望むのならば、学校の怪談、と答えてやっても良い!」
 威風堂々と宣言するレイン……対しドリームイーターは地面を這い……そしてケルベロス達に襲いかかろうと、足を掴み、引っ張る。
 そんなドリームイーターの行動に、リナリアは。
「ほら、求めてるのは盾としての働きだからね? そこんとこちゃんと働いてよ、椅子」
 とミミックに指示を与えつつ、眼鏡をちゃっと着用。
 すると、ミミックはブウォォ、とエクトプラズムを吐き出しながら、ドリームイーターの所に突っ込んで行く。
 いや、ミミックだけでなく、ハートレスのライドキャリバーのサイレントイレブンと、犬太郎も……敢てドリームイーターの影の下へと踏み込み、敢て自分から囮になる。
 そして、ドリームイーターが足を掴み、引き倒し……のし掛かってくるのを、ディフェンダー陣は敢て身を呈して受け入れる。
 当然ながら、ディフェンダーを捉え、攻撃している最中においては、敵は逃げることが出来ない訳で。
「皆様、頑張って下さい」
 とメタリックバーストをジルベットが放ち、前衛陣に狙いアップを付与すると、ハートレスも自分自身へインフェルノファクターで壊アップ。
 更に彩色が。
「ではでは、御耳と御目々を同時に拝借。今宵を彩るは怪奇譚。どうか、最後の時までお楽しみいただけますよう……」
 と幻夢幻朧影で妨アップを付与する一方、八十が。
「この地形、この戦術……そうだな」
 と、百戦百識陣『八光覆闇の陣』にて、破剣付与。
 そして、一通り強化を付与した後に。
「さあ、受け取れ! 私の重いを! 強さを!!」
 と、力強くレインは言い放ちながら、『海賊船長の一撃』を叩きつけると、馨も。
「罪は知らずに増え、身を穢すのですよ」
 とスターゲイザーを放ち、馨のシャーマンズゴーストのカイロスも神霊撃で攻撃。
 ……勿論、襲われているディフェンダー陣に対しては、リナリアがウィッチオペレーションで回復を飛ばし、体力を維持する。
 そして次の刻……身体の半分以上が覆われていくが、まだ、敢て受け続ける犬太郎。
 ジルベットのスターサンクチュアリに続き、彩色が。
「今よりこの場を彩るは、呪われし縄の付喪神の御話……」
 と、禁縄禁縛呪で縛り上げる。
 その一方、レインのブラッディダンシングに、ハートレスのドラゴニックスマッシュ、八十の達人の一撃に、馨が稲妻突き。
 ……本来であれば、かなり当たりづらい敵だった筈が、囮になった上、退路を塞ぐ為に展開した灯がはっきりとドリームイーターの姿を映し出し……攻撃は当たり続ける。
 そして3ターン目……流石に、半分以上覆われ、完全に覆われる直前にて、犬太郎は。
「っ!!」
 と、至近距離でブレイズクラッシュを放ち、ドリームイーターを燃やし、引き剥がす。
 着火した身体に、燃え上がる炎……そして、そんなドリームイーターを狙い澄まして。
「今よりこの場を彩るは、蜘蛛の身体に牛の頭をもつ鬼の御話……」
 と、『実在した怪異譚『廃工場の牛鬼』』を至近距離で放つ。
 流石に身の危険を感じたのか……其の場から離れ、逃げようとしようとするが。
「逃さん!!」
 とハートレスが、『偽・絶空斬』にて退路に一閃を叩き込み……そして、それにサイレントイレブンがキャリバースピン。
 そして犬太郎が。
「地獄の炎を信じればいけるさ。焦らずに行こう」
 と言うと共に、犬太郎が『七式連撃レインボウ』を連続放射し……ドリームイータは蜂の巣になり、崩れ墜ちていくのであった。

●興味の影に隠れ
 そして……。
「今宵を彩った物語【床を這う亡者】……これにて、閉幕」
 と彩色の言葉に安堵し、息を吐くケルベロス達。
 そして改めて、周囲に灯を掲げて確認……色々と戦闘の結果、壊れてしまっている部分はあるものの、ドリームイーターの影も、形も、完全に消え失せている。
「それでは、後片付けを始めると致しましょうか……」
 と、周囲の後片付けを、ヒールグラビティを使い、始めるジルベットに……他の仲間達も手分けをし、始める。
 ……みるみる内に、怪談の舞台が少しファンシーな彩りに彩られていく。
 と、何にせよ一通りの修復を終えた後。
「しかし怪談ねー。これだけデウスエクスが出張ってても、そういう需要はあるんだね」
 と言うと、馨は。
「やれやれ……と。人の興味は尽きないものにございますねぇ……」
 と溜息。
 ……人の噂も七十五日、とは良くいったもので、噂は現れては消えていく。
 何にせよ、ドリームイーターも倒し、後は帰るだけ……ではなく。
「後は被害者の方を探すと致しましょうか」
 とジルベットの提案に頷き、ケルベロス達は廃校舎を離れ、ドリームイーターに驚きを奪われた、彼の姿を捜索。
 程なくして発見した少年の怪我の具合を確認、ヒールを掛けて、気を取り戻すのを、待つ。
 ……そして、気を取り戻した彼に。
「最近は、皆様の興味を奪い、危害を加えるデウスエクスが出没しています。余り一人で出歩かないように、気をつけて下さいね?」
 と、釘を刺すと共に、少年を人気のある所まで送り届ける。
 そして……少年の後ろ姿を見送りながら。
「よしよし……っと。これで依頼完遂だな」
「うん、そうだな! それじゃー、帰るとするか!!」
 犬太郎にはっはっは、と笑うレインの言葉。
 そしてケルベロス達は、その場を後にするのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年6月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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