ミッション破壊作戦～侵食するモザイク

■リプレイ

●髪を奪う夢喰い
　ヘリオンが目指すは、秋田県大館市。
　とある高校に現れた強襲型魔空回廊の破壊に、ケルベロス達は臨む。
「髪を奪うドリームイーターですか……」
　神白・鈴（天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623）の呟きに、ホルン・ミースィア（破光の射手・e26914）が首を傾げた。
「髪の毛の美しさかぁ」
　この地を巣食うドリームイーター、キューティクルハンター・セシカは、髪に執着するという。子供のホルンに理解は難しいようだが、モザイクに髪の毛取られるとハゲちゃうのかなと、彼女は疑問を抱いていたようだ。
「ハゲるのはやだなぁ……」
　しばしホルンは唸っていたが、そっかと何か思いつく。
「敵も髪の毛大事って言ってるし、ハゲるの嫌なはずだよね。なら、精神的にダメージを与えればいいのかもっ？」
　できるだけ迅速に強敵、セシカを撃破したいところだ。
　メンバー達は作戦の後詰めを行い、ウルトレス・クレイドルキーパー（虚無の慟哭・e29591）がメインとなり、効果後の合流地点を決める。
　その際、神白・煉（死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023）はミッション破壊に意欲を見せていた。
「……夜葬華ノクスのミッションは、他のチームが破壊したか……」
　それは、死神の巣食っていたミッション。煉は自身の手で破壊したかったと、悔恨の念を示す。
「……ミッション破壊作戦の経験が足りねぇか」
　自分達はまだまだ未熟。姉の鈴もまた、弟と同じ気持ちだ。
「逆落としの強襲で、敵拠点を直接叩くとは爽快でござるな！」
　一方、初のミッション破壊作戦となるカテリーナ・ニクソン（忍んでない暴風忍者・e37272）はテンション高く叫ぶ。
「今回は破壊出来るでありましょうか……」
　こちらは２度目の日帝・泰山（白鴉・e15428）は不安げに言葉を漏らすが、すぐに気を引き締めて。
「いえ、破壊する、しなければならないでありますね」
　この地球上でデウスエクスの理不尽に泣く者がいる限り、ケルベロスは歩みを止めるわけには行かないのだ。
「秋田犬かわいいでござるよ、秋田犬。早く大館を解放して、秋田犬パラダイスへ往くでござる」
　どうにも、小難しい作戦会議は苦手らしく、カテリーナは感情の赴くままに自身の決意を語る。
「絶対にこの地を取り返すって気概、高めさせて貰うぜ」
　今回こそ。煉は姉や仲間と共に、眼下に見えてきた大館の街を見下ろすのである。

●叫びを力に
　ヘリオンから飛び降りたケルベロス。
　その真下には高校の校舎、そして、強襲型魔空回廊が口を開いている。
「この毛フェチどもめ。さては、もふもふの秋田犬の毛を狙っているでござるな？」
　真っ先に、意気揚々と飛び降りたカテリーナが飛び込む。
　本当にセシカが犬の毛まで狙っているかはさておき、カテリーナは「そうはいかぬでござる！」と、なおも語る。
　秋田犬のもふもふは、厳しい冬の寒さを乗り越える為のいわば鎧甲。そして、人々の大事な友人が持つ、癒しの肌触り。
「これぞ、夢心地というもの！」
　夢すらも喰らおうとする夢喰いの所行に、彼女は赦すまじと憤る。
「お主等には、プードルをトリミングしたときの毛すら勿体ない！　ここで、打ち首GOKUMONにござるよ！！」
　伸ばしたグラディウスの刃が校舎を包むバリアを取り払い、魔空回廊へと突き刺さる。
　同時に放たれる眩い光。この場にいたデウスエクス達は皆、その光に灼かれ、目を眩ませてしまう。
　続くホルンは拳をぐっと握り、グラディウスを自らの広いおでこに当てて。
「きっとできるはずっ！　ひっさぁつっ！！　ヴァルキュリアァフラァッシュッ！！」
　彼女は光に紛れ、おでこに当てた刃を魔空回廊へとぶつけた。
　発せられる雷光、爆炎。それらが校舎を包み込むが、ケルベロスの攻撃はまだ終わらない。
「最近は短髪の連中も増えたが、やはり今でもメタルバンドマンにとって髪は命」
　淡々と語るウルトレスは、こよなくメタルを愛している。
　そんな彼は、加齢によって長髪スタイルと泣く泣くお別れする前に他人に奪われるなど、言語道断と断じた。
「髪は長く大切な友達だと知れ」
　普段は感情を込めずに語るウルトレス。だが、彼は全霊を込めた慟哭（グロウル）を、デスメタルのボーカリストとしてシャウトする。
「ヴォォォオォォオォァァ――！！！」
　また、１本、突き刺さるグラディウス。そのそばに、ノーザンライト・ゴーストセイン（ヤンデレ魔女・e05320）が降り立ってくる。
「モザイクを晴らしたいのだろうけど、人を狩られては堪らない」
　大声を出すのは苦手なノーザンライトは、独白するように言葉を投げかける。
「わたしの恋人の一番の自慢は髪。そこに手を出したがるような輩は許さない」
　さらに、彼女は私情を挟み、拒絶と憎悪をグラディウスへと込めて。
「髪は女の命……毛根は男の生命線。常識知らずの、髪泥棒は黄泉　路がお似合い……地球に来るなッ！」
　一気に、ノーザンライトは魔空回廊へと襲い掛かる。
　魔空回廊の所々から、漏れ出すように噴出すスモーク。重なる作戦によってダメージが積み重なっているのか、所々に亀裂が確認できる。
「テメェらドリームイーターは、足りねーモンを何でもかんでも他人から奪いたがるよ、ナァ？」
　今度はアウトローな出で立ちの除・神月（猛拳・e16846）が八重歯を煌かせ、この下にいるであろう夢喰いへと問う。
　自慢できる人生など、歩んでいないと自認する神月だが、なんでも奪えばそれでいいというやり方は胸糞悪すぎて、見過ごせはしない。
「足りねーんだったら、自分の力で生み出すぐれーの事はしてみやがれってんダ！」
　歯止めの利かぬ衝動を。神月は叫びと共に振り上げた小剣へ。
「これ以上、此処に奪わせるもんは一つもありゃーしネェ！　とっとと諦めて帰りやがレェェェ！」
　次の瞬間、一際、大きな破壊音がこだまする。
　鈴、煉、そして、泰山がトドメをさすべく、同時に仕掛ける。
「髪を奪うドリームイーターか」
　魔空回廊を見下ろす煉。以前、足を奪う夢喰いがいたようだが、それに比べれば可愛いものかもしれない。
　だが、高校に巣食う夢喰いを見過ごすわけには行かない。
「このドリームイーターの犠牲になった方の中には、気味悪がられて故郷から追放された人もいるとか……」
「こいつに奪われた髪は二度と生えてこねぇらしいじゃねぇか」
　鈴、煉が言うのは、過去２度の作戦にも参加していたオラトリオの女性のことだ。髪を奪われた彼女は、泣く泣く引っ越したと言う話だ。
　髪は女の命。多感な時期に全ての髪を失うなど、女性ならば尋常ではないほどの衝撃を受けるはず。
「髪には、特別な意味が込められる事があります」
　泰山もまた、告げるように言葉を紡ぐ。
　愛する者の無事の祈り、亡き者への想い。憎き者への呪い、自身の決意。
　ただの髪だと言う者もいるかもしれないが、泰山はそうは思っていない。そこには強き想いが宿っている。
「きっと、貴女もそうなんでありましょう？」
　泰山の勝手な推測かもしれないが、その想いがセシカにはない。だから、髪を奪い、想いを手に入れようとしている。
　それに、髪を奪われ、髪を大切に思う心を新たなセシカとされてしまう。ドリームイーターは新たな夢喰いを生むのだ。
「そんな負の連鎖は許されません！」
　人の心を歪め、奪い、悲しみで満たす夢喰いへ……鈴は渾身の一撃を。
「……返して貰うぜ。てめぇが奪い、壊した幸せの全てをなっ！」
　星の未来の未来を担う若者の心を傷つけさせぬ為に、煉はこの刃を。
「貴女への憐れみと義憤の気持ちを……」
　泰山は神白姉弟に合わせ、グラディウスを突き出す。
「その所業、ここで食い止めるっ！　砕け散れぇぇぇぇっ！」
「消え去りやがれ、デウスエクスゥゥゥっ！！」
「この剣に込めて振るおう。グラッッディウスッッッッ！！！」
　３本の刃は魔空回廊の内部にまで突き刺さり……、貫通した。
　溢れるスモークが視界を埋め尽くす。次の瞬間、七色の光が周囲を包み込み、激しく爆発を起こした。
　校舎の屋上に着地したケルベロス達が頭上を見上げると、亀裂の入った魔空回廊は崩壊し、その存在を無くしていく。
「やった……」
　誰からともなく漏れた声。この地のミッションの破壊に成功したのだ。
　だが、作戦はまだ終わってはいない。
　メンバー達はすぐに気を引き締め、全員と合流を図る。
　グラディウスは各自しっかりと確かめ、ウルトレスは懐へ、鈴は弟に預け、煉がポケットへ。
「態々残る必要はねーシ、脱出だゼ」
　神月に同意するメンバーはこの場から離脱しようとするのだが、モザイクに包まれた七色の髪を持つ夢喰いが神妙な表情で煙の中から影を表す。
「禿げろ……じゃなくて、爆ぜろ」
　吸っていた酸素スプレー缶を、ノーザンライトはその影に向けて投げつけ、ドラゴンの幻影を放つ。余談だが、スプレー缶は火気厳禁なので注意したい。
　その影は手にする鍵でスプレー缶を遠くへ弾き飛ばしたが、炎までは防げなかったようだ。
「よくも、やってくれましたね……」
　眉を顰めるセシカは執着するはずの髪にすら触れず、ケルベロスを睨みつける。
「秋田犬との触れ合いを邪魔するドリームイーター、赦すまじ！」
　そこで、螺旋手裏剣を構えたカテリーナが声を荒げる。
「拙者の手裏剣で、キレイキレイのマルガリータにしてやるでござるよ！」
　構えを取るケルベロスへ、眉尻を吊り上げたセシカは手にする鍵を振り上げたのだった。

●キューティクルハンター・セシカ
　襲い来るセシカへ、巨大鎧装と一体化したホルンが仕掛ける。
「キミもモザイクを取ったら、光を反射するスキンヘッドなのかもしれないねっ♪」
　光の翼を羽ばたかせる彼女は敵を煽りつつ、虹を纏う蹴撃をセシカへと叩き込む。ホルンを狙ったセシカの鍵による斬撃は、ウイングキャットのルナが盾となって受けていた。
「サイレンナイッ　フィーバァァァァッ――！！！」
　ウルトレスが奏でるベースギターから、疾走感のあるデスラッシュ・サウンドが響き渡る。
　それに力を得て飛び込む前衛陣。神月が殺意の拳を叩きこむと、ノーザンライトが無表情で敵に肉薄していく。
「大丈夫、モザイクで見えないから」
　ノーザンライトは至近距離から石化びーむ……名づけて、毛根死滅光線を放つ。
「大地に眠る祖霊の魂……今ここに……闇を照らし、 道を示せ！」
　後方の鈴は巫術によって狼の群れのエネルギー体を召喚し、前方のメンバーの目的補足に一役買う。直後、姉の支援を受けた煉が、音速の拳をセシカへ見舞っていたのだ。
「捨て奸とは名ばかりの技でありますが……！」
　後方からは、自身の心を削った泰山が召喚を行う。日本に存在したあらゆる戦闘集団を模した機械兵士達。彼女はそれらを特攻させていく。
「この髪フェチめ。動くなでござる」
　その隣のカテリーナが敵の心の奥底から具現化したのは、髪の毛ばかりを取り上げた本。その内容に、彼女もびっくりである。
「……世界の業の深さを、思い知ったでござるよ」
　内なる闇を垣間見られてなお、セシカは忌々しげにケルベロスへと巨大な鍵を突きつけた。

　１分でも早く撃破を。
　猛攻を仕掛けるケルベロスだが、抵抗するセシカも手にする鍵でケルベロスのトラウマを呼び起こす。
　それは、凍結光線をライフルから発射していたウルトレスへ命中する。
（「……以前は、人を殺めていたんじゃないか」）
　記憶はないが、ウルトレスは自身が元ダモクレスだったのではと考えている。それだけに、正義面してヒーローごっこをやっている資格などあるのか。彼は目の前に現れる人影に言われ、自責の念に苦しむ。
　だが、ボクスドラゴンのリューちゃんことリュガが、青い炎のブレスを吐きかける。それによって、ウルトレスは正気を取り戻していた。
　セシカはなおも、ケルベロスの髪を奪わんと鍵を振るう。
「盾の役割、ボクたちで分担してしっかり果たそうねっ！」
　ホルンはルナと共に展開したビット群を制御し、敵へと全方位からレーザーを集中砲火させ、敵の怒りを煽る。
　対して、攻撃のほとんどをホルンはルナと共に受け止める。彼らの傷は、鈴が呼び出した御業を鎧とすることでカバーしていたようだ。
　仲間がセシカを抑える以上、ノーザンライトは攻めあるのみ。
「目覚めろ獣の血よ。宿れ月の魔力よ。唸れこの手足……ウェアライドアーツ」
　月の魔力を取り込んだ彼女は、光の軌跡を描きながら猛攻撃を浴びせかけていく。
　ケルベロスの勢いは、今のセシカを大きく上回る。
「己が引剥をしようと恨むまいな。己もそうしなければ、饑死（うえじに）をする体なのだ」
　それは、芥川龍之介作「羅生門」の一説。泰山は悠然とセシカへと言い放つ。
「今の状況とは全く関係ない言葉でありますが、髪を奪う醜い貴女にはお似合いの台詞でありますよ」
　そして、彼女は日本刀を握り、緩やかな斬撃を叩き込む。
　続けざまにカテリーナも手裏剣を投げつける。その毒が少しずつ体を蝕もうとも、セシカは動きを止めない。
「私の髪は世界一美しくなる……！」
　セシカもまた強い想いで、自らの体に喝を入れる。
　だが、ケルベロスもそれを認めるわけにはいかない。神月が電光石火の蹴りを正面からその腹へと食らわし、ノーザンライトが獣となった己の腕を叩き込む。
「世界一美しい髪は、わたしの恋人の髪ッ」
「くっ……」
　プレッシャーを受けた敵を見て、煉は奥義の為に呼吸を整える。
「これが親父から受け継いだ、俺の牙だっ！」
　蒼き狼となった烈火の闘気が彼の右手を包む。迸る炎と共に疾走した煉はセシカの体を燃やし、喰らい尽くさんとした。
「私の、髪……か、み……」
　その全身がモザイクに包まれ、薄れていく。
「ふん。気分の悪い、敵」
　完全に消え去った敵へ、ノーザンライトは鼻を鳴らして言葉を吐き捨てたのだった。

●魔空回廊の消えた地で
　強敵、セシカを倒したケルベロス一行。
「新手が来る前に、速やかに離脱でござる！」
　叫ぶカテリーナに続き、ケルベロス達は煙に紛れて、この場を離れていく。

　ある程度移動したメンバーはようやく一息つき、作戦の完全成功を再認識する。
　カテリーナはたまたま近辺を歩いていた秋田犬をもふり、心の傷を癒す。他メンバーは怪我の手当てをしつつ、ミッション攻略の別班と合流して離脱予定だ。
「ひとまず、終わったが……」
　魔空回廊のなくなった高校の校舎を見つめるウルトレスは、くわえたタバコに火をつける。
　ドリームイーター勢力は勢力拡大の為、また別の場所に別の手勢を出現させる可能性は高い。
「この大掛かりなモグラ叩き、いつまで続ける必要があるんだろうな」
　紫煙をたなびかせた彼は、そんな物思いに耽るのだった。

作者：なちゅい	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年6月23日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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