驚愕! 死を呼ぶ激辛チョコレート!?

作者:雷紋寺音弥

●激辛の夢
 大通りから、少し離れた場所に佇む喫茶店。少しレトロな外観に、お洒落な感じの漂う小者が置かれている店内だったが、しかしそこに客の姿はない。
「な、何故だ……。何故、誰も俺の熱い想いを理解しようとしてくれないんだ!」
 薄暗い店内で、嘆き悲しんでいるのは店主の男。その傍らに置かれた小さな籠の中には、何故か山盛りの唐辛子が。
「甘さと辛さの融合! ポリフェノールとカプサイシンのダブルパンチ! 長年、研究に研究を重ねて作り上げた唐辛子チョコレートを用意したのに、何故、こんなことにぃぃぃっ!!」
 涙ながらに叫びながら、男は籠の中の唐辛子をヤケ食いしていた。もはや、悲しくて泣いているのか、辛くて泣いているのかさえ、傍から見ただけでは解らない。そんな男の背後には、いつしか巨大な鍵を持った女性が現れており。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『後悔』を奪わせてもらいましょう」
 その言葉と共に、背中から心臓を鍵で貫かれ、倒れる男。
 第十の魔女・ゲリュオン。彼女が喫茶店から去った後には、やたら暑苦しいオーラを身にまとった、店主にそっくりのドリームイーターが姿を現していた。

●甘くて辛い刺激物!?
「召集に応じてくれ、感謝する。光宗・睦(上から読んでも下から読んでも・e02124)が懸念していた通り、唐辛子チョコレートを専門とする喫茶店を経営していた男が、ドリームイーターに襲われて、自分の店が潰れた『後悔』を奪われるという事件が発生した」
 急ぎ、現場に向かって、ドリームイーターを撃破して欲しい。だが、戦闘を優位に進めたいのであれば、別の意味での覚悟が必要になると、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)は集まったケルベロス達に意味深な言葉を告げた。
「単に敵を倒すだけなら、いきなり店に乗り込んで戦闘を仕掛ければいい。お前達の他には客もいないだろうから、邪魔が入る心配もない」
 もっとも、戦闘を優位に進めたり、被害者の抱いている後悔の念を取り払ってやろうとしたりするなら、実際に客としてサービスを受ける必要がある。この店は唐辛子チョコレートを扱っており、それを食べることでドリームイーターを満足させれば、戦闘力が低下するのだ。
「そういうわけで、お前達の中に唐辛子チョコレートへ挑戦したい者がいるなら、食べてみるのも一興だぞ。まあ、あまりの辛さに客が逃げ出して店が潰れたくらいだから、その辛さは想像を絶する物があると思うがな」
 ちなみに、唐辛子には辛さを数値化したスコヴィル値というものがあり、タバスコで1200、ハバネロで10万ほどである。だが、この店で使われていた唐辛子は、その上を行く『キャロライナ・リーパー』という品種。スコヴィル値にして150万であり、催涙スプレーの8倍近い破壊力を誇るキワモノである。
 正直、これでは客が口から火を噴き、逃げ出してしまったというのも頷ける。しかし、この店には更にその上を行く、凄まじいメニューがあったようで。
「最近、店主が考案したメニューの中に、『Dragon's Breath chile』を使ったチョコレートがあってな。こいつのスコヴィル値は240万。正真正銘、世界一辛い唐辛子ってわけだ」
 平然とした顔でサラッと告げるクロートだったが、正直なところ、これは洒落にならないどころか冗談抜きで死者が出るレベルだ。ケルベロスはグラビティ以外でダメージを受けないが、だからと言って、普通に食べられる代物ではない。
「戦闘になると、敵はモザイクの唐辛子を投げ付けてきたり、口から炎を吐いたりして攻撃して来るぞ。ピンチになると、自分で唐辛子を食って体力を回復することもあるようだな」
 最後の最後まで、実に暑苦しい敵である。しかし、これも全ては人々をデウスエクスの脅威から守るため。夢破れて意気消沈している店主を救うためにも、是非とも力を貸して欲しい。
 そう締め括り、クロートは改めてケルベロス達に依頼した。


参加者
八剱・爽(エレクトロサイダー・e01165)
光宗・睦(上から読んでも下から読んでも・e02124)
シア・メリーゴーラウンド(実らぬ王冠・e06321)
サフィール・アルフライラ(千夜の伽星・e15381)
桜庭・萌花(キャンディギャル・e22767)
レテ・ナイアド(善悪の彼岸・e26787)
ダンサー・ニコラウス(クラップミー・e32678)
ライ・ハマト(銀槍の来訪者・e36485)

■リプレイ

●熱くて辛くて痛いチョコ
 報告にあった店を訪れたケルベロス達が扉を開けると、店内から漂って来たのは、鼻腔を刺激するなんとも言えない臭いだった。
 チョコレート特有の甘い香りに、なにやらスパイシーな香りも混ざっている。しかも、清涼感溢れる香辛料というよりは、とにかくヤバい辛味の臭いしかしていない。
「おや、お客様ですね。いらっしゃいませ~♪」
 ケルベロス達に気づき、店主の姿をしたドリームイーターがカウンター越しに笑顔を向けて来た。とりあえず、案内されるままに席について、メニューを広げてみたのだが。
「たくさんのチョコレイト。これは? こっちとこっち、どちらが辛い?」
 名前や写真だけではどうにも解らず、ダンサー・ニコラウス(クラップミー・e32678)が指差して尋ねた。一応、辛さのレベルが炎マークで横に描かれていたが、そもそもレベル1の辛さでどの程度なのかさえ、どうにもはっきりしないわけで。
「こちらのチョコレートは、ハバネロを使ったものです。辛さとしては……当店で扱っている物の中では、最低レベルですね」
 輝くスマイルと共に、ドリームイーターはサラッと恐ろしいことを言ってのけた。念のため確認しておくと、ハバネロの辛さはタバスコの8倍~10倍である。ほんの一口齧っただけでも、常人であれば唇や舌が痺れる辛さだ。
「そして、こちらは当店自慢のキャロライナ・リーパーを用いたチョコレートです。辛さのレベルは……まあ、当店で扱っている物の中では、二番目に辛いものですね」
 ちなみに、この唐辛子の辛さはハバネロの15倍。それでもまだ二番目ということに、思わずケルベロス達の背中に冷や汗が走ったが。
「いーじゃん! 挑戦してやろーじゃん! 根性だけは自信あるし!」
 どの道、ここまで来たら退き下がれない。光宗・睦(上から読んでも下から読んでも・e02124)が叫んだところで、他の者達も覚悟を決めた。
「それでは、まずハバネロと、それからキャロライナ・リーパーのチョコレートをお出し致しましょう」
 注文を受け、奥に下がったドリームイーターが戻って来ると、その手には山盛りのチョコレートが乗せられた皿が。やはり、見た目では解らないが、だからこそロシアン・ルーレット的な恐怖を感じさせる代物だ。
「………舐めちゃ駄目ですからね」
 興味深げに匂いを嗅いでいるウイングキャットのせんせいに、レテ・ナイアド(善悪の彼岸・e26787)が横目で注意した。
「それじゃあ頂きま……!?」
 怪しげな臭いを放っているチョコレートを摘まみ、サフィール・アルフライラ(千夜の伽星・e15381)が口に放り込む。シア・メリーゴーラウンド(実らぬ王冠・e06321)もそれに続き、睦もまた適当な大きさのチョコレートを選んで口に入れてみた。
「あれ? ふつーに美味しいチョコじゃん? なんか高級チョコっぽい香りと口どけ……って、うわ! 後から来た! 超ヤバい! 何これ!?」
 思わず悶絶し、吐き出しそうになる睦。味を感じる暇もなく、口腔内を炎で焼かれているような感覚が彼女を襲う。
(「口の中が辛いとかじゃなく、最早痛い! 汗もぶわっと出たかと思えば、冷や汗に変わるとか初めての体験なんだが……!?」)
 サフィールに至っては、既に辛味を通り越し、痛みしか感じていなかった。だが、ここで店主の機嫌を損ねてはいけないと、表向きだけは平静を装っている。
「お、面白い味、ですわね。口の中が燃えますわ」
 口元を押さえ、目を白黒にさせつつシアが言った。正直、これは洒落になっていない味だ。が、ここで怯んでノリの悪い態度を示せば、ドリームイーターを満足させられず、作戦が失敗してしまう。
「やーん、辛そー! 火ぃ吹けそう? なんか、辛いのにはラッシーいいよって聞いたことあるし、よければどーぞ♪」
「あー、もう無理すんなッ! 引き際も肝心だかんな!? はい、口直し!」
 ドリームイーターの機嫌を損ねないよう気をつけつつも、桜庭・萌花(キャンディギャル・e22767)と八剱・爽(エレクトロサイダー・e01165)が、それぞれ口直しにラッシーやミルクのど飴を取り出して勧めた。しかし、それを見たドリームイーターは急に不服そうな顔をすると、ラッシーや飴を没収してしまった。
「困りますねぇ、お客様。喫茶店内に、飲食物の持ち込みはマナー違反ですよ」
 口直しに託された唯一の希望。それが目の前で消え去ってしまったことで、激辛チョコを食べた者達の瞳が絶望の色に染まる。もっとも、ドリームイーターの言っていることも正論なので、反論できないのが悔しいところ。
(「危なかった、ね……。迂闊に食べてたら、マイミルク取り上げられて、酷い目に遭ってたかも……」)
 ギリギリのところで難を逃れたダンサーが、思わず心の中で呟いた。しかし、店主の機嫌を損ねてしまったので、店内はなんとも微妙な空気に。
「皆様……もしや、御口に合いませんでしたか? 折角、当店のスペシャルメニューをお勧めしようと思っていたのですが……」
「すぺひゃるめにゅー? よ、よひ……そっひも、ひょうへんひへはげひょうひゃん!」
 いかにも残念そうに俯くドリームイーターに、睦が額の汗を拭きながら答えた。辛さにやられて呂律が回っていなかったが、そんなことは気にしたら負けだ。裏口に回り、ライ・ハマト(銀槍の来訪者・e36485)が本物の店長を救出している間に、少しでもドリームイーターを満足させて弱体化させねばならないのだから。
「畏まりました。では……当店のスペシャル・メニュー、Dragon's Breath chileのチョコレートをお持ち致しましょう」
 機嫌を直し、店の奥へと戻って行くドリームイーター。とりあえず、これでなんとか繋げたか。そう思い、思わず一同が胸を撫で下ろしたところで、厨房の方から凄まじい爆発音と、誰かの悲鳴が響き渡った。

●暴走、激辛キング!
「な、何だ、今の爆発は!?」
「それに、あの声……もしかして、ライさんですか!?」
 厨房の異常を察し、思わず席から立ち上がる爽とレテ。果たして、そんな二人の予感は正しく、顔面を両手で覆ったライが、何かを叫びながら猛ダッシュして来た。
「ぁぁぁぁっ! か、顔がぁぁぁぁっ!」
「くっ……清らな路より訪い給え」
 まずは話を聞かねばと、爽が電脳空間に保管してある魔術陣を、身に着けた鉱石を媒介に顕現させた。その力がライに届いたところで、ようやく彼女も力を取り戻したようだが。
「いけませんねぇ、お客様……。厨房に勝手に忍び込まれては……」
 何やら異様なオーラを纏ったドリームイーターが、ゆらりと揺れながら厨房の奥から顔を出した。
「どうやら、バレちゃったみたい、ね」
「マジで!? これって、もしかしなくてもヤバい展開ってやつ!?」
 迫り来るドリームイーターに、ダンサーと萌花が身構えつつ言った。だが、よくよく考えてみれば、それも当然のことだった。
 螺旋隠れは身を隠すのに有効な技だが、あくまで認識され難くなるだけで、透明人間になれるわけではない。メニューの品を出すために敵が出入りする厨房で、監禁された店主を冷蔵庫から引っ張り出し、やれ台車に乗せるだの、保温用に唐辛子を失敬するだのとやっていれば、さすがに見つからない方がおかしい。
 それでも、上手くやればライだけは隠れられたかもしれないが、ケルベロスでもない店長の身体は、隠そうにも隠せないわけでして。
「私の秘密を知られてしまった以上、あなた方を生かして返すわけには参りません」
 右手にモザイクの唐辛子を出現させ、ドリームイーターがにやりと笑った。相手の神経を麻痺させるモザイク唐辛子爆弾。恐らく、ライもあれにやられたのだろう。
「こうなったら、先手必勝です! せんせいは、ライさんの援護を!」
 未だ顔面を腫らしているライのフォローにせんせいを向かわせ、レテは自らもまた荘厳な祝詞を仲間達へと献上する。
「想起し祷れ。灰の十字を描かれたなら」
 棕櫚の枝を燃したなら、灰を戴き思い出せ。疾く識らしめよ、死と痛悔が我らに必要だと謂うことを。その言葉が仲間達の耳に届くと同時に、彼らの精神力を極限まで研ぎ澄まし、高めて行き。
「あなたも、目から星を出してみるといい」
 高々と跳躍したサフィールの蹴りが敵の頭に決まったところで、他の者達も一斉攻撃!
「ひとつ、ひとひら桜雪 ふたつ、ふたごのお星さま――♪」
「召しませ、Sweet Temptation♪」
 声紋をノコギリ状の刃として顕現させて睦が斬り付ければ、それに合わせて萌花もまた甘い言葉を囁き、告げる。口紅によって増幅された言霊は、それだけで敵の身も心も縛りつけ。
「迷路は問わず 迷路は語らず 真鍮の森よ この者に 静寂を与え給え」
 動きが止まった敵の真下から、真鍮の槍を召喚し、串刺しにするシア。のっけから必殺技のオンパレードになっているが、それでも背に腹は代えられない。こんな場所で、唐辛子爆弾なんぞで殺されて堪るか!
「ダンは後ろを守ってあげる。ストーカーも、祈りを捧げて」
 黄金の果実の力を解放するダンサーの後ろで、シャーマンズゴーストのストーカーが祈りを捧げ、後衛に控える爽を守る。その間に、辛さの苦痛から立ち直ったライが、影に溶けながら笑みを浮かべた。
「知っているか……ネズミはズル賢いのだよ」
 先程はしくじったが、二度目はない。今度はこちらが追い詰めてやる番だと凄むが、ドリームイーターもまた、余裕の笑みを崩してはおらず。
「ふっふっふ……ならば、お見せ致しましょう! 我が、唐辛子の素晴らしさを!」
 そう言うが早いか、自らモザイクの唐辛子を鷲掴みにして飲み込んだ。
「ハーッハッハッハァッ! ア~イム、ストロォォォング!」
 途端に肥大化し、上着を破ってムキムキマッチョと化す敵の身体。唐辛子の力によってオーバーブーストしたドリームイーターの姿に、ケルベロス達はドン引きだった。

●レッドでホットな戦場
 チョコレートの香りが漂う店内に、唐辛子が飛び、炎が舞う。サービスが中断されてしまったせいか、フルパワーで暴れ回る偽店長は、思いの他にタフだった。
「ヒィィィハァァァッ! レッド・ホット・ファイヤァァァッ!!」
 ドリームイーターが、自ら唐辛子を食べて炎を吐く。
「あー、もう、鬱陶しい! ってか、皆、大丈夫か?」
 すかさず爽が癒しのオーラで炎を振り払ったが、それにしてもしぶとい相手だ。
「ん……ちょっと、あんまり大丈夫じゃない、かも」
「はぁ……はぁ……。す、少しでいいので、お水が飲みたい……ですわ」
 先程から、身を呈して仲間の盾となっているダンサーやシアが、腫れた顔を押さえつつ言った。
 だが、それでも、あまり神経質になり過ぎるのも考え物だ。メンバーの半数近くを回復に従事させるような戦い方では、却って攻撃の手数が減ってしまい、長期戦になり兼ねない。
「――どうか謳って、星の聲」
 これ以上は耐えるのも無意味だと、サフィールが呪言と共に魔石を放った。
 放たれる光の奔流。様々な宝石を元にした魔石が降り注ぐ様は、まさしく真昼の流星雨の如く。
「行きますよ、せんせい」
 続けて、せんせいと共に切り込んだレテが凍れる手刀を繰り出すが、さすがに威力が少しばかり心許ない。元より、多数を相手取るための技である。単体相手には不向きな技だったが、それでも何もしないよりはマシだ。
「そんなに辛いのがお好きでしたら、あなたも燃えてしまいなさいな」
「それと、その筋肉、ちょっと暑苦しい、かも」
 シアが燃え盛る鉄塊剣を叩き付け、ダンサーの拳が強化された敵の身体を打ち砕く。唐辛子によるオーバーブーストを解除され、ドリームイーターのマッスルボディが、気の抜けた風船のような音を出しながら萎んで行く。
「のぉぉぉっ! わ、私のボディが……ぐはっ!?」
 おまけに、ダンサーの背後から一瞬にして回り込んだストーカーが、非物質化した爪を脇腹に突き立てたのだ。
「これもおまけだ、持って行くがいい」
 悶絶するドリームイーターに、放たれるライの熾炎業炎砲。先程、顔面に唐辛子を投げ付けられたお返しとばかりに、情け容赦なく顔を焼く。
「あ、熱っ! 主に顔が熱っ!」
 これには、さすがのドリームイーターも堪らず顔面を押さえ、店内を転げ回る他になかった。というか、人に散々燃えるような辛さの食べ物を勧めておいて、自分が燃やされるのは耐えられないとは情けない。
「辛さ追求した激辛チョコとか、それもう努力の方向性間違ってるよ!」
「っていうか、もはやチョコである必要なくない? 甘み感じられんの?」
 ここぞとばかりに突っ込む睦と萌花の二人。スイーツに見せかけた毒物で、人々の平和を脅かそうとするデウスエクスにはお仕置きだ。多少、間違っている気がしないでもないが、この際、細かいことはどうでもいい。
「甘いチョコが……」
「食べたぁぁぁぃっ!」
 ジェットエンジンで加速した拳と、魂諸共に魔を喰らう拳。二つの拳にカチ上げられたことで、ドリームイーターは店の天井をブチ抜いて、遥か彼方に飛んで行きながら消滅した。

●破れた夢
 戦いを終え、店の修復も済ませたケルベロス達は、改めて救出した店長と対面していた。
「はぁ……。やっぱり、唐辛子チョコレートなんてニッチな食べ物を扱ってたんじゃ、お店も潰れて当然ですよね……」
 サービスが中断されたままドリームイーターを倒してしまったためか、店長は意気消沈したままだ。命が助かったのは唯一の救いだが、このままでは少し可哀想。
「あまりにも辛すぎては、料理の美味しさがわからなくなってしまうぞ」
「店長さん、ふつーに美味しいチョコ作れるんだから、ふつーのお店やればいいのにー」
 ライや睦がやり直すよう勧めるものの、それでも店長の顔に気力は戻らなかった。
「とりあえず、口直しに普通の甘いチョコが食べたい」
「ね、辛くないチョコレイトを頂戴」
 萌花やダンサーに催促され、しぶしぶ加工前のチョコレートを差し出す店長。口に入れてみると……上品な甘さが、口の中いっぱいに広がった。
「ようやく、口直しができたようだな」
 ほっと溜息を吐き、サフィールが告げる。やはり、チョコレートは甘くなくては。
 それでも、どうしても諦めきれないなら、数年後に再びチャレンジしてみてはどうかとレテが言った。一般人相手が無理ならば、最初からケルベロス限定にすれば、チャンスはあると爽も伝え。
「ふう、暫く辛いものは……遠慮したいですわ、ね。うふふ」
 去り際に、額の汗を拭きつつ呟くシア。
 地獄の激辛チョコレート。心頭滅却すれば火もまた涼し……とは、さすがのケルベロス達でも行かなかったようである。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年6月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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