ミッション破壊作戦～死への誘い

■リプレイ

●下関上空
　千尋の駆るヘリオンの扉が開き、強い風が流れ込んでそこに居る者達の髪を躍らせる。
「このトンネルを取られちゃったら、交通にも経済にも影響が出るしね。何より、死神がバカスカ復活させたデウスエクスで埋めつくされたらたまったものじゃないし……じゃ、行くわよ！」
　テレビウムの『九十九』を抱え、最初に飛び出したのは橘・芍薬（アイアンメイデン・e01125）。
「日本に住む皆の為にも、ここを足掛かりになんてさせない！　死んじゃった人たちの魂を弄ぶあなた達死神を、私は絶対に許さないよ！」
「世界初の海底道路トンネル……その偉業を貴様ら死神に好き勝手に汚させるものか」
　そう言ってキリッと眉を上げた長谷川・わかな（笑顔花まる元気っ子・e31807）が芍薬に続くと、シルクハットを押えたダリル・チェスロック（傍観者・e28788）も決意を胸にわかなに続き、他の者達も次々とヘリオンから飛び出した。
　そして『それ』に次々と構えたグラディウスの切先を突き入れる。
「死者は死者らしく、あの世に送り返して、魔空回廊ごとぶっ壊させてもらうわよ！　いざ貫けグラディウス！」
　芍薬の一撃で半球状の『それ』にヒビが入る様に雷撃の筋が広がると、
「私達が来たからにはこれ以上の犠牲を出させはしないッ……！」
「それに、死んじゃった子たちの安らかな眠りを邪魔するなんて、そんなの酷いよ！」
　ダリルとわかなの振るうグラディスの一撃に、雷撃が勢いを増し、
「今日のライブにアンコールはないデスよ！　一回でボクのロックなソウルを刻み込んでやるデス！」
「グラディウスよ、僕の祈り、想いを乗せてその力を示せ！」
　仰け反る様にして振り上げ、思いっきり振り下ろしたシィカ・セィカ（デッドオアライブ・e00612）のグディウスの切先と、ギルボーク・ジユーシア（十ー聖天使姫守護騎士ー十・e00474）の切先から生じた雷撃が、『それ』を貫き、関門トンネルの辺りを穿って白煙が上がる。
「ソウル・ディカスティス、お前に恨みはないけど、お前の居る場所に用がある。奪還させてもらうぜ！」
「ひとつひとつの力は弱くても、それを束ねた一撃で……この地から、永久に消えなさい、魔空回廊！」
　オルトロスの『スサノオ』と共に風を切って降下する上里・もも（遍く照らせ・e08616）が狼尾を降らして振るい、長い金髪を風に靡かせたローザマリア・クライツァール（双裁劒姫・e02948）が突き入れるグラディウスの切先。
　雷撃の閃光が瞬き、降り注ぐ稲妻が白煙を上げ雷鳴が轟く中、
「アタシは、私は壊す事しかできない！　でも、それでも人の為になるなら、なにもかも全部ぶっ壊してやる！　それが私の存在理由！　私が……私の力で世界の為にできる唯一のこと！　もう、私にはそれしか残っていないんだ！」
　最後に突き入れられたグラディウスは、風音・和奈（固定制圧砲台・e13744）の物。
　生じた雷撃が周囲を穿ち、舞い上がった白煙が半球状の『それ』に押し留められ空間を満たす。
「……私じゃ……私の力じゃ……何をやっても、駄目なのかな」
　割れなかった『それ』をくやしそうに見上げ、和奈の体は仲間達を追う様に、白煙の中へと落ちていった。

●白煙の中で
「壊れませんでしたか……残念です」
　天を見上げたギルボークが残念そうにつぶやくと、
「ダメならまた挑戦すればいいだけデス！　さぁ、ギルボークさん、みんなと合流して撤退するデスよ！」
　と笑顔を見せたシィカがギターを掻き鳴らした。
　音で敵を呼び寄せる危険もあるが、白煙で視界が遮られている以上、合流を急いで各個撃破を防ぐ方が優先と判断したのだ。
「思ったより白煙が凄いんだよ」
　その音をヘリオンの中でも聞いていたので、シィカが鳴らしていると分かったももが、スサノオと共に最初に合流し、
「みんな無事？　グラディウスは大丈夫？　問題なければ長居は無用、さっさと離れるよ！」
　逆の方向から羽ばたきで白煙を払いながら和奈が現れる。そして、また違う方角から人影。
「……我が傀儡達を屠ったのはそなたらか？」
「っ！　……散るんだよ！」
　その声にももが叫び散開するケルベロス達。ソウル・ディカスティスの一撃は先程まで４人が立っていた場所を魂ごと刈り取るが如く一薙ぎする。
「アンタと遊んでいる暇は無いんだ。さっさとどきなよ！」
　比較的ソウルの近くへ跳ぶ形になった和奈が、感情に魔力を乗せて叩き付けると、衝撃波の様に広がる其れが、白煙を払う。
「この程度……」
　受けたダメージの度合いを図っているのか、掌を開閉させて和奈に蔑みの視線を向けるソウルだったが、白煙の中から現れる紅蓮の髪。
「先手必勝ッ。いくわよ、インシネレイト！」
　躍り出た芍薬が、叩き入れた掌から熱エネルギーを放出し、メイド服のフリルを揺らした九十九も、十徳ナイフに似た凶器を叩き付けると、
「ロックは常に前ノメリ！　倒れる時も前ノメリデス！」
　その攻撃にソウルの意識が芍薬に向いた瞬間を狙って、シィカのオウガメタルが、鋼の鬼となって拳を叩き付ける。
「揺光の瞬き、ご覧あれ……あなたに見切れるかはわかりませんけど」
「貴様ッ！」
　その跳び退いたシィカの後ろから、躍り出る形で肉薄したギルボークの一閃により鮮血を血桜の如く散らされたソウルは、ギリッと奥歯を鳴らして目を剥くと、ギルボークにダーククレセントの一撃を見舞うと、更なる一撃を見舞うべく踏み込んだ。
　……そこに白毛を炎の如く揺らめかせたスサノオが割って入り、舌打ちしたソウルの耳にチェーンソーの駆動音。
「そこを通して貰いましょうか」
　それを振るうダリルが、僅かに反応が遅れたソウルの衣服を斬り裂く。深手を避けようと跳び退くソウルを、
「はい、残念でした。だよっ！」
　遅れて現れたわかなが鉄鍋を叩き付け、それに踵落としをする様にして蹴りを叩き込む。
「今の内に回復だよ」
　下がったギルボークにももが九尾扇を振るうと、妖しく蠢く幻影がギルボークを包んで傷を癒す。
「調子に乗ってくれるではない……かッ」
　振り払う様に距離をとり、それらの連続攻撃に見舞われても、まだまだ余裕と言う風に微笑を浮かべるソウルのこめかみを、側面の白煙の中から飛来した時空凍結弾が穿ち、ソウルの首がガクンと横に揺れる。
「調子に乗っているのはアンタの方だよ」
「まだ居たか、虫けらの様にぞろぞろと……」
　心眼を研ぎ澄まし、双刀を振り下ろした姿勢のローザマリアがマリンブルーの瞳で睨むと、こめかみを撫でたソウルが応じ、ケルベロス達に侮蔑の視線を向ける。

●拙速
　晴れゆく白煙の中、死神ソウル・ディカスティスは８人のケルベロスと２体のサーヴァント相手に一歩も引かず奮戦していた。
「跪いてその魂を我に差し出し、我が傀儡と化せ！」
　全ての魂を喰らい尽くす暴食の衝撃が前衛陣を襲い、押し戻される前衛陣。
「まだまだぁ、そんな事では怯まないぜ！」
「私達は地獄の番犬、這い出す死者を送るのはある意味本業だから手は抜かないわよ」
　だが、直ぐにももが恋の歌を紡いで、前衛陣の心を温める様にその傷を癒し、芍薬がオウガ粒子を放出してその回復を後押しする。
「戦いが長引けば新手が来てしまいます。ダリルさん、和奈さんここは力押しで押し切りましょう」
　回復を受け踏み止まったギルボークが竜翼で舞い上がり、
「承知。邪魔をするなら、疾く潰す！　それが私にできる、皆の為の唯一の事だ！」
「然り然り、元より迅速を以って良しとするところ、謳え雷、地に響け！」
　くるっと回した『SecondaryDragonCannon』を小脇に抱えた和奈が、一気に距離を詰め叩き付けると、和奈を追う様に駆けたダリルの放つ一撃は、グラディウスを突き立てた時の様に閃光と轟音を以ってソウルの体を穿つ。
「ガッ……」
　流石に堪えたらしく、苦悶の言葉を漏らすソウルの顔を、虹を纏って急降下したギルボークが蹴り抜いた。
「貴様、さっきからちょろちょろと鬱陶しい！」
　ギロリとギルボークを睨み、踊り掛るソウル。
　だが、怒りに捉われ視野狭窄に陥ったその攻撃は、ケルベロス達に大きな隙を晒す事となった。
「隙ありなのデス！」
「……絡め取られるのはその足よ」
　横槍を入れる形でジグザグになった刃を突き入れるシィカ。それを一瞥しただけで進もうとするソウルだったが、次の瞬間、詠唱を紡いだローザマリアが向けた切っ先から石化の魔法光線が飛び、ソウルの右踝あたりを撃つと、駆ける勢いを削がれ、つんのめった様に上体を前に倒すソウル。
　体勢を崩しながらもギルボークにダーククレセントの力を飛ばすが、その攻撃の間隙を突いてスサノオの黒刃と九十九が振るう十徳の刃が斬り抜ける。
「わかなさん、チャンスなのデス」
　シィカが後ろに向って声を掛けると、
「死んじゃった子たちの安らかな眠りを邪魔するなんて、そんなの酷い、許さないよ！」
　わかなが振るうエクスカリバールの爪が、ソウルの衣服を裂いた。
「こんな……」
　次々と穿たれる攻撃に、たまらず魂の裁定で回復を図るソウル。
　その行動は配下が居ればその行動は有効であったが、独りでケルベロス達に囲まれている状況下では、手数を無駄に浪費するだけであった。

●要諦
「何か『こんな』なのかな？　予定通りじゃないって？　残念、あなたが振り撒く憎悪より、私達ケルベロスが振り撒く希望の力が勝っただけだよ」
　狼狽するソウルを見つめ、狼耳をピクピクと動かしポーズを決めたももが、九尾扇を振るってギルボークに幻影を纏わせ、
「その通り、守る為なら、敵は徹底的に叩き潰す！　一片の慈悲も無く全力で！　一切の容赦無く！」
「ここは、懸命に生きる者達の世界よ。あすを生きる命の為に……命を終えきのうに生きた者達は静かに眠るが定めなの……劒の媛たる天上の御遣いが奉じ献る。北辺の真武、東方の蒼帝、其は極光と豪風を統べ、万物斬り裂く刃とならん――月下に舞散れ花吹雪よ！」
　ももの言葉を継いで眦を吊り上げた和奈が、翼から伸びた地獄の炎を得物に纏わせ地面を蹴ると、哀しげな瞳をソウルに向けたローザマリアも、和奈を追う様に消音コンバットブーツで地面を蹴る。
　先にローザマリアが華吹雪の如く刃を煌めかせて斬り抜け、ソウルを背に双刃を鞘に収め、そのローザマリアが穿った傷を、和奈の一撃が強かに抉り、傷口を灼く。
「ギ……ひっ……」
　その連携の取れた攻撃に、初めて怯みの表情を見せたソウル・ディカスティスは、穿たれた傷の深さに思わず自己の回復を図る。
「信念も誇りもありませんか、残念です」
　だがその回復を嘲笑う様に振るわれる七天抜刀術・壱の太刀『血桜』。
　スサノオが振るう刃に続きギルボークが見せた神速の太刀は、先程の回復をほぼ無かった事にし、
「ふふん、ロックにドカンとキメてくデスよー！」
　ポニーテールを踊らせて距離を詰めたシィカが刻んだジグザグの斬撃は、ソウルに重ね塗られた各種バッドステータスの働きを一気に増させその動きを縛った。
「これが私からの冥土の土産！　大人しくもう一度喰らいなさい、インシネレイト！」
　そこに芍薬。九十九の振るう十徳ナイフと共に、赤く輝く掌を叩き付ける芍薬が挑発的な瞳を向ける。
「おのれ……おのれオノレおのれおのレ……」
　怨嗟の言葉を紡いだソウルが、仕寄るケルベロス達に魂を喰らい尽くす暴食の衝撃を叩き付けるが、
「最後のあがきお疲れ様だね♪　じゃあ私からお返し……これで決めるよ！　当ったれー！！」
　押し戻される前衛陣の間、下がる芍薬と入れ代わる形でナノナノパーカーの裾を翻したわかなが、ソウルの頭目掛けて思いっきり鉄鍋を振り下ろすと、ゴキュっと嫌な音がしてソウルの首が歪に曲がる。
「さようなら、ここも返して貰いますし、いつかは君たち起す禍根を断たせてもらいます」
　黄硝子のサングラス越しの視界が、閃光に満たされ見えなくなる。
　ダリルの放ったTonitruaの一撃は、ソウルの断末魔も掻き消し、戦いの終わりを告げるかの如く響き渡った。

　だが、勝利の余韻に浸かる間もなく、白煙がほぼ晴れた状況で新たな敵の接近を感じ取った一行は、ここが潮時と次こそ破壊して見せると決意を胸にして、一気に魔空回廊からの離脱を図ったのであった。

作者：刑部	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年6月29日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 10／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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