ヴァージンロードは悪意に穢されて

作者:朱乃天

 一組のカップルが、人生で最も幸せな瞬間を迎えようとした日のことだった。
 婚礼の儀が執り行われる教会で、主役の新郎新婦が緊張しながら互いの手を握り、控え室で式の開始を待っていた時――突如として激しい爆発音が轟いた。
 ――それは、彼等の人生における最悪の日を迎えた瞬間でもあった。
 爆風で砕け散るステンドグラス。どこからともなく火の手が上がり、黒煙が招待客達の行く手を遮るように立ち込める。
 この日の主役の一人であった花嫁は、押し寄せる恐怖に足が竦んで、金縛りに遭ったように動けないでいた。
「一体何があったんだ!? 俺はまだ死にたくねえぞ……くそっ!」
 我が身に降りかかる災厄を、誰も理解できよう筈はなく。最愛の女性の身を案じる余裕すらない程に、新郎は酷く動揺して焦りと苛立ちを募らせる。
 恐怖に怯えて縋り付こうとする花嫁の手を払い除け、遂には耐え切れなくなって、立ち竦む彼女を置き去りにして部屋を飛び出した。
 そして礼拝堂に足を踏み入れて、瓦礫に埋もれた人々を見向きもせずに一人だけ逃げようとした時だ。祭壇に掲げられた巨大な十字架が、揺れ傾いて裁きを下すように倒れ落ち――新郎は成す術もなく十字架の下敷きとなってしまう。
 十字架が重く圧し掛かり、血反吐を吐いて呻き苦しむ新郎の傍らに、一つの影が舞い降りる。突然顕れたその人影は、ベールを被り、漆黒のドレスを身に纏った少女であった。
「ふーん。自分の命が助かる為なら、将来を誓った人まで見捨てちゃうんだ。その醜いまでの執着心、すごくイケてるね」
 黒く熔けた翼を生やした異形の少女は、濁った瞳で新郎の無様な姿を一瞥すると。口元を不気味に吊り上げながら、新郎に向けて手を翳す。
「いいモノ見させてもらったお礼に、アタシがアンタを救ってあげる」
 すると少女の掌から炎が吹き荒れて、瞬く間に新郎を呑み込み灼き尽くす。やがて物言わぬ骸に変わり果てた新郎に、少女は舌打ちしながら眉を顰める。
「あーあ、全然エインヘリアルにならないじゃん。仕方ないか、次に行こっ」
 用済みとなった死体には目もくれず、少女は闇の中へと消えて行く。蔑むような嘲笑だけをそこに残して――。

 ヴァルキュリアに代わって死の導き手となったシャイターンが、エインヘリアルを生み出す為に事件を起こす。
「シャイターンは多くの一般人が集まる建物を崩壊させて、その事故で死にかけた人間を自らの手で殺め、エインヘリアルに導こうとしているようなんだ」
 ヘリポートに集まったケルベロス達を前にして、玖堂・シュリ(紅鉄のヘリオライダー・en0079) が予知した事件の内容を語り出す。
 今回シャイターンが襲撃する場所は、結婚式の会場となっている教会だ。そこには招待客やスタッフを含めた百名程の人間が建物内にいる。
 ただし、中にいる人達を事前に避難させてしまうと、シャイターンは別の建物を襲撃してしまい、被害を食い止めることができなくなってしまう。
「そこでキミ達は建物の中に潜伏し、襲撃が発生してから行動に移ってほしいんだ」
 この状況でまず行うべきは、シャイターンが選定しようとする被害者以外の避難誘導や、建物にヒールを施して崩壊を止めるといった対処だ。
 その後はシャイターンが選定対象を襲撃する所へ向かい、戦闘して撃破することになる。
「シャイターンが選定しようとするのは、式を挙げるカップルの新郎の方なんだ。突然の襲撃に混乱して取り乱した彼は、最愛の花嫁をも見捨てて逃げ出してしまうんだ」
 彼等は控え室で待機していて、新郎だけが控え室から離れて礼拝堂へ行く足取りとなる。従ってこちらは、彼が控え室から出ていく所を見計らって動けばいいだろう。そうして被害を阻止してほしいと、シュリは言う。
 今回戦うべきシャイターンの名前は『フューネル』。漆黒のドレスを纏った少女の姿で、快楽に興じるように力を振るう。炎だけでなく、惨殺ナイフも駆使して攻撃するようだ。
「できれば誰も犠牲にならず、事件を解決してほしいんだ。折角の祝いの席だしね」
 祝福されるべき華やかな婚礼を、哀しみに濡れる葬列へと変えてはならない。
 願わくば、一つの命も欠けることなく救えるよう――シュリは祈るような気持ちで、戦地へ赴くケルベロス達を見守った。


参加者
珠弥・久繁(病葉・e00614)
来栖・カノン(夢路・e01328)
叢雲・宗嗣(夢謳う比翼・e01722)
クロエ・ランスター(シャドウエルフの巫術士・e01997)
レンカ・ブライトナー(黒き森のウェネーフィカ・e09465)
ニュニル・ベルクローネス(ミスティックテラー・e09758)
岡崎・真幸(脳みそ全部研究に費やす・e30330)

■リプレイ


 祝福ムードに包まれた神聖なる教会に、悪意に満ちた邪悪な影が忍び寄る。
 厳かな空気を掻き消すように、突如として轟き響く激しい爆発音。人々はこの場所で何が起きたのか、理解しようにも頭の整理が追い付かない。
 ただ一つだけはっきり断言できるのは――彼等が命の危機に晒されているということだ。
「一体何があったんだ!? 俺はまだ死にたくねえぞ……くそっ!」
 本来執り行われる予定であった婚礼の儀。その主役であるカップル達を結ぶ絆に生じる、大きな亀裂。恐怖に怯えて縋る花嫁を振り払い、血相を変えて控え室から逃げ出す新郎の姿がそこにある。
 彼がこのまま他人を見捨てて逃走すれば、待ち構えるシャイターンの餌食になってしまう。そうした敵の卑劣な思惑を打ち砕くべく、ケルベロス達が行動を開始する。
「まだ人生のEpilogを迎える時じゃねーぜ。こんなところで物語を終えたくねーだろ」
 呆然と立ち尽くしたまま取り残された花嫁を救出しようと、レンカ・ブライトナー(黒き森のウェネーフィカ・e09465)が勢いよく部屋の中へと入り込む。
「この先も紡げるようにオレが手を貸してやる。だから絶望すんな」
 シックなワンピース姿で招待客に扮したレンカが、花嫁を励ますように手を差し伸べて。震える花嫁の手を掴んで身体を引き寄せ、横に抱きかかえて急いで部屋を後にする。
 一方、礼拝堂では多くの招待客やスタッフ達の悲鳴や怒号が飛び交い、騒然とした状態になっていた。
「出口は向こうだ! 早く行け! でも誰か突き飛ばしたりしたら、ぶっ飛ばすからな!」
 出入り口となる扉付近では、カルナ・アッシュファイア(炎迅・e26657)が強い口調で声を張り上げ、手近な招待客達に避難を呼び掛ける。
「俺達はケルベロスだぜ。お前達を助けに来たから、後のことは任せてすぐに非難しな!」
「危ないから……気を付けて、逃げてね……」
 クロエ・ランスター(シャドウエルフの巫術士・e01997)は内気な少女だが、兎のぬいぐるみを介することで勇ましく振る舞うようになり。人が変わったような男勝りの言葉遣いで避難を促した。
 ケルベロスが現れたというその一言に、人々は安堵したのか徐々に落ち着いた様子を取り戻す。彼等はカルナやクロエ達の指示に従いながら互いに協力し合い、大きな混乱を来たすことなく、避難活動は順調に進められていく。
「そっちには行かない方がいい。壁が崩れかかっているからな」
 スタッフを装いながら建物の配置を確認していた岡崎・真幸(脳みそ全部研究に費やす・e30330)が、崩落に巻き込まれないよう招待客に注意喚起する。
 ケルベロス達はそれぞれ扮装しながら現場に潜伏し、誘導に向けて万全の態勢を敷いていたのだ。来栖・カノン(夢路・e01328)が竜の翼を羽搏かせ、真幸が指摘した箇所に取りつき、ヒールを掛ける。
「――終わらない夜を、観るんだよ」
 言の葉を紡ぎながら改造スマートフォンを天に翳せば、カノンの周囲の空間が昏い闇夜に閉ざされる。小さな夜の帳が静かに下りて、生まれた闇の中へと全てを隠し――ひび割れた壁を修復し、建物の崩壊を食い止める。
「何もこんな人生の晴れ舞台の日に来なくてもいいだろうに……シャイターンって奴はどうにも無粋だね」
 珠弥・久繁(病葉・e00614)が嘆息混じりに現場の惨状を眺めつつ。招待客が被害に遭わないよう、会場の復旧作業に身を乗り出した。
 久繁が生み出す癒しの雨が、砕けたステンドグラスに降り注ぐ。するとステンドグラスは幻想的な装飾が施され、より荘厳としたデザインに作り替えられていく。
「火の手は消し止めた。こっちの方はもう安全だ」
 消火活動に当たっていた叢雲・宗嗣(夢謳う比翼・e01722)から、無事に炎が沈静化したことの報告が伝わってくる。これで人々が炎に巻き込まれる心配はなくなった。そこへ控え室から抜け出してきた新郎が現れて、覚束ない足取りで祭壇の方へ歩み寄っていく。
 祭壇に掲げられた巨大な十字架が、グラリと揺れて、新郎目掛けて倒れ落ちようとする。その時、ニュニル・ベルクローネス(ミスティックテラー・e09758)が素早く駆けて新郎を突き飛ばし、十字架に圧し潰されるのを未然に防いだのだった。
「ヒッ、ヒイィィィィッ!?」
 命が惜しくて逃げ出してきた筈が、逆に命を奪われそうになる――運命は斯くも皮肉で不条理で。しかしそうした無慈悲で残酷な運命を変えるのが、彼等ケルベロス達なのだ。
「さあ、あっちからさっさと逃げて。死ななかっただけ僥倖と思うんだね」
 恐怖のあまり腰を抜かしてしまった新郎を、ニュニルは怪訝そうにあしらいながら、早急に立ち去るように追い払う。
 新郎は表情を強張らせたまま、彼女の言葉に無言で頷いて。這い蹲るように慌てて出口に向かって逃げていく。
「彼だって、こんなことにならなければ、花嫁を見捨てるような真似はしなかっただろうに……。そうやって人の心を弄ぶのは――ここまでにしてもらおうか」
 逃走する新郎を見届けつつも、宗嗣の意識は別のモノへと向けられる。いつでも刃を抜けるよう、身構えながら警戒心を高めるその先に――黒いドレスを纏った異形の少女、シャイターンがタールの翼を翻して降り立った。


「何さアンタ達、これじゃ折角の計画が台無しじゃない。アタシの邪魔をするつもり?」
 選定者のエインヘリアル化を阻止されて、シャイターンの少女『フューネル』は苛立ち気味にケルベロス達を睨め付ける。
 シャイターンが燻る怒りを炎に変えて、ケルベロス達に放とうとしたその瞬間――花嫁を救出し終えたばかりのレンカがシャイターンに飛び掛かり、エクスカリバールを振り下ろして敵の動作を阻害する。
「お前みたいな胸糞悪い連中は、オレ達がとっとと倒してやるから覚悟しな!」
 気勢を上げて敵愾心を露わにするレンカ。声を荒げて挑発をする彼女の気迫に負けじと、カルナが地獄の炎を首の傷跡からマフラー状に靡かせる。
「テメェの炎とアタシの炎、どちらが強いか試してみるか?」
 戦場を疾走しながら高く跳躍し、煉獄を纏った蹴りが炸裂。シャイターンの腹部に、カルナの強靭な脚が叩き付けられる。
「フン……そこまで言うなら、思い知らせてあげるわよ。燃え尽きるが良い!」
 苦虫を噛み潰したような表情で、フューネルが掌をカルナに向けて、燃え盛る炎の塊を撃ち込んだ。だがそこに、一つの影が舞い踊る。
「そうはさせないよ」
 久繁が間に割り込み盾となり、身を挺して敵の炎を受け止めた。それでも炎は消えることなく彼の身体を呑み込もうとする。すると今度は、クロエが溜めた気を久繁に注いで治癒を施し、同時に纏わりつく炎を消し去った。
「誰も……死なせない……」
「そういうこと、人を救うのは俺達の役目だ!」
 クロエの表情は変わらないものの、敵を見つめるその眼差しはとても凛々しくて。仲間を必ず守り抜くという、強い決意が青い瞳に灯されていた。
「行くよ、ルコ。一緒にあいつをやっつけよう」
 ボクスドラゴンと行動を合わせるように、カノンが仕掛ける。白い翼で風を切り、滑空するかのように駆け抜けて。小柄な身体が軽やかに跳ねて宙を舞い、重力を宿した蹴撃を叩き込む。
 カノンの蹴りが決まった直後、ルコが彼女と入れ替わるように続けて突進し、体当たりをシャイターンに食らわせる。
「選定も甘いし強引だ。そんな杜撰なやり方で、エインヘリアルが創れるわけねえよ」
 真幸が辛辣な言葉をシャイターンに浴びせかけ、眼光鋭く狙いを定める。少女の姿をした敵に、真幸は一瞬困惑するものの。すぐに気持ちを切り替えて、戦闘態勢に移行する。
 掌に魔力を凝縮させると時空が渦を巻き、生成された青い魔弾を撃ち込むと。敵の生命の時を凍て付かせ、瞬間的に相手の動きを抑え込む。
「君に、二人の夢は奪わせない……っ!」
 宗嗣の怒りが雷となって槍に纏い、紫電の如き速さで繰り出す突きが、フューネルの肩を抉るように貫いた。
「ハッ……! 番犬如きがよく吠えるわね。その減らず口、黙らせてあげる!」
 シャイターンの少女が歪んだ笑みを浮かべつつ、惨殺ナイフを振り翳して迫り来る。捩れた刃が宗嗣を狙って襲い掛かるが、ボクスドラゴンのスクァーノが宗嗣を庇って刃を防ぎ、この攻撃を凌いで踏み止まった。
「祝いの式に割り込むなんて浅ましき哉。下品なキミには気品も優雅さも、ボクの足元に及ばないよ」
 ニュニルが不敵に微笑みながら、華麗に身を翻して踏み込んで。練り上げた闘気を一気に放ち、敵の胸元目掛けて強烈な衝撃波を打ち込んだ。
 卑劣なシャイターンに対する激情を、大きな力に変えてケルベロス達が攻め立てる。戦闘に関しても、万全を期して備えた番犬達の攻撃に隙は無く。ここまで一進一退の攻防を繰り広げつつ、虎視眈々と機を窺うのであった。


 互いに譲らず拮抗した戦いが続く中、ケルベロス達は手を緩めることなく苛烈に仕掛け、勢いは止まることなく次第に流れを引き寄せる。
「そもそも大切なモン見捨てたヤツが、英雄になれる訳ねーだろうが! 英雄っつーのはなぁ……大切なモン、命賭けても守るヤツのことを言うんだぜ!」
 シャイターンの的外れな選定行為を蔑むように鼻で笑い、カルナが全身に稲妻を帯びて突撃をする。瞳と同じ紫色の雷を宿した槍を振るい、闘志を込めた一突きがフューネルの脇腹を鋭く穿つ。
「ボクの本気の一撃を――見せてあげるよ」
 カノンが真剣な目付きでナイフを握り締め、強固な意志を込めた迷いのない一撃は――シャイターンの身体を華麗に斬り裂き、更なる傷を刻み込む。
「――さあみんな、笛吹き鳴らせ、手を取り踊れ。楽しいパレードの始まりだ」
 ニュニルの周囲に集うのは、様々な動物達の人形だ。楽器を吹き鳴らして華やかな行進曲を演奏するその光景は、まるで御伽噺の一幕のようであり。心弾むリズミカルな旋律が、仲間の戦意を奮い立たせる。
「みんな……守って……」
 クロエが人形に護符を貼り付け、祈りを捧げるように念を込め。召喚した超常存在を憑依させ、クロエの意思に同調するように、ゴーレムとなった人形が仲間を護る盾として動く。
「――Hast du es gesehen?」
 レンカが偉大な魔法使いから学んだ叡智、その秘術の一つを発動させる。魔術によって創り出された幻影が、レンカを獣の姿に変えていく。偽りの衣を纏いし魔女は、敵を惑わせ油断を誘い、その狡猾なる牙を剥く。
「――ねぇ、教えてよ。貴方はドコが一番オイシイの?」
 陶酔した笑みを携え爪を伸ばして、狼の如き俊敏な動きで翻弄し、魔獣と化したレンカが容赦なく敵の少女を斬り付ける。
「我らが恩恵咽び喜び受けるが良い――」
 ボクスドラゴンのチビと波長を合わせ、真幸が異形を討つべき力を解き放つ。六色の翼が眩く輝き、増幅させた魔力を歌に乗せて戦場中に響かせる。
 真幸の勇壮たる力強い歌声が、シャイターンの悪しき心に畏れを抱かせて。精神までも支配するかのように、相手を苦しめ追い詰めていく。
「……本っ当に忌々しいヤツ等! いい加減、くたばってほしいわね!」
 ケルベロス達の猛攻によって追い込まれ、フューネルの顔に焦りの色が滲み出る。深手を負って満身創痍であるが故、彼女には抗い続けることしか残された道はない。
 破壊を齎す紅蓮の炎がケルベロス達を襲う。だが死力を尽くしたシャイターンの捨て身の攻撃も、久繁が立ちはだかって耐え抜いた。
「――世界を包め、夜明けの如く」
 久繁の肉体に張り巡らされた魔術回路が光を帯びて、巨大な鎌に全ての魔力を注ぎ込む。滅びるモノへの手向けを捧げんと、振るう刃は未来を切り開き、守り続けるその為に――。
「遠慮はいらねぇぜ。鱈腹喰らっていきな!」
 異空間から重火器の群れを召喚するカルナ。大型のガトリング砲が火を噴いて、集中砲火を浴びせ続けて追い討ちを掛ける。
 この戦いの決着を図ろうと、一気に攻勢を掛けるケルベロス達。もはや瀕死の状態にあるフューネルに、宗嗣が漆黒の斬霊刀を抜いて間合いを詰める。
「俺の隠し玉だ……その魂、貰い受ける……!」
 刀身の動力炉がうねりを上げて回転し、逆巻く炎が刃に集束されていく。猛禽類の嘴の如く研ぎ澄まされた刃の一閃は――贄を啄むように、深々と少女の胸に突き刺さる。
 傷口から滴る鮮血が、刃を赤く染め上げて。シャイターンは遂に力尽き、業火に灼かれながら灰燼と化して消滅していった――。

 戦いはケルベロス達の勝利で幕を閉じ、一人の犠牲者も出すことなく無事に終えられた。
「みんなお疲れ様だよ。全員助けられたみたいで、良かったね」
 霧が晴れるように緊迫した空気が和らいで、カノンの表情にあどけない笑顔が再び戻る。
 ケルベロス達は勝利の余韻に浸るのも程々に、教会の復旧作業に改めて取り掛かる。彼等の尽力によって建物は瞬く間に修復されていく。その一方で、夫婦の心の傷の修繕も――。
 様々な叱責を受ける新郎に、花嫁も流石に不憫に思ったか。それ以上は咎めることなく、不問に付して慰める。ここから先は当人同士の問題だ。解れた糸を紡ぎ直すのも、最後は二人の心次第なのだから。
「……ボクも何時か花嫁になれるかな?」
 互いに労わり合う夫婦の様子を目の当たりにして、ニュニルが思わずぽつりと呟いた。
 若干12歳の少女にとっては、今はまだ遠い未来のお話でしかないが。淡い憧れ抱いて見る夢は、ささやかな幸せ描いて想いを馳せて。
「その時は一番前で参列していてね、マルコ」
 ピンクのくまのぬいぐるみを大事そうに抱き締めながら、ニュニルが仄かに赤く色付く頬を緩ませる。
 ――やがて祝福を告げる鐘の音が、教会中に鳴り響き。人生の新たな門出を迎える二人にとって、今日という日は最も忘れられない一日になっただろう。

作者:朱乃天 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年6月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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