喰らえ―っ! 焼肉!!~咲次郎の誕生日

作者:陸野蛍

●いざ行かん! 焼肉食べ放題!
「みんなは、焼肉って好きかのう?」
 ヘリポートに現れた、野木原・咲次郎(金色のブレイズキャリバー・en0059)は、唐突にケルベロス達に尋ねる。
 ケルベロス達は、疑問符を浮かべ、それぞれの顔を見合わせる。
 それを見ると、咲次郎は苦笑いをし、ジャケットの内ポケットから、何かのチケットの束を取り出す。
「すまんのう。説明が足りんかったみたいじゃな。あのな、6月15日が、わしの誕生日なんじゃけど、勤めとる『ホストクラブ』のお客さんから、誕生日じゃからって、『焼肉食べ放題のタダ券』を何十枚も貰ってしまったんじゃ。じゃけど、この枚数じゃろ? じゃから、みんなも良かったら、一緒に行かんか?」
 穏やかに言う、咲次郎の持つチケットには大きく『焼肉食べ放題お1人様無料』の字が書かれている。
「ここの焼肉屋は、TVでも美味いって評判じゃし、肉だけじゃなく、飲み物とデザートも飲み放題、食べ放題なんじゃよ。こんなにチケットがあっても、わし1人じゃ期限切れにしてしまうし、勿体ないじゃろ?」
 札束を広げるようにチケットを見せる咲次郎の手に握られている、無料チケットは、軽く30枚を超えている。
「焼肉を男と喰うのに抵抗がある女性用に、レディースルームもあるそうじゃ。フルーツジャーカクテルなんて物も取り揃えてあるらしいんじゃが、どうじゃ?」
 焼肉屋やラーメン屋の類に気軽に入れない女性が居ることも熟知している咲次郎は、優しく言うと、更に続ける。
「あとのう、希望者はくじが引けるらしくて、当たると一緒のテーブルに座っとる人数分の『高級黒毛和牛』もタダで貰えるそうじゃ。こればっかりは、運じゃけどな」
 A5ランクの牛肉ともなれば、ケルベロスと言えど中々食べる機会は多くない。
 誰かの唾を飲み込む音が聞こえる。
「飯は、大勢で喰った方が美味いと思うんじゃ。たまには、色気より食い気って言うのも、いいんじゃないかのう?」
 いくら食べても無料、その言葉は甘美な響きだ。
 ……ならば行こう!
 肉の聖地へ!!


■リプレイ

●肉の都
「あたし肉は大好物なんだよ。生だろうが調理したものだろうが、何でも来いってんだ!」
 店に入るなり叫ぶと、勢いよくライガは肉置き場に向かった。

「美味しい物の前では人は、皆、平等に無力なのです」
「だよな! 育ち盛りの男子学生としては見過ごせません! 幸せが俺を待っている!」
 熱く語るカナメと志成をソラネは微笑ましく見護る。
「かもめは、今日この日、焼肉奉行と化します……お肉は、ちゃんと焼いた方が美味しいからね!」
 まずは野菜から焼いて、鶏、豚、牛と……鴎は夢心地で肉を網の上に並べていた。

「バイキング形式ならば、好きな物を好きなだけ食べられるな。タン塩にカルビ、ホルモン……」
 隆治は思わず振ってしまいそうになる竜尾を、残る理性で抑制する。
「今日は肉をおかずに肉を食べる所存にござる」
 やや張り切り過ぎなのは、樹だ。
「タン塩、ササミのあっさり系から始めて、徐々に豚トロやホルモンとかのこってり系に……大丈夫、牛豚鶏の三種バランスよく食べるし……」
「とりあえず肉だ! ついでに海鮮も持ってこよう。……初めは10人前程度でいいか。足りなければ追加すればいい」
 多過ぎる肉の量を真顔で宣言する晟に、宵一が声をかける。
「帆立と蛤……海鮮も焼こう。バター有るかな……? 俺も炭水化物など無用! のつもりで来たけど、やっぱり白御飯が欲しいな」
 ……この後、彼等は焼けた肉を奪い合う、壮絶な聖戦を繰り広げることになる。

「……多い? これくらい成長期の朽葉さんならいけるのでは?」
 蓮は大皿に大量の肉を積み上げ、テーブルに戻って来た。
「勿論全然いけるけど……なんで、レンはずっと焼いてるの? どんどん肉が焼けていくのは凄く楽だし嬉しいけど……なぁ?」
 斑鳩が同意を求めるように累音に振る。
「成長期なら斑鳩よりも蓮だろう? 斑鳩は、もりもり食っているが、蓮はせっせと焼いているだけのように見えたが。ずっとトングを持ってるのは幻覚か?」
「……俺もちゃんと食べてますよ」
 真顔で言う蓮に業を煮やした2人が蓮からトングを奪えば、蓮は少し困った顔をし、焼けた野菜を黙々と食べ始める。
『野菜盛ってんじゃねえよ、肉を食えよ!』
 声が重なり、店内に響いた。

「あー、全員飲み物あるか? 俺は日本酒追加するわ」
 紫音が言えば、彼が飲み過ぎていないか結城は銚子の数を数える。
 その結城はと言えば、自分は肉に手を出さず、せっせと皆の世話を焼いている。
 皆が満足した頃に、好物のタンとハツ辺りをのんびり食べれればと、仲間達を見守っている。
「皆さんと焼肉なんて初めてですから、お肉が焼けるのを待つのも楽しいですね」
 竜矢が楽しげに笑う。
「ホントよね。特に、タダで食べるお肉は美味しいの!」
 烏龍茶を飲み、フィアールカも幸せそうだ。
「お肉だけだと栄養が偏るから、海鮮とかお野菜も焼いた方がいいと思うの! あ、後で食べる、デザートの杏仁豆腐は別腹だし!」
 照れ笑いするフィアールカの横では、ジョッキを空にした、さくらが声を上げる。
「帳くーん、タン塩持ってきて! あ、ついでにハラミとホタテとぼんじりも」
「ああ、帳殿。私はロースとホルモンとピートロでな」
 さくらに乗っかる形でヴァルカンが言えば、帳が渋顔で言う。
「何でナチュラルにパシられるんですか私? 一応、この中で一番偉いはずですよね?」
 焼肉食べ放題……それは文字通り弱肉強食の世界。
「物部さん、私も取りに行くのお手伝いします」
 竜矢が言えば帳も諦め、肉置き場に向かう。
(「お肉の中に唐辛子を仕込んで……クックック」)
 この、必殺のロシアンルーレット……後に喰らうのは、帳本人であることを彼は、まだ知らない。

「焼肉無料で食べ放題とは豪勢ですね!」
 幸せのオーラを出し、ヨハンが牛肉中心に口に運べば、俊映が不敵な笑みを浮かべる。
「10代野郎共の食欲を見せてやる。……腹の地獄が囁くんだ。たまには満腹になろうぜってな……」
「……また食べ過ぎて出禁にならないよう気をつけましょう。まあ、何はともあれお肉です。焼けるだけ焼きましょう」
 エリオット・ネリヤの食欲もまた凄い……出禁になっている店が複数あるのも頷ける。
「……ヨハンも、もっとがっつりいったらどうだ? 遠慮しいだなお前は」
 ヨハンも人並みには十分食べている……他の2人の食欲が凄まじいだけだ。
『デザートからまた本気出す』
 その言葉を聞きヨハンは、『……本当によく食べるな、この人達』と思うのだった。

「お腹を減らしてから来ました。準備はバッチリですよ」
 そう宣言したゼノアは、タレを色々試しながらも、食後のスイーツも楽しみにしていた。
「……焼肉か、まさか伝承の中の料理が食べれるとは」
 引き籠り気味のゴロベエは、久々の焼肉に感情を抑えながらも、焼肉に舌鼓を打っている。
 このテーブルでは一切『野菜』が焼かれていなかった。
「野菜? 何を言っているのですか。焼き肉ですよ。沢山のお肉を少しのご飯と一緒に掻っ込むのが正義です」
 和希が言えば、アンセルムも不思議そうに言う。
「野菜? 胃に肉以外入れる予定無いよ。あ、でも米は許す。カルビをご飯の上に沢山積み上げて、その上から焼肉のタレ……贅沢だね……っ」
 その後も肉が延々焼かれ、和希達の胃の中に野菜が入ることは無かった。

●2人きり
(「肉を与えると機嫌が良いんだよな。……とは言っても、特に機嫌を取る理由も無いが」)
 生ビールを喉に流し込みながらルースが目の前のリリを見れば、黙々と肉を口に放り込んでいる。
「焼肉食べ放題、ケルベロスをやっていてよかった」
 ちなみにケルベロスと焼肉の関係性は全く無い。
「あ、ちょっと! 私の肉に手を出さないで! 大体、食べ放題なのに何でもやし?」
「もやしは、スーパーフードだ」
 2人仲良くとはいかないが、アルコールと肉、その二つで平和は保たれていた。

「……こうやってお前と、どっかに出かけて、飲んだり食ったり出来んのは……正直楽しい」
「うん、そうだね。幸せだね♪」
 酔いが回ったデフェールがゆったり言えば、里桜も同じ気持ちだと言う。
「オレなんかにゃ勿体ねぇ女だよ、おめーは。………オレぁお前の事めちゃくちゃ気に入ってっからな!」
 酔った勢いの言葉。
 それでも里桜は頬が赤くなっていくのを感じた。

「っかー……焼肉たぁ、いいねぇ。いっぱい食いてぇもんだから、一食抜いて来ちまったよ」
 片手にビール、箸にはタン塩、向かいにうずまき、晶は心地よい時間を過ごしていた。
「唐辛子って美容に良いんだって♪ 知ってた、晶君?」
 笑顔を見せるも、少し緊張気味のうずまきは、大量の唐辛子を肉と共に口に入れてしまう。
「はわ! か、辛~い!」
「ほらほら水。っていうか、こんな風に食わなくても、しっかり立派な大人にはなれるんだから、そう気を落とすな。お酌もしてくれるし、良い女だよ、マキは」
「ふぇ? えっと……」
 突然の晶の言葉に、うずまきは鼓動が速くなるのを感じるのだった。

『一人で行くなんてそんなおしゃ……寂しい話がありますか!』
 フィストは、一人焼肉に行くと言った時の晩とのやり取りを思い出すと、口元に笑みを作る。
『普段誰かと一緒に行くことが、無いからな……』
 だから、晩も一緒にと誘った時、喜んでくれたのが嬉しかった。
「僕はお肉より野菜派です……でも、実はそう言っておかないと両親に怒られちゃうんです。がっつり、お肉もいいですよね!」
 晩の年相応の言葉がフィストにはとても愛らしく聞こえる。
 晩とフィスト、穏やかな2人の時間が流れていた。

「夜が高級黒毛和牛も当ててくれたし、言うこと無しだよな♪」
 エリオット・シャルトリューは、上機嫌で言う。
 2人用の個室を選んだのは、殆ど男女のペアなのにも関わらず、高級和牛を当てたペアは、男同士のペアである、夜だけだった。
「白ご飯の上に焼肉のタレをかけて肉を乗せてまたタレかけて、これ一回やってみたかったんだよなぁ♪」
「まさか、当たるとはね。しかも他の肉もバイキングだし、迷うのも醍醐味だろうね」
 気心の知れた友人との有意義な時間……彼らには、平和なこの時間がとても心地よかった。

●黒毛和牛の苑
「肉パ!」
『肉パ!』
「ウェーイって言うのが礼儀だと聞いた。ウェーイ」
『ウェーイ!』
 未明の言葉に合わせてテーブルの皆が復唱する。
「ハラミ推しとしては、じっくりとタンを焼いた後に育ててゆきたいのです。野菜はズッキーニ推しですが、焼くとどれも甘みが出て美味しいですよね」
「待て、一番最初に焼くのはタンだ。厚めのは、私のだぞ!」
 ダリルが言えば、クラレットは制し、網の隅で推し肉の『タン』を育て始める。
「ティアンは、名前がなんとなく気に入った、豚トロを推していこう。たっぷりの脂が音を発てるのか……」
 脂身の香ばしい匂いこそ至高と言わんばかりに、ティアンが言う。
「推し肉にも個性があるものだな。おれの推しはカルビです。脂と厚みのあるカルビ!」
 育ち盛りの未明が言えば、隣の席から含み笑いが聞こえる。
「皆さん甘いですわ。それらのお肉も美味しいけれど、わたくしの運で手にした、このお肉には、勝てませんでしょう?」
 エフェメラの目の前に置かれた、高級黒毛和牛……誰かの唾を飲み込む音が聞こえる。
「ああ、高級黒毛和牛。わたくしの推し肉。その綺麗な脂を見るだけで眩暈がいたしますの。……胸が苦しいですわ。うふふっ! さて、堪能しましょう」
 エフェメラが一枚の和牛を網に乗せれば、皆が笑顔で仁義無き戦争を始めた。

「キャップが当てて、俺達が奪い取るつもりだったんだがな……」
 言う、カルレスの前には和牛の大皿が置いてある。
「いやしかし、タダで焼き肉食べ放題……しかも高級肉付き! ご機嫌にもなるってもんだぜ」
 自身が当たったら、2人に見せびらかして1人で食べつつ、羨望を浴びた後に一切れずつだけ分けてやるつもりだったチェインは、上機嫌で黒毛和牛を口にしている。
「イオネはどんなお肉でも大好きなの! 高級なお肉も美味しいけど、鶏肉を食べ続けるカルレスをみていたらなんだか……こんな姿、矢羽には絶対みせられないね……?」
 言いつつもイオネは、和牛と鶏肉を交互に口に運んでいる。
 ちなみに『矢羽』とは皆で飼っている、鶏の名である……業が深い。

「ラウルちゃんは、食べ放題初めてなのね。私の方が先輩ね。好きなもの食べられるだけ取って来て、自分で焼いて食べるの!」
 ミニュイはシズネと共に見本として、肉を焼いていく。
 その量も半端では無いが、このテーブルにもみんなが大好きな肉の王が存在していた。
「焼肉店も食べ放題も初めてだけど、一番良い肉まで喰えるなんてな」
 ラウルが得意げな様子のミニュイの表情を窺う。
「お腹空かせてきたからぺこぺこだ~! ミニュイが、和牛当てるとはね」
 言いつつも、シズネはその細身の身体のどこに入るのかと言う量の肉とご飯を物凄い勢いで食べ始める。
 その傍らでは、野菜を食べないシズネに、ミニュイが野菜も食べるようにと『あーん』をしていた。

「アクレッサス、焼いてばかりいないで食え」
 カガリがアクレッサスの皿に肉を乗せれば。
「皆が楽しく食べられれば、俺はそれでいいんだけどな。でも、ありがとう」
 レタスで巻いた和牛を美味そうに頬張りながら、アクレッサスは目を細める。
「あっつ!? あ、大丈夫ですよ。少し手が網に当たっただけです」
「今日は、ロジオンはよく当たる日なのかな?」
 ブラッドリーが首を傾げて言う。
 このテーブルで和牛を当てたのは、仲間内でドジっ子扱いされている、ロジオンなのである。
 ロジオンも『食べるよりも調理する側に回った方が』と食べるより、焼き係を担っている。
 一番積極的に肉を食べているのは、細身で小柄なロイだったりする。
「……そう言えば、デザートも食べたいなぁって言うか、僕そっちの方がが食べたいかも」
 ブラッドリーがそう呟けば、男5人、それもいいなとスイーツメニューとにらめっこをするのだった。

 眼前に、7人前の高級黒毛和牛が置かれていた。
「壮観だな。では、太陽の騎士団の更なる発展と飛躍を祈って、乾杯!」
 シヴィルの号令と共にグラス同士が音を発てる。
「自分育ち盛りなんで、沢山食べるっす」
 焼けた肉をドンドン口に運ぶ、大亮。
「柴、お前も大盛りか。ご飯を確り食べ、肉も沢山食べる。食べられるだけ食べないと精が付かないからな」
 女性としては脅威のスピードで肉を減らしていくのは、凛だ。
「ランサーはアイルランド周辺の出身だったな。酒は強いのか?」
 タン塩の焼き加減を確認しながら、真也は隣に座るランサーに聞く。
「ふむ。酒は、時々飲むくらいだな。だが、酒の強さには自信があるぞ。騎士たるもの、酒にも強くなくてはな。やはり故郷の酒が美味いな」
『酒が飲める歳になったら、いつか飲ませてやるさ』
 ランサーはそう付け足すと、和牛を口に運ぶ。
「高級黒毛和牛……。タッパーに入れて持ち帰れないでしょうか?」
 折角、真也が当ててくれた高級食材、ロベリアの気持ちは痛い程に分かるが、当然ダメである。
「皆さん、お肉じゃんじゃん食べてくださいねー」
 そう声をかける、還自身はと言うと、アイスやティラミスを眼前に並べ、さながらデザートバイキングとなっている。
『太陽の騎士団』は、その名の通り、太陽のように明るく食べ放題を満喫していた。

●おめでとうをありがとう
「そいや、加藤の旦那が焼肉奉行だったか。お手柔らかにお願いするぜ。あ、俺あんま食わねぇから少な目で」
 竜哉が言えば、光廣はハイボールを一口飲み、真剣な瞳で網の上の肉と戦闘を始める。
「んー! やっぱり焼肉にはソルトレモンが1番ですな!」
 光廣が焼いたカルビにレモンを絞り、口に放り込んだ蛙紫は身悶え、美味を表現する。
「いやー、こんな機会を用意して頂いた野木原殿に感謝でありますな! 誰でありますか! 自分のお肉を取った人は!」
 いくらでも肉を食べ続けられると豪語しているのは、泰山だ。
「なる程、焼き加減を見極めるのも大変そうですね。自分だと炭になしてしまいそうです……」
 初めて焼肉店に訪れたユウマは緊張を見せていたが、肉を一口食べた瞬間『……うぅ、焼肉美味しいです!』と感激を覚えていた。
「焼肉の時に食べるエビは旨いんですよね。ボリュームあればあるほど、タレにも合いますし」
 焼肉奉行が既にいる為、海鮮奉行となった琢磨は、友との食事に鋭い眼光を優しく細めていた。
「折角、日頃働いてる方々も誘って美味しい焼き肉を食べようと言ったのに……来てくれたの有枝ちゃん、だけじゃないですかぁ!? もういいです! こういう時は肉です! って、あれ? 私の取って来たお肉は?」
 ルイアークが嘆きつつも肉に目を向けると、育てた筈の肉が無い。
「え? 何? 肉がどうしたって? ほら焼いて食え。……ええい、動きが遅いわ! もういい! 私、自ら食す!」
 明らかにルイアークの焼いた肉を頬張りながら、弥奈は更にルイアークの陣地へと侵入していく。
「……実はわたくし、焼肉というのは初めてなのです」
 匂いが付くから服は変えて来た方がいいとの助言の下、お土産用の日本語Tシャツを着て来た、髻華命が不安げに言う。
「……私も、経験がないというか、焼き肉は久しぶりなだけ。……肉ばかり乗るものかと思ったけど、そういう訳でもないわね」
 メニューの豊富さに驚いているのは、理沙だ。
「私も焼肉とは久方ぶりだ……千梨の奢りと聞いたのでな」
「僕もマスターの奢りと聞いて! これは、槍のちタイフーンですかね? 成長期の僕はお肉一杯食べますよ!」
 クオンとキルティアが口を揃えて言う。
 シャルフィンとキリトは当然知っていたが、今回の焼肉の出資人は、千梨では無い。
(「野木原から貰ったタダ券で自分の奢りのフリをしたら、こうも素直に感謝されるとは……逆に居心地が悪い」)
 所詮、千梨自身が撒いた種なので、シャルフィンも何も言わず、場を少しだけ和ます為に、千梨と酒の飲み比べを始める。
「お姉さん、ビール、海老と帆立、それと牛タン」
 メイドドレス姿の淡雪に簡潔に注文するのは、陣内だ。
 誰も理由を知らなかったが、淡雪は今日この店で給仕として働いている。
「ねえ、タマちゃん。……これ全部食べて良いの?」
 食べ放題初心者のあかりは、出された食べ物の量に驚き、本当に無料なのかと、正直不安になってしまっている。
「大丈夫だ、あかり。もしタダにならなくても請求は、咲次郎に行くからな」
「えっ!? そんな、ダメだよっ!?」
 心配そうな声を上げるあかりの口に、陣内が牛タンを入れてしまえば、美味しさであかりは何も言えなくなってしまう。
「あんなにほのぼのされちゃ、一緒のテーブルとか無理よね」
 肉置き場で配膳を手伝っていた咲次郎に、アガサが話しかける。
「大体なんで、今日の主役が一番働いてんの?」
「みんなから、沢山のおめでとうを貰ったからのう」
「じゃ、あっちの頑張ってる娘にも、お手伝いのご褒美あげてくれる?」
 アガサは視線を淡雪に向け言う。
「そうじゃな……きちんと応えないといかんかのう、わしも」
 目を細め呟く咲次郎の首には、雪の結晶がトップに付いた、シルバーネックレスが輝いていた。

作者:陸野蛍 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月13日
難度:易しい
参加:80人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 10
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