自棄に走った就活生

作者:なちゅい

●実験で生まれ変わって……
 そこは、薄暗い実験室。
 1人の男性が実験台の上に横たえられているのを、白い仮面を被った白髪の男が含み笑いをして見つめている。
 この黒い衣服を纏った仮面の男の名は竜技師アウル。彼は今、目の前の男性へとある生体実験を完了させたところだ。
「くっくっく……喜びなさい、我が息子」
 ドラグナーの呼びかけで目覚めた男性。その四肢はドラゴンのように鱗に覆われており、右手のみ地獄となって燃え始めている。彼はドラゴン因子を植えつけられ、ドラグナーの力を得てしまったのだ。
「しかし、未だにドラグナーとしては不完全な状態であり、いずれ死亡するだろう」
「…………」
 男性は地獄となった右腕を見つめ、手を握っては開き、自身の体の一部であることを確認する。
「死を回避して完全なドラグナーとなる為に、与えたドラグナーの力を存分に奮ってみろ。復讐も遂げられし、多くの人間を殺してグラビティ・チェインを奪い取って生き長らえることもできる」
 アウルの言葉を聞き終えた男性は、台からゆっくりと降りる。
「ああ、折角だから、このままドラグナーとして就職するのも悪くない」
 彼は元々就活生だった。幾度も面接を受け、同じ数の不採用通知を受けた。それだけならまだいいが、中には心無い言葉で罵倒してくる面接官の姿も……。
「見る目のないあの面接官どもを、この鎌で切り裂いてやる……!」
 大鎌を手にして暗い炎を瞳の奥に燃やす男性を見つめ、アウルは満足気に実験の成功を実感するのだった。

 ヘリポートへと集まるケルベロス達。
 ドラグナーによる事件と聞きつけた彼らは、ヘリオライダーへとその説明を求めにやってきていたのだ。
「就活に失敗した、新卒一般人が未完成ドラグナー化すると聞いたわ」
 集まるケルベロスの中から、アミル・ララバイ(遊蝶花・e27996)がそう告げると、リーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)が頷いた。
「就職活動って大変だと聞くけれど、さすがに自棄に走りすぎだとは思うね……」
 運悪く、竜技師アウルに出会ってしまったことも大きいのだろうが、ともあれ、ドラゴン因子を移植されたこの就活生を止めねばならない。
 事件を起こそうとしている新たなドラグナーは、未完成とでも言うべき状態だ。
 その人間は完全なドラグナーとなるべく必要な大量のグラビティ・チェインを得る為、また、ドラグナー化する前に惨めな思いをさせられた復讐と称して、人々を無差別に殺戮しようとしているのだ。
「これから、急いで現場に向かおうと思っているよ。皆には、未完成のドラグナーを撃破してほしい」
 現れる未完成型のドラグナーは、就活生の男性、坂本・武志だ。彼は面接において、幾度も面接官から心無い罵声などを浴びせられ、精神的に病んでしまったようだ。
「ドラグナーとなりかけた彼は、簒奪者の鎌を使って攻撃してくるよ」
 戦いにおいて使用するグラビティは、ケルベロスが使用するものと変わらない。ただ、時に鎌を2本所持することがあるのには注意したい。また、彼は未完成な状態の為、ドラゴンに変身する能力はないようだ。
 このドラグナーが現れるのは、新潟市内の国道116号線上、アーケード街となっている場所だ。坂本はこの周辺の人々を殺戮しようと動く為、出来るだけ早く止めたいところだ。
「以上だよ。……出発の準備をするから、少し待ってね」
 一通り説明を終え、リーゼリットはヘリオンの離陸準備へと向かう。
「ドラグナーとなった就活生……か」
 そこで、雛形・リュエン(流しのオラトリオ・en0041)が呟く。
 人ならざる者に変化した彼を救うことはもう出来ない。完全なドラグナーとなって破壊活動を始める前に、討伐しなければならない。
「そうだね、よろしく頼んだよ」
 操縦席から顔を出したリーゼリットが頷き、この場のケルベロス達へと願うのである。


参加者
ロイ・リーィング(見兔放犬・e00970)
カルディア・スタウロス(炎鎖の天蠍・e01084)
メロウ・グランデル(眼鏡店主ケルベロス美大生・e03824)
フォルトゥナ・コリス(運命の輪・e07602)
西院・織櫻(櫻鬼・e18663)
比良坂・陸也(化け狸・e28489)
月詠・鴉夜(鬼追鴉・e35403)
一比古・アヤメ(信じる者の幸福・e36948)

■リプレイ

●面接、ドラグナー、就活生……
 現場に向かうヘリオン内。
 しばし、ケルベロス達は歓談しつつ、到着を待つ。
「言葉一つで人を狂わせるとは、その面接官の手腕、一度見てみたいですね」
「圧迫面接……は効果が全くないって研究結果、出てなかったっけ?」
 真顔で西院・織櫻(櫻鬼・e18663)が話を仲間達へと振ると、赤いストレートフェアのフォルトゥナ・コリス(運命の輪・e07602)がそんな相槌を打つ。
 それを聞いていたのか、愛用のヘッドホンを外した一比古・アヤメ(信じる者の幸福・e36948)が今回現れる討伐対象を思い出して呟く。
「ドラグナーか……人をデウスエクスに作り替えるなんて、悪趣味なことを」
「生体実験などとは、外道な連中め……」
 雛形・リュエン(流しのオラトリオ・en0041)はあまり表には出さぬ物の、竜技師アウルに対して静かに怒りを感じていたようだ。
「……にしても、気持ちは、わからないでもないんだけどね……」
 少しぼんやりした印象のロイ・リーィング(見兔放犬・e00970)は、自棄になってドラグナーへと改造された就活生に一定の理解を示すが、金髪の三つ編みに眼鏡が印象的なメロウ・グランデル(眼鏡店主ケルベロス美大生・e03824)は彼の考えに対して首を傾げていた。
「ドラグナーにされてまで就職って、うれしいもんなんですかねえ」
 かけた眼鏡を煌かすメロウは、ドラグナーは絶対ブラックな職場だと断じる。ぶっつけ本番の初仕事なのに、会社からのサポートがないからというのが根拠、らしい。
 就職といえば面接。話が一回転したところで、ヘリオンは現場に到着したようだ。
「私は弁が立つ方ではありません」
 元々、織櫻は暗殺組織に属していた際に刷り込まれた物騒な思考回路を持ち、それに一般常識という名の猫を被った状態でしかないと、自己分析をしている。
「言の葉ではなく、我が刃で語るとしましょう」
 ただ、これも刃を研ぎ澄ませるいい機会だと彼は考えるのだが。
「ウェイウェイ☆」
 メロウは軽い調子で頷き、真っ先にヘリオンから飛び降りていくのだった。

●ドラグナーとなった就活生
 新潟県新潟市。
 アーケード街となった場所へ、ドラグナーとなりかけた就活生、坂本・武志がすでに姿を現していた。
「就活……実にくだらない」
 坂本は地獄となった右手で大鎌を握り、その感覚を確かめるように近場の建物を切り裂いていく。
「さあ、俺を認めぬ愚か者どもの粛清を……!」
 デウスエクスの襲来と知った現地民は大慌てでこの場から逃げ始める。逃げ遅れた人を目にしたドラグナーの前へ、ロイは盾となるべく立ちはだかった。
「そんな弱いメンタルだから、落ちたんじゃない?」
「ん……?」
 坂本は現れたケルベロスに気づき、大鎌を下ろした。
 その周囲では、他のメンバーが避難誘導に当たる。
 織櫻はその長身を活かして己の身を盾としつつ、すぐに移動が難しい近辺の人々へと屋内などに避難するよう呼びかける。
「室内に避難した際は可能な限り奥に行き、体勢を低くするよう願います」
 その際、彼は細かな指示も忘れない。
 頭上見上げると、白い翼で低空飛行するフォルトゥナの姿があった。
「出口は向こうです。押さないでください!」
「慌てずとも良い、落ち着いて我々に従って欲しい」
 動ける人々をこの場から離れるようフォルトゥナが避難経路を示すと、リュエンもまた割り込みヴォイスを使い、彼女に合わせる形で人々をなだめつつ誘導していく。
 サポートとして参加する和希もまた、割り込みヴォイスによって冷静な行動を人々に促していたのだが。
「……竜技師アウル。こうも奴の暗躍が続くか……!」
 影すら見えぬドラグナーに、彼は焦燥感を抱いていたようだ。
 さて、この場にもドラグナーとなりかけた青年がいる。
 仲間の避難誘導を助ける為に、メロウは青年の前に姿を現す。
「就職を焦った末にドラグナーにされちゃうなんて。ほんと、心からお祈り申し上げます」
 独特のふわふわ感が露骨に出たひらひらとした衣装を着たメロウは、「まだ就活なんて知りませーん」といったオーラを纏う。
 その上で、彼女は白くて長くて太くて硬い「どんき」に稲妻を纏わせ、思いっきり敵を貫こうとする。続き、ウイングキャットのリムが伸ばした爪で引っかいていた。
「よう、不運だったな。まだまだやり直しがきいたはずの人生を勝手に袋小路に入れられてよ」
 坂本へとそう声をかけたのは、タヌキ……の姿をした獣人型ウェアライダー、比良坂・陸也(化け狸・e28489)だ。
「貴方に何があったかは知りえません。だから、その思いつめた苦痛は肯定も否定もできません。ですが……」
 続いて、長い金髪をポニーテールにした、カルディア・スタウロス(炎鎖の天蠍・e01084)。清廉な女騎士といった印象のカルディアは物腰柔らかく、ドラグナーになりかけた男へ告げる。
「……他人に迷惑をかけるというのはいけません」
「残念だけど、同情はしないよ」
 バイオレンスギターを携えたアヤメは、眼前の相手を敵と見なして構えを取る。
「私はケルベロスとして、戦う事を決めた身。罪も無い人たちを手に掛ける事だけは見逃さない」
「ケルベロス……」
 これまで、自分を助けてくれていた頼もしい存在が敵に回ったことを、坂本は実感する。
「この地球で暮らす以上、良い仕事に就き、手当を受け取り……という営みは避けられぬもの、ですね」
 大人びた射干玉の髪の少女、月詠・鴉夜(鬼追鴉・e35403)が相手の境遇に多少の理解を示す。うまく形を成さぬのならば、自棄になる気持ちもわかると。
「でも、それで見逃すことのできないものが、あるのです」
 学生服の自身の言葉など、耳にはしないかもしれないと鴉夜は考える。それでも、一般人に危害が及ぶのだけは食い止めねばならない。
 越えてはいけぬ一線を、坂本はすでに越えてしまっている。だが、陸也は敢えて問う。
「止まるなら良し、止まらねーんなら此処で終わりだ。八つ当たりは格好わりぃぜ」
「……止まれないな」
 竜の鱗に覆われた手足。その右腕は地獄の炎が燃え上がっていて。
「俺はもうドラグナーに内定したのだからな」
 ケルベロスを敵と見なした坂本は、メンバーに向けて手にした大鎌を投げ飛ばしてきたのだった。

●人の道を外れた青年に……
 飛んで来る大鎌。やや前のめりな布陣のケルベロス達はそれに身構えつつもやり過ごし、近辺の人々の避難の間、敵を……ドラグナーとなった就活生を抑えようとする。
「もっと違う未来があれば、よかったんだけど」
 ロイはそう告げ、斬霊刀を手にする。
「ないというのなら、ここで終わらせてあげる!」
 大きく空の霊力を帯びた刃を切り上げたロイは敵の血を浴び、口元を吊り上げている。彼は根っからの戦闘狂なのかもしれない。
「ちゃちゃっとやっちゃって、カラオケ行きましょ」
 こちらも、前線で敵の大鎌を凌いだメロウ。今から遊びにでも繰り出す雰囲気を出しながら、彼女は三度地面を蹴って勢いをつけ、敵へと飛び込んでいく。
「これがトスカのキスよ!」
 メロウはそのまま、坂本へと頭突きを喰らわせる。
「ウェイウェイ☆」
 語尾を上げつつ声を上げるメロウを、坂本は睨みつける。彼女はうまく、相手の怒りを買うことに成功したようだ。
 『やられて嫌なことをやってやれ』という座右の銘を持つ陸也も続く。敵の攻撃を妨害すべく、彼は捧げる祈りを媒介にして儀式魔法を展開する。
「カミサマカミサマオイノリモウシアゲマス オレラノメセンマデオリテクレ」
 発生する祈りの具現たる霧はドラグナーとなった坂本を包み、その権能を奪っていく。
 更に続く前衛陣の攻撃。仕掛けるはカルディアだが、戦い前とはずいぶん形相が変わっていた。
「敵になった以上は倒すしかねぇ」
 戦いによって気が昂ぶるカルディアは、荒々しい口調で言い放つ。
 彼女は両手のゾディアックソード「クルシファイ・レサト」に刻まれた蠍座の重力を同時に宿し、目の前のドラグナーへと超重力を込めた十字切りを叩き込んでいく。
 逃げ遅れた現地民がいないか。周囲を見回していた織櫻も攻撃に移り、日本刀「瑠璃丸」でドラグナーへと切りかかった。
 織櫻の戦闘スタイルは、刀を使った肉弾戦とでも言うべきか。感情を露わにはしない彼は淡々と、研ぎ澄ませた刃を振るう。
「流れ弾など、一発も漏らしはしません」
 人々に被害が出ぬよう鴉夜はボクスドラゴンの白夜と共に身を張り、失われた面影を悼む歌を響かせる。それは陸也へと破剣の力を与えていった。
 これだけのメンバーが一般人を守ろうと壁をなす中、アヤメはギターをかき鳴らす。
「走れ! 振り返らずに 脇目も振らず逃げ続けろ……」
 弾き語りを行うアヤメ。その曲は立ち止まらず戦い続ける者達の歌だ。響くギターの音色と彼女の歌声は、前に立つ仲間達を奮起させていく。
「貴方に罪があるとしたら、それは一つ」
 仲間が力を得たことを確認したアヤメは、彼に告げる。
 坂本の罪は、失敗した事でも、他人を恨んだ事でも、ドラグナーになった事でもない。
「それは、人々を手に掛ける事を自ら選んだという事実だけ。……その境界さえ越えなければ、私は此処に居なかったのに」
 呟くように語る彼女。人として一閃を超えた青年を止める為に、ケルベロスはこの場に立っているのだ。
「くっ……」
 なおも大鎌を振るうドラグナー。彼は相手がケルベロスだろうと構わずに刃をつき立ててくる。

 周囲の一般人の避難が進む間、メンバーはドラグナーの攻撃に耐えることとなる。
 交替で大鎌の攻撃を受け止めるディフェンダー陣へ、鴉夜はヴァルキュリアの光の翼を広げて。
「月が去っても哀しまないで」
 夜に翔ぶ太陽の鳥。哀しみを砕く太陽の鼓動。そうして仲間達を守る為の結界が展開していく。
 ドラグナーが守り重視の耐性を取るケルベロスを攻める戦況も長くは続かない。避難誘導に当たっていたメンバーが駆けつけてきたからである。それは同時に、周囲の人々がこの場からいなくなったことを意味していた。
 フォルトゥナは早速攻撃をと、古代語の詠唱を始める。放たれる石化光線に坂本は左足を一部石とされながらも、ケルベロス達を睨みつけた。
 そんな姿に、サポーターの和希はやりきれなさを覚えつつ、突然逃げ遅れた一般人が飛び出してこないかと、周囲の警戒を続ける。
 一般人対処を和希に託し、リュエンは事前に陸也やアヤメに頼まれていたように、盾となっていた仲間の回復の為にと雷の壁を張る。
 対して、そこまで歌声を響かせて仲間の回復支援に当たっていたアヤメは、攻撃へと転ずる。
「白雪に残る足跡、月を隠す叢雲。私の手は、花を散らす氷雨。残る桜もまた散る桜なれば……いざ!」
 それは、アヤメの我流攻撃忍術。オラトリオの彼女は敵の死角より翼の水力で迫り、手に込めた螺旋の力をドラグナーへと叩き込む。燐光と共に舞う血飛沫は、散る花を思わせた。
 だが、今なお、ドラグナーは抵抗を止めず、死の力を刃に纏わせて切りかかってくる。
 それをメロウが受けている隙に、ロイは舞い散る桜の幻影を敵へと見せ付ける。
「舞い散れ桜よ、敵を切り裂け!」
 その幻影は敵の体に斬撃を与え、さらに相手の意識を惑わせて行く。
「必死に雇ってもらわなくても……こんなにすごいギロチンフィニッシュを繰り出せるなら、一人でやってけるんじゃないです?」
 傷つくメロウは敵を煽った後、降魔の力を纏わせたどんきで敵を殴りつけていく。
 陸也も攻撃のチャンスと見て、シャーマンズカードを取り出す。
「氷結の槍騎兵、敵を貫け――急急如律令」
 その呼びかけに答えた騎兵は一直線に突撃し、切りつけたドラゴンの腹を凍りつかせる。
「なぁ、ドラグナーに人生好き勝手されて、そのまんまで終わるなんて悔しくねーのか」
 そこで、陸也が坂本へと呼びかけた。まだ、ドラグナーとして不安定な状態にある彼は、グラビティ・チェインを奪わねば死亡してしまう。
「いっそ、お前の体をそんなにしたドラグナーぶっ殺して、グラビティチェイン奪っちまえよ」
 そうすれば、ケルベロスに就職できそうだと陸也は話を落ちかけるのだが。坂本は大きく首を振る。
「あいにく、ドラグナーに内定したからな」
 目を爛々と光らせる彼は、もはや人間としての思考を失いつつある。最早救えないと、陸也もまた首を振るのだった。

 元人間とはいえ、ほとんどデウスエクスとなった相手。ケルベロスは攻撃を繰り返すが、ドラグナーはなかなか倒れない。
「せいぜい、恨み言を根こそぎ吐き出して逝きやがれ」
 カルディアは目の前の相手を見据え、荒々しく躍りかかる。
「切り裂いてやるぞ、ズタズタにぃぃ!! ル・クール・デュ・スコルピヨン!!」
 胸部の地獄と2本の「クルシファイ・レサト」を共鳴させたカルディアは、怒涛の連撃を繰り出していく。怨嗟に満ちた蠍座の力も相まって、その体に猛毒の如きグラビティを打ち込んでいく。
 後方からはフォルトゥナが大鎌「サトゥルナリア」を振るうことで相手の時を止める弾丸を叩き込む。
 それによって凍りつく体に怯む敵へ、傷つくことを厭わぬ織櫻が肉薄し、非物質化した斬霊刀「櫻鬼」で坂本の霊体のみを切り裂く。
「まだだ、俺の力を認めさせるまでは……」
 多数のケルベロスから攻撃を受け続けて消耗していたのだろう。
 肩で息を始めるドラグナーは虚の力を纏わせた大鎌を振るうと、白夜がその刃を受け止める。
 間髪入れずに、全身を覆うオウガメタルを鋼の鬼と化した鴉夜が殴りかかり、敵の体を覆う鱗を砕いた。
 さらに、ロイが飛び込み、非物質化させた斬霊刀を一閃させる。
「実にいい戦いでした」
 強敵に対する敬意を示し、ロイが刀を鞘に収めると。坂本は小さく嗚咽を吐く。
「く、そ……っ」
 意識を失い、その場に崩れ落ちるドラグナー。……いや、坂本という青年の冥福を、ロイは祈る。
「次はもっと、違う人生が送れますように」

 ケルベロス達はすぐに、事後処理へと当たり始める。
 織櫻は負傷者がいないかと、近場の建物に入った人々の怪我を診る。自身向けのヒールでは治せない為、仲間にその治療を頼む。応じたリュエンがそれに応じていたようだ。
 また、周辺店舗へのヒールは、住民達が是非ということで、ケルベロス達は幻想交じりに修復する。
「倒して終わり、なんて簡単には行かないか-」
 アヤメはそうして、活気が戻りつつある新潟の街を見回す。
 だが、そこには、人間だったあの就活生の姿はもうない。
「難しいな……」
 彼女はアンニュイな態度で一言そう漏らし、ドライな態度でこの場を後にしていくのだった。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年6月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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