忘れ得ぬ瞬間に祝福の雨を

作者:質種剰


「『雨は全ての景色を美しくする』……そんな謳い文句を掲げた宝石屋さんがプロポーズ応援フェアを開催しようとした矢先に……デウスエクスの襲撃に遭いまして」
 小檻・かけら(藍宝石ヘリオライダー・en0031)が、落胆した様子で話し始める。
「襲撃が真夜中だったのが幸いして、人々は皆無事でした……ですが、イベントの開催予定地だった新店舗が、全壊させられたのであります」
 ちなみに、ギリギリ搬入前だった宝石類も全て無事らしい。
「屋内からでも雨振りの景色を楽しめるよう、柱以外をガラス張りで造られた新店舗は、ゆったりと広くてお洒落で、イベントの隠れた目玉でありました……それが通常の建て直しでは梅雨明けまでに間に合わない事から、イベントを楽しみになさっていた地元の方々はとてもがっかりなさっておいでであります……」
 そんな訳で、今回はプロポーズ応援フェアの会場全体をヒールグラビティで修復にあたって欲しい。
「会場が修復できた後は、皆さんもぜひぜひ、プロポーズ応援フェアでのお買い物を楽しんでらしてくださいましね、婚約指輪や結婚指輪だけでなく、普通のファッションリングやジュエリーアクセサリーも売ってますし」
 とはいえ、長期的な金銭や心の準備無しで婚約指輪など簡単に買えるものではない。
「そこで朗報でありますよっ、お店を修復してくれたお礼に、格安で『リングのオーダーメイド体験』をさせてくださるとか!」
 つまりは、着けたい宝石の種類やリングのデザインを予め伝えておくと、そのイメージにぴったりなリングを最優先で製作しておいてくれるらしい。
「本物の婚約指輪や結婚指輪を買う前のシミュレーションにでも、お気軽にお使い頂ければと思います。何より、石やリングの材質をご自分達で決められるのでありますから、練習にぴったりであります。幾分か指輪選び失敗のハードルは下がると思うでありますよ~」
 もちろん、このお店で本物の婚約指輪や結婚指輪を購入なさっても構いません——そう楽しそうに説明するかけら。
「それに、イベントへかける宝石屋さんの熱意でありましょうか、婚約指輪や結婚指輪に加えて、なんとウェディングドレスやタキシードまで展示、販売しているとか! こちらの試着を楽しんでみるのも良いかもしれませんね~♪」
 こちらは、『婚約指輪などはまだ早い』とか、『指輪のデザインには自信がないがイベントの雰囲気を楽しみたい』或いは、既に婚姻済みの夫婦です——というカップルにオススメである。
「それでは、皆さんのご参加、楽しみにお待ちしてるでありますよ♪」
 かけらはぺこりと頭を下げた。


■リプレイ


「指輪ってさ、どんなのが女性に好かれるのかな?」
 鬼人は、恋人に隠れて指輪選びを画策、店員へ相談中。
「いや、その、なんていうか、ずっと一緒にいて欲しいって気持ちを込めたいんだよ」
 指輪を買うだけで混乱する自分に呆れつつも、
「ま、俺は、この通りお子様だが、色々と経験して……早く、大人になりたいぜ」
 せめて、指輪を渡す本番では狼狽えまいと決意した。

「2本の蔦が捻れて互いの象徴の石を埋め込んで……」
「ああ、とてもステキだ。断ち切ろうとする無粋な人には退場願わないといけないな」
「絡み合う様は断ち切らない限り切れないわね」
 相談が弾むままに揃いの指輪を仕立てるのは椿とナガレ。
 金蔦に抱かれる青石と、純潔孕みし銀星の先の明日を思わせる赤石。
「ふふ、私達も誓いをたてる?」
「……誓い?」
 ピンと来なくて首を傾げるナガレへ、椿は楽しげに戯れかかる。
「言葉にするのも大事だと思うわ、言霊って言うじゃない」
(「たしかに。心に落とし込みたいなら尚更」)
 納得したナガレは自然な風情で、
「君の近くに在るよ」
「当たり前でしょ、居てもらわなきゃ困るわ」
 嗚呼、呼応し合う魂のなんと美しい事!
 椿は口角が上がるのを感じた。

「あなたがこういう服装に疎いのは分かっていますのよ?」
 と、気品のある笑みを浮かべるアイン。
「ほら、普段私の意見ばかり言っていますし、偶には従者の好みも聞いてあげようかと思いまして」
「お嬢様に似合う服……そうですね、こちらは如何でしょう」
 カシスは観念して、青い蝶がモチーフのドレスを選んだ。
「お嬢様は青色がお好きでしたよね? やはり、好きな色のものがいいかと私は思いますね」
 主従の仲は今日も良好である。

「んふふ……♪ 輝かしい宝石の魅力に導かれてぇ……こぉ~んなにも沢山のカップルが集まったみたいねぇ♪」
 濁った瞳で唇を舐めるイヴとは対照的に、
「あ、あの……わたし、この前18になったのですけど、その、大事な時が何時来るかわからなくて……ようやく意識し始めたといいますか」
 結婚について考えただけでどぎまぎするクララは大層初々しい。
「だから、イヴさんに色々教えて頂け……」
「そうねぇ、ブリリアントカットでも良いんだけどぉ、やっぱりぃ、気持ちが一番大事よねぇ♪」
 そんな彼女へ、イヴはサンストーンの指輪を贈って妖艶に微笑む。
「んふふ、お誕生日おめでとう♪」
「え……? あ、あの、とても嬉しいです……」

 明るくあったかい太陽の雰囲気に水を思わせる装飾を施した約束の指輪。
 澄み渡る空の爽やかな雰囲気に炎の飾りつけがなされた約束の指輪。
 完成したそれを、恋人へ差し出すのはシル。
「まっすぐに大好きって、幻想になんかしないって言ってくれたの、ほんとうれしかったの。わたしも、琴ちゃんが、かけがえなく大好き」
 だからね……受け取ってほしいの、プロミスリング。
「大好き、そして、いなくならないよって意味を込めて……」
 指輪を嵌めて鳳琴が微笑む。
「ええ、何度だって口にしますとも。これからも、いつまでも、大好きです」
「これからも、よろしくねっ♪」
 離したくないから、と抱き締めるシルの腕の中、鳳琴の目から嬉し涙が溢れた。
「はいっ、絶対離れません」

「シャルフィン、オレはね君の事が好きなんだ。愛してる、世界中の誰よりも」
 ケルベロスとして死なない限り生涯を共にするよ——臆面もなく宣言するマサムネをシャルフィンは快く感じて、
「もし子どもが欲しいと思うなら、養子を貰うという手もあるぞ」
 彼の願望を慮ってみせた。
「オレはシャルフィンの目の色の宝石の指輪が欲しい……ペリドット! これなんかぴったり!」
 共に指輪を買う際も、2人は大変仲睦まじく、
「なら俺は……ガーネットと悩んだがやはりここはルビーだな」
 互いの瞳の色に見立てた石を選んでいる。
 シャルフィンはチェーンも買って首にかけるつもりだったが、
「お互いこれつけて一緒にいようね……できれば薬指につけて欲しいな」
「む? わかった、マサムネがそういうのなら」

「くんくん……おいしそうな恋人エネルギーの気配がします……」
 と、シェネは会場を見回して舌舐めずり。
「幸せそうな恋人を見ると……シェネちゃんも嬉しくなっちゃうなー……」
 本当に嬉しそうに尻尾ふりふりする辺り、心から他人の幸せを願える純真な性根らしい。
「どうか神様……ここに居る恋人達が……これからも幸せにすごせますよーに……」

「もうすぐラハティエルとの結婚式……ああ、どれだけその日を夢見たかしら」
 幸せ一杯なリリアは、折角の試着だからとIライン、エンパイアライン、マーメイドラインと様々なウェディングドレスを着て楽しむ。
 彼女が試着室から出る度、ラハティエルは美しさへ息を呑んで、
「清楚さ、純潔性、美しさは天上の天使にも引けを取らない、な」
 歯の浮く賛辞を送った。
 また、ラハティエル自身も白のフロックコートとブルーグレーのベストに身を包んで、
「貴女こそ、世界で最高の花嫁だ。リリア、私を受け入れてくれてありがとう」
 彼の格好良さに目も合わせられないリリアの前で騎士の一礼。
 舞い上がる彼女の隣に立ち、バージンロードを歩むつもりでエスコートした。

「my beloved,I ask you to be mine」
 如月の指に指輪を嵌めて囁くのは萌花。
 小粒のインディゴライトトルマリンが瞳の猫モチーフをした指輪だ。
 横座りの猫はペアリングを並べたら向かい合う仕掛けである。
 内にはbelovedの刻印と浮かし彫りのハート。
「……これからもよろしくね……もなちゃん♪」
 如月は爪先立ちになり、そっと萌花へ口づけすると同時に、ペアリングの片割れを贈る。
 こちらは内側にStay with meと彫られ、瞳の宝石が小さいアメトリンになっていた。
(「アメトリンの石言葉も混ぜたら、初恋の貴女へ、一緒にいてほしい……って意味になるけれど」)
 如月も萌花も、互いに秘めた想いをキスに乗せるだけで、敢えて言葉にはしなかった。

「虎次郎って言うとタイガーアイって思ったけど」
「折角だ、とびきりの愛を込めてダイヤとかお互いの誕生石使って奮発しちゃおうぜ」
「アタシが貰ったピンクダイヤも気に入ってんだけどさ……できればその……虎次郎にもダイヤ、つけててほしいな……」
 ブリュンヒルトは、様々な素材のペアリングに目移りする虎次郎を愛しそうに眺めた。
「ああ。リングの色はどうしようか」
 彼女の希望を反映したペアリングは、マット加工無しのシルバーとゴールドの細身のタイプとなった。ダイヤの脇を月長石と黄玉が固める。
「式までこれが代わりだな」
「生まれてきてくれてありがとうヒルト、これからもずっとずっと一緒だぜ」
「……勿論。ずっとずっと、一緒だぜ?」
「誕生日……おめでとな。愛してる」

 ふと楽しそうなカップル達が目に入るや、アーティラリィは我知らず愁いを帯びた眼差しになる。
「過ぎた日は戻らぬ。が、戻らぬからこそ懐かしいと思うのではないのかな?」
 そんな彼女を気遣い、優しく笑いかけて彼女の分もヒールするのはレオンハルトだ。
 建物だけでなく、傷ついた人々とアーティ殿の心をも少しでも癒せれば、と願いながら。
「ふむ……まぁ全ては流れゆく時のままに……か」
 そんな彼の気持ちを察してか、自らの複雑な感情を宥めるように呟くアーティラリィ。
(「過去がどうであれ、余はここにいる……亡くした夫を忘れはせぬが、重荷にしてしまってはあやつにも申し訳ないというものじゃな」)
 足元のゴロ太を撫でつつ、ふっと微笑んだ。


「今年は何でござるかね~♪」
 鈴女は、自分へのプレゼント選びに勤しむ2人を待つ間、ウェディングドレスを試着。
「どうでござるか?」
「鈴女さん、すごい綺麗です……」
 がっつり背中の開いたデザインを見せるべくくるりと回れば、瑞樹が心から褒めてくれた。
「とっても綺麗だよ、鈴女」
「此れで何時でもだんちょの所にお嫁に行けるでござるよ♪」
「ああ、その日が楽しみだ」
 コロッサスの賛辞にも喜んでぎゅーと腕に抱きつく鈴女。
「しかし随分と扇情的だが……意外と瑞樹にも似合いそうだな。白いドレスと可愛い翼。きっと天使のように愛らしいんだろうね」
 だが、恋人が瑞樹の手を握りながら吐いた一言には、猫耳がぴくっと反応。
「何故鈴女を見て出てくる感想が瑞樹殿の事なのでござるかねえ……」
 笑顔で彼の腕をぎゅーと抓った。
「私には、こういうのは恥ずかしくて着られません……」
 瑞樹は瑞樹で、顔を真っ赤にして断ってから、
(「一夫多妻の生活って、どんな感じなのかな……」)
 ひとり物思いに耽る。
「いずれ瑞樹とも……」
 コロッサスはそんな彼女の戸惑いを知ってか知らずか、小さく呟いた。

「婚約指輪かぁ」
(「いずれは欲しいし、あげれたらいいなぁ」)
 じぃ、と見上げくるソフィアへ気づき、プロデューが優しく問う。
「そういえば暖色系が好きだったな、デザインはどうしようか?」
「あたしはサンストーンとガーネット、プロデューならアイオライトとトルマリンを中心に……どう?」
 楽しそうに語る恋人と共にデザイン画を起こす傍ら、ソフィアの指のサイズも密かに測るプロデュー。
「折角のイベントだからな、デザインを考えるだけでも楽しいな」
 一方。
「私達も試着、してみる……?」
 少し恥ずかしそうに恋人へ訊くのはリディア。
「悪いが、少し用がある。君は着用していてくれ」
 だが、ソルはにべもない反応で、スタスタ場を離れた。
「このサイズのリングと、タキシードはないか?」
 というのも、店舗の修復中こっそり店員へ頼んだブツを引き取る為だ。
「まだ仮のものだが、予行練習だ」
 不安そうに待つリディアの前、燕尾服を纏い現れたソルは流れるような所作で彼女へ指輪を嵌める。
「さて、我々カップルの愛を皆に見せつけるか」
 熱い囁きを耳元に感じるや、リディアは花も綻ぶ笑顔になって。
「あ、ねぇねぇソフィさん! 写真撮ってよ!」
 言われずとも楽しそうにカメラを構えるソフィアを前に、ノリノリで彼の腕に手を回す事ができた。
(「――大好きだよ」)
 腕組みで伝えた接触テレパスも、きっと彼は受け止めてくれるから。
 そして、2組それぞれに有意義な時間を得ての帰り際、
「まぁ、いずれな……」
 プロデューは口の中でひとりごちるのだった。

「今の指輪は金と琥珀のリングですけど、今回はどうしましょう?」
「リングは銀にしてみようか、宝石は……何がいい?」
「では、サファイアメインに、小さいアクアマリンを散らして」
 地球の青に、旅のお守りの青です——カジミェシュの問いに答えて、アイラノレが微笑む。
「……うん、悪くない。それでいこう」
 指輪の内側には、カジミェシュがエフィジェの歯車の意匠、アイラノレは翼の意匠を刻印。
「互いに刻んだ意匠が、護りとなりますように」
 完成した指輪を嵌めれば、うっとり見惚れるアイラノレ。
(「いつかはこの指輪が本物の結婚指輪に……」)
(「……結婚する時には、これをそのままに作って貰うのもアリかな」)
 寄り添うカジミェシュと計らずも同じ事を想像して、笑みが零れた。

 奏星は、自分用のターコイズとエメラルドのピンキーリングの他に、小檻の分も注文していた。
 リング全体にクリソプレーズとルビーを細かく散りばめ、プラチナコートで酸化と傷付き防止も抜かりない逸品。
「お誘い頂き有難うございます。良ければどうぞ」
「誕生石で作って下さったのね。大切にしま——!?」
 むにゅ。
 渡す際にうっかり躓いた奏星。小檻の胸を咄嗟に鷲掴んだのはほんのご愛嬌か。

 リーナは、年相応の女子らしくウェディングドレスや結婚指輪に目を輝かせる。
「指輪も、とっても綺麗だし……わたしも、いつかドレス着てみたいし、指輪着けてみたい、かな……」
(「……にいさんから贈って貰えたら、とっても、嬉しいんだけど……」)
 などと、セイヤの方を横目でこっそり見れば、
「かけら……これを、受け取ってくれないだろうか……」
 女心を解さない兄は、友人相手にプロポーズする振りでベロアの小箱をぱかっと開けていた。
 リーナへドッキリを仕掛けようという悪戯心だ。
「にい……さん?」
 目の前が真っ暗になる思いのリーナだが。
 小箱の中、ラピスラズリの一粒石を天使の翼で挟んだエンジェル・ウィスパー自体は、セイヤが苦心して特注した、リーナへの贈り物に違いなかった。

「晴れの舞台で纏う衣装はちゃんと考えてくれると信じてますから」
 ニルスは深い溜め息をつくも、小檻へ見立てを頼む辺り、元気を出そうと努めている。
「メイドさんっぽい三段ベールに、巨乳引き立つエンパイアライン」
「巨……」
 思わず赤面するニルスへ小檻は笑って。
「真面目な提案よ。エンパイアはかけらが去年着た型……験担ぎ、ね♪」

 女はいざ手に入るとなると怖気づき、幸福を拒絶するのだ。
 純白のドレスを前に浮かない妻を見て、ムスタファは思う。
(「質素であることは善い事だが、この顔はいけない。とても善くない」)
 ふくれっ面に見えるキャトルを抱き締めて囁いた。
「改めて誓おう。お前と共に生きることに、俺の全てを捧げると。受け取ってくれ。俺の、花嫁」
 誓いが、妻の中へ確り届けと願いを込めて。
(「ああ、また」)
 キャトルは腕に閉じ込められ、思わず視線を落とす。
 共に生きることを誓う——嘗ても言われた。
 おずおずと夫の背に手を回せば、驚くほど自然に言葉が出た。
「……生きてる間だけで済むと、思わないでよね」
 ちゃんと全部ちょうだい、今からこの先、全て、ひとつも欠けることなく。
「きちんと、一緒にいて」

 小檻は宴の目に留めた品を見て一言。
「雪は好き、けどエタニティが派……え」
「ふふ、驚いた?」
 言い終わる前に宴が嵌めたのは、好みを汲んだシンプルな銀のペアリング。
「あなたにこちらを渡すのはまだですが」
 ちらと婚約指輪を見るも、宴は視線を戻し、
「いつか薬指に嵌めさせて下さい。ぼくの愛の証明を」
 プロポーズのような誓いで小檻を嬉しがらせた。

 ずっと麻実子だけを眩しそうに見つめていた双牙は、彼女に意見を求められてプリンセスラインのドレスを薦めた。
 可愛いシルエットと短めのトレーンに合わせ、ハイトップからベールを垂らして初々しさを強調する。
「どう、かな……?」
 試着室から出てきて、麻実子は恥ずかしそうに一回り。
「これは何処の国のお姫様だろうな……」
 かくいう双牙も待つ間にタキシードに着替えていて、麻実子をうっとりさせる。
「あ……やだ。双牙めちゃめちゃかっこいい。ほら、フォーマルなの似合うって言ったでしょ?」
 頬を赤らめて尚、懸命に主張して顔を覗き込む彼女が愛しくて仕方ない双牙。
(「生命在る限り君と共に生きよう」)
 かような誓いを主の御前とやらでするのは何年後か、そんな事を考えつつ微笑み返した。

(「やっぱり大人のグラムさんには落ち着いたデザインの物が似合いますものね」)
 丸い銀の土台に深紅のガーネットを埋め込んだ、シンプルな指輪を仕立てたのは風花。
(「……気に入ってもらえるかな」)
 どきどきする胸を持て余しつつも、日頃の感謝と愛おしい気持ちを全部乗せて、プロポーズ風の言葉と共に彼へ差し出す。
「これからも、あなたとの変わらぬ愛情を誓って……受け取ってもらえますか?」
(「まるで逆にプロポーズされているみたいだ。こういう時に言うのは、確か……」)
 風花の精一杯の愛の告白に、恭しい所作で丁重に指輪を受け取るグラム。
「ああ、喜んで。私も貴女を末永く支える事を改めて誓おう」
 但し、本当に婚約を申し込む際は私からだ、と密かに笑うのだった。

「ふふ、どんなものにしようか悩んじゃうわね」
 さくらは我知らず頰が緩む幸せを噛み締め、シンプルで少し太めの結婚指輪をヴァルカンへ薦める。
(「飾らず素直で、しっかり支えて受け止めてくれる、樹の幹のような」)
 彼のイメージを思い描くだけで、ますます顔が綻ぶさくら。
「婚約指輪が華やかな品だったし、こちらは余り飾らずにいこうか」
 ヴァルカンも穏やかな顔で、桜を模した小さなダイヤが可愛い結婚指輪を彼女に選んだ。
 裏に文字——2人の名を刻んで、家族の証を贈り合う。
「これで名実共に家族になるのだな……幸福をありがとう、さくら……愛している」
「……わたしの方こそ、たくさんの幸せをありがとう」
 これからもずっと、ずーっと、あなたの隣に……愛してるわ。

「修復自体は良いけど、おじさんおばさんが来る所じゃないだろ」
「まあまあ」
 どうも自分が場違いと思い込んでいる翔子を、優しく宥めすかすのは俊輝。
 彼女の扱いを心得ているのか、口ほど表情は困っていない。
「折角だし、作ってみるか? ペアリング」
「……は、ペアの指輪? 誰と、誰が?」
「いやいや、翔子のだよ。俺はオマケ」
「……派手なのは勘弁だよ」
 言質を引き出した彼が目をつけたのは、裏に小さなペアシェイプのダイヤを嵌めた、シンプルなプラチナリング。
「ふーん……ま、いーんじゃないの。これなら」
 満更でもなさそうな翔子を見やり、俊輝はふっと目を細めた。
(「……20年前の指輪はもう、無くなってしまったからな」)
 ダイヤの雨粒で、地が固まると良いんだけど。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年6月22日
難度:易しい
参加:44人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 5
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