未来を揺るがす料理

作者:夏雨

「あなた達に使命を与えます。この町に、様々な料理の味を再現できるという料理研究家がいます。その人間と接触し、その仕事内容を確認、可能ならば習得した後、殺害しなさい。グラビティ・チェインは略奪してもしなくても構わないわ」
「了解しました、ミス・バタフライ」
 螺旋忍軍の仮面をつけたバニーガール姿の2人組は、ミス・バタフライの作戦指示を忠実に遂行しようと動き出す。
「一見、意味の無いこの事件も、巡り巡って、地球の支配権を大きく揺るがす事になるのでしょう」

「螺旋忍軍のミス・バタフライの一味に動きがありました」
 ケルベロスたちを招集したセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は、早速予測された事件について解説する。
「皆さんは、料理研究家の多部倉・紅子(たべくら・べにこ)さんをご存知ですか?」
 どんな料理の味も再現できる才能を持ち、バラエティ番組の出演をきっかけに名を知られるようになった人物らしい(そこそこ美人)。普段は料理教室やレストランを経営しており、螺旋忍軍は店にいる多部倉のもとに現れる。
「螺旋忍軍にとってどんな影響があるのか判然としませんが、私たちが介入を避けることは彼女の死を意味します。どうか彼女の警護をお願いしたいのですが、ただ避難させては相手に勘付かれてしまいます――」
 セリカは多部倉を守りながら戦う以外にも、螺旋忍軍から狙いをそらす方法について語り出す。
「多部倉さんの元で味の再現技術を学び、修行に打ち込むことで、螺旋忍軍はケルベロスの皆さんからも技術を習得できると感じるでしょう。あなたたちに教えを請う螺旋忍軍を手玉に取って、戦いを有利にすすめることもできるはずです」
 部下の螺旋忍軍2人は、戦闘では新体操選手のような軽やかな身のこなしを見せつけ、『螺旋忍者』、『螺旋手裏剣』と同じ能力値の攻撃で応戦してくる。
 修行を受けることになれば、多部倉は課題として多部倉自身が作った『肉じゃが』の味を再現するよう言い渡す。
「……多部倉さんは筋があると見込んだ人にはより厳しく接するようです。螺旋忍軍が訪れる前の3日間でどれだけ技術を磨けるかは、皆さんそれぞれの頑張りにかかっています」


参加者
八代・社(ヴァンガード・e00037)
眞月・戒李(ストレイダンス・e00383)
比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024)
ルリナ・ルーファ(あったかいきもち・e04208)
イルヴァ・セリアン(あけいろの葬雪花・e04389)
織部・リルカ(花織りベリル・e05138)
呉羽・楔(無貌の歌い手・e34709)
津雲・しらべ(だっきゅ・e35874)

■リプレイ

●料理教室
「事情はわかりました……」
 ミス・バタフライの計画を阻止するため、招集されたケルベロスたちは標的となった多部倉・紅子の店へ向かった。
「皆さんに訳のわからん忍者から守ってもらうためにも、協力しましょう」
 ケルベロスたちから身の危険が迫っている事情を聞いた多部倉は、ケルベロスたちを料理教室用のスペースにあるキッチンへと案内した。
「よろしくお願いします! 多部倉さんをお助けするためにも、がんばるのっ」
 ルリナ・ルーファ(あったかいきもち・e04208)は羊の絵柄のメモ帳を手にやる気を見せる。
「では、準備しますので……」
 多部倉は肉じゃがの食材を用意し始めると、てきぱきと調理を始めていく。
 多部倉の代替になるために技術を学ぼうとする4人は、調理過程を観察しながら熱心にメモを取る。
 冷凍庫から保存容器を取り出す多部倉を見て、比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024)は尋ねた。
「それは何?」
「冷凍保存したダシです」
 レンジで解凍したダシを鍋に流し込む多部倉に対し、ダシの作り方を尋ねても「少し待っていてください」と一蹴される。
 煮込むだけの工程となり、全員席についてお手本の1皿を待ちわびる。
 どこかそわそわした様子で席につく織部・リルカ(花織りベリル・e05138)は、多部倉を見つめながらつぶやいた。
「どっかで名前聞いた事あると思ったらオヤジが本持ってたわ。サインもらえねーかな」
 多部倉が鍋の火を止めたことにいちはやく気づき、
「盛り付けるの手伝いま――」
 立ち上がったイルヴァ・セリアン(あけいろの葬雪花・e04389)は食器棚へと向かおうとする。しかし、「座っていろ」、「座っていなさい」と八代・社(ヴァンガード・e00037)と眞月・戒李(ストレイダンス・e00383)からほぼ同時に待機の指示を受ける。イルヴァの天才的なドジっ子ぶりを知る社と戒李の真剣な面持ちを見比べ、リルカは「どんだけヤバいんだ?」とイルヴァの動向を案ずる。
「わ、私たちは味見をがんばろうね!」
 どこか気落ちした表情のイルヴァを見兼ねて、呉羽・楔(無貌の歌い手・e34709)はフォローに回る。
 イルヴァは途端に笑顔を見せると、
「はい、味覚には自信がありますから」
 メイド服を着こなして静かにやる気をみなぎらせる津雲・しらべ(だっきゅ・e35874)は言った。
「味見……よろしく。おいしいの……作れるように、頑張る……」

●肉じゃがとは
 多部倉は鍋をコンロから降ろすと、小皿に8人分の肉じゃがを取り分けてくれた。
 早速全員で味見をする。一口食べればダシの旨味が口いっぱいに広がり、修行のことなど忘れてしまいそうになるが、ヒントを得るために少しずつ味わう。他の者がじっくり味わう様子には見向きもせず、リルカは皿の上の肉じゃがをかき込んで平らげる。
「うまっ! いいダシが取れてるからこんなにうまいのか?」
 肉じゃがを頬張りながらも、リルカは味を分析することも忘れない。
 各々の意見を交わす中、多部倉は8人に向けて言い切る。
「はい、皆さん。これで肉じゃがの味を再現してみてください」
 『どうやって!?』とざわつくのも無理はない皆に対し、多部倉は淡々とした反応を返す。
「私は食べただけでわかるので。そこから研究を重ねます」
 当たり前のように難題を突き付ける多部倉だが、黄泉は食い下がる。
「努力は惜しまないつもりだけど……あまり時間がないよ」
 黄泉に続き社も教えを求めた。
「せめて何からダシを取っているのか教えてもらえれば――」
 耳を傾ける素振りを見せない多部倉は、様々なダシの材料をテーブルの上に並べ始める。
「とりあえず、和風だしの材料を用意しました」
 ダシ用の昆布だけでも数種類あり、それぞれ削り方の異なるかつお節や、形の異なる干し椎茸。
「この利尻昆布は透明で風味のいいダシが取れ――」
「かつお節は削り方でどんなダシが取れるか変わるもので――」
 ひとつひとつの違いを列挙していく多部倉から必死に吸収しようとするしらべは、メモした事柄を繰り返し眺めて表情をしかめる。
「この中の、どの材料から……ダシを……?」
 見兼ねた多部倉はそれぞれの材料から取ったダシスープを全員に振る舞い、種類の異なるダシの味を比べるよう促す。
「こっちの方が甘みがあるかもよ?」
「これは味も香りも濃いな」
「魚の旨味ってやつが出てるんじゃねえの?」
 塩と合わせたスープを吟味し、風味の違いを確かめ合う。
「ダシは様々な料理で使い分けるのですよ。素材からしみ出した栄養を取ることもできます」
 多部倉の一言に感心する楔は言った。
「なるほど、ダシも奥が深いのですね。花嫁修業の一環になりますね」
 これはダシの組み合わせがより味を近づけるための基礎になるだろうと、皆はスープの味をとことん吟味する。
「とにかく1度ご自身の思う味を作ってみてください。どう違うのかを指摘しますので」
 熱心に飲み比べる4人の姿を見て、多部倉は試行錯誤するよう促す。
「簡単にできるとは思っていません。芽がほんの数ミリでも出ることを期待していますよ」
 多部倉は皆を残してキッチンを後にした。

●見習いまでの道のり
「まだまだ時間はあるだろ。これとか参考になるんじゃねーか」
 料理の基礎から和食を専門的に扱ったものまで、リルカは複数の料理本をドサッとテーブルの上に置いた。
「味見した感想はどうだ?」
 イルヴァに意見を求めながら、社はダシの取り方を説明した項目に目を通す。
「そうですね……昆布ダシの味は確かに感じました――」
 3日間の修行漬けの日々が始まり、8人は協力して肉じゃが作りに取り組んでいく。
 早速各々が分析した結果を1皿に凝縮させ、多部倉に1日目の成果の試食を願い出る。
 社、黄泉、ルリナ、しらべの4人が作った肉じゃがを順番に味わう多部倉は、次々とダシの材料を言い当てる。
 驚嘆する皆を尻目に、多部倉は「ごちそう様です」と手を合わせ、
「まあ、こんなものですね……次の肉じゃがに期待します」
 というあっさりした反応を返す。
 さっさとキッチンから出ていく多部倉を呆然と見送り、ルリナは肩を落として言った。
「セ、セリカさんが話してた反応と違うね……」
 素質ありのラインにすら到達していないことを痛感し、一層修行に励む意欲を高めていった。

 2日目に入り、味見役も料理する4人を全力でサポートする。
「次は2種類の昆布を使ったものだな、こっちは花かつおの量を多くして――」
 社はそれぞれダシの組み合わせを変えた数種類の肉じゃがを戒李たちに勧めた。
「さすがヤシロ、和食もうまいな」
 戒李は社の肉じゃがを堪能しつつ、味の差異をじっくり確かめる。イルヴァも一口食べた瞬間に「さすが、ますたーです」と表情を綻ばせる。
 何通りもの組み合わせを列挙したメモを手にしたしらべはテーブルに突っ伏してため息をこぼすと、
「ダシが……ゲシュタルト、崩壊……起こしそう」
 何種類ものダシスープを飲み干した器を前に、モチベーションが下がり始めるしらべを楔は励ます。
「片付け、お手伝いしますよ。どうぞ味の研究に専念してください」
 味見を繰り返していた黄泉は、顔をしかめてつぶやく。
「お腹、いっぱいになってきちゃった……」
 黄泉の様子に反して、白米を持参するほど食欲旺盛なリルカは、次々とできあがる肉じゃがに何度でも箸を伸ばす。
「うーん、どれもうまいんだけどなー……」
 思案に耽りながらルリナ手製の肉じゃが咀嚼するリルカ。その一言でルリナは大好きな恋人の反応を想像する。「おいしいよ、料理上手になったなぁ」という笑顔の恋人のイメージで頭がいっぱいになり、ルリナは赤面する顔を両手で覆った。ろくに感想を聞いていない様子のルリナに、リルカは「聞いてるか?」と突っ込みを入れた。
 何度か多部倉に試食に臨んでもらったものの、芳しい結果は得られない。この日はこれが最後と、各々これという味の肉じゃがを多部倉に差し出した。
 多部倉は肉じゃがの試食を終えると、唐突にこの上なく冷徹な口調で肉じゃがを作った4人に問いかける。
「あなたたち……ちゃんとダシの材料の特性を理解しているんですか?」
 『青年! エルフ耳! メイド服! 羊ちゃん!』とそれぞれの特徴で指名した4人に対し、多部倉は「まず羅臼昆布の特徴は?」と詰め寄った。料理本にかじりついていた4人はしどろもどろになりながらも答えると、あの材料はこの材料はと多部倉は次々と問題をぶつける。
「まあ、それぐらいはわかっているならもっと上達できるでしょう。明日も励みなさい」
 すべての解答を聞くと、多部倉はそう言ってレストランの方へと引き返していく。
 肉じゃがを作り続けた努力が報われ始めたらしいことに気づいたが、黄泉は若干不服そうにもらす。
「ほめられてもいいはずなのに、なんか理不尽だよね」

●一皿に込めて
 3日目。各々集大成となるであろう一皿を多部倉の前に並べる。
「そろそろ肉じゃがも飽きてくるよなぁ」
 そう言いつつも、リルカは鍋に余った肉じゃがをつまみながら多部倉の試食の様子を見守る。ナノナノのアルもリルカ専用の腰当クッションの役目からはやく解放されることを願って、多部倉を見つめる。
 無言で肉じゃがを食べ進めた多部倉は箸を置くと、しばらくの沈黙の後に、
「……毛ほどの技術が身についたことは認めましょう。あなたたちも、素人の途方もない挑戦によく付き合ってあげたものです」
 多部倉は味見役を労っているようだが、その言い方に笑顔が消えていく。
「皆さんの言う未来予知が明日覆るというなら、いつまでも突っ立っていないで万全の準備を整えなさい」
 あまり素直に喜べないけれど、
「とりあえず、目標達成ですね!」
 と言うイルヴァの一言と共に、それぞれの努力を讃えあう。
「残りの最終目標も必ず達成しなきゃね」
 戒李の言葉に皆は力強く頷いた。

「そこのお兄さん、お姉さん方♪」
「なかなかの腕前とお見受けしました。ぜひ私たちにその料理の技術を教えていただけないかしら?」
 その2人は料理教室のスタッフ然とした社、黄泉、ルリナ、しらべたち4人の前に突然現れた。まるでキャバ嬢の扮装のような見るからに胡散臭い格好で、変装した螺旋忍軍2人は教えを求めてきた。
 作戦通りその依頼を快く引き受け、「準備を手伝ってほしい」という名目で2人を駐車場へと誘導し始める。
「神の一皿の秘密、知りたきゃあ教えてやるぜ」
 螺旋忍軍の2人組に向き直った社の両腕は白蒼のオーラをまとい、次第に腕と一体化する砲身が全貌を現す。
「ただし、俺らに勝つことが条件だ」
 社がそう言った直後、2人組に向けられた砲口は火を吹いた。
 銃撃を避けて散開する2人だが、建物の影から飛び出した楔は、反射的に手裏剣を構える白スーツの1人に刃を向ける。
 ナイフを受け止めた白スーツに対し、楔は再び勢いをつけて刃を突き放つと、
「私たちがお相手します」
 押し負ける白スーツを地面へと転がす。
 陣形を展開する8人を前にして、2人組は武装と共に螺旋忍軍の仮面とバニーガールの姿を瞬時に現した。
「では、あなたたちを生け捕って協力させるとしましょう」
 螺旋忍軍の1人、赤色のバニーガールは分裂する手裏剣を操り、攻勢に出る者たちの頭上より無数の手裏剣を降らせる。
 視界にいくつもの手裏剣が飛び込んでくる中、黒いバニーガールの1人は好機とばかりに戒李に狙いを定める。戒李は降り注ぐ手裏剣を弾き返すと同時に相手の武器をいなそうと試みた。狙い通りに滑る鎌と手裏剣の刃同士。しらべは相手の片手の動きをいち早く読み、追撃を加えようとする相手にがむしゃらに組みつく。しかし、黒バニーはしらべの動きを利用するように体をひねり、手の平でしらべを突き返した。軽快な動作に反して凄まじい衝撃が相手の手から伝わり、しらべは後方へと吹き飛ばされる。
 巨大なハンマーを振るう黄泉と、鋭い氷柱の弾丸を撃ち出すリルカは赤バニーの方を追い詰めようと迫る。応戦する相手のしなやかな身のこなしに翻弄されそうになるが、攻防を制しようと食らいついていく。アルも皆を守るためのハート型のバリアをいくつも張り出そうと必死に駐車場を飛び交う。
 混戦の兆しが見え始めたところで、アクション映画の演出のように皆の背後で巻き起こる爆発。カラフルな噴煙が立ち込める中、放たれた手裏剣がスイッチを手にしたイルヴァへと迫る。無駄のない身のこなしで攻撃を避けた後、イルヴァは軍師のように手にした扇を振るう。
「一気に攻め込む!の陣です!」
 魔力を宿した扇は攻め入る者らに力を与え、イルヴァの鼓舞を受けて攻勢を強める。
 応戦する2人には疲弊した様子が見え隠れし、まともに攻撃を受け始める。
 しらべの胸のパーツ部分から発射される光線が2人組を分断したところで、助走をつけた黄泉の足技が赤バニーへと決まり、蹴り飛ばされた赤バニーはひび割れた仮面を残して螺旋の気流の向こうに消えた。
「サポートはお任せなの!」
 そう言い放つルリナの意志により、ルリナが身にまとったオウガメタルの装甲は虹色に反射する粒子を拡散させる。行き届いたサポートに後押しされ、残る黒バニーの撃破を狙う戒李。社の横をすり抜ける際に、
「肉じゃが、この仕事が終わったらまた作ってよ。修行しなかった分君から盗むから」
 戒李のその表情からは余裕が見えるが、相手に対しては抜かりなく感覚を研ぎ澄ます。
 社は、手にした大鎌で黒バニーの足元のアスファルトを大きく抉る戒李の背中を見ながら、
「――じゃあ、一皿目はミス多部倉そっくりの味で。二皿目は、おれのオリジナルを」
 黒バニーの隙をついて、戒李の鎌はその体を宙高く突き上げた。
「歪め。おれの魔弾をくれてやる!」
 尾を引く蒼き魔弾によって、散り散りになるかと思われた標的の体は旋風と共に消え去った。後には消滅を意味する歪んだ螺旋の仮面だけが残された。

作者:夏雨 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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