●盗聴趣味
昼のオフィス街。
定食屋や蕎麦屋がそこそこ繁盛している中、1軒の喫茶店だけ扉を閉ざしていた。
新築かと思うほど造りの綺麗な建物であるのに、看板には『売店舗』の張り紙。
曇りガラスの向こう側、カウンターに座って頭を抱える店主がいた。
「はぁ……良いアイデアだと思ったんだけどなぁ〜……」
他人には言えず、また実行できない嗜好であった盗聴を活かそうと、最近『盗聴喫茶』なる店を始めた。
テーブルは全て壁で仕切られた1人用、席には無線機が備えつけられ、自分で感度を調整すれば、予め用意した数十種類の録音会話が聞こえてきて、盗聴を疑似体験できるという仕組みだ。
しかし、そのニッチ過ぎる趣味が広く受け入れられる筈もなく、売り上げは芳しくなかった。
毎晩離婚問題について話し合う夫婦。
仲が悪いのか恫喝や喧嘩の声が絶えない夫婦。
反対に、仲睦まじく語り合っているカップルの会話があったかと思えば、実は不倫カップルだった、等々。
店主が日々苦心して台本を書けば書くだけ、経営は苦しくなっていった。
「盗聴できる会話のリアリティーを追求すれば、少しでも常連のお客さんがついてくれる、そう思ったのが甘かったかぁ」
すると、嘆く店主の目の前に、第十の魔女・ゲリュオンが現れた。
「お客様!?」
当然、そうと知らない店主は喜ぶも。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『後悔』を奪わせて貰いましょう」
ゲリュオンの鍵に心臓を穿たれ、外傷は無いものの意識を手放してしまった。
崩れ落ちた店主の後ろには、いつの間にか顔色の悪い男性が立っている。
店主の後悔を元にゲリュオンが産み出したドリームイーターた。
●
「自分の店が潰れて後悔している方が、ドリームイーターに襲われてその『後悔』を奪われる事件が起こりました」
小檻・かけら(藍宝石ヘリオライダー・en0031)が説明を始める。
『後悔』を奪ったドリームイーターは既に姿を消したが、奪われた『後悔』を元に顕現したドリームイーターの方が、新たに事件を起こそうとしているという。
「どうか一般人に被害が出る前に、ドリームイーターを撃破して下さいませ。ドリームイーターを倒す事ができれば、『後悔』を奪われてた被害者も目を覚ますでありますよ」
そうかけらがお辞儀すると、
「被害者が目を覚ますなら、一般人へ一切被害を出さずに解決できるわけか……それにしても、世の中色んな趣味の人がいるよなぁ」
久我・航(誓剣の紋章剣士・e00163)は思わず苦笑いした。今回の事件が起こる予兆——即ち喫茶店の経営状態の悪化を嗅ぎ取った功労者である。
「皆さんに倒して頂きたいドリームイーターは、いかにも偏屈そうなサラリーマンといった出で立ちであります」
盗聴店主ドリームイーターは、手にした無線受信機から目にも眩い光線を放って攻撃する。
複数人に当たる射程の長い破壊行為で、時にトラウマをも具現化させる。
また、出刃庖丁で相手1人を斬りつけ、威圧感を与える事もある。
それぞれ、無線機レーザーは頑健に優れ、庖丁斬撃は敏捷に長けている。
「店へ乗り込んでいきなり戦闘を仕掛ける事もできますが、客として盗聴疑似体験を心から楽しんであげると、ドリームイーターは満足して戦闘力が減少するでありますよ」
と、補足するかけら。
「それに、満足させてから倒した場合、意識を取り戻した被害者の方も『後悔の気持ちが薄れて、前向きに頑張ろうと思える』ようでありますな」
そう説明を締め括るや、ケルベロス達へ改めて頭を下げた。
「後悔を奪われてしまった被害者さんの為にも、ドリームイーター討伐、宜しくお願い致します……」
参加者 | |
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久我・航(誓剣の紋章剣士・e00163) |
シェイ・ルゥ(虚空を彷徨う拳・e01447) |
コクマ・シヴァルス(ドヴェルグの賢者・e04813) |
白銀・ミリア(白銀の鉄の塊・e11509) |
伊佐・心遙(ポケットに入れた飛行機雲・e11765) |
フレック・ヴィクター(武器を鳴らす者・e24378) |
黛・朔太郎(盈月・e32035) |
銅螺尾・双麻(不条理世界の探偵紳士・e34665) |
●
オフィス街。
「盗聴喫茶ってなんやねん!」
久我・航(誓剣の紋章剣士・e00163)は、喫茶店のガラス戸にデカデカと白字で書かれた店名を見るや、無機物相手に思いきりツッコんだ。
「一体、どういう経緯があれば盗聴喫茶なんて発想に至るんだろうなぁ……」
予想外の事態に陥った調査を振り返って、溜め息をつく航。
「ああ、面白い事を考える人もいるものだ」
そんな苦笑へ相槌を打つのは、シェイ・ルゥ(虚空を彷徨う拳・e01447)。
「なかなかニッチな喫茶店だね……」
飄々とした雰囲気に違わず掴みどころのない性格、嘘つきで適当な言動も多い人派ドラゴニアンの青年。
だが、全てにおいて不真面目という訳でなく、本人の中では守るべきラインがあるそうな。
「盗聴喫茶とか……うむ……ちょっと興味があるな」
コクマ・シヴァルス(ドヴェルグの賢者・e04813)は、流石この手の依頼に慣れたもので、関心を唆られたのか瞳を輝かせた。
元々賢者を自称するだけあって知識に貪欲な彼だから、疑似盗聴に対してもある目的を遂げる為にやる気満々である。
「盗聴かー……そういうのじゃないけど、隠密の真似事は昔した気がするわね」
フレック・ヴィクター(武器を鳴らす者・e24378)も、盗聴喫茶へ好感を抱いたらしく、来し方を懐かしむ。
「何より、催しならしっかりと楽しむのが礼儀だしねっ!!」
前向きで明るい性格が魅力の彼女だから、疑似盗聴への意気込みも溌剌としていた。
「盗聴喫茶か……ニッチな趣向ではあるが普段抑圧されている事柄を気兼ねなく堪能できるという意味では、いい目の付けどころな気がするぜ」
銅螺尾・双麻(不条理世界の探偵紳士・e34665)は、探偵業を営んでいる為か盗聴という単語への忌避感も薄く、至って冷静な反応。
一見すると知的なイケメンに思えるが、その実態は、フィクション顔負けのハードボイルドな妄想を夢見る、何とも欲望に忠実なエセ紳士だったりする。
「ガイバーンは、どんな会話を盗聴してみたいんだ?」
「そうじゃのう……大企業の重役会議とか聴いてみたいのう」
白銀・ミリア(白銀の鉄の塊・e11509)は、同じドワーフ故に親しみが湧くのか、ガイバーン・テンペスト(洒脱・en0014)と楽しそうに話し込んでいた。
流れるような銀髪にカウボーイハットがよく似合う、ドワーフのガンスリンガー。
精神的イケメンや格好いい女性を目指しているだけあり、その性格は実にさばさばとして大人びたものだ。
「ミリアはどんな会話を聴きたいんじゃ?」
「あたしか? そうだな……どうせなら『幸せな家族の団欒』ってのを覗いてみたいもんだぜ」
一方。
「疑似とはいえ、他人のプライバシーをこっそりと……というのは、何だか罪悪感がありますね」
彼らしい真面目さや遠慮深さからくる感想を洩らし、控えめな風情で苦笑するのは黛・朔太郎(盈月・e32035)。
「もっとも、えもいわれぬ背徳感を覚える人も、世の中にはいるのでしょうけど……」
優しそうな外見に違わず感受性豊かなロマンチストな朔太郎は、溺愛する恋人がリアリストな為、非常にバランスのとれたカップルだったりする。
「盗聴体験って面白そうって思うんだけど、なんで喫茶店にしちゃったんだろ?」
と、不思議そうに首を傾げるのは伊佐・心遙(ポケットに入れた飛行機雲・e11765)。
大層気まぐれでマイペースな性格だが、お菓子があれば大人しくなる辺り年相応の可愛げがある、オラトリオの幼女だ。
日頃は風の向くまま気の向くままに好き勝手飛んでいく心遙だが、今は真面目に店の入り口へ立入禁止テープを張って、一般人が入店しないよう気を配っていた。
●
ケルベロス達が店内へ入ると、顔色の悪いサラリーマンが席へ案内してくれた。件のドリームイーターだ。
「あ、オムライス頂戴ね」
ヴァルキュリアとしてブレない注文をするのはフレックだ。
「あ、アイスミルクティ貰いたい」
コクマも、メニューから目当ての飲み物を見つけて頼んだ。
「おっと、この店は喫煙してもいいのかい」
うっかり煙草に火を着けかけた双麻が、努めてさり気なく問う。
無駄に自然な動きかつ無駄に目立たず、そして無駄にハードボイルドなポーズで席に着いたところからも、彼の本気が窺えた。
「喫煙席はコチラです。煙草の煙で潜伏がバレても、そこは自己責任で……」
そう時間を置かずに、皆の注文した物が運ばれてきた。
「盗聴なんて考えた事もないから、どんな会話が聞けるのか……でも実際の盗聴じゃなくて台本だしな」
サンドイッチに塩をかける傍ら、もう一つのメニューをパラパラ眺める航。
「そういや無線機なんて触るの初めてだな。こんな風になってるのか」
マニュアル通りに操作して周波数を合わせれば、すぐノイズ混じりの話し声が聞こえてきた。
「るるちゃん触り心地良いねぇ、ずっと触ってたくなるよ」
「ほんと? るる嬉し~」
エコーのかかった男女の甘ったるい声に、妙な水音が重なる。
「イチャイチャしやがって」
ついつい呪詛を吐く航だが、なるほど恋人にしか聞かせない甘い声音をもし他人に聞かれていたらさぞ恥ずかしかろう——とも思う。
(「盗聴って、秘密を盗み聞く以外にも、知らない内に他人を辱めて悦に入る楽しみがあるのかもしれないな……趣味悪いけど」)
盗聴趣味を理解しかけた航の耳に、更に流れてくる睦言。
「ここも俺と違って可愛いし……ベッド行こうか?」
「うん。のぼせたら大変」
その会話で航は全て悟った。
「風呂だったのかよ! しかもるるちゃん男の娘かよ!!?」
水音が響くのも当然だったのだ。全くもってツッコミに事欠かないカップルの営みである。
「……ええ、昨日がお通夜だったのよ。行ってきたわ」
片や、シェイがじっと耳を凝らして聴いているのは、30代前半ぐらい男女の声。こちらは正真正銘の女性のようだ。
「上手く潜り込めたのか」
「馬鹿ね、堂々と正面から乗り込んだわよ。郁也は石井会長の子です、ってね!」
「へえ……?」
女の勝ち誇ったみたいな報告に、シェイが感嘆の息をつく。
(「これはもしや、大富豪の隠し子を産んだ日陰の女性が、息子に遺産を継がせんと本邸へ現れた感じだろうか」)
ますます気を入れて聴くシェイの耳に、彼の予想が当たったと判る女の声。
「まぁ娘達の驚いた顔といったら! あんなオバさんどもに遺産持ってかれるぐらいなら、貰えるもんは貰いたいじゃない?」
「貰う資格なんざ無いクセに」
男の低く笑う声に、シェイが目を見開く。
「ふうん、自分達の子を富豪の隠し子と偽って遺産をせしめる……こんな計画、本当に他人に聞かれていたら破滅だよね」
素人ながらもそれなりに練り込まれた台本からは、盗聴の妙味を知り尽くした店主の熱意が感じられた。
「不謹慎かもしれないけど、ちょっとドロドロしていそうで楽しそうではあるよね」
同じ頃。
「全く参ったよ。毎日仕事で疲れてるのに飯の間中グチグチと愚痴ばっか」
コクマは、不倫カップルらしい男が愛人へ妻の不満をぶちまける様を聴いていた。
「きっと奥さんも大変なのよ、PTAとか町内会とか」
(「というか……何だろう……」)
仲睦まじくも背徳感満載の会話を聞きつつ、ふと考えるコクマ。
(「一人暮らししていて隣の部屋の様子を伺うのに耳を当てたりとか……そういう感覚に近いのかもしれないな……」)
「もっともワシが見たのは映画でのシーンだったが……あれは怖かった」
と、邦画を思い出してふるふる肩を震わせた。
「それにしても、カミさんも昔は可愛かったのに、誰の許しを得てブクブク太ったんだか」
ともあれ、妻にはとても聞かせられない夫の愚痴を聴いたかと思えば、
「あー、家に帰りたくないわぁ。息子は合宿だし、旦那の為だけにご飯作るなんて面倒臭っ!」
次は主婦仲間と旦那の悪口で盛り上がる妻の談笑を聴いたりと、コクマは盗聴を心底楽しんだ。
「フム、これは使える……仲の良いカップルを蹂躙する材料に使えるなっ!」
リア充爆破の火種を手に入れるという目的も達成、ニヤニヤ笑う声は弾んでいた。
その奥の席では。
「盗聴は探偵にとっては商売の一環だ」
双麻が例によって無駄にスマートな所作で無線機を弄っていたが。
「……奥さん、本当に良いんですか?」
「平気よ、主人は今日接待で遅くなるし……私じゃイヤ?」
「そんな事は……」
「ね、早く来て」
真剣に聴いている会話の内容は、昼下がりの団地妻の不倫現場という、男の欲望丸出しなもの。
「もう年末に餅米の精米頼んであ〜げない」
「そ、それは困りますっ」
「ほら、はやくぅ」
いよいよのっぴきならない空気が高まってきて、期待が膨らむ双麻。
(「ピザ屋でもクリーニング屋でもなく米屋か……なかなかやるな、この台本」)
膨らむのは期待だけじゃないのかもしれない。
「フッ、馬鹿な奥さんだぜ……盗聴されてるとも知らずに……」
一方、理弥も偶々双麻と同じ会話を盗聴。
(「うわーこれリアリティありすぎだろ……ホントに不倫カップルの会話聞いてるみたいだぞ」)
禁断の大人の世界に耳を赤くする辺り、初々しい16歳の青少年である。
通路を挟んだ向かいの席では。
「芸能人として、やはり同じ業界にいる人のことは気になります」
朔太郎が物珍しさにドキドキと胸を高鳴らせる反面、確かな後ろめたさとも葛藤しつつ、無線機を操作していた。
「あ、決して野次馬根性とかではありませんよ! あくまで好奇心です……」
誰にともなく言い訳してから、じっと集中して耳を済ませれば。
「今日も天辺超えるから先に寝てろよ」
独身で通っている筈のイケメン俳優の声が聴こえてくる。
「はいはい。紗奈、パパに行ってらっしゃいは?」
「ってらっちゃ!」
「はぁい、行ってきます。ママの言うこと聞いて良い子にしてるんだぞ〜」
俳優が妻と娘にだけ見せる、夫であり父である顔を窺い知れて、息を呑む朔太郎。
(「微笑ましくて良いですねぇ、自分もこんな暖かな家庭を持てたら……」)
スターの意外な一面を知ってわくわくするも、その一方で、
「……明日は我が身でしょうか」
ゾクリと背筋を寒いものが駆け上った。
その手前の席。
「思えばドリームイーターの手料理なんて初めて食べるけど、なかなか良い味ね」
オムライスをぺろりと食べ終えたフレックが、流れ始めた会話に耳を傾ける。
「あの、ちょっと病院行ってきて良いですか」
「なんで?」
「今朝方からずっと耳が痛くて」
「は? お前仕事舐めてんのか?」
「いえ、とても今のままでは集中できませんし」
「ああそう、じゃあ帰れ帰れ、明日からもう来なくて良いぞ!」
会社員らしき男性2人の、不穏なやり取りである。
「可哀想……完全にパワハラじゃない。隠し撮りは、パワハラモラハラの証拠として……はだめなんだっけ?」
ずっと罵詈雑言で詰られ続ける部下に同情し、痛ましい気持ちになるフレック。
少し周波数を弄れば、また別の会話が。
「常務、お願いです、やめて下さい……」
「良いのかね、人事権を持つ私にそんな口を利いて」
「でも……あぁん、嫌ッ、誰か助けて!」
「フフフ、用もなく重役室に来る奴はおるまいよ」
(「嫌だ、こっちはセクハラじゃないの……この後どうなるのかしら!?」)
ハラハラした様子で、男女の声を微塵も聞き漏らすまいと、神経を集中するフレックだった。
「わぁぁ、こんなにシナリオがいっぱいあるなんてすごいなっ!」
心遙は、盗聴疑似体験メニューを眺めて感心する。
「あ、これ面白そうっ!」
数ある筋書きから選んで再生したのは、
「……どうだ、藤代、社内の構造は判ったのか?」
「はい、あのビルの最上階は関連会社が入ってまして……社長室や重役室のあるフロアは、7階と8階です」
「で、潜り込めそうなのか?」
「そこは私が。掃除婦の代理として」
ただならぬ緊張感の中で会議している複数人の男女の声。
「よし、必ず会議室に仕掛けるんだぞ……重役会議は明日で間違いないんだろうな!」
どうやら、ビルの爆破計画を立ててる真っ最中らしい。
「うぅ……本格的な計画で楽しいけど、次の日会社がどうなるかまで気になるっ!」
まるで連ドラを見てる心地で地団駄踏みつつ、心遙は小道具のサングラスをかける。
「うん。こはるもそれっぽく見えるかも!」
他方。
「ふふっ、寝てるとほんと可愛いわ」
「そうだな」
「そう言えば、ちっとも夜泣きしないわねこの子、まだ先なのかしら」
ミリアとガイバーンが一緒に聴くのは、赤ちゃんを見守る若夫婦の会話。
「美咲」
「ん……なぁに、いきなり」
「いや、最近帰り遅かったし、さ」
次第に面妖な雰囲気が増すのへは、
「えっ、えっ!? 今もしかしてキスした? きゃーっ!!」
実はおませであるらしいミリアが、日頃のクールな彼女からは想像もつかないはしゃぎっぷりで大興奮するのだった。
「もう……先にお風呂入ってて。明日のお弁当のご飯炊かないと」
「ん」
意図が明白な夫婦の会話に、尚もテンションの上がるミリア。
「ちょっ、この後って、やっぱりもしかするともしかする!?」
ガイバーンは、盗聴内容もさる事ながら、それを最大限に愉しんでいるミリアの反応を見る方が面白いと、密かに微笑んだ。
●
皆が思い思いに疑似盗聴を満喫したところで、いよいよドリームイーターへ戦闘を仕掛ける。
「うむ……なかなかに面白かったし之は大いなる叡智の糧となった。故に感謝しつつその業を払わせて頂こう!」
まずは、スルードゲルミルを構えたコクマが回転突撃。
「御代はそなたの救済である!」
高速で回りながらドリームイーターの守りごと腹部を貫いた。
「こういう、人と違う経験って凄く大事だし楽しかったわ。ありがとうね?」
フレックも、まずは感謝の意を伝えてから、魔剣「空亡」を手に肉薄。
「仕上げは戦う事でしか出来ないのが、この場合は少し残念ね」
雷の霊力帯びし刃先で、神速の突きを繰り出した。
心遙は、きゅっと息を吸うもすぐに目を見開き、眼前のドリームイーターへ精神を集中。
「月の涙、星の鼓動——夜を超えてかがやけ……!」
生み出したグラビティの光へふっと息を吹きかけて、手の中で回る天球儀のように回り始めたそれを高く掲げる。
光の周囲に吹く風は一層強まり、嵐となってドリームイーターを飲み込み、激痛を与えた。
「貴重な体験ができたよ……さて、名残惜しいけど、それじゃあ私もやるべき事をしようか」
携えた東海竜王・如意真鉄からドラゴニック・パワーを噴射するのはシェイ。
加速する勢いのままにハンマーを振り下ろし、ドリームイーターの腕を叩き潰した。
「地獄じゃ生温い!! 更に底まで墜ちやがれぇええ!!!」
ミリアは緋爪を手に、何度も何度も何度も何度もドリームイーターへと叩きつける。
果てぬ暴欲ある限り全てを破壊し尽くすと思える滅多打ちが、ドリームイーターの胸をひしゃげさせた。
「ククク、キサマらのプライベートも盗聴……盗聴してやる!」
ドリームイーターは不気味に笑ったかと思うと、無線機から光線を乱射してきた。
「くっ……」
咄嗟に朔太郎を庇って前へ出たシェイの脇腹に、焼けるような痛みが走った。
「あ、有難うございます……大丈夫でしょうか?」
自分がもし光線を浴びていたら、きっと芸能誌に恋人との逢瀬をスッパ抜かれた事が蘇ったに違いない——嫌な記憶を振り払うべく首を振って、朔太郎はシェイをサキュバスミストで癒した。
「今週もハードボイルドに決めてやるぜ」
愛用のリボルバー銃から弾をばら撒いて、無線機を弾き飛ばすのは双麻。
「貫け! 流星牙!」
航は、紋章の力を借りた神速の突き攻撃を見舞って、遂にドリームイーターへトドメを刺したのだった。
厨房に転がっていた店主は、程なくして目を覚ました。
「商売にするには中々ニッチな内容だったけどね。でも面白い体験だったよ」
「いやぁ、貴重な体験っちゃ貴重な体験だったな。多分もう経験する事もないだろうし」
まずは、シェイと航が素直な言葉でフォローを試みる。
「趣味に走るも良いがまず喫茶店として独自のサービス……美味しい物とかニーズにあった物を用意するのが良いかもしれないな」
経営者目線で助言するのはコクマだ。
「こんなにたくさん台本を書けるならそっちの才能を有効活用したらいいと思うの!」
「そうね……もっとオムライスのバリエーションが欲しいわっ!!」
無邪気に言う心遙とキリッとした表情のフレックも、心から店主の立ち直りを願っている。
「ともあれありがとう、楽しかったわ」
その傍ら、
「目の付けどころは悪くない、あとは建前の問題だ」
盗聴はあくまで1オプションとして残して、ハードボイルドな雰囲気を醸し出す、探偵喫茶のような感じにしてはどうだろう。
「『盗聴』だと悪い事のように聞こえるが『探偵』ならカッコイイと思って常連客がつくかもしれん」
自分の趣味も交えた双麻のアドバイスは、本格的な路線変更だ。
「やっぱり、盗聴と聞いて良く思わないお客さんも多いかと……秘すれば花なり。秘密は秘密のままにしておいた方が、却って魅力的だったりするのですよ」
朔太郎も親身になって声をかけ、
「あ、有難うございます……皆さんのお陰で新たなアイデアが浮かびました!」
店主に生気を取り戻させてあげた。
作者:質種剰 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年7月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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