ミッション破壊作戦～倒すべきは竜の尖兵

■リプレイ

●岡山県津山市
（「今も苦しんでる人々の為にも……絶対に成功させる」）
　遠く眼下に見える、『滅望咆哮兵』により蹂躙され、破壊し尽くされた街、津山市の惨状を見ながら、ミスル・トゥ（本体は攻性植物・e34587）が強く誓えば、右手に宿した自身と同じ名の構成植物が意志を持って蠢く。
（「例え、我が身を削ろうとも……私の誇りに賭け、回廊を破壊し、その上で仲間達を護り切り、そして必ずや帰還させて見せる」）
　武装、そして『グラディウス』の最終チェックをしながら、天照・葵依（蒼天の剣・e15383）は強く心に誓っていた。
『ミッション破壊作戦』は、魔空回廊の破壊が第一目的である。だが、ミッション地域内の護衛戦力に勝利しなければ撤退することは出来ない。
　撤退出来ぬと言うことは、ケルベロス達の全滅を意味し、地球側の特殊兵装である『グラディウスを奪われることに直結する。
　だからこそ、全力を持って敵を倒し、即時撤退することが望ましいが、護衛戦力は強力な敵であることが多い。
　先日、ミッション破壊に向かったケルベロス数名の暴走が確認されたことも、葵依の耳に入っている。
　戦闘力がおおよそ10倍に膨れ上がる代わりに、本能を抑制出来なくなる……ケルベロス達の最後の手段。
　葵依も仲間の為なら、暴走も辞さない覚悟でこの場に来ているが、仲間を思う故のその行動が必ずしも正しいのかは、葵依にも分からない……。
「それじゃ、みんな。大掃除といきますか……！　行くぜっ！　相棒っ！！」
　言って、ライドキャリバー『ファントム』のアクセルを強く回した、レイ・ジョーカー（魔弾魔狼・e05510）が、ヘリオン降下口から飛び出した。
「俺達も行こう……！」
　次に宙へ舞ったのは、村雨・柚月（黒髪藍眼・e09239）だ。
　他のケルベロス達も、次々と下から吹き上げる風に身を委ねる。
（「……ミッション破壊作戦を続けてはいるが、新しいものが次から次へと増えていくな」）
　ミッション地域の開放は、少しずつだが確実に成果を上げている。
　だが、柚月の知る限り、強力な護衛戦力を備えたミッション地域も増加している。
　しかし、どのデウスエクス勢力が、どの地にミッション地域を作ろうとするかは、今の所、ヘリオライダーの予知でも把握することは出来ない。
（「根本の解決もしたいところだが……今は目の前の敵、この地の開放だよな」）
　思考を切り替えた柚月は、懐からグラディウスを取りだすと、力を注ぎながら、魔空回廊へと降る流星となり、グラディウスを掲げる。
「街を直接狙う……小細工なし、いかにもドラゴンの手下らしいやり方だ。ならこっちも小細工なしだ！　真正面からぶっ飛ばす！　ここは、住人の大切な生活圏、人の命と同じく守るべき場所だ！　何が何でも壊させるわけにはいかねぇんだよ！」
　柚月の叫びと共に、バリア内部に爆炎と雷光が生じ始める。
「確固たる意志がある限り、俺達に負けはない！　今持てる全てを、この一撃に！」
（「……嫌な、光景だよね」）
　アトリ・カシュタール（空忘れの旅鳥・e11587）は、破壊された津山市を自身の故郷と重ねていた。
　故郷の記憶が鮮明に残っている訳ではない……けれど、全てを無に帰された故郷、失った家族……記憶を失っても痛みは風化しない。チリチリと胸に種火を残し続けている。
（「……誰にも、辛い思いをして欲しくない。エゴかもしれないけれど……守りたいの」）
『―あなたの傍で悲しみから護れるように―』
　思いの籠もった『紫竜の花』から勇気を貰うようにギュッと握りしめると、アトリのグラディウスが紫に輝きだす。
「街の破壊なんて……させません。そこには人の営みがある、大切なものがある。……私は人々の大切なものを……守りたい！」
　叫びと共にバリアにグラディウスを叩きつけるアトリ。
「例え、この身が壊れようとも……ありったけの力をこの一撃に！　みんなを！　守ってみせる！！」
　黒いロングのストレートの髪が風に靡いていた。
　眼鏡の奥の表情は変えず、斎藤・斎（黒の剣の担い手・e04127）は、己の過去と対峙していた。
　ドラゴンに破壊された故郷……竜とその眷属、悉くを叩き潰す、その思いは今も変わらない。
（「土地の支配を僭称する傲慢、奪い返すだけでは……到底許せません」）
「ドラゴンよ、この地は、貴様らの喉元に突きつける刃の切っ先と知れ。きっと多くのケルベロスがここで力を得て、龍を殺す戦士となる」
　斎は知っていた。自身の力だけでは、ドラゴンを殲滅すること等、出来ぬことを……己の力の脆弱さを。
　だが、多くのケルベロスが協力すれば、ドラゴンの喉元に付きつけられた刃が、ドラゴンの喉笛を掻き切ることすら出来ると信じている……いや、確信している。
　斎の口から漏れ出る叫びの声音は普段と同じ静かなものだ。ただ、斎本人すら意識しないレベルでドラゴンに対する憎悪が滲み出た憤怒の感情までは、抑えられていなかった……。
「……ボクス」
　静かに相棒のボクスドラゴン『ボクス』と手を合わせるのは、竜翼を広げた、ビーツー・タイト（火を灯す黒瑪瑙・e04339）だ。
　赤茶のゴツゴツとした相棒の手を握ると、普段クールと捉われがちな自分に、不思議にも彼の属性であるマグマの熱さが伝わってくるようだ。
「日頃から、ただでさえ面倒な根気比べを強いられているというのに、侵略地域を広げられるなど以ての外だ。……炎は侵略に使うものではない……希望の灯を、与えるものなのだ。ましてや焼き払いなど言語道断だ。許すわけにはいかない。天地殲滅龍よ、お前の目論見、ここで破壊させていただく……！」
　大きく振りかぶったビーツーのグラディウスは、灼熱のオーラを纏ったように赤褐色に輝くと、振り下ろした後、大爆発を起こす。
　その時ケルベロス達は見た……この地のバリアの全容を。
　ドーム状と言われていたバリアは、正確には活火山の様に隆起した形をしていたのだ。

●奇跡を起こすは魂の叫び
「これが、津山市のみなさんを苦しめている、モノなのですか……」
　ウイングキャットの『オライオン』を抱いた、シャウラ・メシエ（誰が為の聖歌・e24495）は、戦慄する。
　各地の魔空回廊は、それぞれのデウスエクスが創っている。だからこそ、それぞれ、バリアを形作るモノが違っていてもおかしくない。
　ドラゴン勢力が、この地に施したバリアは、人々がデウスエクスと同様に恐れる、天災を……火山の噴火を表していたのだ。
「こんなのダメです……」
　シャウラが小さく呟く。
「わたしが、ケルベロスになる前から……みんなには助けてもらってばっかり、でした。だから、今度は、わたしが次のケルベロスを助ける番、です。何かを打ち倒す、強い力はないけれど、みんなのお手伝いをしたいって気持ちは、誰にも負けません！」
　オライオンの眼差しを受けながら、シャウラの握るグラディウスは清廉な水色に淡く光る。
（「竜の咆哮より、わたしたちの声の方がきっと強いはず、です。わたしが……いえ、みんなで、それを教えてあげましょう！」）
　流水の様なシャウラの斬撃が奔ると、攻性植物を広げ緑の戦士となった、ミスルが攻性植物の隙間からグラディウスを覗かせていた。
「どれだけ湧こうが！！　どれだけ蹂躙しようが！！　それでも人の意思が砕けぬ限り、ケルベロスは何度だって立ち上がるさ！　……この星、全ての命が諦めない限り、私は……不滅だ！！」
　ミスルと攻性植物の意識がシンクロすると、グラディウスのオーラは意志を持った植物のように伸び、バリアに風穴を空ける。
「みんなの魂の叫び、ちゃんとこの耳に届いたぜ！」
「私も思いに変わりは無い……どんなに確率が低かろうと、無駄にはしない！」
　レイと葵依が、それぞれグラディウスを手にする。
「滅望咆哮兵なんて、大仰な名前してるが、形だけのドラゴンモドキじゃねぇか！　絶望なんぞテメェ等にノシ付けて叩き返してやるよ！　罪もねぇ人達の暮らしを……平和を焼き払いやがって……！　テメェらはここで必ず駆逐してやる！！」
「人々が、作り上げてきた大切な街で、これ以上好き勝手……暴れさせてなるものか！　どれほどの思い出と願い、未来が詰まっていると思っているのだ！　ただのドラゴンの奴隷風情が、己の意思とは関係ない操り人形め！！　塵になれ！　その忌々しい穴を塞いでやる！！」
　普段と違う冷ややかでいて熱さを秘めた灰の瞳、いつもと変わらぬ潔癖な青眼……視線の交差は一瞬。
　レイと葵依のグラディウスの斬撃は、叫びと共に仲間達が付けた、数多の亀裂を四散させる。
　ケルベロス達の視界を一瞬、緋の色が覆った……そして、次に緩やかな浮遊感。
　その場を支配していた邪な気配が衰えて行く感覚……地球の温かな重力により、二本の脚で岡山県津山市の地に足を付いたケルベロス達は、確信した。
　魔空回廊の破壊に成功したのだと……。
「まさか、破壊出来たのか……」
　手にしたグラディウスをまじまじと見つめながら柚月が呟く。
　柚月の驚きは皆も同じだったのだろう……皆、声が出させずにいる。
　この地の魔空回廊は、上位ドラゴン種が支配している地域よりは、バリア強度が劣るとはいえ、十分な強度を数値として示していた……一度目のアタックで破壊できる可能性は１割にも満たなかったかもしれない。
　……誰も口はにしなかったが、自分達の一撃が、次に繋がればと言う思いもあった。
　だからこそ、事実を受け入れるのに時間がかかってしまう……小さな偶然を人々は「奇跡」と呼ぶのかもしれない。
　だがこの奇跡は、ケルベロス達自身がもぎ取ったもの……ケルベロスの『魂』がドラゴン種の『悪意』に勝ったのだ。
　だが、彼等は、ここで足を止める訳には、いかなかった。
「皆さん、グラディウスは各自で持っていますね。普段より燃え盛っている様ですよ……あちらも」
　斎が『竜殺しの大剣』で指す先には、怒りの形相で普段の数倍の炎を纏った『滅望咆哮兵』が１体接近していた。
　喜びを分かち合うのは、この場から脱出した後……。
「さあ、私達に守る為の力を……！」
　アトリは自身の魔力から翡翠色の鳥を生みだし飛び立たせると、仲間への護りとする。
「岩で隠すは我が呪い。眠れ嵐よ、刺す雷よ。悪し闇の穢れ浄め、世界が光に満ちるまで。閉じよ天岩戸。万象を包み守れ」
　自身のケルベロスとしての力を本来の形として開放する、葵依。
「俺達、今、丁度、いい気分なんだ。お前を倒して、いい気分のまま、凱旋させてもらう。……足元注意、だな」
　多くの熱量をグラビティと共に大地に注ぎ、滅望咆哮兵の足元からマグマを噴出させる、ビーツー。
「わたし達はだれも欠けること無く、仲間の元に帰ります。せっかく、魔空回廊を壊せたんですから！　オライオン、みんなをしっかり守ってね！」
　巨大鎚から竜砲弾を撃ち出すシャウラの瞳は、少女のそれでは無く、意志強きケルベロスのものになっていた。

●滅望咆哮兵
「じゃあ奥の手でもいってみますか」
　ミスルが撃ち出した種は、グラビティを内包した弾丸。着弾する毎に、滅望咆哮兵の体表が弾けていく。
「チッ！　なかなか時間がかかる敵じゃねえか」
　舌打ちするレイの言うとおりだった……戦闘開始から既に１０分以上が経過している。
　魔空回廊を破壊されたことにより、この個体が怒りで普段よりも苛烈な攻撃を繰り返しているとはいえ、これ以上時間をかければ、増援に囲まれ撤退が出来なくなってしまう。
「全てを撃ち抜けっ……ブリューナクッ！！」
　レイが高密度のエネルギーを『魔狼銃 フェンリル 【The Second】』から発射すると、５つのエネルギー弾が分裂し、うねるような奇跡を描き、滅望咆哮兵を撃ち抜く。
「時間もありません……頂きます」
　確実に命を消す為に竜種に効果を発揮する『聖毒』を刃から発し、滅望咆哮兵の首を断ずる、斎。
　だが、その刃は、首を落とすに至っていない。
　滅望咆哮兵の口が大きく開くと、絶望を引き起こす程の巨大な炎弾が放たれる。
　後ろに抜けるかと思われた炎を、アトリと葵依がその身体をもって受け、仲間達の被害を減らす。
　大きなダメージに肌が焼けるが、すぐに柚月の詠唱が聞こえてくる。
「湧き上がるは覚醒の熱波！　顕現せよ！　ヒートエンジン！」
　柚月の示したカードは、大いなる熱狂の力を秘めたカード。赤く輝くと、上空へ飛び、光の粒子が仲間達に降り注ぐ。
「これ以上、時間はかけられぬな」
「みんなで帰る……そう決めたんだよ」
　葵依の白き九尾扇がグラビティと共に振り下ろされれば、アトリの戦乙女の槍が雷の加護を受け、滅望咆哮兵を刺し貫く。
「……止めを刺したら、振り向かずに駆け抜けるぞ」
「はい！」
　短い、ビーツーとシャウラの会話……だが、それで充分だった。
　ビーツーのチェーンソー剣が轟音を上げて、滅望咆哮兵を粉々にしていく中、シャウラの幼い声が響く。
「苦難は続き、重なります。それが、試練というものだから」
　大アルカナの１２番、吊られた男の暗示を強く強く、滅望咆哮兵に送るシャウラ。
　竜牙兵たるモノに苦難など無いかもしれない……それでも、シャウラの作りし、ハングドマンの念は、滅望咆哮兵を文字通りの骨屑へと変えて行く。
「みんな、今だ！　走れ！　救援要請は既に送った!」
『ファントム』に跨ったレイが、前方に注意をはらいながら、先陣を行く。
　他の仲間達も、歩けぬ者は居ない。……全力で離脱するのみだ。
　２分走った頃だろうか……後方から、ミスルの耳に『滅望咆哮兵』数匹の唸り声が聞こえた……。

●一歩ずつ前へ
「ここまで来れば、きっと……だいじょうぶ」
　シャウラの額には、汗が滲んでいる。
「わたし達がこの地を開放したのだな……」
　葵依の言葉にも感慨深いものがある。
「みんなで力を尽くした結果なんだよ……凄く嬉しい」
　どうしても零れる笑みにアトリは少しはにかむ。
「一撃でドラゴンに打撃を与えられた、これは多いな戦果と言っていいでしょう」
「ドラゴンとの最終決戦勝率は、僅かかもしれないけれど上がったでしょうね」
　斎の言葉に、ミスルが続けるように言う。
「グラディウスも全部、持ち帰れる。完全勝利って言っていいんだよな？」
「ああ、俺達の叫びにグラディウスが応え、天も俺達に味方をした。バトンを繋ぐ役割では無くなったが、１つの脅威を打ち消した。これは、誇っていいだろうな」
　レイの言葉に、目を細めビーツーが柔らかい口調で言う。
「俺は、また新たなミッション地域を破壊しに行こうと思っている。時間のかかる土地もあるだろうし、この地のように奇跡の起こる地域もあるかもしれない……その時、またみんなの力が借りられれば、心強いな」
　柚月の真っ直ぐな言葉に、ケルベロス達は大きく頷き、約束を交わすのだった……。

作者：陸野蛍	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年6月20日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 7／感動した 1／素敵だった 1／キャラが大事にされていた 1
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