「飛騨山脈より、ローカスト調査隊の皆さんが帰還されました」
都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)の声音はいつもと変わらず沈着であったが、ケルベロス達の無事に安堵した様子だった。
「調査隊の皆さんの話によれば……飛騨山脈の奥地に、ローカストの秘密基地を発見。ローカストは残る一族全て、コギトエルゴスム化していたそうです」
調査隊を結成した春花・春撫(プチ歴女系アイドル・e09155)の予測通りだったが、ローカストのコギトエルゴスムの多くは、定命化の影響か、既に崩壊していたという。
「その調査中に何らかのシステムが作動し、残存のコギトエルゴスムからローカストが復活。調査隊のケルベロスのグラビティ・チェインを狙って、襲い掛かってくる事態となりました」
復活したローカストは、グラビティ・チェインの枯渇と定命化による死の恐怖により狂乱状態にあり、理性的な会話は不可能であった。それでも、調査隊は奮闘の末、撃退に成功。のみならず、説得に応じた5体のローカストのコギトエルゴスムを持ち帰る事が出来たのだ。
「現状、ローカストのコギトエルゴスムはこちらで保管してあります。やはり定命化が進んでいるようで、遠からず崩壊するのは間違いありません」
タブレットを確認しながら、創は静かに事実を説明していく。
「説得に応じたとは言え、グラビティ・チェインが枯渇している状態なのも変わりありません。理性を無くして再び暴れ出す可能性もあるでしょう」
1番安全なのは、ケルベロスの手でコギトエルゴスムを破壊してしまう事です――いっそ冷徹に、創は断言する。息を呑んだケルベロスもいたようだが、彼らを見回すヘリオライダーは、そこで初めて微笑みを浮かべた。
「しかし、その一方で、コギトエルゴスム化した5体のローカストが定命化を受け入れて助かる可能性も、ゼロでは無いのです。そこで……ローカスト調査隊が持ち帰ったコギトエルゴスムの扱いについて、ケルベロスの皆さんの意思に任せる事となりました」
第二次大侵略期と目されるようになり、もうすぐ2年。それは、ローカストの地球侵略の始まりでもあった。数多のローカストの謀を退け、黙示録騎蝗を阻み、彼らの神をも撃破した。残るローカストはコギトエルゴスム化した5体のみ。コードネーム「デウスエクス・レギオンレイド」の行末を定めるのは、ケルベロス達こそ相応しい。
「どのような結果を望むかは、人それぞれではありますが……皆さんが望む結果が得られる事を、願っています」
●ローカストのコギトエルゴスム
東京某所――広々としたホールに、鎮座するコギトエルゴスム。ローカストの行末は、ケルベロスに委ねられた。
参加者は優に300を越え、告知した都築・創も驚いたという。1つのけじめとして、立ち合うケルベロスも少なからず。
(「多くは語らぬ。座して彼らの趨勢を見据えるのみ」)
飛騨にて切り結んだ彼らの同胞に対する手向け、義であると四方堂・幽梨は静観の構え。
「お友だちになれると嬉しいでござるな!」
「折角だから『何だかんだあったけど、めでたしめでたし』で終わらせたいな」
カテリーナ・ニクソンの無邪気な言葉に、アンセルム・ビドーは穏やかに頷く。
「私は特に怨みも無いので。まあ、無条件に許す程聖人君子でもないですが」
ブロウエ・シュトゥルムは、結論が出るまで「生かす側」として行動する心算だ。
「私は、条件付きであれば受け入れてもいいと思います」
ローカストの日常生活のサポートを行う一方で、ケルベロスの保護下に置く――アルテナ・レドフォードの提案は実務的か。
「人間を襲うなら戦う。定命化を受け入れるなら支える。何も難しくないのよ」
イリス・メルランディのシンプルな考え方は、多くのケルベロスが頷くだろう。
一方、ジン・フォレストは、生き残りが僅か五人という事実に胸を痛める。
「数多くの生き物が住む地球、5人増えても狭くはならないと思うがな」
「言葉が通じるなら、妥協点を見付けて協力していける筈です」
偽善者の呟きですが――神薙・灯が苦笑して程なく。
「諸君、互いに争い、傷付け合った相手に手を伸ばせるか否か。今、我々は大きな分岐点に居る」
声を張り、ソル・ログナーは参加者に訴える。
「生きたい想いに種族の別は無く、生きて欲しいという願いに偽りは無い!」
問答無用のコギトエルゴスム破壊は許さない。メリッサ・ニュートンを始め、警護に就くケルベロスも多い。最大規模は旅団『レプリフォース』だ。お揃いのR.F.コートがよく目立つ。
「5体だけだとしても、コギトエルゴスムになってくれた事は喜ばしい事だ」
彼らの定命化が完了するまで、マティアス・エルンストは有志と共に警護に当る。
(「記憶を失う前のボクも非道な行いをしていた筈だし、清濁併せ呑む器があって欲しいと思うよ」)
小さく肩を竦める星黎殿・ユル。ミオリ・ノウムカストゥルムは、先走った行動に警戒している。
「個人的には、アーマードヒーローと話したいんだよなあ。一緒に特撮ヒーロー番組を観たいぜ」
イグナス・エクエスはキョロキョロと忙しない。
「わたくし達を信じて委ねられたコギトエルゴスム。万一の事が無いようお守りしないと」
表情も厳しく、警護に勤しむレーン・レーン。ジド・ケルンは可能性に満ちた地球の話が出来ればと考えている。その可能性の芽を摘みたくないと、ユリーカ・ストライカーは考える。かつては敵だったレプリカントも、今は地球の人々に受け入れられているのだから。
「俺が戦った白には……言葉が届かなかった。あんな悲しい戦いはもう御免だ」
龍神・機竜はアイズフォンも駆使して、ティーシャ・マグノリアと広範囲をカバーし合っている。
「色々な意見はあって良いが、何が起きるか判らん所が難しいな」
より良い未来を掴む為にも――ヒメにゃんと巡回するギメリア・カミマミタ。
「ここでコギトエルゴスムを砕けば、ローカストは全滅です。でも、それを安易に選ぶのは何か違う気がします」
水瀬・和奏はまず対話の場を確保したい方針だ。
「自分も上手く言えませんが……出来れば生き延びて欲しいと思います」
玄梛・ユウマも警護を手伝う。
(「誰かが早まるなら、止めなきゃ悔いが残る」)
ダスティ・ルゥは、螺旋に紛れて高窓から会場全体を警戒している。
「折角生き残ったんだ。このまま死なせるような詰まらない話は願い下げだね」
ローカストとは無縁と言いながら、長篠・ゴロベエは何かを抑えた面持ち。
(「実力行使、するも防ぐも遺恨が残りそうです」)
アニマリア・スノーフレークはファイティングポーズ。
「なるように成れの中立派の私が、暴力も請け負いますよ!」
勿論殴り返すが。
「此度の件で彼等に生きよと説き、矛を収めさせたのケルベロスだ。地球の総意と言えずとも手を差し伸べた以上、翻すは仁義に反する」
義に篤いヴァルカン・ソルにとって、コギトエルゴスムの破壊は見過ごせぬ暴挙だ。
「地球を愛せたら生き残る、愛せなかったら死ぬ……ローカストは地球を愛せるのかね? 『愛してくれ』『はい愛します』なんてのは難しいっつーか無理だよな?」
ヴァルカンと巡回しながら、相馬・竜人は首を捻っている。
「そこは我々ケルベロスの説得に懸かっているだろう」
比嘉・アガサにはローカストの親近感はそこまで無い。それでも、彼らに言葉が通じるよう願っている。
「この戦力差だ。倒す事はいつでも出来る」
今は、相互理解の道を探る時。豊田・姶玖亜も周辺を警戒する。
そう、結果から言えば、破壊しようとした人数に対して、警護の数は圧倒的だった。
警護陣に隙はなく、自己顕示の手段としてコギトエルゴスムの狙ったズミネ・ヴィヴィとブリキ・ゴゥはあっさり断念。
家族の復讐を狙うジン・ヤヨイも同様。コギトエルゴスムの視認すら叶わず、猛者揃いの突破は彼の実力では不可能だ。
予め警護の宣言も多かった。本懐を遂げたければ、相当の覚悟と策が必要だっただろう――ともあれ、安易な物騒は早々に去って定刻。
「回る賽に触れるのはご法度だぜ?」
九道・十至が釘を刺すも、不用意にコギトエルゴスムに手を伸ばした神籬・聖厳は、暁・歌夜と月杜・イサギの手で退場処分となっている。
「成果を、他人の都合で台無しにされては堪りませんので」
「ああ、私も命を賭けた我が友の願いに、水を差す輩は不愉快だ」
定刻ぎりぎりに入場したメリーナ・バクラヴァは、腕の中のコギトエルゴスムを収めたケースに話し掛ける。
「どうでしたか? 地上は案外真面目に生きてます。限りあるモノを融通して協力して……戦時なんて凄いんですよ!」
ヘリオンから地上を見せて来たという。文字通りのフライングだ――と、いう事は。ホールにあったコギトエルゴスムは。
「心配してたけど、実力行使は無さそうね」
プラン・クラリスが用意した替え玉だった。興味津々に本物を覗き込むミミ・フリージア。
「壊してしまってはどうにもならぬ。丁重に扱わねばの」
ローカストに戦闘を見せたくなかった千里・雉華は、安堵の表情。小声で呼び掛ける。
「生きたいなら生きればいいと思いまス。大丈夫でスよ、 ずっと憎める方もそういまセんし」
緊迫の空気は些か和らいだが、仲間の手を無為に血に染めない為、警護続行のラリー・グリッター。四方・千里は空気が殺伐としないよう、気遣っている。
「僕は救いを求め、仲間の愛に応えた者を決して見捨てない!」
エリオット・アガートラムも意気軒昂だ。
「侵略者に連なるものは全て滅ぶべき、ならこの国の人も滅ぶべきになっちゃうね」
黒岩・白は友好的なふりして破壊を目論む者に警戒している。
(「ジェネラルから託された『希望』、皆に届きますように」)
(「『絶望に沈む仲間達に少しでも希望を』。他でも無いあんた達の同志の約束だ」)
それぞれ希望と約束を胸に、ゼラニウム・シュミットとアスカロン・シュミットも警戒を緩めない。
「なんでボクらはOKで虫さん達はダメなんだよぅ? ボクらの方が定命化が早かった、それ以外に差はないよ」
尾守・夜野のしょんぼりした呟きに、頷き返すミチェーリ・ノルシュテイン。
「ウェアライダーも神造デウスエクスの末裔。地球侵略が理由で殺されなければならないなら、私達も生きてはいけない事になる。そんな憎しみを越えてきたのが、この星の歴史でしょう」
「元々、ダモクレスとして地球侵略していた私も、今は地球の人として生きています」
やはり警戒しながら、アト・タウィルは呟く。
「5人は既に、人からの憎悪で生き延びる道を捨てています。共存への道を選んだ彼らと私に何の違いがあるでしょうか?」
「違う、ローカストはまだ敵軍の捕虜で仲間じゃない!!」
思わず声を上げた橙寺・太陽はアトを睨む。
敵の吸収は共存でなく侵略。共存派は、共存と侵略を混同し人間の自由を踏み躙る――その言葉に、神楽火・みやびは溜息を吐く。
「確かに、命の他は全てを奪っておいて、未来を与えたいなどと。それは、残酷で傲慢な慈悲です」
だから、みやびはローカストに何も望まない。
「ですが、もし……ローカスト達が定命化を受け入れるならば。私達はきっと、友人になれるでしょう」
思想は自由だ。しかし、己こそ正しいと声高な発言と、共感を得る為の発信は異なる。そこが太陽とみやびの違い。異なる主張を危険視し、不満に思っても先はない。
「最早彼らは敵でなく、我々が護るべき弱者であり同胞になり得る者達です。罪を償い、善行を為す機会はあって然るべきです」
「罪、な……」
エストレイア・ティアクライスの意見に、ウルトレス・クレイドルキーパーは顔を顰める。
「確かにこちらは侵略された側だ。だが、ゲートを破壊し母星へ帰れなくしたのは誰だ? 指導者を殺し、人知れず眠りに就いた者達を叩き起こし、踏み潰したのは?」
誰あろうケルベロスだと。ウルトレスの言葉も事実。
「今更上から目線の同情は感心しない。彼らに掛けるべきは敬意と誠意。魂の救済だ」
「赦す事が傲慢だというなら、背負ったっていいわ。そう思うのは、私だけじゃないかも」
すかさず言い切ったソフィア・フィアリスの覚悟も相当だ。
(「戦えない相手に興味はありませんね。私の刃は命を懸けた戦いの中、我が身と敵の血肉で磨く為にある」)
気のない素振りの西院・織櫻の傍らで、ベリザリオ・ヴァルターハイムは紫炎を棚引かせる。
「どう足掻いても、ローカストの先は長くない。我が身を振り返れば、連中にも地球で生きるチャンスをやりたいものだ」
「私はとどめを刺すべきに1票だけど」
醒めた表情でミスル・トゥは口を開く。意見が割れると下手すれば一部のケルベロスが離反を起こしかねない。ならば、後腐れなく終らせた方が良い。
「無理矢理な結末では、誰も納得しないだろうからな」
ローカストの行末に拘らずとも、ケルベロス内に亀裂が生じる事を長船・影光は危惧している。
「その5つは、様々な犠牲の下で未来に繋がれた大切なものだよ」
浜本・英世の表情に苦さが混じる。ローカスト最期の戦いの中、英世の説得は叶わなかった。せめて行末を見守りたい。
「空気がピリピリしては……楽しく無いだろう? 団子でも食うかね? 茶も用意した」
場を察した櫟・千梨が長閑に割って入り、小休止。
「そう言えば、2代目スポアローカストマスターとかスコルピア・ヴェノムの死亡は確認されてないよね」
本音は胸に秘め、世間話に興じるように黒住・舞彩は口を開く。
「今この石を壊したら、敵にローカストのレプリゼンタが増えないかしら?」
「ふむ。定命化で新たなレプリゼンタが誕生しない可能性か……」
いざという時の介錯の心算で参加した流・朱里は、面白そうに笑う。最悪殺すつもりが気が変わる、そんな気紛れがあってもいい。
「はいはーい、私はローカストを助けたいし、出来れば一緒に地球で暮らしたいでーす!」
写譜麗春・在宅聖生救世主の明快な意見に、硬直した空気が弛む。
「俺がこいつらを守るのは、飛騨の戦いで種族の衝動に抗ったって知ったから。『ローカスト』じゃなくて『5人』が望みを叶える機会があっても良いと思えたんだ」
「無抵抗な相手をただ殺すってのはなぁ。説得に応じてくれた5人だけでも、可能性を見届けてぇ。そう思う事は傲慢か?」
「物凄く自分勝手だと判っているがね。取れる手なら引き上げてやりたいんだよ。少しでも解り合える可能性に、俺は賭けたいんだ」
鷹野・慶も喜多・きららも天月・光太郎も、警護を担って最後まで見守る姿勢だ。
「正直よく、わかんねーんだ。でも、きっと、嘘じゃねぇ」
手を取り合う事で「存在してていい」と言われた時の気持ち――だから、霧島・トウマは、レプリカントとして此処に居る。
「俺は、彼らがどうしたいか、見届けたいんだ」
「取り合えるなら手を取りたい。かつて俺も、そうして貰ったみたいに」
拳を握り、アルト・ヒートヘイズはコギトエルゴスムをじっと見詰める。
「声を聞いてくれたお前達に、まだ何も出来てねぇ。『可能性』信じてもいいのか?」
「愛する事は意外と簡単なんだよ。掴むまでが難しいけどさ」
とっかかりがあれば十分なのは、ヴァルキュリア達が教えてくれた。
「どんな事に興味があるか、ゆっくり話したいよな」
「関心も人それぞれなら、やり方も千差万別……やはり、時間が必要なんだろう」
霧島・カイトとリカルド・アーヴェントの悩みは尽きない。
「攻性植物との共存を目指す身としては、僅かでも定命化の可能性がある彼らを見捨てる事はできないですの」
シエナ・ジャルディニエはさらりと爆弾発言したような……思想は自由だ。コギトエルゴスムをどうしたいにせよ、ケルベロス同士の意見の重みに違いはない。
「ええい、煩わしい。 当人らの意志を無視して生殺与奪の権利を口にするな。幸せの押し付けなど、只の自己満足だ。綺麗事で正義の味方気取りは辞めろ」
不機嫌そうに吐き捨てるセス・レフコクリソスに、溜息を吐く大義・秋櫻。
「ケルベロスは大勢いて、考え方は勿論、境遇も違う事も理解しています。一枚岩ではありません……悲しい哉」
「だからこそ、対話を通して結論を出さねばなりません。その為に設けられた場だと解釈しています」
火岬・律の意見は、この場に残った者に否やは無いだろう。
(「リゼちゃんはケルベロスになったばかりだから、ローカストさんについてよくわからないけど……」)
議論から喧嘩になるのも大変だし、ローカストと戦ってきた先輩の意見を尊重しなきゃねー、とリーゼロッテ・バーゼルトは漠然と思ったようだ。
「兎に角『結果が出るまで待て』、だな」
ヴォルフ・フェアレーターの言葉に、自然と視線はコギトエルゴスム(本物)に集まる。ヴァルキュリアの先例に倣えば、定命化を受け入れた個体から再生する筈。
「皆で少しずつグラビティ・チェインを提供する、という話でなく?」
小首を傾げる紫苑・聖だが、デウスエクスが吸収出来るのは、基本『知的生命体の死亡時に発生するグラビティ・チェイン』。故に、1人分でも多くが救えるローカストにもグラビティ・チェインを渡せなかった。
「生きるのは罪じゃない、誰も責められない……でも、僕らは死にたくなかったし、大事な人が食べられると思うと怖かった」
地球では命は巡るもの。彼らにもその命の形を見て欲しいと、ウォーレン・ホリィウッドは呟く。
「どのような結果であろうと、目を逸らさず受け止めないとな」
「あんまりに変化が無いなら、ヴァルキュリア蘇生儀式の場を組んだザイフリート王子にもお願いしようと思ってるっすよ」
ゲート破壊に加担した者として結末を見届けるべくローカスト調査隊にも参加した日柳・蒼眞は、神妙な面持ち。コギトエルゴスムの崩壊も遠からずなら、ノイアール・クロックスはいざという時の仕切り直しも視野に入れている。
「折角未来に目を向けてくれようとした子達だからね。一緒に歩む未来を信じて、出来る限り手伝うよ」
「強要されるでも流されるでもなく、自分の意思で進む道を選ぶ事を望む」
アルベルト・アリスメンディに頷いたリューデ・ロストワードの脳裏に、飛騨で戦ったローカストが過る。彼のように、5体にも最期まで自分の意志で選択して欲しい。
「私が戦った阿修羅クワガタさんもアリオスも自らの信念の下、進退を決めた。彼らにも己の生死を決める権利がある」
その決断を守る為、神崎・晟は彼らの剣と盾になろうと決めている。
「共存の道がないなら、その時でいい……セーフティロックは、いつでも解除出来る」
リティ・ニクソンの言葉に、矢野・優弥は苦笑を浮かべる。
(「互いに種を滅ぼすまでのレベルで争った相手だからね……残り5人という状況で生き残ろうと思うだろうか」)
もし死を望ぶなら、介錯人となろう。汚れ役を引き受ける為、彼はこの場にいる。
アシュリー・ハービンジャーも同じく。
(「その時は番犬として、務めを果たしましょう」)
生存競争の結果、滅びも仕方が無い事……けれど、それでも道を求める者がいるならば、結論が出るまで待っても良いと思う。
(「戦うなら受けて立つ、死ぬなら介錯する、生きるなら、道を探す……君達が最後だ、選んでくれ」)
樫木・正彦も真剣な面持ちだ。
「種族としちゃあ滅亡寸前までにしたケルベロスが生きてほしいと言って、君達は地球を愛す事が出来るかい?」
灯紀・玖魂の言葉が恐らくは肝。クローネ・ラヴクラフトは言い聞かせるように静かに語る。
「この星には楽しい事も……辛い事も、沢山ある。ここに集まった声を聴いて、きみ達はどうしたいのか、決めてほしいんだ」
漸く、コギトエルゴスムへ想いを注ぐ段となった。
●想いを注ぐ
「おはようございますのよー。ずっと眠るのも良いですがー、出来るならばお話をしたいですわねぇー」
フラッタリー・フラッタラーは、生に死に物狂いであった彼らの真摯さに好感を抱いている。
「生き残ったローカストの皆さん……死んでみませんか」
続く爆弾発言。だが、ペテス・アイティオはのほほんと語り掛ける。
「限られた時間の中で一生懸命生きて、自分の人生はこんなにも素晴らしかったんだって、胸を張って死んでみませんか」
「『定命化』は『共に生き、共に死ぬ事』。死を受け入れる事で、限りある生により多くの意味を持たせられるようになる事だ」
ロディ・マーシャルが整然と説明する。不死の彼らに理解させるのは難しいだろうけど。
「お前達はあの時『生きたい』と望んだ。だから『共に生きよう』。オレ達と」
「『一粒万倍』、一粒の籾から一万粒の稲穂が獲れるという意味だ。定命化を受け入れて子を成して、その子達がまた子を成す。次代へ『想い』を繋ぐんだ」
瞬きの間に滅びるより、命を繋いで欲しい――懇々と説く鏑木・蒼一郎。
「死を恐れるのは、地球の人々もデウスエクスも変わりません。もしも1人で耐えられない時は、手を伸ばして下さい。その手を掴もうと思う人は、こんなにも居ます」
セレナ・アデュラリアは、勇気を持って最初の1歩を踏み出して欲しいと願っている。
「ここにいる人たちは皆、あなた達の幸せを心から願っておりますわ。 思い切って新しい人生を歩むのも悪くありませんわよ」
けして孤独でないと、シフォル・ネーバス。
「色々あったが、この地上で共に生きる事を望んで欲しい」
弘前・仁王の言葉も同じく。拒絶はされないからと。
「せめて、貴方達だけでも生きて欲しい。我儘な話だけれど、それでも生きていて欲しい。貴方達だけでも、幸せになってよ」
ローカスト達に会せる顔がないと思う一方で、風音・和奈の言葉は切なる祈りに似て。
「限られた定命の人生、わしは最後に笑って死ねればいいと思うの。笑って死ねるように、生きるのじゃ」
葉月・狂夜の言葉は明快だ。面倒と嘯きながら、見塚・重安は大きな声を掛け続ける。
「生きろよ。諦めんなよ。がんばりましたで死ぬヤツは、俺は大嫌いだ。死んでも生きろよ」
「仲間から託された尊き命は後世の為に繋ぐべきだ! 後世へと命を繋ぐ戦いから逃げるな! 諦めるな! 最後まで足掻け!」
ラジュラム・ナグの声がホール中に響き渡る。
「ローカストの皆には幸せな余生を過ごして欲しい。勿論、一緒に戦ってくれるなら歓迎だよ!」
ヒールグラビティと言葉を注ぐ雨宮・利香。だが、神楽火・天花は頭を振る。
「戦わなくていいなら戦わない方がいい」
学校に通い、友達と遊んで、恋をして。普通に生きられる方がいい。
「良し悪し含めて……僕の知る範囲で一通り語ろう」
判断材料は必要だと、ガロンド・エクシャメルは地球について話し出す。
「ゲートを破壊したのは僕らだが……地球が第二の祖国になれるかな?」
「地球は、美しくも過酷な自然、多種多様な文化と人種が、バランス良く釣り合い共存している。後な、甘くて美味しい物が沢山ある」
ルチル・アルコルのお勧めはクレープとパンケーキだ。
「ねえ、地球の生活も悪くないのよ。共存するにしても、再び敵対する事になっても……選択肢は多ければ多い程いいわ。まず生き延びなくちゃ」
ケルベロスなら新たな道を示せると、リリア・カサブランカは信じている。
飢えや渇きは怖いから。悲劇を断ち切る為に力を貸して欲しい、と語り掛けるシルディ・ガード。
「地球はとっても素敵なもので溢れてるよ。 私も割と好き。生まれた以上、終わりの時まで突っ走ってみようと思ってるの。可愛く、ね」
今はどうしたい? と大弓・言葉はコギトエルゴスムに問い掛ける。
「……いつか死ぬとしても、生きて……この世界知るのも…良いんじゃない?」
それこそローカストにとって償いだろうと、ラヴェルナ・フェリトールは思う。
「わたしは元ダモクレス。最後の約束を果たすべく、ここに居る」
生きて――その約束がルタ・ルタルを支えている。
「だから、わたしはあなた方を受け入れる、よ。一緒に生きよう」
「『死』を知らなったダモクレスの私は『生』を知りませんでした」
レプリカントに転じてからを振り返り、エンミィ・ハルケーは語る。
「無感情の機械として生まれ、地球を愛し、心を得て、それでも、全く別の存在になった訳では、ない。願わくば、ローカストの皆さんにも生きる喜びや悲しみを。共に歩んで行けル、なラ……」
のど飴ぱわーが尽きたので選手交替。
「僕も定命化した身でね。見ての通り、元ダモクレスだ」
鉄・八郎太は、お近付きの印に酒とミルクココアを並べる。
「阿修羅クワガタさんの仲間、ヒートヘイズにも、頼まれてね。どうか、この星で一緒に生きてくれないだろうか」
「私も、ローカストの不退転の戦士達と戦った」
彼らは同胞とその未来の為に戦い散った。戦士の誇りを想い、リヴィ・アスダロスは力強く拳を握る。
「彼らの犠牲と意思を無駄にしない為にも、この星で生きる道を選んでくれ!」
御門・愛華が掲げるガントレットも、阿修羅クワガタさんの仲間の得物であった。
「断華さんも正々堂々戦う道を選びました。あの誇り高き戦士達の犠牲を無駄にしたくない。あなた達には生き延びてほしいんです。飢餓の苦しみから救いたいんです」
「ボクも、キミ達の同胞と戦った事がある。花蟷螂の戦士でね。美しく気高い、尊敬に値する武人だった」
花散るように美しい生き様だったと、ナコトフ・フルールは語る。
「でもね。彼の名前すらボクは知らない……彼らの、キミ達の物語を、聞かせてほしい。 何よりね。ボクが語らってみたいんだ」
(「ギリキンには上手く伝えられなかったから……僕の勝手な感傷だよね」)
僕だって人の心を知りたいと、屋川・標は目を伏せる。
「今度こそ一緒に『生きる』道を見付けたい。一緒に悩める友達は沢山欲しいって思う」
エヴァンジェリン・エトワールは、飛騨で二代目アンナフルと戦った。望んで戦って、果てた。けれど。
「アタシは、滅亡の手伝いがしたくて、ケルベロスで居るんじゃない」
生きてほしい。人の傍に居て、人を好きになって欲しい。
「家族を、仲間を想うアナタ達が、アタシは好き。伸ばした手は、絶対に掴むから。一緒に、居よう」
神苑・紫姫もローカストドール『オーキッド』を助けられなかった。
「あなた達が地球で生きる事を決めた暁には、貴方達を愛し、護り、共存する事を誓う……そう、彼女にも告げました」
「あの日、あの場所で……僕は、あなた方の仲間を殺してしまった。僕の事は信じなくて構いません。けれど。あなた方が応えた人達は、信じてあげて下さい」
それが、霧山・和希の素直な思い。
「俺が戦ったローカストも、説得を受け入れて貰えなかった」
その時、長谷地・智十瀬は自身と変わらないと感じた。
「もう少しで死ぬ命でも、降伏して延命なんか絶対嫌だって」
敵であれ、通じる所がある奴をこれ以上殺せない。
「帰る家も仲間達すら殺したケルベロスを、あなた達は赦して受け入れてくれた」
飛騨に行けず、もどかしかったアーティア・フルムーン。今は、信じてくれてとても嬉しい。
「私達も同じようにあなた達を赦し受け入れる。 そうすれば、きっと友達になれるわね」
「あんた達の王様、ジューダスの残霊に会ったっす。奴さん、ローカストに未来はあったのかって……自分はそれ聞いて、悲しいと思ったっす」
不機嫌そうに眉を顰める伊・捌号。一方で「アンタの仲間は命を繋いでいる」と彼に言いたいと、カーネリア・リンクスは訴える。霧島・絶奈も同じく。
「ジューダスの問いには『我々と共に歩む未来』と答えましょう。どうか彼方も含めた『人類』に黄金の時代を」
「地球は色んな種族が暮らしてるんだ。ローカストの皆とも一緒に暮らせると嬉しいな」
黄瀬・星太の屈託ない言葉に、味方は多い方が良いと微笑む紗神・炯介。
「知ってるかい? 僕も含め、地球人以外の種族は元デウスエクスなんだ。でも、分け隔てなくこの地球で生きている」
「ドラゴニアンもかつては人々の脅威。それが今はこの地で生きている。様々な思いから変わるなら、ローカストも同様だ」
生きたいと思う、その事に意味を問う必要はないと、伽羅楽・信倖は断言する。
「あなた方が此処にいらっしゃるのは、誰かの尽力あってこそ。皆様をどうか信じて下さい。 この世界を少し冒険してみませんか?」
ケルベロスに救われた1人として、ラグナシセロ・リズは穏やかに声を掛ける。
「私達と地球をよく見てみませんか? 愛着を持って頂けたら嬉しいですし」
清楚に微笑んで見せる五十嵐・奏星。
「僕達は自由に、自分の意思で生きてる。貴方達にだって、光に満ちた世界があっていい筈なんだ……このまま終わってほしくない」
純朴に呼び掛ける弥鶴城・颯太。ホルン・ミースィアは、ヴァルキュリアもローカストも同じと呟く。
「絶対の命令が理由でも、為した事は変えられない。生きる事も簡単じゃない。それでも、ボク達は待ってるよ」
「レピちゃんもですね? 宝石から救われましたから。今度はレピちゃんが助ける番です!」
世界に夢を見せなきゃいけない! だって、レピーダ・アタラクニフタはアイドルだから!
「我らに出来た事が汝らに出来ぬ筈はなく、我らを受け入れてくれた地球の人々がそうせぬ筈がない! 我はこの星の人々を信じておる!」
大いに胸を張る神楽火・勇羽。ヴァルキュリアも色々だ。
「この星の人は懐が広い。あなた方もきっと受け入れてもらえます」
アイラノレ・ビスッチカにとって、死に瀕している者は種族を問わず救うべき患者なのだ。
「これまでは侵略者と防衛者という立場だったけど、全てが終わった今、もう殺し合う理由はない筈だ。どうか俺達と生きる道を選んで欲しい」
こんな状況になる前に説得したかった――ノア・ウォルシュは些か寂しげだ。
「ローカストとの戦いで多くの人が命を落とした。それは覆せない。我が剣はデウスエクスを討つ為の剣。だが、きみ達が平穏な人生を送りたいと心から望むのならば、その願いも守るに値するものだ」
誰もが過去を受け入れ、未来に進まねばならないと、神楽火・皇士朗は熱く語る。
「デウスエクスとしてケルベロスと戦って死ぬか。地球の命としてデウスエクスに抗って死ぬか……生き方を選ぶ事は、死に方を選ぶ事でもありますね」
抗う力を持たない人々の「剣」、イピナ・ウィンテールらしい言葉だ。
「貴方達が生きる為に、地球の人々を殺める必要が無くなるなら。私は、貴方達を地球の一員として迎えたい」
不安を和らげたくて、クノーヴレット・メーベルナッハは静かに微笑む。
「わたし、前から思ってたのです。ローカストの皆さんとは共存出来るのではないかと」
コギトエルゴスムの前でオルトロスと正座して、香祭・悠花は快活に話す。
「同胞を使い捨ての道具にしたアポロンはもういない。 一緒に戦おう。僕らを蹂躙しようとする本当の敵と」
二階堂・燐の誘いは、いっそ硬質に響くよう。
「ローカストは侵略者ですが、あなた方はその牙を収めてくれました。心の内は、地球を侵略するばかりで無いと思います」
もし、定命化を受け入れてくれたら。笑顔で迎えたいと、イリス・フルーリアは言う。
「何度も戦い、傷付け合った。けれど、それは生き残る為に争っただけ……もし、地球を、この緑の大地を、ここに住む人達を愛してくれるのなら。餓える事のない、自由を知ってほしい」
訥々と訴えるミレイ・シュバルツ。
「易々と水に流す事が出来んのは重々承知の上。ただ俺は、明日を皆と生きたいと思っている」
滅ぶ前にやってみる価値はあると、英・揺漓の声は真摯だ。
「過去を無かった事に出来ない。それでも……わたしは救える命があるなら、手を差し伸べたい。あなた達に生きて貰いたいんだ」
救いたい、深海・小熊はその一心だ。
「地球で暮らすのは最初は大変でしょうが、助けてくれる人も沢山います。それに、 僕はもう皆さんを仲間だと思ってます」
ローカストのコギトエルゴスムはこの5つで本当に最後。クゥ・チコットは懸命に呼び掛ける。
「種の滅び……それはとても悲しい」
コクマ・シヴァルスは黙祷を捧げて瞑目する。コギトエルゴスムは個人で保管出来ず、かつて回収した石は全て破壊されている。
「唯ワシが言えるのは。お前達が此処に居るのは、お前達の生を……未来を望む者達が居たから。どうか心に留めて行末を考えてほしい」
「定命化したら、皆で食事に行きましょう。お腹一杯食べるって、とても幸せな事よ」
高橋・月子の言葉は柔らかい。その胸の内は、広島で託され結局壊されたコギトエルゴスムへの想いがある。
「私、闇医者です。怪我をしても、病気をしても、いつでも、私が、力を貸します、です。だから、どうか、安心して下さい、です」
同情じゃない。誰かが死ぬのは、シェスティン・オーストレーム自身が嫌だから。
「ローカストにも色々いたように、人間も色々で、あなた方に敵意を向ける人もいれば、寄り添いたい、共に生きたいと願う人もいます」
私はお友達になりたい――輝島・華は、コギトエルゴスムの前に座り優しく語り掛けている。
「定命化しても辛い思いはあるでしょう。でもそれは、ケルベロスも地球にいる人も、味わった思いなのです」
悔やむなら上回る善行を。牡丹屋・潤の言葉はあっけらかんとして、でもきっと大切だ。
「色々思う所のあるケルベロスもいるみたいだが、お互い様だろうしね」
肩を竦めるイブ・アンナマリア。多様性は、きっと何処にでも。
「少し前まで敵だったイマジネイターちゃんも、今や頼もしいヘリオライダーなんだぜ。きみ達にも僕の歌を聴いて貰いたいな」
「俺も出自がダモクレスなんで、分かち合えるものがあるんなら嬉しいねぇ……定命化したらしたで美味しいモン食えたりするから、こっちも悪くねぇってだけは言っとくな」
特に酒、と八崎・伶は笑う。
「地球にこんな言葉がある。この世で身に着けるべき力があるとすれば何かを受け入れる力だけだ、と」
終わりへ向けて駆け抜ける生もいいものだと。巽・清士朗は悠然と説く。
「全ての生命は自由であるべきと私は思う。何者にも縛られぬ海賊のように!」
「単刀直入にお聞きしますが、貴方達は生きたいのかしら? それとも死にたいのかしら?」
大事なのは「どうすればいい」ではなく「どうしたいか」。黒須・レインの誇らかな言葉に頷き、エニーケ・スコルークは威風堂々と宣言する。
「私は貴方達の望みと自由意思を尊重します」
「当人の意思を無視して無理矢理押し付けるのは、優しさどころかエゴでしかないと思うのですよ」
秘密基地の装置がここにあればと考えるヒマラヤン・サイアミーゼスだが、まだコギトエルゴスムは沈黙のまま。
「選択は自由だが、願わくば……生きてほしい」
地球の自然、虫の、人々の営みを伝えながら、皇・絶華は思う――闘い等不要なのかもしれない。デウスエクスが地球を受け入れるなら。
「殺すのは簡単だ。引き金を引けばいい。でも、説得に応じた彼らの命を何も考えず奪うのだけは嫌だ」
この星を、彼ら自身の目で見て欲しい。その上で彼らがどうしたいのか知りたいと、ティクリコティク・キロは言う。
(「随分と小さくなったモンだな、てめぇらも」)
無言のまま、コギトエルゴスムを眺めるサイガ・クロガネ。殺さずに受け入れる、のは互いに結ぶ約束に似て。
(「約束ってのは破られる為にあるのか、違うのか……試してみんのもいいだろう」)
「どんな形にせよ、貴方たちは死ぬ。ただ、いつ死ぬのか決めるべきなのは、貴方達自身という事だ」
神楽火・國鷹は請合う。どんな決断も尊重すると。
「この星は美しい。醜い争いも、愚かな出来事もあるが……それでも。陽の光、夜空に瞬く月と星の煌き、四季の風、地球に生きる全ての生物……」
だが、最終的に決めるのはあなた方だ、とシャイン・ルーヴェンは囁く。
「私としては、仲間になってくれたら嬉しいが……」
「生き汚くったっていいじゃないか」
大人びた仕草で肩を竦めるブラン・バニ。
「世界は弱肉強食だからね! 生きるも死ぬも誰かの所為なんてとんでもない。後は君達がどうしたいかだけなんだぜ?」
「最期の選択になるかもしれないしな。後悔だけはさせたくないな、喩え敵であっても」
コギトエルゴスムのまま朽ち果てるのも哀れだと、ディーン・ブラフォードは漆黒の双眸を細める。
「ローカストの戦士達の生き様は嫌いじゃねぇ。かと言って、何がなんでも生きろって押し付けるのも、な」
未来は生き残ったローカスト達が自分の意思で決めて欲しい、と神野・雅は思う。
「定命化は不幸ではない。些細に嬉しさを感じる、大切な者を守りたい愛も幸せだ」
ルビーク・アライブは、彼らとの未来はあると信じたい。
「背負っているものもあるだろう。それを俺達ケルベロスに分けて欲しい。どうすれば解決するか一緒に悩ませてくれ」
「何だかんだで地球の民は懐が広いよ! 味方はこんなにも大勢いる。困ったら頼ってくれ」
共に生きてくれたら嬉しい、只それだけの身勝手な理由とサイファ・クロードは嘯く。
「俺は最近ケルベロスになったばかりでさ。でも、皆に受け入れて貰えた。こんなにも沢山、お前等を案じてるんだ。きっとさ、お前等の事も大丈夫と思うぜ」
「地球を愛してくれ、なんて多分よく分かんないとは思うよ。ただまぁ、君達を何とか救いたいと思って、色々と考える人達はいるんだ」
赤月・援の言う通り、集ったケルベロスを眺めて九石・纏は黒の瞳を細める。
「そんな彼らだけでも、信頼してほしい。好意を抱いてほしいと、願うよ」
●様々な想い
伝える方法も様々。接触テレパスで直截訴えようとする者もいる。
――あなたの為に紡いだ歌を歌います。
コギトエルゴスムを包むように優しく触れるロゼ・アウランジェ。世界の優しさや美しさ、温もりと希望を歌に込める。
――ここまで同胞を殺しといて、あんた達には生きてほしいってのは只のエゴかもしれないのよさ。
それでもこのまま死を待つより残された時間をどう生きるか考えてほしいと、雛祭・やゆよは思う。
――あのアホ……アポロンには散々辛い思いさせられたし、余生は穏やかに過ごして良い筈だわさ。
1度は共存を諦めたワルゼロム・ワルゼー。だが、ローカスト調査隊は見事5人のローカストを救い、道を繋げた。
――諦めない限り、道はある、きっと!
だから彼女も諦めない。ローカスト達と手を取り合うその日まで!
「ねぇ、死ぬの怖い?」
植野・陽子は、言葉と一緒に接触テレパスを使う。
「ボクも怖い……でもね、死んで終わりじゃない。後に続く命に生きた証を託して『生き続ける』。それを綺麗と思ってくれたら嬉しいな」
――ローカストの仲間を護りたいなら、地球を愛する事を考えては? 仲間になれれば心強いけど、無理にとは言わない。
伝えたい事は伝えた上で、八咫烏・那智は彼らの意思を尊重したいと思っている。
――地球を愛せるかどうか不安か?
ククロイ・ファーも、触れた掌から想いを伝える。
――こうして敵だろうが救いたいと思うような優しい奴らがたんまりいる星だ。まずは俺達から好きになってけばいいんじゃねえかな。
「話を聞けと言ったけど、寝ろとは言ってないぞな」
ソナテウのコギトエルゴスムを突っつくノーザンライト・ゴーストセイン。残った彼らには強く、生きて欲しい。
「元デウスエクスでも、どうとでもなる。わたし達は歓迎するぞな」
個々のローカストへ話し掛ける者も少なからず。最も多かったのは、慈愛幼帝アリアンナだ。
(「貴女と話したい、共に遊びたいと思う者が多いのだな」)
警護するレーグル・ノルベルトの前で、次々と想いが注がれる。
「アリアンナ王女、あなた方に時間はもう残されてない」
祈るように深呼吸1つ。フィスト・フィズムは丁寧に呼び掛ける。
「どの未来を決意するか、あなた方の選択に委ねたい」
「個体としてのあなたは、早晩死ぬでしょう。けれど、地球を愛すれば、ローカスト種族の再興という大きな実りを見届けてから、安心して子孫に後を託せますの」
一粒の麦の一節を引用し、ユッフィー・ヨルムンドは豊穣の意味を説く。
――君の顔が見たい。
ダリル・チェスロックはささやかにそれだけを願い、接触テレパスで伝えた。万感の想いを込め、そっと。
「わたしたちはローカストのみんなを受け入れたいと思っているよ」
心を込めて伝える桜庭・果乃。
「イエローシケイダさんも、みんなを助けて欲しいって託してくれたんだよ」
エルネスタ・クロイツァーは、ヒーロー特撮アニメを見せる。
「アリアンナちゃん、わたし、シロツメクサのいっぱいはえてること、しってるんだ。いっしょにおーかんつくろ。ヒーローのアニメも、つづきをみよーね」
コギトエルゴスム5つに平等に語り掛けた空国・モカは、最後にアリアンナへ。
「以前、好物のキャラメルをアリオスさんに託した。貴女に届いただろうか? もっと甘くて美味しい物がある。ぜひ食べて欲しい」
「地球は住み心地のいい星ですよ」
アリアンナの両親についても話そうとしたリュセフィー・オルソンだが、恐らくもっと相応しい人がいる。
「あなたに謝らなくてはなりません。あなたのお母さんを手に掛けたのは私です」
神妙な面持ちで、口を開くリモーネ・アプリコット。
「あなたのお母さんは最期に言っていました。『もう……縛るものは、ない……貴女の道を……生きなさい』と」
これから、仲良くなれると信じたい、守りたいと、リモーネは切々と語り掛ける。
「君には恨む権利がある……けど、ごめんね。彼女を討った事を謝る訳にはいかない。謝ったら、彼女の誇りと覚悟まで侮辱する事になる」
同じくアリアと戦ったエリシエル・モノファイユの言葉はリモーネと対照的。だが、伝えようとする心は似ているだろう。
「アリア……命尽きる最期の時まで貴女の事を思って、敢えて修羅の道を選んだわ。アタシはその思いを踏み躙りたくない」
一緒にアリアの最期を告げたリリー・リーゼンフェルトは、アリアンナは生きてほしいと願う。
グレッグ・ロックハートはアリアンナの父、アリオスと対峙した。
「俺は、一族の英雄らしく矜持と誇りを示して逝った姿を偽りなく伝える責任があると思いここに来た」
アリアンナにも、自らの意志と矜持を以て答えを出して欲しい。
「この星は、貴女にとっても故郷なのですから」
沢山の甘味を携え、旋堂・竜華はアリアンナへ語り掛ける。この地球の事、自身の事、お互いを知る事が1番と思うから。
かつて救えなかったポリリャエラの事を話すルロイ・オッペンリバーは、仮面は着けたまま。
「地球とローカストが仲良くなって一緒になれたらいいねって話したんだ。だから、彼女の願いを叶えてあげたい」
雑賀・真也が見守る中、千軒寺・吏緒は言葉を重ねる。
「今まで散々戦ってきたんだ、互いに遺恨もあるだろう。でも、死んじまったらそこで終わりでつまんねーじゃん。定命化して生き残ったら、そん時また交流しようぜ」
「私は、仲良くやっていくのも強い意志を必要とすると思う」
狂愛母帝の言葉を思い返してアリアンナに語る大神・凛を、ロベリア・アゲラータムは心配そうに見詰めている。
そして、接触テレパスを以てアリアンナに直截呼び掛けんとする11名。
独りぼっちじゃない、仲良く皆で暮らしたいと伝えるアリス・ティアラハート。
豊穣の中、平和で意義ある生を送って欲しいとミルフィ・ホワイトラヴィット。
「アリアンナ、あなたのご両親は、僕達にあなたを託してくれたんだと信じている」
「アリアは『アリアンナ個人』の幸せを願っていた。だから俺は『ローカストの代表』でなく『君個人』と友人になれたらと思う」
「友達になりたいけど、ならなくてもいい。あなたが生きていてくれたら、それで良い」
新条・あかりと玉榮・陣内は補い合うように言葉を繋ぐ。
「きっと『あなたの誕生』そのものが、掛替えの無い奇跡なの」
リューディガー・ヴァルトラウテに寄り添うチェレスタ・ロスヴァイセは、未来の『親』の立場から、親が子を想う気持ちを伝える。
「最期の瞬間まで『誇り高き部族の長』だった彼らの想い、希望は、君に託されている」
アリューシア・フィラーレは、互いを思い遣れる優しい人と手を取り合い、共に在りたいと思っている。
――約束した。アリアンナ、君はひとりじゃないよ。
その言葉通り、ノル・キサラギはコギトエルゴスムの傍から離れない。アクエリア・アップルゲイトも、石の傍らに寄り添っている。
――ボクの大切な友達が、体を張ってアリアンナちゃんを救おうとしたから、最後まで一緒に生きる道を信じると決めたよ!
自分が自分らしく、でも、ちゃんと大切な仲間と一緒に生きていく。そんな関係を作ろうと、ゲリン・ユルドゥスは優しく囁く。
――おいで、アリアンナ。一緒に幸せを見つけよう?
それはフェイト・テトラが願う平和な日常の中に。
――装置のヒールを示唆した働きアリのマイナーは、ローカスト生存の影の立役者だろう。
「あの戦いの中でわたし達の声を聴いて、想いを信じてくれて有難うございました」
未来への道を繋いだ彼女に敬意を表するシィラ・シェルヴィー。やはり感謝を述べ、セット・サンダークラップも目覚めを願って呼び掛ける。
「ここには戦いを強いる者はおらず、豊かな緑があって、これから勝ち取る平和があります。地球で一緒に生きましょう」
「おれも、地球のコトを話そうと思って。おれ達が住んでる国のヒトはキミと同じですんごく働き者なんすよう!」
武器はちゃんと手放して、コギトエルゴスムに話し掛けるベーゼ・ベルレ。
「よう、マイナー。あの時はブン殴って悪かったな」
荒っぽく詫びたドールィ・ガモウは、マイナーの生きる覚悟には応えたいと思う。
「お前の『声』を聞かせてくれよ。お前の言葉で、お前の意志を。待ってるぜ」
マイナーの宝石を抱え「気力溜め」で太陽の神気を送り続ける草火部・あぽろ。
「俺もこの星の太陽を、日向ぼっこの楽しみ方を教えるって言ったしな。約束は守らなきゃな、にひひっ」
「この国には『蟻葡萄』って名前のジュースがあるのよ。蟻が寄ってくる位に甘い葡萄……面白いでしょ?」
マイナーに地球の面白さを語るイシドラ・エスクデーロ。
「色んな人が生きているわ。皆が精一杯生きている。その尊さを少しでも感じられたら……胸を張って、この地球で生きていけるわ」
ローカストと幾度も戦ってきた槙野・清登は、自分達と同じ「ただ生きようと必死な命」だと思った。
「いきなりこの星全てを愛せ、とは言わない。せめて、 今、目の前にある多くの手は信じてほしい」
母星レギオンレイドへの道をまだ諦めていないというレッドレーク・レッドレッド。
「そのいつかの為に、ローカスト達の文化を後世へ残す役目が必要だとは思わないか」
話が聞きたいと、彼はマイナーの石へ声を掛ける。
「一緒に、ここで、暮らしてみませんか」
かつて差し伸べられた手を、今度はフローネ・グラネットが差し出す。
「皆友人になりたくて、来たんです。どうか、怖がらないで」
「マイナーさんは、阿修羅クワガタさんはご存知ですか?」
マロン・ビネガーは彼の仲間の、強くて優しい熊蜂の少年と戦い言葉を交わした。
「友達になれそうだった彼との、最後の約束です。彼が守ろうとした仲間……貴方達を友として愛させて下さい」
マイナーのコギトエルゴスムの前に立ち、カルナ・アッシュファイアは呼び掛ける。
「地球の奴等は必ず受け入れてくれる。お前らが生きる事を望んでいるヤツがいるって事も忘れないでくれ」
「あの時も言ったがな、有限もそれ程悪かねェよ」
情に絆されたと嘯き、ローデッド・クレメインスはもう少し生きてみないかと誘う。
「しがらみはすぐには消えないかもしれねェ。けど、この星で生きるなら、もうあんた達は敵じゃない」
「とても苦しくて怖かったろうに、ケルベロスを信じて、応えてくれてありがとう」
ペコリと頭を下げる三鹿毛・そら。
「まだまだ地球は恐く感じるかもしれへんね。けど、どうか信じて……必ず守るから」
――白いモフモフが目を引く虫天・クロス・桑子も今は硬い石でしかない。
「地球はね、楽しいのよ。夏は暑いけれど、氷が美味しくてね」
月見里・カヤは真っ先に語り掛けた。あの時の思いを、嘘にしたくない。
(「阿修羅クワガタさんの仲間とは、話こそ出来たけど……虫天は少しは信じてくれていると思いたいね」)
カヤを見守るディクロ・リガルジィの瞳は優しい。
「綺麗な色でしょう? 紫陽花は土によって色も変わるんです。不思議ですよね」
藤守・景臣は夏の花を虫天の石の前に広げて見せる。
「もう少ししたら、太陽に向かって咲く鮮やかな向日葵を……説得に応じてくれた皆にも」
地球の美しさを伝えるロジオン・ジュラフスキーは、改めて誘う。
「貴方と相対したケルベロスの中には、私の友もいました。その友も交えて話がしたい。美味しい紅茶と共に」
「武人肌とお見受けしたわ。共に戦う事で、愛というか……絆が得られないかしら」
浜咲・アルメリアの言葉にまだ返答はないけれど。
「ここで死ぬのは容易いわ。だからこそ、あなたは同胞の為に生きて」
虫天が笑っているように、何故か感じた。
「ヴィヴィアンはどうしたい?」
「一緒に生きたいよ」
水無月・鬼人の問いに、ヴィヴィアン・ローゼットは躊躇なかった。
ローカストを許せない人はいる。それでも彼らに生きていて欲しい。
「桑子ちゃん達が笑って生きられるように、力になりたいって思ってるよ」
「桑子、あんたは地球で興味深いものはあるのか?」
旅団『日進月歩』の1人、星詠・唯覇は協力は惜しまないと語る。
峰岸・雅也としても共存したい。交戦の意思を解けば仲間になれるのだ。
月詠・宝は、生残りがローカストの祖となり子孫を残し、種族を残して欲しいと願う。
――白カマキリのソナテウは、かつて地球の人間との和平と共存を夢見たという。
「確かにローカストは侵略者だったよ。だが、同時に誇り高い戦士だった」
無関係の一般人を見逃すなど、神白・煉はローカスト以外に知らない。
「戦いの中で俺らを強敵(とも)と挑んでくれたお前らの、生きたいって気持ちは尊重してぇんだ……生き延びろよ、ソナテウ」
「愛……学者肌の貴女には理解し難いでしょうね。でも、愛されない者が他者を愛する事なんて出来ません」
だから、わたしが貴女を愛する、と神白・鈴は宣言する。
「一緒にお食事しませんか。貴女の研究の話とか聞いてみたいです」
「うん、友達……なれたら。きっと……楽しい、よ」
訥々と頷くフローラ・ファウファウ。
「研究……私も、少しだけなら……手伝える、かも」
「この地球は人も土地も自然も、時間でさえ何1つとして同じものはない。お前の興味を惹き付けるものは必ずある」
月宮・朔耶は、森羅万象の多様性を謳う。
「ソナテウちゃんは頭がいいから、色んな事難しく考えちゃうのかな? 俺みたいに『なるようになる』って思えば楽だよね~」
有限は怖い事じゃないと、ルア・エレジアは軽やかに笑う。
「ねぇ、ソナテウ……もう分かってるんでしょ? ケルベロスも人間も面白いでしょ?」
シュメルツェン・ツァオベラーは静かに声を掛ける。好奇心も知識欲も旺盛な彼女が、かつての夢を叶えると信じて。
――バッタのローカスト、アーマードヒーローは正々堂々の闘いの末、コギトエルゴスムになった。
「ヘイ・ユー! おたく相当カッコ良かったそうじゃニャーですか。ドン詰まりで『拳で決めよう』とか、マジ胸熱っスよ!」
黒斑・物九郎の言葉に、大いに頷く上里・もも。
「私もファンですかっこいい!! 起きてくれよ、話してみようぜ!」
「玉ころのまんまじゃ、寧ろ変身装置のアタッチメントでしょうわ!」
「……まあ、僕も君が凄く格好良いと思ったよ」
賑やかな2人に続き、不銹鋼の酒器を石の前に置くスプーキー・ドリズル。
「もし君がこの星のヒーローになれたら、きっとあっという間に、子供達の人気者だ」
「俺が戦ったローカストもかっこよかったよ、武人て感じがして」
ローカスト達と酒を酌み交わしたいと、シド・ノートも相好を崩す。
「命あるものは何れ死ぬけれど……自分がしたい事を沢山見付けて、最期は笑って欲しい、心から願うよ」
「日本にもな、昆虫みたいなヒーローがいるんだよ。お前にも、そんな恰好いい役割でいてもらいてぇ」
地球の美しさ、人々の営みを伝える結城・八尋も、ヒーローの再生を願う。
「うん、今度は守る為のヒーローであって欲しいかな。アリアンナさん達を」
コギトエルゴスムにそっと触れる影渡・リナ。地球を愛して貰える切欠となればと。
「そちらの目的は、生きる為のグラビティチェインであって我々の命ではない筈。ヒーローの仕事は戦い続ける事でも、命を賭けて散る事でもない。 故郷を、そして命を守る事。戦わず済むに越した事はないよな?」
理路整然と語り掛けた久遠寺・眞白は、チラと肩越しに伺う。
「ローカストは生き残るのに必死だったのであって、悪人じゃないぞ。話せるんだから虫じゃなくちゃんと同じ人として扱うべきだ」
「ローカストは仲間を思いやったり助け合う事が出来るんだよ。太陽神アポロンは倒された。酷い命令する奴は、もういないんだから」
声高に主張する風鈴・響に、大いに同意する。白銀・ミリアも凜と頷く。
「全てでなくても、受け入れた奴らがいたから、この地球には沢山の種族が共存してるんだ!」
共存の切欠に、ケルベロス運動会を推す3人。そのアイデアは少なからずのケルベロスが挙げているが……織戸・来朝は眉を顰める。
(「健気な女の子は応援したくなるけれど」)
「助ける」事にのめり込む響が危なっかしい。善良も邪悪も居たのはローカストも同様で、過剰な美化は反感も買うだろう。
「俺は、俺達は……ケルベロスの声に応えてくれた5人の勇気と情に、報いたい。略奪は事実。だが……応えてくれた彼らなら、略奪した奴らと違うと、示せないだろうか」
「いい奴悪い奴がいるのは何処も同じ。少なくともこの5人は、こっちの話を聞いてくれた……ここで生きたいと思ったって事でしょ?」
ディークス・カフェインの言葉もある意味危うかったが、聞こえてきた二藤・樹の言葉にホッとして、現実的な視点を提示する来朝。
「まあ、ケルベロスが『用済みを処理する集団だ』なんて印象は避けたいわよね」
「少なくとも、ケルベロスが守る者か滅ぼす者か、認識を改めるいい機会にはなるね」
嶋田・麻代は肩を竦める。定命化を拒んだとして数の差は圧倒的。ローカストの絶望的状況は変わらない。ならば、共存を願う者がやり尽くしてからでも遅くない。
守屋・一騎の意見は、思春期特有の潔癖さが窺える。
「共生を望むなら、ケルベロスにも覚悟が必要かと。傷付けられたヒト達の怒りや嘆き。脅威が身近にある不安や恐怖。それを背負ってもローカストを愛する覚悟が」
だが、強い言葉は時に反発を生む。不穏な空気を感じ、斎藤・斎は無言でコギトエルゴスムに触れる。
――ローカストの生存者様へ。お願いです。定命化を受け入れないで下さい。あなた方の為に、地球の護りを割る事は出来ない。
その意見自体が更なる軋轢を生む。自覚しているからこそ、接触テレパスで伝えた。
――力なき命を生かすか。かつての敵を殺すか。どちらの意見を持つ者も、互いを敵視しています。今他のデウスエクスに攻め込まれたら……。
「もしかしたら、他のデウスエクスも俺達がどうするのか見てるんじゃねえのか? こっちの出方次第で、あっちも変わってくるかもな」
芹沢・響の言葉は、議論が再燃しそうになった場のクールダウンになっただろうか。
「皆の想いを無駄にはしない、差し出された手を離さない、それが地球に住む人の愛だと思うよ」
仕切り直し。地球の音楽を流し、長丁場に備えて用意した差入れを配る鮫洲・蓮華。音楽や差入れから、ローカスト達に地球に興味を持って貰えたらと考えている。
同様の考えのケルベロスも少なからず。嬉々として地球の良い所を話し始めるアクレッサス・リュジー。
(「ローカストは飢えて地球にやってきた難民みたいなもんだし、出来る限り助けてやりたいよな」)
「地球には、地球そのものが作り上げてきた自然や人が生み出した文化が、沢山あるんだ。まだまだ綺麗な景色や美味しい食べ物を、君達にも知ってほしい」
だから、一緒に生きたいと、思いの丈を伝える燈家・陽葉。
「美味しい食べ物も、素晴らしい景色も、感動出来る映画も、生きていてこそよ」
是非とも地球の素晴らしさを知って、定命化を受け入れて欲しいとアリス・セカンドカラー。掬えたモノは大事に。
「見えるかな? 伝わったら嬉しいの」
タブレットの画像を次々見せるフィアールカ・ツヴェターエヴァ――自然の風景、世界中の街並み、そして、フィアールカが生まれた時の写真。
「安直かもしれませんが、花と甘いお菓子なら気に入って貰えそうだと思いましたー」
花と菓子を持ち込み、朴実・木蓮は語り掛ける。
「地球と地球に住む人達が産み出した物を切欠に、この星を好きになって欲しいですよー」
北郷・千鶴達、旅団『花宿』の3人も地球の様々を実物や写真を持ち込み紹介する。
「命は限られても恐怖ばかりではございません。幸いに満ちた日々が在るのです」
吉柳・泰明は人々の生活や平穏な日常の在り方を語る。長らく関わってきた種の存亡――まだ力になれる事があるならば、最後の最後まで手を尽くしたい。
苦しみの果てに消え行く命を、もう見たくない――卯京・若雪はその一心で、イベントの記念写真や沢山の甘味から地球に溢れる小さな楽しみや幸を示す。
「まずは好きにならなきゃ愛せないよ。だからね、僕は僕の好きな物持って来た~」
屈託なくオニギリを出す水守・蒼月。少しでいいから、地球を好きになって欲しい。
榊・凛那はと六道・蘭華は、プロジェクターを用意する。
「実際に一緒に見られたらって思うんだ。どうかな……?」
例えば、京都・嵐山の渡月橋付近の山河映像、ブラジルの草原地帯、セラードの蟻塚やヒカリコメツキで光る蟻塚、等々。次々と画像を見せていく。
「想いと共に造った菓子を囲んで語らう。そんな穏やかな時を共に、と思いますの」
最後に蘭華お手製羊羹をコギトエルゴスムへ見せながら。
「この世界のおやつを持ってきました。美味しい物も、楽しい事も一杯あります」
バスケットを抱え、笑み満面のミストリース・スターリット。
「楽しく過ごして、ぼくたちとも仲良くしてくれたらうれしいです」
「お菓子の他にワクワクする出来事もあるから、是非自分で聞いて見て欲しいな」
そろそろ自分を優先して良いのだと、ヴィルフレッド・マルシェルベは思う。
「ああ、砂糖をふんだんに使ったお菓子を、初めて食べた時の感動は忘れられないな」
ルーク・アルカードは、他にも開催の近いケルベロス運動会について楽しそうに説明する。
「他にも沢山の楽しいイベントが待っています。退屈しない事は保証しますよ」
自然の妙も、賑やかなお祭りも。一緒に楽しもうと白嶺・雪兎は慇懃に誘う。
「お祭りに参加するのも楽しいだぁよ。美味しい物もいっぱいあるだ」
銀山・大輔の弾む声は、地球でのお楽しみをしっかり伝えているに違いない。
「地球には色々な知識や技術がありますよ。是非一緒に色んな事をしてみましょう」
メイセン・ホークフェザーはローカストの文化にも興味津々だ。
美味しい食べ物に面白スポットの写真、円城・キアリは沢山のお土産を持ってきた。
「前にアリオスにも伝えた事、もう1度きちんと言うわ。よかったら、わたしと、わたしたちと、友達になって下さい」
「私はローカストが好き」
真正面の言葉を、近藤・美琴は言う。
「美味しいご飯のお店も、景色の綺麗な所も、住み易い所も。幾らでも案内するからさ」
ねぇ、生きてよ。生きようよ、一緒に――。
「まだまだ貴方達には見て欲しい事、知って欲しい事が沢山あるんです」
日本だけでも、雲上の城や輝く凪の海、夏の夜祭を飾り立てる大花火。世界には大瀑布や氷で出来た極寒の大陸だってある。
「不死を振るわす者として、貴方方の心を震わす事は出来ましたかね?」
悪戯っぽく笑む牧野・春の肩を叩き、ウィセン・ジィゲルトは語り掛ける。
「少なくとも俺達は、お前達とこれからも歩んで行きたいと思ってる」
様々な声を聞いたローカスト達は、何を感じるだろうか?
「不死の終わり、お前達はどうする?」
岡崎研究室の面々は、手分けしてコギトエルゴスムに語り掛ける。
オルガ・ヴィヴァルディはアリアンナへ。
「前に酷い事言ってごめんなさいね」
貴女の周りには、貴女の事を思って守ろうとしてる人達がいる。
「だから、応えてあげて。殆どの人達が貴女を貴女として必要としているわ」
御手塚・秋子は虫天・クロス・桑子へ。
「何て言うかね、私も愛って判ってないんだ。でもね、好きだなーとか、興味あるなーって事は沢山あるの」
例えば、昔の人が描いた絵とか、お化粧とか、後は戦う事。
「食べ物なら金平糖とか、チョコレートとか……一緒に遊ぼうよ。それでプリ画撮りに行こう!」
「ソナテウさん……ごめん」
御手塚・秋彦は謝罪を口にする。
「貴女達を殺したく無かった。でも、何が刺激するか判らなくて怖がらせた。本当にごめん」
苦しんだ分、楽しく生きて欲しいから。色々な地球を見せたいと世界遺産の写真集を広げて見せた。
「快楽エネルギーやサキュバスミストは、グラビティ・チェインとは違うよね」
定命化のやり方は一概には定義出来ない。代わりに接触テレパスで、地球に対する様々な楽しみや愛おしさを直截伝えるシアナ・ヨーク。
(「愛の切欠は興味だ……お前達を守ってる奴らはそれを示してくれる」)
岡崎・真幸の切欠は「音楽」。シアナの踊りに琴を弾き歌い、世界には様々な音楽がある事を伝える。
――――!!
「誇り高きローカスト達の歌『インセクトソルジャー』、聞いてくれや」
突如響き渡るギターの音。泰山・創斗は思いの丈を歌い叫ぶ。
「争いなんて下らない、ボクのロックを込めた歌を聞くデース!」
愛用のギターを掻き鳴らし、シィカ・セィカもあらん限りの楽しさを込めた一曲を披露した。
「彼らからも歌を教えてもらいたいデスネ」
アップル・ウィナーも、思いを乗せて歌う。生きる事を恐れず歩み続けるように。未来を思い描いて共に歩む意志と希望を抱いてくれるように。
その間にも、歌詞カードをケルベロスらに回していく愛柳・ミライ。
「ちょっとでも素敵な明日の為に、皆で歌いましょう?」
次々とケルベロスのテーマソングが流れ出す。
「さぁ、ローカストの皆! 私達の想いと願いの歌を聴けーっ!!」
シルヴィア・アストレイアが音頭を取り、合唱の輪が少しずつ広がっていく中――天宮城・蒼希は静かに語り掛ける。
「心を持つ者は一枚岩じゃない。だから、人間を愛する必要も好きになる必要もない……ただ、この地球を愛して欲しい」
人を好きになって欲しいと願う者がいれば、地球を愛してくれれば良いと言う者もいる。その多様性が、人の心というものだ。
「もし、地球を、美しいと少しでも思ってくれたなら――」
それは、唐突な変化。中央のコギトエルゴスムから光芒が迸るや、次々と他の石からも溢れる光の渦が、ケルベロスの視界を白く染めた。
●ローカストの決断
「まさか……」
ミゼット・ラグテイルは、思わず目を凝らす。
(「もし、定命を成したなら、その愛とは何だったのか、教えてくれないか。僕らはもう、忘れてしまったから……」)
漸く象が結べば、コギトエルゴスムの代わりに立つ5体のローカストの姿が。
(「まだ、油断出来ないね」)
身構えるローレリーヌ・ピュージェ。グラビティ・チェインが枯渇したまま、彼らが暴れ出せば、今度こそ引導を渡さねばならない。
――皆さん、ありがとうございました。
だが、感謝を述べたアリアンナから、ローカストの姿が更なる変貌を遂げていく。
硬質な昆虫の外殻は、柔らかな人肌に。複眼具えた昆虫の頭部は、人のそれに。額に触角があったり、背に翅があったり、手足に甲冑めいた甲殻が残ったり、幾許かの名残はあるが、まるで蛹から成虫に変化するように――劇的な人化だった。
「ケルベロスはん達、ホンマおおきになぁ」
若干釣り目の青年は、背の蛾の翅からして、虫天・クロス・桑子か。
「ふむ……身体が変容した事で、戦う力も喪われたようですね」
落ち着き払って事実を述べる金瞳の色白の女性は、ソナテウ。
「それで一緒に戦えとか言わないさ。戦うのは俺たちの仕事だ」
ただ穏やかに暮らして欲しい――八島・トロノイの言葉に、表情を和らげる。
「戦えんでも構わんさぁ。今度こそ、平穏に生きたいべ」
対照的な地黒の肌でのんびり黒い双眸を細めた女性は、働きアリのマイナーだろう。
「うむ、地球の人々が許してくれるならば」
青と白のライダースーツを着た精悍な青年――アーマードヒーローは、判決を待つようにケルベロス達を見回す。
「アリアンナさん」
円らな瞳も愛らしい美少女に、ローカスト調査団の提唱者として春花・春撫は呼び掛ける。
「わたし達ケルベロスには、ローカストの皆さんを受け入れる準備があります」
拳を交えたからこそ、熱い思いや生きたい願い、仲間達を大切にする気持ちが痛い程、伝わってきた。
「わたし達、新しい仲間になれないでしょうか?」
ふわりと微笑むアリアンナ――ローカストを救いたいと願った優しい呼び掛けと自由意志の尊重を溢れんばかりに注がれて、厳しい意見をも糧として、5人は定命化を受け入れたのだ。
「どうぞ、宜しくお願い致します」
丁寧に礼をしたアリアンナに続き、4人も深々と頭を下げる。歓声がホール全体を揺るがす。
「これから手を取り合って……うぅ、良かったなぁ」
ハンカチを握り鼻を啜るレヴィン・ペイルライダー――感動の一幕の後、お祭り騒ぎになった。
「さぁ、お近づきの印にご飯を食べましょう! 取り敢えず肉! です!」
赤い瞳を期待に輝かせる一津橋・茜。世の中、美味しい物は一杯ある。 肉とか! 肉とか肉とか!
「よっしゃ! そうと決まれば宴会だー!」
快哉の声を上げたカザハ・ストームブリンガーは、何処からともなくバーベキューセットをセッティング。早速肉だの野菜だの焼き始める。
「オレの家じゃ、新入りを迎える時はささやかだけどお祝いをするんだ」
素朴な家庭料理を運んでくるレテイシャ・マグナカルタ。
「これからは食べる楽しさ、美味しさも味わってほしいからな」
「俺も1人の地球人として、心から歓迎するっす……そういや、ローカストって何食べるんすかね?」
ルイン・カオスドロップは取り敢えず、スコーンと水筒の紅茶を5人に振舞う。
「好きな食べ物があれば教えて欲しいわね」
5人の体調を気遣う四条・玲斗は、徐に目尻を和ませる。好物なら、栄養だけでなく心も充たせるから、と。
「ああ、腹が減ってる奴にはどんな料理でも出すぞ。何が良いか、注文は欲しいけどな」
にやりと腕まくりするスレイル・フォート。折角拾った命。身の振り方は満足するまで考えれば良いと思う。
「ローカストの方々は、グラビティ・チェインに飢えた後ですから……喉を通り易く、体に優しいお食事を」
お粥が良いかと思案するラズ・ルビスの鼻腔を擽るスパイシーな香り。
「普通のカレーだといきなりは重いし、普通のおじやはちょっと味気ないかな、って」
牧島・奏音が仕込んでいるのは、特製カレー風味おじや。溶き卵にチーズもどうぞ。
「食事は日々を生きる糧だからね。定命化も……そんなに悪くないでしょ?」
「折角、お互いに歩み寄れたんだからっ! 蛾王の分まで生きて欲しいっ!」
斎王・アンリは景気よくお菓子を撒いている。
「定命化してすぐって、まだお腹空いてるかな? アリアンナちゃん、お菓子好き?」
戸部・福丸は早速好きなお菓子を持ってきている。
ビスマス・テルマールのの差入れは、さんが焼き。アリアンナには特別に梅のなめろうを作って見せる。
「甘酸っぱくて美味ですよ」
ネリシア・アンダーソンは、コギトエルゴスムの前でアピールしたワッフル作りを実践。
「甘い物が好きって聞いたし……」
早速アリアンナに メイブルシロップ掛けのワッフルを振舞っている。
「私も、口に合うかは判りませんが美味しい物を用意しましたよ! まず大いに食べましょう!」
調理場を整えてきた餓鬼堂・ラギッドも甘味をアリアンナに勧めれば、佐藤・終紅は旅団のアンパンを差入れ。
「甘い物なら食えるか? アリアンナはキャンディ食ってただろ?」
ちなみに、アリアンナがローカストの王になるかは彼女次第だろう。定命化した彼らに尋ねたい事も、試したい事も、交渉したい事もあるだろうが、この場では無粋というもの。地球に生きる仲間が増えた事を、今は純粋に喜べば良い。
雪村・達也はこの期に及んでのローカストへの狼藉を警戒するが、彼のように最後まで油断しない者がいる限り、大丈夫だろう。
「生きてさえいれば必ずや何かを為せる筈だ。それが何かまでは判らんがね」
やはり巡回しながら、キルロイ・エルクードはローカストに声を掛ける。
「犯した罪は消えないでしょう。ですが、私はその新たな生を祝福します」
「好きになった地球から、自分の事が好きになって貰うにはどうしたらいいか、考えてみてね」
シルク・アディエストと葵原・風流の言葉に、ローカスト達が考え込むのも束の間。
「初めまして、だな」
マクスウェル・ナカイは『マスタービースト』に神造された身ながら、その経緯を知って尚、ある地球人が養子に迎えてくれた体験談を話す。
「今度は俺達が受け入れさせてほしい。君達の感情に寄り添えねぇかな?」
夜船・梨尾は、1つの願いを口にする。
「あの……自分と亡くなったローカスト達の墓参りをしませんか」
亡くなったローカスト達の事を忘れないように、慰霊碑を作って。
「この地球で、一緒に暮らせる隣人になって欲しいです!」
「ああ、もし死神がお前らの仲間の魂をサルベージしたら、そん時ゃ俺がしっかり眠らせてやんよ」
軋峰・双吉の言葉に、胸を突かれたような表情になる彼方・悠乃。脳裏に浮かんだ案件も死神関連。希望ではなく寧ろ……。
(「本当に、5人で最後なのですね……」)
「あたし個人としてローカストのお前さん達に聞きたい。種の存続とか、身分とか関係無く『今、何がしたい?』」
コギトエルゴスム――その意味は、我思う故に我あり。
「お前さん達の自分ってヤツを、教えてくれよ」
音無・凪と談笑するアリアンナに、クロエ・ランスターは思い切って声を掛ける。
「アリア……私達が……殺した。ごめん、でも……言わないと、いけない……そう思った……から」
ウサギの縫ぐるみを抱き締め、たどたどしくも懸命に。
「私、嫌っていい……でも、好きな人……きっと、見つかる……だから……」
「アリアンナさん、わたくしはあの日、お父上の最期に立ち会いました。お父上にお伝えした言葉を、あなたにも……地球では、誰もが自由です。大きな力を奪い合わず、分かち合える星。この先の未来はあなたの心のままに」
「俺も、アリオスの最期を見た。最期まで誇り高く、長たる者として散った……殺したのは俺達だ。責めは受け止めよう」
少女の父の最期を語る千手・明子とアジサイ・フォルドレイズ。
「私も、あなたの騎士を救えなかった」
飢えた彼らの尊厳を守る為に刃を向けたユーシス・ボールドウィン。
「こっちの事情でしかないけれど、それでも、謝っておきたくて」
「俺も仲間や騎士達を……ごめんなさい。どんなに勇敢で、あなたを守ろうとしたか。いつか話させてほしい、です」
ガルフ・ウォールドは両耳ごと項垂れている。
アリアンナは静かに頭を振る。あの時は仕方のない事でしたから――そう呟いて、寂しげに微笑んだ。
「ローカストも此処まで数が減ると流石に哀れデス」
「それでもまだ生きたいという想いは、応援しましょう」
成り行きを静観していた試作機・庚の呟きに、苦笑するリコリス・ラジアータ。
「まあ、グラビティ・チェインの枯渇がそもそもの原因デスし、選ぶ手段がなかったのは同情出来るデスけど。これまでやってきた事を考えると、何とも言えないデスね」
庚の言う通り、ケルベロスでも複雑な心情の者がいる。一般人への説明も気になる所。「後は……これからの具体的な衣食住を何とかしねぇとな」
「自分は、適度な距離が必要だと思うっす」
絆の大楯を見るアドルフ・ペルシュロンの表情に、苦さが混じる。
「困った時には声を掛けられるけど、他所様に迷惑をかけない距離が……最終的に、人もローカストも皆纏めて幸せなら、楽しくていいんじゃないっすか?」
「どこかで静かに暮らしたいなら、住家の手配に最善を尽くすが?」
氷鏡・緋桜が請合ったが、陶・流石は思案顔。一般人の周知が大事と考える。
「一般人からすりゃ裏切られたようにも見えそうなのがなぁ」
「外聞が悪いなら我等レプリカントの様に名前を変えるのも良いでしょうね」
マキナ・マギエルの提案に、考え込むジョルディ・クレイグ。
「『インセクティアン』はどうだろうか?」
名称の変更は、彼ら次第だろう。
「ローカスト殿にも今までの事は気にしないで戴きたいが……責められれば、辛いでござろうな」
「説得した人たちの努力、無駄にさせない。応えてくれたアリアンナ達の思いも」
心配そうなフェル・オオヤマと李・小月の肩を叩き、リディア・リズリーンは紅い瞳を輝かせる。
「だったら! 全世界にローカスト受け入れ宣言をしましょう! 応援ソングなんかも作って、盛大に!」
「わたくしがローカスト関連の纏めサイトを作りますわ。今残るローカストは、我々を信じてくれた方々。これまでのように受け入れて戴きたいですもの」
インターネットの情報発信は、若道・咲百合が申し出る。
「ローカスト関連の事件と現状の纏めならやったが」
メイザース・リドルテイカーのお陰で、早く事は進みそうだ。
「形式上でいいので、ローカストとの戦争は終わった事を明確にしたいのじゃな。これで各国のトップ等も安心するじゃろう」
ケルン・ヒルデガントも年齢に違う敏い表情で、対策を意見する。
「『デウスエクスの』ローカストは全滅した、と発表するのはどうロボ? 嘘は言ってないロボ」
リミカ・ブラックサムラの提案も、悪くないかもしれない。
一般人への広報の成果が顕れるには、時間が掛かる。その間に、ローカストが穿った傷が優しく癒えるよう。
「少しは感じてくれてるんじゃないかと思うけど。この星ってシニカル気取るのが馬鹿らしくなる位には前向きな連中が多いみたいでさ」
『海月丸』の一式・要の言葉に、ローカスト達は笑み零れる。
「人々の理解は得ねばなるまい。その働きかけも、我らが頑張るしかないが……私も虫はダメだが努力する!」
喜界ヶ島・鬱金が決心表明した所で、莓荊・バンリはニパッと笑顔。
「地球に住まう方々もきっと、戸惑いつつも迎え入れて下さる。きっと行くべき所に行き着くと、漠然と思っておりますであります」
(「コレでいいんだよな、阿修羅のオッサン……」)
ランドルフ・シュマイザーの脳裏に、あの義侠心溢れるローカストが豪快な笑みを浮かべている。
「……結局、ケルベロスはこの道を選んだ訳だ」
全てを見る覚悟で臨んだカルロス・マクジョージは、今は空っぽのケースを見下ろした。
クオン・ライアートの脳裏を過るのは誇り高き不退転の戦士。
「滅びに抗いながら最後まで戦い抜いたの末の『ささやかな救い』。そんな結末があっても、良いだろう」
ホールの歓声は絶えず――マイ・カスタムは深く溜息を吐いた。
先の戦いで叩き付けられた拒絶の言葉が、未だに胸を抉る。ローカストに向ける言葉も感情も、最早持てないし持たないが……それでも、足を運ばずにいられなかった。今は唯、彼らに後悔のないよう願うのみ。
「『偽善者』だって、命懸けで守るものがある……見たか、エクルド」
悄然としているマイと苦々しく零す久遠・征夫を見詰め、筐・恭志郎は表情を曇らせる。
(「救いたい人達が全身全霊を賭け掴んだ『可能性』の芽は芽吹いたけれど」)
新芽が大樹となるには時間が掛かる。傷心と悔いが和らぐのも。
一方、ロビーで一服する真月・勝も、デウスエクスへの恨みは尽きない。それでも、超えてはいけない一線があると思ったから、警護の名を借りて見守った。
「あいつらに怒られちまうな」
何故か、微笑んでいる妻子の姿が見えた気がした。
作者:柊透胡 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年6月28日
難度:易しい
参加:340人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 97/素敵だった 78/キャラが大事にされていた 28
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