哭き鬼

作者:OZ


 人が転じて鬼になる、という民話は、よく聞くところだ。
 恨み辛み嫉みに羞恥、憎しみ、哀しみ――一般的に負であるとされる感情に呑まれ、その身を鬼へと落とす人。
 そんな『鬼』を、珍しくも祀る神社があると、この女が知ったのは少しばかり前のことだ。
「……あー、テス、テス。録音できてるかな」
 スマートフォンの録音機能を立ち上げながら、女は小さな社を見つめていた。
 真っ直ぐな石畳の奥に、さほど大きくはない鳥居が立っている。そのまた奥には、梅雨めいてきた闇夜の中に薄ぼんやりと灯りを点している、今どきのものらしい灯篭が見て取れた。
「『鬼鎮神社』に到着」
 女はスマートフォンのマイクに向けて、吐息交じりにそう告げる。
「ここの謂われは、正直よく知らない。私が興味をもっているのは、良いものだとはあまりされていない『鬼』を、鎮めている、という字を書く神社だということ」
 素人考えだけど、と女は続けて呟いた。
「鬼を祀る、鎮めるなんてのを同時にしようとするなら……これは鬼門除けなのかも。力のあるものを畏れるのは人間の本能みたいなもので、毒を以て毒を制す、みたい、な――」
「……」
「な、」
 音もなく背後に立っていた気配にぞっとして、女は勢いよく振り返り、言葉を失った。
 女の前に、薄く微笑んだ、それが、ひとり。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 薄く微笑みながら告げられたその言葉と共に、女の胸に突き立てられたのは、鍵。
 確かなまでに心臓を穿ったその鍵は、それでも女の痛覚を揺さぶることなどしなかった。その代わりとでもいうかのように、女は意識を手放すこととなる。
 黒と赤。闇夜の中でも判るその色を纏っていたのは、いつの間にか気を失った女の傍らに佇んでいた、小柄な――着物姿の人影だった。

 九十九・白(白夜のヘリオライダー・en0086)は、討伐依頼の内容を纏めてあるらしいメモを見つめ、ふむ、とひとつ唸った。
「紀伊国道成寺僧写法花救蛇語、ですね」
「……?」
 夜廻・終(よすがら・en0092)が小首を傾げたのを見、白は続ける。
「清姫伝説、って聞いたことありませんか? 女性が蛇になる、鬼になる、といった昔話……みたいなものだと思ってください」
 白の言葉に、少しの間考える素振りを見せた後、終は一言、「ない」とだけ返した。
 まあ、興味がなければそんなものですよねと白は軽く笑って、さして気にした様子もなく、仕事に集ったケルベロス達に向き直る。
「ドリームイーターです。討伐をお願いします。……なんというか、俺がここのところ持ってくる皆さんへの仕事が、偏ってる気がしないでもないんですが」
 話はこうだ。
 埼玉のとある場所に、『鬼鎮神社』という、鬼を祀る数少ない神社がひとつ、ある。そこに『鬼』に興味を持っている女が訪れ、ドリームイーターに襲われ、新たなるそれを生み出す供物にされてしまった。
 故に。
 最早ここから先は言葉にするまでもないだろう。己らの仕事を理解したケルベロス達は、視線を交わして頷く。それを見た白は目を細め、軽く腕を組んだ。
「生み出されたドリームイーターは……そうですね、『清姫』だと思ってください。まあ、富士額の綺麗な女性――といったところでしょう。が、皆さんに、多くの人に害成す存在であることには違いありません。飽くまで、ドリームイーターですから」
 敵は一体。配下はいない。
 手順を踏むかのように『自分が何者であるかを問う』ことを行い、彼らにとっての正しさを以て対応ができなければ、殺す。今までに報告され、討伐されてきたドリームイーターと同様だと白は続けた。
「攻撃手段は恐らくですが、三。平静を喰らうもの、精神を喰らうもの……あとひとつは、傷を抉るもの」
 それまでを黙って聞いていた終が、きず、とぽつりと呟いた。
「まあ、『鬼』、みたいですからね」
「……鬼、は、やっぱり、人ではないんだろうか」
「え?」
 終は視線を下げたまま、ぽつりぽつりと眠そうに言葉を落としていた。
「うらみつらみで、鬼になって。でも、それは、……もとは『人』なんじゃないのか」
 それとも、もう『人』は死んでしまった?
 思いがけない問いのようなものに、白が言葉に詰まっていれば、終は視線を動かし、集ったケルベロス達を見上げた。
「わたしも、つれていってほしい。……ドリームイーターと戦うのは、それほど回数はこなしてない。……けど、足手まといには、ならないから」


参加者
ハチ・ファーヴニル(暁の獅子・e01897)
瀬戸口・灰(忘れじの・e04992)
リヒト・セレーネ(玉兎・e07921)
ドミニク・ジェナー(激情サウダージ・e14679)
森嶋・凍砂(灰焔・e18706)
白峯・暮羽(黒鳶・e29371)
フィーラ・ヘドルンド(四番目・e32471)
苑上・葬(葬送詩・e32545)

■リプレイ


 その闇夜は、どこか甘さを感じさせた。
 心地の良い甘さではない。毒を孕んだ気怠いそれだ。埼玉某所、『鬼鎮神社』――周辺。九名のケルベロス達は、朧月に照らされながらその歩みを進めていた。
「妄念により鬼へと変異する物語は古来より数多くあれど、凡そが女であるのは何故なのだろうな」
 苑上・葬(葬送詩・e32545)は言いながら、彼岸の華を思わせる紅の瞳を眇めた。
「情の深さ、一途さ、貞節への観念故か」
「さー、どーかしらね。貞節なんて流行らないって感じの女子だってたくさんいるから。やっぱり人によって違うんじゃないかしら」
 葬の言葉に森嶋・凍砂(灰焔・e18706)は軽く笑う。
「それに、あたしはあんまり詳しくないから、鬼っていうとステレオタイプなのも浮かぶのよ。鬼に金棒ってやつ?」
「……斯様なものか」
 白峯・暮羽(黒鳶・e29371)が静かに応じた。
「かくあれかし、と民草に望まれ、鬼と相成った……夢喰いか。……哀しき、話だ」
 暮羽は目元を覆う能面越しに目を伏せる。舗装されたコンクリートの地面を高下駄が叩いては音を立てていた。
「それにしても、知り合いが二人もいるだなんて、ほんと嬉しいわー!」
「うん。フィーラも……嬉しい。日本のジンジャ、来たことなかったし。いっしょだと、こころづよい」
 先陣を切って歩く凍砂に、フィーラ・ヘドルンド(四番目・e32471)はゆるく告げた。
「でも、きょうみあったけれど、こういう形でくることに、なるとは……」
 ケルベロス達は足を止める。
 フィーラが視線を彷徨わせては、首を傾げた。
「あれ、キツネは、いないの?」
「……ここは、祀ってあるかみさまが、鬼なんだ」
 フィーラの言葉に小さく応えたのは夜廻・終(よすがら・en0092)だった。
「おに……。悪魔のしんせき?」
「……わからない。悪魔はたぶん、かみさまにはなれないから」
 終は小首を傾げたフィーラにそう告げて、暗がりに浮かび上がるような鳥居を見つめた。
「神様か。……うーん。鬼を、祀る。鬼ってずっと、物語に出てくる悪者としか思ってなかったな」
 リヒト・セレーネ(玉兎・e07921)は興味の色を口にする。
「物語の鬼は退治されるのが大抵だけど、鬼が、元は人だったなら? 鬼を鎮めたら人に戻れるのかな」
「人に戻る、なァ」
 リヒトの言葉を耳に視線を伏せていた終の頭をぽんぽんと軽く撫でつけ横に並び、ドミニク・ジェナー(激情サウダージ・e14679)は視線と共に、持参した懐中電灯の光を投げた。
「誰にでもある感情の果てに、堕ちるもの。まァ、ワシが思うに、溺れる感情は『負』のものだけじゃないンだがのォ。……激情や執着にその身を焦がされた者が行きつく先――」
 ほんの僅かに記憶の奥底が粟立った気がした。
「鬼と人との境界線って、どこなンじゃろう」
「境界線か。そんなものは、本当にあるのかね? 鬼になっても人は人、人が鬼になったとして、それが鬼だと言うのもまた人なんだ」
 瀬戸口・灰(忘れじの・e04992)が言う。
「そういうもンかのォ。……のォ、終。なンでまた、鬼の中の人が死んじまったと思ったンじゃ?」
 ドミニクの言葉に、終は視線を上げる。藤色の瞳はどこか困ったような色を滲ませ、結局終は一言「わからない」とだけ応えた。
 ハチ・ファーヴニル(暁の獅子・e01897)もまた何か思考を巡らせた後に肩を竦め、苦笑するように口を開く。
「望んだにせよそうでないにせよ、鬼なんて、追い求めるまでもないと思うっスけどねぇ。人の世は、どこもかしこも鬼だらけ。気付かないうちに人が転じて鬼となる、なんてのも何ともありそうな話っスし。負の感情なんてきっと誰もが持っていて、それに呑まれるのだってそう珍しい話じゃない。……でもまあ、人に望まれぬ鬼が一匹増えたとあらば、退治しないわけにはいかない、と――あ、」
 語らいながらも歩を進めていたケルベロス達が見つけたのは、石畳に伏せる人影。凍砂が逸早く駆け寄り抱き起せば、意識は有らず眠るように呼吸を繰り返す女性であることが容易く解った。
 ケルベロス達は顔を見合わせひとつ、頷いた。


「清姫、清姫。好きな人に振られて? 嫉妬したんだっけ?」
 凍砂は女性の呼吸を確かめた後、思い出すように視線を泳がせる。
「追い詰めて殺したくなるくらいの嫉妬、か。人を捨てたくなるほどの嫉妬ができるのは、ある意味羨ましいかもね。まあ、殺されたほうはたまったもんじゃないでしょうけど」
 纏っていた外套をそっと意識のない女性にかけてやり、葬は頷いた。
「然り。嫉妬に寄りて殺し殺され、それが通る道理はあるまいよ。激情に囚われるほど一つを貫ける固き信念は美しくもあるがな」
 その言葉を境界とするかのように、空気が変わった。
「――昔に」
 暮羽が祝詞を上げるかのように呟いた。
「……寝物語に聞いた話が、在る。情が深く、其の一途さ故に……化生へと身を堕した姫君が御座した、と」
 浮かび上がる人影の、流れる髪は濡鴉。唇に差された紅はやけに赤い。
 暮羽は視線をまっすぐに、それへと注ぐ。
「人が鬼へと転ずる……奇しくも、此方の社の由来も斉しいものらしい」
 どの地にも、似通った話は在るのだな――。暮羽はそう続けた。
「きれいね」
 フィーラが呟く。
「ねぇ、あなたはひと? うらみつらみで、おにになったの?」
 それは昏い瞳を、ケルベロス達に黙したまま向けていた。
「それなら、うらみつらみをどうにかすれば、ひとに戻れるの? ――戻れないの?」
 幼子のように問うフィーラは、黙したそれに重ねて問いを放つ。応えをしばらく待ったものの、フィーラにそれが戻ることはない。だから。
「フィーラには、あなたはひとにみえる」
 フィーラはそう言った。
 そうして暫くの後に、問いがあった。
 鬼がそれを問うものかは誰も知らない。ただ解るのは、その問いを発するのが夢喰いであるということだけだった。
 灰は短く溜息を漏らす。
「お前は女だ。……好きな相手に手を伸ばして、フラれちまった只の女だ。いつまでも追いかけてないで、さっさと次の恋でもみつけていれば良かったのにな」
「そう。キミは鬼でも人でもない。ただの、ニセモノ」
 灰の言葉を追うように、リヒトが告げる。
「偽物の鬼は、ぼく達が退治してみせる。ぼく達はそのためにここに来たんだ」
 鬼を、人を、――否、敵を見据えたリヒトは、迷いなくそう告げた。


 聞こえもしない錫の音が耳の奥に木霊するようだった。
「……情に殉じた姫君よ。其を依り代にした夢喰いよ。身を焼き焦がさんばかりの思いを、どうかお鎮め戴きたい。――どうか、其処に」
 暮羽が紡ぐは束縛の言の葉。鬼を縛るその蟲毒は、彼がはらわたに孕むそれそのものだ。
「……誰が為に其の身を窶した?」
 葬は一息に間合いに踏み込み言葉を吐き、そして薄く微笑んだ。
(「なるほど、美しい」)
 鬼のかんばせから、燃え上がるような、同時に凍てついたかのような貫かれた意志を、葬は感じ取る。
 葬と同時に間合いを詰めた灰もまた、唇に音を乗せる。
「お前は確かに綺麗な女だが、諦めの悪い女は、男には受けが悪いかもしれないな」
 灰の挑発に乗ったか否か、鬼はその害意を灰へと向けた。
 不可視の衝撃が爆ぜる。
「さあさ、鬼退治と洒落込むっスよ!」
 灰の影からハチが飛び込んだ。時を突くかのように放たれた剣戟、波打つ刃紋が灯篭の灯を受けてぬらりと光る。
「はは、なるほどこりゃまた、別嬪さん。ま、ワシの可愛いさんには負けるがのォ!」
 四肢を穿つ牙を放ち口笛を鳴らし、ドミニクは笑う。
 ドミニクの射撃を援護とし、凍砂が乱暴に斬り込んだ。
「あんたがあの清姫なら、逆に自分が焼かれるって言うの皮肉よね?」
 炎を纏った駆動式の刃でその場を薙げば、鬼が飛び退る。
「させない!」
 リヒトが飛び退く鬼を追った。斬撃にすら成る電光石火の重たい蹴りが、鬼の腕を強かに打ち付ける。リヒトの攻撃を掃うように実を捩った鬼が、着物の袖を踊らせた。
「夜朱!」
 灰の声に応え、灰の頭上に身を預けていたウイングキャットが一声鳴いた。足元を狙う魔力に、鬼がたたらを踏む。
 その隙を更に広げんと、後方から終が援護射撃を放った。
 鬼の目が僅かに歪んだ。その腕が上がる。
 尖った爪が指し示すのは暮羽だ。瞬時に渦を巻いた害意の塊が、暮羽の頭を嫌というほどに強く殴りつけた。
「――、」
 それでも暮羽が能面の下のかんばせを歪めることはない。
(「ここは、せんじょう。……そうか」)
 フィーラの中に、曖昧で朧げな記憶の先がちらつく。
(「そうか。……そうだ、自分はひとごろしだった」)
「フィーラさん、回復お願い!」
 凍砂の呼び声に逸れかけた意識が引き戻されれば、フィーラの脳裏に過った記憶は再び遠のいていった。そこで回復が飛んだ。
「……かく在れと謳われる夢想の、呪詛にも等しきことよ」
 暮羽は呟き、能面の底からまなざしを鬼へと向ける。
 己のまなざしに込められた思いが哀しみのそれならば、己もまた、鬼であるのかと暮羽は自身に問うた。


 薄らとした隈を、己の中の鬼を殺す方法を、ハチは知らない。
(「恨んで、嘆いて、憎んで」)
 休めることなく剣戟を打ち込みながらハチは思う。
(「誰が、鬼か」)
 嘲笑を向けるのは眼前の鬼に非ず。
「――鬼は退治しないとならないっス。けどねぇ……」
 声が掠れた。その先は言葉にすらならなかった。
 絶え間ない攻撃の応酬に、闇夜の中に影が跳ぶ。苛烈な攻撃を加え続けるケルベロス達に、鬼は純粋なまでの害意を向けていた。そう、害意、それだけだ。
「鬼になる程の恋心か。どれだけ重かったんだ?」
 二重の意味を込めて灰は言う。
 鬼に――夢喰いに、その意味が届くのかは判らなかった。
 ほんの一瞬の隙を突かれ、灰の身体を鬼が切り裂いた。刃のような爪が血を散らす。灰の理性を、聞きなれた幻聴が揺らした。
 鳥籠の軋むような、音。
 即座に歪められた理性を解き放つ力がそれを拭い去るも、灰は僅かに表情を歪めた。記憶に焼き付いた女の姿が、目の前の鬼に重なって見えた。
「……嫌な攻撃ですね。大丈夫ですか?」
 不快さを滲ませながらリヒトは眉を寄せた。追撃を攻撃で相殺し、鬼が三度飛び退ったのを見、リヒトは上がった呼吸を整える。
「さァて、そろそろ詰めと行こうかのォ」
「逃げてんじゃないわよ!」
 凍砂の刃と、ドミニクの銃撃が鬼を追う。袈裟懸けに振り下ろされた斬撃が、鬼の身を両断する。それでも血は出なかった。それは鬼が、鬼たる証拠か。
「此岸にはそなたの恋うる相手は既に居らぬ」
 葬が地を蹴る。
 挟むは呼気ひとつ。ぐんと空気が沈んだ。重さ全てを宿し、葬は拳を鬼へと向ける。
「其れ以上、哭くな清姫。追う相手を違えずに逝け」
 鬼は、その言葉を最期に散って消える。

「人の昏い感情は、時々、鬼のようで」
 喰われていた夢が如く、何も残さず潰えた鬼の居た場所を見つめ、リヒトは呟いた。
「でも人は人だ。優しい気持ちが残っていれば、鬼になってもちゃんと人に戻れる……と良いなって思うんです」
「仮に、そうでなかったとしてもな。――人は鬼になるとしても。鬼は神様になれもする」
 リヒトの言葉に、首を鳴らしながら灰が言った。
「例え人を止めたって、救いの道はきっとある」
「救い、のォ」
 ドミニクがそれを受けて呟いた。表情で感情の疲弊を語るような終の頭を、はじまりと同じようにいつも通り撫でつけて、「お疲れさン」とドミニクは言う。
「ワシもなァ。……探しとるよ。ずっと」
「……思い出せないことを?」
「はは、それだけってェわけでもないがのォ。……終、もしもワシが鬼だったとしたら、お前さんはどう思うんじゃ?」
 軽く笑うドミニクと、それを聞く終を見ていれば、視線に気付いたらしい終の眼がハチへと動く。そうして気付いたように、終は言った。
「……ハチ、寝てないのか」
「んっ、そんなに目立つっスかね? いやぁ、鍛えるのに忙しいっていうのも困ったもんっスなあ!」
 大袈裟なまでに苦笑したハチはドミニクのそれを真似るように、終の頭に手を伸ばす。
「終も頑張ってるっスね。……いなくならなくて安心したっス」
 どこまでも優しいだけの声色に、終は俯き、音にする言葉を探しているようだった。頭の上の大きなハチの手のひらをそのままに、終はドミニクの問いに対する答えを口にする。
「……ドミニクが、もし鬼だったとしても、……わたしは、人だったきみを、ちゃんと、知ってるから」
 でも、と言葉は続く。
「……きっと、鬼のきみを見ているのは、つらいんだろうな」
 ところどころに聞こえてくるその会話を耳に、得物を収めた暮羽は鳥居を見遣った。フィーラが興味深そうに、あちらこちらを見回している。
「固持した志が妄念であるが故に、いっそ『ヒト』より『ヒト』らしい」
 葬が言った。
「誰もが皆、心に修羅を宿している。愚かで健気、だからこそ愛しく美しい人間達よ」
 哭く鬼が、鎮まればいいと。
 鬼を祀る社に向けて、人は恭しく頭を下げた。

作者:OZ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年6月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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