雷鳴轟く裁きの森

作者:ハル


『この先、何人たりとも踏み込むべからず。もしこの禁破れば、汝らに神の雷が降り注ぐであろう』
 それは、深い森の奥に、無造作に立てかけられたボロボロの看板であった。サラサラと流れる小川の音。その音と、眼前の看板をじっと見つめるのは、一人の青年。
「神獣ユニコーンか。純白の毛並みに似合わぬ獰猛な性格で、大罪の一つである『憤怒』の象徴でもある。だが、貞淑な乙女にだけは気を許す性質もあったという一角獣」
 そう呟く青年の手には、一冊の本。相当読み込まれているのか、ページの端々がくすんだ色彩を放っている。本のタイトルは、『神獣図鑑』。恐らくは、その手のマニアなのだろう、口元が堪えきれぬ笑みを形作っていた。
「調べてみるもんだ。まさか、現代に神獣ユニコーンの噂に出会えるなんて! だ、だけど不思議な事じゃないのかも……だって、かつてはインドに実際に存在していたっていう話しだってあるんだから!」
 そして、青年は出会ったのだ。探し求めた、噂の重要な手がかりとなる看板に。
「この奥に足を踏み入れたら最後、森を荒らす異端者とされ、神の怒りが降り注ぐ。……実際、何人も行方不明になっている。死体も残さず消し炭にされたか……」
 もしくは、踏み入れた捜索者までもが神の怒りに触れ、すべてが闇の中に放り込まれたか。
「……俺も、そうならないとは限らない」
 だが、子供の頃から青年は、神獣と呼ばれる彼らに心を引かれてやまないのだろう。その足は軽い水音と共に小川を超えて――。
「……越えた」
 禁を破った。と、その時!
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があるわ」
 女の肉声が、青年の耳朶を捉える。まさかユニコーン!? そう思っただろう青年は振り返ろうとするが、それよりも早く、
「……ぅ!」
 青年の心臓は、鍵状の凶器に穿たれていた。バタリと、力なく青年は土の上に崩れ落ちる。
「キイイイイイイエエエエエエェェェェッッ!」
 そんな青年に変わり、轟くような甲高い鳴き声と共に、ユニコーンの白雷が森を支配するのであった。


「神獣ユニコーンといえば、いろんな媒体で登場する格好いい生き物っていう認識がありますよね」
 資料を配るセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)の表情も、どこかワクワクしているように見えた。だが、すぐに被害者がいる事を思い出し、セリカは表情を引き締める。
「フェクト・シュローダー(レッツゴッド・e00357)さんの懸念通り、不思議な物事に強い『興味』をもって、実際に自分で調査を行おうとしている人が、ドリームイーターに襲われ、その『興味』を奪われてしまう事件が起こってしまったようです」
 元凶となるドリームイーターは姿を消しているが、森の安寧を守る、神獣ユニコーンに関する噂を元に生み出されたドリームイーターは健在だ。
「どうか被害が出る前に、このドリームイーターを撃破して下さい! また、ドリームイーターを倒す事ができれば、『興味』を奪われてしまった青年も、目を覚ましてくれるはずです!」
 セリカは、事件の概要を纏めた資料をケルベロス達に配る。
「出現した神獣ユニコーンですが、白馬の如く美しい毛並みや外見に加え、立派な角を備えています。また、角からは強力な雷を発することができるようで、その点には注意が必要ですね」
 また、ドリームイーターは、自分の事を信じていたり、噂している人が居ると、その人の方に引き寄せられる性質がある。
「現場は深い森の中ですので、十分注意して戦うようにしてください。地の利が敵にある事を忘れてはいけません」
 そこまで言って、セリカは資料を仕舞う。
「出現したのは、あくまでユニコーンを模したドリームイーターです。ですが、噂の大元となった『神域に無遠慮に立ち入った者に天罰を下す』という行動原理は、決して悪意がある訳ではないはずです。存在の是非は一先ず置いて、歪められ、利用されようとするユニコーンに、叶うならば乙女の安らぎを……」


参加者
八代・社(ヴァンガード・e00037)
フェクト・シュローダー(レッツゴッド・e00357)
眞月・戒李(ストレイダンス・e00383)
セルリアン・エクレール(スターリヴォア・e01686)
ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)
猫夜敷・千舞輝(地球人のウェアライダー・e25868)
ミミ・フリージア(ヴァルキュリアの鎧装騎兵・e34679)
伽藍堂・いなせ(不機嫌な騎士・e35000)

■リプレイ


「むぅ……隠された森の小路を用意しておいて良かったのじゃ」
「あと、虫除けもな」
 自然の草花、美しい小川と聞けば、耳障りだけはいいものの、実際は……。
 言葉を交わすミミ・フリージア(ヴァルキュリアの鎧装騎兵・e34679)と伽藍堂・いなせ(不機嫌な騎士・e35000)の耳元では、絶えず羽虫の羽音が、梅雨の暑苦しさと共に不快指数を高めている。
「……あかん、ニートにこの環境は厳しすぎる。夏はクーラーのガンガン効いた部屋でゲームって決めてるんや……」
 特に、猫夜敷・千舞輝(地球人のウェアライダー・e25868)は、目的の前からグロッキー状態。火詩羽に背中を押され、ノッソリと前進するのが精一杯である。
「この様子だと、さっさと助けてやらねぇと、ブッ倒れてる奴がヤブ蚊にボコボコにされちまうぞ」
「だね……場所の雰囲気としては神秘的なんだれけど」
 八代・社(ヴァンガード・e00037)は、小川を超えた先にいるであろう青年の事を慮りつつ、額に浮かぶ汗を拭う。苦笑を浮かべた眞月・戒李(ストレイダンス・e00383)は、ふぅと、一息を吐いた。
「私は霊草の採取のために森にはよく入るので、あまり気にはならないのですが」
 そのためか、ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)の虫除け対策は万全。
「よーし、盛り上がってきた所で、みんなでユニコーンの話しよ!」
 そんな中、どう考えても盛り下がっている一行に、一人だけやる気満々のフェクト・シュローダー(レッツゴッド・e00357)が、そう切り出す。
「ユニコーンねェ。聞く限りじゃ女好きの馬みてェだが」
 ――バンドの名前かなんかだと思ってたぜ……と、フェクトに投げやりな言葉を返したのは、いなせ。
「ユニコーン、一体どの程度の大きさなんじゃろうか。わらわもそういうの、嫌いではないのじゃ」
 続いて、ミミがユニコーンの姿に想像を馳せる。
 だが、フェクトはいなせの隠しきれないユニコーンに対する興味のなさなど、まったく気にする様子を見せない。彼女としては、とにかくユニコーンを話題にできる事が嬉しいのだろう。「よくぞ聞いてくれました!」フェクトは表情を輝かせながら、意気揚々と解説しようとするが、
「確かにユニコーンって、一般的に気高くて、獰猛かつ女好きだって聞くな。しかも、角は万病に効くから、乱獲の対象になったとも」
 フェクトよりも先に口を開いたのは、学者らしくモノクルを指先で押し上げるセルリアン・エクレール(スターリヴォア・e01686)。
 ただ、セルリアンとしても、噂のドリームイーターに関しては、一つ腑に落ちない点がある。
 それは――。
「……ユニコーンの伝承に、電撃を放つ……というものは無かったように思うのですが……」
「そうだな」
 後を引き継いだウィッカの言葉に、セルリアンは頷いた。
「えー? 神様といえば雷でしょ! だって格好いいもんっ!」
 しかし、フェクトとしては異論がないようだ。雷のエフェクトこそ、神様っぽい! という単純な理由であろうが。
「なんにせよ、王道の神話生物で、とても綺麗な見た目って噂だから、一度見てみたいのは確かだね」
「うちとしては、ユニコーンもやっぱニンジン好きなんかなーっていうのが一番気になるわ」
「ふふ、相変わらずだね、チマキは」
 戒李は、魔法使い風の帽子の上から、千舞輝の頭をポンポンと軽く叩いた。千舞輝は「まぁウチは人とは目を付ける所がちゃうからなー!」などと、褒められていると思っているようだが……。
(あれって褒め言葉だったのか?)
 そのやり取りを見ていた社からは、とてもそうは思えず、煙草を吹かしながら遠い目をしていた。
「さっき話に出てたように、ユニコーンってのは純潔の乙女が大好きなんだろ? だったら、そこの小さな神様やお姫様は、いい餌になるんじゃねぇか?」
 と、社は気を取り直して、フェクトとミミに視線を向ける。
「なっ、失礼じゃろう! 確かにわらわは殿方は苦手ではあるのじゃが……」
 それでも立派なレディーじゃぞ! ミミは口をもごもごさせながら、必至に反論をする。無論、フェクトも「小っちゃくないよ! もっと神様を崇めなさい!」と、主張していた。
 そして、ケルベロス達は遂に神域へ足を踏み入れる。
「角の生えた馬ねェ。そりゃあなんとも――ぁ?」
 その瞬間、空気に纏わり付く静電気に、いなせの艶のない黒髪が自然と波打った。
「皆さん、警戒を――」
「ユ、ユ、ユ……ユニコーン!!!」
 美しい純白の毛並みと、威風堂々然とした一角。
 ウィッカが警戒を呼びかける声を上げるのを構わず、その姿に興奮したフェクトが、歓声と共にメモ帳に何事かを書き込み始める。
(まだ問いかけられてもおらんというのに……)
 ミミを筆頭に、呆れるケルベロス達。そんな彼らの脳内に、
(ココガ神域ト知ッテノコトカ? 知ッテオルナラ、答エラレヨウ? 我ガ何者カヲ……)
 その澄んだ声は、直接響くのであった。


「麒麟やキリン! とりあえず角折ってから倒して、剥ぎ取りきっちりやるで!」
「ぁ? 馬だろ?」
「キイイイイイイエエエエエエェェェェッッ!」
 千舞輝といなせのふざけた返答に、神獣ユニコーンは大地を、森を揺るがす咆哮を迸らす。
「千舞輝、正面から来るぞ!」
「分かっとる! ――って、うぉっ!?」
 セルリアンの警告がなくとも、ユニコーンが激怒しているのは一目瞭然。「腐っとるウチは、清らかな乙女とは認められんのかい!」と、守護星座を輝かせながら不満を漏らす千舞輝以外の前衛をも巻き込みながら、一角を振るい突進してくるユニコーンの一撃が、千舞輝を数メートル引き摺りながらようやく停止する。
「前衛の皆さん! まずはユニコーンの戦術に対応していきましょう!」
 いきなり複数のBSを付与された前衛に、ウィッカが霊力を帯びた紙兵を散布する。
「ビタ、準備はいいな!」
 それを援護するように、いなせの指示に応じてビタが翼を羽ばたかせた。ユニコーンのにしろ、ケルベロス側にしろ減衰が発生するが、ウィッカのポジション効果の分だけケルベロス側が優勢といった所か。
「わー、スーパー格好いい!」
 フェクトは、まるでアイドルを前にしたファン状態。だが、「でも……ニセモノなんだよね……」と、残念そうに眉を寄せると、重力を宿した飛び蹴りを叩き込む。
(神域ヲ犯ス不届キ者ニ、神罰ヲ!)
 フェクトの攻撃の勢いを借りて間合いを取ったユニコーンは、念を飛ばしながら一角に電撃を集中。衝撃波のように飛ばし、いなせを狙った。
「させるかよ!」
 その前に、社が庇いに入る。帯電する社の身体。口元に咥えた煙草がポトリと落ち、社は舌打ちをしながら、痺れる身体に鞭を打ち、煙草の火を念入りに踏み消した。
 そんな彼の全身が、ふいに聖なる光で満たされる。
「まっ、俺は乙女じゃねぇからな、狙われるのは必然か」
 その光は、いなせが発したもの。再びポジション効果によるキュアが発生し、全てとはいかないまでも、ある程度のBSが中和される。
「戒李よ、わらわとセルリアンでユニコーンの動きを制限させる! その隙に一撃を叩き込んでやるのじゃ!」
「了解だよ、ボクに任せて!」
 戒李の背後から、ミミが凶器を手にしたテレビウムと共にユニコーンへと飛びかかる。類い希な命中精度から放たれた痛烈な一撃が、ユニコーンの武器でもあり、弱点である一角をミシリと歪ませる。
(正直な話し、オレもいなせと同じで、あんまりユニコーンに興味がないんだよな)
 女を選り好みするその態度が気に入らないと、セルリアンの目が鋭くユニコーンを射貫く。ユニコーンの動きを巧みに読み、ビタと火詩羽の力を借り、袋小路に追い込まれないよう立ち位置を工夫しながら、セルリアンは追尾する矢でユニコーンを狙い澄ます。
「何を勘違いしているのか知らないけれど、ここはお前の神域じゃないでしょ」
 見た目だけの、ハリボテであると断じた戒李。手にした「虚」の力を纏った銀翅・艶姫が、仲間の攻撃を受けて癒やしの態勢に入ったユニコーンを追撃し、初撃の借りを返す。
「お前はユニコーン、神域の守護者」
 と、その時、社の口からようやく正答が放たれる。瞬間、ユニコーンの怒気がほんの一瞬消失し、無垢な瞳が露わになった。
「貞淑でも乙女でもなくて悪いがな、せめていい夢と共に――」
 社が呟くと、森の中が美しい花びらで包まれるのであった。


「ちっ、何かやってくるみてぇだぞ!」
 いなせが、ユニコーンの動きに何やら不信を感じ、数度目のドローンを展開させる。
 戦闘開始から7分少々。木々の隙間から覗く空は、白く染まっていた。
「キイイイイイイエエエエエエ!!」
 ユニコーンが猛ると、白雷が一角目掛けて降り注ぎ、そこから枝分かれした雷が周囲に拡散される。
「本物の神様の雷を見せてあげるよ!」
「気が合うな、フェクト! ウチも電撃勝負、望む所や! ネコマドウの二十五、「疾風猫雷」。そのとき敵さんに電流走る!」
 対抗するのは、フェクトと千舞輝。二人は同時に両手を天に翳すと、擬似的に生み出した雷と、バチバチと弾ける青白い猫で襲い来る雷撃に抵抗してみせた。
「やるじゃない、チマキ、フェクト!」
 火詩羽の背後で、戒李が笑顔を見せた。その表情が示す通り、減衰に加え列攻撃であったユニコーンの雷撃は、二人の雷に一部押し切られている。
「キィィッ!?」
 まさか、自分の雷が押されるなど想像もしていなかったユニコーンは、動揺と共に白煙を噴き上げていた。そこに、戒李の振るう狩月が、遠距離やら休む間を与えないように突きを喰らわす。慌ててユニコーンが飛び退いた先には――!
「憤怒の魔神よ。我に代わりて敵を破砕せよ!」
(馬鹿ナ!)
 ウィッカの描いた魔法陣が鎮座してあり、意図してここに追い込まれた事を悟ったユニコーンが呻く。だが、呻くのみならず、魔法陣からは魔神の豪腕が召喚され、ユニコーンの身体が轟音と共に宙を舞った。
「あなたの分析は粗方終わりました。幸いな事に、私達は私といなせさんを除いても、支援のできる方がいますからね」
 ゆえに、ウィッカが攻撃に手を回すこともできる。手数が減ることで戦闘が長引く可能性もあるが、今回集まったケルベロス達は精鋭揃い。ウィッカにしても、紛い物のユニコーンを相手取るには充分な攻撃力を有している。
「純白の毛並みは美しいとは思うが、所詮は少し変わった馬……ということじゃのぅ。そろそろ犠牲者も心配じゃし、決めさせてもらうとするのじゃ!」
 付与されたパラライズをテレビウムに癒やしてもらいながら、光の粒子と化したミミは、地上に落下してくるユニコーンに、横合いから突撃!
 ガゴンッ!
 今まではケルベロス達の障害となっていた木々達が、他でもない守護者であるはずのユニコーンがぶつかった衝撃でひしゃげ、折れ、崩れていく。その事に、最も怒りを感じたであろう存在も、やはりユニコーンであった。
(許サヌ!!)
 底知れぬ威圧と念を込め、ユニコーンは雷を衝撃派の如く飛ばす。
「……面白い、次はオレの番って訳だ」
 神雷波は、一直線にセルリアン目掛けて。フェクトと千舞輝の先程の攻防に、解析者としての魂が疼くのか、セルリアンは遍喰に蒼雷と蒼嵐を纏わせ、
「我が身に宿りし暴虐を司る二柱の眷属よ 王座を脅かす虚ろの神を滅殺せし刃と化せ!」
 両属性を一つに、一筋の閃光として解き放つ。その斬閃は、時として大鷲であり、時として龍!
「――――ッ!」
「キイイイイイイエエエエエエェェェェッッ!」
 セルリアン、眷属、ユニコーンの咆哮がぶつかり合い、森を幾度も反響する。
 ――が!
 さすがユニコーンもデウスエクス。似た属性、対象を標的とした攻撃同士では、どうしてもセルリアンが一歩劣る。形勢有利と見たユニコーンは、最後の力を振り絞ってセルリアン含む後衛に一角を突きだし、突進を仕掛けてきた。
「それ以上はいかせねぇよ。言っただろ、いい夢のまま終わらせてやるってな」
 社が、ガッシリとユニコーンに一角を掴んで離さない。また、防御だけに止まらず、そのまま至近距離から達人の一撃を放った。
 単純な威力で劣ることなど、セルリアンとて了承している事。ゆえ、それはユニコーンの行動パターンを把握した、セルリアンの策。
「ビタ、良くやったぜ。優勢でも、さすがに俺とウィッカが二人揃ってBS喰らっちまうとマズイからな」
 いなせの前には、傷を負いながらも気高くあろうとするビタの姿。
「いい加減お前の顔を見るのにも飽きてきてんだ。少なくとも俺は、お前には興味ないからな」
 目付きの悪い緑の眼が、ユニコーンをジッと、冷たく捉える。だが、彼女の役割は回復。いなせはフェクトとミミに視線を向けると、
「……相応しいのはお前らか、やれ」
 とだけ呟き、オーラを溜めた。
 一部再び不満を漏らし、火詩羽に慰められる者もいたが、一先ず無視して。
「抑えて、チマキ。フェクト、ミミ、援護するよ!」
 戒李が音速の拳でユニコーンの態勢を崩すと、
「わらわのぬいぐるみを特別に貸してやるのじゃ。楽しむといいのじゃ」
 猫のぬいぐるみに押し潰されたユニコーンが、動けなくなってしまう。
「見せてくれた神様っぽさ、私は絶対に忘れないよ!」
 最後は動けないユニコーンの首筋に押さえつけられた、フェクトの2本のロッドから放たれる電流で、ユニコーンは静かに息を引き取るのであった。


「万病に効くという一角も、消滅してしまったみたいだな」
「仕方ありませんよ、本物のユニコーンではありませんからね」
 緑を取り戻した森の中、セルリアンとウィッカが、ユニコーンの亡骸のあった場所で小さく肩を落とす。
 その近くでは――。
「興味を抱くのは仕方ないけれど、そういったものには危険がつきものなんだよ? デウスエクスの事、君だって知ってるよね?」
 戒李に種明かしをされた青年が、ショックで放心状態となっていた。
「怪我をしておらぬなら幸いじゃ。虫刺されは……この際仕方ないのじゃ」
 ミミが、ぶっきらぼうな感じで青年に手を貸して起き上がらせる。言葉とは裏腹に、ミミは青年の無事を心から喜んでいるよう。
「とにかく、危ないことはやめておけよ」
「ほら、これ本。落ちてたぞ」
 社が改めて言い含めると、セルリアンがその青年の手に『神獣図鑑』を持たせた。夢が詰まった本に、青年の瞳が僅か潤む。
「泣く必要なんてないよ! だって君は私に会えたじゃん! ユニコーンは残念だったけど、私に……神様に会えたんだからラッキー! 我は、神獣よりも上であるぞよ?」
 言いながら、フェクトは無遠慮に青年の背中を叩く。
 その様が、あまりに可笑しかったのか……。
「……ははっ」
 むぅー、と口を膨らますフェクトを余所に、青年はようやく笑顔を見せたのであった。

作者:ハル 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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