メリーハイドランジア

作者:犬塚ひなこ

●雨と紫陽花
 ちいさな公園に咲き誇るのは色鮮やかな紫陽花たち。
 静かにしとしと降る雨の中であっても花々は淡くやさしい佇まいで咲き続けている。
 雨粒が花を打つ音、雫が地面に落ちる瞬間。
 そして、足元の水溜まりに映った空と花の景色。そんな光景が好きで、少女はよく雨の日にお気に入りの傘を持って公園に出かけていた。
「今年も紫陽花がとってもきれい。あなた達が咲くから、私は雨が嫌いじゃないの」
 それに、雨上がりの晴れ間はもっと好きだから。
 少女は空色の傘をくるくると回しながら花に向かって微笑む。
 そうして、いつも通りに公園の煉瓦道をのんびりとまわって帰る――はずだったのだが、その日だけは違った。
「紫陽花が動いてる? いや、来ないで……!」
 公園の外れに咲く花が不気味に動いていることに気付いた少女はそれが攻性植物だと気付く。しかし、逃げる暇も与えられずに彼女は異形化した枝に絡め取られてしまった。
 瞬時に意識は奪われ、花はその身体を宿主とする。
 地面にさかさまに落ちた空色の傘には目もくれず、攻性植物は少女の手足を操りながら歩き出した。違う誰かから重力を奪い取る為――そして、雨の惨劇が始まる。

●ママが言っていたわ!
 紫陽花が見頃の公園に攻性植物が現れた。
 ヘリオライダーが予知した事件を語り、藤咲・うるる(メリーヴィヴィッド・e00086)は集った仲間達に説明をはじめる。
「今回の攻性植物は紫陽花よ。たくさんの花が綺麗に咲いている公園に現れたらしいわ」
 其処にはちいさな広場と遊具をぐるりと取り囲むように煉瓦の道があるらしい。紫陽花も道に沿うように咲いている。異形化したのはそのうち、公園の隅にあった一株だ。
 宿主にされた少女は今、意識を奪われ攻性植物に操られている。
 取り込まれた対象は攻性植物と一体化しており、普通に倒すと一緒に死んでしまう。しかし、敵にヒールをかけながら戦うことで戦闘終了後に救出できるという。
「助けられる可能性があるなら諦めたくないの。救う為には粘り強く敵を回復し続けなきゃいけないけれど、挫けないで戦いたいわ」
 ぐっと両手を握ったうるるは絶対に助けたいと告げ、皆に協力を願った。

 幸いにも攻性植物は一体のみで配下はいない。
 敵は現在、公園の中央付近でうろついているので其処に踏み込めば戦いを仕掛けられる。周辺の人払いを行えば邪魔も入らないので戦いに集中できるだろう。
 攻性植物は鮮やかで色とりどりの魔の花を咲かせて攻撃してくる。
 紫は毒、青は捕縛、白は催眠の力を持っているので注意しなければならない。されど皆で協力しあえば勝てない相手ではない。うるるが真っ直ぐに向けた瞳には仲間への信頼の色が宿っていた。
「きっともうすぐ雨もやむと思うの。雨上がりの虹が見える空はとびきり綺麗なのよって、ママが言っていたわ。だからね、無事に終わったら少し紫陽花を見ていかない?」
 ささやかな誘いの言葉を向け、うるるは淡く微笑む。
 命を救う為に、そして綺麗な花の景色を見る為に――今こそ、自分に宿る力を使う時だ。


参加者
藤咲・うるる(メリーヴィヴィッド・e00086)
フェクト・シュローダー(レッツゴッド・e00357)
メロゥ・イシュヴァラリア(宵歩きのシュガーレディ・e00551)
道玄・春次(花曇り・e01044)
月海・汐音(紅心サクシード・e01276)
リーア・ツヴァイベルク(紫花を追う・e01765)
クアトロリッツァ・チュチュヴィエンナ(モノトンエトワール・e20413)
クオン・ライアート(緋の巨獣・e24469)

■リプレイ

●雨の公園
 降り続く雨は淡く、花々に優しい雫を落とす。
 天を振り仰げば遠くの空に晴れ間が見えた。雨はもうすぐあがりそうだと遠い光に目を眇め、道玄・春次(花曇り・e01044)は景色を眺める。
 仲間に倣って藤咲・うるる(メリーヴィヴィッド・e00086)も公園を見渡した。
 咲くのは色とりどりの紫陽花。
 クアトロリッツァ・チュチュヴィエンナ(モノトンエトワール・e20413)はきれい、と口にした後に傍にあった花にそっと掌を伸ばした。
「此処はいつだって穏やかに守られるべき場所だわ」
 穏やかな空気と雰囲気。それを乱す存在とは、きっと相容れない。今回の敵を思ったクアトロリッツァはちいさな決意を固めた。
 月海・汐音(紅心サクシード・e01276)は花を伝っていく雨の粒を見つめて呟く。
「紫陽花は綺麗よね。この時期に、雨の中で鮮やかに目を引くものだわ」
「せっかく綺麗な花なのにね……巻き込まれてしまった人は災難だ」
 リーア・ツヴァイベルク(紫花を追う・e01765)も頷き、汐音が張り巡らせた殺界に合わせて立ち入り禁止区域を作り上げてゆく。
「……とはいえ、どうやら暢気な事を言っている場合でもなさそうね」
「うん、ちゃんと助けてあげて、綺麗な紫陽花をまた見れるようにしてあげないと」
 汐音が顔をあげるとリーアも前方を見据えた。
 その視線の先には花に絡めとられた少女の姿がある。あれこそが攻性植物と化した紫陽花に捕われた被害者だ。
 メロゥ・イシュヴァラリア(宵歩きのシュガーレディ・e00551)はゆるりと息を吸い、意識を失った少女と攻性植物を瞳に映した。
「花を愛でる少女に危害を加えるなんて許し難いわ」
「ふむ、折角の紫陽花畑に……無粋な真似を」
 クオン・ライアート(緋の巨獣・e24469)は操られた少女を見つめ、しかと身構える。フェクト・シュローダー(レッツゴッド・e00357)は仲間達の思いに同意しながら、ごめんね、と少女に語り掛けた。
「今からいっぱい痛いことすると思う。でも私は君を助けたいから」
 行くよ、と口にしたフェクトに続いてクアトロリッツァが構えを取る。
 此方を標的と見做したらしい攻性植物は今にも襲い掛かってきそうだ。春次は仲間に注意を呼びかけ、己の思いを言葉に変える。
「この時季、一等綺麗な景色をまた見せてあげたいから。必ず助けたるよ」
「ええ。絶対に助けるわ。だって……」
 うるるは春次の声を聞き、握り締めていた掌に更に強い力を込めた。絶対に諦めない、挫けない。確かな思いを胸に抱く少女は高らかに宣言する。
「――私たちにはそれが出来るんだもの!」

●花に雫
 雨粒が肌を伝い、水滴となって地面にしたたる。
 刹那、攻性植物が妖しげに蠢いて魔力の花を咲かせた。
 紫の花が咲き乱れてゆく最中、標的とされた汐音を守る為にクオンが踏み出す。毒の一閃を受けたクオンだったが、敵の真正面に立ち塞がったまま痛みに耐えた。
「いいだろう、ならばその花……我が手にて散らせてくれよう!」
 叫びにも似た言葉からはまるで巨獣の如き存在感と激しさが満ち溢れている。そして、鉄塊剣を振りあげたクオンは敵を引き付けるように刃を振るった。
「散るべき花というものもあるのね」
 クアトロリッツァは囁くように独り言ち、手にした槍を掲げる。
 ふわりと舞うように跳躍した彼女の刃の切っ先が花を貫いた。クアトロリッツァの一撃が見事に決まった様を見つめ、メロゥが片手を胸の前に置く。
「花が人を傷付ける姿は、あまり見たくないものね」
 蠢く花を見て苦々しげに呟いたメロゥは黄金の果実をみのらせ、うるると自分に力の加護を与えた。うるるは彼女に礼を告げ、こくりと首を縦に振る。
「綺麗な花を散らすのは心苦しいけれど、今だけはそうも言っていられないわ」
 気を引き締め、地面を蹴ったうるるは電光石火の一閃で以て敵を貫いた。攻性植物はびくともしなかったが、未だ序盤ゆえそれも承知のうえ。
「はりきってやるんよ、雷蔵。援護や」
 春次はボクスドラゴンの相棒に呼び掛け、フェクトの周囲に光の盾を具現化させる。主の言葉に頷いた雷蔵の自らの属性を加護に変えて仲間を包み込んだ。
 続いたフェクトは天高く跳びあがる。
「ちょっとだけ我慢して。私たちに、君を助けさせてほしい!」
 流星が落ちゆくような蹴撃で植物に見舞い、フェクトは身を翻した。次どうぞ、と告げた彼女に呼応したリーアはすぐさま古代語魔法を紡ぐ。
(「もう梅雨の時期か……。せっかくこれから紫陽花が綺麗になる時期に入るのだから、巻き込まれたあの子がトラウマにならなければいいのだけれど……」)
 詠唱を続けながらリーアはそっと願う。
 そして、放たれた魔法の光が攻性植物の一部を石化させた。
 その姿は痛々しく、汐音は思わず眉を顰める。
「……やり辛いわね。……それでも、迷わないわ」
 ふと浮かんだ思いは振り払い、汐音は魔力を紡いで一振りの剣を創造した。金色に輝く刃が薙がれた刹那、一片の花がひらりと地面に落ちる。
 雨の音はもう随分と弱くなっていた。
 葉から雫が落ちる音が幽かに響いた瞬間、気を失ったままの少女が呻く。
「あ、うう……」
「待っていて、必ず助けるわ。もう少しの、辛抱だから」
 メロゥは少女に声をかけ、必ず救出すると誓った。そしてメロゥは魔術切開による癒しを敵に施してゆく。
 こうしていけば少女は傷付かずに済む。クオンは回復を仲間に託し、敵の挙動を注視した。刹那、クオンは敵が自分に青の花を放とうとしていることに気付く。
「無駄だ! その程度で私は止まらん!!」
 勇ましく言い放ち、クオンは臆することなく咆哮を響かせた。
 咆哮は力を宿し、衝撃波となって相手を襲う。強者よ我は此処に居る。さあ戦おう、と告げるような声は敵の身に伝った。
 そのびりびりとした感覚はフェクトの身体をも良い意味で震わせた。
 私も負けない、と意気込んだフェクトは杖を振りあげながら雷撃を生成する。
「力いっぱい殴るから、覚悟しておいてね!」
 右から鋭い殴打、そしてすかさず左からの連打。莫大な雷を流し込まれた攻性植物はひとたまりもなく、体勢を崩した。
 隙が出来たと感じたクアトロリッツァはフェクトに続き、敵の背後に回り込む。
「こちらからも遠慮なくいかせてもらうわ」
 踊るように縫い込まれた縛霊の一閃が敵を包み、その動きを鈍らせていった。クアトロリッツァがくるくると戦場に踊る最中、雷蔵が仲間を癒していく。
 春次も少女を見つめ、思いを音に乗せた。
「戦いの中でも雨に打たれ綺麗に咲く紫陽花を、君にきっと見せたるから」
 もう少し、頑張って。
 願うのは皆と同じ応援の思い。春次と雷蔵が息を合わせて癒しに入っていく中でリーアや汐音が、うるるが更なる攻勢に移った。
「大丈夫、絶対に……大丈夫だから」
 自分に言い聞かせるように小さな言葉を落とし、うるるは網状の霊力を放射する。
 其処から戦いは続き、譲らぬ攻防が繰り広げられた。
 メロゥが敵を癒して少女を守り、クオンや雷蔵、リーア達が仲間の防護に徹する。そして、フェクトと汐音が容赦ない攻撃を放っていった。
 攻性植物も対抗し、白の花舞で此方を惑わせようとした。だが、春次が朱鞠狐の精霊達を召喚することでその幻惑を祓う。
「――途を灯す火よ。……おいで」
 もふもふの赤毛の子狐が戦場を駆け回れば、首元の鞠鈴が愛らしく鳴る。その間に汐音が敵の傍へと駆け込み、駆動剣を振るいあげた。
「斬り払って……削ぎ落すわ」
 花を切り落とすかのように下ろされた刃が攻性植物を穿つ。だが、その一閃は不覚にもかなり深く敵を抉ってしまった。
 しまった、と汐音が後退ったが即座にリーアが掌を天に掲げる。
「心配しないで。此処は僕が担うから」
 ――希望の焔は燃え尽きることなく、その灰は道を示すだろう。
 灰被りの歌が発動し、一羽の灰色の鳥を喚び出される。響く囀りは生きたいという想いを増幅させ、敵の身を癒していった。
 助かったわ、とメロゥが告げ、仲間達も一先ずの安堵を抱く。
 そのとき、うるるとクアトロリッツァは敵の僅かな異変に気付いた。フェクトとクオンも同様のことを感じ取ったらしく、更に気を引き締める。
「回復できない傷がたくさんあるみたいだよ、皆!」
「そろそろ頃合、か」
 両手に持った武器に力を込め、二人は決着が間近だと皆に告げた。
 降っていた雨も今はもう止みかけている。
 空模様に晴れ間が訪れたとき、きっと戦いは決する。誰もがそう感じていた。

●太陽は輝く
 攻性植物が再び白の花を咲かせ、此方を惑わそうと狙う。
 また来るよ、とフェクトが呼びかけるが敵の動きの方が速かった。
 されど雷蔵とクオンが狙われたうるるとメロゥを庇い、惑いごと痛みを振り払う。クオンは気力で地を踏み締め、己の力を溜めた。
「花は咲いて散るのが定め。異形とは言え貴様も花の端くれならば……花の定めに従い、今! ここで散るが良い!!」
 真正面からの宣戦は巨獣の咆哮へと変わり、衝撃の波動となった。
 どちらかの魂が、燃え尽き、果てるまで。
 強い思いが込められた咆哮が収まった刹那、メロゥが敵を狙い打つ。
「人を癒してこその花なのだから――潔く、散りなさいな」
 最早、容赦も遠慮も何処にもない。満ちる空の輝き、降り注ぐ星の瞬きの歌。ひとかけらの言の葉を唇にのせ、メロゥは謳った。
 天上の火が光里となって雨の如く降り注ぎ、煌めきが敵の目を眩ませる。春次はメロゥが放った美しい光に目を細め、最後になるであろう癒しの力を解放した。
「大丈夫や。こっちは任せて、行って」
 再び精霊達の狐火が周囲に広がり、ふわりとしたあたたかさを宿す。
 リーアは不思議な心地良さを覚えながら自らのファミリアロッドを手にした。
 既に敵の力は癒せぬほどに消耗している。ならば今こそ攻勢に移るべきだと感じ、ロッドに呼び掛けた。
「頼んだよ、ファイル。これが今回で最後の仕事だから」
 杖を本来の姿に戻したリーアはファイルをひといきに解き放つ。その魔力は攻性植物の花を穿ち、葉を一気に散らせた。
 汐音は今度こそ、と己を律して再び金色ノ剣を具現化させる。
「担い手よ此処へ……未来を紡ぐ、輝きの剣!」
 明日を求める心を力の源とした刃は希望を宿して光を放った。この長剣が斬るのは不幸な未来であり、切り拓くのは新たな道。
 眩い光に目を眇めながら、クアトロリッツァは敵の動きをしかと見つめた。
 未だ抵抗しようとしている敵の動きを止めるべく、クアトロリッツァは地面をとん、と軽やかに蹴りあげる。
「さあ、お直りなさい」
 オルゴールの上で踊る美しい人形のようにふわりふわりと踊る。クアトロリッツァが舞うバレエめいたしなやかな動きは花を惑わせてゆく。
 かの花は誰も楽しませることができない。
 ――退屈は貴方をも殺す。だから、唯々だんまり枯れておゆきなさい。
 なんて、とクアトロリッツァが片目を閉じた刹那、フェクトが追撃を加えにいく。
「神様の前で、悪いことができると思ってたのかな?」
 魔力によって擬似的な雷雲が造り出され、雷が轟く。それは雨の終わりを告げるように、または救済を示すように一瞬で鳴り終わった。
 鋭い一閃が敵を傾がせたと気付き、うるるは雨に濡れた地面を蹴る。
 雨雫が跳ねても気にせず、うるるはするりと躱すように背後へ回り込んだ。影踏みめいた動きで以て花に刃を差し向け、その輪郭を縫い止める。
 濡れた身体は少しばかり重かった。まるで病に伏せていた幼い頃のようにも感じられ、うるるは僅かに俯く。
 窓から見る景色に太陽が見えなかったときは何故だか憂鬱だった。苦しいことや辛いことがあれば、雨のような涙が零れ落ちてしまう。
 でも、とうるるは顔をあげた。
「ママが言っていたわ。いつまでも降り続ける雨なんて、ないって――!」
 うるるが指し示すのは雲の隙間から降り注ぐ太陽の光。
 その陽は明るい未来を照らしてくれる。そう知っているから、光を切り拓く為の力は確かに此処に在るから。
 そして――雨はあがり、晴れ間が公園を明るく照らした。

●虹の先に咲く
 少女を絡め取っていた花は枯れ果て、跡形もなく崩れ落ちた。
 その反動で少女の身体が倒れ込みそうになったことに気付き、駆け寄った春次とリーアがすかさず支える。
 汐音が大事はないかと問えば、目を覚ました少女は平気だと答えた。
「あなた達が助けてくれたのね」
「うん、もう大丈夫だよ。神様として私達がびしっと解決したからね!」
 フェクトが小さな胸を張って宣言すると少女がおかしそうにくすくすと笑う。念のためにクオンが彼女の怪我の有無を調べたが何処にも異常はなかった。
 その間にクアトロリッツァが落ちていた空色の傘に手を伸ばす。拾いあげようとしていたのはうるるも同じで、互いの手が傘越しにそっと重なった。
 きょとんとした二人の視線が同時に合い、くすりとした笑みが浮かぶ。そうして、クアトロリッツァはうるるに傘を渡してやった。
「はい。あなたの傘、とっても素敵よ。壊れてなくてよかったわ」
「あ……ありがとう、お姉さん!」
 傘を受け取った少女に、うるるは自分の傘とお揃いの色だとこっそり告げる。メロゥは一連の流れに微笑ましさを覚えながら少女に願った。
「今回は災難だったわね。でも、嫌いにならないであげて」
 あの子たちには罪はない。雨の滴できらきらと光る花がとても綺麗だと伝えたメロゥに対して少女は勿論だと答えた。
 クアトロリッツァは良かったと安堵を抱き、そっと目を閉じる。
「お花はただ穏やかにそこに在って、此方が愛でた分だけ綺麗な姿で返してくれるものだわ。来年もその先も、変わらず貴方を喜ばせてくれるはずよ」
 ゆっくりと瞼をひらいたクアトロリッツァの瞳には満面の笑顔で笑う少女と淡く咲く花々の景色が広がっていた。
 そんな中、一足先に紫陽花の真ん中に駆けて行ったフェクトが両手を振る。
「それじゃみんなで一緒にお散歩しよう。見て、どの花も綺麗だよ!」
 はやくはやく、と無邪気に皆を呼んだフェクトに誘われ、汐音やリーアをはじめとした仲間達は散歩道に歩みを進めた。
 春次は雷蔵を連れ、陽にきらめく花弁の雨粒を眺める。
 その滴の中の世界にも紫陽花が映り、歩く度に彩が変化していく。雷蔵が見惚れたように花を見ているものだから、春次の口許にも淡い笑みが浮かんだ。
「綺麗やな、ほんまに」
「そうね、とっても」
 メロゥは双眸を緩く細め、目の前に広がる光景を楽しむ。
 雨上がりの虹の架け橋。それにあなたの心が、癒されたなら。たくさんの笑顔の花が、綻び咲いたなら――ほら、其処に宿るのはきっと。
 華やかな紫陽花、その混ざり合う花色は先行く夏を呼んでいた。

作者:犬塚ひなこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年6月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
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