梅雨を呼ぶ逆さてるてる坊主

作者:天木一

 どんよりした空からしとしと雨が降ったり止んだりを繰り返す。
 雨の冷たさがめっきり夏のようだった暑さを洗い流していく。そんな梅雨の季節がやって来た。
「あーめあーめふーれふーれもーっとふれー♪」
 そこを雨合羽に傘を差し、長靴を履いた少女が水溜まりをバチャバチャと平気で踏みながら歩いていた。
「梅雨はすっごーーーーく、大きなてるてる坊主を逆さにつるしてるからやって来るってホントかなー?」
 少女がこれくらいかなと、ランドセルを揺らしながらぴょんぴょん跳ねて大きさを表現する。
「てるてる坊主は天気にしないと首を切られちゃうんだよね、この逆さてるてる坊主は雨がふらないと人の首を切っちゃうって話しだったけど、おっきなハサミを持ってるのかなー?」
 巨大てるてる坊主が大きなハサミを持っている姿を想像しても、ほのぼのした絵面しか思い浮かばなかった。
「でもどこにもないなー、そんな大きなものならすぐに見つかりそうなのに」
 くるくると少女が回転して周囲を見渡すが、そんな巨大なてるてる坊主は見えもしない。
「いないなー」
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 突如として背後に現れた魔女が手にした鍵で上を見上げる少女の胸に突き刺す。すると少女は眠るように意識を失い崩れ落ちた。それと同時に魔女も幻であったかのように姿を消してしまう。
『あーめあーめふーれふーれ、もーっとふーれー♪』
 代わりに現れたのは、明るい調子の子供のような歌声を響かせる5mにもなる巨大なてるてる坊主。だがそれは逆さになっていた。
『降らなきゃ人の首をチョンと切るぞ~♪』
 幼い声でおどろおどろしい雰囲気を作りながら、逆さてるてる坊主はシャキンシャキンと人程も大きさのある鋏を取り出し、まるで空に宙吊りにされているようにふわふわ浮遊して移動を始めた。

「梅雨の時期に相応しい、てるてる坊主の姿をした敵が現れるのです!」
 虎型獣人ウェアライダーの八点鐘・あこ(ウェアライダーのミュージックファイター・e36004)が新たな事件の発生をケルベロス達に告げる。
「『興味』を奪った第五の魔女・アウゲイアスが、新たな怪物型ドリームイーターを生み人々を襲わせる事件が起きます」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が詳しい事件の説明を始めた。
「ドリームイーターは人を襲いグラビティ・チェインを奪います。そうなる前に敵を撃破し、眠った少女を目覚めさせてください」
 少女の意識を戻す為にも敵を倒さなくてはならない。そして今から向かえば他の一般人が襲われる前に遭遇できる。
「敵は巨大なてるてる坊主を逆さにした姿をしています。全長5mほど、見た目はてるてる坊主ですが、大きなハサミを武器に人を襲うようです」
 人を容易く切断できるサイズのハサミを使ってくる。一般人が襲われればひとたまりもないだろう。
「場所は千葉県の街にある住宅地の近く、お昼過ぎで人通りはありますが、避難警報を出すのですぐに人通りは途絶えるでしょう。それに敵は雨が降ってる間は行動が鈍いようです。ですが止んでしまうと積極的に人を襲い始めます」
 敵は少女の近くからゆっくりと動き出す。現場に到着すれば簡単に見つけられる。
「梅雨の季節になりましたが、人の首を切るてるてる坊主なんて現れては、子供達が気軽にてるてる坊主を吊るせなくなります。眠った少女を助ける為にも、逆さてるてる坊主の退治をお願いします」
 一礼してセリカは素早くヘリオンの準備へ向かう。
「ずっと雨ばかりだと湿気で毛の手入れが大変なのです、梅雨を呼ぶ逆さてるてる坊主はやっつけるのですよ!」
 ふさふさの毛に覆われた獣の腕を上げてあこが掛け声をかけると、それに合わせてケルベロス達もおーと気合を入れて行動を開始した。


参加者
トリスタン・ブラッグ(ラスティウェッジ・e01246)
フェリシティ・エンデ(シュフティ・e20342)
ファルゼン・ヴァルキュリア(輝盾のビトレイアー・e24308)
モモコ・キッドマン(グラビティ兵器技術研究所・e27476)
御厨・礼(プシューケーの導影・e32840)
月岡・ユア(月歌葬・e33389)
草薙・ひかり(闇を切り裂く伝説の光・e34295)
モヱ・スラッシュシップ(機腐人・e36624)

■リプレイ

●梅雨
 日を遮る分厚い雲からしとしとと雨が降り続いている。そんな中、避難する人と逆方向へケルベロス達が住宅地を進む。
「しばらくは雨が続きそうね!」
 雨も苦にせずにフェリシティ・エンデ(シュフティ・e20342)は小さな水溜まりをスキップするように飛び越える。ボクスドラゴンのそば粉もきゅーと鳴いてその後を追った。
「もう梅雨の季節か……」
 濡れぬようにしっかりとレインコートを着込んだファルゼン・ヴァルキュリア(輝盾のビトレイアー・e24308)は、憂鬱そうに雨に濡れた周囲を眺める。
「子供の頃はよく作ったね、てるてる坊主。実際に効果があるかは別として、そうやってお天気になるのを願うこと自体が楽しみだったなぁ」
 ゼブラ模様のリングコスチュームを着た草薙・ひかり(闇を切り裂く伝説の光・e34295)は子供の頃の気持ちを思い出して微笑む。
「そんな子供達の無邪気な気持ちを弄んだりさせないよ!」
 キリッと表情を改め気合を入れ、周囲に逃げ遅れた一般人が居ないか確認し始めた。
「童謡にまつわる噂話を利用するとは……所用で来れなかった同旅団の八点鍾氏に代わって成敗しまショウ」
 来れなかった仲間の分も力を果たすと、モヱ・スラッシュシップ(機腐人・e36624)は無表情ながらも使命感らしきものを感じさせた。
「雨って嫌いです。よく雨が好きなんて人いるけど、それはいつでも雨宿りできる場所があるから……」
 雨空を見上げたモモコ・キッドマン(グラビティ兵器技術研究所・e27476)は、帰る家もなく孤独に冷たい雨に濡れた日の事を思い出して陰鬱な気分になる。
「あ、ごめんなさい。今は作戦に集中しましょう」
 感傷に耽っている場合ではないと、意識を切り替えようと腰の刀に触る。
「たまにはシンプルなのも良いですね……。少女を救う、それだけです」
 敵を倒せば解決するのは分かりやすくていいと、トリスタン・ブラッグ(ラスティウェッジ・e01246)は口角を上げる。
「……純粋な好奇から出た恐ろしい発想というのは、子供には間々ある話ではありますね」
 子供ならではの荒唐無稽な発想に御厨・礼(プシューケーの導影・e32840)は感心する。そうして進んでいると視線の先にランドセルを背負ったまま倒れる少女の姿を発見した。
『あーめあーめふーれふーれ、もーっとふーれー♪』
 それと同時に子供のような声が空から響き、ふわりふわりと巨大な塊が落ちてくる。それは天から逆さに吊るされたてるてる坊主だった。その手らしき出っ張りには人を両断できる程の巨大な鋏がある。
「見てみて! 礼っあの鋏すっごく強そう! ボクもあれ使ってみたいなぁ……あんなの振り回して戦ったら絶対楽しいっ」
 それを見た月岡・ユア(月歌葬・e33389)がはしゃいで礼に呼び掛ける。
「……た、楽しい……かな? ……ユア、君がやんちゃというのは分かってはいるけれど、あまり危ない事はしないようにね」
 微妙な顔で礼は首を傾げ心配そうに声を返し、今は敵に集中しようと下から上へと敵を見定めた。

●逆さのてるてる坊主
『降らなきゃ人の首をチョンと切るぞ~♪』
 その声に応じたように冷たい雨が降り注ぎ、周囲を凍らせていく。
 それに対して飛んだボクスドラゴンのフレイヤが、仲間を庇って雨を少しでも多く受け止めようとする。
「雨が止む前に片をつけましょう」
 トリスタンはオーラの塊を撃ち出し、敵にぶつけ喰らいつかせるように布を破いた。
「現れたか、情報通りてるてる坊主そのままの姿だな。これならよく燃えそうだ」
 地を蹴ったファルゼンは跳躍して炎を纏わせた脚で敵を蹴りつけ炎を移した。だが巨体からするとその炎はまだまだ小さい。
「みんなの回復任せたのよ!」
 フェリシティはそば粉に呼びかけて敵の前に出て、無数の紙兵を敵との間に配置して守りを固める。そば粉も属性を与えてフレイヤの凍結を治した。
「これだけ大きければ外しようがないですね」
 モモコは太刀を抜き放つと水平に構え、じりじりと間合いを詰めると、右腕を伸ばし平突きを放つ。切っ先が敵を貫き内部に詰まった柔らかな生地の感触が伝わる。
「おっきなてるてる坊主だなぁ……って見惚れてちゃダメだねっ」
 思わずぼうっと敵を見上げていたユアは御業を呼び出し、抱きつくように敵に組み付かせる。
「子供の興味は世界の宝物なんだから、あなた達なんかの好きにさせないよ!」
 そこへ助走をつけて走り込んだひかりは跳んでドロップキックを浴びせる。強烈な衝撃に敵の大きな体が揺れ動いた。
「見た目は可愛らしくとも、その内は邪気に満ちているようですね」
 黒塗りの和弓を手にした礼が弦を弾くと、心を穏やかにする清澄な音が広がり仲間に加護を与えた。
『ピッチピッチチャップチャップ、ランランラン』
「雨が攻撃ですか……避け難くて厄介デス」
 強まる雨をモヱは仲間の代わりに攻撃を受けながら、薬液の入った瓶を空に投げて雨を強める。それは傷ついた体を浄化し癒していく。
『ずぶぬれだー』
 その雨に釣られるようにふらふらとてるてる坊主が移動してくると、ミミックの収納ケースは中身が濡れるのを嫌がるように、敵を傘として真下に潜ってからかぶりついた。
「空から雨のように降っていれば、反応するようデスネ」
 モヱはもう一度と瓶を投げ飛ばして雨に紛れて薬液を降らす。仲間を癒す雨に惹かれてまたふわふわとてるてる坊主が寄ってくる。
「ふわふわしたテルテル坊主ではどこを狙えばいいのか……頭をぶち抜けばいいのでしょうか」
 電柱を蹴り上がり跳躍したトリスタンは、敵の頭を思い切り蹴り飛ばした。ぶらんと紐に振られるように体が揺れる。
「ダメージがあるのか分かり難いですが、続けるまで!」
 待ち構え太刀に雷を帯させると、モモコは踏み込んだ動きも目に追えぬ程の鋭い突きを向かって来る敵の顔に浴びせた。電流が流れ敵の体が鈍る。
『ビリビリ、悪い子の首もチョン切っちゃうぞ♪』
 巨大な鋏をシャキンッと鳴らし、緩慢な動きでてるてる坊主が襲い掛かって来る。
「鋏は人に向けるものではない」
 そこへ割り込んだファルゼンは、勢いのまま飛び蹴りを叩き込んで鋏を押し戻す。
「君は首を切るのがお好きなのかな? フェリスはね、正義の味方なんて格好いいモノじゃないけれど、そんな君の邪魔をするのが好きよ」
 フェリシティが雨空に瓶を放り投げると、雨に混じって薬液が降り注ぎ敵の体を濡らし凍らせたように布を固め動きを封じる。
「逆さの相手にするのは何だか変な感じだけど、行くよ!」
 走りながら腕を横に伸ばしたひかりは、動けぬ相手の首を狙ってラリアットを叩き込む。衝撃にぶらーんとてるてる坊主が大きく揺れる。
『ぶらーんぶらーん、あーめーあーめー』
 振り子のようになりながら雨乞いをするてるてる坊主。すると凍るような冷たい雨がさあっと降る。
「これは冷えますね。雨の冷たさを和らげましょう」
 礼は剣を地に突き立て、星座の光が描かれ仲間を守るように包み込む。
「曇り空も貫く流れ星だよっ!」
 駐車してある車を踏んで跳んだユアは、雨を突っ切って足裏に星型のオーラを宿して敵を蹴りつけた。
「雨で少し冷たくなったから暖を取るの」
 フェリシティは竜の幻を呼び出し、炎のブレスで敵の布の体に火を点けた。
『あーちあっちぃ燃えちゃうよー♪』
 火を嫌がるようにてるてる坊主の紐が動いて体を後ろに下げる。
「濡れた体は重そうだな」
 回り込んだファルゼンはナイフに炎を纏わせて敵を斬りつける。するとてるてる坊主はするすると空から新たな紐を下し、ファルゼンの首に巻き付けて吊り上げる。そしてシャキンと鋏を向けた。
「そこだ!」
 精神を集中して敵の動きを見ていたトリスタンは、その紐を爆発して引き千切った。
「吊られるのはてるてる坊主だけにしてほしいですね」
 すぐに礼は満月の如き光を放って、ファルゼンの首の絞め痕を消し去る。
「その鋏ちょっとボクに貸してくれないかなっ」
 興味深々に見つめながらユアは御業で鋏を抱き締めるようにして動きを緩めた。
「まだまだ!」
 続けてモモコは太刀を振り上げ、相手の鋏を弾くと返す刃で袈裟に布を斬り裂いた。だがてるてる坊主も脳天目掛けて鋏を振り下ろす。
「大きいだけじゃあプロレスラーは倒せないよ!」
 その鋏を腕で受け止めたひかりは、地を流しながらも反対の腕で水平チョップを浴びせ、仰け反らせたところにニー・リフトを叩き込んで打ち上げる。
「裂傷を確認。緊急手術デス」
 離れた位置からモヱが魔力を繊細に操作して、魔力自体が糸のようにひかりの傷口をすぐに縫い上げて塞いでしまう。

●雨のち晴れ
 空からゆっくり落ちてくるてるてる坊主。それと同時に雲が薄れ降り注ぐ雨が少なくなっている事に気付いた。
『きょーうをつーゆにしーておくれー、それでも晴れたら……首をチョンと切るぞー!』
 急に動きを加速したてるてる坊主がシャキンシャキンと鋏で切断しようと襲い来る。
「残念ながらこの首は切らせてあげないの」
 敵の攻撃をフェリシティが何度も鋏を蹴り飛ばして防ぐ。だが勢いに負けて脚に幾つも傷を作る。そこへそば粉がパタパタと翼を羽ばたかせ治療に向かう。
「その程度で私は止められない」
 凄まじい鋏の斬撃にも恐れる事無く踏み込んだモモコは、体を反らして攻撃を躱し平突きを打ち込む。だがふわっと敵が動き切っ先が掠めるに留まる。
「逃がさない!」
 そこで突きから横薙ぎへと変化させて敵を斬り裂く。
「少し雨が弱まったか? ならこれでどうだ」
 ファルゼンが天に腕を伸ばす。すると雨脚が強くなり始めた。暖かな雨は冷たく凍えていた仲間達の体を癒す。
『あめーあめー♪』
 すると強くなった雨に、てるてる坊主が嬉しそうに空を見上げて漂う。そして冷たい雨を降らせ始めた。そこへフレイヤがブレスを吐いて雨が届く前に蒸発させる。
「逆さまでも地面に落ちれば一緒でしょう」
 手に集めたオーラをトリスタンは放ち、天に繋がる紐を引き千切った。
『ふわーあめ? はれ? んー……雨!』
 落下して地面に横たわったてるてる坊主は錯乱したように鋏を振り回す。
「雨が好きなんだねっ、僕は戦うのが好きだよっ!」
 ユアが笑顔で歌を口ずさむと、敵がそのリズムに合わせて体を揺すって鋏の勢いが弱まった。
「歌にはちょん切るとあるようですが、実際に切る人など居るのでしょうかね」
 その隙に礼が御業を操り敵を抑え込む。
「てるてる坊主に物を持つ手があるっておかしいよ!?」
 ひかりがダッシュするとドロップキックを放ち、相手をゴロゴロと転がせて車にぶつけた。
「そもそも、なんでてるてる坊主が人の首を切るとか思いついたのかな……?」
『あーめよふれー』
 空からするすると紐が垂れててるてる坊主の首を吊り上げる。
「手の内は見ました。こちらも攻勢に移りマス」
 そこへモヱは唸り高速回転するチェーンソー剣を振り回して敵の体を斬り刻んだ。
「雨は苦手でな、そろそろ降り止まさせてもらう」
 助走をつけてファルゼンは矢のように跳んで敵の体を蹴り抜く。
『あーめあーめふーれふーれー♪』
 雨を降らそうとするてるてる坊主に、収納ケースが小さな偽てるてる坊主をばら撒いて注意を引き付ける。
『ふつーのてるてる坊主だと晴れちゃうぞー!』
「断ち切る!」
 その隙を見逃さず、敵の体を駆け上ったモモコが天から繋がる糸を切る。するとてるてる坊主は頭から地面に落下し、そこへモモコは太刀を深く突き立てた。
「あーめあーめふーれふーれ、もーっとふーれー」
 敵を真似た歌を口ずさみながらフェリシティが幾つもの瓶を空に投げ、色の混じった粘着性の雨が敵を染めて地面に貼り付く。
「そろそろ雨も上がりそうです。終わりにしましょう」
 空模様を確認して跳躍したトリスタンが抑え込むように敵を踏みつけ、地面にめり込ませた。
『やだやだー雨がやんだら首をチョン切っちゃうぞー!』
「もう十分に雨を降らせたでしょう」
 矢を手にせずに礼は和弓を引き矢を射る。するとその先に居る敵がまるで本当に射られたように体をくねらせた。
『目ーがーまわーるー』
 不可視の矢に心を射抜かれてるてる坊主が錯乱したようにクルクルと回る。
「ほら、晴れたよっ」
 美しい声で紡ぐユアの歌が赤き月の幻影を生み出し、差し込む月光が赤い刃となって降り注ぎ敵を幾重にも斬り裂いた。
「これだけ大きければ、てるてる坊主だってがっちり掴んで投げ切っちゃうよ!」
 落ちたてるてる坊主をひかりが両腕を広げて掴み腰を落として持ち上げた。そこからフロントからサイドと、次々に違うスープレックスを決めて敵を地面に叩きつける。そして7度目にジャパニーズオーシャンを決めると敵の傷口から綿が溢れ出た。
「異常を確認。複製モードに入りマス」
 敵を観察したモヱは、魔術的なコード注入して敵の不具合を増幅させ、全身の傷口を広げ炎上を一気に悪化させた。
「残念、首を切られるのはキミの方だったね♪」
 ずだぼろになったところへユアが大鎌を振り下ろし、てるてる坊主の首を断ち切った。
『晴れちゃった……』
 雲の隙間から日差しを受け、巨大てるてる坊主は消滅した。

●梅雨の隙間
「んー……? あれ?」
 ヒールを受けた少女が目を覚ます。
「もう大丈夫です、痛いところはありませんか?」
 介抱していた礼がそっと少女を起こして質問すると、少女は大丈夫と寝ぼけ眼で周囲を見渡す。
「危なかったねっもう少しで逆さてるてる坊主にチョン切られちゃうところだったよっ」
 ユアが見てるものを安心させるような満面の笑みを見せる。そして皆で少女に事情を説明する。
「本当にいたんだー! わたしも見てみたったなー……あ、助けてくれてありがとうございましたー!」
 ペコリと少女が頭を下げて感謝を告げる。それにケルベロス達も笑みを返した。
「逆さのてるてる坊主はね、梅雨時が来る前に通り過ぎちゃったけど、もしかしたら、また来年に来るかもね!」
 ひかりの言葉に少女は目を輝かせて頷く。そして家へと帰る少女を見送り、事件も終わりだと一息ついた。
「あ、晴れてきたね!」
 フェリシティが雲の隙間から大きく見え出した青空を見上げる。その隣ではそば粉がぶるぶると体を振るって水を飛ばした。
「てるてる坊主本来の役目を果たしたな」
 フードを上げたファルゼンは、雨で頬に貼り付いた髪を払う。
「やっぱり晴れてる方がいいですね」
 濡れた眼鏡を拭いモモコは表情を緩めた。
「雨が止んだのは、逆さてるてる坊主の首を切ったからデショウカ」
 モヱは童謡やてるてる坊主の効用について考え始めた。
「たまには雨も悪くありませんね」
 うちの娘にもてるてる坊主のつくり方を教えてみようかと、トリスタンは笑みを浮かべる。
 濡れた地面を歩きながら、ケルベロス達は現場を後にした。

作者:天木一 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年6月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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